説明

顕微鏡用培養装置

【課題】透明導電膜によるヒータを用いることなく、試料エリアの上部プレートの結露や培養容器の結露を防ぐことが可能となる顕微鏡用培養装置を提供すること。
【解決手段】ディッシュ2を収納する試料エリア3と、試料エリア3の側面の外側に設けた加熱エリア4と、加熱エリア4の底面部に設置されたヒータ5と、試料エリア3と加熱エリア4との間に設置された仕切り6と、試料エリア3および加熱エリア4の上面に配置された透明な板からなる上部プレート7とを有し、仕切り6の上端部と上部プレート7の間に隙間8を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡の観察エリアに設置して細胞等の培養の様子を観察可能にする顕微鏡用培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顕微鏡に設置して細胞等の培養の様子を観察可能にする顕微鏡用培養装置としては、例えば、特許文献1に記載のように、顕微鏡の観察領域に試料を入れた培養容器を収納するための空間、すなわち試料エリアを設け、その底部に培養容器の加熱用ヒータを設置し、さらにガスの供給機構を設けた顕微鏡用培養器が知られている。特許文献1の培養器では、さらに、顕微鏡下に置いたまま培養条件の大きな変化を生じることなく培養容器のふたを開ける処置が取れるように、天面部に蓋付きの作業口を設けている。また、試料エリアの上部プレートの結露防止のため、上部プレートに透明導電膜を設けて通電する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−107364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の顕微鏡用培養装置では、特許文献1に記載の培養器のように、試料エリアの上部プレートの結露を防ぐため、上部プレートに透明導電膜によるヒータを設けて通電する必要があった。また、培養容器の蓋の部分にも結露が生ずる場合があり、その結果、培養容器内が乾燥してしまうことや培養容器から顕微鏡への水滴落下を招くといった問題があった。それを防ぐためには、培養容器の蓋にも透明導電膜によるヒータを設置するなどの対策が必要であった。しかし、透明導電膜によるヒータは高価であること、試料エリアの上部プレートにヒータの電気配線があると取り外しなどの操作性が悪いこと、培養容器にヒータを設けると洗浄などのメンテナンスを行う際に制約があり不便であること、等の問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、係る問題を解決するためになされたものであり、透明導電膜によるヒータを用いることなく、試料エリアの上部プレートの結露や培養容器の結露を防ぐことが可能な顕微鏡用培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の観点では、本発明は、顕微鏡の観察領域に設置可能であって、培養容器を収納する試料エリアと、前記試料エリアの側面の外側に設けた加熱エリアと、前記加熱エリア内または前記加熱エリアの周辺部に設置されたヒータと、前記試料エリアと前記加熱エリアとの間に設置された仕切りと、前記試料エリアおよび前記加熱エリアの上部に配置された少なくとも一部が透明な上部プレートと、前記試料エリアと前記加熱エリアの上部を結ぶ通気路とを有し、前記ヒータにより、前記上部プレートおよび前記試料エリアを加熱することを特徴とする顕微鏡用培養装置を提供する。本発明の顕微鏡用培養装置では、ヒータによって加熱された加熱エリア内の気体によって上部プレートが温められ、さらに試料エリアと加熱エリアの上部を結ぶ通気路を通して、試料エリア内の気体が温められるので、上部プレートと試料エリア内に収納された培養容器の結露を防ぐことができる。
【0007】
第2の観点では、本発明は、前記通気路は、前記仕切りの上端部と前記上部プレートの間に隙間を設けることにより構成したことを特徴とする。このような構成により、容易に通気路を構成することができる。
【0008】
第3の観点では、本発明は、前記第1または2の観点による顕微鏡用培養装置において、前記ヒータは前記加熱エリアの底面部に設置されていることを特徴とする。このような構成により、より効率的に加熱エリアに熱を供給することができる。
【0009】
第4の観点では、本発明は、前記第1の観点による顕微鏡用培養装置において、前記加熱エリアは、前記試料エリアの側面の周囲を囲むように設置されていることを特徴とする。このような構成により、より効率的に加熱エリアから試料エリアに熱を供給することができる。
【0010】
第5の観点では、本発明は、前記第4の観点による顕微鏡用培養装置において、前記試料エリアの水平断面は円形状を有し、前記加熱エリアの水平断面および前記ヒータは円環形状を有することを特徴とする。
【0011】
第6の観点では、本発明は、前記第1から前記第5のいずれかの観点による顕微鏡用培養装置において、前記試料エリアまたは前記加熱エリアに外部よりガスを導入するためのガス導入孔を設けたことを特徴とする。
【0012】
第7の観点では、本発明は、前記第1から前記第6のいずれかの観点による顕微鏡用培養装置において、前記上部プレートの厚さは5mm以上、20mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の顕微鏡用培養装置によれば、加熱エリア内またはその周囲に配置したヒータによって加熱された空気は加熱エリア内を上昇し、上部プレートを温めて、下降する自然対流を加熱エリア内で生ずる。温まった加熱エリア上部の上部プレートの熱は、熱伝導により上部プレートの中央部まで伝わり、さらに試料エリア内の空気を熱伝導により温める。この上部プレートからの熱伝導と、試料エリアと加熱エリアの上部を結ぶ通気路により、試料エリア内の空気は上部より下部へとゆっくりと温められる。これにより、透明導電膜によるヒータを用いることなく、試料エリアの上部プレートの結露や培養容器の結露を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による顕微鏡用培養装置の一実施例を示す図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)のAA断面図。
【図2】実施例1の顕微鏡用培養装置の分解斜視図。
【図3】実施例1の顕微鏡用培養装置を顕微鏡の観察領域に設置したときの模式図。
【図4】実施例2の仕切り26を模式的に示した斜視図。
【図5】実施例3の仕切り36を模式的に示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の顕微鏡用培養装置を実施例により詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明による顕微鏡用培養装置の一実施例を示す図であり、図1(a)はその平面図、図1(b)は図1(a)のAA断面図である。図1において、顕微鏡用培養装置1は、培養容器であるディッシュ2を収納する試料エリア3と、試料エリア3の側面の外側に設けた加熱エリア4と、加熱エリア4の底面部に設置されたヒータ5と、試料エリア3と加熱エリア4との間に設置された仕切り6と、試料エリア3および加熱エリア4の上面に配置された透明な板からなる上部プレート7とを有し、仕切り6の上端部と上部プレート7の間に隙間8を設けている。
【0017】
図1(b)に示すように、本実施例において、試料エリア3は上部円筒と、それより若干口径が小さい下部円筒とを繋げた円筒に囲まれた領域であり、加熱エリア4は、試料エリア3の上部円筒の側面の周囲を囲むように設置された円環形状の断面をもつ領域である。ヒータ5も円環板形状を有している。上部プレート7は、試料エリア3および加熱エリア4の上部を覆うような円板形状を有し、加熱エリア4に外部よりガスを導入するためのガス導入孔9を設けている。
【0018】
ヒータ5には電源線11により電力を供給し、ヒータ5の上に配置された伝熱板12を介して加熱エリア4の底面部を加熱する。安全および保温のため、ヒータ5の周囲は保護カバー13で覆い、ヒータ5の下部には断熱板14を設置している。また、試料エリア3の底部付近に温度センサ15を設置し、温度センサ15および電源線11をコントローラに接続して試料エリア3の温度を調整する。試料エリア3内にCOなどのガスを供給する場合には、ガス導入孔9の一方を入口とし、他方を出口として使用する。図1のように、加熱エリア4内にガスを導入して温めてから試料エリア3内に導入する方が望ましいが、予め温めたガスを試料エリア3内に直接導入してもよい。
【0019】
底部のヒータ5によって加熱された加熱エリア4内の空気は上昇し、加熱エリア4の上の上部プレート7を温める。上部プレート7の温められた部分の熱は熱伝導により上部プレート7の中央部まで伝わり、上部プレート7の中央部の温度が上昇する。試料エリア3内の上部の空気は、上部プレート7からの熱伝導と、仕切り6の上端部の隙間8より進入する加熱エリア4の加熱された空気とにより温められ、試料エリア3内には上部が高く下部が低い温度分布が安定的に形成される。この結果、上部プレート7の結露は防止される。また、外部に露出したディッシュ2の底は一番低い温度に、ディッシュ2の蓋はそれよりも高い温度になり、ディッシュ2の蓋の結露も防止される。
【0020】
図2は、本実施例の顕微鏡用培養装置の分解斜視図である。図2に示すように、一体として形成したケース10により試料エリア3と加熱エリア4を囲う部分および仕切り6が構成されている。ケース10は、中心軸方向に貫通する内筒と、該内筒と同心二重配置となって有底で上向き開放の環状隙間を形成し、上部プレート7の周辺及び下端縁と係合する上端縁を有する外筒を備える。該環状隙間は加熱エリア4を形成し、該内筒の内側空間は試料エリア3を形成し、内筒は加熱エリアと試料エリアを仕切る仕切り6を構成する。
試料エリア3の底部には、ディッシュ2(図1参照)を設置したときにその底部が外部に露出するようにディッシュ2の外径よりも小さな穴を開けている。
【0021】
本実施例において、上部プレート7の厚さが厚すぎると熱容量が大きくなることから、加熱エリア4からの加熱による上部プレート7の中央部の温度上昇に要する時間が長くなり、また温度上昇幅も小さくなる。逆に、上部プレート7の厚さが薄すぎると上部プレート7の加熱エリア4で温められた部分から中央部への熱伝導よりも上部プレート7の上面からの放熱の効果が大きくなるのでやはり上部プレート7の中央部の温度上昇が小さくなる。この結果、試料エリア3の効率的な温度調整のためには上部プレート7の厚さには最適な範囲が存在することとなる。顕微鏡用培養装置の上部プレートとして通常使用されるガラス材料や有機材料および一般的な形状においては、上記の上部プレートの厚さの最適な範囲は5mm以上、20mm以下であることが実験的に確認された。
【0022】
図3は、本実施例の顕微鏡用培養装置を顕微鏡の観察領域に設置したときの模式図である。顕微鏡用培養装置1は顕微鏡用ステージ20に搭載され、ディッシュ2がその中の底部に設置される。通常の観察のおいては、ディッシュ2内の細胞などは上部の対物レンズ21を通して上側から観察され、倒立顕微鏡の場合には対物レンズ22を通して下側より観察される。本実施例では、ディッシュ2の下にヒータなどがないため、対物レンズ22をディッシュ2内の被観察物に近づけることができ、倒立顕微鏡における観察が容易となる。
【実施例2】
【0023】
図4は、実施例2の仕切り26を模式的に示す。本実施例では、仕切り26の上端部26aは、上部プレート(図示せず)の下面に当接する。したがって、仕切り26の上端部26bと上部プレート(図示せず)の下面の間に隙間が設けられる。
【実施例3】
【0024】
図5は、実施例3の仕切り36を模式的に示す。本実施例では、仕切り36の上端部36aは、円筒の中心軸に垂直な面で切断された形状であり、該上端部36aは全周で上部プレート(図示せず)の下面に当接する。したがって、仕切り36の上部に楕円形の開口部36cが複数設けられ、試料エリア33と加熱エリア34の上部を結ぶ通気路を形成する。
【0025】
以上のように、本発明の顕微鏡用培養装置によれば、ヒータによって加熱された空気は加熱エリア内を上昇し上部プレートを温める。加熱エリア上部の上部プレートの熱は熱伝導により中央部まで伝わり、その下の試料エリア内の空気を熱伝導により温める。この上部プレートからの熱伝導と試料エリアと加熱エリアの上部に通気路があることにより試料エリア内の空気は上部より下部へとゆっくりと温められる。これにより、試料エリア内の空気はほとんど対流することなく、試料エリア内では上から下への温度分布が安定的に形成される。この結果、上部プレートの結露は防止される。また、試料をいれた培養容器は、試料エリア内の底の外部に露出した領域に置かれているため、培養容器の底は装置内で一番低い温度になり、培養容器の蓋はそれよりも高い温度になっている。この結果、培養容器の蓋の結露がなくなり、培養容器内の培地の乾燥を防ぐことができる。また、培養容器の下にヒータがなく、培養容器を低い位置に配置できるため、倒立顕微鏡の観察が容易になるという利点もある。
【0026】
なお、本発明は上記の実施例に限定されるものではないことは言うまでもなく、目的や用途に応じて設計変更可能である。例えば、試料エリアや加熱エリアの外形は円柱形状ではなく多角柱形状であってもよい。加熱エリアは試料エリアの側面の外側の全周ではなく一部に配置してもよい。ヒータは加熱エリアの底部ではなく加熱エリア内の中央部または上部に設置してもよい。または加熱エリアの外周の側面部に円筒状のヒータを配置してもよい。上部プレートはすべてが透明である必要はなく、観察領域の上部、すなわち試料エリアの上部のみ透明であればよい。
【符号の説明】
【0027】
1 顕微鏡用培養装置
2 ディッシュ
3,33 試料エリア
4,34 加熱エリア
5 ヒータ
6,26,36 仕切り
7 上部プレート
8 隙間
9 ガス導入孔
10 ケース
11 電源線
12 伝熱板
13 保護カバー
14 断熱板
20 顕微鏡用ステージ
21、22 対物レンズ
36c 開口部,通気路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡の観察領域に設置可能であって、培養容器を収納する試料エリアと、前記試料エリアの側面の外側に設けた加熱エリアと、前記加熱エリア内または前記加熱エリアの周囲に設置されたヒータと、前記試料エリアと前記加熱エリアとの間に設置された仕切りと、前記試料エリアおよび前記加熱エリアの上部に配置された少なくとも一部が透明な上部プレートと、前記試料エリアと前記加熱エリアの上部を結ぶ通気路とを有し、前記ヒータにより、前記上部プレートおよび前記試料エリアを加熱することを特徴とする顕微鏡用培養装置。
【請求項2】
前記通気路は、前記仕切りの上端部と前記上部プレートの間に隙間を設けることにより構成したことを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡用培養装置。
【請求項3】
前記ヒータは前記加熱エリアの底面部に設置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の顕微鏡用培養装置。
【請求項4】
前記加熱エリアは、前記試料エリアの側面の周囲を囲むように設置されていることを特徴とする請求項3に記載の顕微鏡用培養装置。
【請求項5】
前記試料エリアの水平断面は円形状を有し、前記加熱エリアの水平断面および前記ヒータは円環形状を有することを特徴とする請求項4に記載の顕微鏡用培養装置。
【請求項6】
前記試料エリアまたは前記加熱エリアに外部よりガスを導入するためのガス導入孔を設けたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の顕微鏡用培養装置。
【請求項7】
前記上部プレートの厚さは5mm以上、20mm以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の顕微鏡用培養装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−101192(P2013−101192A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243996(P2011−243996)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(505073004)アルテア技研株式会社 (7)
【Fターム(参考)】