説明

顕微鏡用液浸油

【課題】屈折率、アッベ数、粘度、解像力などの顕微鏡用液浸油に要求される諸性質を満足し、かつ従来の顕微鏡用液浸油よりも低蛍光な液浸油であって、オレフィン系重合体の製造ロットの影響を受けずに安定的に低蛍光性を示す顕微鏡用液浸油を提供すること。
【解決手段】(A)水素添加処理を施したオレフィン系重合体、(B)液状ジエン系重合体、(C)ジアリールアルカン及び(D)アルキルベンゼンを含むことを特徴とする顕微鏡用液浸油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡用液浸油に関する。さらに詳しくは、長期間に亘って低蛍光性を維持することが可能であり、かつ安定的に生産することができる顕微鏡用液浸油であって、特に蛍光顕微鏡用として好適な液浸油に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡分野において液浸油は極めて一般的に用いられている。液浸油を光学的に使用すると、液浸油を使用しない場合とくらべて、実質的に少ない面収差が得られるだけでなく、対物レンズの開口数を大きくして、顕微鏡の倍率を高めることができる。
特許文献1〜8において、低蛍光な顕微鏡液浸油が開示されているが、これらの液浸油は屈折率、アッベ数、粘度、解像力などの顕微鏡用液浸油に要求される諸性質をほぼ充分そなえているものの、分光光度計などによる測定においてその低蛍光性の持続性が充分ではない。
そこで本出願人は、以前に、低蛍光性及び該低蛍光性の持続性を改良した液浸油を開発した(特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2623125号明細書
【特許文献2】米国特許第4465621号明細書
【特許文献3】特開平9−241214号公報
【特許文献4】特開平11−160623号公報
【特許文献5】特開平11−269317号公報
【特許文献6】国際公開第2004/090602号パンフレット
【特許文献7】特開2004−240245号公報
【特許文献8】特開2004−240246号公報
【特許文献9】国際公開第2008/015960号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが特許文献9に開示された液浸油についてさらに検討したところ、配合されるオレフィン系重合体を工業的に入手した際、原因は不明であるが、製造ロットによっては液浸油の蛍光が高まる場合があり、安定的に生産する観点から、さらなる改良の余地があることが判明した。また、蛍光顕微鏡向けの低蛍光液浸油においても、画像のコントラスト向上が求められており、より一層低蛍光な液浸油の開発が切望されている。
そこで、本発明の課題は、屈折率、アッベ数、粘度、解像力などの顕微鏡用液浸油に要求される諸性質を満足し、かつ従来の顕微鏡用液浸油よりも低蛍光な液浸油であって、オレフィン系重合体の製造ロットの影響を受けずに安定的に低蛍光性を示す顕微鏡用液浸油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記状況に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、特定の処理を施したオレフィン系重合体と、液状ジエン系重合体、ジアリールアルカン及びアルキルベンゼンとを配合した液浸油であれば、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、下記[1]〜[9]に関する。
[1](A)水素添加処理を施したオレフィン系重合体、(B)液状ジエン系重合体、(C)ジアリールアルカン及び(D)アルキルベンゼンを含むことを特徴とする顕微鏡用液浸油。
[2]前記(A)水素添加処理を施したオレフィン系重合体が水素添加処理を施したポリブテンである、上記[1]に記載の顕微鏡用液浸油。
[3]前記(A)水素添加処理を施したオレフィン系重合体の数平均分子量が300〜25,000である、上記[1]又は[2]に記載の顕微鏡用液浸油。
[4]前記(B)液状ジエン系重合体がポリイソプレンである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の顕微鏡用液浸油。
[5]前記(B)液状ジエン系重合体の数平均分子量が1,000〜100,000である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の顕微鏡用液浸油。
[6]前記(C)ジアリールアルカンがフェニルキシリルエタン及びフェニルエチルフェニルエタンから選択される少なくとも1種である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の顕微鏡用液浸油。
[7]前記(D)アルキルベンゼンが1,3,5−トリイソプロピルベンゼンである、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の顕微鏡用液浸油。
[8]50℃で8週間加熱した際の蛍光強度が初期値の2倍以下である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の顕微鏡用液浸油。
[9]蛍光顕微鏡用である、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の顕微鏡用液浸油。
【発明の効果】
【0006】
本発明の顕微鏡用液浸油は、原料の製造ロットの影響を受けずに安定的に低蛍光性を示し、さらに、屈折率、アッベ数、粘度、解像力などの液浸油として必要な他の諸特性が高度に維持される。また、保存安定性が良好なため、長期間にわたって低蛍光性が保持される。そのため、本発明の顕微鏡用液浸油は、特に蛍光顕微鏡用の液浸油として著しく優れている。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[蛍光顕微鏡用液浸油]
本発明の顕微鏡用液浸油は、(A)水素添加処理を施したオレフィン系重合体、(B)液状ジエン系重合体、(C)ジアリールアルカン及び(D)アルキルベンゼンを含むものである。
以下、本発明の顕微鏡用液浸油が含有する各成分について順に説明する。
((A)水素添加処理を施したオレフィン系重合体)
本発明に用いられる(A)成分の数平均分子量は、好ましくは300〜25,000、より好ましくは500〜5,000、さらに好ましくは500〜3,000であり、後述する(B)〜(D)成分に溶解する場合には固体状でも構わないが、通常、好ましくは常温及び常圧にて液状のオレフィン系重合体である。オレフィン系重合体としては、1種のオレフィンを用いて得られる、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレンなどのオレフィン系単独重合体であってもよいし、2種以上のオレフィンを用いて得られるオレフィン系共重合体であってもよい。なお、オレフィン系重合体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、(A)成分としては、水素添加処理を施したオレフィン系単独重合体が好ましく、水素添加処理を施したポリブテンがより好ましい。
なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。
なお、本発明に用いられる(A)成分の数平均分子量は、原料である水添前のオレフィンを測定し、(A)成分の数平均分子量とした。水添しても理論上一分子あたり分子量が水素分子(H2)1つ分増えるだけで、水添処理しても分子量は変化しないため、本願では、原料の分子量を測定し、水添処理した重合体の分子量とみなすことができる。
(A)成分の原料となるオレフィン系重合体の製造方法に特に制限はなく、公知の方法によって製造することができ、また、いずれも工業的に容易に入手可能である。例えば、ポリブテンの製造方法としては、ナフサ分解で生成するC4留分からブタジエンを取り除き、そのまま酸触媒を用いて重合する方法が挙げられる。
【0008】
本発明の顕微鏡用液浸油に含有させる(A)成分としては、オレフィン系重合体に水素添加処理を施したものを用いる。水素添加処理を施すことにより、低蛍光性を増幅させ、かつオレフィン系重合体の製造ロットの違いに起因する低蛍光性の不安定性を解消することができ、安定的に低蛍光性の顕微鏡用液浸油を得ることができるためである。このような効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、工業的に入手するオレフィン系重合体には、微妙な製造条件の相違により生じる不純物やその他の不安定要因が存在するが、その影響が水素添加処理で緩和されることによって安定性が高まったものと推測される。当該水素添加処理は、(A)成分の原料であるオレフィン系重合体に対して施すことによって初めて本発明の効果が発現するのであり、その他の成分、例えば後述する(B)〜(D)成分に対して水素添加処理を施しても効果が得られないばかりか、顕微鏡用液浸油としての各種機能が低下する。
なお、オレフィン系重合体に水素添加処理を施すこと自体が最も重要であり、当該処理を施してさえいれば、水素添加率の影響を大きく受けずに、顕微鏡用液浸油に安定的に低蛍光性を付与することができる。つまり、水素添加率が数%程度であっても、100%の場合と同様に本発明の課題が解決される。一応の目安として、水素転化率は0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましい。
【0009】
水素添加処理の方法としては特に制限はなく、オレフィン系重合体に対する公知の水素添加処理を利用することができる。具体的には、水素添加触媒及び水素、並びに必要に応じて溶媒の存在下に水素添加処理を行なう方法が挙げられる。
水素添加触媒としては、例えば、ニッケル系(ラネーニッケル、ニッケル担持型)触媒、パラジウム及び白金などの貴金属系(パラジウムブラック、水酸化パラジウム、酸化白金、パラジウム担持型、白金担持型、レニウム担持型、ルテニウム担持型)触媒が挙げられる。前記担持型触媒の担体としては、例えば、活性炭、アルミナ、シリカアルミナ、シリカ、珪藻土、活性白土などが挙げられる。特に制限されるものではないが、これらの中でも、水添処理効果、つまりより低蛍光性の顕微鏡用液浸油を安定的に得る効果の観点から、パラジウムカーボン、ニッケル珪藻土、ルテニウムカーボンが好ましい。
水素添加触媒の使用量に特に制限はないが、水素添加処理を施す予定のオレフィン系重合体100質量部に対して、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは0.5〜10質量部、さらに好ましくは1〜10質量部、特に好ましくは1〜5質量部である。
【0010】
水素添加処理温度に特に制限はないが、水素添加反応を制御する観点から、通常、好ましくは0〜200℃程度、より好ましくは20〜180℃、さらに好ましくは50〜160℃、特に好ましくは70〜140℃である。水素圧(水素添加処理をする直前の水素圧であり、以下、「初期水素圧」と称する。)は、好ましくは0.1〜10MPa程度、より好ましくは0.1〜5MPa、さらに好ましくは0.1〜3MPaである。
水素添加処理時間に特に制限はないが、通常、好ましくは1分〜24時間程度、より好ましくは5分〜10時間、さらに好ましくは10〜4時間である。
水素添加処理の際に必要に応じて用いることができる溶媒としては、水素添加反応に不活性な溶媒であれば特に制限はなく、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、メチルペンタン、n−ヘプタン、メチルヘキサン、ジメチルペンタン、n−オクタン、メチルヘプタン、ジメチルヘキサン、トリメチルペンタン、ジメチルヘプタン、n−デカンなどの直鎖状又は分岐鎖状の炭素数5〜10の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサンなどの炭素数5〜10の脂環式化合物;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、n−ヘプタノール、2−ヘプタノール、n−ヘキサノール、2−ヘキサノール等のモノアルコールなどが挙げられる。これらの中でも、水素添加処理の操作の都合上、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、n−ブタノールが好ましい。
【0011】
((B)液状ジエン系重合体)
本発明の顕微鏡用液浸油に含有させる(B)成分の液状ジエン系重合体としては、常温及び常圧で液状のジエン系重合体であれば特に制限はないが、数平均分子量が好ましくは1,000〜100,000、より好ましくは1,000〜80,000、さらに好ましくは5,000〜50,000、特に好ましくは15,000〜40,000の液状ジエン系重合体が用いられる。
これらの液状ジエン系重合体としては、炭素数4〜12のジエンモノマーからなるジエン単独重合体、炭素数4〜12のジエンモノマー2種以上からなるジエン共重合体、及びこれらジエンモノマーと炭素数2〜22のα−オレフィン付加重合性モノマーとの共重合体などがある。例えば、ブタジエンホモポリマー(液状ポリブタジエン、水酸基含有液状ポリブタジエン)、イソプレンホモポリマー(水酸基含有液状ポリイソプレン)、クロロプレンホモポリマー、ブタジエン−イソプレンコポリマー、ブタジエン−アクリロニトリルコポリマー、ブタジエン−2−ヘキシルアクリレートコポリマーなどが挙げられる。
好ましい液状ジエン系重合体は、液状ポリブタジエンや水酸基含有液状ポリブタジエンのようなブタジエンホモポリマー、水酸基含有液状ポリイソプレンのようなイソプレンホモポリマー、ポリブテンとポリイソプレンからなるコポリマーである。
なお、上記水酸基含有液状ポリブタジエンや水酸基含有液状ポリイソプレンなどのように、(B)成分である液状ジエン系重合体は、水酸基などの官能基を分子内及び/又は分子末端に有してもよいし、該官能基を有する液状ジエン系重合体と、官能基を持たない液状ジエン系重合体との混合物であってもよい。なお、これらの液状ジエン系重合体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
((C)ジアリールアルカン)
本発明の顕微鏡用液浸油に含有させる(C)成分のジアリールアルカンは、常温及び常圧で液状であるジアリールアルカン、又は常温及び常圧で液状である混合されたジアリールアルカンであれば特に制限はない。ジアリールアルカンが有する2つのアリール基としては、それぞれ、好ましくは炭素数6〜20のアリール基、より好ましくは炭素数6〜10のアリール基であり、炭素数1〜10(好ましくは炭素数1〜5)のアルキル基が置換していてもよい。また、ジアリールアルカンの「アルカン」部位は、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜15、より好ましくは炭素数1〜10、さらに好ましくは炭素数1〜5、特に好ましくは炭素数1〜3のアルカンである。
ジアリールアルカンとしては、例えば、ジフェニルメタン、ベンジルトルエン、ベンジルキシレン、フェニル−sec−ブチルフェニルメタン、ジ−sec−ブチルジフェニルメタン、ジフェニルエタン、フェニル(エチルフェニル)エタン、フェニルクミルエタン、ジイソプロピルフェニルエタン、フェニルトリルエタン、ジ−sec−ブチルフェニルエタン、ジ−tert−ブチルフェニルエタン、フェニルキシリルエタン、フェニル−sec−ブチルフェニルエタン、ジフェニルプロパン、ジフェニルブタン、ジトリルエタン、ジキシリルオクタン、ジキシリルデカンなどが挙げられる。これらの中でも、ジアリールアルカンとしては、フェニル(エチルフェニル)エタン及びフェニルキシリルエタンから選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
フェニル(エチルフェニル)エタンとしては、1−フェニル−1−(2−エチルフェニル)エタン、1−フェニル−1−(3−エチルフェニル)エタン、1−フェニル−1−(4−エチルフェニル)エタン、1−フェニル−2−(2−エチルフェニル)エタンなどが挙げられる。これらの中でも、フェニル(エチルフェニル)エタンとしては、1−フェニル−1−(4−エチルフェニル)エタンが好ましい。
フェニルキシリルエタンとしては、1−フェニル−1−(2,3−ジメチルフェニル)エタン、1−フェニル−1−(2,4−ジメチルフェニル)エタン、1−フェニル−1−(2,5−ジメチルフェニル)エタン、1−フェニル−1−(2,6−ジメチルフェニル)エタン、1−フェニル−1−(3,4−ジメチルフェニル)エタン、1−フェニル−1−(3,5−ジメチルフェニル)エタン、1−フェニル−2−(2,3−ジメチルフェニル)エタンなどが挙げられる。これらの中でも、フェニルキシリルエタンとしては、1−フェニル−1−(2,3−ジメチルフェニル)エタンが好ましい。
なお、これらジアリールアルカンは、常温及び常圧で液状であるならば、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
((D)アルキルベンゼン)
本発明の顕微鏡用液浸油に含有させる(D)成分のアルキルベンゼンとしては、特に制限されるものではないが、アルキルベンゼンのアルキル基としては、好ましくは炭素数1〜4、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基などを挙げることができる。
アルキルベンゼンの具体例としては、モノエチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリエチルベンゼン、テトラエチルベンゼン等のエチルベンゼン類;モノイソプロピルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン等のイソプロピルベンゼン類;モノイソプロピルトルエン、ジイソプロピルトルエン、トリイソプロピルトルエン等のイソプロピルトルエン類を挙げることができる。
これらの中でも、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、トリエチルベンゼン、トリイソプロピルトルエンが好ましく、1,3,5−トリイソプロピルベンゼンがより好ましい。
【0014】
本発明の顕微鏡用液浸油において、(A)成分〜(D)成分の配合割合は、適宜設定することができるが、(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは1〜60質量部、より好ましくは2〜60質量部、さらに好ましくは10〜50質量部、特に好ましくは10〜40質量部である。また、(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは40〜100質量部、より好ましくは50〜90質量部、さらに好ましくは60〜85質量部である。(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは2〜60質量部、より好ましくは5〜55質量部、さらに好ましくは15〜55質量部、特に好ましくは20〜50質量部である。
(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の配合割合が前記のとおりであると、液浸油の蛍光性を低くしやすく、かつ、その低蛍光を長期間に亘って維持することができ、屈折率、アッベ数、動粘度、透明度、色度、その他の特性が良好となる傾向にある。ここで、液浸油に要求されるその他の特性としては、不乾性、外観、耐候性、耐蝕性、コントラスト、解像力、色収差及び透明度などが挙げられる。
【0015】
本発明の顕微鏡用液浸油を調製するに際して、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の配合の順序に特に制限はなく、同時に又は段階的に様々な順序で配合することができる。
また、各成分の配合の方法についても特に制限はなく、通常は、常温付近で攪拌混合することによって配合する方法が好適に用いられる。
本発明の顕微鏡用液浸油には、本来の液浸油としての効果を損なわず、かつ本発明の効果を著しく低減しない限りにおいて、通常の蛍光顕微鏡用液浸油などの顕微鏡液浸油に用いられる各種添加剤を配合することができる。
このようにして得られた本発明の顕微鏡用液浸油は、通常の顕微鏡用の液浸油、特に蛍光顕微鏡用の液浸油として好適に使用することができる。
本発明においては、前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分及び前記(D)成分のうちのそれぞれの好ましいものを組み合わせることにより、要求される諸性質において特に優れた顕微鏡用液浸油が提供される。
【0016】
以上のようにして得られる本発明の顕微鏡用液浸油の好ましい物性及び特性としては、屈折率(n23D)が1.5140〜1.5160程度であり、アッベ数(ν23D)が38〜44程度(より好ましくは39〜43)、動粘度が100〜1,000程度(より好ましくは300〜1,000、さらに好ましくは350〜900、特に好ましくは400〜850)、透明度(透過率)が95%以上である。
また、本発明の顕微鏡用液浸油は、50℃で8時間加熱した後の蛍光強度が、加熱前の傾向強度の2倍以下であり、好ましいものでは1.5倍以下であり、より好ましいものでは1.3倍以下である。
なお、いずれも、実施例に記載の方法によって測定した値である。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
なお、顕微鏡用液浸油の各特性は、下記方法に従って評価した。
【0018】
<顕微鏡用液浸油の評価方法>
(1)蛍光強度−低蛍光性−
蛍光顕微鏡は、光源として蛍光を励起させる紫外線を発するキセノンランプを使用した。この場合に用いられる励起光としては、波長の長さにより、U励起、B励起、G励起があり、各励起において蛍光発生量の少ない液浸油が、蛍光顕微鏡にとって望ましい。なお、各例で調製した液浸油の蛍光強度は、株式会社日立製作所製の分光蛍光光度計「F−2500」によって測定した。
また、各例で調製した液浸油30gをガラス瓶に入れ、50℃で8週間加熱後のサンプルのU励起における蛍光強度を上記同様にして測定することにより、蛍光強度の経時変化を求めた。
蛍光強度が小さいほど、低蛍光性に優れることを示す。
なお、本明細書においては、50℃で8週間加熱前後の蛍光強度比の値が2.0以下であると保存安定性が良好「○」であり、蛍光強度比の値が2.0を超えると保存安定性が劣る「×」ことを示す。
(2)屈折率(n23D)及びアッベ数(ν23D)
いずれもJIS K2101(1990年)に準拠して屈折率及びアッベ数を測定した。なお、顕微鏡用液浸油として好ましい屈折率の範囲は1.5140〜1.5160であり、顕微鏡用液浸油として好ましいアッベ数の範囲は38〜44である。
(3)動粘度
JIS K2283に準拠して25℃における動粘度を測定した。顕微鏡用液浸油として好ましい動粘度の範囲は、100〜1,000mm2/秒(25℃)である。
(4)不乾燥性
JIS C2201の「電気絶縁油」蒸発量試験に準じ、30℃×24時間で試験を行い、次の二段階で評価した。
良好(○):蒸発量1質量%未満
不良(×):1質量%以上
【0019】
(5)外観
各例で調製した液浸油を清浄なガラス容器に採り、濁りの有無を確認し、次の二段階で評価した。
(○):濁り無し
(△):濁り若干あり
(6)耐候性
次の(6−1)、(6−2)項に記載の方法によって得られた光照射試験及び熱劣化試験の結果、並びに当該試験前後の屈折率、アッベ数、色相の変化により、次の二段階で評価した。
良好(○):屈折率、アッベ数、色相共に変化無し。
不良(×):屈折率、アッベ数、色相のいずれかに変化あり。
(6−1)光照射試験
一定量(40±0.5g)の液浸油をシャーレーに採り、光を一定時間(120時間)照射後の屈折率の変化を測定した。
(6−2)加熱促進劣化試験(保存安定性試験)
一定量(40±0.5g)の液浸油を50mlの共栓付三角フラスコに採り、一定温度(70℃)の恒温槽中で24時間保ち、その後の屈折率、アッベ数、色相の変化を観察した。
【0020】
(7)耐蝕性
全酸価(JIS K2501)及び塗抹標本用染料への影響(JIS K2400)の測定により腐食性有無を調べ、次の二段階で評価した。
(○):腐蝕無し
(×):腐蝕有り
(8)コントラスト
各例で調製した液浸油を用いた顕微鏡において、クロム蒸着をした白黒のプレートに刻んだ白黒の線を見ることにより、次の二段階で評価した。
良好(○):明瞭
不良(×):やや不鮮明
(9)解像力
前記(2)項の方法により測定された屈折率により、次の二段階で評価した。
良好(○):1.5140〜1.5160
不良(×):上記範囲外
(10)色収差
前記(2)項の方法により測定されたアッベ数により、次の二段階で評価した。
良好(○):38〜44
不良(×):上記範囲外
(11)透明度
透過率(JIS K0115)により、次の二段階で評価した。
良好(○):95%以上
不良(×):95%未満
【0021】
<参考例1>
下記表1に記載の各成分を、25℃にて、表1中に示す配合量(単位:質量部)で10分間混合し、顕微鏡用液浸油を調製した。得られた顕微鏡用液浸油の各評価結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
*1:出光興産株式会社製の液状オレフィン系重合体[商品名「ポリブテン100R」、数平均分子量960]
*2:株式会社クラレ製の液状ジエン系重合体[商品名「LIR−30」、数平均分子量29,000]
*3:(A)成分として100R−1を用いた場合を10.0とし、相対値によって評価した。
*4:その他の評価項目(1)、(4)〜(11)[保存安定性、不乾燥性、外観、耐候性、耐蝕性、コントラスト、解像力、色収差、透明度]については、いずれにおいても「○」であった。
【0024】
表1より、特許文献9に開示された液浸油の場合、(A)成分のロットナンバー(例えば100R−5〜100R−7)によって蛍光性にブレが生じ、低蛍光性の液浸油の製造効率が必ずしも高くない場合があることがわかる。つまり、低蛍光性の液浸油を安定的に製造することが困難であった。
【0025】
<参考例2>
下記表1に記載の各成分を、25℃にて、表1中に示す配合量(単位:質量部)で10分間混合し、顕微鏡用液浸油を調製した。得られた顕微鏡用液浸油の各評価結果を表1に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
*1’:出光興産株式会社製の液状オレフィン系重合体[商品名「ポリブテン300R」、数平均分子量1400]
*2:株式会社クラレ製の液状ジエン系重合体[商品名「LIR−30」、数平均分子量29,000]
*3:(A)成分として100R−1を用いた場合(表1参照)を10.0とし、相対値によって評価した。
*4:その他の評価項目(1)、(4)〜(11)[保存安定性、不乾燥性、外観、耐候性、耐蝕性、コントラスト、解像力、色収差、透明度]については、いずれにおいても「○」であった。
【0028】
表2より、特許文献9に開示された液浸油の場合、(A)成分のロットナンバー(例えば300R−15〜300R−19)によって蛍光性にブレが生じ、低蛍光性の液浸油の製造効率が必ずしも高くない場合があることがわかる。つまり、低蛍光性の液浸油を安定的に製造することが困難であった。
【0029】
以下の実施例及び比較例においては、下記製造例によって製造した水素添加処理を施したオレフィン系重合体を使用した。各製造例にて使用したオレフィン系重合体のロットナンバー、水素添加触媒及びその使用量、初期水素圧、処理時間、そして水素添加率については、表3に示す通りである。
<製造例1〜12>オレフィン系重合体の水素添加処理
攪拌装置を備えたSUS−316L製100mlオートクレーブに、表3に記載の水素添加触媒を1.7g、参考例で用いた種々のロットナンバーのオレフィン系重合体を15.0g、ヘキサンを15.0g仕込んだ。オートクレーブ内を窒素置換した後、表3に記載の水素圧になるまで水素ガスを張り込んだ。次いで、攪拌しながらオイルバスを100℃まで昇温した。
所定時間保持した後、室温まで冷却し、残圧を確認した。オートクレーブを脱圧して開放し、内溶液を取り出し、濾過により水素添加触媒を除去した。ろ液をエバポレーターで処理し、ヘキサンを留去し、水素添加処理を施したオレフィン系重合体[成分(A)]を得た。
なお、得られたオレフィン系重合体の水素添加率の算出方法を以下に記す。
−水素添加率の算出方法−
水素添加処理時に水素の吸収がなくなった製造例1及び製造例9の製造物の臭素価をJIS K 2605「化学製品−臭素価試験方法−電気滴定法」により測定した結果、共に0.1(g/100g)であったことから、製造例1及び製造例9で得たオレフィン系重合体の水素添加率を100%とし、その他の製造例で得た水素添加処理を施されたオレフィン系重合体の水素添加率については、各例における水素の減少量から次式により算出した。なお、水素の減少量は、オートクレーブの圧力計により水素圧を測定することによって算出した。
(ポリブテン100Rを使用した場合)
水素添加率(%)=(各製造例における水素の減少量/製造例1における水素の減少量)×100
(ポリブテン300Rを使用した場合)
水素添加率(%)=(各製造例における水素の減少量/製造例9における水素の減少量)×100
【0030】
【表3】

【0031】
*5:表1及び表2中のロットナンバーと共通する。
*6:Pd/C=パラジウム担持量が5質量%のパラジウムカーボン
N113=ニッケル/珪藻土、日揮触媒化成株式会社製
Ru/C=ルテニウム担持量が5質量%のルテニウムカーボン
【0032】
<実施例1〜12>
下記表4に記載の各成分を、25℃にて、表4中に示す配合量(単位:質量部)で10分間混合し、顕微鏡用液浸油を調製した。得られた顕微鏡用液浸油の各評価結果を表4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
*2:株式会社クラレ製の液状ジエン系重合体[商品名「LIR−30」、数平均分子量29,000]
*3:(A)成分として100R−1を用いた場合(表1参照)を10.0とし、相対値によって評価した。
*4:その他の評価項目(4)〜(11)[不乾燥性、外観、耐候性、耐蝕性、コントラスト、解像力、色収差、透明度]については、いずれにおいても「○」であった。
【0035】
表4の結果から、本発明の液浸油は、顕微鏡用液浸油として必要な諸特性を充分維持し、低蛍光性がより改善され、その持続性にも優れており、さらに、原料のオレフィン系重合体のロットナンバーの影響を受けずに、安定的に低蛍光性のものを製造することができるため、蛍光顕微鏡用液浸油として非常に有用であるといえる。
【0036】
<比較例1〜3>
下記表5に記載の各成分を、25℃にて、表5中に示す配合量(単位:質量部)で10分間混合し、顕微鏡用液浸油を調製した。得られた顕微鏡用液浸油の各評価結果を表5に示す。
【0037】
【表5】

【0038】
*2:株式会社クラレ製の液状ジエン系重合体[商品名「LIR−30」、数平均分子量29,000]
*3:(A)成分として100R−1を用いた場合(表1参照)を10.0とし、相対値によって評価した。
【0039】
表5より、(C)成分を含有しない液浸油(比較例1)では、屈折率が低下して1.5140未満となり、かつアッベ数が高まって44を超えてしまった。さらに、動粘度が1,000mm2/秒(25℃)を大幅に超え、高くなり過ぎており、顕微鏡用液浸油としては不適切である。(B)成分を含有しない液浸油(比較例2)では、動粘度が100mm2/秒(25℃)未満となっており、顕微鏡用液浸油としては不適切である。一方、(D)成分を含有しない液浸油(比較例3)では、動粘度が1,000mm2/秒(25℃)を超えており、顕微鏡用液浸油としては不適切である。
【0040】
<比較例4>
実施例2において、水素添加処理が施されたポリブテンの代わりに、水素添加処理を施す際に水素添加触媒の不存在下に処理を行なった(つまり、製造例2において、水素添加触媒の使用量を0gとして処理を行なった)ポリブテンを用いたこと以外は同様に操作を行ない、液浸油を調製し、各評価を行なった。その結果、屈折率は1.515、アッベ数は41で実施例2と変わらず、また動粘度は451mm2/秒(25℃)で好ましい範囲内であったが、蛍光強度、特にU励起における相対蛍光強度が120と極めて高く、さらにB励起における相対蛍光強度も43と非常に高く、G励起における相対蛍光強度も14.0と高めであった。
なお、水素添加触媒の不存在下に行なわれた上記処理は、水素添加処理ではない。
【0041】
<比較例5>
実施例2において、水素添加処理が施されたポリブテンの代わりに、水素添加処理を施す際に水素の不存在下に処理を行なった(つまり、製造例2において、初期水素圧を0MPaとして処理を行なった)ポリブテンを用いたこと以外は同様に操作を行ない、液浸油を調製し、各評価を行なった。その結果、屈折率は1.515、アッベ数は41で実施例2と変わらず、また動粘度は454mm2/秒(25℃)で好ましい範囲内であったが、蛍光強度、特にU励起における相対蛍光強度が120と極めて高く、さらにB励起における相対蛍光強度も43と非常に高く、G励起における相対蛍光強度も14.0と高めであった。
なお、水素の不存在下に行なわれた上記処理は、水素添加処理ではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の顕微鏡用液浸油は、通常の顕微鏡用の他、蛍光顕微鏡用としても好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水素添加処理を施したオレフィン系重合体、(B)液状ジエン系重合体、(C)ジアリールアルカン及び(D)アルキルベンゼンを含むことを特徴とする顕微鏡用液浸油。
【請求項2】
前記(A)水素添加処理を施したオレフィン系重合体が水素添加処理を施したポリブテンである、請求項1に記載の顕微鏡用液浸油。
【請求項3】
前記(A)水素添加処理を施したオレフィン系重合体の数平均分子量が300〜25,000である、請求項1又は2に記載の顕微鏡用液浸油。
【請求項4】
前記(B)液状ジエン系重合体がポリイソプレンである、請求項1〜3のいずれかに記載の顕微鏡用液浸油。
【請求項5】
前記(B)液状ジエン系重合体の数平均分子量が1,000〜100,000である、請求項1〜4のいずれかに記載の顕微鏡用液浸油。
【請求項6】
前記(C)ジアリールアルカンがフェニルキシリルエタン及びフェニルエチルフェニルエタンから選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の顕微鏡用液浸油。
【請求項7】
前記(D)アルキルベンゼンが1,3,5−トリイソプロピルベンゼンである、請求項1〜6のいずれかに記載の顕微鏡用液浸油。
【請求項8】
50℃で8週間加熱した際の蛍光強度が初期値の2倍以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の顕微鏡用液浸油。
【請求項9】
蛍光顕微鏡用である、請求項1〜8のいずれかに記載の顕微鏡用液浸油。

【公開番号】特開2013−24925(P2013−24925A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156839(P2011−156839)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】