説明

顕微鏡装置

【課題】標本内の蛍光物質の濃度差が大きい場合であっても、標本内の蛍光物質の分布や濃淡を正確に把握し、所望の組織の状態を良好に観察する。
【解決手段】標本から発せられる光を波長毎に検出し、異なる複数の波長に対する複数の画像データからなるλスタック画像データを取得するλスタック画像データ取得手段1と、前記λスタック画像データに基づいて、画素毎のスペクトルを生成するスペクトル生成手段10と、前記画素毎のスペクトルを複数のクラスタにクラスタリングするクラスタリング手段11と、各前記クラスタに夫々異なる色を設定する色設定手段12と、各前記クラスタに含まれる画素を前記色設定手段により設定された色で表示して前記標本の画像を生成する画像生成手段14と、を備えた顕微鏡装置100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光タンパクや蛍光色素等の蛍光物質が塗布された標本に、蛍光物質を励起する励起光を照射し、標本から発せられる蛍光を画素毎に検出して輝度情報を取得し、これらの輝度情報に基づいて画像を生成することにより標本を観察する顕微鏡装置が知られている。近年、このような顕微鏡装置において、標本(蛍光物質)から発せられる蛍光から画素毎にスペクトル等の波長特性を有するλスタックデータを取得し、λスタックデータに基づいて画像を生成することが行われるようになってきている。
このλスタックデータは、情報量が多く波長の変化を観察できる点で優れているが、その反面、情報を効率的に閲覧するために種々の工夫が必要となる。例えば、特許文献1には、各画素に対して、該各画素のスペクトルから最も高輝度の色を割り当てて合成することにより標本の画像を生成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7009699号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように各画素のスペクトルから最も高輝度の色を割り当てることにより標本の画像を生成すると、標本内の蛍光物質の濃度差が大きい場合に、濃度の低い蛍光物質から発せられた蛍光が画像上に現れないという問題がある。従って、例えば、標本の特定個所に異なる組織が重畳している場合に、このうちの所望の組織から発せられた蛍光の濃度が低く、生成された画像において当該組織を認識することができないという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、標本内の蛍光物質の濃度差が大きい場合であっても、標本内の蛍光物質の分布や濃淡を正確に把握し、所望の組織の状態を良好に観察することができる顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、標本から発せられる光を波長毎に検出し、異なる複数の波長に対する複数の画像データからなるλスタック画像データを取得するλスタック画像データ取得手段と、前記λスタック画像データに基づいて、画素毎のスペクトルを生成するスペクトル生成手段と、前記画素毎のスペクトルを複数のクラスタにクラスタリングするクラスタリング手段と、各前記クラスタに夫々異なる色を設定する色設定手段と、各前記クラスタに含まれる画素を前記色設定手段により設定された色で表示して前記標本の画像を生成する画像生成手段と、を備えた顕微鏡装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、標本から発せられる光の波長毎のλスタック画像データに基づいて、スペクトル生成手段により画素毎のスペクトルが生成されるので、各画素の波長特性を把握することができ、各画素間のスペクトルの相違が明確となる。生成された画素毎のスペクトルは、複数のクラスタにクラスタリングされるが、クラスタリングは、例えばkmeans法やベイズ法等の公知のアルゴリズムによって行うことができ、各画素のスペクトルは、適用されるアルゴリズムに依存した規則に従ってクラスタリング、すなわち、複数のクラスタに分類される。従って、各クラスタに含まれる画素のスペクトルは夫々共通乃至は類似する特性を有することとなる。そして、各クラスタに対して夫々異なる色を設定し、各クラスタを設定された色で表示して標本の画像を生成するので、波長特性に応じて色表示された画像を生成することができる。
【0008】
すなわち、画素毎のスペクトルを生成し、画素毎のスペクトルをクラスタリングすることにより、画像を構成する全画素を共通乃至は類似する波長特性を有する画素からなるクラスタに分類することができ、さらに、各クラスタに異なる色を設定して表示することで、波長特性に応じて色表示された画像を生成することができる。従って、標本内の蛍光物質の濃度差が大きい場合であっても、標本内の蛍光物質の分布や濃淡を正確に把握し、所望の組織の状態を良好に観察することができる。
【0009】
上記した発明において、各前記クラスタに含まれる各画素に対して、各画素のスペクトルのうち最高輝度の値に応じて各画素の輝度を設定する濃度設定手段を備えることが好ましい。
このようにすることで、各クラスタ内においても蛍光物質の分布や濃淡を正確に把握することができるので、標本における所望の組織の状態を良好に観察することができる。
【0010】
上記した発明において、複数の前記クラスタのうち任意のクラスタを特定するクラスタ特定手段と、該クラスタ特定手段により特定されたクラスタに含まれる各画素のスペクトルを出力するスペクトル出力手段と、を備えたことが好ましい。
このようにすることで、所望のクラスタに含まれる各画素のスペクトルを把握することができるので、当該クラスタの特性をより詳細に把握することができ、当該クラスタにおける蛍光物質の分布や濃淡を正確に把握することができる。
【0011】
上記した発明において、前記クラスタ特定手段により特定されたクラスタに含まれる全画素のスペクトルの平均スペクトルを算出する平均スペクトル算出手段を備え、前記出力手段が、前記平均スペクトル算出手段により算出された平均スペクトルを出力することが好ましい。
このようにすることで、当該クラスタの特性をより詳細に把握することができ、当該クラスタにおける蛍光物質の分布や濃淡を正確に把握することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、標本内の蛍光物質の濃度差が大きい場合であっても、標本内の蛍光物質の分布や濃淡を正確に把握し、所望の組織の状態を良好に観察することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る顕微鏡装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】λスタック画像データ及びスペクトルデータを示す模式図である。
【図3】従来の顕微鏡装置によって生成される標本の画像と本発明の実施形態に係る顕微鏡装置によって生成される標本の画像とを比較した説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る顕微鏡装置により標本の画像を取得する場合の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態]
本発明の一実施形態に係る顕微鏡装置100について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る顕微鏡装置100は、λスタック画像データ取得部1、コントローラ2を備えている。
【0015】
λスタック画像データ取得部1は、標本に励起光を照射する光源(図示せず)、標本から発せられた蛍光を波長毎に分離する分光器(図示せず)、及び分光器によって分離された光を波長毎に検出する検出器(図示せず)を備え、異なる複数の波長に対する複数の画像データからなるλスタック画像データを取得する。λスタック画像データの模式図を、図2(A)に示した。図2(A)示すように、λスタック画像データとは、検出した波長の数をMとしたときに、波長の数Mに相当する数の画像データからなる画像データ群であり、λスタック画像データに含まれる各画像データには夫々N個の画素データIが含まれている。従って、図2(A)では、説明の便宜上、M番目の波長のN番目の画素データをINMと表記している。
【0016】
コントローラ2は、λスタック画像データ取得部1により取得されたλスタック画像データに対して所定の処理を施して標本を観察するための画像を生成するものであり、スペクトル生成部10、クラスタリング部11、色設定部12、濃度設定部13、及び画像生成部14を備えている。
【0017】
スペクトル生成部10は、λスタック画像データに基づいて、画素毎のスペクトルを生成する。すなわち、図2(B)に示すように、λスタック画像データに含まれる各画素データINMから、画素毎に各画素のスペクトルであるスペクトルデータXを生成する。従って、画素の数がN個である場合には、画素数と同数のN個のスペクトルデータXが生成され、各スペクトルデータXには、同じ座標位置における波長毎の画素データIN1〜INMが含まれることとなる。
【0018】
クラスタリング部11は、スペクトル生成部10により生成されたN個のスペクトルデータXをクラスタリングすることにより、所定数であるK個のクラスタCに分類する。ここで、所定数のKとは、任意に定めることができ、例えば、標本に塗布した蛍光物質の数と同数や、蛍光物質の数にバックグラウンドの数を加えた数、画像を色分けしたい数等とすることができる。そして、この所定数のKは、予め定めておき、クラスタリング部11に記憶しておいてもよく、また、画像を生成する度に、都度ユーザが決定して、クラスタリング部11に入力してもよい。
【0019】
なお、クラスタリングは、例えば、kmeans法、混合正規分布でモデル化したものに対してEMアルゴリズムやベイズ法を用いるなど、公知の手法により行うことができる。そして、各スペクトルデータXは、適用されるアルゴリズムに依存した規則に従ってクラスタリング、すなわち、K個のクラスタに分類される。従って、各クラスタCに含まれる各スペクトルデータXは夫々共通乃至は類似する特性を有することとなる。
【0020】
色設定部12は、K個の各クラスタCに夫々異なる色を割り当てて設定する。すなわち、各クラスタCに含まれるスペクトルデータXに対応する画素は、色設定部12によって設定された色で表示されることとなる。従って、例えば、K=3であって、クラスタCに赤、クラスタCに緑、クラスタCに青がそれぞれ設定されている場合には、クラスタCに属するスペクトルデータXの画素は赤で、ラスタCに属するスペクトルデータXの画素は緑で、クラスタCに属するスペクトルデータXの画素は青で、それぞれ表示されることとなる。
【0021】
なお、クラスタCに対する色の設定は、予め色設定部12に記憶させておいたクラスタの番号と対応させて定めた色にかかるテーブルに従って設定したり、ユーザが都度所望の色を入力することにより設定したりすることもできる。
【0022】
濃度設定部13は、クラスタCに含まれるスペクトルデータXに対応する画素に対して、当該画素のスペクトルデータXから最高輝度の値を抽出し、この値に応じて各画素の輝度を設定する。すなわち、例えば、クラスタC内に8番目の画素のスペクトルデータXが含まれている場合、スペクトルデータXに含まれる画素データI81〜I8Mのうち最高輝度を有する画素データの値を抽出して、この値に応じて8番目の画素の輝度を設定する。このような各画素に対する輝度の設定をクラスタC内に含まれるスペクトルデータXの全画素に対して行うことにより、クラスタC内の画素の明暗乃至は濃淡を把握する。
【0023】
画像生成部14は、クラスタに含まれる画素を色設定部により設定された色で表示して標本の画像を生成する。このとき、濃度設定部により各クラスタに含まれるスペクトルデータXに対応する各画素に輝度が設定されている場合には、輝度をも表示した画像を生成する。図3(A)に、従来の手法でクラスタリングを行わずに単色で標本の画像を生成した場合の例を示し、図3(B)に本実施形態に従って、クラスタリングを行い、各クラスタCに色設定を行った上で標本の画像を生成した場合の例を示した。
【0024】
図3(B)には、発明の理解を容易にするために、各領域が明確に別個のクラスタに属しているように示したが、実際には、図3(B)に円で囲んだ領域には、複数のクラスタが混合されて存在している。従来輝度のみによって表示していたのと異なり、本実施形態においては、円で囲まれた各領域に複数の色の画素が存在することになる。画像生成部14により生成された標本の画像は、モニタ3に出力され、モニタ3に表示される。
【0025】
ここで、ユーザにおいて、標本の観察の便宜上、K個のクラスタのうち特定のクラスタについてより詳細にスペクトル等の波長特性を把握したい場合がある。このため、コントローラ2は、クラスタCのうち任意のクラスタCを特定するクラスタ特定部16と、特定されたクラスタCに含まれる全画素のスペクトルの平均スペクトルを算出する平均スペクトル算出部17とを備えている。
【0026】
そして、コントローラ2は、特定されたクラスタCに含まれるスペクトルデータX又は平均スペクトル算出部17により算出された平均スペクトルを出力する。出力されたスペクトルデータ又は平均スペクトルは、数値化又はグラフ化してモニタ3に表示したり、コントローラ2の内部又は外部に設けられたメモリ(図示せず)に記憶したりすることができる。
【0027】
以下、上記した顕微鏡装置100において観察のために標本の画像を生成する処理について、図4のフローチャートを参照して説明する。
標本の画像を生成するために、M個の波長毎の画像データからなるλスタック画像データを取得する(ステップS11)。続いて、λスタック画像データに基づいて、N個の画素毎のスペクトル、すなわちN個のスペクトルデータXを生成し(ステップS12)、N個のスペクトルデータXを所定の方法に従ってクラスタリングすることにより、K個のクラスタCに分類する(ステップS13)。
【0028】
さらに、K個の各クラスタCに夫々異なる色を割り当て(ステップS14)、その後、各クラスタCに対して、当該クラスタCに含まれるスペクトルデータXに対応する画素の濃度を設定する。すなわち、クラスタCに含まれるスペクトルデータXに対応する画素の夫々に、当該画素のスペクトルデータXから最高輝度の値を抽出し、この値に応じて各画素の輝度を設定する。この濃度設定を全てのクラスタCに対して行う(ステップS15)。
【0029】
ついで、クラスタに含まれる画素を色設定部により設定された色で表示すると共に、各クラスタに含まれるスペクトルデータXに対応する各画素に輝度が設定されている場合には、各クラスタ内の画素に設定された輝度に従った濃淡を表示した画像を生成し(ステップS16)、生成された標本の画像は、モニタ3に出力され、モニタ3に表示される。
【0030】
以上のように、本実施形態に係る顕微鏡装置100によれば、標本から発せられる光の波長毎のλスタック画像データに基づいて、画素毎のスペクトルであるスペクトルデータが生成されるので、各画素の波長特性を把握することができ、各画素間のスペクトルの相違が明確となる。生成されたスペクトルデータを複数のクラスタにクラスタリングすることにより、画像を構成する全画素を共通乃至は類似する波長特性を有する画素の集合(クラスタ)として分類することができ、各クラスタに異なる色を設定して表示することで、波長特性に応じて色表示された画像を生成することができる。従って、標本内の蛍光物質の濃度差が大きい場合であっても、標本内の蛍光物質の分布や濃淡を正確に把握し、所望の組織の状態を良好に観察することができる。
【0031】
また、クラスタに含まれる各画素に対して、スペクトルデータのうち最高輝度の値に応じて各画素の輝度を設定することで、各クラスタ内においても蛍光物質の分布や濃淡を正確に把握することができるので、標本における所望の組織の状態を良好に観察することができる。
【0032】
さらに、必要に応じて、任意のクラスタを特定し、特定したクラスタに含まれるスペクトルデータを出力することで、所望のクラスタに含まれる各画素のスペクトルを把握することができるので、当該クラスタの特性をより詳細に把握することができ、当該クラスタにおける蛍光物質の分布や濃淡を正確に把握することができる。この時、特定したクラスタに含まれる全スペクトルデータの平均スペクトルを算出して出力することにより、当該クラスタの特性を更に詳細に把握することができる。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0033】
1 λスタック画像データ取得部
2 コントローラ
3 モニタ
10 スペクトル生成部
11 クラスタリング部
12 色設定部
13 濃度設定部
14 画像生成部
16 クラスタ特定部
17 平均スペクトル算出部
100 顕微鏡装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本から発せられる光を波長毎に検出し、異なる複数の波長に対する複数の画像データからなるλスタック画像データを取得するλスタック画像データ取得手段と、
前記λスタック画像データに基づいて、画素毎のスペクトルを生成するスペクトル生成手段と、
前記画素毎のスペクトルを複数のクラスタにクラスタリングするクラスタリング手段と、
各前記クラスタに夫々異なる色を設定する色設定手段と、
各前記クラスタに含まれる画素を前記色設定手段により設定された色で表示して前記標本の画像を生成する画像生成手段と、
を備えた顕微鏡装置。
【請求項2】
各前記クラスタに含まれる各画素に対して、各画素のスペクトルのうち最高輝度の値に応じて各画素の輝度を設定する濃度設定手段を備える請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
複数の前記クラスタのうち任意のクラスタを特定するクラスタ特定手段と、
該クラスタ特定手段により特定されたクラスタに含まれる各画素のスペクトルを出力するスペクトル出力手段と、を備えた請求項1又は請求項2に記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
前記クラスタ特定手段により特定されたクラスタに含まれる全画素のスペクトルの平均スペクトルを算出する平均スペクトル算出手段を備え、
前記出力手段が、前記平均スペクトル算出手段により算出された平均スペクトルを出力する請求項3に記載の顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−88658(P2013−88658A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229849(P2011−229849)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】