説明

顕微鏡観察用容器

【課題】 拡大倍率で観察している際に、観察中の位置を容易に認識・特定することができる顕微鏡観察用容器を提供する。
【解決手段】 顕微鏡を用いて被検査物を観察するための顕微鏡観察用容器であって、前記被検査物を支持する板状部を備え、前記板状部には、所定間隔で配置された複数の緯線および経線により構成されるグリッドが設けられ、前記グリッドは、金型にグリッド線に対応する凸部を形成し、前記凸部を前記板状部に押しつけて凹部を形成する転写を行うことにより形成され、それぞれの前記グリッドの内部と、当該グリッドを形成する前記緯線および前記経線との少なくとも一方には、前記グリッドの絶対位置を識別可能な目印X0〜X4,Y0〜Y4,IMが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡を用いて被検査物を観察するために用いられる顕微鏡観察用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
大学や企業の研究室等においては、生体細胞、生物組織片、微生物、細菌等、もしくはこれらの培養物、またはこれらに薬物や遺伝子等を注入したものの経時的な変化(形態変化、移動等)を顕微鏡で観察し、生物化学的、薬学的な研究等がなされている。顕微鏡としては、実体顕微鏡、蛍光顕微鏡、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡等の種々の方式のものが存在しており、研究の目的や対象の性質等に応じて適宜選定されて用いられる。なお、近時においては、顕微鏡は接眼レンズを介した目視観察の他に、CCD等の撮像素子で撮像してモニタ上に表示し、あるいはパーソナルコンピュータ等に画像データとして記憶して、必要に応じて画像処理等も行い得るようになっている。
【0003】
このような細胞等の経時変化を顕微鏡で観察する際には、一般に培養容器をも兼ねた顕微鏡観察用容器が用いられる。顕微鏡観察用容器としては、細胞等の被検査物を収容する収容部を備え、この収容部は底面を構成する板状部、および側壁を構成する筒状部を有している。この収容部を単一で備える容器として細胞培養ディッシュ等とも呼ばれるものや複数の収容部を配列的(マトリクス状)に配置したマイクロプレート等とも呼ばれるものがある。
【0004】
収容部の少なくとも板状部は、照明光を透過させる必要があるため、光透過性の高い材料から形成され、顕微鏡の対物レンズの焦点距離等との関係で定められる値よりも薄い板厚とされる必要がある。顕微鏡観察用容器としては、この板状部として、光学的性質が良好で、比較的に薄い板厚でも所望の強度を維持できるガラス板を用い、筒状部等のその余の部分を樹脂で形成したものが知られている(例えば、下記特許文献1または特許文献2参照)。但し、近時においては、光学的性質がガラスに近いあるいはガラスを越え、また機械的強度も十分な樹脂材料が開発されており、樹脂は軽量で成形が容易であること等から、板状部を含む容器の全体を樹脂で製造することも、現在では可能となっている。
【0005】
ところで、このような顕微鏡観察用容器を用いて被検査物の経時変化を観察する場合には、顕微鏡のステージ上に被検査物を収容した容器を設置し、板状部上の被検査物の一部を拡大して複数箇所において観察(撮像)した後、該ステージ上から一旦取り外して時間をおいて再度ステージ上に設置して、同じ位置、同じ倍率で観察するという動作を何回か繰り返し実施することになる。この場合に、細胞等の形態変化量や移動量を計測し、あるいは前後の観察画像を画像処理により重ね合わせて比較する場合等には、板状部上の位置に関する基準が必要となる。
【0006】
このような位置基準として、特許文献1または特許文献2には、板状部上に複数の緯線および経線からなる格子状のグリッド座標を設けたものが開示されている。グリッド座標の外側には、各緯線および経線を他の緯線および経線から識別するための記号として、アルファベットや数字が表示されている(例えば、特許文献1の図6、特許文献2の図3参照)。
【0007】
しかしながら、上述した通り、顕微鏡観察する際には、板状部上の被検査物の任意の一部を拡大した状態で観察するため、グリッド座標の外側に表示された記号は、拡大観察時には顕微鏡の視野内にない場合が多く、顕微鏡視野内に記号が入っていない場合には、記号を含むグリッド座標の全体が顕微鏡視野内に入る程度に倍率を一旦低倍率に設定した上で、観察すべき位置を確認調整した後に、再度所望の拡大倍率に設定して観察する必要があり、そのような作業は煩雑であり、観察に長時間を要するという問題がある。
【0008】
また、拡大倍率で観察している状態では、顕微鏡視野中に緯線および経線が含まれていても、その緯線および経線が他の緯線および他の経線と識別できないことが多いため、観察している位置を確認できず、誤った位置で観測してしまう場合があるとともに、観察画像を画像データとして画像処理する場合にも、同様にその位置を特定することができないという問題がある。
【0009】
上記問題について、グリッド座標の中央部分に位置する被検査物を観察する場合を例として、以下に、より具体的に説明する。すわなち、まず、顕微鏡の倍率を低倍率に設定した状態で被検査物の座標位置を確認する。次いで、顕微鏡の倍率を拡大倍率とした状態で、グリッド座標の外側に表示された識別用の記号を見ながら、例えばグリッド座標の縦方向の位置を特定し、ステージの縦方向の位置を固定する。次いで、拡大倍率の設定状態では、グリッド座標の横方向の位置を示す識別用の記号が顕微鏡視野内に入らないため、グリッド座標端部からのグリッドの数をカウントしつつ、グリッド座標の横方向に沿ってステージを移動させて、ステージの横方向の位置を特定してステージの横方向の位置を固定し、この状態で被検査物の観察を行う。しかしながら、ステージの横方向の位置を特定する場合にグリッド数をカウントする必要があり、カウント数の勘違いやカウント間違い等が頻繁に生じ得る。また、被検査物が細胞である場合には、細胞の外形が経時的に変化し得るため、被検査物を視認しただけでは、同一の被検査物を観察しているのか否かの判断ができない。このため、上記手順によれば、被検査物の観察が非常に困難であるという問題がある。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、拡大倍率で観察している際に、観察中の位置を容易に認識・特定することができる顕微鏡観察用容器を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−17157号公報
【特許文献2】特開2004−201695号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、顕微鏡を用いて被検査物を観察するための顕微鏡観察用容器であって、前記被検査物を支持する板状部を備え、前記板状部には、所定間隔で配置された複数の緯線および経線により構成されるグリッドが設けられ、前記グリッドは、金型にグリッド線に対応する凸部を形成し、前記凸部を前記板状部に押しつけて凹部を形成する転写を行うことにより形成され、それぞれの前記グリッドの内部と、当該グリッドを形成する前記緯線および前記経線との少なくとも一方には、前記グリッドの絶対位置を識別可能な目印が設けられている顕微鏡観察用容器が提供される。
【0013】
本発明において、前記板状部を含む容器全体を樹脂で形成することができ、その樹脂としては、脂環式構造を有する樹脂を用いることができる。
【0014】
また、前記目印としては、前記緯線および前記経線をそれぞれ互いに識別するための特徴により表現されたものを用いることができる。この場合の前記特徴としては、線の本数、線の太さ、線の種類、線に付された記号、およびこれらの少なくとも2つの組み合わせにより表現されているものを用いることができる。さらに、前記特徴としては、前記緯線および/または前記経線を、当該線自体を識別可能な記号によって線状に構成したことにより表現されたものを用いてもよい。
【0015】
また、本発明において、前記板状部を底面とし、上部に開口を有する筒状部を備えることができ、加えて、前記筒状部の前記開口から挿入される柱状部を有する蓋を備えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の顕微鏡観察用容器によれば、被検査物を支持する板状部に設けられたそれぞれのグリッドの内部と、当該グリッドを形成する緯線および経線との少なくとも一方に、グリッドの絶対位置を識別可能な目印を設けたので、従来技術のように一旦低倍率に設定して確認する等の作業を行う必要がなく、拡大倍率で観察している際に、観察中の位置を容易に認識・特定することができるという効果がある。
【0017】
また、拡大観察した画像を画像処理する際に、該画像中にはその位置を識別するための目印が必ず含まれているため、前後の画像データでその観察位置が厳密に一致していなくても、当該目印によって画像処理時に前後の画像を正確に重ね合わせることができる。従って、前後の観察位置を厳密に一致させる必要がなく、作業の容易化を図ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態の顕微鏡観察用容器の一例を示す側断面図である。
【図2】図1の顕微鏡観察用容器の容器本体の平面図である。
【図3】本発明の実施形態の顕微鏡観察用容器の他の例を示す側断面図である。
【図4】図3の顕微鏡観察用容器の容器本体の平面図である。
【図5】本発明の実施形態の板状部に配置される目印の第1の構成を示す図である。
【図6】本発明の実施形態の板状部に配置される目印の第2の構成を示す図である。
【図7】本発明の実施形態の板状部に配置される目印の第3の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施形態の板状部に配置される目印の第4の構成を示す図である。
【図9】本発明の実施形態の板状部に配置される目印の第5の構成を示す図である。
【図10】本発明の実施形態の板状部に配置される目印の第6の構成を示す図である。
【図11】本発明の実施形態の板状部に配置される目印の第7の構成を示す図である。
【図12】本発明の実施形態の板状部に配置される目印の第8の構成を示す図である。
【図13】本発明の実施形態の板状部に配置される目印の第9の構成を示す図である。
【図14】本発明の実施形態の板状部に配置される目印の第9の構成の変形例を示す図である。
【図15】本発明の実施形態の板状部に配置される目印の第9の構成の他の変形例を示す図である。
【図16】本発明の実施形態の第1〜第9の構成において、スケールを併記する場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る顕微鏡観察用容器について、図面を参照して説明する。
【0020】
〔容器の全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係る顕微鏡観察用容器の一例の全体構成を示す側断面図であり、図2は図1の顕微鏡観察用容器の容器本体の構成を示す平面図である。
【0021】
この顕微鏡観察用容器11は、細胞培養ディッシュ等とも呼ばれる容器であり、容器本体12と、蓋体13とを備えて構成されている。容器本体12は上面が開口し、下面が閉塞された略円筒状の部材(シャーレ)であり、容器本体12の底部12aの略中央部には被検査物としての細胞等を含む培地を収容する収容部14が配置されている。この収容部14は、容器本体12の底部12aの略中央部に凹部が形成されることによって構成され、凹部の底部が被検査物を支持する(または付着させる)ための板状部14aとなり、凹部の側面が収容部14の側壁を構成する筒状部14bとなっている。
【0022】
板状部14aの板厚(肉厚)は、この容器11を用いて観察する際に用いられる顕微鏡の対物レンズの焦点距離等との関係において、所定の厚さとなっている。また、図2に示されているように、板状部14aには、拡大観察時に板状部14a内の位置を認識・特定するための目印Mが配置されている。この目印Mについては、後に詳述する。容器本体12の側壁12bの開口近傍の部分には、段差12cが形成されている。
【0023】
蓋体13は、容器本体12の上面開口を着脱自在に閉塞する略円板状の部材から構成されており、容器本体12の段差12cの部分に嵌め合うように円環状の側壁部13aが形成されている。なお、図示は省略するが、蓋体13の下面に、容器本体12の開口を蓋体13で閉塞した状態で、内部に画成される空間の酸素を吸収してその濃度を調整するための酸素吸収剤を収容するためのポケット等が設けられていてもよい。生体細胞等は体内と同様に低酸素濃度(例えば、5%程度)下で培養・観察することが望ましい場合があるからである。
【0024】
図3は本発明の実施形態に係る顕微鏡観察用容器の他の例の全体構成を示す側断面図であり、図4は図3の顕微鏡観察用容器の容器本体の構成を示す平面図である。
【0025】
この顕微鏡観察用容器21は、マイクロプレート等とも呼ばれる容器であり、容器本体22と、蓋体23とを備えて構成されている。容器本体22は、底板22a上に、被検査物としての細胞等を含む培地を収容する複数の収容部24を配列的に設けて構成されている。ここでは、一例として、2×4の合計8個の収容部24を備えている。但し、収容部24の個数は、8個未満(例えば2×2の4個)でも、9個以上でもよい。各収容部24は、上面が開口し、下面が閉塞された略円筒状の筒状部24bを有し、収容部24の底部(底板22aの該収容部に対応する部分)が被検査物を支持する(または付着させる)ための板状部24aとなっている。
【0026】
板状部24a(即ち、底板22a)の板厚(肉厚)は、この容器21を用いて観察する際に用いられる顕微鏡の対物レンズの焦点距離等との関係において、所定の厚さとなっている。また、図4に示されているように、各収容部24のそれぞれの板状部24aには、図1および図2を参照して上述した顕微鏡観察用容器11と同様に、拡大観察時に板状部24a内の位置を認識・特定するための目印Mが配置されている。この目印Mについては、後に詳述する。
【0027】
蓋体23は、容器本体22の各収容部24の上面開口を着脱自在に閉塞する略矩形状の部材から構成されており、各収容部24の筒状部24bの内側の開口側近傍の部分に遊嵌する柱状部23aが各収容部24に対応して配置されているとともに、筒状部24bの外側に嵌り込むように形成された凸部23bを有している。各収容部24の開口を閉塞するように蓋体23を取り付けた状態で、柱状部23aは筒状部24bと僅かな隙間をもって挿入されており、収容部24内に収容され、板状部24a上に支持された培地が液体である場合に該液体の界面(上面)に生じることがあるメニスカスを、この筒状部23aの先端面が該液体内に僅かに挿入されることによって解消するものである。メニスカスが生じると該液体の界面近傍がレンズとして作用し、顕微鏡観察する際の誤差となり得るので、このような柱状部23aによって、これを防止することができる。
【0028】
なお、図1および図2、または図3および図4に示した容器の構成は、例示であって、他の構成であってもよい。
【0029】
〔容器形成材料〕
これらの容器本体12,22および蓋体13,23は、ガラスを用いて製造してもよいが、軽量であること、成形が容易であること等から樹脂を用いることが好ましい。用いる透明樹脂としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、および脂環式構造を有する樹脂等を例示することができる。これらの中でも、脂環式構造を有する樹脂は、流動性が良好であり、顕微鏡の対物レンズの焦点距離等との関係から板状部に要請される板厚(肉厚)程度の薄さでも十分な機械的強度を実現できるとともに、高光透過性、平坦性、均一性、低複屈折性等の容器の板状部を含む光透過部に要請される光学特性を良好に実現できることから好ましい。また、脂環式構造を有する樹脂は、材料に起因する自家蛍光が小さいので、蛍光観察する用途の場合にも問題がなく、耐薬品性にも優れていることから好適である。
【0030】
脂環式構造を有する樹脂は、主鎖および/または側鎖に脂環式構造を有する樹脂である。機械的強度などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有する樹脂が特に好ましい。脂環式構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などを挙げることができる。機械的強度などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が最も好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数は、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械的強度および成形性等の特性が高度にバランスされ、好適である。脂環式構造を有する樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0031】
脂環式構造を有する樹脂の具体例としては、(1)ノルボルネン系単量体の開環重合体およびノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体、並びにこれらの水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体およびノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加共重合体などのノルボルネン系重合体;(2)単環の環状オレフィン系重合体およびその水素添加物;(3)環状共役ジエン系重合体およびその水素添加物;(4)ビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体およびビニル脂環式炭化水素系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との共重合体、並びにこれらの水素添加物、ビニル芳香族系単量体の重合体の二重結合部分(芳香環も含む)の水素添加物およびビニル芳香族単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との共重合体の二重結合部分(芳香環も含む)の水素添加物などのビニル脂環式炭化水素系重合体;などが挙げられる。
【0032】
これらの中でも、光学特性や機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体およびビニル脂環式炭化水素系重合体が好ましく、ノルボルネン系単量体の開環重合体水素添加物、ノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体水素添加物、ビニル芳香族系単量体の重合体の二重結合部分(芳香環も含む)の水素添加物およびビニル芳香族単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との共重合体の二重結合部分(芳香環も含む)の水素添加物がさらに好ましい。
【0033】
〔目印の構成〕
容器本体12、22の被検査物が支持される板状部14a,24aの表面(被検査物を支持する面)または裏面(被検査物を支持する面と反対側の面)には、板状部14a,24a内の任意の一部を拡大観察した状態で、該拡大観察している該板状部14a,24a内の位置を板状部14a,24a内の他の位置から識別するための目印Mが配置されている。この目印Mとしては、例えば、図5に示すような構成(第1の構成)のものを用いることができる。
【0034】
図5に示す目印Mは、複数の緯線(横線)Y0〜Y4…および複数の経線(縦線)X0〜X4…を所定間隔でグリッド(格子)状に配置するとともに、各緯線または各経線を他の緯線または経線から識別するための特徴として、緯線および経線の交点の位置を示す記号IMとして番地を該交点近傍に配置して構成されている。緯線および経線としては、ここでは実線を用い、その線幅は1μm程度である。
【0035】
図5中、符号Fiを付した矩形状の枠線は、顕微鏡のステージ上にこの容器11,21を設置し、所定の倍率で拡大観察した場合の該顕微鏡の観察視野(または撮像視野)を示している。なお、この観察視野Fiの同図内における位置は、一例であり、顕微鏡のステージを自動または手動で移動させることによって、板状部14a,24a上の任意の位置に移動可能である。観察視野Fiの大きさは、顕微鏡の仕様によるが、被検査物としての細胞の大きさは一般に100μm程度以下であるため、観察倍率を60倍として、被検面上において、縦150μm×横200μm程度のものや縦75μm×横100μm程度のものが用いられる。
【0036】
緯線Y0〜Y4…および経線X0〜X4…(以下、両者を含めてグリッド線ともいう)の配設間隔は、被検査物の観察に用いるものとして想定される最も大きい拡大倍率において、グリッド線の各交点のうち、少なくとも1つの交点が観察視野Fi内に入るように、即ち少なくとも1本の緯線、少なくとも1本の経線が観察視野Fi内に入るような間隔に設定されている。例えば、最大倍率として60倍を想定した場合には、緯線の間隔は150μm未満に、経線の間隔は200μm未満に設定される。ここでは、一例として、緯線および経線の間隔は同じとして、150μmよりも僅かに小さい140μmに設定している。
【0037】
記号IMとしての番地は、同図では、4桁の数字で表現しており、4桁のうち、上2桁が緯線を識別し、下2桁が経線を識別することを意味している。この表記法により、緯線、経線ともに、00〜99までの100本の線の識別が可能である。記号IMの大きさとしては、観察の支障とならない程度になるべく小さく、且つ、観察倍率との関係で識別可能な程度の大きさに設定される。具体的には、一例として、観察倍率を60倍程度として、1文字の大きさは10μm角程度、文字間スペースは3μm程度とすることができる。
【0038】
グリッド線および記号IMの板状部14a,24aに対する形成方法としては、ナノインプリンティングやフォトリソグラフィにより形成することができる。ナノインプリンティングは、金型にグリッド線および記号IMに対応する凸部を形成して、板状部14a,24aに押しつけて凹部を形成することにより転写する方法であり、フォトリソグラフィは、薄膜形成、マスク露光、エッチング等により、グリッド線および記号IMをパターニングするものである。但し、グリッド線および記号IMの形成方法としては、これらに限定されず、他の方法を用いてもよい。
【0039】
次に、目印Mの変形例をいくつか説明する。図6は目印の第2の構成を示しており、この第2の構成は、図5に示した第1の構成に係る記号IMの表記法を変更したものであり、2桁のアルファベットで表記したものである。グリッド線の表記は図5と同じである。
この表記法により、緯線、経線ともに、アルファベットA〜Zまでの26本の識別が可能である。なお、記号IMの表記法は、図5または図6のような数字やアルファベットによるもの以外に、アルファベット以外の文字や図形等によるものであってもよい。また、数字、文字、図形等のうちの2つ以上を組み合わせたものを用いてもよい。
【0040】
図5または図6では、単一の線種(実線)によりグリッド線を表示し、これに記号IMを組み合わせることにより、グリッド線の識別を行えるようにしている。これに対し、図7に示す第3の構成では、そのような記号IMを用いてグリッド線を識別するのではなく、グリッド線自体の種類(線種)を互いに異なるものとして、その識別を行えるようにしている。この第3の構成では、グリッド線は実線および点線を用い、点線はその点部分と間欠部分のピッチ(周期)を異なるものとして他の点線と識別できるようにしている。線種としては、実線および点線の他、一点鎖線、二点鎖線等の鎖線を用いることもできる。
鎖線の場合も点線の場合と同様に、その長線部分、短線部分、および間欠部分の周期を異ならせることにより、互いの識別が可能である。
【0041】
図8は目印の第4の構成を示しており、この第4の構成では、グリッド線として実線を用い、その線幅を異なるものとして、互いを識別できるようにしている。線幅を変更することによる表現単独では、多数の識別は難しいが、グリッド線の数がそれほど多くない場合には、線幅の変更のみによって識別することが可能である。図7に示した線種による表記と図8に示した線幅による表記とを組み合わせてもよく、これにより、さらに多くの識別が可能となる。
【0042】
図9は目印の第5の構成を示しており、この第5の構成では、グリッド線を実線で表記するとともに、グリッド線と同じ線を付加して複数の線の束からなる線束により互いを識別できるようにしている。1つの線束を構成する複数の線の数が多くなると、やや見えづらくなる懸念があるため、グリッド線の数が多い場合には、例えば、線種や線幅の異なる線と組み合わせて、ローマ数字の如き表記にするとよい。線束を構成する線の線幅は1μm程度であり、隣接する線の間隔は2μm程度とすることができる。
【0043】
図10は目印の第6の構成を示しており、この第6の構成は、図9の線束による表記法を改良したものであり、板状体14a,24aの中央部に実線で基準となる緯線Y2および経線X2を表記し、これらの基準となる緯線および経線から上下または左右に離れる毎に、線束を構成する線の数を増加させている。従って、緯線Y1とY3、Y0とY4は同じ線束で表現され、経線X1とX3、X0とX4は同じ線束で表現されている。この場合、同じ形態の交点が現れる。例えば、緯線Y1と経線X1の交点、緯線Y1と経線X3の交点、緯線Y3と経線X1の交点、緯線Y3と経線X3の交点は同じ形態となり、互いを識別することができない。そこで、図10では、緯線と経線の交点の近傍に記号IMを付すことによって識別できるようにしている。
【0044】
ここでの記号IMは、単一の黒点(ドット)である。この黒点は、当該交点を原点として、緯線を横軸、経線を縦軸と例えて、第1象限〜第4象限の何れに付されているかで、互いを識別できるようにしている。例えば、緯線Y1と経線X3の交点に付される黒点は第1象限に、緯線Y1と経線X1の交点に付される黒点は第2象限に、緯線Y3と経線X1の交点に付される黒点は第3象限に、緯線Y3と経線X3の交点に付される黒点は第4象限に付されることにより、互いが識別される。このような表記を用いた場合には、容器11,12が顕微鏡のステージに誤って90°、180°または270°回転した状態で設置されると、その誤りを識別することができず、不都合である。この場合に対応するため、図10では、方向を示す方向表示(矢印)DMを表示することによって、容器が顕微鏡のステージに回転して設置されることを防止するようにしている。
【0045】
なお、細胞中には、膜成分でできた顆粒や細胞核が存在するため、記号IMとしての黒点の径によっては、これらとの区別が困難となるおそれがあるため、用いる黒点の径は、そのような顆粒よりも十分大径とし、細胞核よりも十分小径として、これらから区別できるようにすることが好ましい。黒点の径は、例えば、数μm程度に設定することができる。また、記号IMとして、このような黒点ではなく、細胞中には存在することがない、または少ない図形(例えば、三角形や四角形)、幾何学的な模様、あるいは文字(例えば、L字)等を用いれば、細胞中に存在する模様と明確に区別することができ、都合がよい。
【0046】
図11は目印の第7の構成を示しており、この第7の構成では、緯線および経線に、各グリッドに対応するように複数の間欠部を形成し、緯線または経線を他の緯線または経線から識別するための記号として、数字を該間欠部にそれぞれ配置している。なお、記号は、数字に限られず、アルファベットやその他の図形またはこれらの組み合わせを用いてもよい。また、間欠部の形成および記号の標記は、全ての緯線または経線について行わなくてもよく、1つおき、あるいは2つおき等であってもよい。
【0047】
図12は目印の第8の構成を示しており、この第8の構成では、緯線および経線の偶数列を比較的に細い実線とし、奇数列を該偶数列と識別するために比較的に太い実線とし、奇数列の緯線および経線にのみ、各グリッドに対応するように複数の間欠部を形成し、緯線または経線を他の緯線または経線から識別するための記号として、数字を該間欠部にそれぞれ配置している。特に、限定はされないが、偶数列の太い緯線または経線の線幅と記号としての数字の大きさとを揃えることが好ましい。なお、記号は、数字に限られず、アルファベットやその他の図形またはこれらの組み合わせを用いてもよい。また、奇数列を太い線とし、偶数列を細い線としてもよいし、細い線にのみ間欠部を形成して記号を配置するようにしてもよい。
【0048】
図13は目印の第9の構成を示しており、この第9の構成では、緯線および経線を線分で表現するのではなく、数字およびアルファベットの組み合わせからなる記号を直線状に羅列することにより表現している。図13では、各緯線または各経線を構成する文字列は互いに同一の表現形式として、グリッドを他のグリッドから識別するためにグリッド毎に構成する記号を異ならせている。また、図13では、緯線を構成する文字と経線を構成する文字の向きは、90度の関係となるようにしている。なお、記号は、数字またはアルファベットの組み合わせに限られず、数字、アルファベット、その他の文字や図形を単独で、またはこれらの組み合わせで用いてもよい。また、緯線を構成する文字と経線を構成する文字の向きは、90度の関係に限られず、同じ向きでも、180度の関係でもよい。
【0049】
図14は図13に示した第9の構成の変形例を示しており、図14では、各緯線または各経線を構成する記号(文字列)を緯線または経線毎に異ならせるとともに、グリッド毎にも異ならせている。また、図14では、緯線を構成する文字と経線を構成する文字の向きは、同じ方向となるようにしている。なお、記号は、数字またはアルファベットの組み合わせに限られず、数字、アルファベット、その他の文字や図形を単独で、またはこれらの組み合わせで用いてもよい。また、緯線を構成する文字と経線を構成する文字の向きは、同じ向きに限られず、90度の関係でも、180度の関係でもよい。
【0050】
図15は図13に示した第9の構成の他の変形例を示しており、図15では、緯線および経線を構成する記号(文字列)は同一の文字の羅列とし、各緯線または各経線毎に文字を異ならせている。図15では、緯線には数字を、経線にはアルファベットを用いており、緯線と経線の識別をも行い得るようになっている。また、図15では、緯線を構成する文字と経線を構成する文字の向きは、同じ方向となるようにしている。なお、記号は、数字またはアルファベットに限られず、数字、アルファベット、その他の文字や図形を単独で、またはこれらの組み合わせで用いてもよい。また、緯線を構成する文字と経線を構成する文字の向きは、同じ向きに限られず、90度の関係でも、180度の関係でもよい。
【0051】
上述した目印の第1〜第9の構成において、図16に示されるように、各グリッドに長さを示すスケール(目盛)および該スケールの寸法(長さ)を数字で併記するようにしてもよい。同図では、スケールの寸法は25μmとしている。但し、スケール(目盛)の表示のみで、スケールの寸法の併記はなくてもよい。図10に示した第6の構成において、上述した黒点(ドット)に代えて、このスケールを緯線と経線の交点付近に表示するようにしてもよい。また、スケール(およびその寸法)の標記は、全てのグリッドについて行わなくてもよく、1つおき、あるいは2つおき等であってもよい。
【0052】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。従って、上述した実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0053】
11,21…顕微鏡観察用容器
12,22…容器本体
13,23…蓋体
14,24…収容部
14a,24a…板状部
14b,24b…筒状部
M…目印
X0〜X4…経線
Y0〜Y4…緯線
IM…記号(番地、黒点)
Fi…観察視野(撮像視野)
DM…方向表示

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡を用いて被検査物を観察するための顕微鏡観察用容器であって、
前記被検査物を支持する板状部を備え、
前記板状部には、所定間隔で配置された複数の緯線および経線により構成されるグリッドが設けられ、
前記グリッドは、金型にグリッド線に対応する凸部を形成し、前記凸部を前記板状部に押しつけて凹部を形成する転写を行うことにより形成され、
それぞれの前記グリッドの内部と、当該グリッドを形成する前記緯線および前記経線との少なくとも一方には、前記グリッドの絶対位置を識別可能な目印が設けられている顕微鏡観察用容器。
【請求項2】
前記板状部を含む全体が樹脂からなる請求項1に記載の顕微鏡観察用容器。
【請求項3】
前記樹脂は脂環式構造を有する樹脂よりなる請求項2に記載の顕微鏡観察用容器。
【請求項4】
前記目印は、前記緯線および前記経線をそれぞれ互いに識別するための特徴により表現されている請求項1〜3の何れか一項に記載の顕微鏡観察用容器。
【請求項5】
前記特徴は、線の本数、線の太さ、線の種類、もしくは線に付された記号、またはこれらの少なくとも2つの組み合わせにより表現されている請求項4に記載の顕微鏡観察用容器。
【請求項6】
前記特徴は、前記緯線および/または前記経線を、当該線自体を識別可能な記号によって線状に構成したことにより表現されている請求項4または5に記載の顕微鏡観察用容器。
【請求項7】
前記板状部を底面とし、上部に開口を有する筒状部を備える請求項1〜6の何れか一項に記載の顕微鏡観察用容器。
【請求項8】
前記筒状部の前記開口から挿入される柱状部を有する蓋体を備える請求項7に記載の顕微鏡観察用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−101391(P2013−101391A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−22989(P2013−22989)
【出願日】平成25年2月8日(2013.2.8)
【分割の表示】特願2008−83293(P2008−83293)の分割
【原出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】