説明

風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物、ならびに風力発電機のブレードおよびその製造方法

【課題】本発明は、風力発電機のブレード表面に、施工性に優れ、かつ耐擦傷性、耐候性に優れた塗膜を形成できる風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物、ならびに該ブレードおよびその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】フッ素樹脂を含有する、風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。また、ブレード基体表面に、前記風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物から形成された塗膜を有する風力発電機のブレード。また、該ブレードの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物、ならびに風力発電機のブレードおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電機は、クリーンなエネルギーが得られることから各地に普及されてきている。このような風力発電機は、強い風が長時間吹く場所に設置されるのが一般的であり、特に周辺に高い建築物や木等がない海岸線に設置されることが多い。風力発電機としては、たとえば、塔体と、塔体上に設けられた塔頂回動部と、塔頂回動部に回動支持部を介して取り付けられたブレードとを有する風力発電機が挙げられる。塔頂回動部は、風向きに応じて回動し、ブレードを風が吹いている方に向けられるようになっている。ブレードとしては、たとえば、木材からなる翼状の板片の表面が繊維強化プラスチック(FRP)により補強されたブレード等が用いられる。近年、風力発電機は大型化しており、たとえば、塔体の高さは数十メートルにもなる。
【0003】
このような大型の風力発電機のブレードは、高速回転しているために虫や鳥が衝突しやすく、また落雷、塩害等による劣化が生じやすい。しかし、大型の風力発電機のブレードは、非常に高い場所にあるためその補修が難しく、風力発電機が海上に設置されている場合は特にその補修が困難である。そこで、風力発電機のブレードは、できるだけ補修作業を減らすために、虫や鳥の衝突による損傷や、落雷、塩害による劣化等を抑制する塗膜が設けられることが望まれる。
【0004】
このような要求特性の下、たとえば、表面にブロックコポリエステルカーボネート保護コーティング層を有する形成したブレード(特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−523765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の保護コーティング層の耐候性は充分とは言えなかった。
本発明は、風力発電機のブレード表面に設ける塗膜として、施工性に優れ、かつ耐擦傷性、耐候性に優れた塗膜を形成できる風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物の提供を目的とする。
また、本発明は、施工性に優れ、かつ耐候性に優れた塗膜を有する風力発電機のブレード、およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]エチレンに基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位とを有する含フッ素共重合体(A)と、該含フッ素共重合体(A)の融点以下の温度で該含フッ素共重合体(A)を溶解可能な溶媒とを含有する、風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。
[2]前記含フッ素共重合体(A)中の全単量体単位に対する、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体に基づく繰り返し単位の割合が、0.1〜30モル%である[1]に記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。
[3]前記含フッ素共重合体(A)が、架橋性基を有する含フッ素重合体である[1]または[2]に記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。
[4]前記架橋性基が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、酸ハライド基、アミノ基、エポキシ基、アルコキシシリル基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である[3]に記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。
[5]前記溶媒における、下記式(1)で示されるハンセン溶解度パラメータに基づく前記含フッ素共重合体(A)に対する溶解指標(R)が25未満である[1]〜[4]のいずれかに記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。
R=4×(δd−15.7)+(δp−5.7)+(δh−4.3) …(1)
(式(1)中、δd、δpおよびδhは、ハンセン溶解度パラメータにおける、分散項、極性項および水素結合項をそれぞれ示し、単位はいずれも(MPa)1/2である。)
[6]防錆顔料、着色顔料および体質顔料からなる群から選ばれる1種以上の顔料成分(C)を含有する[1]〜[5]のいずれかに記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。
[7]前記含フッ素重合体(A)を、含フッ素重合体(A)の融点以下の温度で前記溶媒に溶解させる工程を有する[1]〜[6]のいずれかに記載の表面塗布用塗料組成物の製造方法。
[8]ブレード基体表面に、[1]〜[6]のいずれかに記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物を塗布して塗布層を形成、次いで塗布層から溶媒を除去して塗膜を形成する風力発電機のブレードの製造方法。
[9]ブレード基体表面に、[1]〜[6]のいずれかに記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物から形成された塗膜を有する風力発電機のブレード。
【発明の効果】
【0008】
本発明の風力発電機のブレード表面塗布用塗料組成物は、風力発電機のブレード表面に設ける塗膜として、施工性に優れ、かつ耐擦傷性、耐候性に優れた塗膜を形成できる。
また、本発明の風力発電機のブレードは、施工性に優れ、耐擦傷性、耐候性に優れた塗膜を有する。
また、本発明の製造方法によれば、耐擦傷性、耐候性に優れた塗膜を有する風力発電機のブレードを簡便に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物>
本発明の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物は、風力発電機のブレード表面に塗布して塗膜を形成する塗料組成物であって、含フッ素共重合体(A)を含有する。含フッ素共重合体を含有する塗料組成物によって塗膜を形成することにより、風力発電機のブレードの耐候性が向上する。
【0010】
本発明の表面塗布用塗料組成物に含有される含フッ素共重合体(A)は、フルオロオレフィンに基づく重合単位を有する重合体であることが好ましい。
【0011】
[含フッ素共重合体(A)]
含フッ素共重合体(A)としては、エチレンに基づく繰り返し単位と、テトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位とを含有する含フッ素共重合体であれば、他に特に制限はない。このような含フッ素共重合体の例として具体的には、エチレンに基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」と呼ぶことがある。)に基づく繰り返し単位とを共重合体中の主な繰り返し単位とするETFE等が挙げられる。ここで、本明細書において「ETFE」の用語は、TFEおよびエチレン以外の共単量体に基づく繰り返し単位を共重合体の構成単位として含んでもよい、TFEおよびエチレンを共重合体中の主な繰り返し単位とする含フッ素共重合体の総称として用いるものである。
【0012】
本発明における含フッ素共重合体(A)としては、TFEに基づく繰り返し単位/エチレンに基づく繰り返し単位のモル比が、好ましくは70/30〜30/70、より好ましくは65/35〜40/60、最も好ましくは60/40〜40/60のものが挙げられる。
【0013】
また、本発明における含フッ素共重合体(A)においては、得られる共重合体に各種機能を付加するために、TFEおよびエチレンの他に、これら以外の共単量体に基づく繰り返し単位を含んでいることが好ましい。このようなTFEおよびエチレンとともに用いる共単量体としては、架橋性基を有さない単量体(以下、「非架橋性単量体」という。)と架橋性基を有する単量体(以下、「架橋性単量体」という。)が挙げられる。架橋性基は、基材と化学結合するか、水素結合等により相互作用をする場合には、基材との密着性にも寄与することがある。
【0014】
非架橋性単量体としては、CF=CFCl、CF=CH等のフルオロエチレン類(ただし、TFEを除く。);CF=CFCF、CF=CHCF、CH=CHCF等のフルオロプロピレン類;CFCFCH=CH、CFCFCFCFCH=CH、CFCFCFCF=CH、CFCFCFCFCF=CH、CFHCFCFCF=CH等の炭素数が2〜12のフルオロアルキル基を有するポリフルオロアルキルエチレン類;R(OCFXCFOCF=CF(式中Rは、炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基、Xは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基、mは、0〜5の整数を表す。)等のペルフルオロビニルエーテル類;プロピレン等の炭素数3個のC3オレフィン、ブチレン、イソブチレン等の炭素数4個のC4オレフィン、4−メチル−1−ペンテン、シクロヘキセン、スチレン、α−メチルスチレン等のオレフィン(ただし、エチレンを除く。)類;酢酸ビニル、乳酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;酢酸アリル等のアリルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、等のビニルエーテル類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のクロロオレフィン類などが挙げられる。
【0015】
これらの単量体の中でも、含フッ素共重合体(A)の溶媒への溶解性を向上させる観点からはフルオロオレフィン類、特にCF=CHが好ましい。また、含フッ素共重合体の靭性や耐ストレスクラック性を向上させる観点からは、ポリフルオロアルキルエチレン、特にCFCFCFCFCH=CHが好ましい。
これらの非架橋性単量体は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
架橋性単量体が有する架橋性基としては、ヒドロキシ基、カルボン酸基、1分子中の2つのカルボキシ基が脱水縮合した残基(以下、「酸無水物基」という。)、スルホン酸基、エポキシ基、シアノ基、カーボネート基、イソシアネート基、エステル基、アミド基、アルデヒド基、アミノ基、加水分解性シリル基、炭素−炭素二重結合、カルボン酸ハライド基が挙げられる。前記カルボン酸基とは、カルボキシ基とその塩(−COOM:Mはカルボン酸と塩を形成しうる金属原子または原子団)を、スルホン酸基とは、スルホ基とその塩(−SO:Mはスルホン酸と塩を形成しうる金属原子または原子団)を意味する。
最も好ましくは、ヒドロキシ基、カルボン酸基、酸無水物基およびカルボン酸ハライド基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0017】
ヒドロキシ基を有する単量体としては、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシ-2−メチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシ−2−メチルブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル類;2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテル等のヒドロキシ基含有アリルエーテル類等が挙げられる。これらの中でもヒドロキシ基含有ビニルエーテル類、特に4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテルが入手容易性、重合反応性、架橋性基の架橋性が優れる点でより好ましい。
酸無水物としては、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物等が挙げられる。これらの中でも無水イタコン酸が好ましい。
【0018】
カルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、ウンデシレン酸、3−アリルオキシプロピオン酸、3−(2−アリロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸、フタル酸ビニル等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類;イタコン酸モノエステル、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル等の不飽和ジカルボン酸物エステル類が挙げられる。エポキシ基を有する単量体としては、グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテル等のエポキシ基を有する単量体が挙げられる。
これらの中で硬度の高い塗膜を得るという観点や基材との密着性を高めるという観点から、ヒドロキシ基を有する単量体および酸無水物が好ましい。
これらの架橋性単量体は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。すなわち、架橋性基は、含フッ素共重合体(A)1分子中に異なる種類のものが2種類以上存在していてもよい。
含フッ素共重合体(A)が、架橋性単量体に基づく単位を含有する場合は、その含有割合は、含フッ素共重合体(A)の全単量体繰り返し単位のうち、好ましくは0.1〜10モル%であり、より好ましくは0.1〜5モル%である。
【0019】
上記含フッ素共重合体(A)がこれらのTFEおよびエチレン以外の共単量体に基づく繰り返し単位を含有する場合は、その含有割合の合計は、含フッ素共重合体(A)の全単量体繰り返し単位のうち、好ましくは0.1〜30モル%であり、より好ましくは0.1〜25モル%であり、さらに好ましくは0.1〜20モル%であり、最も好ましくは0.1〜15モル%である。なお、溶解性を一層向上させるなどの目的によっては、上限を50モル%としてTFEおよびエチレン以外の共単量体に基づく繰り返し単位を含有してもよい。
【0020】
本発明の表面塗布用組成物に使用する含フッ素共重合体(A)において、TFEおよびエチレン以外の共単量体に基づく繰り返し単位の含有量がこの範囲にあると、ほぼTFEおよびエチレンのみで構成されるETFEが有する特性を損なうことなく、高い溶解性、撥水性、撥油性、硬化性、基材に対する接着性などの機能を付与することが可能になる。
【0021】
なお、表面塗布用組成物から得られる塗膜の硬度や基材との密着性の観点から、本発明の表面塗布用組成物に用いる含フッ素共重合体(A)は、前記架橋性基を分子の主鎖または側鎖に有していることが好ましい。該架橋性基は、含フッ素共重合体(A)の分子末端または側鎖または主鎖のいずれに有していてもよい。また、該架橋性基は、含フッ素共重合体(A)中に1種が単独で用いられていてもよく、また2種類以上が併用されていてもよい。基材に対して接着性を有する官能基の種類、含有量は、表面塗布用組成物を塗布する基材の種類、形状、用途、要求される接着性、接着方法、官能基導入方法等により適宜選択される。
【0022】
含フッ素共重合体(A)に、架橋性基を導入する方法としては、(i)含フッ素共重合体(A)の重合時に、接着性官能基を有する共重合可能な単量体を他の原料単量体とともに共重合する方法、(ii)重合開始剤、連鎖移動剤等により、重合時に含フッ素共重合体(A)の分子末端に接着性官能基を導入する方法、(iii)接着性官能基とグラフト化が可能な官能基とを有する化合物(グラフト化合物)を含フッ素共重合体(A)にグラフトさせる方法等が挙げられる。これらの導入方法は単独で、あるいは適宜、組み合わせて用いることができる。耐久性を考慮した場合、上記(i)、(ii)の方法の少なくとも一方で製造される含フッ素共重合体(A)が好ましい。
【0023】
本発明の表面塗布用組成物は、上記エチレンに基づく繰り返し単位とTFEに基づく繰り返し単位とを有する含フッ素共重合体(A)として、該含フッ素共重合体の作製に必須の共単量体であるエチレンおよびTFEと、さらに任意に含んでいてもよい上記説明したその他共単量体とを通常の方法で共重合させたものを用いることが可能であるが、商業品目として得られるものを用いることもできる。このような含フッ素共重合体(A)の市販品として、具体的には、旭硝子社製:Fluon(登録商標)ETFE Series、Fluon(登録商標)LM−ETFE Series、Fluon(登録商標)LM−ETFE AH Series、ダイキン工業社製:ネオフロン(登録商標)、Dyneon社製:Dyneon(登録商標)ETFE、DuPont社製:Tefzel(登録商標)等が挙げられる。
【0024】
本発明の表面塗布用組成物には、これら含フッ素共重合体(A)の1種を単独で用いて、あるいは2種以上を併用して、含有させることが可能である。
【0025】
[溶媒]
本発明の表面塗布用組成物は上記含フッ素共重合体(A)とともに溶媒を含有する。本発明の表面塗布用組成物に用いる溶媒としては、上記含フッ素共重合体(A)の融点以下の温度でこの含フッ素共重合体(A)を溶解可能な溶媒である。さらにこの溶媒に含フッ素共重合体(A)を溶解した溶液から含フッ素共重合体(A)を析出させた際に、少なくとも常温常圧において、分散状態を維持することができるものであることが好ましい。
【0026】
本発明に用いる溶媒としては、上記条件に適合する範囲で種々の溶媒が挙げられる。ここで、用いる溶媒が上記条件に適合するためには、その溶媒が有する極性はある特定の範囲にあることが好ましい。本発明においては、上記条件に適合する溶媒を、ハンセン溶解度パラメータ(Hansen solubility parameters)に基づいて、ある特定の範囲の極性を有する溶媒として選択する、以下の方法を用いた。
【0027】
ハンセン(Hansen)溶解度パラメータは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、分散項δd,極性項δp,水素結合項δhの3成分に分割し、3次元空間に表したものである。分散項δdは分散力のよる効果、極性項δpは双極子間力による効果、水素結合項δhは水素結合力の効果を示す。
【0028】
なお、ハンセン溶解度パラメータの定義と計算は、Charles M.Hansen著、Hansen Solubility Parameters: A Users Handbook (CRCプレス,2007年)に記載されている。
【0029】
また、コンピュータソフトウエア Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)を用いることにより、簡便にハンセン溶解度パラメータを推算することができる。本発明では、HSPiPバージョン3でデータベースに登録されている溶媒に関しては、その値を、データベースにない溶媒に関しては推算される値を用いることにより、使用する溶媒を選定することが好ましい。
【0030】
一般に、特定の重合体のハンセン溶解度パラメータは、その重合体のサンプルをハンセン溶解度パラメータが確定している数多くの異なる溶媒に溶解させて溶解度を測る試験を行うことによって決定され得る。具体的には、上記溶解度試験に用いた溶媒のうちその重合体を溶解した溶媒の3次元上の点をすべて球の内側に内包し、溶解しない溶媒の点は球の外側になるような球(溶解度球)を探し出し、その球の中心座標をその重合体のハンセン溶解度パラメータとする。
【0031】
ここで、たとえば、上記重合体のハンセン溶解度パラメータの測定に用いられなかったある別の溶媒のハンセン溶解度パラメータが(δd,δp,δh)であった場合、その座標で示される点が上記重合体の溶解度球の内側に内包されれば、その溶媒は、上記重合体を溶解すると考えられる。一方、その座標点が上記重合体の溶解度球の外側にあれば、この溶媒は上記重合体を溶解することができないと考えられる。
【0032】
本発明においては、このハンセン溶解度パラメータを利用して、表面塗布用組成物が含有する含フッ素共重合体(A)をその融点以下の温度で溶解可能な溶媒であり、室温において該含フッ素共重合体(A)を微粒子として分散する最適な溶媒であるジイソプロピルケトンを基準として、そのハンセン溶解度パラメータである座標(15.7,5.7,4.3)から一定の距離にある溶媒群を好ましい溶媒として使用することができる。
【0033】
すなわち、下記式(1)で示されるハンセン溶解度パラメータに基づく値であるRを上記含フッ素共重合体(A)に対する溶解指標とした。
R=4×(δd−15.7)+(δp−5.7)+(δh−4.3) …(1)
(式(1)中、δd、δpおよびδhは、ハンセン溶解度パラメータにおける、分散項、極性項および水素結合項をそれぞれ示し、単位はいずれも(MPa)1/2である。)。
【0034】
本発明において用いる溶媒は、その溶媒のハンセン溶解度パラメータ座標(δd,δp,δh)を用いて上記式(1)で算出される溶解指標(R)が25未満であることが好ましく、16未満であることがより好ましい。上記式(1)で示されるRが、この範囲に入るハンセン溶解度パラメータを有する溶媒は、含フッ素共重合体(A)との親和性が高く、溶解性および含フッ素共重合体(A)を微粒子とした場合の分散性が高い。
【0035】
また、本発明に用いる溶媒においては、化合物1種からなる溶媒でも、2種以上の化合物の混合溶媒であっても、上記式(1)によりハンセン溶解度パラメータに基づいて算出されるRの値を、含フッ素共重合体(A)の溶解指標とすることができる。たとえば、混合溶媒を用いる場合には、用いる溶媒の混合比(体積比)による平均のハンセン溶解度パラメータを求め、それをハンセン溶解度パラメータとして用いて上記溶解指標(R)を算出することができる。
【0036】
また、本発明に用いる溶媒の沸点は、取扱い性および塗布後の溶媒除去性の観点から、210℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。また、溶媒の沸点が低すぎると、たとえば、組成物をコーティングした後の溶媒の蒸発除去(以下、乾燥ともいう)時に気泡が発生しやすい等の問題があるため、40℃以上が好ましく、55℃以上がさらに好ましく、80℃以上が特に好ましい。
【0037】
上記のような条件を満たす溶媒としては、炭素数3〜10のケトン類、エステル類、カーボネート類、エーテル類などが好ましく挙げられ、炭素数5〜9のケトン類、エステル類がさらに好ましく挙げられる。具体例としては、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソプロピルケトン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ピナコリン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソピロピルケトン、イソアミルメチルケトン、2−オクタノン、2−ノナノン、ジイソブチルケトン、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸sec−ブチル、ギ酸t−ブチル、ギ酸アミル、ギ酸イソアミル、ギ酸ヘキシル、ギ酸シクロヘキシル、ギ酸ヘプチル、ギ酸オクチル、ギ酸2−エチルヘキシル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸t−ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ヘプチル、酢酸オクチル、酢酸2−エチルヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸sec−ブチル、プロピオン酸t−ブチル、プロピオン酸アミル、プロピオン酸イソアミル、プロピオン酸ヘキシル、プロピオン酸シクロヘキシル、プロピオン酸ヘプチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、酪酸sec−ブチル、酪酸t−ブチル、酪酸アミル、酪酸イソアミル、酪酸ヘキシル、酪酸シクロヘキシル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、イソ酪酸sec−ブチル、イソ酪酸t−ブチル、イソ酪酸アミル、イソ酪酸イソアミル、イソ酪酸ヘキシル、イソ酪酸シクロヘキシル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸イソプロピル、吉草酸ブチル、吉草酸イソブチル、吉草酸sec−ブチル、吉草酸t−ブチル、吉草酸アミル、イソ吉草酸メチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸プロピル、イソ吉草酸イソプロピル、イソ吉草酸ブチル、イソ吉草酸イソブチル、イソ吉草酸sec−ブチル、イソ吉草酸t−ブチル、イソ吉草酸アミル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸プロピル、ヘキサン酸イソプロピル、ヘキサン酸ブチル、ヘキサン酸イソブチル、ヘキサン酸sec−ブチル、ヘキサン酸t−ブチル、ヘプタン酸メチル、ヘプタン酸エチル、ヘプタン酸プロピル、ヘプタン酸イソプロピル、オクタン酸メチル、オクタン酸エチル、ノナン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸エチル、シクロヘキサンカルボン酸プロピル、シクロヘキサンカルボン酸イソプロピル、酢酸2−プロポキシエチル、酢酸2−ブトキシエチル、酢酸2−ペンチルオキシエチル、酢酸2−ヘキシルオキシエチル、1−エトキシ−2−アセトキシプロパン、1−プロポキシ−2−アセトキシプロパン、1−ブトキシ−2−アセトキシプロパン、1−ペンチルオキシ−2−アセトキシプロパン、酢酸3−メトキシブチル、酢酸3−エトキシブチル、酢酸3−プロポキシブチル、酢酸3−ブトキシブチル、酢酸3−メトキシ−3−メチルブチル、酢酸3−エトキシ−3−メチルブチル、酢酸3−プロポキシ−3−メチルブチル、酢酸4−メトキシブチル、酢酸4−エトキシブチル、酢酸4−プロポキシブチル、酢酸4−ブトキシブチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸ジブチル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。なお、これらの溶媒はいずれも、上記式(1)から算出されるRが25未満の溶媒である。
【0038】
これらのうちでも、本発明に用いる溶媒としてより好ましい化合物として具体的には、以下の化合物が例示できる。
メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソプロピルケトン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ピナコリン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソピロピルケトン、イソアミルメチルケトン、2−オクタノン、2−ノナノン、ジイソブチルケトン、ギ酸イソプロピル、ギ酸イソブチル、ギ酸sec−ブチル、ギ酸t−ブチル、ギ酸アミル、ギ酸イソアミル、ギ酸ヘキシル、ギ酸ヘプチル、ギ酸オクチル、ギ酸2−エチルヘキシル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t−ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ヘプチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸sec−ブチル、プロピオン酸t−ブチル、プロピオン酸アミル、プロピオン酸イソアミル、プロピオン酸ヘキシル、プロピオン酸シクロヘキシル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、酪酸sec−ブチル、酪酸t−ブチル、酪酸アミル、酪酸イソアミル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、イソ酪酸sec−ブチル、イソ酪酸t−ブチル、イソ酪酸アミル、イソ酪酸イソアミル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸イソプロピル、吉草酸ブチル、吉草酸イソブチル、吉草酸sec−ブチル、吉草酸t−ブチル、イソ吉草酸メチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸プロピル、イソ吉草酸イソプロピル、イソ吉草酸ブチル、イソ吉草酸イソブチル、イソ吉草酸sec−ブチル、イソ吉草酸t−ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸プロピル、ヘキサン酸イソプロピル、ヘプタン酸メチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸エチル、シクロヘキサンカルボン酸プロピル、シクロヘキサンカルボン酸イソプロピル、酢酸2−プロポキシエチル、酢酸2−ブトキシエチル、酢酸2−ペンチルオキシエチル、1−エトキシ−2−アセトキシプロパン、1−プロポキシ−2−アセトキシプロパン、1−ブトキシ−2−アセトキシプロパン、酢酸3−エトキシブチル、酢酸3−プロポキシブチル、酢酸3−メトキシ−3−メチルブチル、酢酸3−エトキシ−3−メチルブチル、酢酸4−メトキシブチル、酢酸4−エトキシブチル、酢酸4−プロポキシブチル。なお、これらの溶媒はいずれも、上記式(1)から算出されるRが16未満の溶媒である。
【0039】
上記溶媒は、上記本発明の条件を満たす範囲であれば、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記所定のハンセン溶解度パラメータを有していれば、上記溶媒に上記以外の溶媒を混合して用いてもよい。さらに、混合溶媒が上記条件を満たしていれば、上記以外の2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。
このような混合溶媒は、混合溶媒とした際にこれを構成する各溶媒のハンセン溶解パラメータとその混合比から算出される混合溶媒における溶解指標(R)の値が上記好ましくは25未満、より好ましくは16未満となるように配合量が適宜調整されて作製される。
【0040】
[表面塗布用組成物]
本発明の表面塗布用組成物に含有される含フッ素共重合体(A)は、溶解状態で存在していもよいが、以下に説明する溶媒中に分散した状態で存在していることが好ましい。ここで、含フッ素共重合体(A)が分散した状態で存在する場合には、該含フッ素共重合体(A)は、以下に説明する溶媒に溶解させた溶液から析出した含フッ素共重合体(A)であることが好ましい。含フッ素共重合体(A)は、溶媒に溶解させた溶液から析出することにより微粒子の状態で溶媒に分散する。この場合の含フッ素共重合体(A)の微粒子の平均粒子径は、20℃において、小角X線散乱法で測定した平均粒子径として、0.005〜2μmの範囲にあることが好ましく、0.005〜1μmであることがより好ましい。本発明の表面塗布用組成物において、含フッ素共重合体(A)の微粒子の平均粒子径が、この範囲にあれば均質で透明性、平坦性、密着性に優れた塗膜を形成することができる。
【0041】
本発明の表面塗布用組成物中の含フッ素共重合体(A)の含有量は、目的とする成形物の膜厚に応じて適宜変えることができる。成膜性の観点から、含フッ素共重合体(A)の含有量は、組成物全量において0.05〜30質量%が好ましく、0.1〜20質量%がより好ましい。前記含有量がこの範囲にあると粘度、乾燥速度、膜の均一性等の取扱い性に優れ、含フッ素共重合体(A)からなる均質な塗膜を形成できる。
【0042】
本発明の表面塗布用組成物中の溶媒の含有量は、これを用いて成形物を得る際の成形性の観点から、組成物全量中70〜99.95質量%が好ましく、80〜99.9質量%がより好ましい。前記含有量がこの範囲にあると、表面塗布用組成物として塗膜作製における塗布時の取扱い性等に優れ、かつ得られる含フッ素共重合体(A)を含有する塗膜を均質かつ均一なものとすることができる。
【0043】
[表面塗布用組成物の製造方法]
本発明の表面塗布用組成物の製造方法について以下に説明する。本発明の製造方法は、具体的には、上に説明した本発明の表面塗布用組成物を製造する方法として用いられる。
【0044】
本発明の表面塗布用組成物の製造方法は、下記(1)および(2)の工程を有することが好ましい。
(1)エチレンに基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位とを有する含フッ素共重合体(A)を、前記含フッ素共重合体(A)の融点以下の温度で該含フッ素共重合体(A)を溶解可能な溶媒に溶解して溶液とする工程、(以下、「溶解工程」という。)
(2)前記溶液において前記溶媒中に前記含フッ素共重合体(A)を微粒子として析出させて、前記溶液を該微粒子が前記溶媒に分散した分散液とする工程(以下「析出工程」という。)
(1)溶解工程
溶解工程において使用する溶媒は、上記条件を満たす溶媒、すなわち、上記含フッ素共重合体(A)の融点以下の温度でこの含フッ素共重合体を溶解可能な溶媒である。さらに続いて析出工程を行って、この溶媒に含フッ素共重合体を溶解した溶液から含フッ素共重合体(A)の微粒子を析出させる場合には、使用する溶媒は、少なくとも常温常圧において、含フッ素共重合体(A)を安定して微粒子として分散させることができることが好ましい。
【0045】
上記溶解工程における温度、圧力、撹拌等の条件としては、上記溶媒に上記含フッ素共重合体(A)が溶解される条件であれば特に制限されないが、該溶解工程における温度条件としては、用いる含フッ素共重合体(A)の融点より低い温度であることが好ましい。本発明に用いる含フッ素共重合体(A)の融点は、最も高いもので概ね275℃であることから、上記溶媒にこれを溶解する工程の温度は、概ね275℃以下の温度であることが好ましい。前記含フッ素共重合体(A)を前記溶媒に溶解する温度としては、230℃以下がより好ましく、200℃以下が特に好ましい。また、この溶解工程の温度の下限としては、0℃が好ましく、20℃がより好ましい。前記溶解工程の温度が0℃未満では、十分な溶解状態が得られない場合があり、275℃を超える温度では、実際作業を行う上で、容易に実行できないことがある。
【0046】
本発明の表面塗布用組成物の製造方法が有する上記溶解工程において、温度以外の条件は特に限定されるものではなく、通常は常圧〜0.5MPa程度の微加圧の条件下に実施することが好ましい。含フッ素共重合体(A)や溶媒の種類によって、溶媒の沸点が溶解工程の温度より低い場合等には、耐圧容器中で、少なくとも自然発生圧力以下、好ましくは3MPa以下、より好ましくは2MPa以下、さらに好ましくは1MPa以下の条件下、最も好ましくは常圧以下の条件下で溶解する方法が挙げられるが、一般的には、0.01〜1MPa程度の条件下で溶解を実施することができる。
【0047】
溶解時間は、本発明の表面塗布用組成物中の含フッ素共重合体(A)の含有量や該含フッ素共重合体(A)の形状等に依存する。用いる含フッ素共重合体(A)の形状は、溶解時間を短くする作業効率の点でいえば、粉末状のものが好ましいが、入手のし易さ等からペレット状等、その他の形状のものを用いることも可能である。
【0048】
上記溶解工程における溶解の手段は特別なものではなく、一般的な方法によればよい。たとえば、表面塗布用組成物に配合する各成分の必要量を秤量し、好ましくは0℃以上用いる含フッ素共重合体の融点以下の温度、より好ましくは0〜230℃、特に好ましくは20〜200℃の温度でこれら成分を均一に混合して上記溶媒に溶解させればよい。なお、ホモミキサー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、一軸または二軸押出機等の一般的な撹拌混合機を用いて、上記溶解を実施することが効率の点で好ましい。また、溶解工程において加熱が必要な場合は、各種原料成分の混合と加熱は同時に行ってもよく、各種原料成分を混合した後、必要に応じて撹拌しながら加熱する方法をとってもよい。
【0049】
加圧下に溶解する場合には、撹拌機付きオートクレーブ等の装置を用いることができる。撹拌翼の形状としては、マリンプロペラ翼、パドル翼、アンカー翼、タービン翼等が用いられる。小スケールで行う場合には、マグネティックスターラー等を用いてもよい。
本発明の表面塗布用組成物としては、析出工程を行わずに、溶解工程によって溶媒に溶解した状態の含フッ素共重合体(A)を含有する組成物を使用することもできる。
【0050】
(2)析出工程
上記(1)溶解工程で得られた、上記含フッ素共重合体(A)を上記溶媒に溶解した溶液を、該含フッ素共重合体(A)が上記溶媒中に析出する条件下、一般的には常温常圧下におくことで、含フッ素共重合体(A)が上記溶媒中に析出する。具体的には、上記(1)溶解工程を加熱下で行った場合には、得られる溶液を含フッ素共重合体(A)が析出する温度以下の温度まで、通常は常温まで冷却することにより上記含フッ素共重合体(A)の微粒子を上記溶媒中に析出させることができる。この場合、冷却の方法は、特に制限されず、徐冷でもよく、急冷であってもよい。
【0051】
析出工程においては、上記含フッ素共重合体(A)は通常微粒子として析出し、該微粒子が上記溶媒中に分散した組成物が得られる。なお、析出工程において析出する含フッ素共重合体(A)微粒子の平均粒子径は、20℃において、小角X線散乱法で測定した平均粒子径として、0.005〜2μmの範囲にあることが好ましく、0.005〜1μmであることがより好ましい。
【0052】
本発明においては、表面塗布用組成物として、微粒子として分散した状態の含フッ素共重合体(A)を含有する組成物を使用することが好ましい。
【0053】
[その他任意成分]
本発明における表面塗布用組成物は、必要に応じてその他任意成分を本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。このような任意成分として、たとえば、硬化剤、硬化促進剤、密着性改良剤、表面調整剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、架橋剤、滑剤、可塑剤、増粘剤、つや消し剤、分散安定剤、充填剤(フィラー)、強化剤、レベリング剤、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤、他の樹脂等の各種添加剤が挙げられる。また、本発明の効果を損なわないこれらの任意成分の含有量としては、表面塗布用組成物全量に対して30質量%以下の含有量を挙げることができる。
本発明における表面塗布用組成物は、含フッ素共重合体(A)を溶媒に溶解して溶液とする工程を含んでいるため、溶融混練などの方法と比較して、上記添加剤を必要に応じて多量に、かつ均一に混合することが可能である。また、そのような上記添加剤を高濃度に含有する表面塗布用組成物を使用すれば、より薄い膜厚で必要な機能を発揮することが可能であるため、含フッ素共重合体(A)の使用量を、より少なくすることができる。
【0054】
塗料を硬化させるには硬化剤を添加することが好ましいが、架橋性基の種類によっては乾燥するだけで硬化するので、硬化剤の添加が不要な場合もある。硬化剤は、含フッ素共重合体(A)に含まれる架橋性基により、適宜選択すればよい。
たとえば、架橋性基がヒドロキシ基の場合にはイソシアネート系硬化剤、メラミン樹脂、シリケート化合物、イソシアネート含有シラン化合物などを選択し、カルボキシル基の場合にはアミノ系硬化剤、エポキシ系硬化剤を選択し、アミノ基の場合にはカルボニル含有硬化剤、エポキシ系硬化剤、酸無水物系硬化剤を選択し、エポキシ基の場合にはカルボキシル基を選択し、イソシアネート基の場合にはヒドロキシ基を選択する。硬化剤が不要な架橋性基としては、加水分解性シリル基などがある。
【0055】
特に含フッ素共重合体がヒドロキシ基を有する場合には、硬化剤としてポリイソシアネートが好ましく、中でも無黄変ポリイソシアネートまたは無黄変ポリイソシアネートの変性体がより好ましい。
無黄色変性ポリイソシアネートとしては、IPDI(イソホロンジイソシアネート)、HMDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、HDI(ヘキサンジイソシアネート)、またはこれらの変性体が好ましい。
変性体としては、イプシロンカプロラクタム(E−CAP)やメチルエチルケトンオキシム(MEK−OX)、メチルイソブチルケトンオキシム(MIBK−OX)、ピラリジンまたはトリアジン(TA)を用い、イソシアネート基をブロックしたもの、ポリイソシアネート同士をカップリングしてウレトジオン結合としたもの等が好ましい。
硬化促進剤としては、たとえばスズ系、その他金属系、有機酸系、アミノ系硬化促進剤などが使用できる。
【0056】
密着性改良剤は特に限定されないが、たとえばシランカップリング剤を好適に用いることができる。シランカップリング剤としては、たとえば3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシランなどのアミノアルキルシラン類;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3−(トリエトキシシリル)プロピルなどの不飽和アルキルシラン類;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシシラン類;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシランなどが好ましい。
【0057】
本発明の表面塗布用塗料組成物には、防錆、着色、補強等を目的として、顔料成分が含有されていることが好ましい。顔料成分としては、防錆顔料、着色顔料および体質顔料からなる群から選ばれる1種以上の顔料が好ましい。
防錆顔料は、ブレード基体の腐食や変質を防止するための顔料である。環境への負荷が少ない無鉛防錆顔料が好ましい。
無鉛防錆顔料としては、シアナミド亜鉛、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムマグネシウム、モリブデン酸亜鉛、ホウ酸バリウム、シアナミド亜鉛カルシウム等が挙げられる。
着色顔料は、塗膜を着色するための顔料である。着色顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄等が挙げられる。
体質顔料は、塗膜の硬度を向上させ、かつ、塗膜の厚みを増すための顔料である。体質顔料としては、タルク、硫酸バリウム、マイカ、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0058】
本発明の表面塗布用塗料組成物中の顔料成分の含有量は、使用時の塗料組成物(硬化剤成分を用いる場合は硬化剤成分を含む)の固形分の総量100質量部に対して、50〜500質量部が好ましく、100〜400質量部がより好ましい。顔料成分の含有量が50質量部以上であれば、顔料成分の機能が得られやすい。顔料成分の含有量が500質量部以下であれば、塗膜が虫や鳥の衝突等の衝撃で割れたり傷付いたりし難くなり、かつ、塗膜の耐候性が向上する。
顔料の中でも、酸化チタンは、光触媒作用により顔料が含まれている塗膜を分解劣化することが知られている。そこで酸化チタンとしては、内側から順に、酸化チタンを含む粒子、該粒子の外側を覆う酸化セリウムを含む第一の被覆層、および第一の被覆層の外側を覆う酸化ケイ素を含む第二の被覆層、とを含む複合粒子としたものを用いることが好ましい。
該複合粒子は、酸化セリウム被覆層、酸化ケイ素被覆層の内側または外側に他の被覆層を有していてもよい。たとえば酸化チタンを含む粒子と、該粒子の外側を覆う酸化セリウムを含む第一被覆層との間に、酸化ケイ素の被覆層を有することが好ましい。
【0059】
また、複合粒子の最外の被覆層には、複合粒子の要求特性に応じて、被覆層を構成する金属化合物とは別の金属化合物を添加することが好ましい。たとえば硬くして顔料がつぶれないようする目的でジルコニアを添加したり、親水性を高めて分散性をよくする目的でアルミナを添加することが好ましい。前記複合粒子の最外層が前記酸化ケイ素を含む第2層である場合には、酸化ケイ素に前記ジルコニア、アルミナを添加することが好ましい。被覆層に、被覆層を構成する金属化合物とは別の金属化合物を添加する場合の量は、被覆層を構成する金属化合物の総質量に対して10〜50質量%が好ましく、20〜30質量%がより好ましい。
レベリング剤としては、たとえばポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサンなどが好ましい。
【0060】
風力発電機は、紫外線の強い屋外で長期間使用されるため、ブレードの紫外線による劣化の対策は重要である。そこで含フッ素共重合体(A)を必須成分とする塗料に紫外線吸収剤を添加して、塗膜に紫外線吸収の機能を付与することが好ましい。
紫外線吸収剤としては、有機系、無機系のいずれの紫外線吸収剤も用いることができる。有機化合物系では、たとえばサリチル酸エステル系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系、の外線吸収剤などが挙げられ、無機系では酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムなどのフィラー型無機系紫外線吸収剤などが好ましい。
紫外線吸収剤として酸化チタンを用いる場合には、前記の複合粒子とした酸化チタンを用いることが好ましい。
紫外線吸収剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。紫外線吸収剤の量は、塗料中の含フッ素共重合体(A)の固形分総質量に対して0.1〜15質量%であることが好ましい。紫外線吸収剤の量が少なすぎる場合には、耐光性の改良効果が充分に得られず、また、多すぎても効果が飽和する。
【0061】
光安定剤としては、たとえばヒンダードアミン系の光安定剤などが挙げられ、アデカスタブLA62、アデカスタブLA67(以上、アデカアーガス化学社製、商品名)、チヌビン292、チヌビン144、チヌビン123、チヌビン440(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名)などが好ましい。
光安定剤は1種または2種以上を組み合わせて用いてもよく、紫外線吸収剤と組み合わせて用いてもよい。
増粘剤としては、たとえばポリウレタン系会合性増粘剤などが挙げられる。
つや消し剤としては、超微粉合成シリカ等など常用の無機または有機のつや消し剤を用いることができる。
【0062】
他の樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポリエステルポリオール樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、アミノ樹脂等の非フッ素系樹脂等が挙げられる。他の樹脂は、架橋性基を有し、硬化剤によって架橋されて硬化する樹脂であってもよい。
本発明の表面塗布用塗料組成物に他の樹脂を配合する場合、他の樹脂の含有量は、含フッ素共重合体(A)の100質量部に対して1〜200質量部が好ましい。
前記のように調製した表面塗布用組成物中の含フッ素共重合体(A)の濃度は、塗料の全質量に対して1〜50質量%であることが好ましい。
【0063】
以上説明した本発明の表面塗布用塗料組成物を用いれば、風力発電機のブレードを保護する塗膜として、優れた耐擦傷性、耐候性を有する塗膜を簡便に形成できる。さらに、含フッ素共重合体(A)に架橋性を有する官能基を導入し、塗膜として硬化塗膜層を形成すれば、架橋構造によって耐酸性が向上するため、酸性雨や鳥のフンによってブレードの劣化を抑制しやすい。加えて、該硬化塗膜層は、架橋構造によって撥水性も向上するため、雪の付着によってブレードの回転が妨げられることも抑制しやすい。さらに、架橋構造によってより硬い塗膜が形成されるために耐擦傷性も向上するうえ、耐熱性、耐水性、耐湿性等の耐久性も向上する。
【0064】
<風力発電機のブレード>
以下、本発明の風力発電機のブレードの実施形態の一例について説明する。
ブレード基体としては、風力発電機に通常用いられるブレード基体を採用でき、たとえば、木材からなる翼状の板片の表面が繊維強化プラスチック(FRP)により補強されたブレード基体等が挙げられる。ブレード基体の形状および大きさは、特に限定されない。
【0065】
塗膜は、ブレード基体の耐候性および機械的耐久性向上のためにブレード基体の上に形成される層であり、前述した本発明の表面塗布用塗料組成物により形成される。塗膜の厚みは、50〜150μmが好ましい。塗膜は、耐候性に加えて、耐酸性、撥水性、耐久性、耐擦傷性が向上する点から、含フッ素共重合体(A)を含む表面塗布用塗料組成物により形成された硬化塗膜層であることが好ましい。
【0066】
ブレード基体と塗膜の間には、別の層が存在していてもよい。別の層としては、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂からなる樹脂層、硬化塗膜層の密着性を向上させるためのシランカップリング剤からなる層等が挙げられる。
【0067】
(製造方法)
本発明の風力発電機のブレードの製造方法の一例として、前述した含フッ素共重合体(A)を含む表面塗布用塗料組成物を用いたブレード1の製造方法について説明する。
ブレードの製造方法としては、たとえば、ブレード基体の表面に、少なくとも含フッ素共重合体(A)を含む表面塗布用塗料組成物を塗布して塗布層を形成し、塗膜からなる塗膜を形成する方法が挙げられる。
【0068】
表面塗布用塗料組成物の塗布は、刷毛、ローラ、スプレー、フローコータ、アプリケータ等を用いて実施できる。表面塗布用塗料組成物の塗布量は、乾燥膜厚が前記範囲内となるように適宜選定すればよい。表面塗布用塗料組成物を熱硬化する際の温度は、常温〜250℃が好ましい。
表面塗布用塗料組成物が溶媒を含有している場合には、該溶媒は硬化を行う前もしくは硬化を行うと同時に加熱、減圧等により揮発させる等して除去することが好ましい。
【0069】
以上説明した風力発電機のブレードは、耐候性に優れた塗膜を有しており、フィルムを貼り付ける方法に比べてその施工も容易である。また、塗膜を、含フッ素共重合体(A)を用いて架橋構造を有する硬化塗膜層とすれば、耐酸性および撥水性も向上し、酸性雨や鳥のフンによる劣化、雪による回転の妨げ等を抑制しやすくなる。さらに、前記架橋構造を有する硬化塗膜層とすれば、耐熱性、耐水性、耐湿性等の耐久性が向上するうえ、耐擦傷性も向上するので虫や鳥の衝突等による損傷を抑制しやすい。
なお、本発明の風力発電機のブレードの製造方法は前述した方法には限定されない。たとえば、塗膜が硬化塗膜層ではない場合、表面塗布用塗料組成物を塗布して塗布層を形成して乾燥させて塗膜とする方法が挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[含フッ素共重合体の表面塗布用組成物(A1)の製造]
<表面塗布用組成物(A1)>
硼珪酸ガラス製耐圧反応器に、含フッ素共重合体として、ETFE(構成単量体およびモル比:テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ−1−ヘキセン/無水イタコン酸=44.6/45.6/8.1/1.3/0.4、融点:192℃、以下、「ETFE1」という。)の2.40g、ジイソプロピルケトン(上記式(1)で算出されるR(以下、単に「R」と表す。)=0)の37.60gを入れ、撹拌しながら140℃に加熱したところ、均一で透明な溶液となった。
【0071】
該反応器を徐々に室温まで冷却したところ、均一で沈降物のない含フッ素共重合体微粒子分散液(ETFE1の濃度6重量%)として表面塗布用組成物(A1)が得られた。含フッ素共重合体微粒子の平均粒子径は、20℃において、小角X線散乱法で測定した平均粒子径として20nmであった。また、この分散液を0.05重量%に希釈して、透過型電子顕微鏡で観察したところ、1次粒子径は、20−30nmであることが確認できた。
【0072】
この分散液をガラス基板上に室温でポッティングにより塗布・風乾後、120℃のホットプレート上で5分間加熱して乾燥し、表面にETFE1の薄膜が形成されたガラス基板を得た。得られた薄膜を光学顕微鏡(50倍)で観察したところ、均一で平滑な膜であることを確認した。また、触針式表面形状測定器にて膜厚を測定したところ、3μmであった。得られたETFE1膜の密着性を評価したところ、全く剥離は見られなかった。
<表面塗布用組成物(A2)>
溶媒としてシクロヘキサノン(R=25.6)を用いる以外は表面塗布用組成物(A1)と同様にして、表面塗布用組成物(A2)を得た。
【0073】
[顔料組成物の調製]
<顔料組成物(B1)>
得られた含フッ素共重合体を含有する表面塗布用組成物(A1)の40gに、酸化チタン顔料(石原産業社製、CR97、平均粒子径:0.25μm)のメチルエチルケトン分散液(固形分濃度:34.2%)の2.50gを加え、さらに、直径1mmのガラスビーズの40gを加えて、ペイントシェーカーで2時間撹拌する。撹拌後ろ過を行ってガラスビーズを取り除き、顔料組成物(B1)を得た。この顔料組成物(B1)をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に室温でポッティングにより塗布・風乾後、120℃のホットプレート上で5分間加熱して乾燥し、表面に顔料組成物(B1)の薄膜が形成されたPETフィルムを得た。得られた薄膜の可視光およびUVの透過率を調べたところ、200〜800nmの全範囲で、2%以下であった。
<顔料組成物(B2)>
表面塗布用組成物(A1)に代えて、表面塗布用組成物(A2)を用いた他は、顔料組成物(B1)と同様にして、顔料組成物(B2)を得る。
【0074】
[表面塗布用塗料組成物]
<表面塗布用塗料組成物(D1)>
顔料組成物(B1)の40gに、表面塗布用組成物(A1)の10gを加えて混合し、表面塗布用塗料組成物(D1)を得る。
<塗料組成物(D2)>
顔料組成物(B1)に代えて顔料組成物(B2)を用い、かつ表面塗布用組成物(A1)に代えて、表面塗布用組成物(A2)を用いた他は、表面塗布用塗料組成物D1と同様にして、表面塗布用塗料組成物(D2)を得る。
【0075】
<表面塗布用塗料組成物により形成した塗膜(硬化塗膜層)の評価>
[実施例1]
ガラス基板の表面に、表面塗布用塗料組成物(D1)を膜厚が20μmとなるように塗布し、25℃の恒温室中で1週間養生させることにより塗膜を形成して、塗膜付試験板I−1を得る。
また、クロメート処理したアルミニウム板の表面に、表面塗布用塗料組成物(D1)を膜厚が20μmとなるように塗装し、25℃の恒温室中で1週間養生させることにより塗膜を形成して、塗膜付試験板I−2を得る。
塗膜付試験板I−1について、塗膜の硬度、耐水性、耐熱性を評価する。また、塗膜付試験板I−2について、塗膜の耐候性試験を行う。
【0076】
[比較例1]
表面塗布用塗料組成物(D1)に代えて表面塗布用塗料組成物(D2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ガラス基板上に塗膜を形成した塗膜付試験板II−1と、アルミニウム板の表面に塗膜を形成した塗膜付試験板II−2を得る。
塗膜付試験板II−1について、塗膜の硬度、耐水性、耐熱性を評価する。また、塗膜付試験板II−1について、塗膜の耐候性試験を行う。
【0077】
[評価方法]
(硬度)
JIS K 5600−5−4(1999)に準拠した方法で塗膜の硬度を測定し、以下の基準に従って評価する。
「○」:鉛筆硬度H以上
「△」:鉛筆硬度2B〜F
「×」:鉛筆硬度3B以下
(耐水性)
JIS K 5600−6−2(1999)に準拠した方法で塗膜の耐水性試験を行い、以下の基準に従って評価する。
「○」:塗膜に膨れ、損傷等が確認されなかった。
「×」:塗膜に膨れ、損傷等が確認された。
【0078】
(耐熱性(1):熱分解温度)
示差熱重量同時測定装TG/DTA220(セイコーインスツルメント社製)を使用し、昇温速度10℃/分、窒素流量50mL/分の条件で熱重量分析を実施し、塗膜の熱分解温度を測定する。なお、塗膜の質量が5%減少した時点の温度を熱分解温度(℃)とする。測定結果を以下の基準に従って評価する。
「○」:250℃以上
「△」:150〜250℃
「×」:150℃以下
(耐候性)
沖縄県那覇市の屋外に塗膜付試験板I−2、II−2を設置し、設置直前と、2年後における塗膜表面の光沢を、PG−1M(光沢計:日本電色工業社製)を用いて測定する。設置直前の光沢の値を100%としたときの、2年後の光沢の値の割合を光沢保持率(単位:%)として算出し、以下の基準に従って耐候性を評価する。
「○」:光沢保持率が80%以上であった。
「△」:光沢保持率が60%以上80%未満であった。
「×」:光沢保持率が60%未満であった。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に示すように、本発明の表面塗布用塗料組成物により形成した実施例1の塗膜は、耐擦傷性に優れる。また、熱分解温度が高く耐熱性にも優れているうえ、耐水性にも優れる。さらに、耐候性試験では、塗膜を形成したアルミニウム板の光沢が高度に維持されてることから、優れた耐候性を有している。
【0081】
また、最適なRの値を有する溶媒であるジイソプロピルケトンを用いた、微粒子の含フッ素共重合体が分散した表面塗布用塗料組成物(A1)より調製した表面塗布用塗料組成物(D1)により形成した実施例1の塗膜は、R=25.6であるシクロヘキサノンを溶媒に用いて調製した表面塗布用塗料組成物(A2)より調製した表面塗布用塗料組成物(D2)により形成した比較例1の塗膜に比べて、耐擦傷性がより優れており、耐熱性もより優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンに基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位とを有する含フッ素共重合体(A)と、該含フッ素共重合体(A)の融点以下の温度で該含フッ素共重合体(A)を溶解可能な溶媒とを含有する、風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。
【請求項2】
前記含フッ素共重合体(A)中の全単量体単位に対する、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体に基づく繰り返し単位の割合が、0.1〜50モル%である請求項1に記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。
【請求項3】
前記含フッ素共重合体(A)が、架橋性基を有する含フッ素重合体である請求項1または2に記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。
【請求項4】
前記架橋性基が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、酸ハライド基、アミノ基、エポキシ基、アルコキシシリル基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項3に記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。
【請求項5】
前記溶媒における、下記式(1)で示されるハンセン溶解度パラメータに基づく前記含フッ素共重合体(A)に対する溶解指標(R)が25未満である請求項1〜4のいずれかに記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。
R=4×(δd−15.7)+(δp−5.7)+(δh−4.3) …(1)
(式(1)中、δd、δpおよびδhは、ハンセン溶解度パラメータにおける、分散項、極性項および水素結合項をそれぞれ示し、単位はいずれも(MPa)1/2である。)
【請求項6】
防錆顔料、着色顔料および体質顔料からなる群から選ばれる1種以上の顔料成分(C)を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物。
【請求項7】
前記含フッ素重合体(A)を、含フッ素重合体(A)の融点以下の温度で前記溶媒に溶解させる工程を有する請求項1〜6のいずれかに記載の表面塗布用塗料組成物の製造方法。
【請求項8】
ブレード基体表面に、請求項1〜6のいずれかに記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物を塗布して塗布層を形成、次いで塗布層から溶媒を除去して塗膜を形成する風力発電機のブレードの製造方法。
【請求項9】
ブレード基体表面に、請求項1〜6のいずれかに記載の風力発電機のブレードに用いる表面塗布用塗料組成物から形成された塗膜を有する風力発電機のブレード。

【公開番号】特開2011−225674(P2011−225674A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95211(P2010−95211)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】