説明

風力発電用タワーのナセル上架方法および装置

【課題】ナセルの上架を大型クレーンを用いることなく行い、100メートルを超える風力発電用タワーの建設を実現する。
【解決手段】地上に配置したクレーンを用いて、ナセル上架構造物10の設置に必要な資材、機材を吊り上げ、タワー12の最上部に前記ナセル上架構造物を組み立て、ナセル上架構造物に設置した吊上台車14から吊り治具16を地上に降ろし、この吊治具16にナセル54を取り付け、吊上台車に設けた吊上装置によってナセル54およびブレード60を順次前記タワーの最上部のナセル上架構造物まで吊り上げる。吊り上げたナセル54およびブレード60をナセル上架構造物10を利用して一体に組み立てる。ナセル上架構造物10を解体し、資材、機材を前記クレーンを用いて地上に吊り降ろす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電用タワーのナセル上架方法および装置に係り、特に、クレーンを使わずにナセルやブレードをタワーの最上部に上架する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油代替エネルギー供給システムとして、風力発電システムが注目されている。風力発電システムでは、開発コストに見合う発電量を確保するためには、良好な風況にあるロケーションを選定するとともに、発電設備を大型化することが必要とされる。最近では、70〜80mもの高さをもつ風力発電用タワーが建設されるようになってきている。
【0003】
この種の大型風力発電用タワーの建設では、大型クレーンを使用して、タワー基部からタワーのモジュールを順次積み上げていき、最後に、ナセルおよびブレードを大型クレーンで吊り上げ、風車発電機をタワー最上部に取り付けている。
【0004】
また、大型風力発電用タワーを建設する従来技術として、特許文献1は、大型クレーンを用いる替わりにクライミングクレーンを用いる工法を開示している。
【特許文献1】特開平10−205430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の風力発電用タワーでは、タワーが高くなるにしたがって、クレーンの能力が問題となる。すなわち、タワーのモジュールやナセル、ブレードを吊り上げるクレーンには、より大きな能力が要求される。特に、ナセルは何10トン、大型のものになると60トンもの重さがあるため、タワーの最上部にナセルを上架するには、大型のクレーンが必要となり、莫大な費用がかかる。
【0006】
しかも、近年のように、風力発電用タワーの高さが80メートル近くにもなると、クレーンの能力の限界に近づき、それ以上の高さにナセルを上架することが困難になってきている。このため、現状の技術では、100メートルの高さをもつ風力発電用タワーの建設では、クレーンの能力不足のため、重量のあるナセルを上架することができないことが大きな障害になっている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、ナセルの上架にクレーンを用いることなく行え、100メートルを超える風力発電用タワーの建設の実現に寄与する風力発電用タワーのナセル上架方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、タワーが完成した後に、前記タワーの最上部に発電機を収容したナセルを据え付ける上架方法であって、地上に配置したクレーンを用いて、ナセル上架構造物の設置に必要な資材、機材を吊り上げ、前記タワーの最上部に前記ナセル上架構造物を組み立てる工程と、前記ナセル上架構造物に設置した吊上装置から吊り治具を地上に降ろし、この吊治具に前記ナセルを取り付け、前記吊上装置によって前記ナセルおよびブレードを順次前記タワーの最上部のナセル上架構造物まで吊り上げる工程と、前記吊り上げたナセルおよびブレードを前記ナセル上架構造物を利用して一体に組み立てる工程と、前記ナセル上架構造物を解体し、資材、機材を前記クレーンを用いて地上に吊り降ろす工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、タワーが完成した後に、前記タワーの最上部に発電機を収容したナセルおよびブレードを据え付けるために前記タワーの最上部に設置されるナセル上架装置であって、前記タワーの最上部に設置されるナセル上架構造物と、前記ナセル上架構造物の上を移動可能に設置され、吊り上げた前記ナセル、ブレードを搬送する吊上台車と、前記吊上台車に設置され、前記ナセル、ブレードを地上から吊り上げる吊上装置と、前記吊上装置からワイヤーを介して吊り下げられ、前記ナセル、ブレード、資材、機器等を吊るための吊り治具と、前記吊上台車を前記ナセル上架構造物上で横移動させる横動駆動装置と、を具備したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、100メートル以上の高さをもつ風力発電用タワーの建設であっても、従来のようにクレーンの能力不足という制約を受けずに、重量のあるナセルやブレードを比較的簡素な設備で上架することを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による風力発電用タワーのナセル上架方法および装置の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるナセル上架装置を示す正面図である。図2は、図1のナセル上架装置10が設置された風力発電用タワーを示す。
【0012】
施工の順序としては、風力発電用タワー12を完成した後、風力発電用タワー12の最上部に資材を吊り上げてナセル上架装置10を組み立てる。そして、ナセル上架装置10を使って、図中1点鎖線で示すようにナセル54とブレード(図1ではロータヘッド62が図示されている)を吊り上げ、風車発電機を組み立る。
【0013】
図1において、ナセル上架装置10は、風力発電用タワー12の最上部に組み立てられるトラス構造の上架構造物を本体としている。この上架構造物には、吊上台車14が設置されている。この吊上台車14からは、ナセルやブレードを吊るための吊り治具16が吊り下げられる。
【0014】
まず、ナセル上架装置10の上架構造物について説明する。
図1において、参照番号17は、風力発電用タワー12の最上部を示す。この最上部17には、上架構造物を設置するためのブラケット18が取り付けられている。このブラケット18には、ベース梁19が固定される。上架構造物を構成する主要な部材には、横架フレーム20がある。この横架フレーム20は、ベース梁19に基端部が連結されている複数本の支柱によって水平に支持されている。支柱には、斜め支柱21、垂直支柱22等がある。
【0015】
図3は、横架フレーム20の平面図である。
横架フレーム20は、四方を枠組みした長方形フレーム構造を有しており、長手方向には歩廊23が設けられている。また、フレーム20には吊上台車14を案内する走行レール24が長手方向に敷設されている。
【0016】
図4は、上部構造物の右側面図である。この図4に示すように、横架フレーム20を斜め支柱21と垂直支柱22を組み合わせて支持することにより、横架フレーム20の下は、ナセルを引き込み収容することが可能なように大きく空間が形成されている。
【0017】
次に、横架フレーム20に設置される吊上台車14について説明する。
図1において、吊上台車14は、コロ軸受25により荷重を支持され、吊上台車14は、このコロ軸受25(商品名チルタンク)のコロが走行レール24を転動しながら走行することができる。
【0018】
この吊上台車14には、吊上治具16にナセル54やブレードを吊り込み、この吊上治具16を吊り上げるための吊上装置を構成する油圧式の吊上ジャッキ26が設けられている。
この実施形態では、吊上装置を構成する吊上ジャッキ26は、吊上台車14上で4カ所に設置されており、各吊上ジャッキ26からは、ストランド27が垂下されて、吊上治具16を4点で支持するようになっている。吊上台車14には、油圧ジャッキに圧油を送る油圧ポンプユニット28が設置されている。この油圧ポンプユニット28は、油圧タンク、油圧操作部等を備えており、油圧ジャッキ26を制御する油圧システムそのものが吊上台車14上に搭載されている。
【0019】
このような吊上台車14を横架フレーム20上でその長手方向に横移動させる駆動装置として、横移動用ジャッキ30が2台設けられている。この横移動用ジャッキ30は、走行レール24にそって吊上台車14とともに移動しながら吊上台車14を横移動させるジャッキで、この種の重量物の横移動に用いられる公知の横行ジャッキである。なお、油圧ポンプユニット28は、横移動用ジャッキ30にも圧油を供給し、この油圧ポンプユニット28は、吊上ジャッキ26と横移動用ジャッキ30で共用するようになっている。
【0020】
以下、風車発電機を据え付けるまでの一連の工程を順序を追って説明する。
【0021】
まず、図5は、風力発電用タワー12を組み立てる工程を示す。最初に脚部50を建造しておき、タワーを構成する各モジュール51を一段ずつクレーン52で吊って積み上げていく。各モジュール51の接合部はボルト接合になっている。
【0022】
次に、図6は、風力発電用タワー12が完成した後のナセル上架装置の組み立て工程を示す。
ナセル上架装置10は、風力発電用タワー12の建設に使ったクレーン52を用いて、ナセル上架装置10を構成する上架構造物の組み立てに必要な資材、機材を吊り上げ、図6に示すように、タワーの最上部に設置される。このナセル上架装置10の組み立てでは、一つ一つの資材、機材は、重量物ではないので、クレーン52には、ブームは高くなるが、能力的には特別のものでなくても対応することが可能である。
【0023】
図7は、ナセルを組み立てる工程を示す。この実施形態では、図7に示すように、ナセル54は、3つの編成モジュール54a、54b、54cに分割されたものを、ナセル上架装置10を使って吊り上げることになる。
【0024】
図7では、ナセル編成モジュール54aをタワーの最上部に吊り上げた後、ナセル編成モジュール54bを吊り込んだ吊上治具16を途中まで吊り上げている状態が示されている。
【0025】
ナセル編成モジュール54a、54b、54cを吊り上げる場合、吊上台車14は、横架フレーム20の後端にある。吊上台車14は、この位置に停止した状態で、吊上ジャッキ26が作動して、吊上治具16に吊り込んだナセル編成モジュール54bをゆっくりと吊り上げていく。
【0026】
次に、図8は、ナセル編成モジュール54bをタワーの最上部まで吊り上げた状態を示す。走行台車14は、ナセル編成モジュール54bを吊ったまま、図8において、横移動用ジャッキ30が作動して右行し、このナセル編成モジュール54bを、据付済みのナセル編成モジュール54aの上まで移動し、吊ったまま組み立て作業が行われる。組み立てる過程でのナセル編成モジュール54bの位置の調整や、位置決めは、横移動用ジャッキ30と、吊上ジャッキ26を操作しながら行えばよい。
【0027】
その後、残りのナセル編成モジュール54cを吊り上げるため、走行台車14は再び横架フレーム20上を後端まで左行する。以後は、同様に吊上、組み立てが行われる。
【0028】
次に、図9、図10は、ブレードの吊上工程を示す。3枚のブレード60は、ロータヘッド62に取り付けた状態のまま、一度に吊り上げられる。
【0029】
ブレード60を吊り上げる位置は、ナセルを吊り上げる位置と異なり、横架フレーム20の前端となる。走行台車14は、横架フレーム20の前端まで移動し、この位置から、吊上治具16を地上まで降下する。
【0030】
図9に示すように、ブレード60を地上から吊り上げ始める初期段階では、補助クレーン66で1枚のブレードを支えておくようにする。この補助クレーン66は、補助的に支えるだけであるので、小型のクレーンで十分対応できる。なお、各ブレード60には、揺れを防止するための控えワイヤー67で規制しておく。
【0031】
図10は、ロータヘッド62付きのブレード60を走行台車14の吊上ジャッキ26で吊り上げた状態を示す。
最終的には、図10で1点鎖線で示すロータヘッド62の位置まで、ブレード60を引き上げて、既に据え付けてあるナセル54に取り付けることになる。
【0032】
こうして、ナセル上架装置10を利用して、従来のように大型のクレーンを用いることなく、ナセル54およびブレード60を吊り上げて一体に組み立てることができる。この場合、100メートル以上の高さをもつ風力発電用タワーの建設であっても、従来のようにクレーンの能力不足という制約を受けないため、重量のあるナセルやブレードを比較的簡素な設備で上架することが可能となる。
【0033】
最後に、ナセル上架装置10を解体し、資材、機材を図5で用いたクレーン52により地上に吊り降ろす。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態による風力発電用タワーのナセル上架装置を示す正面図。
【図2】同ナセル上架装置が設置された風力発電用タワーの正面図。
【図3】本発明の一実施形態による風力発電用タワーのナセル上架装置を示す平面図。
【図4】本発明の一実施形態による風力発電用タワーのナセル上架装置を示す右側面図。
【図5】風力発電用タワーをクレーンで積み上げる工程の説明図。
【図6】ナセル上架装置を風力発電用タワーの最上部に設置する工程の説明図。
【図7】ナセル上架装置によりナセルの編成モジュールを吊り上げる工程の説明図。
【図8】ナセル上架装置によりナセルの編成モジュールを組み立てる工程の説明図。
【図9】ナセル上架装置によりブレードを地上から吊り上げる工程の説明図。
【図10】ナセル上架装置によりブレードを風力発電用タワーの最上部まで吊り上げる工程の説明図。
【符号の説明】
【0035】
10 ナセル上架装置
12 風力発電用タワー
14 吊上台車
16 吊り治具
17 タワー最上部
19 ベース梁
20 横架フレーム
21 斜め支柱
22 垂直支柱
26 吊上ジャッキ
28 油圧ポンプユニット
30 横移動用ジャッキ
54 ナセル
60 ブレード
62 ロータヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タワーが完成した後に、前記タワーの最上部に発電機を収容したナセルを据え付ける上架方法であって、
地上に配置したクレーンを用いて、ナセル上架構造物の設置に必要な資材、機材を吊り上げ、前記タワーの最上部に前記ナセル上架構造物を組み立てる工程と、
前記ナセル上架構造物に設置した吊上装置から吊り治具を地上に降ろし、この吊治具に前記ナセルを取り付け、前記吊上装置によって前記ナセルおよびブレードを順次前記タワーの最上部のナセル上架構造物まで吊り上げる工程と、
前記吊り上げたナセルおよびブレードを前記ナセル上架構造物を利用して一体に組み立てる工程と、
前記ナセル上架構造物を解体し、資材、機材を前記クレーンを用いて地上に吊り降ろす工程と、
を含むことを特徴とする風力発電用タワーのナセル上架方法。
【請求項2】
前記ナセル上架構造物には、前後、左右方向に走行可能な台車を設置し、前記吊上装置を前記台車上に搭載することを特徴とする請求項1に記載の風力発電用タワーのナセル上架方法。
【請求項3】
前記ナセルは、予め複数の編成モジュールに分割し、これらの編成モジュールを順次吊り上げ、前記ナセル上架構造物で組み立てることを特徴とする請求項1に記載の風力発電用タワーのナセル上架方法。
【請求項4】
前記ブレードの上架は、ロータヘッドとブレードとを地上で一体に組み立て、前記ナセル上架構造物上の前記吊上装置で吊り上げる際に、補助クレーンでブレードを吊ることを特徴とする風力発電用タワーのナセル上架方法。
【請求項5】
タワーが完成した後に、前記タワーの最上部に発電機を収容したナセルおよびブレードを据え付けるために前記タワーの最上部に設置されるナセル上架装置であって、
前記タワーの最上部に設置されるナセル上架構造物と、
前記ナセル上架構造物の上を移動可能に設置され、吊り上げた前記ナセル、ブレードを搬送する吊上台車と、
前記吊上台車に設置され、前記ナセル、ブレードを地上から吊り上げる吊上装置と、
前記吊上装置からワイヤーを介して吊り下げられ、前記ナセル、ブレード、資材、機器等を吊るための吊り治具と、
前記吊上台車を前記ナセル上架構造物上で横移動させる横動駆動装置と、
を具備したことを特徴とする風力発電用タワーのナセル上架装置。
【請求項6】
前記上架構造物は、前記吊上台車が走行する横架フレームを有し、この横架フレームの下には、前記吊上治具で吊ったナセル、ブレードを取り込める空間が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の風力発電用タワーのナセル上架装置。
【請求項7】
前記吊上装置は、油圧式の吊上ジャッキおよび前記吊上ジャッキを制御する油圧システムからなることを特徴とする請求項5に記載の風力発電用タワーのナセル上架装置。
【請求項8】
前記横動駆動装置は、前記油圧システムを吊上ジャッキと共用する油圧式の横移動ジャッキからなることを特徴とする請求項5に記載の風力発電用タワーのナセル上架装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−232071(P2008−232071A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75339(P2007−75339)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000237134)株式会社富士ピー・エス (20)
【出願人】(597094503)巴機械工業株式会社 (4)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【Fターム(参考)】