説明

風力発電装置

【課題】ジャイロミル型の利点である風に対する無指向性を生かすと共に、風車回転を制御することで風車効率を最大限利用して発電能力を高めることが可能な自己起動機構を備えたジャイロミル型風力発電装置を提供する。
【解決手段】ジャイロミル型風車を用いた風力発電装置において、風速センサーと、設定の風速を検知した時に始動信号をドライバに送る制御器と、ドライバからの始動信号により駆動ギヤを介して風車シャフトを回転始動させる減速機付電動機と、風車回転数が設定値まで上昇した時に駆動ギヤを停止させ、風車シャフトを空転クラッチを介して空転させる制御手段とからなる自己起動機構を備え、風車ブレードの周速比が2〜3になるように負荷を制御して発電を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車を低風速域から起動させる自己起動機構を備えたジャイロミル型風力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の風力発電装置は、化石燃料の枯渇、CO排出抑制、地球環境保全を背景にして、一基当たり1500〜2000kW級の大型発電装置が主流になりつつある。しかし、大型発電装置は、立地場所の制約や送電設備などの問題があり、風力発電を更に普及させるためには、都市部のビルの屋上や市街地、住宅地に設置可能な高効率で静かな(500〜3000W級の)小型発電装置が必要不可欠である。
【0003】
一方、風力発電装置用の風車の形式としては、プロペラ型に代表される水平軸風車と、ジャイロミル型に代表される垂直軸風車とに大別される。一般的に、プロペラ型風車は、風力エネルギー変換効率が良く、風向きがあまり変化しない西欧諸国で発達して、大型風車では2〜3枚の翼が採用されている。プロペラ型風車は、風力エネルギー変換効率が良いという利点があるが、風向きに対して回転面を正対させなければならないので方向制御が必要になり、風向き変化が行ったときに追従性能が劣るという欠点がある。また、電力、信号系の取り出しのためにスリップリング等が必要になり、消耗部品が多くなるという問題もある。
【0004】
国内の都市部や市街地に吹く風は、山間部、海岸線に吹く風に比べて弱く、風速、風向きが頻繁に変化するため、どこからでも風力エネルギーを取り入れられる垂直軸風車(ジャイロミル型風車)が適している。
【0005】
しかし、ジャイロミル型風車は、起動性が悪く、発電効率も低速では悪いという欠点がある。
【0006】
従来、小型風力発電装置においては、水平軸風車、垂直軸風車を問わず、起動性を改善し、風力発電の稼動率が向上させるため、種々の提案がなされている。
【0007】
例えば、プロペラ型風車では、発電機のコギングトルクを打消す方法とか、風車軸に起動用電動機を接続して積極的に回転力を与えて起動させ、起動後の所定回転に至った場合に起動用電動機を風車から切離す技術等が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0008】
しかし、特許文献1、2の技術では、比較的大電流の供給が必要である。例えば、無風状態が長時間続くような情況下においては、電動機駆動電流の供給が長時間必要となり、多大な電力エネルギが消費されることになる。したがって、上述した従来技術においては、小容量風力発電装置の実際利用に対して適合困難となる問題が生じる。
【0009】
特許文献1、2の技術を改良するものとして、特許文献3では、風車の回転状態により起動アシスト用電流供給系統をオンオフすることにより消費電力を節減するシステムが提案されている。
【特許文献1】実開平6−9400号公報
【特許文献2】特開平8−322298号公報
【特許文献3】特開2004−285991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来技術は、風車の起動時の消費電力を節減することを主眼とするものであり、総合的に風車の稼動効率を上げるという点では、実用上、到底十分なものとは言えなかった。
【0011】
本発明は、ジャイロミル型の利点である風に対する無指向性を生かすと共に、風車回転を制御することで風車効率を最大限利用して発電能力を高めることが可能な自己起動機構を備えたジャイロミル型風力発電装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ジャイロミル型風車を用いた風力発電装置において、風速センサーと、設定の風速を検知した時に始動信号をドライバに送る制御器と、ドライバからの始動信号により駆動ギヤを介して風車シャフトを回転始動させる減速機付電動機と、風車回転数が設定値まで上昇した時に駆動ギヤを停止させ、風車シャフトを空転クラッチを介して空転させる制御手段とからなる自己起動機構を備え、風車ブレードの周速比が2〜3になるように負荷を制御して発電を行うジャイロミル型風力発電装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。一般的なジャイロミル型風車は、起動風速2〜5m/sで風車が回り始めるが、起動風速以下に風が弱くなったり変動すると、発電に至らず、風車回転もストップしてしまうことがある。前述の通り、風車の起動性を良くするため、発電機のコギングトルクを打消す方法が提案されているが、単に起動させただけでは発電はできず、風車の稼動率が上がらないことは明白である。
【0014】
本発明者らは、ジャイロミル型風車の風速回転特性について綿密な実験を行った。図1は、実機スケールでの風洞実験による風速と風車回転数の関係を示すグラフである。
【0015】
無風から風速を上げていくと、起動風速は4m/s程度であり、風速が8m/sを超えると急速に回転数が上がることが分かる。一方、図1を一見して分かるように、風車の加速方向と減速方向に大きなヒステリシスが存在し、無風からの起動風速は4m/s程度であるのに対して、同風速での減速方向の回転数は80rpm程度ある。更に風速3.5m/sでも60rpmの回転を維持し、最高回転の360rpmまでほぼ完璧なリニヤ特性を示している。
【0016】
このことは、一旦風車がある回転まで達してしまうと直線的に風速に反応し、逆に中位の風(5〜8m/s)が吹いても、停止状態の風車では回りにくく、回転がなかなか上昇しないことを意味する。
【0017】
本発明は、かかる知見に基づきなされたものであり、ジャイロミル型風車の回転を制御することで風車効率を最大限利用して発電能力を高めるものである。
【0018】
このことを、図1のグラフを模式化した図2のグラフにより更に詳しく説明する。図2において、Aは起動風速を示す点、Bは効率維持最小回転数を示す点である。自己起動がない場合、風車はA点から起動しても、かなりの風速の増加がなければ、A’を経てB−C曲線(効率維持曲線)へ移行できず、低効率のまま風車が回っている程度になってしまう。この原因はブレードの形状、枚数、慣性力、その他機械的摺動抵抗によるものと考えられるが、多かれ少なかれ、このヒステリシスは、ジャイロミル型風車形式の特性となっている。
【0019】
B−C曲線は最大風車効率を維持する回転状態で、CからB(下降)、BからC(上昇)共に可逆的であり、下降に際してA’からAへ移行することはない。
【0020】
本発明のジャイロミル型風力発電装置の特徴は、A−A’曲線(起動性、低速風車効率劣悪状態)を省略して、風車が発電できる最小の風速を検知した時にB点(効率維持最小回転数)まで回転数を上昇させることが可能な機構(自己起動機構)を有することにある。
【0021】
このB点は、風車ブレードの周速比2〜3で決定される。例えば、風車径2m、カットイン風速(発電可能な最小風速)3m/s、周速比2の時、B点は57rpmとなり、起動時から57rpmまでの駆動力が電力として消費されるが、加速時間が10数秒の短時間であることと、風車設定回転数が低いため、小型の減速機付電動機が使用でき消費電力が少ない。
【0022】
本発明のジャイロミル型風力発電装置は、風速センサーと、設定の風速を検知した時に始動信号をドライバに送る制御器と、ドライバからの始動信号により駆動ギヤを介して風車シャフトを回転始動させる減速機付電動機と、風車回転数が設定値まで上昇した時に駆動ギヤを停止させ、風車シャフトを空転クラッチを介して空転させる制御手段とからなる自己起動機構を備えることを必須の構成要素とするものであり、その装置の一例全体図を図3に、ギヤボックスの詳細を図4に、システム構成図を図5に示す。
【0023】
図3において、1は主ブレード、2は支持アーム、3はローターシャフト、4はギヤボックス、5は風速センサー、6は所望により取り付けられる太陽光発電パネル、7は制御システムが内蔵された制御箱、8は支柱であり、基本的構成は従来のジャイロミル型風車と同等でよい。
【0024】
図4において、9は駆動ギヤ、10は空転クラッチ、11はシャフトである。
【0025】
無風時においては、当然風車回転は0である。風速2〜3m/sの微風を風速センサーが検知した時、制御器は始動信号をドライバに送り、減速機付電動機により駆動ギヤを介して風車シャフトを回転始動させる。
【0026】
ドライバは、風車が停止した状態から、ある設定した回転数になるまで十数秒間、減速機付電動機を作動させ、風車回転数が設定値まで上昇した時、制御手段からのストップ信号で減速機付電動機を停止させる。減速機付電動機は、ドライバからスタート時、0Hz〜設定回転数、数十Hzまでを周波数変換して作動させるため、風車慣性力による衝撃がなく、突入電流による電力消費がない。例えば、1000Wクラスの風車で、作動時間20秒、電動減速機電流0.5A程度で消費電力は少なく、風速5.5m/s、同20秒程度の風車発電で回収可能である。
【0027】
減速機付電動機を停止させると駆動ギヤは停止するが、風車シャフトは空転クラッチを介して空転する構造を採用している。この時の空転抵抗はベアリング抵抗と同等で極めて小さいため、風車エネルギーは100%近く有効に発電機を駆動する。
【0028】
風車設定回転数は、最適な風車効率維持の最低回転数まで上昇させ、その後、駆動力を切り離す。風車は、この初期に与えられた回転エネルギーによって、機械系の摩擦ロス分のみを風から流体エネルギーとして取り出せば、2m/s程度の風が変動風として来ても回転は維持できる。更に風速が上がれば風車回転数は直線的に上昇し、その風速の最高回転数まで上がる。この状態で発電負荷を入れれば、風車回転は下がり始め、負荷が大きすぎれば最大風車効率点を過ぎて下降するが、適時に負荷をON−OFF制御することによって、風車の最大効率回転数を維持することができる。さらに、風車の無負荷最高回転数から発電維持回転数まで、風車の回転エネルギー(慣性力)を有効に発電に利用することができるので、風車効率が向上する。
【0029】
適正風車設定回転数は、風車ブレードの周速比から決定することができる。周速比λ、風速v、風車回転直径D、風車回転数Nとしたとき、λ=πDN/vで表せる。本発明における風車回転制御は、微風速から高風速まで風速と風車回転数を常時感知して、最大風車効率となる周速比λ=2〜3となるように負荷を制御して最大発電量を確保するものである。強風時、最高回転数が周速比λ=3〜4を超える時、安全のため機械ブレーキで停止させる。
【0030】
本発明に用いる風速センサーは、受発信タイプの超音波センサーを採用するのが好ましい。これは小型、軽量で温度に影響されず、回転部分がないため、長寿命で安定した風速、風向きの風車計測に適している。
【0031】
一般のジャイロミル型風車は起動性を良くするため、風車ブレードを軽量化する必要があり、FRP、カーボンファイバー等の素材が選ばれるが、製作に手間がかかり、接着強度や価格的に問題があった。本発明の自己起動式風車ブレードは強制起動のため、極端な軽量化は不要で、高強度のアルミニウム、鉄系、チタン等の金属弾性材料が使用でき、ブレードの重量は慣性力を利用する本発明の風車制御にとって有利に働き、風車大型化の対応が容易になる。また、製作方法も押出成形、プレス成形等の一般成形加工が可能になり、製作コストを安価に、短納期で大量に供給することができる。
【0032】
実施例として独立電源用バッテリー負荷を風車に連結した場合を図5に示す。切替器は通常バッテリー電源使用時と商用外部電源停電時における非常電源用として切り替える目的で設置する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、実機スケールでの風洞実験による風速と風車回転数の関係を示すグラフである。
【図2】図2は、図1のグラフを模式化したグラフである。
【図3】図3は、本発明のジャイロミル型風力発電装置の一例全体図である。
【図4】図4は、ギヤボックスの詳細を示す図である。
【図5】図5は、本発明の装置に用いられるシステム構成の一例を図である。
【符号の説明】
【0034】
1 主ブレード
2 支持アーム
3 ローターシャフト
4 ギヤボックス
5 風速センサー
6 太陽光発電パネル
7 制御箱
8 支柱
9 駆動ギヤ
10 空転クラッチ
11 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャイロミル型風車を用いた風力発電装置において、風速センサーと、設定の風速を検知した時に始動信号をドライバに送る制御器と、ドライバからの始動信号により駆動ギヤを介して風車シャフトを回転始動させる減速機付電動機と、風車回転数が設定値まで上昇した時に駆動ギヤを停止させ、風車シャフトを空転クラッチを介して空転させる制御手段とからなる自己起動機構を備え、風車ブレードの周速比が2〜3になるように負荷を制御して発電を行うジャイロミル型風力発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−106700(P2008−106700A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291312(P2006−291312)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(591122129)株式会社フェロー (1)
【出願人】(506360789)
【出願人】(506360815)
【Fターム(参考)】