説明

風味・物性に優れたクリーム類とその製造方法。

【課題】脱酸素処理によってクリームに加熱臭の少ないすっきりとした風味が付与されるだけでなく、従来の脱酸素処理クリームが具備し得なかったミルク感やクリームとしてのコクが強く、かつ従来の脱酸素処理クリームに比べて乳化安定性が向上したクリームの製造法とそのクリームを用いて製造した原料素材に由来する不快臭が軽減された良好な風味を持つ油脂食品、油脂含有食品を提供することを課題とする。
【解決手段】クリームの原料となる生乳をRO膜等で1.2倍以上に濃縮しておき、かつクリームに加熱殺菌を行う前までに窒素置換方法、膜分離方法の少なくとも一つの脱酸素処理を行うことによって成され、窒素置換方法の場合は該処理をクリーム分離工程前に行うことで、すっきりとした風味を持ち、かつミルク感が強く、さらに乳化安定性も良好な新規で有用なクリームを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱殺菌に伴う加熱臭や雑味がないという脱酸素処理クリームの特徴を有し、且つクリームとしてのコクや風味も強く、さらに乳化安定性も良好なクリームの製造方法に関し、またこのクリームを原料として製造する風味の良い油脂食品または油脂含有食品の製造方法およびこれらの製造方法によって得られる風味・物性に優れたクリーム、風味の良い油脂食品または油脂含有食品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
液状食品中の溶存酸素を低下させた後に加熱殺菌すると加熱殺菌時に発生する酸化臭が抑制され、さらに保存時の風味の劣化も少ない等食品にとって多くのメリットを生じることが知られている。液状食品中の溶存酸素濃度を低下させる方法として窒素ガスや炭酸ガスと置換する方法、真空脱気で行う方法、酵素や薬品で処理する方法、膜分離による方法等が行われている。クリームについても加熱殺菌前に脱酸素処理することによって加熱臭のないすっきりとした風味のクリームを得る検討が既に行われている。
【0003】
例えばクリームに窒素等の不活性ガスを通気して溶存酸素濃度を低下させた後に脱泡処理を行い、次いで加熱殺菌処理することで加熱臭や雑味のないクリームを得る方法が報告されている。(特許文献1)
【0004】
この方法によって得られたクリームは加熱臭や雑味が少なく、軽くあっさりとした風味となる特徴を有しているため、そのような特徴を訴求する商品に用いる場合には良い評価を与えることができる。
【0005】
また食品を脱酸素処理する方法としては、中空糸膜による脱酸素と不活性ガス処理を連続的に組み合わせた方法が報告されている。(特許文献2)
この方法は膜分離による脱酸素処理と不活性ガス充填を連続的に組み合わせることを特徴としており、不活性ガス充填の役割は積極的な脱酸素を目的としたものではない。
後で述べる本発明法の場合、一旦上昇した溶存酸素濃度を再度低減させる為、結果的に窒素置換による脱酸素と膜による脱酸素の両方を行う場合はあるが、2つの脱酸素法を時間を置かずに連続的に行う場合はない。
【0006】
【特許文献1】特開2004−201601号公報
【特許文献2】特開平7−170952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先の特許文献1の製法ではすっきりとした風味のクリームを得ることはできるがクリームの持つコク、ミルク感などを重視する商品設計を行う場合には先の製法で製造されたクリームはコクやミルク風味等の点において官能評価のスコアが通常の製法で得られたクリームと比べた場合に低下する傾向があるという問題点を有していた。これは脱酸素処理に伴って、クリームの持つ香味が一部取り除かれてしまうことが原因と考えられた。
【0008】
また、特許文献1に記載された窒素等の不活性ガスを通気して溶存酸素濃度を低下させる方法は脱酸素処理に伴ってクリームの乳化安定性を悪化させる傾向があり、特許文献1には乳化安定性の悪化を抑制する為にクリームに不活性ガスを通気する際にクリームを一定温度以上に調整しておくという工夫がなされていた。しかしながらさらに良い製品とする為には乳化安定性をより高める必要性があった。
【0009】
そこで本発明者らは第一の課題として加熱臭や雑味が無くすっきりとした風味を持つだけでなく、さらにコクやミルク感などのクリームとして通常好まれる風味を強く有しているクリームを得ることを目的とした。
また第二の課題として、脱酸素処理に伴うクリームの乳化安定性の低下を特許文献1に開示された方法に比べてさらに効果的に抑え、製品としての特性をより向上させる方法を見出すことを目的とした。
そして第三の課題として、本発明で得られたクリームの各種食品への適用を図り、本発明クリームを各種食品に適用した場合の食品の特性を確認することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして種々検討の結果、第一の課題の解決手段としてクリームの原料として用いる生乳を膜処理により予め濃縮した後に脱酸素処理、クリーム分離、加熱殺菌処理を行なうと、加熱臭や雑味がないという脱酸素処理品の特徴を有する一方で、ミルク風味、コクも強く残っているクリームとなり、雑味がなく且つミルク感やコクが強いという従来無い良好な風味を有するクリームとなっていることを確認した。
【0011】
また、第二の乳化安定性を確保するという課題を解決する手段として、脱酸素処理として膜脱酸素法を用いることで脱酸素処理工程がクリーム分離前に行われても分離後に行われても乳化安定性が保たれることを見出した。さらに脱酸素処理が窒素置換方法の場合であっても脱酸素工程をクリーム分離後には行わず、クリーム分離前に行っておくことで乳化安定性が特許文献1の方法に比べて良好に保たれることを見出した。
【0012】
そして第三の課題の本発明のクリームを原料として製造した油脂食品、油脂含有食品の性状は例えば油脂食品としてクリーム入りファットスプレッドを検討した結果、得られた製品は加熱臭が抑えられ、ミルク風味も有する良好な風味のスプレッドとなる等風味の良い油脂食品となることを見出した。さらに、本発明のクリームを原料として製造したプリン等の油脂含有食品は、例えばプリンの場合、卵黄の加熱臭が抑えられ、ミルク風味も強い良好な風味を有する油脂含有食品となることを見出した。
【発明の効果】
【0013】
以上、述べたように本発明で得られたクリームは、加熱臭や雑味が無いすっきりとした風味を持つという脱酸素処理を行ったメリットを有するクリームであるだけでなく、従来の脱酸素処理を行ったクリームが具備しえなかったクリームとしての良好なコクとミルク感の強さを有する新規なクリームとなる。また本発明のクリームは特許文献1の脱酸素処理クリームに比べて乳化安定性も良好となり、運搬保存等に、より強い製品特性を持つクリームとなっている(実施例1、2)。さらに本発明のクリームを原料として用いた油脂食品、油脂含有食品は従来のクリームを原料として用いた食品に比べてクリーム以外の食品材料に起因すると考えられる加熱臭等の不快臭が抑えられ、且つミルク風味も付加された良好な風味をもつ食品となる(実施例3、4)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態についてより詳しく説明する。クリームは、生乳、牛乳または特別牛乳等をディスク型の遠心分離機に通してクリームと脱脂乳に分離して得ることが通常行われている。クリームの乳脂肪率は一般的にコーヒー用又は料理用には20〜30%、ケーキなどに使用するホイップ用には40〜50%に調整されるほか、用途に応じてその他の乳脂肪率のものも広く使用できる。
【0015】
クリームの加熱殺菌は、常用の殺菌法をすべて実施することができる。例えば、保持殺菌法では63℃30分間、プレート式熱交換殺菌法では、72〜75℃15秒間、82〜85℃10秒間の高温短時間殺菌法(HTST法)あるいは130〜140℃2秒間の超高温殺菌法(UHT法)を実施することができ、通常は、殺菌後直ちに10℃以下に冷却される。
【0016】
本発明のクリームの原料となる生乳等を膜濃縮処理する際に用いられる膜としては、RO(逆浸透)膜、NF(ナノ濾過)膜が用いられる。UF(限外濾過)膜の場合、乳糖など膜透過成分が多いため通常は選択肢ではないが、他の膜に比べて濃縮時間を短縮できる等のメリットもあるため、孔径の最も小さなUF膜を用いること等で本発明に用いることも可能である。膜の種類の選択は膜の透過性に起因して最終的に得られるクリームの風味に影響を与える。例えばROでは水のみが除去されるために塩分が濃縮され塩味も通常より強いクリームとなる。NFの場合は香気成分や呈味成分は濃縮されるが、水、カリウム、ナトリウム等は除去されるので塩味が強くなるのを抑えることができる。
【0017】
いずれの膜を用いた場合でも試験例1の表3に示す様に無処理品との風味の差を明確にするためには濃縮率を1.2倍以上とすることが必要で、好ましくは1.3倍以上に濃縮する必要がある。濃縮率の上限は用いる膜の性能やその後の工程における処理効率、クリームの用途等で決定される事項であり、何倍以上で問題が生じるといった性格のものではない。現時点での濃縮用膜の性能を一応の目安とすると濃縮率の上限は2倍程度までとなる。このようにして得られた膜濃縮乳はいずれの膜を用いた場合でもミルク風味を特徴付ける乳たんぱく質やジアセチル等の香気成分が濃縮されたものとなる。特に本発明のように脱酸素法と組み合わせた場合、膜濃縮乳は従来のクリームに比べてミルク風味が強く、それにもかかわらず、すっきりと雑味がないという従来無い良好な風味を持つクリームを得るための原料とすることができる。
【0018】
本発明の脱酸素処理法として膜脱酸素を行う場合に用いられる膜としては、酸素の選択透過性のある中空糸膜等が用いられる。具体的にはMHF(登録商標)中空糸膜(三菱レーヨン社製)等を用いることができる。例えば中空糸膜を介してクリームを減圧下に置くことで脱酸素処理される。膜を用いて脱酸素処理を行った場合のメリットはクリーム分離を行った後で脱酸素処理を行っても乳化安定性の低下がほとんどなく香気の逸散の程度も窒素置換による脱酸素処理に比べた場合に抑制することができることである。脱酸素膜は洗浄して再使用することもできるが処理容量が大きいので使い捨て使用を行うこともコスト的に十分可能である。
【0019】
脱酸素処理を窒素置換法で行う場合、その処理を特許文献1に記されているようにクリーム分離後に行った場合は乳化安定性が明確に低下してしまう。その為、特許文献1では窒素置換処理時のクリームの品温を一定温度以上に設定することで乳化安定性の低下を抑制するようにしている。本発明では脱酸素処理を窒素置換法で行う場合には特にクリーム分離を行う前の生乳もしくは膜濃縮乳に対して窒素置換法による脱酸素処理を行い、クリーム分離後は窒素置換法による脱酸素処理をしないことで、特許文献1に記載された方法より乳化安定性の低下が少なく保存流通適性が高いなど特許文献1からさらに商品性が向上したクリームを得ることができる。この事は本発明に於いて新たに見出した事である。従って、本発明で脱酸素処理として窒素置換法を行う場合にはその工程はクリーム分離前に行うことが本発明の乳化安定性が向上したクリームを得る上で重要なポイントとなる。またこの窒素置換法を用いた場合、特許文献1の方法に対して設備等を新たに用意する必要はないので、極めて容易に特許文献1のクリームに比べて乳化安定性の良好なクリームを得ることができる。
【0020】
本発明の場合、生乳の膜濃縮工程と窒素置換あるいは膜による脱酸素工程、クリーム分離工程、クリーム分離後の膜脱酸素工程及び加熱殺菌工程とを以下のように組み合わせることで目的とする風味・物性に優れたクリームを得ることができる。
1)生乳→膜濃縮→脱酸素処理(窒素置換)→クリーム分離→殺菌
2)生乳→膜濃縮→脱酸素処理(膜脱酸素)→クリーム分離→殺菌
3)生乳→膜濃縮→クリーム分離→脱酸素処理(膜脱酸素)→殺菌
4)生乳→脱酸素処理(窒素置換又は膜脱酸素)→膜濃縮→クリーム分離→殺菌
【0021】
いずれの工程を用いた場合でも、殺菌工程前のクリームの溶存酸素濃度が品温40℃付近で4ppm以下、好ましくは3ppm以下となっていることが必要である(試験例2表6)。溶存酸素濃度はクリームの品温によっても変動するファクターであるが例えば参考例図1に示す品温と溶存酸素濃度の関係を元に各品温における本発明に必要な溶存酸素濃度の上限を設定すれば良い。
【0022】
以上の条件を実施する上で先の4種の工程の組合せを見てみると3)は特許文献1同様に殺菌工程直前に脱酸素処理が行われているので殺菌工程までに溶存酸素濃度の上昇はなく問題なく実施することができる。その点が従来法として実施された理由である。一方1)、2)については脱酸素処理後にクリーム分離を行っているのでこの場合はクリーム分離工程における溶存酸素の上昇が懸念される。その為特許文献1では採用されていなかった。しかしながら今回、そのような場合でも密閉性の良い分離機を用い、窒素ガス雰囲気とする等の処置を行えば脱酸素処理から殺菌処理に至る間に溶存酸素濃度の上昇はほとんどないことを確認し、1)2)を行うことによって乳化安定性を従来の方法に比べて明確に向上させることが可能となった。特に窒素置換法を脱酸素法として用いた場合の乳化安定性の向上は大きく、3)をベースとする特許文献1の方法に比べて乳化安定性は明確に改善された(実施例1表1)。 残る4)は、1)2)と比べても膜濃縮工程時における溶存酸素の上昇をさらに抑える必要がある。しかしながら、この場合においても先の1)2)同様に装置の密閉性等に留意し殺菌処理前までのクリームの溶存酸素濃度を先の基準に保つことができれば本発明を実施することができる。
【0023】
尚、上記1)〜4)の工程には脱酸素処理工程が1工程のみ記載されている。乳化安定性の維持の為には脱酸素処理を行うのは1度が好ましい。しかしながら各工程を連続的に実施できずに殺菌処理までに溶存酸素濃度の上昇を来す特段の事情がある場合には、緩和な条件である膜脱酸素法を用いることにより乳化安定性にほとんど影響を与えることなく脱酸素工程を適宜追加し、一旦上昇した溶存酸素濃度を再度低下させて本発明を実施することも可能である。例えば、クリーム分離までを行って製品の運搬性を高めておき、輸送後に殺菌工程を行うような場合、その間にクリームの溶存酸素濃度が上昇してしまったとしても、加熱殺菌処理前に該クリームに対して膜脱酸素処理を行うことで本発明のクリームを得ることができる。
【0024】
先の1)2)の組み合わせで行われる操作を以下に具体的に説明する。
タンク、ポンプ、濃縮用膜を内蔵した膜モジュールと冷却プレートを直列に配置した循環流路を構成する。この流路に生乳を循環させ濃縮乳を得る。
1)法 次にこの濃縮乳に公知の気液分散装置で窒素ガスを吹き込み、脱泡タンクに導き脱泡を行う。脱泡され脱酸素された濃縮乳をプレート式加熱器で30℃〜50℃程度に加温し、クリームセパレータにて分離を行い、クリームを得る。得られたクリームはプレート式殺菌機でたとえば140℃、2秒殺菌する。殺菌済みクリームは1晩エージングする。
2)法 脱酸素膜を装着したハウジング内部を低圧に保ち、膜濃縮乳を通液する。脱酸素された乳をクリームセパレータにて分離を行い、クリームを得る。得られたクリームはプレート式殺菌機でたとえば140℃、2秒殺菌する。殺菌済みクリームは1晩エージングする。
【0025】
以上のようにして得られた本発明のクリームは種々の油脂食品、油脂含有食品に用いることができる。例えばファットスプレッド、製菓製パン用練込油脂などの油脂食品、コンパウンドクリーム、カスタードクリーム、プリンなどの油脂含有食品を挙げることができる。特にクリーム以外の原料として卵や魚等の加熱臭や不快臭を生成しやすい原材料や魚油、卵黄油等の加熱により風味の劣化しやすい風味油などを含む食品の場合、卵や魚、風味油由来の加熱臭や生臭さ等が明確に抑制され、すっきりとした風味の食品を製造することができる。このようにクリーム自体の風味が食品の風味を整えるという消極的な影響を与えるだけでなく、本発明品のクリームを用いた場合、クリーム以外の原材料に起因する加熱臭や生臭さ等の不快臭も抑制され、くせのないすっきりとした風味を持ちながらクリーム風味にも富んだ、従来無い新規な風味の食品を得ることが可能となる。このことは本願の膜濃縮乳を原料とし、加熱殺菌前に脱酸素処理を行っているクリームを原料とすることで初めて成されたことである。
【0026】
以下に本発明を実施例、試験例、参考例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
生乳の膜濃縮(NF膜)、脱酸素処理(窒素置換)、クリーム分離、殺菌処理。
生乳(fat3.7%、SNF8.9%)400kgをNF膜(Dow-filmtech社:NFT3838)処理装置に循環させ、267kgの濃縮乳(fat5.6%、SNF13.4%)を得た。
この濃縮乳をモノポンプにて散気管に100L/Hで送液し、8L/minで窒素ガスを吹き込んだ。この処理液をプレート式加熱器で47℃に加温し、クリームセパレータ(ウエストファリア社:SA-1型)にて100kg/hで7,000rpmでクリーム分離を行った。得られたクリームの溶存酸素濃度は1.7ppmであった。プレート式殺菌機(岩井機械工業社:VHX-CR2-200)で140℃、2秒殺菌した。殺菌済みクリーム(fat47.5%、SNF7.0%)を3℃で1晩エージングした。また膜濃縮乳を用い、特許文献1の方法にてクリーム分離後に窒素置換処理を行ったものも調製した(4)品。
【0028】
クリームの乳化安定性はクリーム100gを200mlビーカーに入れ、25℃で120回/分の振とうを与えたとき、対照の膜濃縮も脱酸素も行っていないクリームが凝固するまでの時間を100としたときの割合で示した。結果を表1に示す。表中、本願処理品(3)の乳化安定性は対照(1)の8割強で実用上全く問題のないレベルであった。一方、特許文献1法(4)のクリームの乳化安定性は(1)の7割弱であった。以上のクリーム400gに砂糖を28g加えてホイップし、対照品と風味を比較したところ本願発明品(3)はミルクとしての強いコクがありながら加熱臭がほとんどなくさっぱりとした後味の良好な風味を呈した。
【0029】
【表1】

【0030】
(実施例2)
生乳の膜濃縮(RO膜)、脱酸素処理(膜脱酸素)、クリーム分離、殺菌処理。
原乳をRO膜(Dow-filmtech社:RO8038)処理装置に循環させ濃縮乳(fat5.9%、SNF13.2%)を得た。この濃縮乳をプレート式加熱器で47℃に加温し、クリームセパレータ(Westfalia社:SA-01)にて100kg/hで7,000rpmでクリーム分離を行い脂肪率45%のクリーム25kgを得た。このクリームをタンクに貯液し、ジャケットに温水を流して40℃に加温した。脱気エレメント(三菱レイヨン社MHF304KM)を装着したハウジング内部を40torrに保ち、モノポンプにて100L/Hでエレメント内に加温クリームを送液した。回収したクリームの溶存酸素濃度は1.3ppmであった。この脱酸素処理クリームをプレート式殺菌機(岩井機械工業社:VHX-CR2-200)で140℃2秒殺菌した。殺菌済みクリームを3℃で1晩エージングした。このクリーム400gに砂糖を28g加えてホイップし、膜濃縮・脱酸素処理しない対照品(1)と風味を比較したところ表2に示すように乳風味が強くかつ加熱臭が少ない良好な風味を呈していた。また脱酸素処理品の乳化安定性は未処理対照品の8割強で問題のないレベルであった。
【0031】
【表2】

【0032】
(試験例1)生乳の膜濃縮度と得られたクリームの風味との関係検討
実施例1と同様の方法により、原乳(fat4.2%、SNF8.8%)をNF膜(Dow-filmtech社:NFT3838)処理装置に循環させ、経時的に濃縮度の異なる乳を得た。この濃縮乳を各々モノポンプにて散気管に100L/Hで送液し、8L/minで窒素ガスを吹き込んだ。この処理液をプレート式加熱器で47℃に加温し、クリームセパレータ(Westfalia社:SA-01)にて100kg/hで7,000rpmでクリーム分離を行い、プレート式殺菌機(岩井機械工業社:VHX-CR2-200)で140℃2秒殺菌した。殺菌済みクリームを3℃で1晩エージングした。
これらクリーム400gに砂糖を28g加えてホイップし、対照品と風味を比較した。得られた結果を表3に示す。その結果、1.1倍品は対照と差異を感じないかむしろあっさりした風味を感じるのに対し、濃縮度が1.2倍を超えるとミルクのこくが感じられるようになり、1.3倍以上でミルク風味を強く感じられるようになった。しかしながら加熱臭や雑味は少ない状態のままでありクリームとしてのこくが強く且つさっぱりした後味の良好な風味を有するクリームとなっていた。
【0033】
【表3】

【0034】
(実施例3)ファットスプレッド(油脂食品)調製
実施例1で得たクリームを副原料として使用し、多価不飽和脂肪酸であるDHA、EPAを5.8%含有するサンオメガDHA23(登録商標:日本油脂、以下DHAオイル)を配合した調合液を下記配合で調製した。調合液を加熱し95℃到達後、40℃まで冷却し、ドラムクーラーより掻き取り冷却してファットスプレッドを得た。対照クリームからも同様にしてスプレッドを得た。両スプレッドを比較した結果、本願クリームを用いて得られたファットスプレッドは対照品が示した多価不飽和脂肪酸等の変化により生じる不快な加熱臭が少なくミルク風味がより強く感じられる良好な風味を呈した。
配合 ナタネ油35%、DHAオイル20%、食用精製加工油脂(m.p.40℃)15%、クリーム28%、食塩1%、乳化剤1%
計100%
【0035】
(実施例4)蒸し焼きプリン調製 (卵黄臭軽減)
実施例2で得たクリーム及び対照クリームを副原料として使用し、下記配合割合の原材料を混合して加熱溶解後、耐熱性のあるデザートカップに80g充填し、電気オーブン(上火150℃、下火160℃)中の湯煎で、60分間加熱後放冷し、官能評価試験用サンプルとした。
配合 20%加糖卵黄25%、砂糖5%、牛乳45%、クリーム25% 合計 100%
結果 表4に対照クリーム品と本願クリーム品を20名の熟練パネラーに食させた官能評価結果を示す。(表中数字は人数)
【0036】
【表4】

本発明食品は対照品に対して、卵黄臭が軽減し、一方カスタード風味をより強く感じられる食品となっていることが確認された。
【0037】
(実施例5)豆腐ババロア調製 (大豆臭軽減)
実施例2で得たクリーム及び対照クリームを副原料として使用し、下記配合割合の原材料を混合後加熱した後ゲル開始温度(18〜20℃)まで冷却する。生クリームに砂糖の一部を加えてオーバーラン約60%にホイップし、前者と混合後デザートカップに80g充填後冷蔵庫で放冷し、官能評価試験用サンプルとした。
配合 豆腐15%、卵黄10%、砂糖15%、牛乳38.2%、
ゼラチン1.8%、クリーム20% 合計100%
結果を表5に示す。
【0038】
【表5】

本願発明品は対照品に対して、大豆臭が明確に軽減し、一方後味は良好な食品となっていることが確認された。
【0039】
(試験例2)
濃縮乳由来クリームの溶存酸素濃度とクリーム加熱臭との関係検討
生乳(fat4.2%、SNF8.8%)をNF膜(Dow-filmtech社:NFT3838)処理装置に循環させ、濃縮乳を得た。この濃縮乳をモノポンプにて散気管に100L/Hで送液し、0〜8L/minと窒素通気量を変動させて窒素ガスを吹き込んだ。その後各処理液をクリーム分離、加熱殺菌し、3℃1晩エージングした。加熱殺菌処理直前のクリームの溶存酸素濃度とエージング後のクリームの加熱臭との関係を表6に示す。
【0040】
【表6】

本願の膜濃縮乳由来クリームの場合、溶存酸素濃度が4ppm以下で明確な加熱臭軽減効果が認められた。
【0041】
(参考例)クリームの品温と溶存酸素濃度の関係
表6(1)のクリームを冷水浴上で冷却し、クリームの品温とその温度での溶存酸素濃度を測定した結果を図1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】クリームの品温と溶存酸素濃度との関係を検討した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーム分離工程前までに生乳が膜濃縮処理されており、クリーム分離工程からクリームに加熱殺菌を行う前までに膜分離方法による脱酸素処理によってクリーム中の溶存酸素濃度が低減していること、を特徴とする風味・物性に優れたクリームの製造方法。
【請求項2】
加熱殺菌前のクリームの溶存酸素濃度が4ppm以下に低減されているものである、請求項1に記載の風味・物性に優れたクリームの製造方法。
【請求項3】
膜濃縮処理がRO膜、NF膜の少なくとも一つの膜を用いるものである請求項1から請求項2に記載の風味・物性に優れたクリームの製造方法。
【請求項4】
膜濃縮処理が、生乳を1.2倍以上に濃縮するものである、請求項1から請求項3に記載の風味・物性に優れたクリームの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4に記載の方法によって製造された風味・物性に優れたクリームを原料として用いることでクリーム以外の原料に由来する不快臭が軽減すること、を特徴とする風味の良い油脂食品または油脂含有食品の製造方法。
【請求項6】
油脂食品または油脂含有食品が加熱を経るものであることを特徴とする請求項5に記載の風味の良い油脂食品または油脂含有食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項4に記載の方法によって製造してなる、風味・物性に優れたクリーム。
【請求項8】
請求項5から請求項6に記載の方法によって製造してなる、風味の良い油脂食品または油脂含有食品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−109940(P2008−109940A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12094(P2008−12094)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【分割の表示】特願2004−335455(P2004−335455)の分割
【原出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】