説明

風味用途のためのフレーバー組成物

本発明は、フレーバー組成物、又はフレーバー付けされた食品の風味、香ばしさ、及び/又はカラメルフレーバーの香調を付与、又は強化するためのフレーバー成分としての、幾つかのアシルピペリジル、又はアシルテトラヒドロピリジンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレーバーの分野に関する。とりわけ、風味、香ばしさの香調を付与、又は強化するためのフレーバー成分としての、幾つかのアシルピペリジル、又はアシルテトラヒドロピリジンの使用に関する。
【0002】
さらに本発明はまた、少なくとも1つの前記化合物を含有する組成物又は物品に関する。
【0003】
従来技術
アシルピペリジル、又はアシルテトラヒドロピリジンは、米、シリアル、若しくは麺のフレーバーを有する化合物として従来技術で一般的に公知である(例えばR.Naef etal.、J.agric.Food Chem.2005年,53,9161を参照)。しかしながら、先行技術文献の1つとして、前記化合物が風味香調を付与、又は強化可能な官能特性を有していること(前記の穀類タイプのものとは完全に異なる)を予期、報告、又は示唆するものはなかった。
【0004】
発明の詳細な説明
意外なことに我々は、式
【化1】

で示される化合物であって、式中、点線はそれぞれ単結合又は二重結合を表し、該化合物がアミンであればnは0を表し、或いは該化合物がアミンであればnは1を表し、かつR1はメチル基又はエチル基を表す化合物(この化合物は遊離塩基の形、又はそれらの可食性塩の形である)が、フレーバー組成物の、又はフレーバー付けされた食品の風味、香ばしさの香調、及び/又はカラメル香調を付与、又は強化するためのフレーバー成分として使用可能であることを発見した。
【0005】
本発明の特別な態様によれば、前記化合物は、点線が単結合を表し、かつnが1であり、そして可食性塩の形の、式(I)の化合物である。
【0006】
ここで「可食性塩」という言葉は、遊離塩基と可食性の酸を反応させることによって得られる塩を意味する。前記酸の非限定的な例としては、HCl、酸性硫酸塩(例えば硫酸、又は水素含有硫酸塩)、又は酸性リン酸塩(例えばリン酸、又は水素含有リン酸塩)、炭酸(例えばH2CO3、又は水素含有炭酸塩)、又はC2〜C20カルボン酸を挙げることができる。
【0007】
しかしながらさらなる態様によれば、前記化合物は、1−(2−ピペリジニル)−1−プロパノエート(コンヒドリノン(conhydrinone)としても知られる)の可食性の塩であり、及びとりわけその塩化物、硫酸塩、又は炭酸塩のうちの1つである。
【0008】
前述のように本発明は、とりわけ風味、香ばしさの香調、及び/又はカラメル香調を付与するためのフレーバー成分としての、式(I)の化合物の使用に関する。通常この風味、香ばしさの香調には、肉、タマネギ、ニンニク、及び/又はダイズタイプの香調、及びとりわけ揚げた、ローストした、煮込んだようなこれらの香調が含まれる。同様に、このカラメル香調には、タフィー、バタースコッチ、綿菓子タイプの香調、及びとりわけ焼いた、カラメル付けされた、糖蜜、バニラのようなこれらの香調が含まれる。
【0009】
本発明の特別な実施態様によればこのような使用は、ローストされた肉、例えば鳥肉、牛肉、羊肉、アヒル肉の風味を付与するため、並びに肉っぽい(fleshy)、ジューシーな、及び煮込んだタイプの調香を強化するためにフレーバリストにより非常に評価される。
【0010】
換言すると、本発明はフレーバー組成物又はフレーバー付けされた物品のフレーバー特性(先に言及したもの)を付与、強化、改善、又は修正するための方法に関し、この方法は前記組成物又は前記物品に式(I)の化合物を少なくとも1つ、その作用量で添加することを含む。ここでまた「式(I)の化合物の使用」とは、化合物(I)を含有するあらゆる組成物の使用と理解されるべきであり、当該組成物はフレーバー工業において活性成分として有利に使用することができる。
【0011】
フレーバー成分として実際有利に使用可能な前記組成物もまた、本発明の対象である。
【0012】
従って、本発明のさらなる対象は、
i)フレーバー成分として、先に定義した少なくとも1つの本発明の化合物;
ii)フレーバー担体、及びフレーバー基剤から成る群から選択される少なくとも1つの成分;及び
iii)場合により、少なくとも1つのフレーバー助剤
を含有するフレーバー組成物である。
【0013】
本発明の特別な態様によれば、前記フレーバー組成物は、
i)フレーバー成分として、先に定義した少なくとも1つの本発明による化合物;
ii)風味、香ばしさ、及び/又はカラメルタイプのフレーバー基剤;及び
iii)場合により、フレーバー担体、及びフレーバー助剤から成る群から選択される少なくとも1つの成分
を含む。
【0014】
ここで「フレーバー担体」とは、フレーバーという観点からは実質的に中立な、すなわちフレーバー成分の官能特性をほとんど変えない材料を意味する。前記担体は、液体状でも、固体状でもよい。
【0015】
液状担体の非限定的なとして挙げられるのは、乳化システム、すなわち溶媒、及び界面活性剤システム、又はフレーバーで慣用的に使用される溶媒である。フレーバーで慣用的に使用される溶媒の性質と種類の詳細な記載について、網羅することはできない。しかしながら溶媒の非限定的な例として挙げられるのは、プロピレングリコール、トリアセチン、クエン酸トリエチル、ベンジルアルコール、エタノール、植物油、及びテルペンである。
【0016】
固体担体の非限定的な例として挙げられるのは、吸収性のゴム若しくはポリマー、又はカプセル化材料である。このような材料の例は、壁形成性(wall−forming)材料、及び可塑性材料、例えば単糖類、二糖類、若しくは三糖類、天然デンプン若しくは変性デンプン、ハイドロコロイド、セルロース誘導体、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、タンパク質若しくはペクチン、又はH.Scherz、Hydrokolloids:Stabilisatoren,Dickungs−und Gehermittel in Lebensmittel、及びSchriftenreihe Lebensmittelchemie,Lebensmittelqualitaetの第二巻(Behr’s VerlagGmbH&Co.Hamburg、1996年)といった参考文献で挙げられている材料である。カプセル化は当業者によく知られた方法であり、例えばスプレー乾燥、アグロメレート化、又は押出成形のような技術を用いて行うことができるか、或いはコアセルベーションと複合コアセルベーション技術を含む、被覆カプセル化からなっていてよい。
【0017】
ここで「フレーバー基剤」とは、少なくとも1つのフレーバー補助成分を含有する組成物を意味する。
【0018】
前記フレーバー補助成分は、式(I)のものではない。さらに、ここで「フレーバー補助成分」とは、フレーバー調製物中で使用されるか、又は快楽効果(hedonic effect)を付与するための化合物を意味する。換言するとこのような補助成分(フレーバー成分として考えるべきである)は、組成物の風味を肯定的に、又は心地よく付与又は修正可能なものと当業者により理解なければならず、単に風味を有するだけではない。
【0019】
基剤中に存在するフレーバー補助成分の性質と種類について、ここでより詳細に記載することは保証しかねる(いかなる場合においても網羅的ではあり得ないだろう)が、当業者は一般的な知見に基づいて、かつ企図する用途と適用、及び所望の官能的効果に従って、補助成分を選択することができる。一般的な用語では、これらのフレーバー補助成分が属している化学分類は、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、エーテル、アセテート、ニトリル、テルペノイド、窒素若しくは硫黄含有複素環式化合物、及びエッセンシャルオイルなど様々であり、そしてこの付香性補助成分は、天然由来でも、合成由来でもよい。これらの補助成分の多くは、あらゆる場合で参考文献に(S.Arctander,Perfume and Flavor Chemicals,1969年、Montclair,New Jersey,USA、若しくはそのより近年の版、又は同じような性質の他の刊行物、そしてフレーバー分野の多くの特許文献にも)リスト化されている。前記補助成分はまた、様々な種類のフレーバー化合物を制御しながら放出する公知の化合物であってもよい。
【0020】
しかしながら本発明の特別な態様によれば、前記フレーバー基剤は有利には、式
【化2】

[式中、Raは水素原子又はメチル基を表し、かつRbはメチル基若しくはエチル基、アセチル基、又はカルボニル基を含むC3〜C10の基を表す]
の化合物を少なくとも1つ含む。これらの化合物は、フレーバーに肉的(meaty)な香調を付与することで知られている。
【0021】
特別な実施態様においてRbは、メチル、アセチル、2−フラン−カルノニル、1−メチル−3−オキソ−ブチル、1−メチル−3−オキソ−プロピル、1−エチル−3−オキソ−プロピル、1−プロピル−3−オキソ−プロピル、1,1−ジメチル−3−オキソ−プロピル、1−ペンチル−5−オキソ−3−ペンテニルのような基である。特別な実施態様では、Raは水素原子である。
【0022】
化合物(II)の非限定的な例は、S−(2−5−ジメチル−3−フリル)2−フランカルボチオネート、S−(2−メチル−3−フリル)エタンチオネート、3−[(2−メチル−3−フリル)チオ]ブタナール、又は2−メチル−3−(メチルチオ)フランである。
【0023】
従って式(I)の化合物を少なくとも1つ、及び式(II)の化合物を少なくとも1つ含有するフレーバー組成物もまた、本発明の対象である。
【0024】
ここで「フレーバー助剤」とは、付加的に加えられた利点、例えば色、とりわけ耐光性、化学的安定性などを付与可能な成分を意味する。フレーバー基剤で慣用的に使用される助剤の性質と種類を詳細に記載することは、網羅的には不可能だが、これらの成分が当業者にはよく知られていることは述べておかねばならない。
【0025】
少なくとも1つの式(I)の化合物、及び少なくとも1つのフレーバー担体から成る本発明の組成物は、本発明の特別な実施態様であり、これは少なくとも1つの式(I)の化合物、少なくとも1つのフレーバー担体、少なくとも1つのフレーバー基剤、及び選択的に少なくとも1つのフレーバー助剤を含むフレーバー組成物でもある。
【0026】
ここで、上記組成物中において式(I)の化合物が1より多いことが重要となる可能性があることに言及しておくことは、有用である。と言うのもフレーバリストはこのことにより、アコード、フレーバーを調香することが可能になり、本発明の様々な化合物のフレーバー香調を得、これにより業務のための新たなツールが得られるからである。
【0027】
好ましくは、化学合成から直接、例えば充分な精製(本発明の化合物が、出発生成物、中間生成物、又は目的生成物として巻き込まれる)をせずに得られるあらゆる混合物は、本発明によるフレーバー組成物とみなすことはできない。
【0028】
さらに、式(I)の化合物は有利には、前記物品の風味を肯定的に付与、又は修正するために、フレーバー付けされた物品の中に組み込まれていてよい。従って、本発明の対象となるのはまた、
(i)フレーバー成分として、先に定義した少なくとも1つの式(I)の化合物、又は本発明のフレーバー組成物;及び
(ii)食品基材;
を含有する、フレーバー付けされた物品である。
【0029】
適切な食品基材、例えば食品又は飲料に含まれるのは、風味キューブ、インスタントスープ、缶詰スープ、保存肉、即席麺、冷凍料理若しくは冷凍調理品、あらゆる形態のソース、例えば煮込んだトマトソースから得られるもの、フレーバー付けされたオイル、及び/又はフレーバー付けされたスプレッド、タフィー、糖蜜/カラメル香調のアルコール飲料、例えばラム、及びサトウキビ由来の飲料である。他の適切な食品基材は、スナック及びビスケット、又はピザ(冷凍の、又は出来合のもの)であり得る。
【0030】
説明のために述べておかねばならないが、ここで「食品基材」とは、可食性製品、例えば食品若しくは飲料を意味する。従って、本発明によりフレーバー付けされた物品は、機能調製物、所望の可食性製品、例えば風味キューブに相応する、選択的に付加的な利点をもたらす助剤、及び少なくとも1つの本発明の化合物のフレーバー作用量を含む。
【0031】
食品又は飲料の成分の性質と種類を、ここでより詳細に記載することは保証できない(いかなる場合においても、網羅的ではあり得ないだろう)が、当業者は、一般的知見に基づき、かつ前記製品の性質に従って当該成分を選択することができる。
【0032】
本発明による化合物を、上述の様々な物品又は組成物に組み込むことができる割合は、幅広い値の範囲で変わりうる。これらの値は、本発明による化合物を当業で慣用的に使用されるフレーバー補助成分、溶媒、又は添加剤と混合した時の、フレーバー付けする物品の性質、及び所望の官能的効果、並びに所与の基剤における補助成分の性質による。
【0033】
フレーバー組成物の場合、典型的な濃度は、化合物を組み込む消費者製品の質量に対して本発明の化合物が0.0001質量%〜1質量%のオーダー、又はそれより大きい値である。これらの化合物がフレーバー付けされた物品に組み込まれていれば、これらより低い濃度、物品の質量に対して例えば0.001質量%〜0.5質量%のオーダーでも、用いることができる。
【0034】
実施例
これから以下の実施例を用いて本発明をより詳しく説明するが、この際に略号は当業で通常の意味を有する。
【0035】
実施例1
本発明によるフレーバー組成物、及びフレーバー付けされた物品
以下の成分を添加混合することによって、肉に適用するための2つのフレーバー組成物、(A)と(B)を調製した。
【表1】

【0036】
1)4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス国
*:トリアセチン、**:プロピレングリコール;***クエン酸トリエチル
フレーバー付けしていない、標準的なインスタントチキンスープの部分量に、フレーバー組成物(A)を、スープの質量に対して5ppm加えた。
【0037】
フレーバー付けしていない、上記のインスタントチキンスープの別の部分量に、フレーバー組成物(B)を、スープの質量に対して5ppm加えた。
【0038】
こうして、フレーバー付けされたインスタントチキンスープが2つ、1つは化合物(I)を含むもの、そしてもう1つは前記化合物を含まないものが得られる。
【0039】
組成物(A)を含むスープは鳥肉の特徴を有するものの、非常に脂肪臭で、アルデハイド調であり、問題となる攻撃的な硫黄臭のトップノートを有する。
【0040】
対照的に、組成物(B)を含有するスープは、より丸みのある風味(アルデハイド調のスキン香調(aldehydic skin note)や肉っぽい白身肉の風味(fleshy white meat taste)といった脂肪臭の調和のとれたバランスと表現できる)を有する。全体的に香りのよい調理風味も存在し、この風味は、温かい、煮た、加工処理的特徴が無く自然に煮たと表現できる。
【0041】
この種類のフレーバーは、調理風味や自然に煮た特性が必要とされる時、例えば即席麺、缶詰スープ、又はインスタントの乾燥スープ、風味キューブ、あらゆる形態のソース調製、料理用フレーバーオイルなどには、いつでも適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

で示される化合物であって、式中、点線はそれぞれ単結合又は二重結合を表し、該化合物がアミンであればnは0を表し、或いは該化合物がアミンであればnは1を表し、かつR1はメチル基又はエチル基を表す化合物(この化合物は遊離塩基の形、又はそれらの可食性塩の形である)を、フレーバー組成物又はフレーバー付けされた食品の風味、香ばしさの香調、及び/又はカラメル香調を付与、強化、改善、又は修正するためのフレーバー成分として用いる使用。
【請求項2】
前記化合物が、HCl、酸性硫酸塩、若しくは酸性リン酸塩、炭酸、及びC2-20カルボン酸から成る群から選択される酸の可食性塩の形であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記化合物が1−(2−ピペリジニル)−1−プロパノエートの可食性塩であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
i)フレーバー成分として、請求項1で定義された少なくとも1つの式(I)の化合物;
ii)フレーバー担体、及びフレーバー基剤から成る群から選択される少なくとも1つの成分;及び
iii)場合により、少なくとも1つのフレーバー助剤
を含有する、フレーバー組成物。
【請求項5】
請求項1で定義された少なくとも1つの式(I)の化合物、及び少なくとも1つの式
【化2】

[式中、Raは水素原子又はメチル基を表し、かつRbはメチル基若しくはエチル基、アセチル基、又はカルボニル基を含むC3〜C10の基を表す]
の化合物を含有する、請求項4に記載のフレーバー組成物。
【請求項6】
i)フレーバー成分として、請求項1で定義された少なくとも1つの式(I)の化合物;
ii)風味、香ばしさ、及び/又はカラメルタイプのフレーバー基剤;及び
iii)場合により、フレーバー担体、及びフレーバー助剤から成る群から選択される少なくとも1つの成分、
を含有する、請求項4又は5に記載のフレーバー組成物。
【請求項7】
i)請求項1で定義された少なくとも1つの式(I)の化合物、又は請求項4から6までのいずれか1項で定義された組成物;及び
ii)食品基材
を含有する、フレーバー付けされた物品。
【請求項8】
前記食品基材が、風味キューブ、インスタントスープ、缶詰スープ、保存肉、即席麺、冷凍料理若しくは冷凍調理品、ソース、フレーバー付けされたオイル、及び/又はフレーバー付けされたスプレッド、タフィー、糖蜜/カラメル香調のアルコール飲料、スナック若しくはビスケット、又はピザであることを特徴とする、請求項6に記載のフレーバー付けされた物品。

【公表番号】特表2010−538636(P2010−538636A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524612(P2010−524612)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【国際出願番号】PCT/IB2008/053647
【国際公開番号】WO2009/034528
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】