説明

風圧飛散捕集装置

【課題】繊維状物質等の被捕集物質を現場で捕集し、現場における飛散状況の把握を可能にする風圧飛散捕集装置を提供する。
【解決手段】一面に開口12を有し、該開口12の縁を対象面2に密着させることにより密閉された空間を形成可能な筐体10と、筐体10内に設けられ、対象面2に空気を吹き付け可能な空気吹付け部20と、筐体10内に設けられ、筐体10内を浮遊する粉塵、揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒドなどの被捕集物質3を捕集可能な捕集部30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や工作物などに空気を吹き付けて、それに伴って飛散する粉塵、揮発性有機化合物(VOC)、及びホルムアルデヒドなどを捕集する風圧飛散捕集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、吹き付け石綿や石綿含有建材等からの繊維状粒子等の発塵等や、その曝露による健康影響が懸念されている。
【0003】
一方、従来から繊維状物質等の飛散を抑制する処理工法の一つとして、封じ込め処理が行なわれている。この封じ込め処理は、石綿飛散防止剤等によって、吹き付け石綿層などを被覆、固着、固定化させて、飛散を抑制する方法である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−52363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、現場において繊維状物質等の飛散状況を調査する適切な方法が存在せず、それゆえ、現場における繊維状物質等の飛散状況を把握することができないとの問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、繊維状物質等の被捕集物質を現場で捕集し、現場における飛散状況の把握を可能にする風圧飛散捕集装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するため、本発明者は、エアロージョン試験などを現場において実施可能にすべく、鋭意研究を重ねた結果、現場における繊維状物質等の飛散状況を把握可能な風圧飛散捕集装置を発明するに至った。すなわち、本発明に係る風圧飛散捕集装置は、一面に開口を有し、該開口の縁を対象面に密着させることにより密閉された空間を形成可能な筐体と、前記筐体内に設けられ、前記対象面に空気を吹き付け可能な空気吹付け部と、前記筐体内に設けられ、筐体内を浮遊する被捕集物質を捕集可能な捕集部とを備えることを特徴とする。
【0008】
このように、本発明に係る風圧飛散捕集装置は、内部に空気吹付け部及び捕集部が設けられた筐体が、開口の縁を対象面に密着させることにより密閉された空間を形成可能に構成されていることにより、現場においてエアエロージョン試験などの試験を実施し、例えば粉塵、揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒドなどの被捕集物質を捕集することができる。また、捕集した被捕集物質を種々の測定方法によって分析することにより、現場での飛散状況を把握することができる。
【0009】
本発明に係る風圧飛散捕集装置において、前記捕集部は、前記筐体の開口に対し、前記空気吹付け部よりも離れた位置に設けられていることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る風圧飛散捕集装置において、前記空気吹付け部は、前記対象面と対向するように軸方向に複数の孔が形成された多孔管と、前記多孔管内に空気を供給する空気供給装置とを備えることが好ましい。また、この多孔管は、空気の吹き付け方向を経時的に変更可能に構成されても良い。このように、軸方向に複数の孔が形成されるとともに、空気の吹き付け方向を経時的に変更可能に構成された多孔管を備えることにより、対象面に対して均一に空気を吹き付けることができる。
【0011】
さらに、本発明に係る風圧飛散捕集装置において、前記捕集部は、前記筐体内の空気を吸引可能な吸引装置と接続されており、該吸引装置によって吸引された空気中に含有する被捕集物質を捕集するように構成されていることが好ましい。このように、捕集部が吸引装置と接続されることにより、筐体内に浮遊する被捕集物質を効率的に捕集することができる。
【0012】
またさらに、本発明に係る風圧飛散捕集装置において、前記捕集部は、粉塵を捕集可能な粉塵捕集部材を備えるとしても良いし、ガスが吸着可能なガス吸着部材を備えるとしても良い。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、繊維状物質等の被捕集物質を現場で捕集し、現場における飛散状況の把握を可能にする風圧飛散捕集装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る風圧飛散捕集装置の構成を示す一部切り欠き正面図である。
【図2】本実施形態に係る風圧飛散捕集装置の使用状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の一実施形態に係る風圧飛散捕集装置について、図面に基づいて説明する。本実施形態に係る風圧飛散捕集装置1は、図1に示すように、筐体10と、筐体10内に設けられた空気吹付け部20と、筐体10内を浮遊する被捕集物質3を捕集可能な捕集部30とを備えている。
【0016】
筐体10は、運搬可能な大きさからなる筐体であり、密閉された空間を形成可能な箱状、すなわち、直方体状に形成されるとともに、その上面が開放されることにより、開口12が形成されている。この筐体10の開口12の周縁には、樹脂などからなるシール部材14が全周に亘って設けられており、これにより、筐体10の開口12の縁を例えば壁などの対象面2に密着させることができる。また、筐体10の底面10aの四隅には、筐体10を支持する脚部材16が設けられており、この脚部材16は、筐体10を床面上に載置する際に、筐体10の底面10aと床面との間に所定の間隔を形成可能な高さを有する角柱状に形成されている。
【0017】
空気吹付け部20は、筐体10内に設けられた多孔管22と、多孔管22をその軸を中心に回転させるための回転装置24と、ホース26を介して多孔管22内に空気を供給するエアポンプ(図示せず)とを備えている。
【0018】
多孔管22は、円筒状に形成されており、その周面の対象面に対向する位置には、孔23が軸方向に等間隔をおいて4つ形成されている。この孔23は、多孔管22の内面から外面に亘って、外面側に広がるテーパー状(すり鉢状)に形成されている。また、多孔管22は、一端22aが筐体10の外側に位置し、他端22bが筐体10の内側に位置するように、筐体10の一の側面を貫通して設けられるとともに、筐体10の開口12から所定の距離をおいた位置に設けられている。さらに、多孔管22は、一端22aがホース26と接続されており、これにより、エアポンプから供給された空気がホース26を介して多孔管22内に流入されるように構成されている。また、この多孔管22は、一端22a側において回転装置24と接続されており、この回転装置24によってその軸を中心に回転し、経時的に吹き付け方向を変更可能に構成されている。
【0019】
回転装置24は、例えばモータなどの駆動源によって、予め設定された回転速度で多孔管22をその軸を中心に回転させるように構成されている。
【0020】
捕集部30は、捕集部材32と、捕集部材32を保持するホルダ34と、ホルダ34を取付可能な支持部材36とを備えている。
【0021】
捕集部材32は、被捕集物質3が繊維状物質などの粉塵である場合には、粉塵を捕集可能なフィルタなどから構成された粉塵捕集部材を用いることができ、また、被捕集物質3がガス状物質である場合には、ガス状物質が吸着可能な活性炭などから構成されたガス吸着部材を用いることができる。ここで、粉塵捕集部材を用いる場合には、例えば捕集効率が直径0.3μmの粒子に対して、99%以上の、平均孔径が0.8μmで直径25mmのセルロースエステル製のフィルタ(メンブレンフィルタ)を用いることが好ましい。また、ポリカーボネートフィルタを使用する場合には、孔径0.8μmのポリカーボネートに金又はカーボンを蒸着したものを用い、補強及び汚染防止のために、バックアップフィルタとしてガラス繊維フィルタ又はメンブレンフィルタを用いることが好ましい。
【0022】
ホルダ34は、上方に開口を有するオープンフェース形フィルタホルダであり、捕集部材32をその開口に曝した状態で内部に保持するように構成されている。このホルダ34の底面は、上方側から流入した空気が捕集部材32を通過した後、下方側から流出されるように流出孔34aが形成されている。捕集部材32として直径25mmのフィルタを用いる場合には、ホルダ34は、直径25mmのフィルタの大きさに応じたものを用い、フィルタの脱着が容易にでき、完全に密閉できる構造のものが好ましい。
【0023】
支持部材36は、円筒状に形成されており、筐体10の底面10aの中心位置において、上端36aが筐体10の内側に位置し、下端36bが筐体10の外側に位置するように、筐体10の底面10aを貫通して設けられている。この支持部材36の上端36aには、ホルダ34の底面が脱着可能に構成されるとともに、ホルダ34が装着された際に、ホルダ34の流出孔34aと連通するように構成されている。この支持部材36の上端36aの位置は、ホルダ34が装着された状態で、筐体10の開口12に対して空気吹付け部20よりも離れた位置となるように設定されている。支持部材36の下端36bは、筐体10内の空気を吸引可能な吸引装置(図示せず)と接続されている。
【0024】
次に、本実施形態に係る風圧飛散捕集装置1を用いた被捕集物質3の捕集方法について、図2を用いて説明する。ここでは、本実施形態に係る風圧飛散捕集装置1が、繊維状物質などの粉塵を捕集する例について説明するが、これに限定されず、例えば揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒドなどの捕集にも用いることができる。
【0025】
まず、被捕集物質3が付着した対象面2の表面に、筐体10の開口12の縁を密着させる。ここで、対象面2の凹凸などにより隙間が形成される場合には、隙間を塞ぐことのできる補充部材を用いるか、対象面2の凹凸に適合させた別のシール部材に取り替えることにより、筐体10の開口12の縁を対象面2に確実に密着させる。また、捕集部材32を保持したホルダ34を支持部材36の一端36aに取付ける。このホルダ34の取付は、対象面2に筐体10を密着させる前又は後のいずれでもよいが、密着前に行なう場合には、捕集部材32の汚染に配慮する必要がある。
【0026】
次に、対象面2の表面の気流状態を想定して、空気吹付け部20から対象面2に吹き付ける空気の流量などの条件を設定した上で、風圧飛散捕集装置1を稼動させる。この対象面2の表面の気流状態は、対象面2が施工されている現場での空調など、現場で想定される状態を考慮して設定される。
【0027】
風圧飛散捕集装置1が稼動されると、空気吹付け部20から対象面2に設定された流量の空気が吹き付けられる。具体的には、まず、エアポンプからホース26を介して多孔管22内に空気が供給され、多孔管22の4つの孔23からそれぞれ空気が排出される。また、回転装置24の駆動によって多孔管22がその軸を中心に回転し、対象面2の全体に均一に空気が吹き付けられる。この多孔管22の軸回転の速度は、例えば、毎分1回転程度であることが好ましい。これにより、対象面2に付着していた被捕集物質3が飛散し、筐体10内を浮遊する。
【0028】
次に、捕集部30に接続された吸引装置を操作して、筐体10内の空気を吸引させる。この吸引装置の吸引空気量は、例えば1〜4L/分、より好ましくは、4L/分に設定されることが好ましい。また、吸引時間は、吸引空気量1〜4L/分の範囲の定量下限により設定されることが好ましい。これにより、筐体10内を浮遊している被捕集物質3が捕集部30内に吸引され、捕集部材32によって捕集される。
【0029】
その後、風圧飛散捕集装置1からホルダ34を取り出し、他の物質によって汚染されないように捕集部材32及び被捕集物質3を密閉し、種々の測定を行なう。この測定としては、例えば、位相差顕微鏡を用いて繊維数濃度を算出する測定方法や、位相差・分散顕微鏡を用いて無機質繊維濃度又はアスベスト繊維数濃度を算出する測定方法、走査電子顕微鏡を用いてアスベスト繊維数濃度を算出する測定方法などが行なわれる。これらの測定により、現場における被捕集物質の飛散状況を把握することができる。
【0030】
本実施形態に係る風圧飛散捕集装置1によれば、内部に空気吹付け部20及び捕集部30が設けられた筐体10が、開口12の縁を対象面2に密着させることにより密閉された空間を形成可能に構成されていることにより、現場においてエアエロージョン試験などの試験を実施し、繊維状物質等の被捕集物質3を捕集することができ、被捕集物質3の現場での飛散状況を把握することができる。また、本実施形態に係る風圧飛散捕集装置1は、筐体10が運搬可能な小型に形成されているため、現場において手軽に使用することができる。
【0031】
本発明に係る風圧飛散捕集装置は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内において種々の改変を行なうことができる。例えば、本実施形態に係る風圧飛散捕集装置1において、筐体10の開口12は、上面が開放されることにより形成されるとしたが、これに限定されず、開口12は、目的に応じて大きさを自由に設定することができ、また、上面以外の面に形成されても良い。
【0032】
また、本実施形態に係る風圧飛散捕集装置1において、空気吹き付け部20は、多孔管22と、回転装置24と、エアポンプ(図示せず)とを備えるとしたが、これに限定されず、対象面2に空気を吹き付け可能であれば良い。また、本実施形態に係る風圧飛散捕集装置1において、多孔管22は、その軸を中心に1回転するよう構成したが、これに限定されず、筐体10の開口12の範囲に空気を吹き付け可能な程度の振幅で、その軸を中心に往復回動するよう構成しても良い。さらに、本実施形態に係る風圧飛散捕集装置1において、多孔管22は、孔23が軸方向に等間隔をおいて4つ形成されているとしたが、これに限定されず、少なくとも1つの孔が形成されていれば良い。
【0033】
さらに、本実施形態に係る風圧飛散捕集装置1において、捕集部30は、捕集部材32と、ホルダ34と、支持部材36とを備えるとしたが、これに限定されず、被捕集物質3を捕集可能な構成であれば良く、例えば、筐体10内の空気を吸引可能な吸引装置と接続せず、捕集部材32の裏面側から吸引しなくても被捕集物質3を捕集可能な捕集部材32を選択しても良い。
【符号の説明】
【0034】
1 風圧飛散捕集装置、2 対象面、3 被捕集物質、10 筐体、12 開口、20 空気吹き付け部、30 捕集部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面に開口を有し、該開口の縁を対象面に密着させることにより密閉された空間を形成可能な筐体と、
前記筐体内に設けられ、前記対象面に空気を吹き付け可能な空気吹付け部と、
前記筐体内に設けられ、筐体内を浮遊する被捕集物質を捕集可能な捕集部とを備える
ことを特徴とする風圧飛散捕集装置。
【請求項2】
前記捕集部は、前記筐体の開口に対し、前記空気吹付け部よりも離れた位置に設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の風圧飛散捕集装置。
【請求項3】
前記空気吹付け部は、
前記対象面と対向するように軸方向に複数の孔が形成された多孔管と、
前記多孔管内に空気を供給する空気供給装置とを備える
ことを特徴とする請求項1又は2記載の風圧飛散捕集装置。
【請求項4】
前記多孔管は、空気の吹き付け方向を経時的に変更可能に構成されている
ことを特徴とする請求項3記載の風圧飛散捕集装置。
【請求項5】
前記捕集部は、前記筐体内の空気を吸引可能な吸引装置と接続されており、該吸引装置によって吸引された空気中に含有する被捕集物質を捕集するように構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の風圧飛散捕集装置。
【請求項6】
前記捕集部は、粉塵を捕集可能な粉塵捕集部材を備える
ことを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載の風圧飛散捕集装置。
【請求項7】
前記捕集部は、ガスが吸着可能なガス吸着部材を備える
ことを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載の風圧飛散捕集装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236579(P2011−236579A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107000(P2010−107000)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年11月7日 日本労働衛生工学会 社団法人日本作業環境測定協会発行の「第49回日本労働衛生工学会 第30回作業環境測定研究発表会抄録集」において発表
【出願人】(000181767)柴田科学株式会社 (32)
【Fターム(参考)】