説明

風計測装置

【課題】所望の風成分の風速を、比較的小さな演算量で、かつ高精度に推定することができる風計測装置を得る。
【解決手段】目標物で反射されて受信される受信信号のドップラ周波数から得られるドップラ速度に基づいて、遠隔点の風速を計測する風計測装置10であって、受信信号を周波数変換してドップラスペクトルを算出するドップラ速度算出部1と、ドップラスペクトルおよび推定条件に基づいて、スペクトルパラメータを推定する第1スペクトルパラメータ推定部3と、受信信号が得られた付近の領域における背景情報、およびスペクトルパラメータを推定する際の制約条件を、推定条件として第1スペクトルパラメータ推定部3に入力する推定条件入力部2と、スペクトルパラメータから所望の風成分を抽出し、この所望の風成分のドップラ速度を算出するスペクトルパラメータ判定部4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遠隔点の風を計測する風計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遠隔点の風を計測する装置として、気象ドップラレーダ、ウィンドプロファイラまたはレーザレーダ(光波レーダ、ライダ)等の装置が知られている。これらの装置は、空間に電波を放射し、雨滴や大気乱流等で反射された電波を受信して、受信信号のドップラ周波数から得られるドップラ速度に基づいて、風速を算出するものである。
【0003】
ドップラ速度を算出する方法として、受信信号のパワースペクトルのモーメントを利用する方法(モーメント法)が知られている。なお、受信信号に雑音が混入した場合や統計的な揺らぎがある場合には、直接的なモーメント法では、パラメータの推定が不正確となる。そこで、これらの場合には、大気の散乱のパワースペクトルがガウス分布に従うことを利用し、観測されたパワースペクトルにガウス分布型関数をフィッティングして、スペクトルパラメータ(振幅、平均、標準偏差)を推定している(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、従来の風計測では、アンテナから放射される電波のビーム幅およびパルス幅によって決まる散乱体積内の風向および風速を、一様、またはいくつかのガウス分布型関数の合成によるものと仮定して、所望の風成分のスペクトルパラメータを推定している(例えば、非特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】深尾昌一郎、浜津享助著、「気象と大気のレーダーリモートセンシング」、京都大学学術出版会、2005年3月30日、p.111、125
【非特許文献2】Rod Frehlich,“Effects of Wind Turbulence on Coherent Doppler Lidar Performance”,American Meteorological Society,Journal of Atmospheric and Oceanic Technology,Vol.14,1997,p.54−75
【非特許文献3】Sebastien Lugan,et al.,“Simulation of LIDAR−based aircraft wake vortex detection using a bi−Gaussian spectral model”,Geoscience and Remote Sensing Symposium,2007,IGARSS 2007.IEEE International,23−28 July 2007,p.4806−4809
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
従来の風計測装置では、所望の風成分の空間規模が散乱体積に対して小さい場合や、散乱体積内に所望の風成分以外の成分(例えば、背景風等)が含まれる場合には、スペクトルパラメータの推定精度が劣化する。その結果、所望の風成分についての風速の推定が困難であったり、推定精度が劣化したりするという問題がある。
また、一般的に、パワースペクトルを高精度に推定するためには、散乱体積内に存在するすべての要素のパラメータを推定する必要があるので、演算量が増大するという問題もある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、所望の風成分の風速を、比較的小さな演算量で、かつ高精度に推定することができる風計測装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る風計測装置は、パルス状の送信信号を電波として空間に放射し、目標物で反射されて受信される受信信号のドップラ周波数から得られるドップラ速度に基づいて、遠隔点の風速を計測する風計測装置であって、受信信号を周波数変換してドップラスペクトルを算出するドップラスペクトル算出手段と、ドップラスペクトルおよび推定条件に基づいて、ドップラスペクトルに対するスペクトルパラメータを推定する第1スペクトルパラメータ推定手段と、受信信号が得られた付近の領域における背景情報、およびスペクトルパラメータを推定する際の制約条件を、推定条件として第1スペクトルパラメータ推定手段に入力する推定条件入力手段と、スペクトルパラメータから所望の風成分を抽出し、この所望の風成分のドップラ速度を算出するスペクトルパラメータ判定手段とを備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る風計測装置によれば、推定条件入力手段は、受信信号が得られた付近の領域における背景情報、およびスペクトルパラメータを推定する際の制約条件を、推定条件として第1スペクトルパラメータ推定手段に入力する。また、第1スペクトルパラメータ推定手段は、ドップラスペクトル算出手段で算出されたドップラスペクトルおよび推定条件入力手段から入力された推定条件に基づいて、ドップラスペクトルに対するスペクトルパラメータを推定する。
推定条件(背景情報および制約条件)をあらかじめ第1スペクトルパラメータ推定手段に入力することにより、スペクトルパラメータの推定に係る演算量を低減することができる。
そのため、所望の風成分の風速を、比較的小さな演算量で、かつ高精度に推定することができる風計測装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る風計測装置を示すブロック構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る風計測装置におけるドップラスペクトルを例示する説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る風計測装置において、受信信号に複数の風成分が存在する場合のドップラスペクトルを例示する説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る風計測装置を示すブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の風計測装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る風計測装置10を示すブロック構成図である。
図1において、風計測装置10は、ドップラスペクトル算出部1(ドップラスペクトル算出手段)と、推定条件入力部2(推定条件入力手段)と、第1スペクトルパラメータ推定部3(第1スペクトルパラメータ推定手段)と、スペクトルパラメータ判定部4(スペクトルパラメータ判定手段)とを備えている。
【0013】
以下、風計測装置10の各部位の機能について説明する。
ドップラスペクトル算出部1は、電波として空間に放射されたパルス状の送信信号が、雨滴や大気乱流等(目標物)で反射されて受信された受信信号を、時間領域から周波数領域の信号に変換することにより、ドップラスペクトルを算出する。
【0014】
推定条件入力部2は、受信信号が得られた付近の領域における背景情報(例えば、背景風等)、およびスペクトルパラメータを推定する際の制約条件を、推定条件として格納する。また、推定条件入力部2は、格納された推定条件(背景情報および制約条件)を、第1スペクトルパラメータ推定部3に入力する。
【0015】
第1スペクトルパラメータ推定部3は、ドップラスペクトル算出部1で算出されたドップラスペクトル、および推定条件入力部2から入力された推定条件に基づいて、ドップラスペクトルに対するスペクトルパラメータを推定(算出)する。
【0016】
スペクトルパラメータ判定部4は、第1スペクトルパラメータ推定部3で推定されたスペクトルパラメータに対する有効無効を判定し、最終的に出力するスペクトルパラメータを決定する。また、スペクトルパラメータ判定部4は、有効と判定されたスペクトルパラメータに基づいて、所望の風成分の信号強度、ドップラ速度および速度幅を算出する。
【0017】
以下、上記構成の風計測装置10の動作について説明する。
まず、電波として空間に放射され、雨滴や大気乱流等で反射されて受信された受信信号は、ドップラスペクトル算出部1で周波数変換され、ドップラスペクトルが算出される。ここで、ドップラスペクトルをガウス分布と考えると、ドップラスペクトルGは、次式(1)で表される。式(1)において、gは振幅、fは平均、σは標準偏差、fは周波数を示している。
【0018】
【数1】

【0019】
また、式(1)で表されるドップラスペクトルを図2に示す。
図2において、ドップラスペクトルは、振幅、平均および標準偏差によって規定され、これらはそれぞれ信号強度、ドップラ速度および速度幅に相当する。
【0020】
また、受信信号の中に複数の風成分が存在する場合には、ドップラスペクトルは、各風成分のドップラスペクトルGを合成したものとなる。ドップラスペクトルGおよび合成後のドップラスペクトルFは、それぞれ次式(2)、(3)で表される。式(2)、(3)において、gdi、fdi、σdiはそれぞれi個目の風成分における振幅、平均および標準偏差、fは周波数、nは風成分の数を示している。
【0021】
【数2】

【0022】
【数3】

【0023】
また、式(2)、(3)で表されるドップラスペクトルを図3に示す。ここでは、風成分の数が2の場合を示している。
図3において、ドップラスペクトルは、各風成分を合成したものとなり、風成分の数、各風成分における振幅(信号強度)、平均(ドップラ速度)および標準偏差(速度幅)がスペクトルパラメータとなる。
【0024】
続いて、推定条件として推定条件入力部2に格納された、受信信号が得られた付近の領域における背景情報およびスペクトルパラメータを推定する際の制約条件が、推定条件入力部2により、第1スペクトルパラメータ推定部3に入力される。
【0025】
ここで、推定条件として、受信信号中に含まれる風成分の数を設定することができる。この場合には、後段の第1スペクトルパラメータ推定部3では、ドップラスペクトル中に設定された数だけの成分(ガウス分布)が存在すると仮定して、スペクトルパラメータが推定される。
【0026】
事前に得られた背景情報(例えば、背景風や近隣領域の風情報等)がない場合には、上述したように、散乱体積内に存在するすべての要素のパラメータを推定するので、一般的に演算量が増大する。これに対して、風成分の数を固定すると、推定するパラメータ数を減らして、その分だけ演算量を低減することができる。風成分の数は、例えば単位散乱体積に対する所望の風成分の空間的規模や経験的知見、または周波数軸におけるダイナミックレンジと分解能との関係から決めることができる。
【0027】
また、異なる推定条件として、1つの風成分から散乱されるスペクトル幅を、送信信号の送信パルスのスペクトル幅とほぼ同等と仮定し、送信パルスのスペクトル幅を設定することができる。この場合にも、風成分の数を設定する場合と同様に、推定するパラメータ数を減らして演算量を低減することができる。
なお、推定条件として、受信信号中に含まれる風成分の数および送信パルスのスペクトル幅を設定することにより、さらに推定するパラメータ数を減らして演算量を低減することができる。
【0028】
また、異なる推定条件として、受信信号に対応する観測領域の背景風情報、具体的には、背景風のドップラ速度および速度幅を設定することができる。背景風情報は、例えば観測領域近隣の定常状態における風速値や風速の平均値から求める他、観測直前の風速を用いることができる。この場合には、複数の風成分うちの1つを特定することができるので、他の風成分の推定精度を向上させるとともに、演算量を低減することができる。
なお、上記観測領域の背景風情報に加え、受信信号中に含まれる風成分の数を推定条件として設定することにより、パラメータの推定精度、すなわち風成分の推定精度を向上させるとともに、さらに推定するパラメータ数を減らして演算量を低減することができる。
【0029】
また、異なる推定条件として、受信信号に対応する観測領域に含まれるすべての既知の風成分のドップラ速度および速度幅を設定することができる。この場合には、パラメータの推定に係る演算量を低減するとともに、未知の風成分の検知や、大気の安定度を検知することができる。
【0030】
次に、第1スペクトルパラメータ推定部3では、ドップラスペクトル算出部1で算出されたドップラスペクトル、および推定条件入力部2から入力された推定条件に基づいて、ドップラスペクトルに対するスペクトルパラメータが推定される。推定すべきスペクトルパラメータは、上述したように、設定された推定条件によって異なる。
【0031】
ここで、スペクトルパラメータの推定法としては、算出されたドップラスペクトルに対してガウス分布型関数を合成した分布を考え、最尤推定によりスペクトルパラメータを推定する方法が挙げられる。また、EM(Expectation−Maximization)アルゴリズムや最小二乗法等を用いてスペクトルパラメータを推定する方法が挙げられる。
【0032】
続いて、スペクトルパラメータ判定部4では、第1スペクトルパラメータ推定部3で推定されたスペクトルパラメータに対する有効無効が判定され、最終的に出力されるスペクトルパラメータが決定される。また、スペクトルパラメータ判定部4では、有効と判定されたスペクトルパラメータに基づいて、所望の風成分の信号強度、ドップラ速度および速度幅が算出される。なお、これらの値がすべて算出される必要はない。
【0033】
ここで、スペクトルパラメータの有効無効の判定方法としては、受信信号の中に複数の風成分が存在する場合であって、各風成分のドップラ速度の差が所定のしきい値よりも小さいときには、それらの風成分を同一と考えて一方を破棄する方法が挙げられる。また、ある風成分の振幅値が所定のしきい値よりも小さい場合に、その風成分を無効と考えて破棄する方法が挙げられる。
【0034】
このように、スペクトルパラメータ判定部4でスペクトルパラメータの有効無効を判定することにより、影響の小さい風成分を取り除いて、所望の風成分のみを抽出することができる。
また、風成分の数を絞ることができるので、次回以降の風成分の推定において、新たに推定条件として用いることができ、パラメータの推定に係る演算量を低減することができる。
【0035】
以上のように、実施の形態1によれば、推定条件入力手段は、受信信号が得られた付近の領域における背景情報、およびスペクトルパラメータを推定する際の制約条件を、推定条件として第1スペクトルパラメータ推定手段に入力する。また、第1スペクトルパラメータ推定手段は、ドップラスペクトル算出手段で算出されたドップラスペクトルおよび推定条件入力手段から入力された推定条件に基づいて、ドップラスペクトルに対するスペクトルパラメータを推定する。
推定条件(背景情報および制約条件)をあらかじめ第1スペクトルパラメータ推定手段に入力することにより、スペクトルパラメータの推定に係る演算量を低減することができる。
そのため、所望の風成分の風速を、比較的小さな演算量で、かつ高精度に推定することができる風計測装置を得ることができる。
【0036】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、第1スペクトルパラメータ推定部3が、ドップラスペクトル算出部1で受信信号から算出されたドップラスペクトルに基づいて、常時スペクトルパラメータを推定している。しかしながら、これに限定されず、第1スペクトルパラメータ推定部3は、受信信号に複数の風成分が存在する場合のみ、スペクトルパラメータを推定してもよい。
以下、第1スペクトルパラメータ推定部3が、受信信号に複数の風成分が存在する場合のみ、スペクトルパラメータを推定する処理について説明する。
【0037】
図4は、この発明の実施の形態2に係る風計測装置10Aを示すブロック構成図である。
図4において、風計測装置10Aは、図1に示した風計測装置10に加えて、第2スペクトルパラメータ推定部5(第2スペクトルパラメータ推定手段)と、成分数判定部6(成分数判定手段)と、諸元算出部7(ドップラ速度算出手段)とを備えている。なお、その他の構成については、実施の形態1と同様であり、その説明は省略する。
【0038】
以下、風計測装置10Aの各部位の機能について説明する。なお、実施の形態1と同様の機能については、説明を省略する。なお、推定条件入力部2は、受信信号に複数の風成分が存在する場合のみ機能する。
第2スペクトルパラメータ推定部5は、ドップラスペクトル算出部1で算出されたドップラスペクトルに基づいて、ドップラスペクトルに対する1組のスペクトルパラメータを推定(算出)する。
【0039】
成分数判定部6は、第2スペクトルパラメータ推定部5で推定された1組のスペクトルパラメータの値と所定のしきい値とを比較することにより、受信信号中に存在する風成分の数が1つであるか複数であるかを判定する。また、成分数判定部6は、受信信号中に存在する風成分の数が1つであると判定した場合に、第2スペクトルパラメータ推定部5で推定された1組のスペクトルパラメータを、諸元算出部7に出力する。また、成分数判定部6は、受信信号中に存在する風成分の数が複数であると判定した場合に、ドップラスペクトル算出部1で算出されたドップラスペクトルを、第1スペクトルパラメータ推定部3に出力する。
【0040】
諸元算出部7は、第2スペクトルパラメータ推定部5で推定され、成分数判定部6から出力された1組のスペクトルパラメータに基づいて、受信信号中に1つ存在する風成分の信号強度、ドップラ速度および速度幅を算出する。
【0041】
以下、上記構成の風計測装置10Aの動作について説明する。
まず、実施の形態1と同様に、電波として空間に放射され、雨滴や大気乱流等で反射されて受信された受信信号は、ドップラスペクトル算出部1で周波数変換され、ドップラスペクトルが算出される。
【0042】
続いて、第2スペクトルパラメータ推定部5では、ドップラスペクトル算出部1で算出されたドップラスペクトルに基づいて、ドップラスペクトルに対する1組のスペクトルパラメータが推定される。
【0043】
次に、成分数判定部6において、第2スペクトルパラメータ推定部5で推定された1組のスペクトルパラメータの値と所定にしきい値とが比較され、受信信号中に存在する風成分の数が1つであるか複数であるかが判定される。
【0044】
ここで、判定方法として、1組のスペクトルパラメータとして得られる振幅値と、前回(前時刻)に観測された風成分の定常状態における振幅値(所定の振幅値)とを比較して風成分の数を判定する方法が挙げられる。この方法において、成分数判定部6は、両者の差が所定値よりも大きい場合に、受信信号中に複数の風成分が存在すると判定し、両者の差が所定値以下の場合に、受信信号中に存在する風成分の数が1つであると判定する。
【0045】
また、異なる判定方法として、1組のスペクトルパラメータとして得られるスペクトル幅と、前回(前時刻)に観測された風成分の定常状態におけるスペクトル幅(所定のスペクトル幅)とを比較して風成分の数を判定する方法が挙げられる。この方法において、成分数判定部6は、両者の差が所定値よりも大きい場合に、受信信号中に複数の風成分が存在すると判定し、両者の差が所定値以下の場合に、受信信号中に存在する風成分の数が1つであると判定する。
【0046】
また、異なる判定方法として、1組のスペクトルパラメータとして得られるスペクトルの平均値と、中央値とを比較して風成分の数を判定する方法が挙げられる。この方法において、成分数判定部6は、両者の差が所定値よりも大きい場合に、受信信号中に複数の風成分が存在すると判定し、両者の差が所定値以下の場合に、受信信号中に存在する風成分の数が1つであると判定する。なお、この判定方法は、スペクトルのピークが1つの場合のみ適用可能である。
【0047】
また、成分数判定部6において、受信信号中に存在する風成分の数が1つであると判定された場合には、第2スペクトルパラメータ推定部5で推定された1組のスペクトルパラメータが、諸元算出部7に出力される。また、成分数判定部6において、受信信号中に存在する風成分の数が複数であると判定された場合には、ドップラスペクトル算出部1で算出されたドップラスペクトルが、第1スペクトルパラメータ推定部3に出力される。
【0048】
続いて、受信信号中に存在する風成分の数が1つであると判定された場合には、諸元算出部7で、成分数判定部6から出力された1組のスペクトルパラメータに基づいて、受信信号中に1つ存在する風成分の信号強度、ドップラ速度および速度幅が算出される。
【0049】
また、受信信号中に存在する風成分の数が複数であると判定された場合には、実施の形態1と同様に、推定条件として推定条件入力部2に格納された背景情報および制約条件が、推定条件入力部2により、第1スペクトルパラメータ推定部3に入力される。
なお、これ以降の第1スペクトルパラメータ推定部3およびスペクトルパラメータ判定部4の動作は、実施の形態1と同様なので、説明を省略する。
【0050】
以上のように、実施の形態2によれば、成分数判定手段は、第2スペクトルパラメータ推定手段で推定された1組のスペクトルパラメータに基づいて、受信信号中に存在する風成分の数が1つであるか複数であるかを判定し、受信信号中に存在する風成分の数が1つであると判定した場合に、1組のスペクトルパラメータをドップラ速度算出手段に出力し、受信信号中に存在する風成分の数が複数であると判定した場合に、ドップラスペクトルを第1スペクトルパラメータ推定手段に出力する。
これにより、受信信号に複数の風成分が存在する場合のみ、第1スペクトルパラメータ推定手段がスペクトルパラメータを推定することとなり、常時スペクトルパラメータを推定する場合と比較して、スペクトルパラメータの推定に係る演算量を低減することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 ドップラスペクトル算出部(ドップラスペクトル算出手段)、2 推定条件入力部(推定条件入力手段)、3 第1スペクトルパラメータ推定部(第1スペクトルパラメータ推定手段)、4 スペクトルパラメータ判定部(スペクトルパラメータ判定手段)、5 第2スペクトルパラメータ推定部(第2スペクトルパラメータ推定手段)、6 成分数判定部(成分数判定手段)、7 諸元算出部(ドップラ速度算出手段)、10、10A 風計測装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状の送信信号を電波として空間に放射し、目標物で反射されて受信される受信信号のドップラ周波数から得られるドップラ速度に基づいて、遠隔点の風速を計測する風計測装置であって、
前記受信信号を周波数変換してドップラスペクトルを算出するドップラスペクトル算出手段と、
前記ドップラスペクトルおよび推定条件に基づいて、前記ドップラスペクトルに対するスペクトルパラメータを推定する第1スペクトルパラメータ推定手段と、
前記受信信号が得られた付近の領域における背景情報、および前記スペクトルパラメータを推定する際の制約条件を、前記推定条件として前記第1スペクトルパラメータ推定手段に入力する推定条件入力手段と、
前記スペクトルパラメータから所望の風成分を抽出し、この所望の風成分のドップラ速度を算出するスペクトルパラメータ判定手段と、
を備えたことを特徴とする風計測装置。
【請求項2】
前記推定条件入力手段は、前記受信信号中に含まれる風成分の数を前記推定条件として設定することを特徴とする請求項1に記載の風計測装置。
【請求項3】
前記推定条件入力手段は、前記送信信号の送信パルスのスペクトル幅を前記推定条件として設定することを特徴とする請求項1に記載の風計測装置。
【請求項4】
前記推定条件入力手段は、前記受信信号中に含まれる風成分の数、および前記送信信号の送信パルスのスペクトル幅を前記推定条件として設定することを特徴とする請求項1に記載の風計測装置。
【請求項5】
前記推定条件入力手段は、前記受信信号に対応する観測領域の背景風のドップラ速度および速度幅を前記推定条件として設定することを特徴とする請求項1に記載の風計測装置。
【請求項6】
前記推定条件入力手段は、前記受信信号に対応する観測領域の背景風のドップラ速度および速度幅、並びに前記受信信号中に含まれる風成分の数を前記推定条件として設定することを特徴とする請求項1に記載の風計測装置。
【請求項7】
前記推定条件入力手段は、前記受信信号に対応する観測領域に含まれる既知の風成分のドップラ速度および速度幅を前記推定条件として設定することを特徴とする請求項1に記載の風計測装置。
【請求項8】
前記ドップラスペクトルに基づいて、前記ドップラスペクトルに対する1組のスペクトルパラメータを推定する第2スペクトルパラメータ推定手段と、
前記1組のスペクトルパラメータに基づいて、前記受信信号中に存在する風成分の数が1つであるか複数であるかを判定する成分数判定手段と、
前記1組のスペクトルパラメータに基づいて、風成分のドップラ速度を算出するドップラ速度算出手段と、をさらに備え、
前記成分数判定手段は、前記受信信号中に存在する風成分の数が1つであると判定した場合に、前記1組のスペクトルパラメータを前記ドップラ速度算出手段に出力し、前記受信信号中に存在する風成分の数が複数であると判定した場合に、前記ドップラスペクトルを前記第1スペクトルパラメータ推定手段に出力する
ことを特徴とする請求項1から請求項7までの何れか1項に記載の風計測装置。
【請求項9】
前記成分数判定手段は、前記1組のスペクトルパラメータとして得られる振幅値と所定の振幅値とを比較し、両者の差が所定値よりも大きい場合に、前記受信信号中に複数の風成分が存在すると判定することを特徴とする請求項8に記載の風計測装置。
【請求項10】
前記成分数判定手段は、前記1組のスペクトルパラメータとして得られるスペクトル幅と所定のスペクトル幅とを比較し、両者の差が所定値よりも大きい場合に、前記受信信号中に複数の風成分が存在すると判定することを特徴とする請求項8に記載の風計測装置。
【請求項11】
前記成分数判定手段は、前記1組のスペクトルパラメータとして得られるスペクトルの平均値と中央値とを比較し、両者の差が所定値よりも大きい場合に、前記受信信号中に複数の風成分が存在すると判定することを特徴とする請求項8に記載の風計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−271058(P2010−271058A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120774(P2009−120774)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】