説明

風車ブレード用避雷システムを有する風力発電装置

【課題】雷撃電流を、ナセル内部を経ずに風車ブレードから大地に導く経路が構成され、雷撃電流による電子機器に対する影響が軽減された風力発電装置を提供する。
【解決手段】風車タワー1の上部に回転可能に設置されたナセル2と、ナセル内に設置された発電機及び電子機器と、ナセルに支持された風車4と、発電された電力を風車タワーの内部を通して外部に導く電力線9とを備える。風車のブレード6に設けられたレセプタ11及び雷電流導電線13と、風車の回転軸と同心状に風車に固定され雷電流導電線と接続された風車側リング電極12と、ナセルの回転軸と同心状に風車タワーに固定され、風車側リング電極とギャップ19を介して対向するタワー側リング電極15と、風車タワー外壁に設置されタワー側リング電極に接続された接地線17とを備え、両リング電極の間のギャップは、レセプタへの雷撃により気中放電が発生可能な範囲に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電装置の避雷システム、特に、風車ブレードに対する落雷の影響を軽減するための避雷システムを有する風力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電設備における風車は、障害物のない平坦地に高く設置されるため、落雷を受ける可能性が高く、十分な避雷対策が必要とされる。例えば、大型風力発電設備においては、風車のハブの高さが60m、風車ブレード半径が30mを超えるものも開発されている。その形状および寸法に起因して、付近に雷雲が接近した際には落雷する確率が非常に高い構造物であると言える。
【0003】
従来の大型風力発電設備の避雷対策としては、1)ナセル上部に避雷針を設置する方法、2)風車近傍に避雷鉄塔を建設する方法、などが採用されてきた。しかし、いずれの方法も、風車ブレードへの雷撃を防ぐ効果は十分ではないことが指摘されている。すなわち、1)の方法の場合、構造上・強度上の理由により、30mもの風車ブレード半径を上回る高さに及ぶ避雷針を、ナセル上部に接地することは困難であり、現状では高々数mの避雷針を接地しているに過ぎない。また、2)の方法の場合、技術的には不可能ではないが、数基〜数十基もの風車からなるウィンドファームを全て保護するためには、風車とほぼ同数の避雷鉄塔を建設せねばならず、採算性の点から現実的ではない。
【0004】
さらに、3)風車ブレードにレセプタ(受雷器)や雷電流導電線などを取付けて、風車ブレードに雷撃があった際に、雷電流導電線及びスリップリングを通じて風車タワー内の接地線へ雷撃電流を導く方法も知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載の風力発電の雷保護システムについて、図3を参照して説明する。図3は、風力発電設備の全体構造を示す断面図である。21は風車タワーであり、上部にナセル22が設置されている。ナセル22にはロータ軸23が回転自在に支持され、ナセル22の外部に設置された風車ブレード24の回転が伝達される。ナセル22内部には発電機25が配置され、その回転子にロータ軸23の回転が伝達されて発電が行われる。ナセル22内部にはさらに、発電機制御装置26等の電力設備や電子機器が設置されている。発電機25により発電された電力は、風車タワー21の内部を通る電力線34により、外部へ供給される。
【0006】
風車ブレード24はアルミにより作られ、低抵抗導体をなし、その先端にレセプタ(受雷器)である金属チップ27が設けられている。風車ブレード24におけるナセル22に近接した基端部には、放電電極28が設けられている。ナセル22には、風車ブレード24の放電電極28に対向させて、他方の放電電極29が配置されている。放電電極28と放電電極29の間には、適度な長さのギャップ30が設けられている。放電電極29は、酸化亜鉛素子などの非直線抵抗体31を介してスリップリング32に接続されている。スリップリング32により、ナセル22と風車タワー21の相互に回転する箇所を経由して、接地線33に対する電気的な接続がなされている。接地線33から接地リングを経由して大地への接地が行われている。
【0007】
雷撃電流は、金属チップ7から風車ブレード24を流れ、放電電極28、29の間のスパークオーバ(気中放電)によりナセル22内部に至り、さらに非直線抵抗体31を経由して、スリップリング32によりナセル22内部から風車タワー21内部に至り、接地線33を流れて大地へ放電される。
【特許文献1】特開2000−265938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来例における避雷システムは、ナセル22及び風車タワー内部に接地されている電力設備や電子機器などの絶縁破壊事故を防止するためには、必ずしも万全ではないことが指摘されている。
【0009】
上述のように、風車ブレード24から、ナセル22を介して風車タワー21側に雷撃電流を導くためには、相互に回転運動する風車ブレード24とナセル22との間、及びナセル22と風車タワー21の間で電流を伝達しなければならない。そのため、火花放電ギャップや、スリップリング等を介して、ナセル内部及びタ風車ワー内部を通して雷撃電流を導いている。従って、雷撃電流の経路が、ナセル内部や風車タワー内部の電力線34や電気設備の極めて近傍を通過することになり、電力設備や電子機器に対する影響を回避することは困難である。
【0010】
本発明は、風車ブレードが雷撃を受けた場合に、雷撃電流を大地に導くための経路が、ナセル内部を経由ことなく構成され、構造的に簡素であるとともに、ナセル内部に収容された電子機器に対する雷撃電流による影響を確実に防止することが可能な、風車ブレード用避雷システムを有する風力発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の、風車ブレード用避雷システムを有する風力発電装置は、風車タワーと、前記風車タワーの上部に回転可能に設置されたナセルと、前記ナセル内に設置された発電機及びその発電機能に係る電子機器と、前記ナセルに支持された風車と、前記風車の回転を前記発電機に伝達する回転伝達機構と、前記発電機により発電された電力を前記風車タワーの内部を通して外部に導くための電力線とを備える。
【0012】
上記課題を解決するために、前記風車のブレードの避雷システムとして、前記風車のブレードに設けられたレセプタ及び雷電流導電線と、前記風車の回転軸と同心状に絶縁体を介して前記風車に固定され、前記雷電流導電線と接続された風車側リング電極と、前記ナセルの回転軸と同心状に絶縁体を介して前記風車タワーに固定され、その一部において前記風車側リング電極とギャップを介して対向するタワー側リング電極と、前記タワー側リング電極と接続され、前記風車タワーの壁面に沿って設置された接地線とを備え、前記風車側リング電極と前記タワー側リング電極の間の前記ギャップは、前記レセプタへの雷撃により気中放電が発生可能な範囲に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記構成の風力発電装置によれば、雷撃電流はレセプタから雷電流導電線を通り、風車側リング電極と風車側リング電極の間隙をスパークオーバ(気中放電)により経由して、タワー側リング電極から風車タワー外部の接地線を通って大地に放出される。従って、雷撃電流は、風車からナセル内部を経由することなく、直接風車タワー側に導かれる。従って、避雷システムが構造的に簡素になるとともに、ナセル内部に収容された電子機器に対する雷撃電流による影響を、確実に防止することができる。
【0014】
さらに、雷撃電流はすべて風車タワーの外部を流れるため、風車タワー内部の電力線を介して電子機器が絶縁破壊事故を発生する危険性が低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の風力発電装置において、好ましくは、前記風車側リング電極と前記タワー側リング電極の間の前記ギャップは、前記ナセル及び前記風車の回転に際して、前記風車側リング電極と前記タワー側リング電極が相互に接触しない範囲に設定される。
【0016】
また好ましくは、前記風車側リング電極と前記タワー側リング電極の間の前記ギャップは、10cm〜100cmの範囲内で設定する。
【0017】
以下、本発明の実施の形態における風力発電装置について、図面を参照して具体的に説明する。図1は、風力発電装置の全体構造を示す斜視図であり、図2は、その要部を示す正面図である。但し、ナセル2の部分のみ断面で示されている。
【0018】
風車タワー1の上部に、ナセル2が回転可能に設置されている。ナセル2の回転軸3は垂直であり、従ってナセル2は水平面内で回転する。ナセル2に隣接して風車4が支持されている。風車4は水平方向の回転軸5を有し、従って、風車4に設けられたブレード6は垂直面内で回転する。ナセル2の回転軸3と風車4の回転軸5は、直交している。但し、ナセル2の回転軸3と風車4の回転軸5が直交していることは、必須ではない。
【0019】
図2に示すように、ナセル2内には、発電機7、及び風車4の回転を発電機7に伝達するための回転伝達部8が配置されている。発電機7からは、ナセル2及び風車タワー1の内部を通して電力線9が付設され、発電された電力を風車タワー1の外部に導くために用いられる。また、ナセル2及び風車タワー1の内部には、発電機制御装置10や、その他の電力設備、電子機器等が、必要に応じて配置されている。
【0020】
次に、この風力発電装置における風車4のブレード6に対する避雷システムについて説明する。風車4のブレード6の先端部には、レセプタ11が設けられている(図1参照)。ブレード6の基端部に隣接して、風車4の本体部には風車側リング電極12が設置されている。風車側リング電極12は、雷電流導電線13により、レセプタ11と接続されている。風車側リング電極12は、風車4の回転軸5と同心状に、絶縁部材14を介して風車4に固定されている。風車側リング電極12に近接させて、風車タワー1の上端部には、タワー側リング電極15が設けられている。タワー側リング電極15は、ナセル2の回転軸3と同心状に、絶縁部材16を介して固定されている。タワー側リング電極15には接地線17が接続されている。接地線17は、風車タワー1の壁面に沿って絶縁部材18により支持されている。
【0021】
風車側リング電極12とタワー側リング電極15は、その円周の一部において対向し、相互間に所定範囲の長さに設定されたギャップ19を設けて配置されている。風車側リング電極12は風車4の回転軸5と同心であり、タワー側リング電極15はナセル2の回転軸3と同心であるため、風車4及びナセル2の一方、あるいは双方が回転している状態でも、両者間のギャップ19は一定に保たれる。
【0022】
風車側リング電極12とタワー側リング電極15間のギャップ長さは、レセプタ11への雷撃に伴い、導かれた雷撃電流によりギャップ19においてスパークオーバ(気中放電)が発生可能な範囲の短さに設定されている。具体的に適用可能なギャップ長さは、各部の寸法や配置の条件によって変動するが、通常の実用上は、ギャップ長さは、10cm〜100cmの範囲とすることが望ましい。100cm以下であれば、風車側リング電極12とタワー側リング電極15が互いに十分に近接して、雷撃に際して確実にスパークオーバが発生する。また10cm以上であれば、互いに非接触を保ち、ブレード6の回転やナセル2の回転が妨げられない状態を確保できる。
【0023】
上記構成において、風車ブレード6の先端に雷撃があった場合、雷撃電流は(正極性雷の場合)レセプタ11から雷電流導電線13を通り、風車側リング電極12に到達する。風車側リング電極12とタワー側リング電極15の間のギャップ19では、雷撃による電位上昇により、容易にスパークオーバ(気中放電)が発生する。従って、雷撃電流は速やかにタワー側リング電極15へ導かれる。その後、タワー側リング電極15から風車タワー外部の接地線17を通って、風車タワー1の基礎部から十分に離れた接地電極へ導かれる。
【0024】
以上のように、雷撃電流は、風車4から直接、風車タワー1側に導かれる。すなわち、図3の従来例に示したような、風車ブレード24から放電電極28、29を介してスパークオーバによりナセル22内部に至り、さらに、スリップリング32を介して接地線33に至る経路と比較すると、ナセル22内部を通過する経路部分が存在しない。従って、構造的に簡素になるとともに、ナセル2内部に収容された電子機器に対する影響を、確実に防止することができる。
【0025】
さらに、雷撃電流はすべて風車タワー1の外部を流れ、ナセル2及び風車タワー内部を雷撃電流が流れることはないため、風車タワー1内部の電力設備や電子機器が絶縁破壊事故を発生する危険性が極めて低減される。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の風車ブレード用避雷システムは、雷撃電流を大地に導くための経路が、ナセル内部を経由ことなく構成され、構造的に簡素であるとともに、ナセル内部の電子機器に対する雷撃電流による影響を確実に防止することが可能であり、風力発電装置の運転の安全性確保に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態における風車ブレード用避雷システムを有する風力発電装置を示す斜視図
【図2】同風力発電装置の要部を示す正面図
【図3】従来例の風車ブレード用避雷システムを有する風力発電装置を示す断面図
【符号の説明】
【0028】
1、21 風車タワー
2、22 ナセル
3、5 回転軸
4 風車
6、24 ブレード
7、25 発電機
8 回転伝達部
9、34 電力線
10、26 発電機制御装置
11 レセプタ
12 風車側リング電極
13 雷電流導電線
14、16、18 絶縁部材
15 タワー側リング電極
17、33 接地線
19 ギャップ
23 ロータ軸
27 金属チップ
28、29 放電電極
30 ギャップ
31 非直線抵抗体
32 スリップリング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車タワーと、前記風車タワーの上部に回転可能に設置されたナセルと、前記ナセル内に設置された発電機及びその発電機能に係る電子機器と、前記ナセルに支持された風車と、前記風車の回転を前記発電機に伝達する回転伝達機構と、前記発電機により発電された電力を前記風車タワーの内部を通して外部に導くための電力線とを備えた風力発電装置において、
前記風車のブレードの避雷システムとして、
前記風車のブレードに設けられたレセプタ及び雷電流導電線と、
前記風車の回転軸と同心状に絶縁体を介して前記風車に固定され、前記雷電流導電線と接続された風車側リング電極と、
前記ナセルの回転軸と同心状に絶縁体を介して前記風車タワーに固定され、その一部において前記風車側リング電極とギャップを介して対向するタワー側リング電極と、
前記風車タワーの壁面に沿って設置され前記タワー側リング電極と接続された接地線とを備え、
前記風車側リング電極と前記タワー側リング電極の間の前記ギャップは、前記レセプタへの雷撃により気中放電が発生可能な範囲に設定されていることを特徴とする風車ブレード用避雷システムを有する風力発電装置。
【請求項2】
前記風車側リング電極と前記タワー側リング電極の間の前記ギャップは、前記ナセル及び前記風車の回転に際して、前記風車側リング電極と前記タワー側リング電極が相互に接触しない範囲に設定されている請求項1に記載の風車ブレード用避雷システムを有する風力発電装置。
【請求項3】
前記風車側リング電極と前記タワー側リング電極の間の前記ギャップは、10cm〜100cmである請求項1に記載の風車ブレード用避雷システムを有する風力発電装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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