説明

飛行時間型質量分析における質量誤差補正方法

【課題】飛行時間型質量分析を用いた計測において、試料測定面内各点の高低差によって生じるスペクトルピークのズレを自動補正し、精度の高い質量スペクトルを簡易かつ短時間に得る方法を提供する。
【解決手段】測定試料の任意の領域を複数の測定点に分割し、各測定点において求めた測定スペクトルを足し合わせて該領域全体の質量スペクトルを得る飛行時間型質量分析測定において、測定試料表面の高低差から生じる質量誤差を補正する方法であって、各測定点における測定スペクトルの各検出位置の任意ピークの立ち上がり位置からのズレを求め、これを補正に用いることを特徴とする飛行時間型質量分析における質量誤差の補正方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS=Time of Flight - Secondary Ion Mass Spectrometer)などの飛行時間型質量分析装置を用いた分析において、分析対象試料上面の凹凸高さ変化により生じる質量分析の質量数誤差を補正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次イオン質量分析法には分析モードとしてダイナミックSIMS(Dynamic−SIMS、以下D−SIMSとする)とスタティックSIMS(Static−SIMS、以下S−SIMSとする)の2つが挙げられる。D−SIMSは高電流密度の一次イオンビームを用いて、表面から数10nmまでの深さ方向濃度分布の測定およびバルクの極微量分析に利用される。これに対し、S−SIMSは照射一次イオン電流密度を極端に低下させ、表面の損傷を可能な限り少なくして非破壊に近い状態で測定する方法である。さらに、高感度および高分解能に特徴のある飛行時間型質量分析計(TOF−MS)を備えたS−SIMS装置である飛行時間型二次イオン質量分析装置(以下TOF−SIMSとする)の開発により、バイオ関連、触媒、生体、環境物質など様々な分野への適用が提案されている。TOF−SIMSに固有の特徴として、まずは、原理的に一次イオンの照射が時間的なパルスビームで与えられるために、トータルのドーズ量の微調整が可能で、容易に且つ正確にスタティックの条件が設定できるということが挙げられる。この他にも、一次イオンのパルス幅を1ns以下と短くすることで質量分解能が非常に高く、フラグメントイオンピークの帰属を正確におこなうことができること、また、GaやBiイオン等の収束ビームを一次イオンとして用いることにより、サブミクロンメートル程度の高い空間分解能でイメージング測定や微小部の分析が可能であるということが挙げられる。
【0003】
本発明者らはこれまでに、この高い空間分解能が得られるTOF−SIMSを基本とし、例えば、生体組織切片の表層を消化酵素で分解し、生成したペプチド断片の二次元分布を計測する方法(特許文献1)や、SIMSに特異的な増感物質を用いて微量な生体関連物質を検出する方法(特許文献2、非特許文献1)などを提案してきた。
【0004】
一般にTOF−SIMSでは、図3(a)に示すように、数10から数100μm角の任意に指定した領域内を128×128または256×256に分割し、各所にパルス一次イオンビームをラスターで連続照射して、その箇所における試料成分をイオン化させ、発生したイオンを飛行時間型質量分離器で質量分離した後に検出する。通常、一次イオンのドーズ量が1×e12 ions/cm以下に収まる範囲(Statics条件)で、同測定領域の各測定点にパルスビームを複数回照射することにより信号強度の貯めこみを行う。この時、得られるデータの形式は横軸に飛行時間を示すチャンネル数とそれに対応する検出イオンの強度となり、その情報が測定点の座標(x,y)と一緒に蓄積されたデータ形式となる。このデータより、図3(b)に示すように各測定点から得られた飛行距離による質量分離の信号を最終的に全て足し合わせることにより、横軸にチャンネル数の形を持つ測定領域全体の質量スペクトルを得る。続いて、この質量スペクトル上に存在する、H±(1.008amu)やC±(12.000amu)などの質量数が既知の検出ピーク位置チャンネル数をいくつか用い、1)式で表される質量数Mとチャンネル数の関係における、スペクトルごとに一意的に求まるdm値(ゼロ点補正値)、SF値(変換係数)のそれぞれの値を求めることで、チャンネル数から質量数への変換がなされる。
質量数M={(チャンネル数−dm)/SF} ――1)
【0005】
また、ここで示されるイオンの質量数は、正確にはイオンの質量数と価数の比(m/z)の値あるが、普通、TOF−SIMSで得られるイオンは+1、または、−1価数の電荷を持っているため、検出値の絶対値をとることによりイオンの質量数とみなせる。
【0006】
測定領域全体の質量スペクトルを得る際に、図1に示すように、TOF−SIMSでは、基本的に、一次イオン照射位置にある試料上面と検出器との間の距離が飛行距離であるため、上述の生体関連試料などの表面において微細な凹凸が存在する場合のように、測定領域内の試料上面の高さにばらつきがあると、各測定位置から得られる飛行距離がばらついて質量数の算出誤差の原因となる。この各測定位置で生じた質量数誤差が、測定全域でのスペクトルを算出する際に集まって、スペクトルの精度低下を招く様子を図3にその概念を示してある。
【0007】
実際に飛行距離の差による遅延時間を求めると、一次イオン到達での遅延時間:Δt1、二次イオン到着での遅延時間:Δt2として、それぞれが次の2)、3)式で表される。
【数1】

【数2】

【0008】
この両式に、実際のTOF−SIMS装置で、一次イオンにガリウム(Ga)を用いた場合、また、検出二次イオンを水素イオン(H)として、mp1=69/6e-20 kg、Vp1=25kV、m=m=1/6e-20 kg、Vs=2kV、d=2mm、ΔS=1μm、q=1.6e−19 Cの値を用いて概算すると、試料表面に1μmの高低差がある場合、Δtは約1.2e−10 秒、Δtは約4.6e−9 秒の遅延が生じる。このとき、Δtは十分に無視できる程の小さな値であるので、飛行距離の差による遅延時間は、二次イオンの到着時間差Δtだけを考えればよい事が判る。また同時に、検出器に進入する二次イオンでは試料表面垂直方向の速度にもばらつきが現れるが、この垂直方向速度のバラツキはTOF検出器のリフレクトロン機構によって解消されるため、ここでは考慮の必要がない。以上のことから、3)式に実際のTOF−SIMS装置でのパラメーターを用いて、質量がmで質量数がMsの二次イオンを検出した場合を考える。例えば試料表面に1μmの高低差がある場合について計算すると、その高低差によって検出器への到着時刻に約4.6e−9×√(m/mH)秒の時間差が生じることとなる。この値を実際のTOF−SIMSの検出データとして得られるチャンネル数に換算した場合、一般に用いられる測定条件の10kHzサイクルタイムで計測し、試料表面に1μmの高低差があるとすると、その測定点ではスペクトルデータの横軸に約94×√(m/mH) チャンネル数のシフトが生じることとなる。
【0009】
上記の計算で得られた質量誤差値について実際の試料の測定に用いる場合を考えてみると、生体試料に限らず、有機デバイスや紙、布、プリンターのトナー材料などの多くの有機物試料では、その表面に深さが数10nmから数μmの凹凸が数100μm四方の領域に分布している場合がよく見られる。その様な表面状態を持つ試料をTOF−SIMS計測した場合、上記の計算で得られた値から、検出の時間差で約1e−7×√(m/mH)から1e−5×√(m/mH) 秒の誤差が生じ、検出チャンネル数に換算すると、約1×√(m/mH)から100×√(m/mH)チャンネルの誤差が各測定位置でのスペクトル上に生じることが判る。例えば、検出の有機分子イオンの質量数Mが100amuとすると、√(m/mH)=√Mは10となり、上述の測定領域における試料表面の深さが数10nmから数μmの凹凸によって、各測定位置で生じるチャンネル数の誤差は、約10から1000チャンネルとなる。この各測定位置のスペクトルをそのまま合算して測定全領域スペクトルを求めてしまうと、図3(b)で示すように、測定全域スペクトルにおいて幅の広がったピークが得られ、スペクトルの精度を著しく低下させる可能性があることを示している。
【0010】
ここで上述の1)式を用いて√(m/mH)を書き換える。この時、dmの値は十分に小さい値とみなせるため、近似的に4)式が求まる。
√(m/mH) = チャンネル数/チャンネル数 ――4)
【0011】
この4)式より、試料表面上のある測定点(x,y)での高低差によるチャンネル数誤差値は以下の手順で算出される。(1)高さの基準となる測定点(例えば、測定点(0,0))での任意のピーク位置チャンネル数(上式では、水素のピークの立ち上がり位置チャンネル数)を高さ基準値(S0)とする。(2)測定点(x,y)での、同じピーク位置チャンネル数(S)との差分(S0−S)を、測定点(x,y)における基準誤差値とする。(3)測定点(x,y)における質量スペクトルの全てのチャンネルにおいて、そのチャンネル数値と基準ピーク位置チャンネル数値(S)の比に基準誤差値(S0−S)を掛け算することにより、高さの基準点を基準とする測定点(x,y)の高低差による、チャンネル毎のチャンネル数誤差値を求めることができる。また、このチャンネル数誤差値を各チャンネル値に加算することで、質量スペクトルの横軸補正を行うことも可能となる。
【0012】
上述したように、表面に凹凸のある試料のTOF−SIMS計測ではスペクトルの精度が低下するといった大きな問題がある。この問題を解決するため、あらかじめ試料の高さや高さの分布を光学顕微鏡で求め、その測定値に基づいて試料が搭載されているステージを高さ方向に上下移動させて、発生したイオンの飛行距離のばらつきを抑える手法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、この手法では、測定の一点、一点ごとにサンプルステージを動かす必要があるため、その移動時間を考えると膨大な計測時間が必要となる。また技術的に巨大なサンプルステージを数10〜数100nmのレベルで上下に制御するのは困難であること、またステージの上下移動にともない、試料平面方向におけるズレが生じ、試料成分の数μmレベルでの細かな分布の計測がおこなえない、などの問題もある。
【0013】
また、ステージの移動はせずに、TOF−SIMS測定で得られた測定の一点、一点ごとのスペクトルに対し、顕著な信号強度を持つ試料成分の信号を用いて、測定点ごとの飛行距離のズレを算出しての補正をおこなう方法も提案されている(非特許文献2)。しかしながら、この手法では、あらかじめ試料表面に、2次イオンの検出ピーク位置が既知であるマーカー成分を添加しておく必要がある。このマーカー成分を添加する際に、添加物が溶液の場合、試料成分が流出、または、混合してしまう恐れがあり、本来の試料成分の分布状態が破壊されてしまうため、正しい測定ができなくなる。また、添加物が粉体のような固体である場合でも、それらの物質が表面を覆ってしまうためにTOF−SIMS測定での試料成分のイオンの発生を妨げ、正しい測定ができなくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−10658
【特許文献2】米国特許7446309
【特許文献3】特開2007−299658
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Y. Murayama et al., Appl. Surf. Sci., 252 , 6774 (2006)
【非特許文献2】Liam A. McDonnell, et al., Anal. Chem., 75, 4373 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述の問題に鑑みて、飛行時間型質量分析測定において、試料測定面内各点の高低差によって生じるスペクトルピークのズレを自動補正し、精度の高い質量スペクトルを簡易かつ短時間に得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記の課題について鋭意検討した結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、測定試料の任意の領域を複数の測定点に分割し、各測定点において求めた測定スペクトルを足し合わせて該領域全体の質量スペクトルを得る飛行時間型質量分析測定において、測定試料表面の高低差から生じる質量誤差を補正する方法であって、各測定点における測定スペクトルの各検出位置の任意ピークの立ち上がり位置からのズレを求め、これを補正に用いることを特徴とする飛行時間型質量分析における質量誤差の補正方法である。
【0018】
また、本発明は、前記質量分析における測定スペクトルの任意のピークが、検出スペクトルの最初に検出されるピークであることを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明は、前記任意ピークの立ち上がり位置からのズレから、試料上の測定箇所における高低差の情報を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、試料表面の凹凸に合わせてサンプルステージを上下する必要がなく、また、特殊な測定機能を備える必要もなく、通常のTOF−SIMS測定のデータにおける、測定領域内の各測定位置からのスペクトルを抽出し、その各スペクトル内の任意のピークによって飛行時間誤差を補正し、それぞれを足し合わせることにより、短時間で高精度の全体スペクトルを得る事ができる。また、検出スペクトルの最初に検出されるピークを用いることにより、検出されるピークが既知である特定の物質を試料表面に添加する必要がないため、試料成分の本来の分布を正しく計測することが可能となる。
【0021】
さらに、本発明では、各測定点で得られるスペクトルにおける任意ピークの飛行時間誤差を得ることにより、特殊な装置機構なしに、容易に試料上の各測定箇所における高低差を計測することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】試料表面の高低差におけるイオン検出の遅延の概略
【図2】TOF−SIMS測定データにおける特徴的な質量誤差補正して、測定全領域のスペクトルを得る動作を説明するフロチャート
【図3】TOF−SIMS測定での一次イオン照射と二次イオン検出の模式図(a)、試料に高低差がある場合に生じるスペクトル誤差の概念図(b)
【図4】粉体試料TOF−SIMS測定での質量スペクトル補正
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の質量誤差の補正方法について説明する。
最初に、飛行時間型質量分析測定装置である飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)による測定後のデータから質量誤差を補正した測定全領域のスペクトルを得る特徴的な動作について、図2のフロチャート図を使って説明する。まず、TOF‐SIMSの測定においては、図3に示すように測定試料の任意に選択した数10から500μm角の領域を例えば128または256の複数の測定点に分割し、それぞれの測定点に1次イオンを照射して、その位置より放出される2次イオンを質量分離後に計測し、測定データを蓄積していき、かかる蓄積データから、各測定点における測定スペクトル(質量スペクトル)が得られる。従って、TOF−SIMSの測定データには、各測定点での検出位置(チャンネル数)を横軸としてイオン検出強度値を記した質量スペクトルと一緒に、1次イオンを照射した位置として0から127(または255)の数字で構成される座標(x,y)も同時に収納されている。このTOF−SIMSデータから、座標(0,0)から順々に全ての測定点における質量スペクトルを抽出していく。続いて、検出ピークとして得られた各質量スペクトルにおいて、その横軸であるチャンネル数位置を数ポイントごとに刻んで、先頭よりイオン強度の2階微分値を算出していき、2階微分値が正の値から負の値に転じる最初の箇所(立ち上がり位置)を最初のピーク位置として決定する。また、座標(0,0)の質量スペクトルにおいては、その最初のピーク位置を基準値S0とし、配列P(0,0)を0とする。それ以外の測定点座標(x,y)の質量スペクトルでは、得られた最初のピーク位置Sから、S−S0の値を算出し、配列P(x,y)にその値を収納していく。続いて、座標(x,y)でのスペクトルを、もう一度、TOF−SIMS測定データより抽出し、上述の4)式を用い、全ての横軸チャンネルにおいて、得られたP(x,y)×該チャンネル数値÷S0値を順次加算して、横軸の質量誤差を補正していく。このように、各測定点における測定スペクトルの各検出位置の任意ピークの立ち上がり位置からのズレを求め、これを補正に用いる。そして、横軸に補正を加えた座標(x,y)における質量補正スペクトルを、測定全領域のスペクトルに順に加算する。この動作をすべての測定点でのスペクトルに対して施すことにより、最終的に得られる測定領域全体におけるスペクトルは、測定領域内に存在する測定試料表面の凹凸によって生じる質量誤差を解消した高精度なスペクトルとなる。そして、最後に配列P(x,y)の値を用いて、例えば2次イオンの飛行時間を加味して概算される検出高低差の式とあわせることにより、座標(0,0)の試料表面高さを基準とした試料上の各測定箇所の座標点(x,y)における具体的な高低差を算出することも可能である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。以下の具体例は本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるが、本発明はかかる具体的形態に限定されるものではない。
平坦なシリコンウエハー上に一様に配置した質量数718amuの分子で構成される生体有機物の粉体試料のTOF−SIMS測定を行う。図4(a)に実際の測定時における測定試料の光学顕微鏡写真を示す。TOF−SIMS測定には、ION−TOF社製 TOF−SIMSIV型装置(商品名)を用いる。
一次イオン:25kV Ga、2.4pA(パルス電流値)、sawtoothスキャンモード
一次イオンのパルス周波数:10kHz(100μs/shot)
一次イオンパルス幅:約0.8ns
一次イオンビーム直径:約0.8μm
測定領域:100μm ×100μm
二次イオンの測定点数:128×128
積算時間:32回スキャン(約52秒)
二次イオンの検出モード:正イオン
上記のように決定した測定条件に基づき、TOF−SIMS測定を実施する。
【0025】
図4(c)上図に補正前の測定データから得られた測定全域のスペクトルを示す。試料の高低差によって各ピークの幅が広がっている様子が判る。このスペクトルに対して検出質量誤差の補正を下記の手順で行う。まず得られたTOF−SIMS測定のデータについて、装置付属の解析ソフトを用いて128×128の測定点ごとにスペクトルを横軸チャンネル数のままの状態で抽出する。得られたスペクトルデータの横軸先頭位置より信号強度を読み出し、横軸チャンネル数の5ステップおきに二階の微分を取り、その値が最初に負になる箇所を最初に得られるピーク位置とする。図4(b)に、実際に各測定点より得られる最初のピーク(通常H)のいくつか代表的なものを拡大表示で示す。この図で示されるように、測定位置における試料表面の高低差により、ピークの検出の横軸チャンネル数位置に誤差が生じる様子が見て取れる。測定座標(0,0)でのスペクトルにおける最初のピーク検出チャンネル数位置を基準値S0とし、他の全ての測定座標(x,y)でのスペクトルにおける最初のピーク検出チャンネル数位置Sとの差S0−SをP(x,y)に順次記録する。
【0026】
全ての測定点においてP(x,y)を記録したのち、再び、TOF−SIMS測定のデータより抽出した各測定点におけるスペクトルに対して、その各横軸チャンネル数すべてにP(x,y)×該チャンネル数÷S0の値を加算することにより、スペクトル内の全てのピークに対して検出質量誤差の補正を行う。得られた全てのスペクトルを、横軸チャンネル数で合わせて足し合わせることにより、検出質量誤差を取り除いた質量精度の高い測定全域でのスペクトルを得る事ができる。得られた補正測定全域スペクトルについて、横軸チャンネル数をキャリブレーションにより質量数に変換して表示すると、図4(c)下図に示されるような、各ピークの幅が狭まった精度の高いスペクトルを得る事ができる。その効果を具体的に例示すると、図4(c)中に拡大表示して示すように、補正前にはピークの幅が広がっているために、例えばピークが単一のものであるかの情報が不明瞭であったが、この補正方法を適用することによりピークの幅が狭まり、単一のピークで構成されたものであることが明瞭となる。またこれにより、ピークトップ位置の詳細な質量数などを知ることもでき、物質の分子量と照らし合わせて物質の同定などを正確にできるようにもなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料の任意の領域を複数の測定点に分割し、各測定点において求めた測定スペクトルを足し合わせて該領域全体の質量スペクトルを得る飛行時間型質量分析測定において、測定試料表面の高低差から生じる質量誤差を補正する方法であって、各測定点における測定スペクトルの各検出位置の任意ピークの立ち上がり位置からのズレを求め、これを補正に用いることを特徴とする飛行時間型質量分析における質量誤差の補正方法。
【請求項2】
前記質量分析における測定スペクトルの任意ピークが、検出スペクトルの最初に検出されるピークであることを特徴とする請求項1に記載の飛行時間型質量分析における質量誤差の補正方法。
【請求項3】
前記任意ピークの立ち上がり位置からのズレから、試料上の測定箇所における高低差の情報を得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の飛行時間型質量分析における質量誤差の補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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