説明

飛行時間型質量分析検出システムを操作する方法およびシステム

本明細書では、飛行時間型質量分析計用デュアルTDC−ADC検出システムを開示する。TDCベースの検出システムは、一般に、ADCベースの検出システムに比べて、タイミング分解能が高い。一方、ADCは、一般に、TDCと比べて、ダイナミックレンジが広い。TDCとADCとを結合してタンデム検出器を構成し、それぞれの変換器タイプの性能パラメータを調節することにより、デュアルTDC−ADC検出のダイナミックレンジを、各タイプの検出器が単独で達成しうるダイナミックレンジより拡大することが可能である。複数の飛行時間抽出から得られた個々の質量スペクトルを集約し、デュアルTDC−ADC検出システムにおいてADCとTDCのダイナミックレンジ同士が確実に部分的に重なり合うように飛行時間抽出の数を選択することにより、複合飛行時間質量スペクトルを生成することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、飛行時間型質量分析検出システムを操作する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型質量分析(TOFMS)は、イオンに既知の強度の高強度電界を短時間印加することにより、このイオンを無電界ドリフトチャンバ内で加速させて検出器に向かわせることを含む。この電界の印加によって、すべてのイオンに運動エネルギが与えられ、ドリフトチャンバを通過するイオンの粒子速度はイオンのm/z比に依存する。イオンのm/z比が大きいほど、移動が低速になる傾向があり、イオンのm/z比が小さいほど、移動が高速になる傾向がある。各イオンが無電界ドリフトチャンバを通過して検出器に到達する飛行時間は、検出器をイオン源から既知の距離に配置することにより、測定可能である。そして、それらのイオンのm/z比を、飛行時間情報および既知の実験的パラメータを用いて特定することが可能である。イオン束強度を推定することも可能である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の実施形態の一態様によれば、飛行時間型質量分析計を操作することにより、複数の質量対電荷比を有するイオンを処理して複数のイオン強度を特定する方法が提供される。本方法は、a)複数の飛行時間抽出においてイオンを飛行時間型質量分析計に導入するステップと、b)複数の飛行時間抽出の各抽出において、イオンを、検出器による検出のために、イオン群の系列としてドリフトチャンバから検出器へ押し出すべく、イオンに電界をかけるステップであって、イオン群系列の各イオン群が、複数の質量対電荷比のうちの異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンを含む、イオンに電界をかけるステップと、c)検出器に接触したイオンを検出して、検出信号の系列を生成するステップと、d)高タイミング分解能データストリームを生成するステップであって、多数の多様な高ピークを分解するように構成された高タイミング分解能デジタル変換器に検出信号系列を与えるステップと、検出器によって検出された各イオン群について、検出信号系列のうち、そのイオン群の検出時に検出器によって生成された、関連付けられた検出信号を少なくとも1つ特定するステップとにより、高タイミング分解能データストリームを生成するステップと、e)低タイミング分解能デジタル変換器に検出信号系列を与えることにより、低タイミング分解能データストリームを生成するステップと、f)複数の質量対電荷比の各質量対電荷比について、その質量対電荷比を有するイオンの飛行時間および強度を表す、対応する時刻および強度のペアを特定することによって、高タイミング分解能データストリームを処理するステップであって、時刻および強度のペアのうちの強度は、複数の高分解能時間間隔にわたって測定された複数の、低いほうの強度範囲の強度値から特定される、高タイミング分解能データストリームを処理するステップと、g)低タイミング分解能データストリームを処理して、検出信号系列のうちの複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定するステップと、を含み、低タイミング分解能デジタル変換器は、高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超える強度を測定するように動作可能であり、高タイミング分解能デジタル変換器は、低タイミング分解能デジタル変換器の低タイミング分解能より高い高タイミング分解能で動作する。
【0004】
本発明の実施形態の別の態様によれば、飛行時間型質量分析計を操作することにより、複数の質量対電荷比を有するイオンを処理して複数のイオン強度を特定する方法が提供される。本方法は、a)イオンを飛行時間型質量分析計に導入するステップと、b)イオンを、検出器による検出のために、イオン群の系列としてドリフトチャンバから検出器へ押し出すべく、イオンに電界をかけるステップであって、イオン群系列の各イオン群が、複数の質量対電荷比のうちの異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンを含む、イオンに電界をかけるステップと、c)検出器に接触したイオンを検出して、検出信号の系列を生成するステップと、d)高タイミング分解能データストリームを生成するステップであって、多数の多様な高ピークを分解するように構成された高タイミング分解能デジタル変換器に検出信号系列を与えるステップと、イオン群系列の各イオン群について、i)検出信号系列のうち、そのイオン群の検出時に検出器によって生成された、関連付けられた検出信号を少なくとも1つ特定するステップと、ii)そのイオン群の飛行時間および強度を表す、対応する時刻および強度のペアを特定するステップであって、時刻および強度のペアのうちの強度は、複数の高分解能時間間隔にわたって測定された複数の、低いほうの強度範囲の強度から特定される、対応する時刻および強度のペアを特定するステップと、によって、高タイミング分解能データストリームを生成するステップと、e)低タイミング分解能デジタル変換器に検出信号系列を与えて、複数の低分解能時間間隔にわたる検出信号系列のうちの複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定することによって、低タイミング分解能データストリームを生成するステップと、を含み、低タイミング分解能デジタル変換器は、高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超える強度を測定するように動作可能であり、高タイミング分解能デジタル変換器は、低タイミング分解能デジタル変換器の低タイミング分解能より高い高タイミング分解能で動作する。
【0005】
本発明の実施形態の別の態様によれば、飛行時間型質量分析計システムが提供され、本システムは、複数の質量対電荷比を有するイオンをイオン源から受け取るドリフトチャンバと、検出器に接触したイオンを表す検出信号の系列を生成する検出器と、検出器による検出のために、イオンをドリフトチャンバから押し出す電界を発生させる電界発生器と、検出器から検出信号系列を受信するために検出器とリンクされた高タイミング分解能デジタル変換器であって、多数の多様な高ピークを分解するように構成されており、検出器によって検出された各イオン群について、i)検出信号系列のうち、そのイオン群の検出時に検出器によって生成された、関連付けられた検出信号を少なくとも1つ特定することと、ii)その少なくとも1つの関連付けられた検出信号に対応する到達時刻データを高分解能時間間隔で確定することと、によって、高タイミング分解能データストリームを生成するように動作可能な高タイミング分解能デジタル変換器と、検出器から検出信号系列を受信するために検出器とリンクされた低タイミング分解能デジタル変換器であって、検出信号系列を低分解能時間間隔でサンプリングすることによって低タイミング分解能データストリームを生成するように動作可能な低タイミング分解能デジタル変換器と、高タイミング分解能デジタル変換器および低タイミング分解能デジタル変換器とリンクされたプロセッサであって、i)高タイミング分解能データストリームを処理して複数の時刻および強度のペアを特定するステップであって、各時刻および強度のペアは、複数の質量対電荷比のうちの、対応する、異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンの飛行時間および強度を表す、特定するステップと、ii)低タイミング分解能データストリームを処理して、検出信号系列のうちの複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定するステップと、を行うように動作可能なプロセッサと、を含み、低タイミング分解能デジタル変換器は、高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超える強度を測定するように動作可能であり、高タイミング分解能デジタル変換器は、低タイミング分解能デジタル変換器の低タイミング分解能より高い高タイミング分解能で動作する。
【0006】
本明細書では、これらの特徴および他の特徴を説明する。
【0007】
以下では、添付図面を参照しながら、各種実施形態を詳細に説明する。
【0008】
当業者であれば理解されるように、以下に示す図面は、例示のみを目的としており、いかなる形でも出願人の教示の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】単一イオンを検出した結果としての電気パルスまたは検出信号と、同イオンの到達時刻分布とを、時間に対する広さで示すグラフである。
【図2】検出されたイオンの数を飛行時間抽出の数に対してプロットすることによって、TDCおよびADCの両方について検出の上限および下限を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態の一態様によるデュアルTDC−ADC検出システムの概略図である。
【図4】本発明の一実施形態の一態様による、別のデュアルTDC−ADC検出システムの概略図である。
【図5】本発明の一実施形態の一態様による、さらに別のデュアルTDC−ADC検出システムの概略図である。
【図6】本発明の一実施形態の一態様による、さらに別のデュアルTDC−ADC検出システムの概略図である。
【図7】本発明の一実施形態の一態様による、さらに別のデュアルTDC−ADC検出システムの概略図である。
【図8】検出されたイオンの数を飛行時間抽出の数に対してプロットすることによって、TDCおよびADCの両方について検出の上限および下限を示すグラフである。
【図9】検出されたイオンの数を飛行時間抽出の数に対してプロットすることによって、TDCおよびADCの両方について検出の、別の上限および下限を示すグラフである。
【図10】検出されたイオンの数を飛行時間抽出の数に対してプロットすることによって、TDCおよびADCの両方について検出の、さらに別の上限および下限を示すグラフである。
【図11】一飛行時間型計器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
飛行時間型質量分析計の一構成においては、イオン束を検出する検出器を用いることができる。個々の飛行時間用途に応じて、様々なタイプの検出器を用いてよい。検出器のタイプとしては、磁気電子増倍管、離散ダイノード電子増倍管、マイクロチャネルプレート(MCP)電子増倍管などが挙げられる。たとえば、MCP型の検出器は、高抵抗性材料から作成されうるスラブを含んでおり、このスラブに、一方の面から別の面につながる微小な溝(マイクロチャネル)の規則的配列が形成される。これらのマイクロチャネルは、互いにほぼ平行に、かつ、マイクロチャネルプレートの面に対してはわずかに角度を付けて配置されうる。各マイクロチャネルは、検出器バイアス電圧に維持された連続ダイノード型電子増倍管であってよい。
【0011】
イオンがマイクロチャネルの側面に接触すると(これが起こる可能性は、配置されたマイクロチャネルに付いているわずかな角度によって増える)、バイアス電圧によって促進されるそのマイクロチャネルの反応として、電子カスケードが始まりうる。電子カスケードがマイクロチャネル内を伝搬することにより、元のイオン検出信号の強度が、バイアス電圧の振幅、およびマイクロチャネルの形状(たとえば、長さ)に応じて大幅に増幅されうる。マイクロチャネルから出た電子カスケードは、過渡パルス形状の全イオン電流を形成し、これは、適切な電子部品(最も単純な形式は金属アノード)によって検出可能である。マイクロチャネルは、前のイオン事象からの電子カスケードがなくなるほど十分な時間が経過するまで、新たなイオン事象を検出する動作を行うことができなくてもよい。これに対し、MCP検出器は、検出可能なイオン事象があるたびに、対応する過渡パルスを生成し、これらが、検出可能なイオン事象の系列に対して一緒になって、下流処理に送られる検出信号の系列を形成しうる。この検出信号系列は、(検出器に接触するイオンの系列に対応する)時間と、(複数の平行な検出器プレートに対応する)空間との両方の次元を有しうる。
【0012】
TOFMSのための検出信号系列を処理する検出器に、1つ以上のデジタル変換器を結合することが可能である。イオン検出器に結合可能なデジタル変換器は2タイプあり、それらは、アナログデジタル変換器(ADC)と時間デジタル変換器(TDC)である。ADCの動作は、一定時間間隔で検出信号をデジタル化して、時刻および強度の情報を取得することである。たとえば、過渡パルスのタイミングは、イオンが検出器に到達した時刻の指標を与える。そして、デジタル化された信号の出力レベルは、イオン束強度を表す、過渡時の電流の指標を与えうる。当然のことながら、出力された量子化レベルから強度情報を抽出することは、ADCの入力信号利得および他の動作パラメータの影響を受けてもよい。
【0013】
これに対し、TDCは、検出信号中の過渡パルスの振幅を直接は検出しないのが普通であるが、並列動作する2つ以上のTDCを、それを行うように構成することは潜在的に可能であってもよい。その代わりに、TDCは、通常動作時に、過渡パルスの存在を単純に検出し、過渡パルスの到達時刻を記録する。したがって、TDCは、内部クロック信号の各時間間隔において、(null事象に対応する)デジタル「0」または(イオン事象に対応する)デジタル「1」を出力する。TDCがデジタル「1」が示した場合には、対応する過渡パルスの到達時刻が記録され、出力される。TDCによって生成されたデータフローが、通常は、ADCによって生成されたデータフローより著しく少ないことは容易に理解される。これは、TDCが、過渡パルスの検出時にのみ出力を行うのに対し、ADCは、連続的なデータフロー(たとえば、ADC入力信号をデジタル化したもの)を出力するからである。多くの場合は、TDCをトリガするのに弁別器を用いる。これは、タイミングをより正確にするためであり、かつ、検出器において、所定のノイズ閾値を超える過渡パルスだけがTDCによってイオン事象として検出されるようにするためである。TDCがADCより好まれ得るのは、イオン束が少ない低速TOF用途の場合、またはコンピューティングリソースが乏しい場合である(これは、部分的には、TDCのデータスループットが低いため)。しかしながら、後述するように、ADCのデータスループットを下げる技術も存在する(ただし、それでも、TDCと比較すれば概して大きい)。
【0014】
TOF用途のためのデジタル変換器の性能指標としては、データスループットレートのほかに、タイミング分解能と、ダイナミックレンジとがある。タイミング分解能は、デジタル変換器が検出できる多様なイオンピークの最小時間間隔を意味し、これは、デジタル変換器のクロックレートと関係がある。ダイナミックレンジは、デジタル変換器が同時に検出できるイオン強度の範囲を意味し、これは、下限強度および上限強度によって指定される。多くの場合、これらの性能指標は、個々のTOF用途によって異なる、相互のトレードオフになる。一般的には、ADCは、測定可能なイオン束の上限強度がTDCより高く、TDCは、タイミング分解能がADCよりすぐれている。たとえば、現在の技術によれば、50ピコ秒のタイミング分解能、さらには25ピコ秒のタイミング分解能は、TDCとしては珍しいことではない。一方、ADCのタイミング分解能は、より典型的には、1桁程度大きく、たとえば、約500ピコ秒である。ただし、測定可能なイオン束に関しては、ADCを使用する場合の2〜3桁高くなるのは珍しいことではない。さらに、ADCの技術は進歩し続けているので、タイミング分解能も向上することが期待される。ただし、ADCを用いて非常に高いタイミング分解能を実現することは、現状では、かなり高コストになりがちである。
【0015】
上述のように、MCP型検出器のようなイオン検出器は、検出器におけるイオン事象(すなわち、イオンまたはイオン群の到達)を表すべく電気パルスを生成することによって動作しうる。場合によっては、生成される電気パルスの幅は、同種のイオン(すなわち、同じm/z比を有するイオン)の群の到達時刻の分布より大きくなる。言い換えると、特定のm/z比を有するイオン群が飛行時間型計器のドリフトチャンバに投入された場合、群を形成する個々のイオンの飛行時間は、厳密に同一ではない可能性がある。結果として、これらのイオンは、ある有限の時間窓の範囲で分散して検出器に到達する。ただし、部分的には検出器の実際的な制限のために、イオン群の到達を示すために生成された電気パルスは、そのイオン群の到達分布より広くなる可能性がある。この状況を、図1のグラフ10に示した。グラフ10のx軸は、(ナノ秒単位の)時刻を表しており、y軸は、(任意単位の)電流を表している。図1からわかるように、代表的な検出信号における電気パルス12の幅は、約2ナノ秒である。パルス幅の測定には、たとえば、半値全幅(FWHM)を用いる。一方、図1にTDCヒストグラムとして示した、そのm/z比を有するイオン群の到達時刻分布14は、約0.6ナノ秒である。明らかに、電気パルス12は、到達時刻分布14より広い。
【0016】
したがって、TOF用途では、タイミング分解能に優れるTDCが、ADCより選択されうる。しかしながら、飛行時間スペクトルの記録のためにTDCを単独使用することは、すぐれたタイミング分解能と引き換えに、リーズナブルな価格のADCを単独使用して得られるダイナミックレンジに比べて、ダイナミックレンジをある程度犠牲にすることになり得る。イオン強度が高い場合にTDCのダイナミックレンジが制限されることは、たとえば、実際のTOF用途のうち、有効な飛行時間抽出の数が限定される場合には、影響が大きい要因になる可能性がある。上述のように、個々のTDCは、典型的には、各時間間隔において、(検出されたイオン事象に対応する)デジタル「1」か、(null事象に対応する)デジタル「0」しか出力しない。結果として、TDCによって提供されるダイナミックレンジは、選択された検出器トポロジ(具体的には、セットアップにおける並列検出器プレートの数)によって制限される傾向がある。一般に各TDCは単一のイオン事象を検出するだけなので、対応する検出器プレートに接続する単独TDCチャネルの数を増やすことにより、TDCのダイナミックレンジの上限を拡大することが可能である。すべての検出器プレートにおいてイオン束がほぼ同数であると仮定すると、検出可能なイオンの数は、(それぞれが単独TDCと結合された)並列検出器プレートの数に大まかに比例して増える。後で詳述するように、統計的補正アルゴリズムを適用して、1つ以上のTDCにおけるイオン飽和を補償することも可能であるが、そうすることは、TDCのダイナミックレンジをその分だけ拡大することに過ぎない。TDCで可能なダイナミックレンジの一例として、TOF質量分析計が10kHzの飛行時間抽出頻度で動作していて、個々の飛行時間スペクトルの可能な生成頻度が約10〜100スペクトル毎秒であるとすると、スペクトルあたり約100〜1000回抽出した複合質量スペクトルを生成することが可能であり、対応するダイナミックレンジは約100〜1000である。比較として、同じ動作パラメータを仮定すると、ADCのダイナミックレンジは、上限強度が約2桁高くなる。
【0017】
デュアルTDC−ADC検出
本発明の実施形態の態様によれば、飛行時間型質量分析計システムにおいて、検出器で生成された検出信号から時刻および強度の情報を抽出するために、TDCとADCをタンデムで用いることができる。低強度イオンを検出する場合、あるいは、イオン強度がTDCのダイナミックレンジに収まる飛行時間スペクトルの領域においては、(たとえば、1つ以上のTDCを含む)高タイミング分解能デジタル変換器によって生成される高タイミング分解能データストリームを用いることができる。イオン強度が高い場合には、イオンピークが多数存在する場合の強度およびピーク形状の測定値を含む低タイミング分解能データストリームを提供するために、あるいは、イオン強度が高すぎるためにTDCを飽和まで駆動しないと測定できない飛行時間スペクトルの領域において、(たとえば、1つ以上のADCを含む)低タイミング分解能デジタル変換器を用いる。高タイミング分解能デジタル変換器の高いタイミング分解能は、どのような場合でも、低タイミング分解能デジタル変換器の低いタイミング分解能の2倍から5倍以上となりうる。さらに、強度情報を得るためにADCを使用する場合でも、TDCを同時使用してタイミング分解能を強化することも、これらの場合には可能である。
【0018】
ダイナミックレンジの拡大のためにマルチチャネル検出器および対応する複数のTDCを用いる場合、ADCに供給される検出信号は、すべての検出器チャネルにわたって取得されたものの総和(場合によっては重み付き総和)として抽出することが可能である。あるいは、マルチチャネル検出器からの個々のチャネルのそれぞれを、マルチチャネルADC(または、おそらくは複数の独立したADC)のそれぞれの入力チャネルに供給することが可能である。しかしながら、コストを考慮すると、合計された検出信号を単一ADCに供給するほうが有利であってもよい。これは、ADCのチャネル当たりコストがTDCのチャネル当たりコストより格段に高い場合が多いためである。したがって、マルチチャネルTDCと単一チャネルADCとの組み合わせが、より経済的なソリューションを与えることになるであろう。もちろん、マルチチャネルTDCとマルチチャネルADCとの組み合わせも機能しうるが、コストがかさむ可能性がある。単一チャネルTDCを、単一チャネルADCと組み合わせることも可能である。
【0019】
一方では1つ以上のTDCからの高タイミング分解能データストリームを用い、他方ではADCからの低タイミング分解能データストリームを用いる組み合わせ戦略は、関心対象データが何であるかによりけりである。たとえば、本システムのユーザの関心対象となりうるデータには、少なくとも2つのタイプがあり得る。1つのデータタイプは、ピークリストである。これは、イオンのm/z比と、個々の飛行時間スペクトル(または複合飛行時間スペクトル)から生成された、対応する強度とのテーブルを含む。別のデータタイプは、一般に抽出イオン電流/クロマトグラム(XIC)と呼ばれるものであって、これは、あらかじめ定義されたm/z範囲にわたって積分されたイオン強度を含む。XICにおける典型的な前提は、イオン強度が、飛行時間抽出(パルス生成)頻度に対して変化が緩やかであり、したがって、複数の連続する飛行時間抽出にわたってほぼ一定である、ということである。XICは、選択イオン監視(SIC)と呼ばれることもある。
【0020】
TOF用デュアルTDC−ADC検出システムの性能パラメータ
TOFMSとともに使用するデュアルTDC/ADC検出システムの理論的性能は、少なくとも、以下に挙げるパラメータと、他の技術的問題とに依存し得る。
【0021】
時間デジタル変換器
TDCの性能パラメータの1つとして、並列TDCチャネルの数があり、これは、検出器チャネルの数に対応する。すべての検出器チャネルを通過するイオン束がほぼ同数であると仮定すると、マルチチャネル検出器を与え、その各チャネルを別々のTDCと結合することにより、理論上は、TDCのダイナミックレンジを大幅に拡大することが可能である。個々のTDCのそれぞれは単一イオン事象を検出することしかできないので、検出器を分割して並列検出器のアレイにすることにより、新たなイオン事象を検出して強度計算に盛り込むことが可能になる。そこで、以下の説明では、マルチチャネル検出器の各チャネルが平均でほぼ同数のイオン束を受けること、すなわち、すべての検出器プレートにおいてイオン束の分布が均一であることを前提とする。
【0022】
TDCが飽和し始めると、TDCのダイナミックレンジは限界に近づく。複数の並列TDCを構成した場合は、ほぼ同数のイオン束を受けている各TDCがそれぞれ別々に飽和し始めると、ダイナミックレンジが限界に近づく。TDCの飽和は、TDCが新たなイオン事象を正確に検出できなくなる状態を意味する。TDC検出チャネルにおける飽和の影響は、ある程度までなら、飽和補正アルゴリズム(たとえば、後述するもの)を用いて補償することが可能である。一般に、飽和補正は、検出器に実際に接触したイオンの数の推定値を計算することを含み、これは、いくつかあるパラメータのうちでも特に、飛行時間抽出の数、およびTDCによって記録されたnull事象(デジタル「0」)の数に基づいて行う。記録されたnull事象の数が少なければ、TDCが飽和しているか、少なくとも飽和に近づいていることになる。言い換えると、正確な推定値を得るためには、最小限の数のnull事象が記録されていることが必要となル場合がある。したがって、null事象の数が少ないことは、飽和の証左であるとともに、推定値を不正確にする可能性がある。推定値が正確であるための、null事象の最小限の数は、許容誤差パラメータを計算に組み込むことにより、規定することが可能である。
【0023】
一例として、飽和限界近くの測定されるイオンの数を推定する式の1つが、次のように与えられる。
【数1】

ただし、Nは、指定された時間窓に入った入射イオンの推定数であり、Nは、飛行時間抽出の数であり、Nは、指定された時間窓に入った、記録されているnull事象の数である。ここでも、式(1)がNを正確に推定できるのは、Nが許容誤差パラメータに適合している場合だけであってもよいことに注意されたい。式(1)は単一のTDCに当てはまるが、修正すれば、複数の並列TDCにも適用可能である。式(1)は、異なるいずれかのm/z比を有するイオン群ごとに別々に計算することも可能である。複数のTOF抽出Nに対しては、TDCは、そのm/z比を有するイオンが検出器に到達した時点で、イオン群が検出されたかどうかに応じて、null事象(デジタル「0」)またはイオン事象(デジタル「1」)を検出する。したがって、すべての飛行時間抽出Nにわたって、TDCは、N個のnull事象を測定し、これに応じて、時間窓内のN−N個のイオン事象を測定する。これは、TDCが検出するのが「0」または「1」であるためである。しかしながら、検出されたイオン事象がN−N個のみであったとしても、検出器に接触したイオンはN−Nより多い可能性がある。理論上は、複数のイオンを巻き込みうるイオン事象がある一方で、検出器の不感時間中に起こったと思われるイオン事象もあると考えられる。式(1)は、検出器に接触したイオンの数を推定する。したがって、TDCは、抽出時に、異なるいずれかのm/z比を有する各イオン群に対し、抽出ごとに単一イオンしか検出できなくても、式(1)は、N>Nを計算しうる。数値の一例として、飛行時間抽出が1000回で、記録されているnull事象が100あるとすると、式(1)は、Nが約2300であると推定する。これは、Nの2倍を超える大きさである。明らかに、TDCのダイナミックレンジは、飛行時間抽出の数Nと、適用された飽和補正アルゴリズムとの両方に依存しうる。もちろん、式(1)が唯一の可能な飽和補正アルゴリズムというわけではなく、他のアルゴリズムも実施可能である。
【0024】
アナログデジタル変換器
本発明の実施形態の態様によれば、少なくとも以下のパラメータが、ADCの理論的性能(ダイナミックレンジを含む)に影響を及ぼしうる。
【0025】
理論的性能に影響を及ぼす第1のパラメータは、ADC内のビンの数である。典型的なADCの動作は、入力レベル(または「ビン」)のアレイを用いてアナログ信号を量子化することにより、標本化されデジタル化された信号を生成することである。ADCを特徴付けうるのは、その入力信号範囲、入力バイアス、入力レベル数、および適用される量子化ステップサイズである。これらのパラメータは、相互に関係しているのが普通である。すなわち、入力レベル数に量子化ステップサイズを乗じることにより、入力信号範囲の大きさが規定され、入力バイアスは、最も小さい量子化可能信号に関連付けられる。なお、量子化ステップサイズは固定でなくてもよく、ADCによっては、順次量子化ステップサイズを利用して入力信号範囲を拡大する。
【0026】
ADCのビン数は、ADCのビット精度に関連付けられる。標本化されデジタル化された信号は、2進符号化されるため、N=2は、デジタル化信号にbビット精度を与えるために必要なビン数Nを推定する。たとえば、多くの高速用途で使用される一般的な8ビットADCのビン数は256ほどである。しかしながら、ADCビンのいくつかはベースライン変動に関する情報を記憶することに割り当てられている場合があり、256個のビンのすべてを使用することは実際には困難な場合がある。
【0027】
理論的性能に影響を及ぼす別のパラメータは、1回のADC測定の無相関ノイズである。実際のアナログ信号には、ノイズがつきものである。有意なノイズがチャネルに存在する場合、ADCは、そのアナログ入力信号を誤った量子化レベルに量子化する可能性があり、これによって、出力信号にノイズ誤差が生じる可能性がある。イオン検出信号の場合は、ADCから提供される強度測定値が、ノイズ誤差によって不正確になる。無相関ノイズパラメータは、ADCの入力チャネルに常に存在するノイズを表すパラメータであり、言い換えると、いかなる時点、またはチャネルで発生しているいかなる事象とも相関がないノイズ(すなわち、ランダムチャネルノイズ)を表すパラメータである。この無相関ノイズの典型的な値は、単一チャネルにおける1回の抽出に対して1ビンである。したがって、無相関ノイズの存在に起因して、ADCは、検出信号を、無相関ノイズがない場合より、1ビン高く(または低く)量子化する可能性がある。理論上、イオン過渡事象が合計される場合には、無相関ノイズは、抽出数の平方根とともに増える。これは、1回の抽出で2つの過渡事象が並列チャネル全体にわたって合計される場合に当てはまるが、別々の2回の抽出からの2つの過渡事象が合計される場合にも当てはまる。
【0028】
ADCの理論的性能に影響を及ぼす第3のパラメータを構成するのは、相関ノイズである。無相関ノイズと異なり、相関ノイズは、ADC入力チャネルにあるノイズを意味しており、その大きさは、時間とともに、あるいは特定の飛行時間事象(たとえば、イオン検出事象)に対する応答として、変化する。たとえば、ADCにおけるバックグラウンドデジタル動作は、相関ノイズとして現れる可能性がある。相関ノイズは、一般に、記録されている過渡事象が1つであれば、無相関ノイズより格段に小さい(たとえば、桁違いに小さい)傾向がある。しかしながら、相関ノイズは、合計された過渡事象の数に比例して大きくなり、したがって、十分な数のイオン過渡事象が合計された場合には、データの精度に影響を及ぼし始める可能性がある。原理上は、ADCの測定値中の相関ノイズの量を測定して、それらを除去することが可能である。ただし、ADCの相関ノイズの量には多様な要因(たとえば、ベースラインドリフト、ADCの応答の温度変化など)が関与している可能性があるため、相関ノイズを完全に除去することは、現実的には不可能(あるいは、そもそも不可能)となる場合がある。ある程度の相関ノイズは、存続してもよい。
【0029】
ADCの理論的性能に影響を及ぼす第4のパラメータは、平均イオン応答である。ADCビンに関する本文脈での定義では、このパラメータは、ADCの出力量子化レベルを、対応するイオン強度に変換することに用いる。言い換えると、ADCビンに関しては、平均イオン応答を用いて、単一m/z比の単一イオンが検出器に到達して生成された、記録されている過渡パルスの平均振幅を具体的に示すことができる。これは、ある意味では、記録されている過渡パルスの振幅から、過渡事象中のイオン数を特定することに用いる、測定の基本単位を与える。なお、平均イオン応答は、様々なシステムパラメータに依存し、それらによって制御することが可能である。一例では、ADCの入力利得(信号の増幅/減衰)を変えると、ADCの平均イオン応答に影響があるが、TDCチャネルに対しては、これに相当する影響はない。この例では、本発明の態様によれば、ADCの測定可能な入力信号範囲を増やすために、ADCに減衰器を設けて、デジタル化の前に減衰率を適用することが可能である。ADCの平均イオン応答に影響を及ぼす他のシステムパラメータが、TDCの平均イオン応答にも影響を及ぼす場合がある。たとえば、検出器のバイアス電圧を調節することにより、結果として得られる検出信号のソースにおいて、その検出信号の大きさに影響を及ぼすことが可能である。検出信号系列は、TDCおよびADCの両方に与えられるため、この例では、両方のデジタル変換器において平均イオン応答がどのような影響を受けるかについて理解されたい。
【0030】
ADCの理論的性能に影響を及ぼすさらに別のパラメータは、イオン検出における最低限の信号対ノイズ(S/N)比である。このパラメータは、ADCが許容できる最低限のデータ品質を決定する基準を与える。最低限のS/N比を有するデータは、許容可能として検出することができ、最低限のS/N比に満たないデータは、信頼できないとして破棄することができる。たとえば、ADCによる正確な検出に必要な最低限のイオン数は、(上述の)平均イオン応答値と、(やはり上述の)無相関ノイズおよび相関ノイズの推定値の平方平均または二乗平均平方根として生成されるノイズ推定値との組み合わせを用いて規定することが可能である。
【0031】
本発明の実施形態のいくつかの態様によれば、ADCのデータは、最もシンプルな処理(すなわち、複数の検出器チャネルにわたる過渡事象の合計)だけを受けてもよく、この場合、ADCは、過渡事象記録を積分するモードで動作する。もちろん、より最近のADCでは、オンボード処理モジュールまたは専用外部処理モジュールを含むことによって支援される他のデータ処理も利用可能になりつつある。
【0032】
ADCおよびTDCのダイナミックレンジの制御
本発明の実施形態の態様によれば、デュアルTDC−ADC検出方式を用いるシステムおよび方法において、TDCおよびADCのそれぞれのダイナミックレンジを制御するために、上述の理論的性能パラメータを選択することが可能である。いくつかの実施形態によれば、TDCおよびADCのダイナミックレンジは、以下の条件の少なくとも一部またはすべてを満たすように制御することが可能である。第1に、単一イオン事象とは対照的に、検出器に同時に到達する多数のイオンによって引き起こされる高いイオン束に対して、ADCのダイナミックレンジが最適化される。第2に、検出器における低いイオン束および単一イオン事象に対して、TDCのダイナミックレンジが最適化される。第3に、イオン束の特定の範囲においてADCおよびTDCのダイナミックレンジが部分的に重なり合うことにより、組み合わされた検出システムのダイナミックレンジが、それぞれのタイプの検出器が単独で測定できるダイナミックレンジより広くなる。部分的に重なり合うことにより、特定の範囲のいかなる入射イオン強度も、ADCおよびTDCの少なくとも一方を用いて正確に測定できるようになるはずである。
【0033】
そのようなデュアルTDC−ADC構成では、ADCは、許容可能なS/Nノイズ比を有する単一イオン事象を検出するように動作可能でなくてよい。同様に、TDCは、飽和することなく大きなイオン束を記録するように動作可能でなくてよい。したがって、ADCは、TDCが検出するように動作可能である低いほうのイオン強度範囲の上方におおむね位置する高いほうのイオン強度範囲を検出するように動作可能である。ただし、(TDCの)低いほうの強度範囲の上限が、(ADCの)高いほうの強度範囲の下限より高く位置しうるため、2つのデジタル変換器のダイナミックレンジは、部分的に重なり合う。デュアルTDC−ADC検出によって達成される組み合わせダイナミックレンジが、それぞれのタイプの検出器が単独で達成できるダイナミックレンジを超えるのは明らかである。上述のように、上述の性能パラメータの少なくとも一部またはすべてを、組み合わせダイナミックレンジが最適化されるように選択することが可能である。後で詳述するように、飛行時間抽出の数は、ダイナミックレンジを制御するための、別の選択可能なパラメータを与える。
【0034】
次に図2を参照する。図2は、本発明の実施形態の態様による、デュアルTDC−ADC検出システムについて計算された例示的検出限界を示している。図2のグラフ20は、x軸が、TOF抽出数を表しており、y軸が、検出されたイオンの数を表している。曲線22は、TDCのダイナミックレンジの下限を表しており、曲線24は、対応する上限を表している。同様に、曲線26は、ADCのダイナミックレンジの下限を表しており、曲線28は、対応する上限を表している。したがって、曲線22および24は、デュアルTDC−ADC検出システムの低いほうの強度範囲を定義してもよく、曲線26および28は、対応する、高いほうの強度範囲を定義してもよい。
【0035】
TDCのダイナミックレンジの下限22は、TDCによるピーク識別が可能な最低限のイオン数を表している。この最低限の数は、用途によっては1でよいが、用途によっては、測定精度の信頼度を上げるために、より高くしてもよい(たとえば、5から10)。ノイズ閾値を適切に選択することにより、null事象を確実に検出するように、TDCを構成することが可能である。TDCのダイナミックレンジの上限24は、大まかには、少なくとも、並列TDCチャネルの数と、検出器に到達するイオンの数を推定するために用いられる飽和補正アルゴリズム(たとえば、前述の式(1))に関して指定される許容誤差パラメータとに依存する。なお、曲線24は、多少非線形であって、TOF抽出数とともに増加する。
【0036】
ADCの場合、ダイナミックレンジの下限26は、総累積ノイズに依存する。これは、上述の過渡事象記録を積分する方式にADCトレースを追加することと、正確な測定のために特定の最低限のS/N比を規定しておくこととが前提である。取得されたデータにおけるノイズの相対的な影響は、TOF抽出数が多い部分に比べて、TOF抽出数が少ない部分で、より顕著でありうる。したがって、曲線26は、TOF抽出数が多い部分より、TOF抽出数が少ない部分で、より非線形であって、より平坦に近く、TOF抽出数が多い部分では、曲線26は、まっすぐであり、勾配がより大きい。ADCのダイナミックレンジの上限28は、1回の抽出で検出可能なイオンの最大数に抽出数を乗じたものを表すことができ、上述のように、ADCの信号利得、平均イオン応答、およびノイズに依存する。したがって、曲線28は、ADCのダイナミックレンジの上限が本質的にTOF抽出数に線形依存しうることを示している。TOF抽出数が多い部分では、ノイズの影響が主に相関ノイズに起因しており、曲線26および28は、ほぼ平行になり始める。
【0037】
図2に示したように、曲線24と曲線26は点26で交差しており、これは、高タイミング分解能データ変換器の低いほうの強度範囲と、低タイミング分解能データ変換器の高いほうの強度範囲とが部分的に重なり合う、最低限のTOF抽出数を示している。すなわち、交差点29から、(TDCの)低いほうの強度範囲の上限を表す曲線24が、(ADCの)高いほうの強度範囲の下限を表す曲線26の上方にある。TOF抽出数が、交差点29で規定される最低限の数を下回る部分では、2つのダイナミックレンジは重なり合わず、少なくともそれらの性能パラメータの場合は、デュアルTDC−ADC検出は、2つのダイナミックレンジの間に入るイオン束を測定するには不十分ということになりうる。交差点29の位置は、間接的に制御可能であり、これは、上述の性能パラメータを用いて曲線22、24、26、28の軌跡を制御することにより可能である。上述の性能パラメータは、TOF抽出数とともに、本発明の実施形態の態様による、デュアルTDC−ADC検出器の組み合わせダイナミックレンジの調節に用いる一連の制御パラメータを表している。図2で特に注目すべきは、TOF抽出数が制御パラメータでもあるという事実である。図2に示したように、交差点29は、TOF抽出数が約100の場所に位置しており、これは、範囲同士が部分的に重なり合うための最低限のTOF抽出数を表している。ただし、検出器の技術が進歩し続け、イオン抽出頻度が増えるにつれて、この数を多少なりとも下げることが可能になることが期待される。もちろん、理論的最低限は、1回のTOF抽出で部分的に重なり合うことである。
【0038】
デュアルTDC−ADC検出システム
次に図3を参照する。図3は、本発明の実施形態の態様によるデュアルTDC−ADC検出システム30の概略図である。検出システム30では、イオン源から発せられ、電界発生器36によって加速されるイオンを、検出器32が検出する。これらのイオンは、無電界ドリフトチャンバを通って検出器32に向かう。図に示したように、検出器32は、4枚の検出器プレート34を含んでいるが、検出システム30は検出器プレートを、4枚に限らず、何枚含んでもよい。たとえば、検出器32は、検出器プレート34を1枚だけ含んでよく、5枚以上含んでもよい。上述のように、TOFMSでは、様々なm/z比を有するイオンが、複数のイオン群の系列として、それぞれ異なる飛行時間で無電界ドリフトチャンバを通って検出器32に到達する。イオン群系列における各イオン群は、異なるいずれかのm/z比で特徴付けられてもよく、そのm/z比を有するイオンだけを含んでいてもよい。ある回の飛行時間抽出に含まれるイオンは、異なる複数のm/z比を有するイオン同士が一緒になっている可能性がある。デュアルTDC−ADC検出システムは、これらに対応する複数のイオン強度を特定するように動作可能であり、その各強度値は、複数のm/z比のうちの異なるいずれかのm/z比を有する各イオン群に対応している。
【0039】
各イオン群が検出器プレート34に到達すると、検出器32は、イオンの飛行時間および強度を表す電気パルス(たとえば、過渡パルス)の形の検出信号を生成する。この過渡パルスのタイミングは、イオンの飛行時間を表すことができ、その高さは、イオン束の強度の推定に用いることができる。検出器32は、検出信号(すなわち、過渡パルス)の系列を、各飛行時間抽出におけるすべてのイオン群にわたる時刻の関数として、かつ、場合によっては、飛行時間収集操作におけるすべての飛行時間抽出にわたる時刻の関数として、生成する。検出信号系列はまた、検出信号のマルチチャネル系列も含んでよい。そして、検出信号系列は、1つ以上の処理ユニットによる下流処理のために、信号バス38に出力される。図3に示したように、バス38は、4つの独立したチャネルを含んでおり、それぞれが検出器32の各検出器プレート34に対応している。しかしながら、信号バス38内のチャネル数は可変であって、検出器32の検出器プレート34の数と1対1で対応していなくてもよい(典型的には、1対1で対応している)。
【0040】
信号バス38は、信号分岐40で、高タイミング分解能データ分岐に分配される。信号線42は、検出器32の出力を、高タイミング分解能データ分岐にある高タイミング分解能デジタル変換器の入力と結合することができる。実施形態によっては、高タイミング分解能デジタル変換器は、弁別器44と、1つ以上の時間デジタル変換器を含むTDCモジュール46とを含んでいる。ここでの説明のために、「マルチチャネルTDC」および「1つ以上のTDC」という用語を区別せずに用いてよいものとし、ならびに、両方とも本発明の範囲に含まれるものとする。検出器32によって生成された検出信号系列は、信号分岐40において、高タイミング分解能分岐の検出信号として分配され、弁別器44の入力において受信される。
【0041】
弁別器44を用いて、高タイミング分解能分岐の検出信号のうちの過渡パルスごとに、おおよそのパルスの中心を特定して、対応するトリガ信号をTDCモジュール46に出力することによって、TDCモジュール46をトリガすることができる。トリガ信号の前縁は、過渡パルスの中心時刻に対応する。たとえば、弁別器44は、ピーク検出方法を用いて、各過渡パルスの中心時刻を推定することができる。定比率弁別器(CFD)は、当業者には周知の方式でピーク検出を行う。弁別器44は、CFDを用いるように実装可能であるが、他のタイプの弁別器も代替として使用可能であり、本開示の範囲に含まれる。
【0042】
弁別器44の出力は、TDCモジュール46の入力と結合されている。図3に示したように、TDCモジュール46は、N個の独立した時間デジタル変換器を含んでおり、それぞれに専用チャネル入力がある。これに対応して、弁別器44には、N個の別々のトリガ信号を生成するN個のチャネル出力がある。典型的には、TDC46内の独立した時間デジタル変換器の数も、検出器32に含まれる検出器プレート34の数と1対1で対応するが、この対応関係は1対1でなくてもよい。ただし、少なくともそのように時間デジタル変換器が多数あれば有利でとなりうる。検出器システム30のそのような構成では、たとえば、余分な時間デジタル変換器を単純に無効にしたり、組み合わせたりすることが可能である。たとえば、図3に示した実施形態では、TDCモジュール46は、4つの時間デジタル変換器を並列に含んでおり、それぞれが、4つの検出器プレート34および信号バス38の4つのチャネルのそれぞれに対応する。TDCモジュール46に含まれる時間デジタル変換器の数は、上述のように、検出システム30の時間デジタル変換部分のダイナミックレンジと関係がある。
【0043】
弁別器44によって所与の出力チャネルに出力される各トリガ信号を受けて、TDCモジュール46内の各時間デジタル変換器は、検出器32の各検出器プレート34でイオン事象が検出されたことを示すデジタル「1」を記録する。TDCモジュール46は、トリガされると、トリガ信号の前縁に関連付けられた時刻値を記録する。トリガ信号の前縁は、高タイミング分解能分岐の検出信号のうちの過渡パルスのおおよその中心時刻に対応する。このようにして、TDCモジュール46は、検出器32で検出されたイオン群ごとに到達時刻を記録し、この到達時刻は、無電界ドリフトチャンバを通過するイオン群の出発時刻を基準とすることにより、飛行時間に変換されうる。なお、弁別器44およびTDCモジュール46は、図3では、独立した構成要素として示したが、実施形態によっては、高タイミング分解能デジタル変換器にまとめて含まれてよい。さらに、高タイミング分解能デジタル変換器には、高速オンボードプロセッサおよび関連デバイスメモリを含めることも可能である。後で図5を参照しながら詳述するように、一代替実施形態では、TDCモジュール46の代わりに、TDCモードで動作するADCモジュールを使用してもよい。あるいは、TDCの代わりに1ビットADCを使用し、これに対して弁別器44が同等のトリガを与えることが可能である。
【0044】
高タイミング分解能データ変換器は、次のように、高タイミング分解能データストリームを生成するように動作可能である。飛行時間抽出において検出器32がイオン群を検出するたびに、過渡パルスが生成されて、信号線42のいずれかのチャネルにある高タイミング分解能デジタル変換器に送信される。弁別器44は、この過渡パルスをトリガ信号に変換し、このトリガ信号を受けて、TDCモジュール46内の対応する時間デジタル変換器が、デジタル「1」および関連付けられた時刻値を記録する。したがって、検出器32がイオン群を検出するたびに、高タイミング分解能デジタル変換器は、検出信号系列の中から少なくとも1つの関連付けられた検出信号を特定し、時刻および強度情報を記録する。この少なくとも1つの関連付けられた検出信号は、そのイオン群の検出時に検出器32によって生成される。
【0045】
高タイミング分解能データ変換器は、飛行時間収集操作における複数の飛行時間抽出にわたって、異なる複数の飛行時間抽出に含まれながら同じm/z比で特徴付けられるイオン群の時刻および強度の情報を記録することができる。異なるいずれかのm/z比ごとに、そのm/z比を有するイオン群に対するすべての飛行時間抽出にわたって記録された時刻および強度の情報は、それらのm/z比に対応する複数の時刻および強度のペアを生成するように処理されうる。たとえば、高タイミング分解能データに対して動作する、適切に構成されたプロセッサが、それぞれの時刻および強度のペアを生成することが可能である。このペアのうちの時刻値は、そのイオン群の平均飛行時間を表し、このペアのうちの強度値は、複数の飛行時間抽出におけるそのイオン群の相対強度を表す。各m/z比について、対応する時刻および強度のペアを生成することにより、複数の時刻および強度のペアが生成され、この中のそれぞれの時刻および強度のペアは、これらのイオンの複数のm/z比のうちの異なるいずれかのm/z比に対応する。なお、高タイミング分解能デジタル変換器がマルチチャネルTDCを含む場合は、時刻および強度の情報をすべてのチャネルにわたって積分することも可能である。
【0046】
時間デジタル変換器は、典型的には、1つ以上の水晶発振器および時間補間器を用いて時間間隔を計数する。TDCのデータスループットが低いため、水晶発振器のクロック周期は、通常はかなり高速であり、これによって、TDCが高分解能時間間隔で時刻情報を記録することが可能になる。したがって、所与の時刻および強度のペアのうちの強度値は、複数の高分解能時間間隔にわたって測定された複数の、低いほうの強度範囲の強度から特定されうる。しかしながら、注目すべきことに、1つの過渡パルスについて時刻および強度の情報を記録することは、通常は、TDCモジュール46の複数の高分解能時間間隔にわたって続く。より具体的には、弁別器44が生成するトリガ信号の前縁は、過渡パルスの中心時刻と時間同期しているが、トリガ信号自体は、有限の幅を有してもよく、特に、TDCモジュール46の高分解能時間間隔よりかなり広い場合がある。このトリガ信号によって時間デジタル変換器がクリアされるまで、時間デジタル変換器は、新たな過渡パルスの検出動作を行うことができない場合がある。しかしながら、高タイミング分解能デジタル変換器は、一般に、多数の多様な高ピークを分解するように構成可能であり、特にそれらの高ピークが複数のTOF抽出にわたって平均される場合に対して可能である。
【0047】
なお、ここで述べた高タイミング分解能デジタル変換器の処理ステップは、実施形態によっては、デュアルTDC−ADC検出システム30の他の好適な構成要素によって実施されてよい。たとえば、実施形態によっては、上述の処理ステップの少なくとも一部を、後で詳述するメインプロセッサ56に実施させるように構成することが可能である。したがって、複数の質量対電荷比(m/z比)の各m/z比について、連続する複数の飛行時間抽出から生成された、対応する時刻および強度のペアを積分して、質量スペクトル中のピークを表す複数の時刻および強度のペアを特定することにより、高タイミング分解能データストリームを処理するように、メインプロセッサ56を構成することが可能である。同様に、高タイミング分解能デジタル変換器の複数の信号チャネルにわたって時刻および強度の情報を積分して、複数の時刻および強度のペアを生成するように、メインプロセッサ56を構成することが可能である。あるいは、高タイミング分解能デジタル変換器に関連付けられた変換プロセッサ(たとえば、オンボードプロセッサまたは専用外部プロセッサであってよい)を用いて、ここで述べた処理ステップの少なくとも一部を、メインプロセッサ56との連係動作で実施することが可能である。実施形態によっては、メインプロセッサ56は、高タイミング分解能デジタル変換器に関連付けられた変換プロセッサを含んでよい。
【0048】
信号バス38はまた、信号分岐40で、低タイミング分解能データ分岐にも分配される。信号線50は、検出器32の出力を、低タイミング分解能データ分岐にある低タイミング分解能デジタル変換器の入力と結合することができる。実施形態によっては、低タイミング分解能デジタル変換器は、アナログ加算モジュール48と、1つ以上のアナログデジタル変換器を含むADCモジュール52とを含んでいる。ここでの説明のために、ここでも、「マルチチャネルADC」および「1つ以上のADC」という用語を区別せずに用いてよいものとし、かつ、両方とも本発明の範囲に含まれるものとする。検出器32によって生成された検出信号系列は、信号分岐40において、低タイミング分解能分岐の検出信号として分配され、アナログ加算モジュール48の入力において受信される。
【0049】
アナログ加算モジュール48は、いくつかの入力チャネルを含むことができ、これらは、検出器32の検出器プレート34の数、ならびに信号バス38に含まれるチャネルの数と1対1で対応しうる。ただし、アナログ加算モジュール48は、信号バス38に含まれるチャネルの一部とだけ結合してもよい。あるいは、アナログ加算モジュール48は、より多くの入力チャネルを含んでもよく、この場合は、検出システム30において余分となるチャネルを無効にすればよい。アナログ加算モジュール48は、低タイミング分解能分岐の検出信号の個々のチャネルを合計して集約検出信号を生成することにより動作可能である。各チャネルは、検出器32の1つの検出器プレート34の検出信号を搬送するので、集約検出信号は、検出器32全体の時刻および強度の情報を表すことになる。アナログ加算モジュール48をデュアルTDC−ADC検出システム30に含めることにより、シングルチャネルアナログデジタル変換器よりコストがかかりがちなマルチチャネルアナログデジタル変換器をADCモジュール52で使用することが避けられる(この点については、後で詳述する)。
【0050】
信号線54は、アナログ加算モジュール48の出力をADCモジュール52の入力と結合しており、ADCモジュール52は、1つ以上のADCを含んでいる。低タイミング分解能デジタル変換器にアナログ加算モジュール48が含まれていれば、ADCモジュール52は、アナログデジタル変換器を1つ含むだけでよい。ADCモジュール52は、集約データ信号をデジタル化し、デジタル化された集約データ信号を、その出力チャネルにおいて生成する。集約データ信号のデジタル化は、周知のように、集約データ信号を低分解能時間間隔でサンプリングし、それらのサンプルを、ADCビンのうちの対応するビンに量子化することによって行われる。
【0051】
実施形態によっては、低タイミング分解能デジタル変換器はさらに、アナログ加算モジュール48に入力される前の低タイミング分解能分岐の検出信号に減衰率を適用する減衰器を含む。低タイミング分解能分岐の検出信号に減衰率を適用することにより、実質的に、信号の高さが圧縮される。ADCモジュール52は一般に入力信号範囲が有限であるため、減衰率を適用すると、大きな強度範囲がアナログデジタル変換器の入力信号範囲まで圧縮されて、ADCモジュール52の測定可能な入力範囲の上限を拡大することが可能である。そして、ADCモジュール52の出力量子化レベルを、(残留量子化誤差の有無にかかわらず)適用された量子化率の分だけ拡大して元の低タイミング分解能分岐の検出信号の振幅を復元することにより、イオン強度を特定することができる。イオン強度の特定には、平均イオン応答も用いてもよい。具体的には、適用する減衰率は、高タイミング分解能デジタル変換器の低いほうの強度範囲の少なくとも半分が、低タイミング分解能デジタル変換器の高いほうの強度範囲の下方かつ外側になるように決定することができる。たとえば、適切に構成されたプロセッサ(たとえば、メインプロセッサ56)が、減衰率を決定かつ制御することが可能である。なお、減衰器は、低タイミング分解能分岐データ経路の、アナログ加算モジュール48の上流にあっても下流にあってもよく、実施形態によっては、アナログ加算モジュール48またはADCモジュール52に含まれてもよく、あるいは、検出システム30内の他の任意の適切な場所にあってもよい。また、アナログ加算モジュール48およびADCモジュール52は、図3では、独立した構成要素として示したが、実施形態によっては、低タイミング分解能デジタル変換器に一緒に含まれてよく、場合によっては減衰器も低タイミング分解能デジタル変換器に含まれてよい。
【0052】
低タイミング分解能データ変換器は、次のように、低タイミング分解能データストリームを生成するように動作可能である。飛行時間抽出において検出器32がイオン群を検出するたびに、過渡パルスが生成されて、信号線50のいずれかのチャネルにある低タイミング分解能デジタル変換器に送信される。アナログ加算モジュール48は、低タイミング分解能分岐の検出信号の個々のチャネルを合計して集約検出信号を生成する。実施形態によっては、減衰器が減衰率を適用して、集約検出信号の信号高さ範囲を、ADCモジュール52の入力信号範囲に適合するように調節する。次に、ADCモジュール52が、集約検出信号をデジタル化することにより、検出器32で検出されたイオン強度を表すデジタル化信号を、時刻の関数として生成する。ADCモジュール52は、低分解能時間間隔ごとに1回サンプリングを行うため、デジタル化された検出信号は、対応する複数の低分解能時間間隔における、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を含む。そして、低タイミング分解能データストリームが、信号処理のために適切な下流プロセッサに与えられて、検出信号系列のうちの複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値が特定されうる。
【0053】
各種技術を実装して、ADCモジュール52からメインプロセッサ56へのデータスループットを下げることが可能である。たとえば、ADCモジュール52は、低タイミングデータ分解能データストリームを、メインプロセッサ56に送る前に処理するための何らかのオンボード処理をさらに含むことが可能である。実施形態によっては、複数のTOF抽出による、高いほうの強度範囲の強度測定値を、合計したり、平均したりしてから、送信することが可能である。そこで、ADCモジュール52において何らかの予備的信号処理を行うことにより、メインプロセッサ56へ送られるローデータの量を減らすことが可能である。このことは、高速TOF用途の場合や、データバス速度が限定されている場合に重要になる可能性がある。
【0054】
別の例として、ADCモジュール52からメインプロセッサ56へのデータ送信のタイミングを、TDCモジュール46の出力に基づいて制御することが可能である。ADCモジュール52が検出信号系列のサンプリングおよびデジタル化を連続的に行っている場合でも、有効なイオン強度データが常時記録されているとは限らない。検出信号系列は、検出器32でのイオン事象間の間隔においては、ノイズしか含んでいない場合がある。TDCモジュール46で検出された個々のイオン事象を、高タイミング分解能データストリームの中の有効なイオン強度情報と相互に関連付けることにより、無効または冗長なノイズ情報の送信を回避することが可能である。たとえば、高いほうの強度範囲の強度測定値をバッファリングし、その後、TDCモジュール46の出力を用いて、有効なイオン強度情報を含むセグメントと、ノイズしか含まないセグメントとに分けることが可能である。そして、有効なセグメントだけを、高タイミング分解能データストリームとして、メインプロセッサ56に送信することが可能である。なお、メインプロセッサ56をひとまとまりの素子として示したが、実施形態によっては、ADCモジュール52における何らかのオンボード処理を含めて、プロセッサをシステム30全体に分散させることが可能である。
【0055】
本発明の実施形態の態様によれば、高タイミング分解能デジタル変換器は、低タイミング分解能デジタル変換器で測定可能なイオン強度より概して低いイオン強度を測定するように動作可能であるが、これら2つのデジタル変換器のダイナミックレンジは部分的に重なり合ってよい。したがって、低タイミング分解能デジタル変換器は、高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超える強度を測定するように動作可能である。もちろん、高タイミング分解能デジタル変換器は、トレードオフとして、低タイミング分解能デジタル変換器の低タイミング分解能より高いタイミング分解能で動作可能である。これら2つのデジタル変換器によって生成される強度情報を結合することにより、デュアルTDC−ADC検出システム30のダイナミックレンジは、高タイミング分解能デジタル変換器または低タイミング分解能デジタル変換器のいずれかが単独で達成できるダイナミックレンジを有利に超えうる。
【0056】
メインプロセッサ56は、TDCモジュール46およびADCモジュール52の両方と結合されて、それぞれから高タイミング分解能データストリームおよび低タイミング分解能データストリームを受信し、処理することにより、複数のイオン強度を特定することが可能である。特定された各イオン強度は、異なるいずれかのm/z比を有するイオンに対応しうる。このため、メインプロセッサ56は、飛行時間収集操作の間に取得された、異なるいずれかのm/z比を有する各イオン群のイオン強度を特定することが可能である。メインプロセッサ56は、高タイミング分解能データストリームおよび低タイミング分解能データストリームを組み合わせて、(少なくとも実施形態によっては)両方のデータストリームからの強度情報を含む結合データセットを生成するように動作可能である。実施形態によっては、結合データセットを生成することは、高タイミング分解能データストリーム中の強度値と、低タイミング分解能データストリーム中の強度測定値とを比較して、どの強度値を結合データセットに含めるかを決定することを含む。なお、メインプロセッサ56は、任意の適切に構成された演算装置を含んでよく、限定ではなく例として、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、中央処理装置(CPU)、デジタル信号処理装置(DSP)、汎用グラフィックス処理装置(GPGPU)、または同様のものの任意の可能な組み合わせを含んでよい。
【0057】
上述のように、高タイミング分解能データ変換器は、一般に、低タイミング分解能の高いほうの強度範囲に対して、低いほうの強度範囲を測定することが可能である。そこで、2つのデータストリームを結合する1つのアプローチは、高タイミング分解能データストリームの強度条件を定義し、この強度条件の結果に基づいて、結合データセットを生成することである。この強度条件は、高タイミング分解能デジタル変換器が正確かつ信頼できる強度情報を提供しているかどうか、言い換えると、測定されているイオン強度が高タイミング分解能データ変換器のダイナミックレンジに収まるかどうか、を判定するための任意の適切な条件であってよい。この強度条件が満たされた場合は、高タイミング分解能データストリームからの強度情報が潜在的に不正確であり、信頼できないということになりうる。したがって、この強度条件が満たされた場合、メインプロセッサ56は、代わりに、低タイミング分解能データ変換器から取得した強度情報を結合データセットに含めることが可能であり、この強度条件が満たされない場合、メインプロセッサ56は、高タイミング分解能データ変換器から取得した強度情報を結合データセットに含めることが可能である。
【0058】
(複数のm/z比のうちの異なるいずれかのm/z比に対応する時刻および強度の情報に対応する)高タイミング分解能データストリーム中の各時刻および強度のペアについて、メインプロセッサ56は、以下のステップにより、結合データセット中の対応するイオン強度を特定することが可能である。第1に、メインプロセッサ56は、高タイミング分解能デジタル変換器の強度条件が、所与の時刻および強度のペアに関して満たされているかどうかを判定可能である。そして、この強度条件が満たされない場合(すなわち、強度値が信頼できる場合)、メインプロセッサ56は、その強度値を選択して、結合データセットの中の対応するm/z比を有するイオンの強度を表すことができる。一方、この強度条件が満たされている(すなわち、測定されているイオン強度が高タイミング分解能デジタル変換器のダイナミックレンジを超えている)と、メインプロセッサ56が判定した場合、メインプロセッサ56は、低タイミング分解能データストリームから生成された複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値から、結合データセット中の対応するイオン強度を特定することができる。メインプロセッサ56は、このロジックを用いて、高タイミング分解能データストリームまたは低タイミング分解能データストリームのいずれかから、結合データセットに含めるべき時刻および強度の情報を選択することが可能であり、この選択は、結合データセットが、複数のイオン強度を含み、飛行時間収集操作におけるイオンのm/z比ごとに1つの強度を含むように行う。
【0059】
メインプロセッサ56は、低タイミング分解能データストリーム中の、高いほうの強度範囲の強度測定値から対応するイオン強度を特定するために、それらの強度測定値をサーチして、時刻および強度のペアの時刻値のあたりにある信号ピークを探すことができる。ここでは、誤検出を避けるために、任意選択的にノイズ閾値処理を含む、適切なピーク検出アルゴリズムを用いてもよい。対応する信号ピークが見つかった場合は、それの出力量子化レベルを、ADCの理論的性能パラメータ(たとえば、平均イオン応答)ならびに低タイミング分解能分岐の検出信号に適用された減衰率に基づいて、強度値に変換することができる。このような場合、信号ピークのタイミングは、強度測定値からも特定可能であり、あるいは、対応する時刻および強度のペアの時刻値として取得することも可能である。
【0060】
より明確化するために、メインプロセッサ56は、所与の時刻および強度のペアが高タイミング分解能デジタル変換器の強度条件を満たしているかどうかを、高いほうの強度範囲の強度測定値に基づいて判定することが可能である。上述のように、メインプロセッサ56は、強度測定値をサーチして、時刻および強度のペアの時刻値のあたりにある信号ピークを見つけ、その信号ピークで表されるイオン強度を特定することができる。特定されたイオン強度が、高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超えている場合、メインプロセッサ56は、強度条件が満たされていると判定することができる。一方、特定されたイオン強度が、測定可能な最大強度を超えていない場合(すなわち、測定されたイオン強度が、高タイミング分解能デジタル変換器のダイナミックレンジに収まる場合)、メインプロセッサ56は、強度条件が満たされていないと判定する。上述のように、メインプロセッサ56は、強度条件の状態に基づいて、2つのデータストリームから結合データセットを生成するように動作可能である。
【0061】
他の実施形態では、メインプロセッサ56は、強度条件が満たされているかどうかを、他の手段に従って判定することが可能である。たとえば、メインプロセッサ56は、TDCモジュール46の1つ以上の時間デジタル変換器が飽和状態であるか、飽和状態に非常に近いと判定した場合に、強度条件が満たされていると判定することができる。この場合、メインプロセッサ56は、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値から、対応するイオン強度を特定することができる。強度条件が満たされているかどうかを判定する手段は、ほかにも適切なものがあってもよく、これらは本発明の範囲に含まれる。
【0062】
複数の飛行時間抽出を経て、対応するイオン強度を特定することが可能なので、実施形態によっては、メインプロセッサ56はさらに、複数の飛行時間抽出を経て、高タイミング分解能データストリームおよび低タイミング分解能データストリームの両方に関して強度情報を集約するように動作可能である。上述のように、複数の個々のスペクトルの集約として、複合飛行時間スペクトルが生成されてもよい。各飛行時間抽出においては、同じm/z比を有するイオン群が、加速されて無電界ドリフトチャンバに入り、検出器32によって検出され、次に高タイミング分解能デジタル変換器または低タイミング分解能デジタル変換器とメインプロセッサ56とを用いて処理されて、その飛行時間抽出に対応するスペクトルが生成される。これらの個々のスペクトルが集約されて、複合スペクトルが生成される。これは、約100回から1000回(または他の回数)の単独の飛行時間抽出の結果であってもよいる。
【0063】
各飛行時間抽出では、イオンは、抽出固有のイオン群系列として、質量選択的に無電界ドリフトチャンバを通って押し出され、抽出固有のイオン群系列における各イオン群は、複数のm/z比のうちの異なるいずれかのm/z比を有するイオンを含む。全体として、飛行時間収集操作は、複数の飛行時間抽出によって構成され、抽出固有のイオン群系列を集めて、その飛行時間収集操作におけるイオン群系列が構成される。各飛行時間抽出での各イオン群について、検出器32は、信号バス38に与えられる検出信号系列の中で過渡パルス(たとえば、検出信号)を生成することができる。
【0064】
各飛行時間抽出では、検出信号系列が、信号線42を介して高タイミング分解能デジタル変換器に与えられ、かつ、信号線50を介して低タイミング分解能デジタル変換器に与えられて、抽出固有の時刻および強度の情報が生成されうる。TDCモジュール46は、飛行時間抽出における各イオン群について、抽出固有の時刻および強度のペアを特定することができ、これは、その飛行時間抽出における、そのm/z比を有するイオンの飛行時間および強度を表している。このようにして、TDCモジュール46は、所与の飛行時間抽出の継続時間にわたって、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを特定することができる。同様に、ADCモジュール52は、飛行時間抽出の継続時間の間に、低分解能時間間隔で検出信号系列をデジタル化して、抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を生成することができる。
【0065】
メインプロセッサ56は、飛行時間収集操作の継続時間にわたって、各デジタル変換器によって与えられた抽出固有の時刻および強度の情報を集約することができる。高タイミング分解能デジタル変換器の場合、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを集約することは、異なるそれぞれの飛行時間抽出から取得された時刻および強度のペアのうちの、類似の時刻値に対応する強度値を合計することを含みうる。各抽出固有の複数の時刻および強度のペアのうちの時刻値は、同じm/z比で特徴付けられるイオン群においては、ほぼ同じであるはずである。言い換えると、複数の抽出固有の複数の時刻および強度のペアは、各抽出固有の複数の時刻および強度のペアのうちの類似の時刻値を関連付け、対応する強度を合計して、すべての抽出についての複数の時刻および強度のペアのひとかたまりを与えることにより、集約されうる。この処理の一環として、メインプロセッサ56は、複数の飛行時間抽出における関連付けられた時刻値の平均をとることが可能である(時刻値が同一ではないものとする)。
【0066】
同様に、メインプロセッサ56は、抽出固有の複数の強度測定値を、飛行時間収集操作の継続時間にわたって積分することができる。すなわち、メインプロセッサ56は、低タイミング分解能デジタル変換器で生成された抽出固有の複数の強度測定値のそれぞれを、低分解能時間間隔に従って並べ、並べられた同じ時刻値を有する飛行時間抽出における対応する強度測定値を積分する。言い換えると、各抽出を複数の低分解能時間間隔に分割することができ、その低分解能時間間隔のそれぞれの間に、ADCモジュール52が強度測定値を特定する。複数の抽出の低分解能時間間隔は、並べられた低分解能時間間隔の間にADCモジュール52によって取得された強度測定値が、飛行時間収集操作の複数の抽出における、同じm/z比で特徴付けられるイオンの測定された強度に対応するように、並べることが可能である。メインプロセッサ56は、これらの並べられた強度測定値を区分ごとに合計して、飛行時間収集操作全体における複数の強度測定値を特定することができる。次に、メインプロセッサ56は、結合データセットを決定するために適切に定義された強度条件を用いて、これら複数の強度測定値を、上述のように、複数の時刻および強度のペアと結合する。
【0067】
実施形態によっては、複数の飛行時間抽出は、選択された数の飛行時間抽出であり、選択される数は1より大きい整数であり、これによって、デュアルTDC−ADC検出システム30の1つ以上の特性が最適化、もしくは制御される。本発明の実施形態の態様によれば、飛行時間抽出の数は、デュアルTDC−ADC検出システム30のダイナミックレンジを最適化、もしくは制御するように選択される。たとえば、飛行時間抽出の数の選択により、(高タイミング分解能データストリームの)低いほうの強度範囲の上限と、(低タイミング分解能データストリームの)高いほうの強度範囲の下限とを調節して、その選択されたTOF抽出数で低いほうの強度範囲と高いほうの強度範囲とが部分的に重なり合うようにすることが可能である。上述のように、高いほうの強度範囲と低いほうの強度範囲とが部分的に重なり合う、(図2の交差点29で示される)理論的な最低限の飛行時間抽出数があってもよい。したがって、確実に部分的に重なり合うようにするためには、飛行時間抽出数を、この理論的な最低限の数より多くすればよい。また、飛行時間抽出数の選択を、他のADC/TDC性能パラメータと併せて行うことにより、高いほうおよび低いほうの強度範囲の他の限界を調節して、デュアルTDC−ADC検出システム30の全体ダイナミックレンジの下限および上限を制御することも可能である。
【0068】
以上のすべての場合において、メインプロセッサ56の上述の処理ステップは、選択された数の飛行時間抽出のそれぞれに対して行うことができる。TDCモジュール46は、選択された数の飛行時間抽出のそれぞれにおいて、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを特定することができる。同様に、ADCモジュール52は、選択された数の飛行時間抽出のそれぞれにおいて、抽出固有の複数の強度測定値を特定することができる。そして、メインプロセッサ56は、これら2つのデータストリームを、上述のように、飛行時間収集操作の継続時間にわたって集約して、最終的な複数の時刻および強度のペアおよび強度測定値を特定する。そして、強度条件を用いてこれらのデータストリームを結合することにより、各データストリームから取得された強度情報を含む結合データセットを生成することができる。
【0069】
デュアルTDC−ADC検出システムの代替実施形態
次に図4から図7を参照する。これらの図面は、本発明の実施形態の態様によるデュアルTDC−ADC検出システム30の代替実施形態の概略図である。便宜上、これらの代替実施形態における類似の構成要素は、類似の参照符号に100の倍数を加えたもので表し、類似の構成要素の説明は、これらの代替実施形態の他の特定の詳細が曖昧にならないように、簡略化されてもよい。
【0070】
図4を具体的に参照すると、図4は、デュアルTDC−ADC検出システム130を示している。検出システム130では、イオン検出器132が、複数の検出プレート134により、電界発生器136によってイオン源から加速されて無電界ドリフトチャンバに入ったイオンを検出する。様々なm/z比を有するイオンが複数のプレート134に到達すると、検出器132は、イオン強度を表す電気パルスを生成して、検出信号の系列を時刻の関数として生成する。検出信号系列は、信号バス138を通って出力される。信号バス138は、検出器プレート134の数と1対1で対応するNチャネルのバスであってよい。検出信号系列は、信号分岐140において、高タイミング分解能分岐の検出信号および低タイミング分解能分岐の検出信号として分配される。信号線142は、高タイミング分解能分岐の検出信号の送信のために、弁別器144の入力を出力検出器132と結合している。弁別器144およびTDCモジュール146は、高タイミング分解能デジタル変換器を形成しており、動作時には高タイミング分解能データストリームを生成する。飛行時間収集操作が複数の飛行時間抽出を含む場合、弁別器144およびTDCモジュール146は、それぞれが各飛行時間抽出に対応する、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを生成し、これらがメインプロセッサ156に送信され、積分されて、複数の時刻および強度のペアが生成される。
【0071】
デュアルTDC−ADC検出システム130がデュアルTDC−ADC検出システム30と異なるのは、ADCモジュール152を含んでいる点であり、ADCモジュール152は、機能的には、検出システム30のアナログ加算モジュール48とADCモジュール52との組み合わせと同等でありうる。アナログデジタルモジュール152は、Nチャネルの信号バス138と結合されたNチャネルアナログデジタル変換器を含む。もちろん、ADCモジュール152は、代替として、Nチャネルの信号バス138と結合されたMチャネルアナログデジタル変換器(M>N)を含んでもよい。ADCモジュール152の各チャネルを用いて、低タイミング分解能分岐の検出信号のチャネルをデジタル化して、低分解能時間間隔で取得された対応する複数の強度測定値を生成することができる。ADCモジュール152は、それぞれの複数の強度測定値を内部で合計し、集約された複数の強度測定値として信号線154からメインプロセッサ156へ出力する。この集約された複数の強度測定値を、信号処理のために、メインプロセッサ156(または他の何らかのプロセッサ)に与えることができる。
【0072】
デュアルTDC−ADC検出システム30では、Nチャネル分の検出信号系列がアナログ加算モジュール48で合計されてからADCモジュール52に入力されるが、デュアルTDC−ADC検出システム130では、ADCモジュール152内で、Nチャネル分の検出信号系列が個別にデジタル化されてから合計される。アナログデジタル変換の全体動作は、システム30とシステム130とで同じ(または実質的に同等)である。しかしながら、高速アナログデジタル変換器のコストが概して高いため、検出システム130は、性能が同じ(または実質的に同等)であれば、検出システム30に比べて不必要に高価になる可能性がある。メインプロセッサ156は、メインプロセッサ56と同じ動作機能性を有することができ、動作的には、上述の処理に限定されない。メインプロセッサ156は、必要に応じて別の機能も実施可能であってよく、これは、当業者であれば理解されるとおりである。さらに、メインプロセッサ156は、オンボードメモリを有してよく、あるいは、外部メモリに接続されてよい。また、検出システム130に含まれる他の処理装置を代わりに用いて、ここに記載した処理ステップを実施させてもよい。メインプロセッサ156は、FPGA、CPU、DSP、GPGPU、または同様のものの任意の組み合わせであってよい。
【0073】
次に図5を具体的に参照すると、図5は、デュアルTDC−ADC検出システム230を示している。検出システム230では、イオン検出器232が、検出器プレート234により、電界発生器236によってイオン源から加速されて無電界ドリフトチャンバに入ったイオンを検出する。様々なm/z比を有するイオンが検出器プレート234に到達すると、検出器232は、イオン強度を表す電気パルスを生成することにより、検出信号の系列を時刻の関数として生成する。検出信号系列は、信号バス238を通って出力される。信号バス238は、図5に示したように、単一チャネルのバスである。もちろん、実施形態によっては、検出システム230は、複数の検出器プレートを含み、かつ、検出器プレートの数と1対1で対応する複数のチャネルを信号バス238に含むように修正可能である。検出信号系列は、信号分岐240において、高タイミング分解能分岐の検出信号および低タイミング分解能分岐の検出信号として分配される。信号線250は、低タイミング分解能分岐の検出信号の送信のために、ADCモジュール252の入力を出力検出器232と結合している。ADCモジュール252は、低タイミング分解能分岐の検出信号をデジタル化して、下流での複数の強度測定値を生成する処理に備える。たとえば、メインプロセッサ256は、低タイミング分解能データストリームを処理するために、ADCモジュール252と結合されうる。
【0074】
デュアルTDC−ADC検出システム230がデュアルTDC−ADC検出システム30と異なるのは、TDCモードで動作するADCモジュール260と、オンボードプロセッサ262とを、検出システム30のTDCモジュール46の代わりに含んでいる点である。ADCモジュール260に含まれるアナログデジタル変換器は、その入力信号利得(または同様な意味合いで、その入力信号減衰率)を調節することにより、個々に異なるイオン事象を記録するように構成可能である。すなわち、ADCの入力信号利得を十分大きくすると、信号イオンに関連付けられた過渡パルスが測定可能になる。そして、オンボードプロセッサ262(または同様な意味合いで、メインプロセッサ256)は、本質的には定比率弁別器として動作して、個々の過渡パルスのタイミングを検出することが可能である。このように、オンボードプロセッサ262は、時刻および強度のペアを識別するように構成可能である。したがって、ADCモジュール260は、いわゆるTDCモードでは、適切な下流プロセッサとの組み合わせで、個々のイオン事象のタイミングを記録することが可能である。
【0075】
しかしながら、ADCモジュール260は、TDCモードでは、検出器234でのイオン事象に関与したイオンの数を近似的にしか計数できない。たとえば、検出器232内の電子増倍では、記録された単一イオンに対して同じ振幅の過渡パルスが常に生成されるとは限らない。単一イオンは、場合によって、3mVのパルスを生成することもあれば、5mVのパルスを生成することもある。真の閾値検出器(たとえば、TDC)は、パルス振幅がTDC閾値を超える場合には、各過渡パルスを無差別に単一イオン事象として記録する。一方、TDCとして動作するADCモジュール260は、上述のように、その動作パラメータ(たとえば、平均イオン応答)に基づいて、イオン数を推定するだけであってもよい。
【0076】
オンボードプロセッサ262はまた、ADCモジュール260のタイミング分解能を向上させることも可能である。ADC自体は、やはり、その低タイミング分解能による限界があってもよい。しかしながら、オンボードプロセッサ262は、TDCモードで動作している場合には、ADCの低分解能時間間隔より細かい間隔を補間する技術を実装することにより、ADCが単独で提供しうるものより高い全体タイミング分解能で過渡パルスの到達時刻を記録することが可能である。場合により、オンボードプロセッサ262はまた、ノイズ閾値処理を実装して、検出器チャネルのノイズがイオン事象パルスと誤認識されないようにすることも可能である。オンボードプロセッサ262は、他の既知の信号処理技術についても同様に構成可能である。
【0077】
次に図6を具体的に参照すると、図6は、デュアルTDC−ADC検出システム330を示している。検出システム330では、イオン検出器332が、複数の検出プレート334により、電界発生器336によってイオン源から加速されて無電界ドリフトチャンバに入ったイオンを検出する。様々なm/z比を有するイオンが複数のプレート334に到達すると、検出器332は、イオン強度を表す電気パルスを生成して、検出信号の系列を時刻の関数として生成する。検出信号系列は、信号バス338を通って信号分岐340に出力されることができ、信号分岐340で、検出信号系列は、高タイミング分解能分岐の検出信号および低タイミング分解能分岐の検出信号として分配される。信号線342は、高タイミング分解能分岐の検出信号の送信のために、弁別器344の入力を検出器332の出力と結合している。弁別器344およびTDCモジュール346は、高タイミング分解能デジタル変換器を形成しており、動作時には高タイミング分解能データストリームを生成する。飛行時間収集操作が複数の飛行時間抽出を含む場合、弁別器344およびTDCモジュールは、それぞれが各飛行時間抽出に対応する、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを生成することができ、これらがメインプロセッサ356に送信されて処理される。
【0078】
デュアルTDC−ADC検出システム330がデュアルTDC−ADC検出システム30と異なるのは、ADCモジュール352にオンボードプロセッサ362を含む点である。オンボードプロセッサ362は、ADCモジュール352の計算能力を増強し、ADCモジュール352から出力された、デジタル化された集約検出信号の時刻情報を生成する。たとえば、オンボードプロセッサ362は、ADCモジュール352によって生成された、デジタル化された検出信号を処理して、検出器332におけるイオン事象に対応する信号ピークを識別し、検出された各ピークのタイミング情報を特定することができる。このようにして、オンボードプロセッサ362は、飛行時間抽出において、デジタル化された検出信号の各ピークに対応する各イオン群の飛行時間を特定することができる。上述のように、オンボードプロセッサ362はまた、様々な方法で、ADCモジュール352のデータスループットを下げることも可能である。高いほうの強度範囲の強度測定値に対して何らかの予備的な信号処理(たとえば、加算や平均)を行うことにより、メインプロセッサ362に送信されるローデータの量を減らすことが可能である。
【0079】
データスループットを下げることは、TDCモジュール346の出力を用いて行うことも可能であり、この場合は、高いほうの強度範囲の強度測定値のうち、有効なイオン強度情報を含むセグメントを隔離し、それらのセグメントだけを低タイミング分解能データストリームとしてメインプロセッサ356に送信することにより、高いほうの強度範囲の強度測定値のうちの、ノイズ情報しか含まないセグメントを廃棄して、データスループットを下げる。たとえば、図6に示したように、弁別器344とオンボードプロセッサ362とをデジタル信号線で接続することが可能である。このデジタル信号線は、閾値交差情報を弁別器344からオンボードプロセッサ362へ搬送する。この閾値交差情報は、検出器信号が閾値を上回る場合(すなわち、有効なイオン強度情報を含む場合)にはハイ状態となり、検出器信号が閾値を下回る場合(すなわち、ノイズ情報しか含まない場合)にはロー状態となりうる。このように、このデジタル信号線は、オンボードプロセッサ362が、高いほうの強度範囲の強度測定値をオンボードプロセッサ362へ送信するタイミングを制御するためのイネーブル信号として動作することができる。あるいは、このデジタル信号線は、オンボードプロセッサ362をTDCモジュール346に接続して同じ結果を達成することも可能である。
【0080】
次に図7を具体的に参照すると、図7は、デュアルTDC−ADC検出システム430を示している。検出システム430では、イオン検出器432が、複数の検出プレート434により、電界発生器436によってイオン源から加速されて無電界ドリフトチャンバに入ったイオンを検出する。様々なm/z比を有するイオンが複数のプレート434に到達すると、検出器432は、イオン強度を表す電気パルスを生成することにより、検出信号の系列を時刻の関数として生成する。検出信号系列は、信号バス438を通って信号分岐440に出力され、信号分岐440で、検出信号系列は、高タイミング分解能分岐の検出信号および低タイミング分解能分岐の検出信号として分配される。信号線442は、高タイミング分解能分岐の検出信号の送信のために、弁別器444の入力を検出器432の出力と結合している。弁別器444およびTDCモジュール446は、高タイミング分解能デジタル変換器を形成しており、動作時には高タイミング分解能データストリームを生成する。飛行時間収集操作が複数の飛行時間抽出を含む場合、弁別器444およびTDCモジュールは、それぞれが各飛行時間抽出に対応する、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを生成することができ、これらがメインプロセッサ456に送信されて積分される。上述のように、閾値交差情報を搬送するデジタル信号線が弁別器444をADCプロセッサ462に接続することにより、高いほうの強度範囲の強度測定値をADCモジュール452からメインプロセッサ456へ送信するタイミングが制御されうる。また、このデジタル信号線は、ADCプロセッサ462をTDCモジュール446に接続して同じ結果を達成することも可能である。
【0081】
デュアルTDC−ADC検出システム430がデュアルTDC−ADC検出システム330と異なるのは、ADCモジュール452と関連付けられ、外部からADCモジュール452と結合されているADCプロセッサ462が、オンボードプロセッサの代わりになっている点である。ADCプロセッサ462は、オンボード362と同じ(または実質的に同等の)機能を、別の様式で提供することが可能である。なお、メインプロセッサ456は、実施形態によっては、ADCプロセッサ462の機能性の少なくとも一部を実施することが可能である。
【0082】
ここまで述べてきた、デュアルTDC−ADCシステム30の各代替実施形態は、イオン処理のために、システム30と同等の機能を、別の様式で提供する。
【0083】
ダイナミックレンジのモデリング実験
次に、図8を参照する。図8は、デュアルTDC−ADC検出システムのTDCおよびADCの上限および下限を示すグラフである。図8のグラフ80は、x軸が、TOF抽出数を表しており、y軸が、検出されたイオンの数を表している。曲線82は、TDCのダイナミックレンジの下限を表しており、曲線84は、対応する上限を表している。同様に、曲線86は、ADCのダイナミックレンジの下限を表しており、曲線88は、ADCのダイナミックレンジの上限を表している。したがって、図示した曲線は、TOF抽出数の関数としての、イオンの最大数および最小数を示しており、これらは、TDCおよびADCにより確実に記録されうる。上述のように、記録可能なイオンの最小数は、1より大きく、たとえば、5から10である。
【0084】
図示した曲線は、以下の性能パラメータを有するデュアルTDC−ADCシステムの理論的ダイナミックレンジをモデル化している。
TDCのチャネル数=4
TDCの飽和補正の許容誤差=0.03

ADCのビン数=256
ADCの無相関ノイズ=1ビン
ADCの相関ノイズ=0.1ビン
ADCビンにおける平均イオン応答=0.5

【0085】
図8からわかるように、上記条件下では、TOF抽出が10回未満のところから、TDCとADCの検出範囲が部分的に重なり始める。すなわち、低いほうの強度範囲(TDCのダイナミックレンジ)の上限84は、高いほうの強度範囲(ADCのダイナミックレンジ)の下限86を超える。低いほうのTDCの強度範囲の下限82は、高いほうのADC強度範囲の上限88とともに、デュアルTDC−ADC検出システムの全体ダイナミックレンジを定義しており、これはもちろん、上限84が下限86を超えるTOF抽出数においてである。これにより、TDCおよびADCの両方が高品質のデータを与えうるイオン強度範囲が与えられ、これらのデータを相互に関連付けることにより、TDCが生成する時刻および強度のペアと、ADCが生成する強度測定値とを相関させることが可能である。本発明の実施形態の一部の態様によれば、飛行時間抽出がちょうど200回を過ぎてから、5桁の全体ダイナミックレンジが達成される。そのような少ないTOF抽出数で5桁のダイナミックレンジが達成されるため、飛行時間抽出頻度が20kHzであれば、理論的には毎秒100個のスペクトルが生成可能である。
【0086】
次に、図9を参照する。図9は、デュアルTDC−ADC検出システムのTDCおよびADCの別の上限および下限を示すグラフである。図9のグラフ90も、x軸が、TOF抽出数を表しており、y軸が、検出されたイオンの数を表している。曲線92は、TDCのダイナミックレンジの下限を表しており、曲線94は、対応する上限を表している。同様に、曲線96は、ADCのダイナミックレンジの下限を表しており、曲線98は、ADCのダイナミックレンジの上限を表している。したがって、図示した曲線は、所与のTOF抽出数に対しての、イオンの最大数および最小数を示しており、これらは、TDCおよびADCにより記録可能である。
【0087】
場合によっては、わずか1回の飛行時間抽出で、有意な強度データを記録することが必要になることもある。このような場合は、ダイナミックレンジを犠牲にして、ADCの信号利得を増やすか、あるいは、ADCの減衰率を減らす。TOF抽出が1回であっても、TDCとADCのダイナミックレンジが部分的に重なり合うように、デュアルTDC−ADC検出システムの性能パラメータを選択することが可能である。デュアルTDC−ADC検出システムの性能パラメータは、ここでも以下に挙げるとおりである。
TDCのチャネル数=4
TDCの飽和補正の許容誤差=0.03

ADCのビン数=256
ADCの無相関ノイズ=1ビン
ADCの相関ノイズ=0.1ビン
ADCビンにおける平均イオン応答=1.5
【0088】
この性能パラメータセットの平均イオン応答が0.5ビンではなく、1.5ビンであることに注意されたい。これは、ADC信号利得の増加を反映したものである。さらに、図8とは異なり、図9では、すべて(または、ほぼすべて)のTOF抽出数において、ADCの検出範囲の下限を表す曲線96が、TDCの最大検出能力を表す曲線92より下にあることに注意されたい。ここでも、これらの選択された性能パラメータに対して、曲線92および曲線98は、TOF抽出数の関数として、それぞれ、TDCの範囲の下限およびADCの範囲の上限を表しており、両方で、デュアルTDC−ADC検出システムのダイナミックレンジを定義している。
【0089】
次に、図10を参照する。図10は、デュアルTDC−ADC検出システムのTDCおよびADCのさらに別の上限および下限を示すグラフである。図10のグラフ100も、x軸が、TOF抽出数を表しており、y軸が、検出されたイオンの数を表している。曲線102は、TDCのダイナミックレンジの下限を表しており、曲線104は、対応する上限を表している。同様に、曲線106は、ADCのダイナミックレンジの下限を表しており、曲線108は、ADCのダイナミックレンジの上限を表している。したがって、図示した曲線は、所与のTOF抽出数に対しての、イオンの最大数および最小数を示しており、これらは、TDCおよびADCにより記録可能である。
【0090】
ADCの信号利得を減らすことにより(あるいは、減衰率を増やすことにより)、TOF抽出が約100回のところでTDCの範囲とADCの範囲とが部分的に重なり合うように、曲線106を制御することが可能である。抽出頻度が20KHzの場合、スペクトル当たり2000回の抽出に基づく複合スペクトルが、毎秒10スペクトルの割合で生成され、この場合のダイナミックレンジは、理論的には6桁を超える。このシステム特性を達成する例示的性能パラメータは、ここでも以下に挙げるとおりである。
TDCのチャネル数=4
TDCの飽和補正の許容誤差=0.03

ADCのビン数=256
ADCの無相関ノイズ=1ビン
ADCの相関ノイズ=0.1ビン
ADCビンにおける平均イオン応答=0.2
【0091】
図10に示したように、ADCの減衰率を上げると、これによって平均イオン応答が減り、ダイナミックレンジが大幅に増える。しかしながら、ダイナミックレンジが増えると、コストがかさむことになる。すなわち、確実に部分的に重なり合うようにするためには、TOF抽出数をより多くしなければならない。約10回以下のTOF抽出で重なり始める他のシステム構成と異なり、重なり始めるのは、約100回のTOF抽出からである。結果として、複合スペクトルは、必ずしもすぐには生成することができない。しかしながら、ここでのダイナミックレンジが、トレードオフとして、図8および図9に示した低減衰率の場合より大きいことは理解されたい。
【0092】
本発明の実施形態の態様によれば、本明細書に記載のシステムを用いて飛行時間型質量分析計システムを操作する、関連の方法も提供され、これも本開示の範囲に含まれる。
【0093】
より明確化するために、本明細書に記載の飛行時間型質量分析計システムおよび関連する操作方法は、任意の好適な飛行時間型計器を用いて実践されてよいものとする。図11に、一例示的飛行時間型質量分析計500を概略的に示す。ただし、質量分析計500は、本発明の実施形態に従って使用する1つの可能な飛行時間型計器を表しているに過ぎない。図11に表したように、TOF質量分析計500は、ハイブリッド四極/飛行時間型質量分析計(QqTOF)である。しかしながら、一段飛行時間型質量分析計(TOF)、二段飛行時間型質量分析計(TOF−TOF)、ハイブリッドトラップ/飛行時間型質量分析計(Trap−TOF)、および他の飛行時間型トポロジを有する質量分析計も同様に、本発明の実施形態に従って使用可能である。
【0094】
質量分析計500は、イオン源502と、飛行時間型質量分析器504と、飛行時間型質量分析器504の上流に配置された1つ以上の四重極506、508、510と、を含んでいる。イオン源502は、電気スプレー源であってよいが、他の任意の好適なイオン源であってもよい。たとえば、イオン源502は、連続イオン源であってもパルス状イオン源であってもよい。イオン源502から放射されたイオンは、まず、RF専用モードで衝突冷却を与えるように動作するコリメート四重極506を通る。真空チャンバ512内に配置された四重極508は、質量分解モードで、特定の質量対電荷比を有するイオンを選択するように動作してもよく、四重極510は、出口レンズ514において、適切に制御されたDCトラッピング障壁を与えることにより、イオントラップとして動作してもよい。また、質量分析計500には、コリメート四重極506から質量分解四重極508へのイオン転送を促進するために、スタビロッド516も含まれてもよい。
【0095】
四重極510を衝突チャンバ518の内部に配置することにより、トラップされたイオンは、衝突誘起解離(CID)および/または衝突誘起反応の対象となりうる。四重極510で生成された生成イオン、ならびに残留前駆イオンは、イオン注入口520から飛行時間型質量分析器504に入ってもよい。イオン源502が連続イオン源の場合、イオンは、イオン注入口520を通ると、電界発生器536の収集領域で収集されうる。電界発生器536は、短い高電圧電界を印加することにより、イオンを加速させて、無電界ドリフトチャンバ522の端から端までイオンを加速させて、検出を行うイオン検出器532に向かわせうる。一方、イオン源502がパルス状イオン源の場合は、イオンを、イオンのバッチとして電界発生器536に導入する。いずれのアプローチによっても、イオンは、飛行時間抽出の系列として、無電界ドリフトチャンバ522の端から端まで加速される。任意選択的に、ドリフトチャンバ522の実効長を増やすために、1つ以上のイオン反射器(図示せず)を含めてもよい。
【0096】
ただし、ここに記載した質量分析計500は、本発明の実施形態の態様に従って使用できる1つの可能な飛行時間型計器に過ぎず、既述のものも含め、他の飛行時間型計器も同様に適切である場合がある。
【0097】
飛行時間型質量分析計システムに関連する特定実施形態は、複数の質量対電荷比を有するイオンをイオン源から受け取るドリフトチャンバと、検出器に接触したイオンを表す検出信号の系列を生成する検出器と、検出器による検出のために、イオンをドリフトチャンバから押し出す電界を発生させる電界発生器と、検出器から検出信号系列を受信するために検出器とリンクされた高タイミング分解能デジタル変換器であって、多数の多様な高ピークを分解するように構成されており、検出器によって検出された各イオン群について、i)検出信号系列のうち、そのイオン群の検出時に検出器によって生成された、関連付けられた検出信号を少なくとも1つ特定することと、ii)その少なくとも1つの関連付けられた検出信号に対応する到達時刻データを高分解能時間間隔で確定することと、によって、高タイミング分解能データストリームを生成するように動作可能な高タイミング分解能デジタル変換器と、検出器から検出信号系列を受信するために検出器とリンクされた低タイミング分解能デジタル変換器であって、検出信号系列を低分解能時間間隔でサンプリングすることによって低タイミング分解能データストリームを生成するように動作可能な低タイミング分解能デジタル変換器と、高タイミング分解能デジタル変換器および低タイミング分解能デジタル変換器とリンクされたプロセッサであって、i)高タイミング分解能データストリームを処理して複数の時刻および強度のペアを特定するステップであって、各時刻および強度のペアは、複数の質量対電荷比のうちの、対応する、異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンの飛行時間および強度を表す、上記特定するステップと、ii)低タイミング分解能データストリームを処理して、検出信号系列のうちの複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定するステップと、を行うように動作可能なプロセッサと、を含む。
【0098】
プロセッサは、高タイミング分解能データストリームと低タイミング分解能データストリームとを結合して、高タイミング分解能データストリームおよび低タイミング分解能データストリームの両方から、強度情報を含む複数のイオン強度を取得するように動作可能である。複数のイオン強度の各イオン強度は、複数の質量対電荷比のうちの異なるいずれかの質量対電荷比に対応することができる。プロセッサは、複数の時刻および強度のペアのうちの強度を、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値と比較することにより、複数のイオン強度を取得するように動作可能である。
【0099】
プロセッサは、複数の時刻および強度のペアの各時刻および強度のペアについて、複数のイオン強度のうちの対応するイオン強度を特定するように動作可能であり、この特定は、高タイミング分解能デジタル変換器の強度条件がその時刻および強度のペアに対して満たされているかどうかを判定することと、強度条件が満たされている場合は、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値のうちの、その時刻および強度のペアに対応するイオン強度を特定し、強度条件が満たされていない場合は、その時刻および強度のペアのうちの強度を、対応するイオン強度として選択することにより行われる。
【0100】
プロセッサは、ある個々の時刻および強度のペアが強度条件を満たすかどうかを判定するように動作可能であり、この判定は、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値のうちの、その個々の時刻および強度のペアのうちの強度に対応する、高いほうの強度範囲の強度測定値が、高タイミング分解能デジタル変換器によって測定可能な最大強度を超えているかどうかを判定することによって行う。
【0101】
低タイミング分解能デジタル変換器は、アナログデジタル変換器を含む。低タイミング分解能デジタル変換器はさらに、低タイミング分解能デジタル変換器に与えられた検出信号系列に減衰率を適用する減衰器を含むことが可能である。低タイミング分解能デジタル変換器は、減衰率と、アナログデジタル変換器の出力レベルとを用いて、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値の各高いほうの強度範囲の強度測定値を特定することができる。
【0102】
プロセッサは、減衰器によって適用される減衰率を、高分解能データストリームの低いほうの強度範囲の少なくとも半分が、低分解能データストリームの高いほうの強度範囲の下方かつ外側になるように、決定するように動作可能である。
【0103】
高タイミング分解能デジタル変換器は、各検出信号に対応する到達時刻を特定するために、少なくとも1つの時間デジタル変換器と、この少なくとも1つの時間デジタル変換器をトリガする弁別器とを含むことが可能である。
【0104】
高タイミング分解能デジタル変換器は、TDCモードで動作するアナログデジタル変換器を含むことが可能であり、プロセッサは、時刻および強度のペアを識別する変換プロセッサを含むことが可能である。
【0105】
検出器は、Nチャネル検出器であってよく、高タイミング分解能デジタル変換器および低タイミング分解能チャネルのそれぞれがN個の入力チャネルを含んでよく、検出器によって与えられる検出信号系列は、Nチャネルの検出信号系列であってよい。高タイミング分解能デジタル変換器は、少なくとも1つの関連付けられた検出信号のそれぞれに対応する到達時刻を特定するために、N個の時間デジタル変換器と、このN個の時間デジタル変換器をトリガする、少なくともN個の入力チャネルを有する弁別器とを含むことが可能である。低タイミング分解能デジタル変換器は、少なくともN個の入力チャネルを有する加算器と、この加算器とリンクされたアナログデジタル変換器とを含むことが可能である。加算器は、アナログ加算器であってよい。
【0106】
電界発生器は、複数の飛行時間抽出の各飛行時間抽出において、イオンをイオン群の系列としてドリフトチャンバから押し出すように動作可能であり、イオン群系列の各イオン群は、複数の質量対電荷比のうちの異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンを含む。高タイミング分解能デジタル変換器は、複数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを特定して、複数の抽出固有の複数の時刻および強度のペアを与えるように動作可能である。低タイミング分解能デジタル変換器は、複数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定して、複数の抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えるように動作可能である。プロセッサは、複数の時刻および強度のペアと、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値とが、それぞれ、複数の飛行時間抽出を経て特定されるように、複数の抽出固有の複数の時刻および強度のペアを結合して、複数の時刻および強度のペアを与えることと、複数の抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を結合して、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えることと、を行うように動作可能である。
【0107】
電界発生器は、選択された数の飛行時間抽出の各飛行時間抽出において、イオンをイオン群の系列としてドリフトチャンバから押し出すように動作可能であってよく、選択された数は、1より大きい整数であり、イオン群系列の各イオン群は、複数の質量対電荷比のうちの異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンを含む。高タイミング分解能デジタル変換器は、選択された数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを特定して、選択された数の抽出固有の複数の時刻および強度のペアを与えるように動作可能であってよい。低タイミング分解能デジタル変換器は、選択された数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定して、選択された数の抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えるように動作可能であってよい。プロセッサは、複数の時刻および強度のペアと、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値とが、それぞれ、選択された数の飛行時間抽出を経て特定されるように、選択された数の抽出固有の複数の時刻および強度のペアを結合して、複数の時刻および強度のペアを与えることと、選択された数の抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を結合して、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えることと、を行うように動作可能であってよい。飛行時間抽出数は、低いほうの強度範囲が高いほうの強度範囲と部分的に重なり合うように、低いほうの強度範囲の上限および高いほうの強度範囲の下限を調節するように選択される。
【0108】
他の実施態様は、飛行時間型質量分析計を操作することにより、複数の質量対電荷比を有するイオンを処理して複数のイオン強度を特定する方法に関する。本方法は、a)複数の飛行時間抽出においてイオンを飛行時間型質量分析計に導入するステップと、b)複数の飛行時間抽出の各抽出において、イオンを、検出器による検出のために、イオン群の系列としてドリフトチャンバから検出器へ押し出すべく、イオンに電界をかけるステップであって、イオン群系列の各イオン群が、複数の質量対電荷比のうちの異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンを含む、イオンに電界をかけるステップと、c)検出器に接触したイオンを検出して、検出信号の系列を生成するステップと、d)高タイミング分解能データストリームを生成するステップであって、多数の多様な高ピークを分解するように構成された高タイミング分解能デジタル変換器に検出信号系列を与えるステップと、検出器によって検出された各イオン群について、検出信号系列のうち、そのイオン群の検出時に検出器によって生成された、関連付けられた検出信号を少なくとも1つ特定するステップとにより、高タイミング分解能データストリームを生成するステップと、e)低タイミング分解能デジタル変換器に検出信号系列を与えることにより、低タイミング分解能データストリームを生成するステップと、f)複数の質量対電荷比の各質量対電荷比について、その質量対電荷比を有するイオンの飛行時間および強度を表す、対応する時刻および強度のペアを特定することによって、高タイミング分解能データストリームを処理するステップであって、時刻および強度のペアのうちの強度は、複数の高分解能時間間隔にわたって測定された複数の、低いほうの強度範囲の強度値から特定される、高タイミング分解能データストリームを処理するステップと、g)低タイミング分解能データストリームを処理して、検出信号系列のうちの複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定するステップと、を含む。低タイミング分解能デジタル変換器は、高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超える強度を測定するように動作可能である。高タイミング分解能デジタル変換器は、低タイミング分解能デジタル変換器の低タイミング分解能より高い高タイミング分解能で動作可能である。
【0109】
本方法はさらに、高タイミング分解能データストリームおよび低タイミング分解能データストリームを結合して、高タイミング分解能データストリームおよび低タイミング分解能データストリームの両方からの強度情報を含む結合データセットを与えるステップを含みうる。高タイミング分解能データストリームおよび低タイミング分解能データストリームを結合して結合データセットを与えるステップは、複数の時刻および強度のペアのうちの強度を、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値と比較することを含みうる。
【0110】
高タイミング分解能データストリームおよび低タイミング分解能データストリームを結合するステップは、複数の時刻および強度のペアの各時刻および強度のペアについて、複数のイオン強度のうちの対応するイオン強度を特定することを含むことができ、このステップは、高タイミング分解能デジタル変換器の強度条件がその時刻および強度のペアに対して満たされているかどうかを判定することと、強度条件が満たされている場合は、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値のうちの、その時刻および強度のペアに対応するイオン強度を特定し、強度条件が満たされていない場合は、その時刻および強度のペアのうちの強度を、対応するイオン強度として選択することとによって行う。ある個々の時刻および強度のペアが強度条件を満たすかどうかを判定するステップは、その個々の時刻および強度のペアのうちの強度に対応する、低タイミング分解能デジタル変換器の高いほうの強度範囲の強度測定値が、高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超えているかどうかを判定することを含みうる。
【0111】
高タイミング分解能データストリームを生成するステップは、複数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを特定して、複数の抽出固有の複数の時刻および強度のペアを与えることを含むことができる。複数の時刻および強度のペアを特定するステップは、複数の時刻および強度のペアが複数の飛行時間抽出を経て特定されるように、複数の抽出固有の複数の時刻および強度のペアを結合して、複数の時刻および強度のペアを与えることを含むことができる。低タイミング分解能データストリームを生成するステップは、複数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定して、複数の抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えることを含むことができる。複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定するステップは、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値が複数の飛行時間抽出を経て特定されるように、複数の抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を結合して、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えることを含むことができる。
【0112】
複数の飛行時間抽出は、選択された数の飛行時間抽出を含み、選択された数は、1より大きい整数である。高タイミング分解能データストリームを生成するステップは、選択された数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを特定して、選択された数の抽出固有の複数の時刻および強度のペアを与えることを含むことが可能である。複数の時刻および強度のペアを特定するステップは、複数の時刻および強度のペアが、選択された数の飛行時間抽出を経て特定されるように、選択された数の抽出固有の複数の時刻および強度のペアを結合して、複数の時刻および強度のペアを与えることを含むことが可能である。低タイミング分解能データストリームを生成するステップは、選択された数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定して、選択された数の抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えることを含むことが可能である。複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定するステップは、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値が、選択された数の飛行時間抽出を経て特定されるように、選択された数の抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を結合して、複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えることを含むことが可能である。
【0113】
本方法はさらに、低タイミング分解能デジタル変換器に与えられる検出信号系列に減衰率を適用するステップを含むことが可能である。複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値のうちの各高いほうの強度範囲の強度測定値は、減衰率と、アナログデジタル変換器の出力レベルとに基づいて特定することができる。減衰率は、高分解能データストリームの低いほうの強度範囲の少なくとも半分が、低分解能データストリームの高いほうの強度範囲の下方かつ外側になるように、決定可能である。
【0114】
低タイミング分解能データストリームは、少なくとも1つの検出信号の継続時間を表す複数の低分解能時間間隔を含む。複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値の各高いほうの強度範囲の強度測定値は、複数の低分解能時間間隔のうちの対応する低分解能時間間隔の間の少なくとも1つの検出信号の強度を表す。
【0115】
本方法はさらに、ある時刻および強度のペアが強度条件を満たす場合に、複数の低分解能時間間隔のうちの、その時刻および強度のペアのうちの時刻に対応する低分解能時間間隔を識別し、その対応する低分解能時間間隔を選択して、その時刻および強度のペアのうちの時刻を表すステップを含むことができる。
【0116】
特定の実施態様は、飛行時間型質量分析計を操作することにより、複数の質量対電荷比を有するイオンを処理して複数のイオン強度を特定する方法に関する。本方法は、a)イオンを飛行時間型質量分析計に導入するステップと、b)イオンを、検出器による検出のために、イオン群の系列としてドリフトチャンバから検出器へ押し出すべく、イオンに電界をかけるステップであって、イオン群系列の各イオン群が、複数の質量対電荷比のうちの異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンを含む、イオンに電界をかけるステップと、c)検出器に接触したイオンを検出して、検出信号の系列を生成するステップと、d)高タイミング分解能データストリームを生成するステップであって、多数の多様な高ピークを分解するように構成された高タイミング分解能デジタル変換器に検出信号系列を与えるステップと、イオン群系列の各イオン群について、i)検出信号系列のうち、そのイオン群の検出時に検出器によって生成された、関連付けられた検出信号を少なくとも1つ特定するステップと、ii)そのイオン群の飛行時間および強度を表す、対応する時刻および強度のペアを特定するステップであって、時刻および強度のペアのうちの強度は、複数の高分解能時間間隔にわたって測定された複数の、低いほうの強度範囲の強度から特定される、対応する時刻および強度のペアを特定するステップと、によって、高タイミング分解能データストリームを生成するステップと、e)低タイミング分解能デジタル変換器に検出信号系列を与えて、複数の低分解能時間間隔にわたる検出信号系列のうちの複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定することによって、低タイミング分解能データストリームを生成するステップと、を含むことができる。低タイミング分解能デジタル変換器は、高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超える強度を測定するように動作可能である。高タイミング分解能デジタル変換器は、低タイミング分解能デジタル変換器の低タイミング分解能より高い高タイミング分解能で動作する。
【0117】
上述の実施形態では、低タイミング分解能デジタル変換器は、高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超える強度を測定するように動作可能である。高タイミング分解能デジタル変換器は、低タイミング分解能デジタル変換器の低タイミング分解能より高い高タイミング分解能で動作可能である。高タイミング分解能デジタル変換器の高いタイミング分解能は、低タイミング分解能デジタル変換器の低いタイミング分解能の少なくとも2倍となりうる。高タイミング分解能デジタル変換器の高いタイミング分解能は、低タイミング分解能デジタル変換器の低いタイミング分解能の少なくとも5倍となりうる。
【0118】
本明細書で用いているセクション見出しは、構成用であるに過ぎず、いかなる形でも記載対象を限定するものではないことを理解されたい。さらに、本明細書で参照しているグラフや図面は、例示用に過ぎず、必ずしも正確な縮尺で描かれていないことを理解されたい。さらに、本発明の他の変形形態および変更形態も可能であって、本開示の範囲内であることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行時間型質量分析計を操作することにより、複数の質量対電荷比を有するイオンを処理して複数のイオン強度を特定する方法であって、
a)複数の飛行時間抽出において前記イオンを前記飛行時間型質量分析計に導入するステップと、
b)前記複数の飛行時間抽出の各抽出において、前記イオンを、検出器による検出のために、イオン群の系列としてドリフトチャンバから前記検出器へ押し出すべく、前記イオンに電界をかけるステップであって、前記イオン群系列の各イオン群が、前記複数の質量対電荷比のうちの異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンを含む、ステップと、
c)前記検出器に接触したイオンを検出して、検出信号の系列を生成するステップと、
d)高タイミング分解能データストリームを生成するステップであって、
多数の多様な高ピークを分解するように構成された高タイミング分解能デジタル変換器に前記検出信号系列を与えるステップと、
前記検出器によって検出された各イオン群について、前記検出信号系列のうち、前記各イオン群の検出時に前記検出器によって生成された、関連付けられた検出信号を少なくとも1つ特定するステップと、によるステップと、
e)低タイミング分解能デジタル変換器に前記検出信号系列を与えることにより、低タイミング分解能データストリームを生成するステップと、
f)前記複数の質量対電荷比の各質量対電荷比について、前記各質量対電荷比を有するイオンの飛行時間および強度を表す、対応する時刻および強度のペアを特定することによって、前記高タイミング分解能データストリームを処理するステップであって、前記時刻および強度のペアのうちの強度は、複数の高分解能時間間隔にわたって測定された複数の、低いほうの強度範囲の強度値から特定される、ステップと、
g)前記低タイミング分解能データストリームを処理して、前記検出信号系列のうちの複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定するステップと、を含み、
前記低タイミング分解能デジタル変換器は、前記高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超える強度を測定するように動作可能であり、前記高タイミング分解能デジタル変換器は、前記低タイミング分解能デジタル変換器の低タイミング分解能より高い高タイミング分解能で動作する、
方法。
【請求項2】
前記高タイミング分解能データストリームおよび前記低タイミング分解能データストリームを結合して、前記高タイミング分解能データストリームおよび前記低タイミング分解能データストリームの両方からの強度情報を含む結合データセットを与えるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高タイミング分解能データストリームおよび前記低タイミング分解能データストリームを結合する前記ステップは、前記複数の時刻および強度のペアの各時刻および強度のペアについて、前記複数のイオン強度のうちの対応するイオン強度を特定することを含み、対応するイオン強度を特定する前記ステップは、
前記高タイミング分解能デジタル変換器の強度条件が前記各時刻および強度のペアに対して満たされているかどうかを判定することと、
前記強度条件が満たされている場合は、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値のうちの、前記各時刻および強度のペアに対応するイオン強度を特定し、前記強度条件が満たされていない場合は、前記各時刻および強度のペアのうちの強度を、前記対応するイオン強度として選択することとによって行われ、
前記強度条件を満たす時刻および強度のペアがある場合に、前記複数のイオン強度のうちの前記対応するイオン強度は、前記高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超える、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記高タイミング分解能デジタル変換器の高いタイミング分解能は、前記低タイミング分解能デジタル変換器の低いタイミング分解能の少なくとも2倍である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記高タイミング分解能デジタル変換器の高いタイミング分解能は、前記低タイミング分解能デジタル変換器の低いタイミング分解能の少なくとも5倍である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記高タイミング分解能デジタル変換器は、前記複数の時刻および強度のペアの各時刻および強度のペアのうちの時刻を特定するために、少なくとも1つの時間デジタル変換器と、前記少なくとも1つの時間デジタル変換器をトリガする弁別器と、を備え、
前記低タイミング分解能デジタル変換器は、アナログデジタル変換器を備える、
請求項2に記載の方法。
【請求項7】
ある個々の時刻および強度のペアが前記強度条件を満たすかどうかを判定する前記ステップは、前記ある個々の時刻および強度のペアのうちの強度に対応する、前記低タイミング分解能デジタル変換器の高いほうの強度範囲の強度測定値が、前記高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超えているかどうかを判定することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップd)は、前記複数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを特定して、複数の前記抽出固有の複数の時刻および強度のペアを与えることを含み、前記ステップf)は、前記複数の時刻および強度のペアが前記複数の飛行時間抽出を経て特定されるように、前記複数の前記抽出固有の複数の時刻および強度のペアを結合して、前記複数の時刻および強度のペアを与えることを含み、
前記ステップe)は、前記複数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定して、複数の前記抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えることを含み、前記ステップg)は、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値が前記複数の飛行時間抽出を経て特定されるように、前記複数の前記抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を結合して、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えることを含む、
請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記高タイミング分解能データストリームの低いほうの強度範囲が、前記低タイミング分解能データストリームの高いほうの強度範囲と部分的に重なり合う、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の飛行時間抽出は、選択された数の飛行時間抽出を含み、前記選択された数は、1より大きい整数であり、
前記ステップd)は、前記選択された数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを特定して、前記選択された数の前記抽出固有の複数の時刻および強度のペアを与えることを含み、前記ステップf)は、前記複数の時刻および強度のペアが前記選択された数の飛行時間抽出を経て特定されるように、前記選択された数の前記抽出固有の複数の時刻および強度のペアを結合して、前記複数の時刻および強度のペアを与えることを含み、
前記ステップe)は、前記選択された数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定して、前記選択された数の前記抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えることを含み、前記ステップg)は、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値が前記選択された数の飛行時間抽出を経て特定されるように、前記選択された数の前記抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を結合して、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えることを含み、
前記飛行時間抽出数は、前記低いほうの強度範囲が前記高いほうの強度範囲と部分的に重なり合うように、前記低いほうの強度範囲の上限および前記高いほうの強度範囲の下限を調節するように選択される、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記低タイミング分解能デジタル変換器に与えられる前記検出信号系列に減衰率を適用するステップをさらに含み、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値のうちの各高いほうの強度範囲の強度測定値は、前記減衰率と、前記アナログデジタル変換器の出力レベルとに基づいて特定される、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記高分解能データストリームの低いほうの強度範囲の少なくとも半分が、前記低分解能データストリームの高いほうの強度範囲の下方かつ外側になるように、前記減衰率を決定するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記高タイミング分解能デジタル変換器は、TDCモードで動作するアナログデジタル変換器と、前記時刻および強度のペアを識別する変換プロセッサとを備える、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記高タイミング分解能データストリームおよび前記低タイミング分解能データストリームを結合して前記結合データセットを与える前記ステップは、前記複数の時刻および強度のペアのうちの強度を、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値と比較することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
前記低タイミング分解能データストリームは、前記少なくとも1つの検出信号の継続時間を表す複数の低分解能時間間隔を含み、
前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値の各高いほうの強度範囲の強度測定値は、前記複数の低分解能時間間隔のうちの対応する低分解能時間間隔の間の前記少なくとも1つの検出信号の強度を表す、
請求項3に記載の方法。
【請求項16】
ある時刻および強度のペアが前記強度条件を満たす場合に、前記複数の低分解能時間間隔のうちの、前記ある時刻および強度のペアのうちの時刻に対応する低分解能時間間隔を識別し、前記対応する低分解能時間間隔を選択して、前記ある時刻および強度のペアのうちの時刻を表すステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記検出器は、Nチャネル検出器であり、前記高タイミング分解能デジタル変換器および前記低タイミング分解能デジタル変換器のそれぞれがN個の入力チャネルを備え、前記検出信号系列は、Nチャネルの検出信号系列である、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
飛行時間型質量分析計を操作することにより、複数の質量対電荷比を有するイオンを処理して複数のイオン強度を特定する方法であって、
a)前記イオンを前記飛行時間型質量分析計に導入するステップと、
b)前記イオンを、検出器による検出のために、イオン群の系列としてドリフトチャンバから前記検出器へ押し出すべく、前記イオンに電界をかけるステップであって、前記イオン群系列の各イオン群が、前記複数の質量対電荷比のうちの異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンを含む、ステップと、
c)前記検出器に接触したイオンを検出して、検出信号の系列を生成するステップと、
d)高タイミング分解能データストリームを生成するステップであって、ステップと、前記イオン群系列の各イオン群について、
i)前記検出信号系列のうち、前記各イオン群の検出時に前記検出器によって生成された、関連付けられた検出信号を少なくとも1つ特定するステップと、
ii)前記各イオン群の飛行時間および強度を表す、対応する時刻および強度のペアを特定するステップであって、前記時刻および強度のペアのうちの強度は、複数の高分解能時間間隔にわたって測定された複数の、低いほうの強度範囲の強度から特定される、時刻および強度のペアを特定する前記ステップと、によって、高タイミング分解能データストリームを生成する前記ステップと、
e)低タイミング分解能デジタル変換器に前記検出信号系列を与えて、複数の低分解能時間間隔にわたる前記検出信号系列のうちの複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定することによって、低タイミング分解能データストリームを生成するステップと、を含み、
前記低タイミング分解能デジタル変換器は、前記高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超える強度を測定するように動作可能であり、前記高タイミング分解能デジタル変換器は、前記低タイミング分解能デジタル変換器の低タイミング分解能より高い高タイミング分解能で動作する、
方法。
【請求項19】
複数の質量対電荷比を有するイオンをイオン源から受け取るドリフトチャンバと、
検出器であって、前記検出器に接触したイオンを表す検出信号の系列を生成する検出器と、
前記検出器による検出のために、前記イオンを前記ドリフトチャンバから押し出す電界を発生させる電界発生器と、
前記検出器から前記検出信号系列を受信するために前記検出器とリンクされた高タイミング分解能デジタル変換器であって、多数の多様な高ピークを分解するように構成されており、前記検出器によって検出された各イオン群について、i)前記検出信号系列のうち、前記各イオン群の検出時に前記検出器によって生成された、関連付けられた検出信号を少なくとも1つ特定することと、ii)前記少なくとも1つの関連付けられた検出信号に対応する到達時刻データを高分解能時間間隔で確定することと、によって、高タイミング分解能データストリームを生成するように動作可能な前記高タイミング分解能デジタル変換器と、
前記検出器から前記検出信号系列を受信するために前記検出器とリンクされた低タイミング分解能デジタル変換器であって、前記検出信号系列を低分解能時間間隔でサンプリングすることによって低タイミング分解能データストリームを生成するように動作可能な前記低タイミング分解能デジタル変換器と、
前記高タイミング分解能デジタル変換器および前記低タイミング分解能デジタル変換器とリンクされたプロセッサであって、
i)前記高タイミング分解能データストリームを処理して複数の時刻および強度のペアを特定するステップであって、各時刻および強度のペアは、前記複数の質量対電荷比のうちの、対応する、異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンの飛行時間および強度を表す、ステップと、
ii)前記低タイミング分解能データストリームを処理して、前記検出信号系列のうちの複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定するステップと、を行うように動作可能な前記プロセッサと、を備え、
前記低タイミング分解能デジタル変換器は、前記高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超える強度を測定するように動作可能であり、前記高タイミング分解能デジタル変換器は、前記低タイミング分解能デジタル変換器の低タイミング分解能より高い高タイミング分解能で動作する、
飛行時間型質量分析計システム。
【請求項20】
前記プロセッサは、前記高タイミング分解能データストリームと前記低タイミング分解能データストリームとを結合して、前記高タイミング分解能データストリームおよび前記低タイミング分解能データストリームの両方から、強度情報を含む複数のイオン強度を取得するように動作可能であり、前記複数のイオン強度の各イオン強度は、前記複数の質量対電荷比のうちの異なるいずれかの質量対電荷比に対応する、請求項19に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項21】
前記プロセッサは、前記複数の時刻および強度のペアの各時刻および強度のペアについて、前記複数のイオン強度のうちの前記対応するイオン強度を特定するように動作可能であり、前記特定は、
前記高タイミング分解能デジタル変換器の強度条件が前記各時刻および強度のペアに対して満たされているかどうかを判定することと、
前記強度条件が満たされている場合は、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値のうちの、前記各時刻および強度のペアに対応するイオン強度を特定し、前記強度条件が満たされていない場合は、前記各時刻および強度のペアのうちの強度を、前記対応するイオン強度として選択することとによって行われ、
前記強度条件を満たす時刻および強度のペアがある場合に、前記複数のイオン強度のうちの前記対応するイオン強度は、前記高タイミング分解能デジタル変換器で測定可能な最大強度を超える、
請求項20に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項22】
前記プロセッサは、ある個々の時刻および強度のペアが前記強度条件を満たすかどうかを判定するように動作可能であり、前記判定は、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値のうちの、前記ある個々の時刻および強度のペアのうちの強度に対応する、高いほうの強度範囲の強度測定値が、前記高タイミング分解能デジタル変換器によって測定可能な最大強度を超えているかどうかを判定することによって行う、請求項21に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項23】
前記高タイミング分解能デジタル変換器の高いタイミング分解能は、前記低タイミング分解能デジタル変換器の低いタイミング分解能の少なくとも2倍である、請求項20に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項24】
前記高タイミング分解能デジタル変換器の高いタイミング分解能は、前記低タイミング分解能デジタル変換器の低いタイミング分解能の少なくとも5倍である、請求項20に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項25】
前記低タイミング分解能デジタル変換器は、アナログデジタル変換器を備える、請求項20に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項26】
前記低タイミング分解能デジタル変換器は、前記低タイミング分解能デジタル変換器に与えられた前記検出信号系列に減衰率を適用する減衰器をさらに含み、前記低タイミング分解能デジタル変換器は、前記減衰率と、前記アナログデジタル変換器の出力レベルとを用いて、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値の各高いほうの強度範囲の強度測定値を特定する、請求項25に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項27】
前記プロセッサは、前記減衰器によって適用される前記減衰率を、前記高分解能データストリームの低いほうの強度範囲の少なくとも半分が、前記低分解能データストリームの高いほうの強度範囲の下方かつ外側になるように、決定するように動作可能である、請求項26に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項28】
前記高タイミング分解能デジタル変換器は、各検出信号に対応する到達時刻を特定するために、少なくとも1つの時間デジタル変換器と、前記少なくとも1つの時間デジタル変換器をトリガする弁別器とを備える、請求項25に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項29】
前記高タイミング分解能デジタル変換器は、TDCモードで動作するアナログデジタル変換器を備え、前記プロセッサは、前記時刻および強度のペアを識別する変換プロセッサを備える、請求項25に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項30】
前記検出器は、Nチャネル検出器であり、前記高タイミング分解能デジタル変換器および前記低タイミング分解能チャネルのそれぞれがN個の入力チャネルを備え、前記検出器によって与えられる前記検出信号系列は、Nチャネルの検出信号系列である、請求項20に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項31】
前記高タイミング分解能デジタル変換器は、少なくとも1つの関連付けられた検出信号のそれぞれに対応する到達時刻を特定するために、N個の時間デジタル変換器と、前記N個の時間デジタル変換器をトリガする、少なくともN個の入力チャネルを有する弁別器とを備え、
前記低タイミング分解能デジタル変換器は、少なくともN個の入力チャネルを有する加算器と、前記加算器とリンクされたアナログデジタル変換器とを備える、
請求項30に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項32】
前記プロセッサは、前記複数の時刻および強度のペアのうちの強度を、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値と比較することにより、前記複数のイオン強度を取得するように動作可能である、請求項20に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項33】
前記電界発生器は、複数の飛行時間抽出の各飛行時間抽出において、前記イオンをイオン群の系列として前記ドリフトチャンバから押し出すように動作可能であり、前記イオン群系列の各イオン群は、前記複数の質量対電荷比のうちの異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンを含み、
前記高タイミング分解能デジタル変換器は、前記複数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを特定して、複数の前記抽出固有の複数の時刻および強度のペアを与えるように動作可能であり、
前記低タイミング分解能デジタル変換器は、前記複数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定して、複数の前記抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えるように動作可能であり、
前記プロセッサは、前記複数の時刻および強度のペアと、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値とが、それぞれ、前記複数の飛行時間抽出を経て特定されるように、i)前記複数の前記抽出固有の複数の時刻および強度のペアを結合して、前記複数の時刻および強度のペアを与えることと、ii)前記複数の前記抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を結合して、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えることと、を行うように動作可能である、
請求項20に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項34】
前記高タイミング分解能データストリームの低いほうの強度範囲が、前記低タイミング分解能データストリームの高いほうの強度範囲と部分的に重なり合う、請求項20に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項35】
前記電界発生器は、選択された数の飛行時間抽出の各飛行時間抽出において、前記イオンをイオン群の系列として前記ドリフトチャンバから押し出すように動作可能であり、前記選択された数は、1より大きい整数であり、前記イオン群系列の各イオン群は、前記複数の質量対電荷比のうちの異なるいずれかの質量対電荷比を有するイオンを含み、
前記高タイミング分解能デジタル変換器は、前記選択された数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の時刻および強度のペアを特定して、前記選択された数の前記抽出固有の複数の時刻および強度のペアを与えるように動作可能であり、
前記低タイミング分解能デジタル変換器は、前記選択された数の飛行時間抽出の各抽出において、抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を特定して、前記選択された数の前記抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えるように動作可能であり、
前記プロセッサは、前記複数の時刻および強度のペアと、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値とが、それぞれ、前記選択された数の飛行時間抽出を経て特定されるように、i)前記選択された数の前記抽出固有の複数の時刻および強度のペアを結合して、前記複数の時刻および強度のペアを与えることと、ii)前記選択された数の前記抽出固有の複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を結合して、前記複数の、高いほうの強度範囲の強度測定値を与えることと、を行うように動作可能であり、
前記飛行時間抽出数は、前記低いほうの強度範囲が前記高いほうの強度範囲と部分的に重なり合うように、前記低いほうの強度範囲の上限および前記高いほうの強度範囲の下限を調節するように選択される、
請求項34に記載の飛行時間型質量分析計システム。
【請求項36】
前記低タイミング分解能データストリームの送信は、前記高タイミング分解能データストリームのコンテンツに基づいて制御可能である、請求項19に記載の飛行時間型質量分析計システム。

【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−519198(P2013−519198A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551697(P2012−551697)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【国際出願番号】PCT/IB2011/000152
【国際公開番号】WO2011/095863
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】