飛行時間型質量分析装置及び飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法
【課題】標準物質の種類や使用量を減らしても適切にキャリブレーションを行うことができる飛行時間型質量分析装置及び飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法を提供すること。
【解決手段】スペクトル情報変換部42は、変換多項式のすべての係数値を変更可能な所定のアサイン情報を含む少なくとも3つのアサイン情報と変換多項式の係数値の情報とを有するキャリブレーション情報に基づいて、スペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する。キャリブレーション情報生成部44は、所定のアサイン情報とアサイン情報生成部43がスペクトル情報に基づいて新たに生成したアサイン情報とを含む少なくとも3つのアサイン情報を有するキャリブレーション情報を新たに生成する。キャリブレーション係数変更部45は、キャリブレーション情報生成部44が新たに生成したキャリブレーション情報に基づいて変換多項式の係数値を変更する。
【解決手段】スペクトル情報変換部42は、変換多項式のすべての係数値を変更可能な所定のアサイン情報を含む少なくとも3つのアサイン情報と変換多項式の係数値の情報とを有するキャリブレーション情報に基づいて、スペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する。キャリブレーション情報生成部44は、所定のアサイン情報とアサイン情報生成部43がスペクトル情報に基づいて新たに生成したアサイン情報とを含む少なくとも3つのアサイン情報を有するキャリブレーション情報を新たに生成する。キャリブレーション係数変更部45は、キャリブレーション情報生成部44が新たに生成したキャリブレーション情報に基づいて変換多項式の係数値を変更する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量化合物の定量分析、定性一斉分析、および試料イオンの構造解析分野に用いられる飛行時間型質量分析装置及び飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型質量分析計(TOFMS:Time Of Flight Mass Spectrometer)は、一定量のエネルギーを与えてイオンを加速・飛行させ、検出器に到達するまでに要する時間からイオンの質量電荷比(m/z)を求める質量分析装置である。TOFMSでは、イオンを一定のパルス電圧Vaで加速する。このとき、エネルギー保存則から、次式(1)が成り立つ。
【0003】
【数1】
【0004】
ただし、vはイオンの速度、mはイオンの質量、zはイオンの価数、eは素電荷である。
【0005】
式(1)より、イオンの速度vは、次式(2)で表される。
【0006】
【数2】
【0007】
従って、イオンが一定距離Lの後に置いた検出器に到着するまでの飛行時間Tは、次式(3)で表される。
【0008】
【数3】
【0009】
式(3)により、飛行時間Tがイオンのm/zによって異なることを利用して、質量を分離する装置がTOFMSである。
【0010】
イオン源から直線的に検出器まで飛行させる直線型TOFMSや、イオン源と検出器の間に反射場を置くことにより、エネルギー収束性の向上と飛行距離の延長を可能にする反射型TOFMSが普及している。反射型TOFMSは、未知物質のm/z値を、組成式から計算で求められるm/z値と数ppm程度の誤差で測定することができることから、未知物質の組成推定に利用されることで知られる。
【0011】
TOFMSの質量分解能Rは、総飛行時間をT、ピーク幅をΔTとすると、次式(4)で定義される。
【0012】
【数4】
【0013】
すなわち、ピーク幅ΔTを一定にして、総飛行時間Tを延ばすことができれば、質量分解能を向上させられる。しかし、従来の直線型、反射型の飛行質量分析装置では、総飛行時間Tを延ばすこと、すなわち総飛行距離を延ばすことは装置の大型化に直結する。装置の大型化を避け、かつ高質量分解能を実現するために開発された装置が、多重周回型TOFMS(非特許文献1)である。この装置は、円筒電場にマツダプレートを組み合わせたトロイダル電場を4個用い、8の字型の周回軌道を多重周回させることにより、総飛行時間Tを延ばすことができる。この装置では、初期位置・初期角度・初期運動エネルギーによる検出面での空間的な広がりと時間的な広がりを1次の項まで収束することに成功している。
【0014】
しかし、閉軌道を多重周回する飛行時間型質量分析装置には、「追い越し」の問題が存在する。これは閉軌道を多重周回するため、軽いイオン(速度大きい)が重いイオン(速度小さい)を追い越してしまうことにより起こる。このため、検出面に軽いイオンから順に到着するという飛行時間型質量分析計の基本概念が通用しなくなる。
【0015】
この問題を解決するために考案されたのが、らせん軌道型飛行時間型質量分析装置である。らせん軌道型飛行時間型質量分析計は、閉軌道の始点と終点を閉軌道面に対して垂直方向にずらすことを特徴としている。これを実現するためには、イオンをはじめから斜めから入射する方法(特許文献1)や、デフレクタを用いて閉軌道の始点と終点を垂直方向にずらす方法(特許文献2)、積層型トロイダル電場を用いる方法(特許文献3)がある。
【0016】
また、同様のコンセプトとして、追い越しの起こる多重反射型TOFMS(特許文献4)の軌道をジグザグ型にしたTOFMSも考案されている(特許文献5)。
【0017】
TOFMSでは、実測される横軸は時間起点からの飛行時間である。この飛行時間にある変換をかけてm/z値に変換する。式(3)からm/z値の平方根と飛行時間Tは比例関係にあることが分かるが、実際には両者の関係は多項式で変換されることが多く、例えば4次式の場合、次式(5)のように表される。
【0018】
【数5】
【0019】
式(5)の場合、式(3)由来の係数b、測定時の時間的なオフセットとして係数aが設定され、高次の系統誤差として係数c,d,eなどが設定されている。以下、係数a〜eをキャリブレーション係数と呼び、キャリブレーション係数を変更することをキャリブレーションと呼ぶ。
【0020】
TOFMSのキャリブレーションは大きく分けて2種類存在し、キャリブレーション係数の全てを変更できる場合と一部のみ変更できる場合がある。前者を全キャリブレーション(FC:Full Calibration)、後者を部分キャリブレーション(PC:Partial Calibration)と呼ぶ。また、測定対象物質の側面から、既知物質のみの測定を外部キャリブレーション、既知物質と未知物質を混合して測定する場合を内部キャリブレーションと呼ぶ。
【0021】
FCが可能な条件は、キャリブレーションに利用する多項式に含まれるキャリブレーション係数の数以上の既知物質ピークが観測できることである。これは、外部キャリブレーションである場合が多い。既知物質の組成式から計算される計算m/z値の平方根と観測飛行時間T(=既知物質ピークの重心値)をフィッテイィングし、キャリブレーション係数を決める。未知物質の測定では、求めたキャリブレーション係数と観測飛行時間Tを式(5)に代入して観測m/z値を算出する。
【0022】
ところで、内部キャリブレーションでは未知物質と標準物質を混合するので、多種類の標準物質を混ぜることが困難となり、全てのキャリブレーション係数を変更することができないのでPCとなる場合が多い。PCでは特に経時的な変動が大きなキャリブレーション係数を変更することが有効となる。変更するキャリブレーション係数はaやbである。たとえば1つの既知物質がある場合にキャリブレーション係数bを新しいキャリブレーション係数b’に変更する場合は、次式(6)、(7)の関係式が得られる。
【0023】
【数6】
【0024】
【数7】
【0025】
ここで(m/z)obsは既知物質の観測m/z値、(m/z)clcは既知物質の計算m/z値、Tobsは既知物質の観測飛行時間である。
【0026】
式(6)、(7)より、キャリブレーション係数b’は、次式(8)により計算することができる。
【0027】
【数8】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特開2000−243345号公報
【特許文献2】特開2003−86129号公報
【特許文献3】特開2006−12782号公報
【特許文献4】英国特許第2080021号明細書
【特許文献5】国際公開第2005/001878号明細書
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】M. Toyoda, D. Okumura, M. Ishihara and I. Katakuse, J. Mass Spectrom., 2003, 38, 1125-1142.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
ところで、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI:Matrix Assisted Laser Desorption / Ionization)法は、使用するレーザー光波長に吸収帯をもつマトリックス(液体や結晶性化合物、金属粉など)に未知試料を混合溶解させて固化し、これに数〜1kHz程度でパルス的にレーザー照射して未知試料を気化あるいはイオン化させる方法であり、パルス的にイオン化を行うため、TOFMSとの相性が良い。
【0031】
MALDI−TOFMSでは、ターゲットプレートと呼ばれる導電性の板にマトリックスと試料の混合物をのせる。ターゲットプレートのマトリックスと未知試料の混合試料は、「スポット」と呼ばれる決められた位置にのせられ、そのスポットはマイクロタイタープレート形式(MTP形式)に準拠しているものが一般的である。またあるものは、既知物質とマトリックスの混合試料をおく、キャリブレーション用スポットがMTP形式に準じたスポットとは別に配置される場合がある。これは、MALDI−TOFMSの測定では、ターゲットプレート表面のひずみや電源変動などによる飛行時間の変動が発生するため、未知試料の測定とキャリブレーション用既知物質の測定をなるべくターゲットプレート上の離れていない位置かつ時間的に短い間隔で測定したほうが外部標準法での質量精度が上がるからである。例えば、図19に、MTP形式の384スポットと、そのスポット4つに対して1つのキャリブレーション用スポットを追加したターゲットプレートの一例を示す。
【0032】
MALDI−TOFMSでは、ターゲットプレート上に、3種類の混合物、すなわち、マトリックスと未知試料の混合物(UKN)、マトリックスと5種類以上の標準物質の混合物(STD)、マトリックスと未知試料と1〜2種類の標準物質の混合物(UKN+STD)が準備される。
【0033】
MALDI−TOFMSの測定時におけるキャリブレーションの方法として内部標準法と外部標準法が一般的に知られている。内部標準法は、STDをまず測定してFCにて外部キャリブレーションを行い、UKN+STDを測定して各々内部キャリブレーションを行う。一方、外部標準法は、1つのSTDを測定してFCにて外部キャリブレーションを行い、その後複数のUKNを測定する。たとえば図19のターゲットプレートの場合、キャリブレーション用スポットを測定し、その後、周辺の4つのUKNを測定する。これを順次繰り返していく。
【0034】
内部標準法の方が質量精度の高い測定を行うことができるが、MALDI−TOFMSの場合、標準物質を試料に混ぜることが手間であったり、あるいは標準物質が多いとコストがかかるため、導入する標準物質の種類や量をなるべく減らすことが望まれる。
【0035】
ところが、導入する標準物質が少ないと、実際には既知物質のピークが観測されていないのに既知物質が誤ったピークにミスアサインされる場合があり、誤ったピークのアサインを外してミスアサインを修正した場合に、FCからPCしかできない状況になる可能性がある。しかし、従来の手法では、FCができる場合はそのキャリブレーション情報しか残っていないため、PCしかできない状況になった場合、他のキャリブレーション情報を用いてキャリブレーションができないという問題が生じる。さらに、ミスアサインがあったキャリブレーション情報を複数のスポットから得られるマススペクトルに適用している場合は、それらすべてのマススペクトルのキャリブレーションが行えなくなる。
【0036】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、標準物質の種類や使用量を減らしても適切にキャリブレーションを行うことができる飛行時間型質量分析装置及び飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0037】
(1)本発明は、既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応関係を含むアサイン情報を用いて、イオンの飛行時間と検出強度との対応関係を含むスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する多項式の係数値を変更する機能を有する飛行時間型質量分析装置であって、試料をイオン化するイオン源と、前記イオン源で生成されたイオンを、質量電荷比に応じた飛行時間の違いに基づいて分離する質量分析部と、前記質量分析部で分離されたイオンを検出する検出器と、前記検出器の検出結果に基づいてスペクトル情報を生成するスペクトル情報生成部と、前記多項式のすべての係数値を変更可能な所定のアサイン情報を含む少なくとも3つのアサイン情報と、当該3つのアサイン情報の少なくとも1つを用いて算出された前記多項式の係数値の情報と、を有するキャリブレーション情報に基づいて、当該キャリブレーション情報に関連づけられたスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換するスペクトル情報変換部と、スペクトル情報に基づいて既知物質の質量電荷比と飛行時間とを対応づけて、アサイン情報を新たに生成するアサイン情報生成部と、前記所定のアサイン情報と前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報とを含む少なくとも3つのアサイン情報を有するキャリブレーション情報を新たに生成するキャリブレーション情報生成部と、前記キャリブレーション情報生成部が新たに生成したキャリブレーション情報に基づいて前記多項式の係数値を変更するキャリブレーション係数変更部と、を含む、飛行時間型質量分析装置である。
【0038】
本発明では、キャリブレーション情報が有する所定のアサイン情報は、スペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する多項式(変換多項式)のすべての係数値を変更可能(すなわちFC可能)であり、新たに生成されるキャリブレーション情報も必ずこの所定のアサイン情報を有する。そのため、新たに生成されたFC可能なアサイン情報にミスアサインが発見されてFCが不可能になった場合でも、そのアサイン情報の代わりにこの所定のアサイン情報を用いてFCを行うことで、その後の測定を継続することができる。このように、本発明によれば、標準物質の種類や使用量を減らしても適切にキャリブレーションを行うことができる。
【0039】
また、本発明によれば、新たに生成されるキャリブレーション情報は、必ず、新たに生成したアサイン情報を含むので、このアサイン情報を用いてキャリブレーションすることで質量精度を確保することができる。
【0040】
(2)この飛行時間型質量分析装置において、前記キャリブレーション係数変更部は、前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合は、当該アサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更するようにしてもよい。
【0041】
このようにすれば、最新のアサイン情報を用いてFCを行うことができるので、一定の質量精度を確保することができる。
【0042】
(3)この飛行時間型質量分析装置において、前記キャリブレーション係数変更部は、前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合は、前記多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更した後、前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報を用いて前記多項式の一部の係数値をさらに変更するようにしてもよい。
【0043】
このようにすれば、最新のアサイン情報を用いてPCを行うことができるので、一定の質量精度を確保することができる。
【0044】
(4)この飛行時間型質量分析装置において、前記キャリブレーション情報は、外部キャリブレーションが可能か否かを表すフラグ情報をさらに含むようにしてもよい。
【0045】
このようにすれば、各キャリブレーション情報が外部キャリブレーションに利用することができるものか否か、すなわち、他のスペクトルにも汎用的に適用可能か否かを識別することができる。従って、例えば、ユーザーがこのフラグ情報を参照することで適切なキャリブレーション情報を選択することができる。
【0046】
(5)この飛行時間型質量分析装置は、キャリブレーション情報を記憶部に保存するキャリブレーション情報保存部をさらに含み、前記キャリブレーション情報保存部は、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれるすべてのアサイン情報を当該最新のアサイン情報に置き換えて保存するようにしてもよい。
【0047】
このようにすれば、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報のみを含むキャリブレーション情報を保存することができる。
【0048】
(6)この飛行時間型質量分析装置において、前記キャリブレーション情報保存部は、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれる当該最新のアサイン情報以外のアサイン情報を前記多項式のすべての係数値を変更可能な最新のアサイン情報に置き換えて保存するようにしてもよい。
【0049】
このようにすれば、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報とともに、FC可能な最新のアサイン情報を含むキャリブレーション情報を保存することができる。
【0050】
(7)この飛行時間型質量分析装置において、前記キャリブレーション情報は、アサイン情報の参照先の情報を有し、当該アサイン情報が修正された場合には修正後のアサイン情報が自動的に参照されるようにしてもよい。
【0051】
このようにすれば、アサイン情報の修正が自動的にキャリブレーション情報に反映されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0052】
(8)この飛行時間型質量分析装置において、前記キャリブレーション情報は、アサイン情報の実体を有し、アサイン情報が修正された場合、当該アサイン情報の実体を有するキャリブレーション情報を検索し、当該アサイン情報の実体を修正するキャリブレーション情報修正部をさらに含むようにしてもよい。
【0053】
このようにすれば、キャリブレーション情報が有するアサイン情報の実体が自動的に修正されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0054】
(9)この飛行時間型質量分析装置において、前記スペクトル情報は、キャリブレーション情報の参照先の情報を有し、当該キャリブレーション情報が修正された場合には修正後のキャリブレーション情報が自動的に参照されるようにしてもよい。
【0055】
このようにすれば、キャリブレーションの修正が自動的にスペクトル情報に反映されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0056】
(10)この飛行時間型質量分析装置において、前記スペクトル情報は、キャリブレーション情報の実体を有し、キャリブレーション情報が修正された場合、当該キャリブレーション情報の実体を有するスペクトル情報を検索し、当該キャリブレーション情報の実体を修正するスペクトル情報修正部をさらに含むようにしてもよい。
【0057】
このようにすれば、スペクトル情報が有するキャリブレーション情報の実体が自動的に修正されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0058】
(11)この飛行時間型質量分析装置において、前記イオン源は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法を用いて試料をイオン化するイオン源であるようにしてもよい。
【0059】
(12)本発明は、既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応関係を含むアサイン情報を用いて、イオンの飛行時間と検出強度との対応関係を含むスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する多項式の係数値を変更する、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法であって、前記多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報を含む少なくとも3つのアサイン情報と、当該アサイン情報を用いて算出された前記多項式の係数値の情報と、を有するキャリブレーション情報に基づいて、当該キャリブレーション情報に関連づけられたスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換するスペクトル情報変換ステップと、スペクトル情報に基づいて既知物質の質量電荷比と飛行時間とを対応づけて、アサイン情報を新たに生成するアサイン情報生成ステップと、前記多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報と前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報とを含む少なくとも3つのアサイン情報を有するキャリブレーション情報を新たに生成するキャリブレーション情報生成ステップと、前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報に基づいて前記多項式の係数値を変更するキャリブレーション係数変更ステップと、を含む、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法である。
【0060】
本発明では、キャリブレーション情報が有する所定のアサイン情報は、スペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する多項式(変換多項式)のすべての係数値を変更可能(すなわちFC可能)であり、新たに生成されるキャリブレーション情報も必ずこの所定のアサイン情報を有する。そのため、新たに生成されたFC可能なアサイン情報にミスアサインが発見されてFCが不可能になった場合でも、そのアサイン情報の代わりにこの所定のアサイン情報を用いてFCを行うことで、その後の測定を継続することができる。このように、本発明によれば、標準物質の種類や使用量を減らしても適切にキャリブレーションを行うことができる。
【0061】
また、本発明によれば、新たに生成されるキャリブレーション情報は、必ず、新たに生成したアサイン情報を含むので、このアサイン情報を用いてキャリブレーションすることで質量精度を確保することができる。
【0062】
(13)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法は、前記キャリブレーション係数変更ステップにおいて、前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合は、当該アサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更するようにしてもよい。
【0063】
このようにすれば、最新のアサイン情報を用いてFCを行うことができるので、一定の質量精度を確保することができる。
【0064】
(14)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法は、前記キャリブレーション係数変更ステップにおいて、前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合は、前記多項式のすべての係数値を変更可能な最新のアサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更した後、前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報を用いて前記多項式の一部の係数値をさらに変更するようにしてもよい。
【0065】
このようにすれば、最新のアサイン情報を用いてPCを行うことができるので、一定の質量精度を確保することができる。
【0066】
(15)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法において、前記キャリブレーション情報は、外部キャリブレーションが可能か否かを表すフラグ情報をさらに含むようにしてもよい。
【0067】
このようにすれば、各キャリブレーション情報が外部キャリブレーションに利用することができるものか否か、すなわち、他のスペクトルにも汎用的に適用可能か否かを識別することができる。従って、例えば、ユーザーがこのフラグ情報を参照することで適切なキャリブレーション情報を選択することができる。
【0068】
(16)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法は、キャリブレーション情報を記憶部に保存するキャリブレーション情報保存ステップをさらに含み、前記キャリブレーション情報保存ステップにおいて、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれるすべてのアサイン情報を当該最新のアサイン情報に置き換えて保存するようにしてもよい。
【0069】
このようにすれば、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報のみを含むキャリブレーション情報を保存することができる。
【0070】
(17)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法は、前記キャリブレーション情報保存ステップにおいて、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれる当該最新のアサイン情報以外のアサイン情報を前記多項式のすべての係数値を変更可能な最新のアサイン情報に置き換えて保存するようにしてもよい。
【0071】
このようにすれば、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報とともに、FC可能な最新のアサイン情報を含むキャリブレーション情報を保存することができる。
【0072】
(18)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法において、前記キャリブレーション情報は、アサイン情報の参照先の情報を有し、当該アサイン情報が修正された場合には修正後のアサイン情報が自動的に参照されるようにしてもよい。
【0073】
このようにすれば、アサイン情報の修正が自動的にキャリブレーション情報に反映されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0074】
(19)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法において、前記キャリブレーション情報は、アサイン情報の実体を有し、アサイン情報が修正された場合、当該アサイン情報の実体を有するキャリブレーション情報を検索し、当該アサイン情報の実体を修正するキャリブレーション情報修正ステップをさらに含むようにしてもよい。
【0075】
このようにすれば、キャリブレーション情報が有するアサイン情報の実体が自動的に修正されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0076】
(20)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法において、前記スペクトル情報は、キャリブレーション情報の参照先の情報を有し、当該キャリブレーション情報が修正された場合には修正後のキャリブレーション情報が自動的に参照されるようにしてもよい。
【0077】
このようにすれば、キャリブレーションの修正が自動的にスペクトル情報に反映されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0078】
(21)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法において、前記スペクトル情報は、キャリブレーション情報の実体を有し、キャリブレーション情報が修正された場合、当該キャリブレーション情報の実体を有するスペクトル情報を検索し、当該キャリブレーション情報の実体を修正するスペクトル情報修正ステップをさらに含むようにしてもよい。
【0079】
このようにすれば、スペクトル情報が有するキャリブレーション情報の実体が自動的に修正されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0080】
(22)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法において、前記飛行時間型質量分析装置は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法を用いて試料をイオン化するイオン源を含むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本実施形態の飛行時間型質量分析装置の構成を示す図。
【図2】アサイン情報の一例を示す図。
【図3】キャリブレーション情報の一例を示す図。
【図4】キャリブレーション係数の計算に用いるアサイン情報を示す図。
【図5】新たなキャリブレーション情報に含まれるアサイン情報を示す図。
【図6】保存されるキャリブレーション情報に含まれるアサイン情報を示す図。
【図7】分析部の動作手順の一例を示すフローチャート図。
【図8】分析部の動作の具体例を示す図。
【図9】分析部の動作の具体例を示す図。
【図10】分析部の動作の具体例を示す図。
【図11】分析部の動作の具体例を示す図。
【図12】分析部の動作の具体例を示す図。
【図13】変形例1における分析部の動作手順の一例を示すフローチャート図。
【図14】変形例2におけるキャリブレーション情報の一例を示す図。
【図15】変形例3におけるキャリブレーション情報の一例を示す図。
【図16】変形例3におけるキャリブレーション係数の計算に用いるアサイン情報を示す図。
【図17】変形例3における新たなキャリブレーション情報に含まれるアサイン情報を示す図。
【図18】変形例3における保存されるキャリブレーション情報に含まれるアサイン情報を示す図。
【図19】ターゲットプレートの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0082】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0083】
1.構成
まず、本実施形態の飛行時間型質量分析装置の構成について説明する。図1は、本実施形態の飛行時間型質量分析装置の構成を示す図である。
【0084】
図1に示すように、本実施形態の飛行時間型質量分析装置1は、イオン源10、飛行時間型質量分析部20、検出器30、分析部40、記憶部50、表示部60を含んで構成されている。なお、本実施形態の飛行時間型質量分析装置は、これらの構成要素の一部を省略した構成としてもよい。
【0085】
イオン源10は、所定の方法で試料をイオン化し、一定のパルス電圧を発生させて、生成したイオンを検出器30に向けて加速する。特に本実施形態のイオン源10は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法を用いて試料をイオン化するイオン源である。
【0086】
飛行時間型質量分析部20は、イオン源10で生成されたイオンを、m/zに応じた飛行時間Tの違いに基づいて分離する。具体的には、前記の式(3)により、飛行時間Tがイオンのm/zによって異なることを利用してイオンを分離する。
【0087】
飛行時間型質量分析部20で分離されたイオンは検出器30に到達して検出される。具体的には、検出器30は、入射するイオンの量(強度)に応じたアナログ信号をリアルタイムに出力する。この検出器60が出力するアナログ信号は分析部40に送信される。
【0088】
分析部40は、検出器60が出力するアナログ信号に基づいて、イオン源10で発生したイオンの定性分析や定量分析の処理を行う。特に本実施形態では、分析部40は、測定開始時に、ユーザーが作成した1つのデータセット、あるいは、記憶部50から読み出された1つのデータセットに対して、測定が進むにつれて順次得られるスペクトル情報とともに、新たに生成したアサイン情報やキャリブレーション情報を記録する。そして、この一連の測定に関する情報を記録したデータセットは、測定終了後に記憶部50に保存される。この分析部40は、スペクトル情報生成部41、スペクトル情報変換部42、アサイン情報生成部43、キャリブレーション情報生成部44、キャリブレーション係数変更部45、キャリブレーション情報保存部46、キャリブレーション情報修正部47、スペクトル情報修正部48を含んで構成されている。なお、本実施形態の分析部40は、これらの構成要素の一部を省略した構成としてもよい。
【0089】
スペクトル情報生成部41は、検出器30の検出結果に基づいて、イオンの飛行時間と検出強度との対応関係を含むスペクトル情報を生成する。具体的には、スペクトル情報生成部41は、検出器30が出力するアナログ信号をリアルタイムにA/D変換し、イオン源10からイオンが出射した時刻を0として、各時刻(飛行時間)とその時のデジタル値(検出強度)を対応づけてスペクトル情報110を生成する。生成されたスペクトル情報110は、必要に応じて記憶部50に保存される。
【0090】
スペクトル情報変換部42は、スペクトル情報110の飛行時間Tを質量電荷比m/zに変換する変換多項式のすべての係数値を変更可能な所定のアサイン情報を含む3つのアサイン情報120と、当該3つのアサイン情報の少なくとも1つを用いて算出された変換多項式の係数値の情報と、を有するキャリブレーション情報130に基づいて、キャリブレーション情報130に関連づけられたスペクトル情報110の飛行時間を質量電荷比に変換する。本実施形態では、変換多項式は式(5)で表される5次の多項式であるものとする。すなわち、変換多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報とは、5つの係数(キャリブレーション係数)a,b,c,d,eの値をすべて変更可能なアサイン情報である。
【0091】
スペクトル情報変換部42による変換後の情報は表示部60に転送され、横軸をm/z、縦軸を検出強度とするマススペクトルが表示部60に表示される。
【0092】
測定開始後に最初に使用されるキャリブレーション情報130と、そのキャリブレーション情報130に含まれる3つのアサイン情報120は、あらかじめ記憶部50に保存されており、分析部40は、測定開始時に、このキャリブレーション情報130と3つのアサイン情報120を記憶部50から読み出し、最初に生成したスペクトル情報を変換して表示部60に表示する。
【0093】
アサイン情報生成部43は、スペクトル情報110に基づいて既知物質のm/zと飛行時間とを対応づけて、アサイン情報120を新たに生成する。新たに生成されたアサイン情報120は、必要に応じて記憶部50に保存される。
【0094】
キャリブレーション情報生成部44は、前記所定のアサイン情報とアサイン情報生成部43が新たに生成したアサイン情報とを含む少なくとも3つのアサイン情報120を有するキャリブレーション情報130を新たに生成する。
【0095】
キャリブレーション係数変更部45は、キャリブレーション情報生成部44が新たに生成したキャリブレーション情報130に基づいて変換多項式の係数値(キャリブレーション係数a,b,c,d,eの値)を変更する。具体的には、アサイン情報生成部43が新たに生成したアサイン情報120が変換多項式のすべての係数値を変更可能である場合、キャリブレーション係数変更部45は、当該アサイン情報120を用いて変換多項式のすべての係数値を変更する。一方、アサイン情報生成部43が新たに生成したアサイン情報120が変換多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合、キャリブレーション係数変更部45は、変換多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報を用いて変換多項式のすべての係数値を変更した後、アサイン情報生成部43が新たに生成したアサイン情報120を用いて変換多項式の一部の係数値をさらに変更する。
【0096】
キャリブレーション情報保存部46は、必要に応じて、キャリブレーション情報130を記憶部50に保存する。特に、保存対象のキャリブレーション情報130に含まれる最新のアサイン情報が変換多項式のすべての係数値を変更可能である場合、キャリブレーション情報保存部46は、当該キャリブレーション情報130に含まれるすべてのアサイン情報120を当該最新のアサイン情報に置き換えて保存する。一方、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が変換多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合、キャリブレーション情報保存部46は、当該キャリブレーション情報に含まれる当該最新のアサイン情報以外のアサイン情報120を変換多項式のすべての係数値を変更可能な最新のアサイン情報に置き換えて保存する。
【0097】
ところで、アサイン情報120は、既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応関係がミスアサインされる可能性があり、ミスアサインされているアサイン情報120にミスアサインが発見されると、アサイン情報120を修正する必要が生じる。そこで、キャリブレーション情報130は、アサイン情報120の参照先の情報を有し、アサイン情報120が修正された場合には修正後のアサイン情報120が自動的に参照されるようにしてもよい。このようにすれば、アサイン情報120の修正が自動的にキャリブレーション情報130に反映される。
【0098】
あるいは、キャリブレーション情報130はアサイン情報120の実体を有し、アサイン情報120が修正された場合、キャリブレーション情報修正部47が、当該アサイン情報120の実体を有するキャリブレーション情報130を検索し、当該アサイン情報120の実体を修正するようにしてもよい。
【0099】
さらに、キャリブレーション情報130が修正されると、そのキャリブレーション情報130に関連づけられるスペクトル情報110を修正する必要が生じる。そこで、スペクトル情報110は、キャリブレーション情報130の参照先の情報を有し、当該キャリブレーション情報130が修正された場合には修正後のキャリブレーション情報130が自動的に参照されるようにしてもよい。このようにすれば、キャリブレーション情報130の修正が自動的にスペクトル情報110に反映される。
【0100】
あるいは、スペクトル情報110はキャリブレーション情報130の実体を有し、キャリブレーション情報130が修正された場合、スペクトル情報修正部48が、当該キャリブレーション情報130の実体を有するスペクトル情報110を検索し、当該キャリブレーション情報110の実体を修正するようにしてもよい。
【0101】
2.アサイン情報
図2は、アサイン情報の一例を示す図である。本実施形態では、図2に示すように、1つのアサイン情報は、ID(識別情報)121、既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応テーブル122、FCフラグ123を含んで構成されている。
【0102】
ID121は、アサイン情報120を識別するための情報である。本実施形態では、各アサイン情報には、生成順にA001、A002、A003、・・・のIDが付与される。
【0103】
既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応テーブル122は、スペクトル情報110から検出強度がピークとなる飛行時間を抽出し、このピークに相当する既知物質の質量電荷比と抽出した飛行時間とを対応づけることで得られる。図2の例では、ID=A001のアサイン情報120−1は、n1個の質量電荷比(m/z)1−1〜(m/z)1−n1とn1個の飛行時間T1−1〜T1−n1がそれぞれ対応づけられた対応テーブル122を含んでいる。また、ID=A002のアサイン情報120−2は、n2個の質量電荷比(m/z)2−1〜(m/z)2−n2とn2個の飛行時間T2−1〜T2−n2がそれぞれ対応づけられた対応テーブル122を含んでいる。また、ID=A003のアサイン情報120−3は、n3個の質量電荷比(m/z)3−1〜(m/z)3−n3とn3個の飛行時間T3−1〜T3−n3がそれぞれ対応づけられた対応テーブル122を含んでいる。また、ID=A004のアサイン情報120−4は、n4個の質量電荷比(m/z)4−1〜(m/z)4−n4とn4個の飛行時間T4−1〜T4−n4がそれぞれ対応づけられた対応テーブル122を含んでいる。
【0104】
FCフラグ123は、アサイン情報がFC可能か否かを示す情報であり、本実施形態では、FCフラグが1であればFCが可能であり、FCフラグが0であればFCが不可能(PCが可能)であることを示す。図2の例では、アサイン情報120−1と120−2は、ともにFCフラグが1になっており、FCが可能であることを示している。また、アサイン情報120−3と120−4は、FCフラグが0になっており、FCが不可能(PCが可能)であることを示している。FCが可能であるか否かは、例えば、対応テーブル122に含まれるm/zと飛行時間の組の数が所定数(例えば、キャリブレーション係数の数)以上か否かで判断することができる。
【0105】
本実施形態では、スペクトル情報110に既知物質のピーク情報が含まれる場合、ユーザーの指示に応じて、新たなアサイン情報120が生成される。例えば、STD(マトリックスと5種類以上の標準物質の混合物)又はUKN+STD(マトリックスと未知試料と1〜2種類の標準物質の混合物)のスペクトル情報には標準物質(すなわち既知物質)のピーク情報が含まれるので、STD又はUKN+STDのスペクトル情報が得られる毎に、新たなアサイン情報120を生成することができる。図2の例では、アサイン情報120−2は、取得した飛行時間の情報から生成したスペクトル情報110を用いて新たに生成してID=A002が付与されたものである。また、アサイン情報120−3は、アサイン情報120−2を生成した後に取得した飛行時間の情報から生成したスペクトル情報110を用いて新たに生成してID=A003が付与されたものである。また、アサイン情報120−4は、アサイン情報120−3を生成した後に取得した飛行時間の情報から生成したスペクトル情報110を用いて新たに生成してID=A004が付与されたものである。なお、ID=A001のアサイン情報120−1はあらかじめ記憶部50に記憶されており、最初の測定に使用される。
【0106】
3.キャリブレーション情報
図3は、キャリブレーション情報の一例を示す図である。本実施形態では、図3に示すように、1つのキャリブレーション情報は、ID(識別情報)131、3つのアサイン情報132、133、134(アサイン情報0(A0)、アサイン情報1(A1)、アサイン情報2(A2))、キャリブレーション係数情報135を含んで構成されている。
【0107】
ID131は、キャリブレーション情報130を識別するための情報である。本実施形態では、各キャリブレーション情報には、生成順にC001、C002、C003、・・・のIDが付与される。
【0108】
アサイン情報0(A0)、アサイン情報1(A1)、アサイン情報2(A2)は、それぞれアサイン情報を特定するための情報であり、アサイン情報120の参照先の情報であってもよいし、アサイン情報120の実体であってもよい。図3の例では、A0、A1、A2に対応する各アサイン情報をアサイン情報IDで表している。例えば、ID=C001のキャリブレーション情報130−1は、A0、A1、A2がすべてID=A001のアサイン情報120−1である。また、ID=C002のキャリブレーション情報130−2は、A0とA1がともにID=A001のアサイン情報120−1であり、A2がID=A002のアサイン情報120−2である。また、ID=C003のキャリブレーション情報130−3は、A0、A1、A2が、それぞれ、ID=A001のアサイン情報120−1、ID=A002のアサイン情報120−2、ID=A003のアサイン情報120−3である。また、ID=C004のキャリブレーション情報130−4は、A0、A1、A2が、それぞれ、ID=A001のアサイン情報120−1、ID=A002のアサイン情報120−2、ID=A004のアサイン情報120−4である。
【0109】
特に本実施形態では、すべてのキャリブレーション情報において、アサイン情報0(A0)はFCが可能な(FCフラグ=1の)同一のアサイン情報(本発明における所定のアサイン情報の一例)になっている。図3の例では、4つのキャリブレーション情報130−1、130−2、130−3、130−4は、A0がすべてID=A001のアサイン情報120−1になっており、このアサイン情報120−1のFCフラグは1である(図2参照)。
【0110】
キャリブレーション係数情報135は、変換多項式のキャリブレーション係数a,b,c,d,eの値を表す情報である。図3の例では、キャリブレーション情報130−1のキャリブレーション係数情報135は、キャリブレーション係数値がそれぞれa1,b1,c1,d1,e1であることを示している。また、キャリブレーション情報130−2のキャリブレーション係数情報135は、キャリブレーション係数値がそれぞれa2,b2,c2,d2,e2であることを示している。また、キャリブレーション情報130−3のキャリブレーション係数情報135は、キャリブレーション係数値がそれぞれa3,b3,c3,d3,e3であることを示している。また、キャリブレーション情報130−4のキャリブレーション係数情報135は、キャリブレーション係数値がそれぞれa4,b4,c4,d4,e4であることを示している。
【0111】
キャリブレーション係数値は、A0、A1、A2のうちの1つ又は複数のアサイン情報を用いてキャリブレーション情報130毎に計算される。本実施形態では、図4に示す表に従い、キャリブレーション係数値の計算に用いるアサイン情報120を選択する。すなわち、A2のFCフラグが1であれば、A2を用いてFCを行って(例えば最小二乗法等でフィッティングして)キャリブレーション係数値を計算する。また、A2のFCフラグが0の時は、A1のFCフラグが1であれば、A1を用いてFCを行った後、A2を用いてPCを行って一部の係数値を更新(再計算)する。一方、A2とA1のFCフラグがともに0であれば、A0を用いてFCを行った後、A2を用いてPCを行う。なお、本実施形態では、前記の通りA0のFCフラグは必ず1であるので、図4の表に示す以外の組み合わせについては考慮する必要はない。
【0112】
また、本実施形態では、アサイン情報120を新たに生成する毎に、新たに生成したアサイン情報を用いて、既存のキャリブレーション情報130(例えば、直前に生成したキャリブレーション情報)から新たなキャリブレーション情報を生成する。図5は、新たに生成するキャリブレーション情報に含まれる3つのアサイン情報の組み合わせを示す表である。図5に示すように、新たに生成するキャリブレーション情報CnewのA2(A2’と表記)は、新たに生成したアサイン情報Anewとする。また、キャリブレーション情報CnewのA0(A0’と表記)は、既存のキャリブレーション情報のA0とする。また、キャリブレーション情報CnewのA1(A1’と表記)は、既存のキャリブレーション情報のA2のFCフラグが1であれば既存のキャリブレーション情報のA2とし、既存のキャリブレーション情報のA2のFCフラグが0であれば既存のキャリブレーション情報のA1とする。
【0113】
図3の例では、キャリブレーション情報130−2は、図5の表に従い、アサイン情報120−2を用いてキャリブレーション情報130−1から新たに生成したものである。また、キャリブレーション情報130−3は、図5の表に従い、アサイン情報120−3を用いてキャリブレーション情報130−2から新たに生成したものである。また、キャリブレーション情報130−4は、図5の表に従い、アサイン情報120−4を用いてキャリブレーション情報130−3から新たに生成したものである。なお、キャリブレーション情報130−1はあらかじめ記憶部50に記憶されており、最初の測定に使用される。
【0114】
特に本実施形態では、図5の表からわかるように、新たに生成されるキャリブレーション情報Cnewにおいて、A2(A2’)は最新のアサイン情報になっており、A1(A1’)はなるべくFCが可能なアサイン情報になっており、A0(A0’)は常に変更せずにFCが可能なアサイン情報を保持し続ける。こうすることにより、図4の表に従い、最新のアサイン情報を用いてFCを行ってすべてのキャリブレーション係数を決定することができる。さらに、A1、A2のいずれかにミスアサインが見つかり、A1とA2のFCフラグがともに0になってしまった場合にも、図4の表に従い、A0を用いて必ずFCを行うことができるのですべてのキャリブレーション係数を決定することができる。
【0115】
生成したキャリブレーション情報130は、他のデータセットにおいて利用するために、必要に応じて記憶部50に保存される。本実施形態では、キャリブレーション情報130をそのまま保存するのではなく、図6に示す表に従ってアサイン情報120を変更して保存する。図6に示すように、生成したキャリブレーション情報のA2のFCフラグが1であれば、保存するキャリブレーション情報のA0、A1、A2(それぞれA0’’、A1’’、A2’’と表記)をすべてA2とする。一方、生成したキャリブレーション情報のA2のFCフラグが0の時は、A1のFCフラグが1であればA0’’、A1’’、A2’’をそれぞれA1、A1、A2とし、A1のFCフラグが0であればA0’’、A1’’、A2’’をそれぞれA0、A0、A2とする。このようにすれば、保存されるキャリブレーション情報は、必ず最新のアサイン情報であるA2と、最新のFC可能なアサイン情報を含むことになり、保存されたキャリブレーション情報を用いることで、次回の最初の測定において適切なキャリブレーションを行うことができる。
【0116】
4.動作シーケンス
図7は、本実施形態における分析部40の動作手順の一例を示すフローチャート図である。また、図8〜図12は、分析部40の動作の具体例を示す図である。図8〜図12では、アサイン情報を{アサイン情報ID}_{FCフラグ}で表記する。また、キャリブレーション情報を{キャリブレーション情報ID}(A0,A1,A2)と表記する。また、マススペクトルを{マススペクトルID}と表記する。また、図8〜図12では、アサイン情報、キャリブレーション情報については、データセット外から設定されるものは破線、データセット内で生成されるものは実線で表記している。以下、図8〜図12を参照しながら、図7を用いて、分析部40の動作手順について説明する。
【0117】
図7に示すように、分析部40は、まず、測定開始前にデータセットを初期設定する(ステップS10)。具体的には、ユーザーが測定に使用するデータセットを作成し、あるいは既存のデータセットを開いた後、ユーザーの指示に従い、分析部40は、最初のデータ取得に利用するアサイン情報、キャリブレーション情報をデータセット内に呼び出す。
【0118】
図8は、初期設定されたデータセットの一例を示す図である。例えば、図2に示したID=A001のアサイン情報120−1と図3に示したID=C001のキャリブレーション情報130−1があらかじめ記憶部50に保存されているものとして、図8は、このアサイン情報120−1(A001_1と表記)とキャリブレーション情報130−1(C001(001,001,001)と表記)を記憶部50から読み出してデータセット100上に開いた状態である。
【0119】
測定開始後(ステップS20のY)、分析部40は、イオンの飛行時間の最初の測定結果に基づいて、1番目のスペクトル情報を生成する(ステップS30)。具体的には、分析部40は、スペクトル情報生成部41により、検出器30の検出結果からスペクトル情報を生成し、さらに、生成したスペクトル情報をキャリブレーション情報と関連付ける。
【0120】
図9は、1番目のスペクトル情報を生成した後のデータセットの一例を示す図である。図9では、STDの測定によりID=S001のスペクトル情報110−1が生成され、キャリブレーション情報130−1と関連付けられている。
【0121】
次に、分析部40は、ステップS30で生成したスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換して表示する(ステップS40)。具体的には、分析部40は、スペクトル情報変換部42により、スペクトル情報に関連付けられるキャリブレーション情報に含まれるキャリブレーション係数情報を用いてスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換し、表示部60にマススペクトルを表示させる。
【0122】
例えば、図9では、スペクトル情報110−1はキャリブレーション情報130−1と関連付けられているので、キャリブレーション情報130−1のキャリブレーション係数情報(係数値a1,b1,c1,d1,e1)から得られる変換多項式を用いてスペクトル情報110−1の飛行時間が質量電荷比に変換される。
【0123】
次に、ユーザーからアサイン情報の生成指示があれば(ステップS50のY)、分析部40は、ステップS30で生成したスペクトル情報を用いて、アサイン情報を新たに生成する(ステップS60)。具体的には、ユーザーが表示部60に表示されたマススペクトルにおいて、既知物質のピーク値を指定してアサイン情報の生成を指示する操作(ボタンの押下等)をすると、分析部40は、アサイン情報生成部43により、指示内容に従って、既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応テーブル122やFCフラグ123を有する新たなアサイン情報を生成し、新たなIDを付与する。
【0124】
図10は、新たなアサイン情報を生成した後のデータセットの一例を示す図である。図10では、スペクトル情報110−1を用いて、図2に示したID=A002の新たなアサイン情報120−2(A002_1と表記)が生成されている。スペクトル情報110−1には5種類以上の既知物質のピーク値が含まれており、アサイン情報120−2のFCフラグは1になっている。
【0125】
次に、分析部40は、ステップS60で生成したアサイン情報を用いて、キャリブレーション情報を新たに生成する(ステップS70)。具体的には、分析部40は、キャリブレーション情報生成部44により、図5の表に従う3つのアサイン情報を含む新たなキャリブレーション情報を生成し、新たなIDを付与する。
【0126】
図10では、キャリブレーション情報130−1のA2(A001)のFCフラグが1なので、図5の表より、A0’とA1’をそれぞれキャリブレーション情報130−1のA0(A001)とA2(A001)とし、A2’をアサイン情報120−2として、図3に示したID=C002の新たなキャリブレーション情報130−2(C002(A001,A001,A002)と表記)が生成されている。
【0127】
次に、分析部40は、キャリブレーション係数を変更する(ステップS80)。具体的には、分析部40は、キャリブレーション情報変更部45により、図4の表に従い、キャリブレーション係数を変更する。
【0128】
図10では、キャリブレーション情報130−2のA0(A001)のFCフラグ=1、A1(A001)のFCフラグ=1、A2(A002)のFCフラグ=1なので、図4の表より、A2(A002)すなわちアサイン情報120−2を用いてFCを行い、すべてのキャリブレーション係数値を変更する。そして、変更後のキャリブレーション係数値a2,b2,c2,d2,e2は、キャリブレーション情報130−2のキャリブレーション係数情報となる。
【0129】
次に、分析部40は、ステップS30で生成したスペクトル情報にステップS70及びS80で生成したキャリブレーション情報を関連付け、スペクトル情報の飛行時間をm/zに変換して再表示する(ステップS90)。
【0130】
図10では、スペクトル情報110−1がキャリブレーション情報130−2と関連付けられ、キャリブレーション情報130−2のキャリブレーション係数情報(係数値a2,b2,c2,d2,e2)から得られる変換多項式を用いてスペクトル情報110−1の飛行時間が質量電荷比に変換されて表示部60に再表示される。
【0131】
そして、分析部40は、測定終了(ステップS100のY)までステップS30〜S90の処理を繰り返す。
【0132】
図11は、UKN(マトリックスと未知試料の混合物)の測定によるID=S002のスペクトル情報110−2と次のUKNの測定によるID=S003のスペクトル情報110−3を生成後、UKN+STDの測定によるID=S004のスペクトル情報110−4を生成し、さらに、スペクトル情報110−4を用いて、図2に示したID=A003のアサイン情報120−3(A003_0と表記)と図3に示したID=C003のキャリブレーション情報130−3(C003(A001,A002,A003)と表記)を生成した後のデータセットの一例を示す図である。
【0133】
図11では、スペクトル情報110−4には5種類未満の既知物質のピーク値しか含まれておらず、アサイン情報120−3のFCフラグは0になっている。また、キャリブレーション情報130−2のA2(A002)のFCフラグが1なので、図5の表より、キャリブレーション情報130−3のA0(A0’)とA1(A1’)はそれぞれキャリブレーション情報130−2のA0(A001)とA2(A002)となり、キャリブレーション情報130−3のA2(A2’)はアサイン情報120−3(A003)となっている。そして、キャリブレーション情報130−3のA0(A001)のFCフラグ=1、A1(A002)のFCフラグ=1、A2(A003)のFCフラグ=0なので、図4の表より、A1(A002)すなわちアサイン情報120−2を用いてFCが行われた後、A2(A003)すなわちアサイン情報120−3を用いてPCが行われ、すべてのキャリブレーション係数値が変更されている。変更後のキャリブレーション係数値a3,b3,c3,d3,e3は、キャリブレーション情報130−3のキャリブレーション係数情報となる。
【0134】
図12は、さらに、UKNの測定によるID=S005のスペクトル情報110−5と次のUKNの測定によるID=S006のスペクトル情報110−6を生成後、UKN+STDの測定によるID=S007のスペクトル情報110−7を生成し、さらに、スペクトル情報110−7を用いて図2に示したID=A004のアサイン情報120−4(A004_0と表記)と図3に示したID=C004のキャリブレーション情報130−4(C004(A001,A002,A004)と表記)を生成した後のデータセットの一例を示す図である。
【0135】
図12では、スペクトル情報110−7には5種類未満の既知物質のピーク値しか含まれておらず、アサイン情報120−4のFCフラグは0になっている。また、キャリブレーション情報130−3のA2(A003)のFCフラグが0なので、図5の表より、キャリブレーション情報130−4のA0(A0’)とA1(A1’)はそれぞれキャリブレーション情報130−3のA0(A001)とA1(A002)となり、キャリブレーション情報130−4のA2(A2’)はアサイン情報120−4(A004)となっている。そして、キャリブレーション情報130−4のA0(A001)のFCフラグ=1、A1(A002)のFCフラグ=1、A2(A004)のFCフラグ=0なので、図4の表より、A1(A002)すなわちアサイン情報120−2を用いてFCが行われた後、A2(A004)すなわちアサイン情報120−4を用いてPCが行われ、すべてのキャリブレーション係数値が変更されている。変更後のキャリブレーション係数値a4,b4,c4,d4,e4は、キャリブレーション情報130−4のキャリブレーション係数情報となる。
【0136】
すべての測定が終了すると(ステップS100のY)、分析部40は、最後に、他のデータセットで使用するキャリブレーション情報を記憶部50に保存する。具体的には、分析部40は、キャリブレーション情報保存部46により、保存対象のキャリブレーション情報を、図6の表に従って変換して記憶部50に保存する。
【0137】
例えば、図12のキャリブレーション情報130−4を保存する場合は、キャリブレーション情報130−4のA1(A002)のFCフラグ=1、A2(A004)のFCフラグ=0なので、図6の表より、A0(A0’’)とA1(A1’’)をともにキャリブレーション情報130−4のA1(A002)すなわちアサイン情報120−2、A2(A2’’)をキャリブレーション情報130−4のA2(A004)すなわちアサイン情報120−4に変換して記憶部50に保存する。
【0138】
以上に説明したように、本実施形態では、すべてのキャリブレーション情報のアサイン情報0(A0)はFC可能な同一のアサイン情報になっている。例えば、図8〜図12の例では、すべてのキャリブレーション情報のA0にはFC可能なA001が割り当てられている。そのため、新たに生成されてA1又はA2に割り当てられたFC可能なアサイン情報にミスアサインが発見されてFCが不可能になった場合でも、そのアサイン情報の代わりに各キャリブレーション情報のA0に割り当てられたアサイン情報を用いてFCを行うことで、その後の測定を継続することができる。例えば、図11の状態で、仮にA002にミスアサインが発見されてA002のFCフラグが1から0に変わった場合でも、キャリブレーション情報130−3では、図4の表に従い、A001を用いたFCとA003を用いたPCを行うことで、その後の測定を継続することができる。従って、本実施形態によれば、標準物質の種類や使用量を減らしても適切にキャリブレーションを行うことができる。
【0139】
また、本実施形態では、新たに生成されるキャリブレーション情報は、必ず、新たに生成したアサイン情報を含む。例えば、図8〜図12の例では、新たに生成したキャリブレーション情報130−2、130−3、130−4のA2には、それぞれ、直前に生成した最新のアサイン情報120−2、120−3、120−4が割り当てられている。従って、本実施形態によれば、最新のアサイン情報を用いてキャリブレーションすることで質量精度を確保することができる。
【0140】
5.変形例
[変形例1]
MALDI−TOFMSでは、既知物質を多数導入することが難しいので、実際には既知物質ピークが観測されていない場合に、異なるピークにミスアサインされる場合が想定される。特に、MALDI−TOFMSでは、同一のキャリブレーション情報を多数のマススペクトルで利用する場合が多いので、変形例1では、事後的にアサイン情報にミスアサインが発見された場合に、それまでに作成されたデータセットを自動的に修正する処理を追加する。
【0141】
図13は、変形例1における分析部40の動作手順の一例を示すフローチャート図である。図13のフローチャートにおいて、図7のフローチャートと同じ処理には同じ符号を付しており、その説明を省略する。図13のフローチャートでは、図7のフローチャートに対して、ステップS92〜S98の処理が追加されている。
【0142】
すなわち、以前に生成したアサイン情報のいずれかにミスアサインが発見された場合(ステップS92)、分析部40は、まず、そのアサイン情報を修正する(ステップS94)。具体的には、ユーザーが表示部60に表示されたマススペクトルにおいて、既知物質の正しいピーク値を指定してアサイン情報の修正を指示する操作(ボタンの押下等)をすると、分析部40は、指示内容に従って、このアサイン情報における既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応テーブル122やFCフラグ123を修正する。
【0143】
例えば、図12の状態で、仮にアサイン情報120−2にミスアサインが発見された場合、ユーザーが正しいアサインを指定して修正指示操作をすると、分析部40は、その指示内容に従ってアサイン情報120−2を修正する。
【0144】
次に、分析部40は、ステップS94で修正したアサイン情報を含むキャリブレーション情報を修正する(ステップS96)。具体的には、分析部40は、キャリブレーション情報修正部47により、このアサイン情報の実体を有するキャリブレーション情報を検索し、当該アサイン情報の実体を修正する。
【0145】
例えば、図12の状態で、仮にアサイン情報120−2が修正された場合、キャリブレーション情報130−2のA2、キャリブレーション情報130−3のA1、キャリブレーション情報130−4のA1が修正される。
【0146】
次に、分析部40は、ステップS96で修正したキャリブレーション情報と関連づけられるスペクトル情報を修正する(ステップS98)。具体的には、分析部40は、スペクトル情報修正部48により、このキャリブレーション情報の実体を有するスペクトル情報を検索し、当該キャリブレーション情報の実体を修正する。
【0147】
例えば、図12の状態で、仮にキャリブレーション情報130−2、130−3、130−4が修正された場合、これらと関連付けられるスペクトル情報110−1〜110−7が修正される。
【0148】
変形例1によれば、アサイン情報に修正があった場合、そのアサイン情報を含むすべてのキャリブレーション情報が自動的に修正され、さらに、修正されたキャリブレーション情報に関連付けられるすべてのスペクトル情報が自動的に修正され、マススペクトルの表示に適用される。
【0149】
ただし、キャリブレーション情報がアサイン情報の参照先の情報を有する場合は、アサイン情報の修正が自動的にキャリブレーション情報に反映される。同様に、スペクトル情報がキャリブレーション情報の参照先の情報を有する場合は、キャリブレーション情報の修正が自動的にスペクトル情報に反映される。
【0150】
[変形例2]
STD(マトリックスと5種類以上の標準物質の混合物)の測定により得られたアサイン情報のみを含むキャリブレーション情報は、関連づけられるスペクトル情報以外のスペクトル情報にも汎用的に適用する(外部キャリブレーションに利用する)ことができる。一方、UKN+STD(マトリックスと未知試料と1〜2種類の標準物質の混合物)の測定により得られたアサイン情報を含むキャリブレーション情報は、関連づけられるスペクトル情報を含む限られたスペクトル情報にのみ適用する(内部キャリブレーションに利用する)のが妥当である。そこで、変形例2では、キャリブレーション情報に、外部キャリブレーション用と内部キャリブレーション用の区別をつけるためのフラグを持たせる。
【0151】
図14は、変形例2におけるキャリブレーション情報の一例を示す図である。ID131、3つのアサイン情報132、133、134(アサイン情報0(A0)、アサイン情報1(A1)、アサイン情報2(A2))、キャリブレーション係数情報135は、図3と同じであるため、その説明を省略する。
【0152】
変形例2では、各キャリブレーション情報はキャリブレーション識別フラグ136をさらに含む。キャリブレーション識別フラグ136が1であればそのキャリブレーション情報が外部キャリブレーションに利用可能であることを示し、キャリブレーション識別フラグ136が0であればそのキャリブレーション情報が内部キャリブレーションにのみ利用可能であることを示す。図14の例では、キャリブレーション情報130−1と130−2は外部キャリブレーションに利用可能であり、キャリブレーション情報130−3と130−4は内部キャリブレーションにのみ利用可能であることを示している。
【0153】
キャリブレーション識別フラグ136は、例えば、キャリブレーション情報がSTDの測定により得られたアサイン情報のみを含むのであれば1(外部キャリブレーションに利用可能)、UKN+STDの測定により得られたアサイン情報を含むのであれば0(内部キャリブレーションにのみ利用可能)とすることができる。
【0154】
図14の例では、A001とA002はSTDの測定により得られたアサイン情報であるため、A001のみを含むキャリブレーション情報130−1と、A001とA002のみを含むキャリブレーション情報130−2のキャリブレーション識別フラグ136はともに1になっている。一方、A003とA004はUKN+STDの測定により得られたアサイン情報であるため、A003を含むキャリブレーション情報130−3とA004を含むキャリブレーション情報130−4のキャリブレーション識別フラグ136はともに0になっている。
【0155】
変形例2によれば、キャリブレーション識別フラグ136により、各キャリブレーション情報が外部キャリブレーションに利用することができるものか否か、すなわち、他のスペクトルにも汎用的に適用可能か否かを識別することができるので、ユーザーキャリブレーション識別フラグ136を参照することで適切なキャリブレーション情報を選択して測定を行うことができる。
【0156】
[変形例3]
図3に示したキャリブレーション情報は3つのアサイン情報を含んでいるが、キャリブレーション情報が3つ以上のアサイン情報を含むように変形してもよい。例えば、図15は、4つのアサイン情報を含むキャリブレーション情報の一例を示す図である。ID131とキャリブレーション係数情報135は、図3と同じであるため、その説明を省略する。
【0157】
4つのアサイン情報132、133、134、137(アサイン情報0(A0)、アサイン情報1(A1)、アサイン情報2(A2)、アサイン情報3(A3))は、それぞれアサイン情報を特定するための情報であり、アサイン情報120の参照先の情報であってもよいし、アサイン情報120の実体であってもよい。図15の例では、キャリブレーション情報130−1は、A0、A1、A2、A3がすべてA001である。また、キャリブレーション情報130−2は、A0、A1、A2がともにA001であり、A3がA002である。また、キャリブレーション情報130−3は、A0とA1がともにA001であり、A2、A3がそれぞれA002、A003である。また、キャリブレーション情報130−4は、A0とA1がともにA001であり、A2、A3がそれぞれA002とA004である。
【0158】
特に変形例3では、すべてのキャリブレーション情報において、アサイン情報0(A0)はFCが可能な(FCフラグ=1の)同一のアサイン情報(本発明における所定のアサイン情報の一例)になっている。図15の例では、4つのキャリブレーション情報130−1、130−2、130−3、130−4は、A0がすべてID=A001のアサイン情報120−1になっており、このアサイン情報120−1のFCフラグは1である(図2参照)。
【0159】
キャリブレーション係数値は、A0、A1、A2、A3のうちの1つ又は複数のアサイン情報を用いてキャリブレーション情報130毎に計算される。変形例3では、図16に示す表に従い、キャリブレーション係数値の計算に用いるアサイン情報120を選択する。すなわち、A3のFCフラグが1であれば、A3を用いてFCを行って(例えば最小二乗法等でフィッティング)キャリブレーション係数値を計算する。また、A3のFCフラグが0の時は、A2のFCフラグが1であれば、A2を用いてFCを行った後、A3を用いてPCを行って一部の係数値を更新(再計算)する。一方、A3とA2のFCフラグがともに0の時は、A1のFCフラグが1であればA1を用いてFCを行った後、A3を用いてPCを行う。また、A3、A2、A1のFCフラグがすべて0であれば、A0を用いてFCを行った後、A3を用いてPCを行う。なお、本実施形態では、前記の通りA0のFCフラグは必ず1であるので、図16の表に示す以外の組み合わせについては考慮する必要はない。
【0160】
変形例2でも、アサイン情報120を新たに生成する毎に、新たに生成したアサイン情報を用いて、既存のキャリブレーション情報130(例えば、直前に生成したキャリブレーション情報)から新たなキャリブレーション情報を生成する。図17は、新たに生成するキャリブレーション情報に含まれる4つのアサイン情報の組み合わせを示す表である。図17に示すように、新たに生成するキャリブレーション情報CnewのA3(A3’と表記)は、新たに生成したアサイン情報Anewとする。また、キャリブレーション情報CnewのA0(A0’と表記)は、既存のキャリブレーション情報のA0とする。また、キャリブレーション情報CnewのA2(A2’と表記)は、既存のキャリブレーション情報のA3のFCフラグが1であれば既存のキャリブレーション情報のA3とし、既存のキャリブレーション情報のA3のFCフラグが0であれば既存のキャリブレーション情報のA2とする。また、キャリブレーション情報CnewのA1(A1’と表記)は、既存のキャリブレーション情報のA3のFCフラグが1であれば既存のキャリブレーション情報のA2とし、既存のキャリブレーション情報のA3のFCフラグが0であれば既存のキャリブレーション情報のA1とする。
【0161】
図14の例では、キャリブレーション情報130−2は、図17の表に従い、アサイン情報120−2を用いてキャリブレーション情報130−1から新たに生成したものである。また、キャリブレーション情報130−3は、図17の表に従い、アサイン情報120−3を用いてキャリブレーション情報130−2から新たに生成したものである。また、キャリブレーション情報130−4は、図17の表に従い、アサイン情報120−4を用いてキャリブレーション情報130−3から新たに生成したものである。なお、キャリブレーション情報130−1はあらかじめ記憶部50に記憶されており、最初の測定に使用される。
【0162】
特に変形例3では、図17の表からわかるように、新たに生成されるキャリブレーション情報Cnewにおいて、A3(A3’)は最新のアサイン情報になっており、A2(A2’)とA1(A1’)はなるべくFCが可能なアサイン情報になっており、A0(A0’)は常に変更せずにFCが可能なアサイン情報を保持し続ける。こうすることにより、図16の表に従い、最新のアサイン情報を用いてFCを行ってすべてのキャリブレーション係数を決定することができる。さらに、A1、A2、A3のいずれかにミスアサインが見つかり、A1、A2、A3のFCフラグがすべて0になってしまった場合にも、図16の表に従い、A0を用いて必ずFCを行うことができるのですべてのキャリブレーション係数を決定することができる。
【0163】
生成したキャリブレーション情報130は、他のデータセットにおいて利用するために、必要に応じて記憶部50に保存される。変形例3でもキャリブレーション情報130をそのまま保存するのではなく、図18に示す表に従ってアサイン情報120を変更して保存する。図18に示すように、生成したキャリブレーション情報のA3のFCフラグが1であれば、保存するキャリブレーション情報のA0、A1、A2、A3(それぞれA0’’、A1’’、A2’’、A3’’と表記)をすべてA3とする。また、生成したキャリブレーション情報のA3のFCフラグが0の時は、A2のFCフラグが1であれば、A0’’、A1’’、A2’’、A3’’をそれぞれA2、A2、A2、A3とする。また、生成したキャリブレーション情報のA3とA2のFCフラグがともに0の時は、A1のFCフラグが1であればA0’’、A1’’、A2’’、A3’’をそれぞれA1、A1、A1、A3とし、A1のFCフラグが0であればA0’’、A1’’、A2’’、A3’’をそれぞれA0、A0、A0、A3とする。このようにすれば、保存されるキャリブレーション情報は、必ず最新のアサイン情報であるA3と、最新のFC可能なアサイン情報を含むことになり、保存されたキャリブレーション情報を用いることで、次回の最初の測定において適切なキャリブレーションを行うことができる。
【0164】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0165】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0166】
1 飛行時間型質量分析装置、10 イオン源、20 飛行時間型質量分析部、30 検出器、40 分析部、41 スペクトル情報生成部、42 スペクトル情報変換部、43 アサイン情報生成部、44 キャリブレーション情報生成部、45 キャリブレーション係数変更部、46 キャリブレーション情報保存部、47 キャリブレーション情報修正部、48 スペクトル情報修正部、50 記憶部、60 表示部、100 データセット、110,110−1〜110−7 スペクトル情報、120,120−1〜120−4 アサイン情報、121 アサイン情報ID(識別情報)、122 既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応テーブル、123 FCフラグ、130,130−1〜130−4 キャリブレーション情報、131 キャリブレーション情報ID(識別情報)、132 アサイン情報0、133 アサイン情報1、134 アサイン情報2、135 キャリブレーション係数情報、136 キャリブレーション識別フラグ、137 アサイン情報3
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量化合物の定量分析、定性一斉分析、および試料イオンの構造解析分野に用いられる飛行時間型質量分析装置及び飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型質量分析計(TOFMS:Time Of Flight Mass Spectrometer)は、一定量のエネルギーを与えてイオンを加速・飛行させ、検出器に到達するまでに要する時間からイオンの質量電荷比(m/z)を求める質量分析装置である。TOFMSでは、イオンを一定のパルス電圧Vaで加速する。このとき、エネルギー保存則から、次式(1)が成り立つ。
【0003】
【数1】
【0004】
ただし、vはイオンの速度、mはイオンの質量、zはイオンの価数、eは素電荷である。
【0005】
式(1)より、イオンの速度vは、次式(2)で表される。
【0006】
【数2】
【0007】
従って、イオンが一定距離Lの後に置いた検出器に到着するまでの飛行時間Tは、次式(3)で表される。
【0008】
【数3】
【0009】
式(3)により、飛行時間Tがイオンのm/zによって異なることを利用して、質量を分離する装置がTOFMSである。
【0010】
イオン源から直線的に検出器まで飛行させる直線型TOFMSや、イオン源と検出器の間に反射場を置くことにより、エネルギー収束性の向上と飛行距離の延長を可能にする反射型TOFMSが普及している。反射型TOFMSは、未知物質のm/z値を、組成式から計算で求められるm/z値と数ppm程度の誤差で測定することができることから、未知物質の組成推定に利用されることで知られる。
【0011】
TOFMSの質量分解能Rは、総飛行時間をT、ピーク幅をΔTとすると、次式(4)で定義される。
【0012】
【数4】
【0013】
すなわち、ピーク幅ΔTを一定にして、総飛行時間Tを延ばすことができれば、質量分解能を向上させられる。しかし、従来の直線型、反射型の飛行質量分析装置では、総飛行時間Tを延ばすこと、すなわち総飛行距離を延ばすことは装置の大型化に直結する。装置の大型化を避け、かつ高質量分解能を実現するために開発された装置が、多重周回型TOFMS(非特許文献1)である。この装置は、円筒電場にマツダプレートを組み合わせたトロイダル電場を4個用い、8の字型の周回軌道を多重周回させることにより、総飛行時間Tを延ばすことができる。この装置では、初期位置・初期角度・初期運動エネルギーによる検出面での空間的な広がりと時間的な広がりを1次の項まで収束することに成功している。
【0014】
しかし、閉軌道を多重周回する飛行時間型質量分析装置には、「追い越し」の問題が存在する。これは閉軌道を多重周回するため、軽いイオン(速度大きい)が重いイオン(速度小さい)を追い越してしまうことにより起こる。このため、検出面に軽いイオンから順に到着するという飛行時間型質量分析計の基本概念が通用しなくなる。
【0015】
この問題を解決するために考案されたのが、らせん軌道型飛行時間型質量分析装置である。らせん軌道型飛行時間型質量分析計は、閉軌道の始点と終点を閉軌道面に対して垂直方向にずらすことを特徴としている。これを実現するためには、イオンをはじめから斜めから入射する方法(特許文献1)や、デフレクタを用いて閉軌道の始点と終点を垂直方向にずらす方法(特許文献2)、積層型トロイダル電場を用いる方法(特許文献3)がある。
【0016】
また、同様のコンセプトとして、追い越しの起こる多重反射型TOFMS(特許文献4)の軌道をジグザグ型にしたTOFMSも考案されている(特許文献5)。
【0017】
TOFMSでは、実測される横軸は時間起点からの飛行時間である。この飛行時間にある変換をかけてm/z値に変換する。式(3)からm/z値の平方根と飛行時間Tは比例関係にあることが分かるが、実際には両者の関係は多項式で変換されることが多く、例えば4次式の場合、次式(5)のように表される。
【0018】
【数5】
【0019】
式(5)の場合、式(3)由来の係数b、測定時の時間的なオフセットとして係数aが設定され、高次の系統誤差として係数c,d,eなどが設定されている。以下、係数a〜eをキャリブレーション係数と呼び、キャリブレーション係数を変更することをキャリブレーションと呼ぶ。
【0020】
TOFMSのキャリブレーションは大きく分けて2種類存在し、キャリブレーション係数の全てを変更できる場合と一部のみ変更できる場合がある。前者を全キャリブレーション(FC:Full Calibration)、後者を部分キャリブレーション(PC:Partial Calibration)と呼ぶ。また、測定対象物質の側面から、既知物質のみの測定を外部キャリブレーション、既知物質と未知物質を混合して測定する場合を内部キャリブレーションと呼ぶ。
【0021】
FCが可能な条件は、キャリブレーションに利用する多項式に含まれるキャリブレーション係数の数以上の既知物質ピークが観測できることである。これは、外部キャリブレーションである場合が多い。既知物質の組成式から計算される計算m/z値の平方根と観測飛行時間T(=既知物質ピークの重心値)をフィッテイィングし、キャリブレーション係数を決める。未知物質の測定では、求めたキャリブレーション係数と観測飛行時間Tを式(5)に代入して観測m/z値を算出する。
【0022】
ところで、内部キャリブレーションでは未知物質と標準物質を混合するので、多種類の標準物質を混ぜることが困難となり、全てのキャリブレーション係数を変更することができないのでPCとなる場合が多い。PCでは特に経時的な変動が大きなキャリブレーション係数を変更することが有効となる。変更するキャリブレーション係数はaやbである。たとえば1つの既知物質がある場合にキャリブレーション係数bを新しいキャリブレーション係数b’に変更する場合は、次式(6)、(7)の関係式が得られる。
【0023】
【数6】
【0024】
【数7】
【0025】
ここで(m/z)obsは既知物質の観測m/z値、(m/z)clcは既知物質の計算m/z値、Tobsは既知物質の観測飛行時間である。
【0026】
式(6)、(7)より、キャリブレーション係数b’は、次式(8)により計算することができる。
【0027】
【数8】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特開2000−243345号公報
【特許文献2】特開2003−86129号公報
【特許文献3】特開2006−12782号公報
【特許文献4】英国特許第2080021号明細書
【特許文献5】国際公開第2005/001878号明細書
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】M. Toyoda, D. Okumura, M. Ishihara and I. Katakuse, J. Mass Spectrom., 2003, 38, 1125-1142.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
ところで、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI:Matrix Assisted Laser Desorption / Ionization)法は、使用するレーザー光波長に吸収帯をもつマトリックス(液体や結晶性化合物、金属粉など)に未知試料を混合溶解させて固化し、これに数〜1kHz程度でパルス的にレーザー照射して未知試料を気化あるいはイオン化させる方法であり、パルス的にイオン化を行うため、TOFMSとの相性が良い。
【0031】
MALDI−TOFMSでは、ターゲットプレートと呼ばれる導電性の板にマトリックスと試料の混合物をのせる。ターゲットプレートのマトリックスと未知試料の混合試料は、「スポット」と呼ばれる決められた位置にのせられ、そのスポットはマイクロタイタープレート形式(MTP形式)に準拠しているものが一般的である。またあるものは、既知物質とマトリックスの混合試料をおく、キャリブレーション用スポットがMTP形式に準じたスポットとは別に配置される場合がある。これは、MALDI−TOFMSの測定では、ターゲットプレート表面のひずみや電源変動などによる飛行時間の変動が発生するため、未知試料の測定とキャリブレーション用既知物質の測定をなるべくターゲットプレート上の離れていない位置かつ時間的に短い間隔で測定したほうが外部標準法での質量精度が上がるからである。例えば、図19に、MTP形式の384スポットと、そのスポット4つに対して1つのキャリブレーション用スポットを追加したターゲットプレートの一例を示す。
【0032】
MALDI−TOFMSでは、ターゲットプレート上に、3種類の混合物、すなわち、マトリックスと未知試料の混合物(UKN)、マトリックスと5種類以上の標準物質の混合物(STD)、マトリックスと未知試料と1〜2種類の標準物質の混合物(UKN+STD)が準備される。
【0033】
MALDI−TOFMSの測定時におけるキャリブレーションの方法として内部標準法と外部標準法が一般的に知られている。内部標準法は、STDをまず測定してFCにて外部キャリブレーションを行い、UKN+STDを測定して各々内部キャリブレーションを行う。一方、外部標準法は、1つのSTDを測定してFCにて外部キャリブレーションを行い、その後複数のUKNを測定する。たとえば図19のターゲットプレートの場合、キャリブレーション用スポットを測定し、その後、周辺の4つのUKNを測定する。これを順次繰り返していく。
【0034】
内部標準法の方が質量精度の高い測定を行うことができるが、MALDI−TOFMSの場合、標準物質を試料に混ぜることが手間であったり、あるいは標準物質が多いとコストがかかるため、導入する標準物質の種類や量をなるべく減らすことが望まれる。
【0035】
ところが、導入する標準物質が少ないと、実際には既知物質のピークが観測されていないのに既知物質が誤ったピークにミスアサインされる場合があり、誤ったピークのアサインを外してミスアサインを修正した場合に、FCからPCしかできない状況になる可能性がある。しかし、従来の手法では、FCができる場合はそのキャリブレーション情報しか残っていないため、PCしかできない状況になった場合、他のキャリブレーション情報を用いてキャリブレーションができないという問題が生じる。さらに、ミスアサインがあったキャリブレーション情報を複数のスポットから得られるマススペクトルに適用している場合は、それらすべてのマススペクトルのキャリブレーションが行えなくなる。
【0036】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、標準物質の種類や使用量を減らしても適切にキャリブレーションを行うことができる飛行時間型質量分析装置及び飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0037】
(1)本発明は、既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応関係を含むアサイン情報を用いて、イオンの飛行時間と検出強度との対応関係を含むスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する多項式の係数値を変更する機能を有する飛行時間型質量分析装置であって、試料をイオン化するイオン源と、前記イオン源で生成されたイオンを、質量電荷比に応じた飛行時間の違いに基づいて分離する質量分析部と、前記質量分析部で分離されたイオンを検出する検出器と、前記検出器の検出結果に基づいてスペクトル情報を生成するスペクトル情報生成部と、前記多項式のすべての係数値を変更可能な所定のアサイン情報を含む少なくとも3つのアサイン情報と、当該3つのアサイン情報の少なくとも1つを用いて算出された前記多項式の係数値の情報と、を有するキャリブレーション情報に基づいて、当該キャリブレーション情報に関連づけられたスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換するスペクトル情報変換部と、スペクトル情報に基づいて既知物質の質量電荷比と飛行時間とを対応づけて、アサイン情報を新たに生成するアサイン情報生成部と、前記所定のアサイン情報と前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報とを含む少なくとも3つのアサイン情報を有するキャリブレーション情報を新たに生成するキャリブレーション情報生成部と、前記キャリブレーション情報生成部が新たに生成したキャリブレーション情報に基づいて前記多項式の係数値を変更するキャリブレーション係数変更部と、を含む、飛行時間型質量分析装置である。
【0038】
本発明では、キャリブレーション情報が有する所定のアサイン情報は、スペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する多項式(変換多項式)のすべての係数値を変更可能(すなわちFC可能)であり、新たに生成されるキャリブレーション情報も必ずこの所定のアサイン情報を有する。そのため、新たに生成されたFC可能なアサイン情報にミスアサインが発見されてFCが不可能になった場合でも、そのアサイン情報の代わりにこの所定のアサイン情報を用いてFCを行うことで、その後の測定を継続することができる。このように、本発明によれば、標準物質の種類や使用量を減らしても適切にキャリブレーションを行うことができる。
【0039】
また、本発明によれば、新たに生成されるキャリブレーション情報は、必ず、新たに生成したアサイン情報を含むので、このアサイン情報を用いてキャリブレーションすることで質量精度を確保することができる。
【0040】
(2)この飛行時間型質量分析装置において、前記キャリブレーション係数変更部は、前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合は、当該アサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更するようにしてもよい。
【0041】
このようにすれば、最新のアサイン情報を用いてFCを行うことができるので、一定の質量精度を確保することができる。
【0042】
(3)この飛行時間型質量分析装置において、前記キャリブレーション係数変更部は、前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合は、前記多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更した後、前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報を用いて前記多項式の一部の係数値をさらに変更するようにしてもよい。
【0043】
このようにすれば、最新のアサイン情報を用いてPCを行うことができるので、一定の質量精度を確保することができる。
【0044】
(4)この飛行時間型質量分析装置において、前記キャリブレーション情報は、外部キャリブレーションが可能か否かを表すフラグ情報をさらに含むようにしてもよい。
【0045】
このようにすれば、各キャリブレーション情報が外部キャリブレーションに利用することができるものか否か、すなわち、他のスペクトルにも汎用的に適用可能か否かを識別することができる。従って、例えば、ユーザーがこのフラグ情報を参照することで適切なキャリブレーション情報を選択することができる。
【0046】
(5)この飛行時間型質量分析装置は、キャリブレーション情報を記憶部に保存するキャリブレーション情報保存部をさらに含み、前記キャリブレーション情報保存部は、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれるすべてのアサイン情報を当該最新のアサイン情報に置き換えて保存するようにしてもよい。
【0047】
このようにすれば、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報のみを含むキャリブレーション情報を保存することができる。
【0048】
(6)この飛行時間型質量分析装置において、前記キャリブレーション情報保存部は、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれる当該最新のアサイン情報以外のアサイン情報を前記多項式のすべての係数値を変更可能な最新のアサイン情報に置き換えて保存するようにしてもよい。
【0049】
このようにすれば、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報とともに、FC可能な最新のアサイン情報を含むキャリブレーション情報を保存することができる。
【0050】
(7)この飛行時間型質量分析装置において、前記キャリブレーション情報は、アサイン情報の参照先の情報を有し、当該アサイン情報が修正された場合には修正後のアサイン情報が自動的に参照されるようにしてもよい。
【0051】
このようにすれば、アサイン情報の修正が自動的にキャリブレーション情報に反映されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0052】
(8)この飛行時間型質量分析装置において、前記キャリブレーション情報は、アサイン情報の実体を有し、アサイン情報が修正された場合、当該アサイン情報の実体を有するキャリブレーション情報を検索し、当該アサイン情報の実体を修正するキャリブレーション情報修正部をさらに含むようにしてもよい。
【0053】
このようにすれば、キャリブレーション情報が有するアサイン情報の実体が自動的に修正されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0054】
(9)この飛行時間型質量分析装置において、前記スペクトル情報は、キャリブレーション情報の参照先の情報を有し、当該キャリブレーション情報が修正された場合には修正後のキャリブレーション情報が自動的に参照されるようにしてもよい。
【0055】
このようにすれば、キャリブレーションの修正が自動的にスペクトル情報に反映されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0056】
(10)この飛行時間型質量分析装置において、前記スペクトル情報は、キャリブレーション情報の実体を有し、キャリブレーション情報が修正された場合、当該キャリブレーション情報の実体を有するスペクトル情報を検索し、当該キャリブレーション情報の実体を修正するスペクトル情報修正部をさらに含むようにしてもよい。
【0057】
このようにすれば、スペクトル情報が有するキャリブレーション情報の実体が自動的に修正されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0058】
(11)この飛行時間型質量分析装置において、前記イオン源は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法を用いて試料をイオン化するイオン源であるようにしてもよい。
【0059】
(12)本発明は、既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応関係を含むアサイン情報を用いて、イオンの飛行時間と検出強度との対応関係を含むスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する多項式の係数値を変更する、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法であって、前記多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報を含む少なくとも3つのアサイン情報と、当該アサイン情報を用いて算出された前記多項式の係数値の情報と、を有するキャリブレーション情報に基づいて、当該キャリブレーション情報に関連づけられたスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換するスペクトル情報変換ステップと、スペクトル情報に基づいて既知物質の質量電荷比と飛行時間とを対応づけて、アサイン情報を新たに生成するアサイン情報生成ステップと、前記多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報と前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報とを含む少なくとも3つのアサイン情報を有するキャリブレーション情報を新たに生成するキャリブレーション情報生成ステップと、前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報に基づいて前記多項式の係数値を変更するキャリブレーション係数変更ステップと、を含む、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法である。
【0060】
本発明では、キャリブレーション情報が有する所定のアサイン情報は、スペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する多項式(変換多項式)のすべての係数値を変更可能(すなわちFC可能)であり、新たに生成されるキャリブレーション情報も必ずこの所定のアサイン情報を有する。そのため、新たに生成されたFC可能なアサイン情報にミスアサインが発見されてFCが不可能になった場合でも、そのアサイン情報の代わりにこの所定のアサイン情報を用いてFCを行うことで、その後の測定を継続することができる。このように、本発明によれば、標準物質の種類や使用量を減らしても適切にキャリブレーションを行うことができる。
【0061】
また、本発明によれば、新たに生成されるキャリブレーション情報は、必ず、新たに生成したアサイン情報を含むので、このアサイン情報を用いてキャリブレーションすることで質量精度を確保することができる。
【0062】
(13)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法は、前記キャリブレーション係数変更ステップにおいて、前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合は、当該アサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更するようにしてもよい。
【0063】
このようにすれば、最新のアサイン情報を用いてFCを行うことができるので、一定の質量精度を確保することができる。
【0064】
(14)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法は、前記キャリブレーション係数変更ステップにおいて、前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合は、前記多項式のすべての係数値を変更可能な最新のアサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更した後、前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報を用いて前記多項式の一部の係数値をさらに変更するようにしてもよい。
【0065】
このようにすれば、最新のアサイン情報を用いてPCを行うことができるので、一定の質量精度を確保することができる。
【0066】
(15)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法において、前記キャリブレーション情報は、外部キャリブレーションが可能か否かを表すフラグ情報をさらに含むようにしてもよい。
【0067】
このようにすれば、各キャリブレーション情報が外部キャリブレーションに利用することができるものか否か、すなわち、他のスペクトルにも汎用的に適用可能か否かを識別することができる。従って、例えば、ユーザーがこのフラグ情報を参照することで適切なキャリブレーション情報を選択することができる。
【0068】
(16)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法は、キャリブレーション情報を記憶部に保存するキャリブレーション情報保存ステップをさらに含み、前記キャリブレーション情報保存ステップにおいて、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれるすべてのアサイン情報を当該最新のアサイン情報に置き換えて保存するようにしてもよい。
【0069】
このようにすれば、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報のみを含むキャリブレーション情報を保存することができる。
【0070】
(17)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法は、前記キャリブレーション情報保存ステップにおいて、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれる当該最新のアサイン情報以外のアサイン情報を前記多項式のすべての係数値を変更可能な最新のアサイン情報に置き換えて保存するようにしてもよい。
【0071】
このようにすれば、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報とともに、FC可能な最新のアサイン情報を含むキャリブレーション情報を保存することができる。
【0072】
(18)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法において、前記キャリブレーション情報は、アサイン情報の参照先の情報を有し、当該アサイン情報が修正された場合には修正後のアサイン情報が自動的に参照されるようにしてもよい。
【0073】
このようにすれば、アサイン情報の修正が自動的にキャリブレーション情報に反映されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0074】
(19)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法において、前記キャリブレーション情報は、アサイン情報の実体を有し、アサイン情報が修正された場合、当該アサイン情報の実体を有するキャリブレーション情報を検索し、当該アサイン情報の実体を修正するキャリブレーション情報修正ステップをさらに含むようにしてもよい。
【0075】
このようにすれば、キャリブレーション情報が有するアサイン情報の実体が自動的に修正されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0076】
(20)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法において、前記スペクトル情報は、キャリブレーション情報の参照先の情報を有し、当該キャリブレーション情報が修正された場合には修正後のキャリブレーション情報が自動的に参照されるようにしてもよい。
【0077】
このようにすれば、キャリブレーションの修正が自動的にスペクトル情報に反映されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0078】
(21)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法において、前記スペクトル情報は、キャリブレーション情報の実体を有し、キャリブレーション情報が修正された場合、当該キャリブレーション情報の実体を有するスペクトル情報を検索し、当該キャリブレーション情報の実体を修正するスペクトル情報修正ステップをさらに含むようにしてもよい。
【0079】
このようにすれば、スペクトル情報が有するキャリブレーション情報の実体が自動的に修正されるので、ユーザーによる修正の手間を無くすことができる。
【0080】
(22)この飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法において、前記飛行時間型質量分析装置は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法を用いて試料をイオン化するイオン源を含むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本実施形態の飛行時間型質量分析装置の構成を示す図。
【図2】アサイン情報の一例を示す図。
【図3】キャリブレーション情報の一例を示す図。
【図4】キャリブレーション係数の計算に用いるアサイン情報を示す図。
【図5】新たなキャリブレーション情報に含まれるアサイン情報を示す図。
【図6】保存されるキャリブレーション情報に含まれるアサイン情報を示す図。
【図7】分析部の動作手順の一例を示すフローチャート図。
【図8】分析部の動作の具体例を示す図。
【図9】分析部の動作の具体例を示す図。
【図10】分析部の動作の具体例を示す図。
【図11】分析部の動作の具体例を示す図。
【図12】分析部の動作の具体例を示す図。
【図13】変形例1における分析部の動作手順の一例を示すフローチャート図。
【図14】変形例2におけるキャリブレーション情報の一例を示す図。
【図15】変形例3におけるキャリブレーション情報の一例を示す図。
【図16】変形例3におけるキャリブレーション係数の計算に用いるアサイン情報を示す図。
【図17】変形例3における新たなキャリブレーション情報に含まれるアサイン情報を示す図。
【図18】変形例3における保存されるキャリブレーション情報に含まれるアサイン情報を示す図。
【図19】ターゲットプレートの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0082】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0083】
1.構成
まず、本実施形態の飛行時間型質量分析装置の構成について説明する。図1は、本実施形態の飛行時間型質量分析装置の構成を示す図である。
【0084】
図1に示すように、本実施形態の飛行時間型質量分析装置1は、イオン源10、飛行時間型質量分析部20、検出器30、分析部40、記憶部50、表示部60を含んで構成されている。なお、本実施形態の飛行時間型質量分析装置は、これらの構成要素の一部を省略した構成としてもよい。
【0085】
イオン源10は、所定の方法で試料をイオン化し、一定のパルス電圧を発生させて、生成したイオンを検出器30に向けて加速する。特に本実施形態のイオン源10は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法を用いて試料をイオン化するイオン源である。
【0086】
飛行時間型質量分析部20は、イオン源10で生成されたイオンを、m/zに応じた飛行時間Tの違いに基づいて分離する。具体的には、前記の式(3)により、飛行時間Tがイオンのm/zによって異なることを利用してイオンを分離する。
【0087】
飛行時間型質量分析部20で分離されたイオンは検出器30に到達して検出される。具体的には、検出器30は、入射するイオンの量(強度)に応じたアナログ信号をリアルタイムに出力する。この検出器60が出力するアナログ信号は分析部40に送信される。
【0088】
分析部40は、検出器60が出力するアナログ信号に基づいて、イオン源10で発生したイオンの定性分析や定量分析の処理を行う。特に本実施形態では、分析部40は、測定開始時に、ユーザーが作成した1つのデータセット、あるいは、記憶部50から読み出された1つのデータセットに対して、測定が進むにつれて順次得られるスペクトル情報とともに、新たに生成したアサイン情報やキャリブレーション情報を記録する。そして、この一連の測定に関する情報を記録したデータセットは、測定終了後に記憶部50に保存される。この分析部40は、スペクトル情報生成部41、スペクトル情報変換部42、アサイン情報生成部43、キャリブレーション情報生成部44、キャリブレーション係数変更部45、キャリブレーション情報保存部46、キャリブレーション情報修正部47、スペクトル情報修正部48を含んで構成されている。なお、本実施形態の分析部40は、これらの構成要素の一部を省略した構成としてもよい。
【0089】
スペクトル情報生成部41は、検出器30の検出結果に基づいて、イオンの飛行時間と検出強度との対応関係を含むスペクトル情報を生成する。具体的には、スペクトル情報生成部41は、検出器30が出力するアナログ信号をリアルタイムにA/D変換し、イオン源10からイオンが出射した時刻を0として、各時刻(飛行時間)とその時のデジタル値(検出強度)を対応づけてスペクトル情報110を生成する。生成されたスペクトル情報110は、必要に応じて記憶部50に保存される。
【0090】
スペクトル情報変換部42は、スペクトル情報110の飛行時間Tを質量電荷比m/zに変換する変換多項式のすべての係数値を変更可能な所定のアサイン情報を含む3つのアサイン情報120と、当該3つのアサイン情報の少なくとも1つを用いて算出された変換多項式の係数値の情報と、を有するキャリブレーション情報130に基づいて、キャリブレーション情報130に関連づけられたスペクトル情報110の飛行時間を質量電荷比に変換する。本実施形態では、変換多項式は式(5)で表される5次の多項式であるものとする。すなわち、変換多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報とは、5つの係数(キャリブレーション係数)a,b,c,d,eの値をすべて変更可能なアサイン情報である。
【0091】
スペクトル情報変換部42による変換後の情報は表示部60に転送され、横軸をm/z、縦軸を検出強度とするマススペクトルが表示部60に表示される。
【0092】
測定開始後に最初に使用されるキャリブレーション情報130と、そのキャリブレーション情報130に含まれる3つのアサイン情報120は、あらかじめ記憶部50に保存されており、分析部40は、測定開始時に、このキャリブレーション情報130と3つのアサイン情報120を記憶部50から読み出し、最初に生成したスペクトル情報を変換して表示部60に表示する。
【0093】
アサイン情報生成部43は、スペクトル情報110に基づいて既知物質のm/zと飛行時間とを対応づけて、アサイン情報120を新たに生成する。新たに生成されたアサイン情報120は、必要に応じて記憶部50に保存される。
【0094】
キャリブレーション情報生成部44は、前記所定のアサイン情報とアサイン情報生成部43が新たに生成したアサイン情報とを含む少なくとも3つのアサイン情報120を有するキャリブレーション情報130を新たに生成する。
【0095】
キャリブレーション係数変更部45は、キャリブレーション情報生成部44が新たに生成したキャリブレーション情報130に基づいて変換多項式の係数値(キャリブレーション係数a,b,c,d,eの値)を変更する。具体的には、アサイン情報生成部43が新たに生成したアサイン情報120が変換多項式のすべての係数値を変更可能である場合、キャリブレーション係数変更部45は、当該アサイン情報120を用いて変換多項式のすべての係数値を変更する。一方、アサイン情報生成部43が新たに生成したアサイン情報120が変換多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合、キャリブレーション係数変更部45は、変換多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報を用いて変換多項式のすべての係数値を変更した後、アサイン情報生成部43が新たに生成したアサイン情報120を用いて変換多項式の一部の係数値をさらに変更する。
【0096】
キャリブレーション情報保存部46は、必要に応じて、キャリブレーション情報130を記憶部50に保存する。特に、保存対象のキャリブレーション情報130に含まれる最新のアサイン情報が変換多項式のすべての係数値を変更可能である場合、キャリブレーション情報保存部46は、当該キャリブレーション情報130に含まれるすべてのアサイン情報120を当該最新のアサイン情報に置き換えて保存する。一方、保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が変換多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合、キャリブレーション情報保存部46は、当該キャリブレーション情報に含まれる当該最新のアサイン情報以外のアサイン情報120を変換多項式のすべての係数値を変更可能な最新のアサイン情報に置き換えて保存する。
【0097】
ところで、アサイン情報120は、既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応関係がミスアサインされる可能性があり、ミスアサインされているアサイン情報120にミスアサインが発見されると、アサイン情報120を修正する必要が生じる。そこで、キャリブレーション情報130は、アサイン情報120の参照先の情報を有し、アサイン情報120が修正された場合には修正後のアサイン情報120が自動的に参照されるようにしてもよい。このようにすれば、アサイン情報120の修正が自動的にキャリブレーション情報130に反映される。
【0098】
あるいは、キャリブレーション情報130はアサイン情報120の実体を有し、アサイン情報120が修正された場合、キャリブレーション情報修正部47が、当該アサイン情報120の実体を有するキャリブレーション情報130を検索し、当該アサイン情報120の実体を修正するようにしてもよい。
【0099】
さらに、キャリブレーション情報130が修正されると、そのキャリブレーション情報130に関連づけられるスペクトル情報110を修正する必要が生じる。そこで、スペクトル情報110は、キャリブレーション情報130の参照先の情報を有し、当該キャリブレーション情報130が修正された場合には修正後のキャリブレーション情報130が自動的に参照されるようにしてもよい。このようにすれば、キャリブレーション情報130の修正が自動的にスペクトル情報110に反映される。
【0100】
あるいは、スペクトル情報110はキャリブレーション情報130の実体を有し、キャリブレーション情報130が修正された場合、スペクトル情報修正部48が、当該キャリブレーション情報130の実体を有するスペクトル情報110を検索し、当該キャリブレーション情報110の実体を修正するようにしてもよい。
【0101】
2.アサイン情報
図2は、アサイン情報の一例を示す図である。本実施形態では、図2に示すように、1つのアサイン情報は、ID(識別情報)121、既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応テーブル122、FCフラグ123を含んで構成されている。
【0102】
ID121は、アサイン情報120を識別するための情報である。本実施形態では、各アサイン情報には、生成順にA001、A002、A003、・・・のIDが付与される。
【0103】
既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応テーブル122は、スペクトル情報110から検出強度がピークとなる飛行時間を抽出し、このピークに相当する既知物質の質量電荷比と抽出した飛行時間とを対応づけることで得られる。図2の例では、ID=A001のアサイン情報120−1は、n1個の質量電荷比(m/z)1−1〜(m/z)1−n1とn1個の飛行時間T1−1〜T1−n1がそれぞれ対応づけられた対応テーブル122を含んでいる。また、ID=A002のアサイン情報120−2は、n2個の質量電荷比(m/z)2−1〜(m/z)2−n2とn2個の飛行時間T2−1〜T2−n2がそれぞれ対応づけられた対応テーブル122を含んでいる。また、ID=A003のアサイン情報120−3は、n3個の質量電荷比(m/z)3−1〜(m/z)3−n3とn3個の飛行時間T3−1〜T3−n3がそれぞれ対応づけられた対応テーブル122を含んでいる。また、ID=A004のアサイン情報120−4は、n4個の質量電荷比(m/z)4−1〜(m/z)4−n4とn4個の飛行時間T4−1〜T4−n4がそれぞれ対応づけられた対応テーブル122を含んでいる。
【0104】
FCフラグ123は、アサイン情報がFC可能か否かを示す情報であり、本実施形態では、FCフラグが1であればFCが可能であり、FCフラグが0であればFCが不可能(PCが可能)であることを示す。図2の例では、アサイン情報120−1と120−2は、ともにFCフラグが1になっており、FCが可能であることを示している。また、アサイン情報120−3と120−4は、FCフラグが0になっており、FCが不可能(PCが可能)であることを示している。FCが可能であるか否かは、例えば、対応テーブル122に含まれるm/zと飛行時間の組の数が所定数(例えば、キャリブレーション係数の数)以上か否かで判断することができる。
【0105】
本実施形態では、スペクトル情報110に既知物質のピーク情報が含まれる場合、ユーザーの指示に応じて、新たなアサイン情報120が生成される。例えば、STD(マトリックスと5種類以上の標準物質の混合物)又はUKN+STD(マトリックスと未知試料と1〜2種類の標準物質の混合物)のスペクトル情報には標準物質(すなわち既知物質)のピーク情報が含まれるので、STD又はUKN+STDのスペクトル情報が得られる毎に、新たなアサイン情報120を生成することができる。図2の例では、アサイン情報120−2は、取得した飛行時間の情報から生成したスペクトル情報110を用いて新たに生成してID=A002が付与されたものである。また、アサイン情報120−3は、アサイン情報120−2を生成した後に取得した飛行時間の情報から生成したスペクトル情報110を用いて新たに生成してID=A003が付与されたものである。また、アサイン情報120−4は、アサイン情報120−3を生成した後に取得した飛行時間の情報から生成したスペクトル情報110を用いて新たに生成してID=A004が付与されたものである。なお、ID=A001のアサイン情報120−1はあらかじめ記憶部50に記憶されており、最初の測定に使用される。
【0106】
3.キャリブレーション情報
図3は、キャリブレーション情報の一例を示す図である。本実施形態では、図3に示すように、1つのキャリブレーション情報は、ID(識別情報)131、3つのアサイン情報132、133、134(アサイン情報0(A0)、アサイン情報1(A1)、アサイン情報2(A2))、キャリブレーション係数情報135を含んで構成されている。
【0107】
ID131は、キャリブレーション情報130を識別するための情報である。本実施形態では、各キャリブレーション情報には、生成順にC001、C002、C003、・・・のIDが付与される。
【0108】
アサイン情報0(A0)、アサイン情報1(A1)、アサイン情報2(A2)は、それぞれアサイン情報を特定するための情報であり、アサイン情報120の参照先の情報であってもよいし、アサイン情報120の実体であってもよい。図3の例では、A0、A1、A2に対応する各アサイン情報をアサイン情報IDで表している。例えば、ID=C001のキャリブレーション情報130−1は、A0、A1、A2がすべてID=A001のアサイン情報120−1である。また、ID=C002のキャリブレーション情報130−2は、A0とA1がともにID=A001のアサイン情報120−1であり、A2がID=A002のアサイン情報120−2である。また、ID=C003のキャリブレーション情報130−3は、A0、A1、A2が、それぞれ、ID=A001のアサイン情報120−1、ID=A002のアサイン情報120−2、ID=A003のアサイン情報120−3である。また、ID=C004のキャリブレーション情報130−4は、A0、A1、A2が、それぞれ、ID=A001のアサイン情報120−1、ID=A002のアサイン情報120−2、ID=A004のアサイン情報120−4である。
【0109】
特に本実施形態では、すべてのキャリブレーション情報において、アサイン情報0(A0)はFCが可能な(FCフラグ=1の)同一のアサイン情報(本発明における所定のアサイン情報の一例)になっている。図3の例では、4つのキャリブレーション情報130−1、130−2、130−3、130−4は、A0がすべてID=A001のアサイン情報120−1になっており、このアサイン情報120−1のFCフラグは1である(図2参照)。
【0110】
キャリブレーション係数情報135は、変換多項式のキャリブレーション係数a,b,c,d,eの値を表す情報である。図3の例では、キャリブレーション情報130−1のキャリブレーション係数情報135は、キャリブレーション係数値がそれぞれa1,b1,c1,d1,e1であることを示している。また、キャリブレーション情報130−2のキャリブレーション係数情報135は、キャリブレーション係数値がそれぞれa2,b2,c2,d2,e2であることを示している。また、キャリブレーション情報130−3のキャリブレーション係数情報135は、キャリブレーション係数値がそれぞれa3,b3,c3,d3,e3であることを示している。また、キャリブレーション情報130−4のキャリブレーション係数情報135は、キャリブレーション係数値がそれぞれa4,b4,c4,d4,e4であることを示している。
【0111】
キャリブレーション係数値は、A0、A1、A2のうちの1つ又は複数のアサイン情報を用いてキャリブレーション情報130毎に計算される。本実施形態では、図4に示す表に従い、キャリブレーション係数値の計算に用いるアサイン情報120を選択する。すなわち、A2のFCフラグが1であれば、A2を用いてFCを行って(例えば最小二乗法等でフィッティングして)キャリブレーション係数値を計算する。また、A2のFCフラグが0の時は、A1のFCフラグが1であれば、A1を用いてFCを行った後、A2を用いてPCを行って一部の係数値を更新(再計算)する。一方、A2とA1のFCフラグがともに0であれば、A0を用いてFCを行った後、A2を用いてPCを行う。なお、本実施形態では、前記の通りA0のFCフラグは必ず1であるので、図4の表に示す以外の組み合わせについては考慮する必要はない。
【0112】
また、本実施形態では、アサイン情報120を新たに生成する毎に、新たに生成したアサイン情報を用いて、既存のキャリブレーション情報130(例えば、直前に生成したキャリブレーション情報)から新たなキャリブレーション情報を生成する。図5は、新たに生成するキャリブレーション情報に含まれる3つのアサイン情報の組み合わせを示す表である。図5に示すように、新たに生成するキャリブレーション情報CnewのA2(A2’と表記)は、新たに生成したアサイン情報Anewとする。また、キャリブレーション情報CnewのA0(A0’と表記)は、既存のキャリブレーション情報のA0とする。また、キャリブレーション情報CnewのA1(A1’と表記)は、既存のキャリブレーション情報のA2のFCフラグが1であれば既存のキャリブレーション情報のA2とし、既存のキャリブレーション情報のA2のFCフラグが0であれば既存のキャリブレーション情報のA1とする。
【0113】
図3の例では、キャリブレーション情報130−2は、図5の表に従い、アサイン情報120−2を用いてキャリブレーション情報130−1から新たに生成したものである。また、キャリブレーション情報130−3は、図5の表に従い、アサイン情報120−3を用いてキャリブレーション情報130−2から新たに生成したものである。また、キャリブレーション情報130−4は、図5の表に従い、アサイン情報120−4を用いてキャリブレーション情報130−3から新たに生成したものである。なお、キャリブレーション情報130−1はあらかじめ記憶部50に記憶されており、最初の測定に使用される。
【0114】
特に本実施形態では、図5の表からわかるように、新たに生成されるキャリブレーション情報Cnewにおいて、A2(A2’)は最新のアサイン情報になっており、A1(A1’)はなるべくFCが可能なアサイン情報になっており、A0(A0’)は常に変更せずにFCが可能なアサイン情報を保持し続ける。こうすることにより、図4の表に従い、最新のアサイン情報を用いてFCを行ってすべてのキャリブレーション係数を決定することができる。さらに、A1、A2のいずれかにミスアサインが見つかり、A1とA2のFCフラグがともに0になってしまった場合にも、図4の表に従い、A0を用いて必ずFCを行うことができるのですべてのキャリブレーション係数を決定することができる。
【0115】
生成したキャリブレーション情報130は、他のデータセットにおいて利用するために、必要に応じて記憶部50に保存される。本実施形態では、キャリブレーション情報130をそのまま保存するのではなく、図6に示す表に従ってアサイン情報120を変更して保存する。図6に示すように、生成したキャリブレーション情報のA2のFCフラグが1であれば、保存するキャリブレーション情報のA0、A1、A2(それぞれA0’’、A1’’、A2’’と表記)をすべてA2とする。一方、生成したキャリブレーション情報のA2のFCフラグが0の時は、A1のFCフラグが1であればA0’’、A1’’、A2’’をそれぞれA1、A1、A2とし、A1のFCフラグが0であればA0’’、A1’’、A2’’をそれぞれA0、A0、A2とする。このようにすれば、保存されるキャリブレーション情報は、必ず最新のアサイン情報であるA2と、最新のFC可能なアサイン情報を含むことになり、保存されたキャリブレーション情報を用いることで、次回の最初の測定において適切なキャリブレーションを行うことができる。
【0116】
4.動作シーケンス
図7は、本実施形態における分析部40の動作手順の一例を示すフローチャート図である。また、図8〜図12は、分析部40の動作の具体例を示す図である。図8〜図12では、アサイン情報を{アサイン情報ID}_{FCフラグ}で表記する。また、キャリブレーション情報を{キャリブレーション情報ID}(A0,A1,A2)と表記する。また、マススペクトルを{マススペクトルID}と表記する。また、図8〜図12では、アサイン情報、キャリブレーション情報については、データセット外から設定されるものは破線、データセット内で生成されるものは実線で表記している。以下、図8〜図12を参照しながら、図7を用いて、分析部40の動作手順について説明する。
【0117】
図7に示すように、分析部40は、まず、測定開始前にデータセットを初期設定する(ステップS10)。具体的には、ユーザーが測定に使用するデータセットを作成し、あるいは既存のデータセットを開いた後、ユーザーの指示に従い、分析部40は、最初のデータ取得に利用するアサイン情報、キャリブレーション情報をデータセット内に呼び出す。
【0118】
図8は、初期設定されたデータセットの一例を示す図である。例えば、図2に示したID=A001のアサイン情報120−1と図3に示したID=C001のキャリブレーション情報130−1があらかじめ記憶部50に保存されているものとして、図8は、このアサイン情報120−1(A001_1と表記)とキャリブレーション情報130−1(C001(001,001,001)と表記)を記憶部50から読み出してデータセット100上に開いた状態である。
【0119】
測定開始後(ステップS20のY)、分析部40は、イオンの飛行時間の最初の測定結果に基づいて、1番目のスペクトル情報を生成する(ステップS30)。具体的には、分析部40は、スペクトル情報生成部41により、検出器30の検出結果からスペクトル情報を生成し、さらに、生成したスペクトル情報をキャリブレーション情報と関連付ける。
【0120】
図9は、1番目のスペクトル情報を生成した後のデータセットの一例を示す図である。図9では、STDの測定によりID=S001のスペクトル情報110−1が生成され、キャリブレーション情報130−1と関連付けられている。
【0121】
次に、分析部40は、ステップS30で生成したスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換して表示する(ステップS40)。具体的には、分析部40は、スペクトル情報変換部42により、スペクトル情報に関連付けられるキャリブレーション情報に含まれるキャリブレーション係数情報を用いてスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換し、表示部60にマススペクトルを表示させる。
【0122】
例えば、図9では、スペクトル情報110−1はキャリブレーション情報130−1と関連付けられているので、キャリブレーション情報130−1のキャリブレーション係数情報(係数値a1,b1,c1,d1,e1)から得られる変換多項式を用いてスペクトル情報110−1の飛行時間が質量電荷比に変換される。
【0123】
次に、ユーザーからアサイン情報の生成指示があれば(ステップS50のY)、分析部40は、ステップS30で生成したスペクトル情報を用いて、アサイン情報を新たに生成する(ステップS60)。具体的には、ユーザーが表示部60に表示されたマススペクトルにおいて、既知物質のピーク値を指定してアサイン情報の生成を指示する操作(ボタンの押下等)をすると、分析部40は、アサイン情報生成部43により、指示内容に従って、既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応テーブル122やFCフラグ123を有する新たなアサイン情報を生成し、新たなIDを付与する。
【0124】
図10は、新たなアサイン情報を生成した後のデータセットの一例を示す図である。図10では、スペクトル情報110−1を用いて、図2に示したID=A002の新たなアサイン情報120−2(A002_1と表記)が生成されている。スペクトル情報110−1には5種類以上の既知物質のピーク値が含まれており、アサイン情報120−2のFCフラグは1になっている。
【0125】
次に、分析部40は、ステップS60で生成したアサイン情報を用いて、キャリブレーション情報を新たに生成する(ステップS70)。具体的には、分析部40は、キャリブレーション情報生成部44により、図5の表に従う3つのアサイン情報を含む新たなキャリブレーション情報を生成し、新たなIDを付与する。
【0126】
図10では、キャリブレーション情報130−1のA2(A001)のFCフラグが1なので、図5の表より、A0’とA1’をそれぞれキャリブレーション情報130−1のA0(A001)とA2(A001)とし、A2’をアサイン情報120−2として、図3に示したID=C002の新たなキャリブレーション情報130−2(C002(A001,A001,A002)と表記)が生成されている。
【0127】
次に、分析部40は、キャリブレーション係数を変更する(ステップS80)。具体的には、分析部40は、キャリブレーション情報変更部45により、図4の表に従い、キャリブレーション係数を変更する。
【0128】
図10では、キャリブレーション情報130−2のA0(A001)のFCフラグ=1、A1(A001)のFCフラグ=1、A2(A002)のFCフラグ=1なので、図4の表より、A2(A002)すなわちアサイン情報120−2を用いてFCを行い、すべてのキャリブレーション係数値を変更する。そして、変更後のキャリブレーション係数値a2,b2,c2,d2,e2は、キャリブレーション情報130−2のキャリブレーション係数情報となる。
【0129】
次に、分析部40は、ステップS30で生成したスペクトル情報にステップS70及びS80で生成したキャリブレーション情報を関連付け、スペクトル情報の飛行時間をm/zに変換して再表示する(ステップS90)。
【0130】
図10では、スペクトル情報110−1がキャリブレーション情報130−2と関連付けられ、キャリブレーション情報130−2のキャリブレーション係数情報(係数値a2,b2,c2,d2,e2)から得られる変換多項式を用いてスペクトル情報110−1の飛行時間が質量電荷比に変換されて表示部60に再表示される。
【0131】
そして、分析部40は、測定終了(ステップS100のY)までステップS30〜S90の処理を繰り返す。
【0132】
図11は、UKN(マトリックスと未知試料の混合物)の測定によるID=S002のスペクトル情報110−2と次のUKNの測定によるID=S003のスペクトル情報110−3を生成後、UKN+STDの測定によるID=S004のスペクトル情報110−4を生成し、さらに、スペクトル情報110−4を用いて、図2に示したID=A003のアサイン情報120−3(A003_0と表記)と図3に示したID=C003のキャリブレーション情報130−3(C003(A001,A002,A003)と表記)を生成した後のデータセットの一例を示す図である。
【0133】
図11では、スペクトル情報110−4には5種類未満の既知物質のピーク値しか含まれておらず、アサイン情報120−3のFCフラグは0になっている。また、キャリブレーション情報130−2のA2(A002)のFCフラグが1なので、図5の表より、キャリブレーション情報130−3のA0(A0’)とA1(A1’)はそれぞれキャリブレーション情報130−2のA0(A001)とA2(A002)となり、キャリブレーション情報130−3のA2(A2’)はアサイン情報120−3(A003)となっている。そして、キャリブレーション情報130−3のA0(A001)のFCフラグ=1、A1(A002)のFCフラグ=1、A2(A003)のFCフラグ=0なので、図4の表より、A1(A002)すなわちアサイン情報120−2を用いてFCが行われた後、A2(A003)すなわちアサイン情報120−3を用いてPCが行われ、すべてのキャリブレーション係数値が変更されている。変更後のキャリブレーション係数値a3,b3,c3,d3,e3は、キャリブレーション情報130−3のキャリブレーション係数情報となる。
【0134】
図12は、さらに、UKNの測定によるID=S005のスペクトル情報110−5と次のUKNの測定によるID=S006のスペクトル情報110−6を生成後、UKN+STDの測定によるID=S007のスペクトル情報110−7を生成し、さらに、スペクトル情報110−7を用いて図2に示したID=A004のアサイン情報120−4(A004_0と表記)と図3に示したID=C004のキャリブレーション情報130−4(C004(A001,A002,A004)と表記)を生成した後のデータセットの一例を示す図である。
【0135】
図12では、スペクトル情報110−7には5種類未満の既知物質のピーク値しか含まれておらず、アサイン情報120−4のFCフラグは0になっている。また、キャリブレーション情報130−3のA2(A003)のFCフラグが0なので、図5の表より、キャリブレーション情報130−4のA0(A0’)とA1(A1’)はそれぞれキャリブレーション情報130−3のA0(A001)とA1(A002)となり、キャリブレーション情報130−4のA2(A2’)はアサイン情報120−4(A004)となっている。そして、キャリブレーション情報130−4のA0(A001)のFCフラグ=1、A1(A002)のFCフラグ=1、A2(A004)のFCフラグ=0なので、図4の表より、A1(A002)すなわちアサイン情報120−2を用いてFCが行われた後、A2(A004)すなわちアサイン情報120−4を用いてPCが行われ、すべてのキャリブレーション係数値が変更されている。変更後のキャリブレーション係数値a4,b4,c4,d4,e4は、キャリブレーション情報130−4のキャリブレーション係数情報となる。
【0136】
すべての測定が終了すると(ステップS100のY)、分析部40は、最後に、他のデータセットで使用するキャリブレーション情報を記憶部50に保存する。具体的には、分析部40は、キャリブレーション情報保存部46により、保存対象のキャリブレーション情報を、図6の表に従って変換して記憶部50に保存する。
【0137】
例えば、図12のキャリブレーション情報130−4を保存する場合は、キャリブレーション情報130−4のA1(A002)のFCフラグ=1、A2(A004)のFCフラグ=0なので、図6の表より、A0(A0’’)とA1(A1’’)をともにキャリブレーション情報130−4のA1(A002)すなわちアサイン情報120−2、A2(A2’’)をキャリブレーション情報130−4のA2(A004)すなわちアサイン情報120−4に変換して記憶部50に保存する。
【0138】
以上に説明したように、本実施形態では、すべてのキャリブレーション情報のアサイン情報0(A0)はFC可能な同一のアサイン情報になっている。例えば、図8〜図12の例では、すべてのキャリブレーション情報のA0にはFC可能なA001が割り当てられている。そのため、新たに生成されてA1又はA2に割り当てられたFC可能なアサイン情報にミスアサインが発見されてFCが不可能になった場合でも、そのアサイン情報の代わりに各キャリブレーション情報のA0に割り当てられたアサイン情報を用いてFCを行うことで、その後の測定を継続することができる。例えば、図11の状態で、仮にA002にミスアサインが発見されてA002のFCフラグが1から0に変わった場合でも、キャリブレーション情報130−3では、図4の表に従い、A001を用いたFCとA003を用いたPCを行うことで、その後の測定を継続することができる。従って、本実施形態によれば、標準物質の種類や使用量を減らしても適切にキャリブレーションを行うことができる。
【0139】
また、本実施形態では、新たに生成されるキャリブレーション情報は、必ず、新たに生成したアサイン情報を含む。例えば、図8〜図12の例では、新たに生成したキャリブレーション情報130−2、130−3、130−4のA2には、それぞれ、直前に生成した最新のアサイン情報120−2、120−3、120−4が割り当てられている。従って、本実施形態によれば、最新のアサイン情報を用いてキャリブレーションすることで質量精度を確保することができる。
【0140】
5.変形例
[変形例1]
MALDI−TOFMSでは、既知物質を多数導入することが難しいので、実際には既知物質ピークが観測されていない場合に、異なるピークにミスアサインされる場合が想定される。特に、MALDI−TOFMSでは、同一のキャリブレーション情報を多数のマススペクトルで利用する場合が多いので、変形例1では、事後的にアサイン情報にミスアサインが発見された場合に、それまでに作成されたデータセットを自動的に修正する処理を追加する。
【0141】
図13は、変形例1における分析部40の動作手順の一例を示すフローチャート図である。図13のフローチャートにおいて、図7のフローチャートと同じ処理には同じ符号を付しており、その説明を省略する。図13のフローチャートでは、図7のフローチャートに対して、ステップS92〜S98の処理が追加されている。
【0142】
すなわち、以前に生成したアサイン情報のいずれかにミスアサインが発見された場合(ステップS92)、分析部40は、まず、そのアサイン情報を修正する(ステップS94)。具体的には、ユーザーが表示部60に表示されたマススペクトルにおいて、既知物質の正しいピーク値を指定してアサイン情報の修正を指示する操作(ボタンの押下等)をすると、分析部40は、指示内容に従って、このアサイン情報における既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応テーブル122やFCフラグ123を修正する。
【0143】
例えば、図12の状態で、仮にアサイン情報120−2にミスアサインが発見された場合、ユーザーが正しいアサインを指定して修正指示操作をすると、分析部40は、その指示内容に従ってアサイン情報120−2を修正する。
【0144】
次に、分析部40は、ステップS94で修正したアサイン情報を含むキャリブレーション情報を修正する(ステップS96)。具体的には、分析部40は、キャリブレーション情報修正部47により、このアサイン情報の実体を有するキャリブレーション情報を検索し、当該アサイン情報の実体を修正する。
【0145】
例えば、図12の状態で、仮にアサイン情報120−2が修正された場合、キャリブレーション情報130−2のA2、キャリブレーション情報130−3のA1、キャリブレーション情報130−4のA1が修正される。
【0146】
次に、分析部40は、ステップS96で修正したキャリブレーション情報と関連づけられるスペクトル情報を修正する(ステップS98)。具体的には、分析部40は、スペクトル情報修正部48により、このキャリブレーション情報の実体を有するスペクトル情報を検索し、当該キャリブレーション情報の実体を修正する。
【0147】
例えば、図12の状態で、仮にキャリブレーション情報130−2、130−3、130−4が修正された場合、これらと関連付けられるスペクトル情報110−1〜110−7が修正される。
【0148】
変形例1によれば、アサイン情報に修正があった場合、そのアサイン情報を含むすべてのキャリブレーション情報が自動的に修正され、さらに、修正されたキャリブレーション情報に関連付けられるすべてのスペクトル情報が自動的に修正され、マススペクトルの表示に適用される。
【0149】
ただし、キャリブレーション情報がアサイン情報の参照先の情報を有する場合は、アサイン情報の修正が自動的にキャリブレーション情報に反映される。同様に、スペクトル情報がキャリブレーション情報の参照先の情報を有する場合は、キャリブレーション情報の修正が自動的にスペクトル情報に反映される。
【0150】
[変形例2]
STD(マトリックスと5種類以上の標準物質の混合物)の測定により得られたアサイン情報のみを含むキャリブレーション情報は、関連づけられるスペクトル情報以外のスペクトル情報にも汎用的に適用する(外部キャリブレーションに利用する)ことができる。一方、UKN+STD(マトリックスと未知試料と1〜2種類の標準物質の混合物)の測定により得られたアサイン情報を含むキャリブレーション情報は、関連づけられるスペクトル情報を含む限られたスペクトル情報にのみ適用する(内部キャリブレーションに利用する)のが妥当である。そこで、変形例2では、キャリブレーション情報に、外部キャリブレーション用と内部キャリブレーション用の区別をつけるためのフラグを持たせる。
【0151】
図14は、変形例2におけるキャリブレーション情報の一例を示す図である。ID131、3つのアサイン情報132、133、134(アサイン情報0(A0)、アサイン情報1(A1)、アサイン情報2(A2))、キャリブレーション係数情報135は、図3と同じであるため、その説明を省略する。
【0152】
変形例2では、各キャリブレーション情報はキャリブレーション識別フラグ136をさらに含む。キャリブレーション識別フラグ136が1であればそのキャリブレーション情報が外部キャリブレーションに利用可能であることを示し、キャリブレーション識別フラグ136が0であればそのキャリブレーション情報が内部キャリブレーションにのみ利用可能であることを示す。図14の例では、キャリブレーション情報130−1と130−2は外部キャリブレーションに利用可能であり、キャリブレーション情報130−3と130−4は内部キャリブレーションにのみ利用可能であることを示している。
【0153】
キャリブレーション識別フラグ136は、例えば、キャリブレーション情報がSTDの測定により得られたアサイン情報のみを含むのであれば1(外部キャリブレーションに利用可能)、UKN+STDの測定により得られたアサイン情報を含むのであれば0(内部キャリブレーションにのみ利用可能)とすることができる。
【0154】
図14の例では、A001とA002はSTDの測定により得られたアサイン情報であるため、A001のみを含むキャリブレーション情報130−1と、A001とA002のみを含むキャリブレーション情報130−2のキャリブレーション識別フラグ136はともに1になっている。一方、A003とA004はUKN+STDの測定により得られたアサイン情報であるため、A003を含むキャリブレーション情報130−3とA004を含むキャリブレーション情報130−4のキャリブレーション識別フラグ136はともに0になっている。
【0155】
変形例2によれば、キャリブレーション識別フラグ136により、各キャリブレーション情報が外部キャリブレーションに利用することができるものか否か、すなわち、他のスペクトルにも汎用的に適用可能か否かを識別することができるので、ユーザーキャリブレーション識別フラグ136を参照することで適切なキャリブレーション情報を選択して測定を行うことができる。
【0156】
[変形例3]
図3に示したキャリブレーション情報は3つのアサイン情報を含んでいるが、キャリブレーション情報が3つ以上のアサイン情報を含むように変形してもよい。例えば、図15は、4つのアサイン情報を含むキャリブレーション情報の一例を示す図である。ID131とキャリブレーション係数情報135は、図3と同じであるため、その説明を省略する。
【0157】
4つのアサイン情報132、133、134、137(アサイン情報0(A0)、アサイン情報1(A1)、アサイン情報2(A2)、アサイン情報3(A3))は、それぞれアサイン情報を特定するための情報であり、アサイン情報120の参照先の情報であってもよいし、アサイン情報120の実体であってもよい。図15の例では、キャリブレーション情報130−1は、A0、A1、A2、A3がすべてA001である。また、キャリブレーション情報130−2は、A0、A1、A2がともにA001であり、A3がA002である。また、キャリブレーション情報130−3は、A0とA1がともにA001であり、A2、A3がそれぞれA002、A003である。また、キャリブレーション情報130−4は、A0とA1がともにA001であり、A2、A3がそれぞれA002とA004である。
【0158】
特に変形例3では、すべてのキャリブレーション情報において、アサイン情報0(A0)はFCが可能な(FCフラグ=1の)同一のアサイン情報(本発明における所定のアサイン情報の一例)になっている。図15の例では、4つのキャリブレーション情報130−1、130−2、130−3、130−4は、A0がすべてID=A001のアサイン情報120−1になっており、このアサイン情報120−1のFCフラグは1である(図2参照)。
【0159】
キャリブレーション係数値は、A0、A1、A2、A3のうちの1つ又は複数のアサイン情報を用いてキャリブレーション情報130毎に計算される。変形例3では、図16に示す表に従い、キャリブレーション係数値の計算に用いるアサイン情報120を選択する。すなわち、A3のFCフラグが1であれば、A3を用いてFCを行って(例えば最小二乗法等でフィッティング)キャリブレーション係数値を計算する。また、A3のFCフラグが0の時は、A2のFCフラグが1であれば、A2を用いてFCを行った後、A3を用いてPCを行って一部の係数値を更新(再計算)する。一方、A3とA2のFCフラグがともに0の時は、A1のFCフラグが1であればA1を用いてFCを行った後、A3を用いてPCを行う。また、A3、A2、A1のFCフラグがすべて0であれば、A0を用いてFCを行った後、A3を用いてPCを行う。なお、本実施形態では、前記の通りA0のFCフラグは必ず1であるので、図16の表に示す以外の組み合わせについては考慮する必要はない。
【0160】
変形例2でも、アサイン情報120を新たに生成する毎に、新たに生成したアサイン情報を用いて、既存のキャリブレーション情報130(例えば、直前に生成したキャリブレーション情報)から新たなキャリブレーション情報を生成する。図17は、新たに生成するキャリブレーション情報に含まれる4つのアサイン情報の組み合わせを示す表である。図17に示すように、新たに生成するキャリブレーション情報CnewのA3(A3’と表記)は、新たに生成したアサイン情報Anewとする。また、キャリブレーション情報CnewのA0(A0’と表記)は、既存のキャリブレーション情報のA0とする。また、キャリブレーション情報CnewのA2(A2’と表記)は、既存のキャリブレーション情報のA3のFCフラグが1であれば既存のキャリブレーション情報のA3とし、既存のキャリブレーション情報のA3のFCフラグが0であれば既存のキャリブレーション情報のA2とする。また、キャリブレーション情報CnewのA1(A1’と表記)は、既存のキャリブレーション情報のA3のFCフラグが1であれば既存のキャリブレーション情報のA2とし、既存のキャリブレーション情報のA3のFCフラグが0であれば既存のキャリブレーション情報のA1とする。
【0161】
図14の例では、キャリブレーション情報130−2は、図17の表に従い、アサイン情報120−2を用いてキャリブレーション情報130−1から新たに生成したものである。また、キャリブレーション情報130−3は、図17の表に従い、アサイン情報120−3を用いてキャリブレーション情報130−2から新たに生成したものである。また、キャリブレーション情報130−4は、図17の表に従い、アサイン情報120−4を用いてキャリブレーション情報130−3から新たに生成したものである。なお、キャリブレーション情報130−1はあらかじめ記憶部50に記憶されており、最初の測定に使用される。
【0162】
特に変形例3では、図17の表からわかるように、新たに生成されるキャリブレーション情報Cnewにおいて、A3(A3’)は最新のアサイン情報になっており、A2(A2’)とA1(A1’)はなるべくFCが可能なアサイン情報になっており、A0(A0’)は常に変更せずにFCが可能なアサイン情報を保持し続ける。こうすることにより、図16の表に従い、最新のアサイン情報を用いてFCを行ってすべてのキャリブレーション係数を決定することができる。さらに、A1、A2、A3のいずれかにミスアサインが見つかり、A1、A2、A3のFCフラグがすべて0になってしまった場合にも、図16の表に従い、A0を用いて必ずFCを行うことができるのですべてのキャリブレーション係数を決定することができる。
【0163】
生成したキャリブレーション情報130は、他のデータセットにおいて利用するために、必要に応じて記憶部50に保存される。変形例3でもキャリブレーション情報130をそのまま保存するのではなく、図18に示す表に従ってアサイン情報120を変更して保存する。図18に示すように、生成したキャリブレーション情報のA3のFCフラグが1であれば、保存するキャリブレーション情報のA0、A1、A2、A3(それぞれA0’’、A1’’、A2’’、A3’’と表記)をすべてA3とする。また、生成したキャリブレーション情報のA3のFCフラグが0の時は、A2のFCフラグが1であれば、A0’’、A1’’、A2’’、A3’’をそれぞれA2、A2、A2、A3とする。また、生成したキャリブレーション情報のA3とA2のFCフラグがともに0の時は、A1のFCフラグが1であればA0’’、A1’’、A2’’、A3’’をそれぞれA1、A1、A1、A3とし、A1のFCフラグが0であればA0’’、A1’’、A2’’、A3’’をそれぞれA0、A0、A0、A3とする。このようにすれば、保存されるキャリブレーション情報は、必ず最新のアサイン情報であるA3と、最新のFC可能なアサイン情報を含むことになり、保存されたキャリブレーション情報を用いることで、次回の最初の測定において適切なキャリブレーションを行うことができる。
【0164】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0165】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0166】
1 飛行時間型質量分析装置、10 イオン源、20 飛行時間型質量分析部、30 検出器、40 分析部、41 スペクトル情報生成部、42 スペクトル情報変換部、43 アサイン情報生成部、44 キャリブレーション情報生成部、45 キャリブレーション係数変更部、46 キャリブレーション情報保存部、47 キャリブレーション情報修正部、48 スペクトル情報修正部、50 記憶部、60 表示部、100 データセット、110,110−1〜110−7 スペクトル情報、120,120−1〜120−4 アサイン情報、121 アサイン情報ID(識別情報)、122 既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応テーブル、123 FCフラグ、130,130−1〜130−4 キャリブレーション情報、131 キャリブレーション情報ID(識別情報)、132 アサイン情報0、133 アサイン情報1、134 アサイン情報2、135 キャリブレーション係数情報、136 キャリブレーション識別フラグ、137 アサイン情報3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応関係を含むアサイン情報を用いて、イオンの飛行時間と検出強度との対応関係を含むスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する多項式の係数値を変更する機能を有する飛行時間型質量分析装置であって、
試料をイオン化するイオン源と、
前記イオン源で生成されたイオンを、質量電荷比に応じた飛行時間の違いに基づいて分離する質量分析部と、
前記質量分析部で分離されたイオンを検出する検出器と、
前記検出器の検出結果に基づいてスペクトル情報を生成するスペクトル情報生成部と、
前記多項式のすべての係数値を変更可能な所定のアサイン情報を含む少なくとも3つのアサイン情報と、当該3つのアサイン情報の少なくとも1つを用いて算出された前記多項式の係数値の情報と、を有するキャリブレーション情報に基づいて、当該キャリブレーション情報に関連づけられたスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換するスペクトル情報変換部と、
スペクトル情報に基づいて既知物質の質量電荷比と飛行時間とを対応づけて、アサイン情報を新たに生成するアサイン情報生成部と、
前記所定のアサイン情報と前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報とを含む少なくとも3つのアサイン情報を有するキャリブレーション情報を新たに生成するキャリブレーション情報生成部と、
前記キャリブレーション情報生成部が新たに生成したキャリブレーション情報に基づいて前記多項式の係数値を変更するキャリブレーション係数変更部と、を含む、飛行時間型質量分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記キャリブレーション係数変更部は、
前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合は、当該アサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更する、飛行時間型質量分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記キャリブレーション係数変更部は、
前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合は、前記多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更した後、前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報を用いて前記多項式の一部の係数値をさらに変更する、飛行時間型質量分析装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記キャリブレーション情報は、
外部キャリブレーションが可能か否かを表すフラグ情報をさらに含む、飛行時間型質量分析装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
キャリブレーション情報を記憶部に保存するキャリブレーション情報保存部をさらに含み、
前記キャリブレーション情報保存部は、
保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれるすべてのアサイン情報を当該最新のアサイン情報に置き換えて保存する、飛行時間型質量分析装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記キャリブレーション情報保存部は、
保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれる当該最新のアサイン情報以外のアサイン情報を前記多項式のすべての係数値を変更可能な最新のアサイン情報に置き換えて保存する、飛行時間型質量分析装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記キャリブレーション情報は、
アサイン情報の参照先の情報を有し、当該アサイン情報が修正された場合には修正後のアサイン情報が自動的に参照される、飛行時間型質量分析装置。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記キャリブレーション情報は、アサイン情報の実体を有し、
アサイン情報が修正された場合、当該アサイン情報の実体を有するキャリブレーション情報を検索し、当該アサイン情報の実体を修正するキャリブレーション情報修正部をさらに含む、飛行時間型質量分析装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記スペクトル情報は、
キャリブレーション情報の参照先の情報を有し、当該キャリブレーション情報が修正された場合には修正後のキャリブレーション情報が自動的に参照される、飛行時間型質量分析装置。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記スペクトル情報は、キャリブレーション情報の実体を有し、
キャリブレーション情報が修正された場合、当該キャリブレーション情報の実体を有するスペクトル情報を検索し、当該キャリブレーション情報の実体を修正するスペクトル情報修正部をさらに含む、飛行時間型質量分析装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかにおいて、
前記イオン源は、
マトリックス支援レーザー脱離イオン化法を用いて試料をイオン化するイオン源である、飛行時間型質量分析装置。
【請求項12】
既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応関係を含むアサイン情報を用いて、イオンの飛行時間と検出強度との対応関係を含むスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する多項式の係数値を変更する、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法であって、
前記多項式のすべての係数値を変更可能な所定のアサイン情報を含む少なくとも3つのアサイン情報と、当該3つのアサイン情報の少なくとも1つを用いて算出された前記多項式の係数値の情報と、を有するキャリブレーション情報に基づいて、当該キャリブレーション情報に関連づけられたスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換するスペクトル情報変換ステップと、
スペクトル情報に基づいて既知物質の質量電荷比と飛行時間とを対応づけて、アサイン情報を新たに生成するアサイン情報生成ステップと、
前記所定のアサイン情報と前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報とを含む少なくとも3つのアサイン情報を有するキャリブレーション情報を新たに生成するキャリブレーション情報生成ステップと、
前記キャリブレーション情報生成ステップで新たに生成したキャリブレーション情報に基づいて前記多項式の係数値を変更するキャリブレーション係数変更ステップと、を含む、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記キャリブレーション係数変更ステップにおいて、
前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合は、当該アサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更する、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項14】
請求項12又は13において、
前記キャリブレーション係数変更ステップにおいて、
前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合は、前記多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更した後、前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報を用いて前記多項式の一部の係数値をさらに変更する、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項15】
請求項12乃至14のいずれかにおいて、
前記キャリブレーション情報は、
外部キャリブレーションが可能か否かを表すフラグ情報をさらに含む、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項16】
請求項12乃至15のいずれかにおいて、
キャリブレーション情報を記憶部に保存するキャリブレーション情報保存ステップをさらに含み、
前記キャリブレーション情報保存ステップにおいて、
保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれるすべてのアサイン情報を当該最新のアサイン情報に置き換えて保存する、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項17】
請求項16において、
前記キャリブレーション情報保存ステップにおいて、
保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれる当該最新のアサイン情報以外のアサイン情報を前記多項式のすべての係数値を変更可能な最新のアサイン情報に置き換えて保存する、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項18】
請求項12乃至17のいずれかにおいて、
前記キャリブレーション情報は、
アサイン情報の参照先の情報を有し、当該アサイン情報が修正された場合には修正後のアサイン情報が自動的に参照される、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項19】
請求項12乃至17のいずれかにおいて、
前記キャリブレーション情報は、アサイン情報の実体を有し、
アサイン情報が修正された場合、当該アサイン情報の実体を有するキャリブレーション情報を検索し、当該アサイン情報の実体を修正するキャリブレーション情報修正ステップをさらに含む、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項20】
請求項12乃至19のいずれかにおいて、
前記スペクトル情報は、
キャリブレーション情報の参照先の情報を有し、当該キャリブレーション情報が修正された場合には修正後のキャリブレーション情報が自動的に参照される、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項21】
請求項12乃至19のいずれかにおいて、
前記スペクトル情報は、キャリブレーション情報の実体を有し、
キャリブレーション情報が修正された場合、当該キャリブレーション情報の実体を有するスペクトル情報を検索し、当該キャリブレーション情報の実体を修正するスペクトル情報修正ステップをさらに含む、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項22】
請求項12乃至21のいずれかにおいて、
前記飛行時間型質量分析装置は、
マトリックス支援レーザー脱離イオン化法を用いて試料をイオン化するイオン源を含む、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項1】
既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応関係を含むアサイン情報を用いて、イオンの飛行時間と検出強度との対応関係を含むスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する多項式の係数値を変更する機能を有する飛行時間型質量分析装置であって、
試料をイオン化するイオン源と、
前記イオン源で生成されたイオンを、質量電荷比に応じた飛行時間の違いに基づいて分離する質量分析部と、
前記質量分析部で分離されたイオンを検出する検出器と、
前記検出器の検出結果に基づいてスペクトル情報を生成するスペクトル情報生成部と、
前記多項式のすべての係数値を変更可能な所定のアサイン情報を含む少なくとも3つのアサイン情報と、当該3つのアサイン情報の少なくとも1つを用いて算出された前記多項式の係数値の情報と、を有するキャリブレーション情報に基づいて、当該キャリブレーション情報に関連づけられたスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換するスペクトル情報変換部と、
スペクトル情報に基づいて既知物質の質量電荷比と飛行時間とを対応づけて、アサイン情報を新たに生成するアサイン情報生成部と、
前記所定のアサイン情報と前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報とを含む少なくとも3つのアサイン情報を有するキャリブレーション情報を新たに生成するキャリブレーション情報生成部と、
前記キャリブレーション情報生成部が新たに生成したキャリブレーション情報に基づいて前記多項式の係数値を変更するキャリブレーション係数変更部と、を含む、飛行時間型質量分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記キャリブレーション係数変更部は、
前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合は、当該アサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更する、飛行時間型質量分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記キャリブレーション係数変更部は、
前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合は、前記多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更した後、前記アサイン情報生成部が新たに生成したアサイン情報を用いて前記多項式の一部の係数値をさらに変更する、飛行時間型質量分析装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記キャリブレーション情報は、
外部キャリブレーションが可能か否かを表すフラグ情報をさらに含む、飛行時間型質量分析装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
キャリブレーション情報を記憶部に保存するキャリブレーション情報保存部をさらに含み、
前記キャリブレーション情報保存部は、
保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれるすべてのアサイン情報を当該最新のアサイン情報に置き換えて保存する、飛行時間型質量分析装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記キャリブレーション情報保存部は、
保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれる当該最新のアサイン情報以外のアサイン情報を前記多項式のすべての係数値を変更可能な最新のアサイン情報に置き換えて保存する、飛行時間型質量分析装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記キャリブレーション情報は、
アサイン情報の参照先の情報を有し、当該アサイン情報が修正された場合には修正後のアサイン情報が自動的に参照される、飛行時間型質量分析装置。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記キャリブレーション情報は、アサイン情報の実体を有し、
アサイン情報が修正された場合、当該アサイン情報の実体を有するキャリブレーション情報を検索し、当該アサイン情報の実体を修正するキャリブレーション情報修正部をさらに含む、飛行時間型質量分析装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記スペクトル情報は、
キャリブレーション情報の参照先の情報を有し、当該キャリブレーション情報が修正された場合には修正後のキャリブレーション情報が自動的に参照される、飛行時間型質量分析装置。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記スペクトル情報は、キャリブレーション情報の実体を有し、
キャリブレーション情報が修正された場合、当該キャリブレーション情報の実体を有するスペクトル情報を検索し、当該キャリブレーション情報の実体を修正するスペクトル情報修正部をさらに含む、飛行時間型質量分析装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかにおいて、
前記イオン源は、
マトリックス支援レーザー脱離イオン化法を用いて試料をイオン化するイオン源である、飛行時間型質量分析装置。
【請求項12】
既知物質の質量電荷比と飛行時間との対応関係を含むアサイン情報を用いて、イオンの飛行時間と検出強度との対応関係を含むスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換する多項式の係数値を変更する、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法であって、
前記多項式のすべての係数値を変更可能な所定のアサイン情報を含む少なくとも3つのアサイン情報と、当該3つのアサイン情報の少なくとも1つを用いて算出された前記多項式の係数値の情報と、を有するキャリブレーション情報に基づいて、当該キャリブレーション情報に関連づけられたスペクトル情報の飛行時間を質量電荷比に変換するスペクトル情報変換ステップと、
スペクトル情報に基づいて既知物質の質量電荷比と飛行時間とを対応づけて、アサイン情報を新たに生成するアサイン情報生成ステップと、
前記所定のアサイン情報と前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報とを含む少なくとも3つのアサイン情報を有するキャリブレーション情報を新たに生成するキャリブレーション情報生成ステップと、
前記キャリブレーション情報生成ステップで新たに生成したキャリブレーション情報に基づいて前記多項式の係数値を変更するキャリブレーション係数変更ステップと、を含む、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記キャリブレーション係数変更ステップにおいて、
前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合は、当該アサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更する、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項14】
請求項12又は13において、
前記キャリブレーション係数変更ステップにおいて、
前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合は、前記多項式のすべての係数値を変更可能なアサイン情報を用いて前記多項式のすべての係数値を変更した後、前記アサイン情報生成ステップで新たに生成したアサイン情報を用いて前記多項式の一部の係数値をさらに変更する、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項15】
請求項12乃至14のいずれかにおいて、
前記キャリブレーション情報は、
外部キャリブレーションが可能か否かを表すフラグ情報をさらに含む、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項16】
請求項12乃至15のいずれかにおいて、
キャリブレーション情報を記憶部に保存するキャリブレーション情報保存ステップをさらに含み、
前記キャリブレーション情報保存ステップにおいて、
保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式のすべての係数値を変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれるすべてのアサイン情報を当該最新のアサイン情報に置き換えて保存する、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項17】
請求項16において、
前記キャリブレーション情報保存ステップにおいて、
保存対象のキャリブレーション情報に含まれる最新のアサイン情報が前記多項式の一部の係数値のみを変更可能である場合、当該キャリブレーション情報に含まれる当該最新のアサイン情報以外のアサイン情報を前記多項式のすべての係数値を変更可能な最新のアサイン情報に置き換えて保存する、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項18】
請求項12乃至17のいずれかにおいて、
前記キャリブレーション情報は、
アサイン情報の参照先の情報を有し、当該アサイン情報が修正された場合には修正後のアサイン情報が自動的に参照される、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項19】
請求項12乃至17のいずれかにおいて、
前記キャリブレーション情報は、アサイン情報の実体を有し、
アサイン情報が修正された場合、当該アサイン情報の実体を有するキャリブレーション情報を検索し、当該アサイン情報の実体を修正するキャリブレーション情報修正ステップをさらに含む、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項20】
請求項12乃至19のいずれかにおいて、
前記スペクトル情報は、
キャリブレーション情報の参照先の情報を有し、当該キャリブレーション情報が修正された場合には修正後のキャリブレーション情報が自動的に参照される、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項21】
請求項12乃至19のいずれかにおいて、
前記スペクトル情報は、キャリブレーション情報の実体を有し、
キャリブレーション情報が修正された場合、当該キャリブレーション情報の実体を有するスペクトル情報を検索し、当該キャリブレーション情報の実体を修正するスペクトル情報修正ステップをさらに含む、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【請求項22】
請求項12乃至21のいずれかにおいて、
前記飛行時間型質量分析装置は、
マトリックス支援レーザー脱離イオン化法を用いて試料をイオン化するイオン源を含む、飛行時間型質量分析装置のキャリブレーション方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−233398(P2011−233398A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103598(P2010−103598)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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