説明

飛行源の加熱時間

質量分析計において使用するレンズアセンブリ内のイオン光学構成要素上に蓄積される汚染物質を減少させるために、質量分析法および方法において使用するレンズアセンブリが本明細書に開示される。レンズアセンブリは、イオンレンズおよびヒータを形成するように組み立てられる複数のイオン光学構成要素を備える。複数のイオン光学構成要素は、概して類似の膨張係数を有する。ヒータは、イオン光学構成要素に動作可能に連結される。ヒータは、イオン光学構成要素を加熱し、イオン光学構成要素上の残屑の集積を減少させる。種々の実施形態では、方法は、レンズアセンブリ内でイオン源からイオンを受容することを含む。レンズアセンブリは、イオンレンズを形成するように組み立てられる複数のイオン光学構成要素を含み、複数のイオン光学構成要素は、概して類似の膨張係数を有する。また方法は、イオン光学構成要素を第1の温度に加熱することを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、米国仮特許出願第61/164,088号(2009年3月27日出願)に基づく優先権の利益を主張し、この出願の全開示は、その全体が本明細書に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
出願人の教示は、イオン光学構成要素を清浄化する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
イオン光学構成要素は、質量分析法において、イオンを集束するために使用される。具体的には、イオンが分析可能な質量分析計内へとイオン流を指向するために使用される。イオン光学構成要素が使用される、質量分析法の実施例は、飛行時間型質量分析法(TOF−MS)である。TOF−MSでは、イオンは、マトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)イオン源等のイオン源によって発生される。具体的には、レーザを使用して、試料を切除し、イオンを産生させ、次いで、イオン光学部品によって、飛行時間型(TOF)質量分析器内へと集束される。しかしながら、本プロセスの際、レーザは、分析される物質を切除するだけではなく、また、物質を囲繞するマトリクスも切除する。これは、イオン光学部品を汚染し得る残屑を産生させる。
【0004】
残屑の集積の結果、イオン光学構成要素の感度が減少される。汚染物質の集積は、そこを通るイオンの通過を制限する、またはレンズのイオン集束特性に悪影響を及ぼし得る、非導電性表面を生成することによって、イオンレンズの有効性を低減させる可能性がある。
【0005】
その結果、イオン光学構成要素は、概して、汚染物質を除去し、器具の性能を回復させるために、随時、機械的に清浄化される。このイオン光学部品の清浄化は、非便宜的であって、かつワークフローの中断をもたらし得る。具体的には、機械的清浄化は、影響を受けたイオン光学構成要素へのアクセスを得ることによって、レンズアセンブリ内の完全または部分真空破壊を必要とする可能性があるため大きな影響を与える器具休止時間を伴い得る。そのような休止時間は、非便宜的であって、および試料処理量の低下をもたらし得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下の発明の開示および導入は、本明細書を読者に紹介するものであって、いかなる発明も定義することを意図するものではない。1つ以上の発明は、以下または本書の他の部分に説明される、装置要素あるいは方法ステップの組み合わせもしくは下位組み合わせとして常駐してもよい。発明者は、単に、そのような他の発明または複数の発明を請求項内に説明しないことによって、本明細書に開示されるいかなる発明あるいは複数の発明に対する権利をも、断念もしくは放棄するわけではない。
【0007】
いくつかの実施形態は、質量分析法において使用するためのレンズアセンブリに関する。出願人の教示の種々の実施形態では、レンズアセンブリは、イオンレンズおよびヒータを形成するように組み立てられる、複数のイオン光学構成要素を備える。複数のイオン光学構成要素は、概して、類似の膨張係数を有する。ヒータは、イオン光学構成要素に動作可能に連結される。ヒータは、イオン光学構成要素を加熱し、イオン光学構成要素上の残屑の集積を減少させる。
【0008】
いくつかの実施形態では、複数のイオン光学構成要素は、少なくとも1つのレンズ構成要素と、少なくとも1つの絶縁体と、を含む。種々の実施形態では、少なくとも1つのレンズ構成要素および少なくとも1つの絶縁体は、概して、類似の膨張係数を有する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのレンズ構成要素は、モリブデンから構成される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの絶縁体は、アルミナから構成される。
【0009】
種々の実施形態では、レンズアセンブリは、筐体をさらに備える。筐体は、複数のイオン光学構成要素に搭載される。
【0010】
いくつかの実施形態では、ヒータは、筐体に搭載される。
【0011】
出願人の教示による、いくつかの実施形態では、ヒータは、イオン光学構成要素に動作可能に連結される、複数のヒータである。
【0012】
種々の実施形態では、ヒータは、イオン光学構成要素に動作可能に連結される、複数のヒータであって、複数のヒータは、筐体の周縁にわたって、均等に分布される。
【0013】
いくつかの実施形態では、複数のイオン光学構成要素は、抽出レンズをさらに備える。抽出レンズおよび絶縁体のうちの少なくとも1つは、共通の縁を画定する。抽出レンズおよび絶縁体は、共通の縁における電界集中を最小にするように成形される。
【0014】
種々の実施形態では、抽出レンズは、共通の縁の全長に延在する突起を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、抽出レンズは、複数の孔を含む。孔は、空気流を可能にする。
【0016】
種々の実施形態では、抽出レンズは、モリブデンから構成される。
【0017】
出願人の教示による、種々の実施形態では、複数のイオン光学構成要素は、抽出レンズに動作可能に連結される、焦点レンズと、焦点レンズに動作可能に連結される、接地レンズと、接地レンズに動作可能に連結されるアインツェルレンズ(Einzel lens)とをさらに備える。
【0018】
いくつかの実施形態では、焦点レンズは、モリブデンから構成される。
【0019】
種々の実施形態では、絶縁体は、アルミナから構成される。
【0020】
種々の実施形態では、レンズアセンブリの少なくとも一部は、釉薬(glaze)によって塗膜される。
【0021】
出願人の教示による、種々の実施形態は、質量分析計において使用するためのレンズアセンブリ内のイオン光学構成要素上に蓄積される汚染物質を減少させるための方法に関する。種々の実施形態では、方法は、レンズアセンブリ内において、イオン源からイオンを受容するステップを含む。レンズアセンブリは、イオンレンズを形成するように組み立てられる、複数のイオン光学構成要素を含み、複数のイオン光学構成要素は、概して、類似の膨張係数を有する。また、方法は、イオン光学構成要素を第1の温度に加熱するステップを備える。
【0022】
いくつかの実施形態では、方法は、質量分析計の動作を周期的に停止し、イオン光学構成要素を第2の温度に加熱するステップをさらに含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、第2の温度は、第1の温度より高い。
【0024】
種々の実施形態では、周期は、感度が閾値を下回るときに決定される。
【0025】
いくつかの実施形態では、閾値は、初期感度の50%より大きい。
【0026】
いくつかの実施形態では、周期は、実質的に1週間に等しい。
【0027】
いくつかの実施形態では、イオン源は、MALDIイオン源である。
【0028】
いくつかの実施形態では、マトリクスが収集され、動作が停止され、イオン光学構成要素が、第2の温度に加熱される。
【0029】
いくつかの実施形態では、マトリクスを収集するステップは、源レンズ下に表面を提供するステップを備える。
【0030】
いくつかの実施形態では、表面は、第3の温度にある。第3の温度は、第2の温度より低い。
【0031】
いくつかの実施形態では、第3の温度は、表面上に凝縮を誘発するほど十分に低い。
【0032】
種々の実施形態では、第1の温度は、45℃より高い。いくつかの実施形態では、第1の温度は、約50℃である。
【0033】
いくつかの実施形態では、第2の温度は、約190℃である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
当業者は、後述の図面が、例示目的にすぎないことを理解するであろう。図面は、出願人の教示の範囲をいかようにも限定することを意図するものではない。
【図1A】図1Aは、出願人の教示の種々の実施形態による、レンズアセンブリの分解図を例示する、概略図である。
【図1B】図1Bは、図1Aのレンズアセンブリの断面を例示する、概略図である。
【図2】図2A−2Cは、出願人の教示による、レンズアセンブリの種々の実施形態の断面の斜視図である。
【図3】図3は、種々の実施形態による、図1Aのレンズアセンブリの断面温度図を例示する、概略図である。
【図4】図4は、種々の他の実施形態による、図1Aのレンズアセンブリの断面温度図を例示する、概略図である。
【図5】図5A−5Oは、種々のイオン光学構成要素上の残屑集積を例示する。
【図6】図6は、温度の関数として、アーク放電インシデントの数を示す、グラフを例示する。
【図7】図7は、出願人の教示の種々の実施形態による、残屑キャッチャを例示する、概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
種々の装置または方法は、各請求される発明の実施形態の実施例を提供するために、以下に説明される。以下に説明される実施形態のいずれも、いかなる請求される発明を限定するものではなく、いずれの請求される発明も、以下に説明されない装置または方法を網羅する可能性がある。請求される発明は、以下に説明されるいずれかの1つの装置または方法の特徴のすべてを有する装置または方法に限定されるわけではなく、あるいは以下に説明される装置の複数または全部に共通する特徴に限定されるわけでもない。以下に説明される装置または方法は、いずれの請求される発明の実施形態でもない可能性がある。出願人、発明者、および所有者は、本書に請求されない、以下に説明される装置または方法に開示されるいずれかの発明におけるあらゆる権利を留保し、本書におけるその開示によって、いずれのそのような発明も、断念、放棄、または公に捧げるわけではない。
【0036】
出願人の教示は、質量分析法における、イオン光学レンズアセンブリおよびイオン光学構成要素の使用の方法に関する。出願人の教示によると、イオン光学構成要素の表面は、汚染物質堆積に耐えるように構成可能である。加えて、出願人の教示は、プロセスに適用可能であって、それによって、レンズアセンブリ内において真空を破壊する必要となく、いかなる堆積された汚染物質も除去可能である。
【0037】
次に、それぞれ、イオン光学レンズアセンブリ5の分解断面図を例示する、図1Aおよび1Bを参照する。レンズアセンブリ5は、時間飛行型質量分析法(TOF−MS)における使用のために、イオンを集束するためのイオンレンズとして使用可能である。また、レンズアセンブリ5は、例えば、MALDIイオン源と併用可能であるが、それに限定されない。
【0038】
レンズアセンブリ5は、イオンレンズ10と、筐体20とを備える。イオンレンズ10は、筐体20に搭載される。搭載は、任意の適切な態様で達成可能である。
【0039】
イオンレンズ10は、複数のイオン光学構成要素を備える。具体的には、イオンレンズ10は、抽出レンズ30と、抽出レンズスペーサ40と、焦点レンズ50と、焦点レンズスペーサ60と、接地レンズ70と、アインツェルレンズ80と、アインツェルレンズスペーサ90とを備える。用語「電極」は、用語「レンズ」と互換可能に使用されることを理解されたい。したがって、例えば、抽出レンズ30はまた、抽出電極30とも称され得る。
【0040】
種々の実施形態では、抽出レンズ30および焦点レンズ50は、導体から構成される。いくつかの実施形態では、導体は、モリブデンである。いくつかの実施形態では、焦点レンズスペーサ60およびアインツェルレンズスペーサ90は、絶縁体から構成される。種々の実施形態では、絶縁体は、アルミナである。種々の実施形態では、焦点接地レンズ70およびアインツェルレンズ80は、導体から構成される。いくつかの実施形態では、焦点接地レンズ70およびアインツェルレンズ80のために使用される導体は、ステンレス鋼である。
【0041】
種々の実施形態では、筐体20は、例えば、アルミニウムであってもよい、導体を備える。筐体20は、イオンレンズ10のための接地としての役割を果たす。
【0042】
1つ以上のヒータ100が、筐体20に搭載される。ヒータ100は、任意の適切な態様で搭載可能である。いくつかの実施形態では、ヒータ100は、ネジによって、筐体20に締結される。ヒータ100は、イオンレンズ10を加熱するために使用される。具体的には、ヒータは、筐体20を加熱し、次に、イオンレンズ10に熱を伝達し、それによって、レンズアセンブリ5の種々の構成要素を加熱する。2つ以上のヒータ100が使用される、いくつかの実施形態では、ヒータ100は、筐体20の表面にわたって、均等に分布される。以下にさらに詳細に論じられるように、出願人は、印加される温度に応じて、熱を使用して、イオン光学構成要素上の残屑の集積を防止するか、または集積された残屑を除去することが可能であることを見出した。
【0043】
加熱に加え、いくつかの実施形態は、付加的技法を使用して、光学構成要素上の残屑の集積を最小にする。例えば、種々の実施形態では、光学構成要素の幾何学形状は、残屑の集積を最小にするに設計される。例えば、絶縁体背後の空洞内に残屑が集積するのを防止するために、レンズアセンブリ5のアインツェルレンズスペーサ90は、レンズアセンブリ5を通過するイオンビームから隠れるように設計可能である。
【0044】
次に、源レンズアセンブリの種々の代替実施形態の断面斜視図を例示する、図2Aから2Cを参照する。図2Aおよび2Cに例示される、レンズアセンブリ5dおよびレンズアセンブリ5eの実施形態は、イオンビームに曝露される、アインツェルレンズ絶縁体90dおよび90eを露出する。
【0045】
レンズアセンブリ5dおよび5eとは対照的に、図2Cのレンズアセンブリ5fは、イオンビームに曝露されないアインツェルレンズ絶縁体90fを有する。上述のように、この修正は、集積される残屑の量を減少させる。レンズアセンブリ5fのさらなる修正は、種々の導体および絶縁体への孔240の追加である。孔は、真空を改良し、残屑が集積することを防止するために追加された。
【0046】
種々の実施形態では、レンズアセンブリ5の構成要素の材料組成および構成は、上昇温度時、イオン光学が、逸脱することなく、質量分析器にイオンを通過させ続けるように選択される。これは、熱の印加によって悪影響を受け得る、周知のTOF−MSイオンレンズアセンブリと対照的である。具体的には、周知のTOF−MSイオンレンズアセンブリは、構成要素と環境との間のいかなる温度変動も回避することによって、そのイオン光学構成要素の物理的安定性を維持するように、構成および動作される。特に、周知のイオンレンズアセンブリのイオン光学構成要素表面の加熱は、イオンレンズアセンブリのイオン集束および伝達動作に悪影響を及ぼし得る。
【0047】
より高温での動作を可能にする、レンズアセンブリ5の側面のいくつかは、いくつかの実施形態では、構成要素材料が、集束および伝達機能に影響を及ぼし得る、いかなる物理的変化も最小にするために、上昇動作温度において低い熱膨張を有するように選択されるという事実を含む。さらに、種々の実施形態では、レンズアセンブリ5の種々の構成要素の材料は、類似の膨張係数を有するように選択される。加えて、いくつかの実施形態では、構成要素材料は、所望の表面への最大の熱伝達を可能にするために、高い熱伝導性を有するように選択される。いくつかの実施形態では、レンズアセンブリ5の1つ以上の構成要素を接合するために、エポキシ樹脂が使用される。例えば、種々の実施形態では、抽出レンズ30は、エポキシ樹脂によって、絶縁体に搭載される。種々の実施形態では、高温エポキシ樹脂を使用して、接合が、使用される温度範囲内に維持されることを保証する。
【0048】
上述のように、いくつかの実施形態では、種々の構成要素は、モリブデンおよびアルミナから構成される。種々の実施形態でともに使用される、これらの2つの材料の選択理由の1つは、その膨張係数が類似するということである。加えて、モリブデンおよびアルミナはまた、非常に良好な熱伝導性を有する。さらに、種々の実施形態では、モリブデンは、モリブデンの高い熱伝導性のため、例えば、ステンレス鋼等の他の金属の代わりに選択される。これは、種々の光学構成要素のオリフィス周囲の縁が薄い場合、特に有利となり得る。薄い縁は、これらの場所に熱を伝導するのを困難にする。さらに、オリフィスの縁近傍の面積は、イオン/マトリクス輸送が最大である場所に位置する傾向にある。したがって、高い熱伝導性を伴う材料の選択は、オリフィス周囲に薄い幾何学形状を形成し、それによって、これらの場所へ十分な熱を伝導可能である。
【0049】
2つの異なる材料の選択の場合のレンズアセンブリ内の熱分布を例示する、図3および4を参照する。図3は、動作の際のレンズアセンブリ5aの断面温度図を例示する。図3は、筐体100aが、約50℃に加熱されるときのレンズアセンブリ5aの構成要素のそれぞれの温度を示す。加えて、図3は、抽出レンズ30aおよび焦点レンズ50aが、モリブデンから成り、抽出レンズスペーサ40a、焦点レンズスペーサ60a、およびアインツェルレンズスペーサ90aが、アルミナから構成される、実施形態の温度分布を例示する。
【0050】
次に、レンズアセンブリ5bの断面温度図を例示する、図4を参照する。レンズアセンブリ5bは、抽出レンズスペーサ40b、焦点レンズスペーサ60b、およびアインツェルレンズスペーサ90bが、アルミナの代わりに、TechtronTMから構成されるという点において、レンズアセンブリ5aと異なる。図4から分かるように、レンズアセンブリ5bは、図3のレンズアセンブリ5aより多様な熱分布を有する。
【0051】
上述のように、出願人は、イオンレンズ10のための上昇動作温度が、イオンレンズ10の表面上の汚染物質の集積に対して、不利な条件を提供し得ることを見出した。より具体的には、MALDIプロセスの際に産生されるマトリクス副産物等の汚染物質は、表面が加熱されると、イオンレンズ10の表面に堆積する傾向にある。したがって、ヒータ100を使用して、残屑の集積を防止または最小にするように、レンズアセンブリを加熱する。
【0052】
次に、残屑集積に及ぼす熱の効果を例示する、図5Aから5Oを参照する。具体的には、これらの図は、種々の動作温度で動作される、種々の光学構成要素上に集積される残屑を例示する。図5A、5D、5G、5J、および5Mは、加熱されていないイオン光学構成要素を例示し、図5B、5E、5H、5K、および5Nは、50℃で動作されるイオン光学構成要素を例示し、5C、5F、5I、5L、および5Oは、75℃で動作されるイオン光学構成要素を例示することを理解されたい。図5A、5D、5G、5J、および5Mに例示される電極は、他の図のものと異なるモデルイオンレンズアセンブリからのものである。しかしながら、これは、結果に有意な影響を及ぼさない。
【0053】
図5Aから5Cは、抽出電極の正面図を例示する。図5Dから5Fは、抽出電極のオリフィスの拡大図を例示する。図5Gから5Iは、図5Aから5Cに類似する抽出電極の図を例示するが、図5Gから5Iでは、電極は、ブラックライトによって照射され、汚染物質または残屑蓄積をより明確に示す。図5Jから5Lは、抽出電極の背面図を例示する。図5Mから5Oは、焦点レンズの正面図を例示する。
【0054】
図から分かるように、温度が高いほど、残屑の蓄積量が低下する。残屑の蓄積は、図5Dから5Fに最も良く見られ、残屑または汚染物質は、515として例示される。図5Fに例示される電極のオリフィス周囲の残屑515の半径は、3つの中で最も小さく、図5Dに例示される電極のオリフィス周囲の残屑515は、3つの中で最も大きい。
【0055】
しかしながら、出願人は、レンズアセンブリ5が、閾値温度を上回って加熱される種々の実施形態では、アーク放電が、レンズアセンブリ5の種々の構成要素間に生じ得ることを見出した。次に、レンズアセンブリ5の種々の実施形態に対する温度の関数として、アーク放電インシデントのグラフを例示する図6を参照する。グラフから分かるように、55℃を下回る温度では、アークは観察されなかった。しかしながら、アーク放電は、55℃を上回る温度では観察された。したがって、種々の実施形態では、動作温度は、アーク放電が生じる温度を下回るように設定される。
【0056】
種々の実施形態では、ヒータ100は、レンズアセンブリ5の動作温度を第1の温度に設定するために使用される。いくつかの実施形態では、第1の温度は、約50℃である。上述のように、これは、レンズアセンブリ5に対して観察されたアーク放電温度閾値を下回る。動作温度は、レンズアセンブリの通常動作の際に印加される。
【0057】
上述のように、加熱は、レンズアセンブリ5の表面上の汚染物質の堆積を阻止する。しかしながら、種々の実施形態では、いくつかの汚染物質は、集積し続ける。これは、上述の図5Aから5Oに例示された。上昇動作温度にもかかわらず、残屑の集積の問題は、一部には、いくつかのMALDIイオン源技法において使用される、高処理量レーザの利用の結果として生じる。特に、これらの高処理量レーザは、毎秒多くの試料を処理し、大量の残屑および汚染物質を産生する。その結果、いくつかの残屑および汚染物質は、より高い動作温度にもかかわらず、イオン光学構成要素上に集積し続ける。
【0058】
いくつかの実施形態では、第1の温度より高い第2の温度が、イオン光学構成要素に周期的に印加され、堆積された汚染物質を除去または駆除する。この第2のより高い温度は、焼成温度と称され得、その印加は、焼成と称されるであろう。いくつかの実施形態では、焼成温度は、約190℃である。種々の他の実施形態では、他の焼成温度が使用される。いくつかの実施形態では、焼成は、ワークフロー停止時に行われる。例えば、これは、イオン光学部品非使用時に、一晩かけて行われ得る。種々の実施形態では、焼成プロセスは、設定閾値を超える性能損失が検出される時、または所定数の試料が分析された後の予定事象として等、必要に応じて、行うことが可能である。いくつかの実施形態では、周期は、実質的に1週間に等しい。他の実施形態では、周期は、実質的に5日に等しい。いくつかの他の実施形態では、周期は、最初と最後の試料との間の経過時間ではなく、処理された試料の数の観点から測定される。焼成時間が、性能損失によって決定される、種々の実施形態では、設定閾値は、ピーク性能の50%である。他の実施形態では、性能閾値は、ピーク性能の50%以外の他の値に設定可能であることを理解されたい。
【0059】
焼成の際、集積された残屑は、イオン光学部品から落ちる。故に、残屑キャッチャが、レンズアセンブリの下に載置され、残屑を収集可能である。次に、焼成プロセスの際に使用するための残屑キャッチャ710を例示する、図7を参照する。残屑キャッチャ710は、レンズアセンブリ5から落ちる残屑を収集するために、焼成プロセスの際、レンズアセンブリ5の下方に配置される。いくつかの実施形態では、残屑キャッチャ710は、オリフィス730を伴う、平面表面720を備える。オリフィス730は、複数のチャネル740を伴う、表面を露出する。種々の実施形態では、残屑キャッチャは、1つ以上の金属から構成される。キャッチャの温度は、種々の金属表面が、凝縮を誘起し、次に、残屑を引きつけるように、十分に低く維持される。これは、残屑キャッチャ上に残屑を維持するのを支援し、残屑が、わずかな空気流によって除去されるのを防止するのに有用であり得る。
【0060】
種々の実施形態では、焼成温度は、アーク放電閾値温度を上回り、したがって、アーク放電は、焼成の際に生じる可能性がある。故に、いくつかの実施形態では、アーク放電の発生を低減させるためのある特徴が、設計される。再び、図1Bを参照する。アーク放電は、抽出レンズ30、絶縁体40、および真空120の共通の縁である、三重会合点115から発生し得る。アーク放電の発生を最小にするために、出願人の教示のいくつかの実施形態では、三重会合点110は、三重会合点110における電界集中を最小にするように成形される。いくつかの実施形態では、これは、抽出電極30が、三重会合点110の全長に及ぶ突起32を有するように成形することによって達成される。
【0061】
いくつかの実施形態では、種々の付加的手段を使用して、アーク放電を最小にする。例えば、いくつかの実施形態では、電極の全縁が平滑にされる。加えて、種々の実施形態では、イオン光学構成要素は、スクラッチを防止するために、釉薬によって塗膜される。特に、いくつかの実施形態では、金属部分は、耐久性を向上させるために、ニッケルで覆われる。スクラッチは、セラミック部分が、保護釉薬で被覆されていない場合、レンズアセンブリ内の金属と併用される硬質セラミック部分から容易に生じ得る。生じるいかなるスクラッチも、電流路を提供し、次に、種々のイオン光学構成要素間に沿面電圧差をもたらし得る。この沿面電圧は、アーク放電発生の増加をもたらし得る。
【0062】
出願人の教示が、種々の実施形態と併せて説明されるが、出願人の教示が、そのような実施形態に限定されることを意図するものではない。対照的に、出願人の教示は、当業者によって理解されるように、種々の代替、修正、および均等物を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析法において使用するためのレンズアセンブリであって、該レンズアセンブリは、
イオンレンズを形成するように組み立てられる複数のイオン光学構成要素であって、概して類似の膨張係数を有する、複数のイオン光学構成要素と、
ヒータであって、該ヒータは、該イオン光学構成要素に動作可能に連結されており、および該イオン光学構成要素を加熱して該イオン光学構成要素上の残屑の集積を減少させる、ヒータと
を備える、レンズアセンブリ。
【請求項2】
前記複数のイオン光学構成要素は、少なくとも1つのレンズ構成要素と、少なくとも1つの絶縁体とを含み、該少なくとも1つのレンズ構成要素および該少なくとも1つの絶縁体は、概して類似の膨張係数を有する、請求項1に記載のレンズアセンブリ。
【請求項3】
筐体をさらに備え、該筐体は、前記複数のイオン光学構成要素に搭載される、請求項2に記載のレンズアセンブリ。
【請求項4】
前記ヒータは、前記筐体に搭載される、請求項3に記載のレンズアセンブリ。
【請求項5】
前記ヒータは、前記イオン光学構成要素に動作可能に連結される複数のヒータである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のレンズアセンブリ。
【請求項6】
前記ヒータは、前記イオン光学構成要素に動作可能に連結される複数のヒータであり、該複数のヒータは、前記筐体の周縁にわたって均等に分布される、請求項3に記載のレンズアセンブリ。
【請求項7】
前記複数のイオン光学構成要素は、抽出レンズをさらに備え、該抽出レンズおよび前記少なくとも1つの絶縁体のうちの少なくとも1つは、共通の縁を画定し、該抽出レンズおよび該絶縁体は、該共通の縁における電界集中を最小にするように成形される、請求項2〜6のいずれかに記載のレンズアセンブリ。
【請求項8】
前記抽出レンズは、前記共通の縁の全長に延在する突起を含む、請求項7に記載のレンズアセンブリ。
【請求項9】
前記抽出レンズは、複数の孔を含み、該孔は、空気流を可能にする、請求項7に記載のレンズアセンブリ。
【請求項10】
前記抽出レンズは、モリブデンから構成される、請求項7〜9のいずれか一項に記載のレンズアセンブリ。
【請求項11】
前記複数のイオン光学構成要素は、
前記抽出レンズに動作可能に連結される焦点レンズと、
該焦点レンズに動作可能に連結される接地レンズと、
該接地レンズに動作可能に連結されるアインツェルレンズと
をさらに備える、請求項7〜10のいずれか一項に記載のレンズアセンブリ。
【請求項12】
前記焦点レンズは、モリブデンから構成される、請求項11に記載のレンズアセンブリ。
【請求項13】
前記絶縁体は、アルミナから構成される、請求項1〜12のいずれか一項に記載のレンズアセンブリ。
【請求項14】
前記レンズアセンブリの少なくとも一部は、釉薬によって塗膜される、請求項1〜13のいずれか一項に記載のレンズアセンブリ。
【請求項15】
質量分析計において使用するためのレンズアセンブリ内のイオン光学構成要素上に蓄積される汚染物質を減少させる方法であって、該方法は、
イオン源からイオンをレンズアセンブリ内において受容することであって、該レンズアセンブリは、イオンレンズを形成するように組み立てられる複数のイオン光学構成要素を含み、該複数のイオン光学構成要素は、概して類似の膨張係数を有する、ことと、
該イオン光学構成要素を第1の温度に加熱することと
を含む、方法。
【請求項16】
前記質量分析計の動作を周期的に停止させ、前記イオン光学構成要素を第2の温度まで加熱することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の温度は、前記第1の温度より高い、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記周期は、感度が閾値を下回るときに、決定される、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記閾値は、初期感度の50%よりも大きい、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記周期は、実質的に1週間に等しい、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記イオン源は、MALDIイオン源である、請求項17〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
マトリクスが収集され、前記動作が停止され、前記イオン光学構成要素が、第2の温度に加熱される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記マトリクスを収集することは、前記源レンズの下に表面を提供することを備える、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記表面は、第3の温度にあり、該第3の温度は、前記第2の温度よりも低い、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第3の温度は、前記表面に凝縮を誘発するほど十分に低い、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記第1の温度は、45℃よりも高い、請求項15〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記第1の温度は、約50℃である、請求項15〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記第2の温度は、約190℃である、請求項16〜27のいずれか一項に記載の方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2012−522335(P2012−522335A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502270(P2012−502270)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/028749
【国際公開番号】WO2010/111552
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】