説明

食品、特に酪農製品で汚れたポリオレフィン系材料の表面を洗浄する方法

【課題】食品で、特に酪農製品で汚れたポリオレフィン系材料の表面を洗浄する方法に関する。より詳細には、食品で、特に酪農製品で汚れた1種または複数のハロゲン化または非ハロゲン化ポリオレフィンをベースとする材料を洗浄する方法であり、特に、環境に対してだけでなく、汚れたポリオレフィン系材料に対しても損耗および断裂を最小にして安全である方法を提供する。
【解決手段】汚れた材料を1から4個の間の炭素原子を有するアルカンスルホン酸をベースとする水性組成物と接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品と接触する装置を洗浄する分野に関する。
【0002】
「洗浄する」という用語は、炭水化物、脂肪、タンパク質、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどの無機ミネラル成分、または例えば、シュウ酸塩、硫酸塩、水酸化物および/または硫化物から、金属、メタロイドもしくはアルカリ土類金属と結合して形成される他種の酒石、ならびに食品加工産業で認められるその他の残渣などの、この食品から発生する汚れの除去を意味する。
【背景技術】
【0003】
酪農製品などの食品で汚れたポリオレフィン系装置を洗浄するために、食品加工産業、得に酪農産業(チーズメーカー等)は、装置(容器、フィルター、型等)を洗浄するために酸系の組成物を使用する。
【0004】
例えば、何度も再使用されるポリプロピレン(PP)製のチーズの型を洗浄するために、チーズ製造産業は、無機酸、例えば、リン酸、硫酸、スルファミン酸および/または有機酸、例えば、クエン酸もしくは酢酸をベースとする洗浄用組成物を使用する。
【0005】
PPもしくはPE、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリテトラフルオロエチレンなどポリオレフィンの、様々な濃度および様々な温度の硫酸、リン酸、硝酸、酢酸またはクエン酸などの酸に対する耐性が調査されてきた。PPのリン酸、硝酸、硫酸、酢酸およびクエン酸に対する化学的耐性に関連するデータが、例えば、ウェブサイトwww.engineeringtoolbox.comに、
【0006】
【表1】

【0007】
または、Schott社製の表題「Corrosion resistance of acid waste drainline piping and vent materials」のパンフレット中に見出される:
【0008】
【表2】

【0009】
しかし、酢酸およびクエン酸などの有機酸は、これらのより弱い酸性度、したがってこれらのより低い洗浄力のために、一般的な方法で使用することはできない。
【0010】
無機酸に関しては、硫酸および/または硝酸をベースとする市販の洗浄用組成物は、継続的な洗浄の過程でポリオレフィン系装置の表面を浸食する傾向を有し、新規な装置でこれを置き換えることが必要になることが判明した。
【0011】
リン酸および/またはスルファミン酸は、良好な洗浄力を有するが、それぞれ、リンおよび窒素を含むという事実を考慮に入れると、排出物中のそれぞれ、リン酸塩および硝酸塩の発生源であり、水路中へのリンおよび窒素排出物の濃度に関する欧州指令がますます厳しくなっているので、環境保護の理由でこれらを置き換える傾向にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】ウェブサイトwww.engineeringtoolbox.com
【非特許文献2】Schott社製の表題「Corrosion resistance of acid waste drainline piping and vent materials」のパンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、通常10から90℃の範囲の温度で一般に使用される、リン酸および/またはスルファミン酸および/または硝酸および/または硫酸をベースとするこうした洗浄用組成物を、環境によりやさしく、同様な温度範囲内で洗浄することが望ましいポリオレフィン系汚染装置に対してもよりやさしい他の技術的解決策で置き換える必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ポリオレフィン系装置の表面を劣化させず、窒素およびリンを含まない水性洗浄用組成物を使用することを特徴とする、食品で、より詳細には酪農製品で汚れたポリオレフィン系装置を洗浄する方法を提案する。
【0015】
本発明による方法で使用される洗浄用組成物は、1から4個の炭素原子を含む1種または複数の短鎖アルカンスルホン酸を特に含み、好ましくはメタンスルホン酸(MSA)を含む。
【0016】
一般に、本発明の組成物は、0.5重量%から100重量%、特に0.5重量%から20重量%、より特に0.5重量%から5重量%のアルカンスルホン酸(複数可)を含む。
【0017】
該組成物は、最終ユーザーによって希釈される、濃厚な混合物の形態で調製されることが多い。
【0018】
この洗浄用組成物は、アルカンスルホン酸(複数可)に加えて、1種または複数の共溶媒、1種または複数の水混和性の共酸(例えば、硫酸、スルファミン酸またはクエン酸)、場合によって1種または複数の増粘剤、場合によって1種または複数の界面活性剤および気泡剤、気泡安定剤等の場合によって様々なその他の添加剤を場合によって含む。
【0019】
本発明による洗浄方法において、ポリオレフィン系装置と洗浄用組成物の接触が、10から90℃の間で、通常約1分から数十分の範囲の時間一般に実施される。次いで、一般にこの装置を水ですすいで、洗浄されたばかりの装置上に残存する洗浄用組成物を除去し、例えば開放空気中で乾燥される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、プロセスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
このようなアルカンスルホン酸系の洗浄用組成物は、例えば、欧州特許第271791B1号明細書中およびカナダ特許第2499592A1号明細書中に記載されており、該特許は、金属物体(銅、アルミニウム、鋼)およびガラスフラスコを洗浄するためにのみ使用される。
【0022】
本発明の目的では、「ポリオレフィン(複数可)」という用語は、α−オレフィンまたはジオレフィンのホモポリマーまたはコポリマー、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−オクテンおよびブタジエン(単独でまたは混合物として)を意味する。
【0023】
可能なコモノマーとして、3から30個の炭素原子を含むα−オレフィンの例には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、1−ドコセン、1−テトラコセン、1−ヘキサコセン、1−オクタコセンおよび1−トリアコンテンが含まれる。これらのα−オレフィンは、単独でまたは2種以上の混合物として使用してもよい。
【0024】
挙げることができるポリオレフィンの例には、
−エチレンホモポリマーおよびコポリマー、特に、ポリエチレンの例として、
−低密度ポリエチレン(LDPE)
−高密度ポリエチレン(HDPE)
−線状低密度ポリエチレン(LLDPE)
−極低密度ポリエチレン(VLDPE)
−メタロセン触媒によって得られたポリエチレン、即ち、ジルコニウムまたはチタン原子およびこの金属に結合された2つの環状アルキル分子から一般に形成されたシングルサイト触媒の存在下、エチレンと、プロピレン、ブテン、ヘキセンまたはオクテンなどのα−オレフィンとの共重合によって得られたポリマー。(より詳細には、メタロセン触媒は、通常、金属に結合された2つのシクロペンタジエン環からなる。これらの触媒は、助触媒または活性化剤としてアルミノオキサン、好ましくはメチルアルミノオキサン(MAO)と共に使用されることが多い。シクロペンタジエンが結合される金属としてハフニウムを使用してもよい。他のメタロセンは、IV A、V AおよびVI A族からの遷移金属を含んでもよい。ランタニド系列の金属を使用してもよい。)
−プロピレンホモポリマーまたはコポリマー。
−エチレン/α−オレフィンコポリマー、例えば、エチレン/プロピレン、EPR(エチレン−プロピレン−ゴムに対する略語)およびエチレン/プロピレン/ジエン(EPDM)。
−スチレン/エチレン−ブテン/スチレン(SEBS)、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)、スチレン/エチレン−プロピレン/スチレン(SEPS)ブロックコポリマー。
−エチレンと、不飽和カルボン酸の塩またはエステル、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキルは、最大24個までの炭素原子を含むこともある。)から選択される少なくとも1つの生成物とのコポリマー
が含まれる。
【0025】
本発明の目的では、「ポリオレフィン」という用語は、ハロゲン化ポリオレフィン、例えば、可塑化または非可塑化、過塩素化または非過塩素化したポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリビニリデンフルオライド(PVDF)、(単独でまたは1種または複数のその他のハロゲン化もしくは非ハロゲン化ポリオレフィンとの混合物として)も意味する。
【実施例】
【0026】
70℃での浸漬によるポリプロピレン成形品のエージング試験
1)浸漬試験
浸漬損耗試験の条件
リン酸またはメタンスルホン酸の1重量%溶液を充填した1Lのびんを、70℃で撹拌された浴中に浸漬し、3cm×3cm×0.5cmの寸法のポリプロピレンPP成形板をこの中に投入し、15日間放置しておく。次いで、この板を取り出し、室温の蒸留水ですすぎ、次いで、開放空気中で4時間乾燥させ、続いて間欠接触式のAFM(原子間力顕微鏡)によって測定を行う(AFMは、調べた試料の表面の顕微鏡画像を得ること、および表面平方粗さの定量的測定値を得ることを可能にする。)。この粗さがより低いと、損耗および劣化がより大きい。
【0027】
AFMによる粗さの測定
各試料の粗さは、コンピュータソフトウエアによって自動的に計算される。2種の粗さ値:平方粗さ(Rq)および平均粗さ(Ra)が存在する。本発明者らは、これらの試料を平方粗さに基づいて比較するように任意に選択する。
【0028】
ナノメートル単位で表される平方粗さ(Rq)は、表面上のZの値(任意の基準に対する、ある点における試料の高さ)の標準偏差に対応する。標準偏差は、以下の関係によって計算される。
【0029】
【数1】

式中、
Ziは、表面上のi点におけるZの値(nm単位)であり、
は、所定の表面上のZの平均値(nm単位)であり、
Nは、この表面で解析された点の数である。
【0030】
したがって、Rqは、表面の微小起伏を表し、この値がより低いほど、より平滑であり、表面がより損耗されている。
【0031】
粗さ測定値RQ(3回の測定値の平均)、即ち、浸漬による損耗は、表1に、最初の粗さに対する時間tにおける粗さの比によって表される。
【0032】
【表3】

【0033】
MSA水溶液により、HPO水溶液に比較して、粗さの低下がより小さく、即ち、PP板の損耗がより少ないことが観察される。
【0034】
2)スプレー試験
スプレー損耗試験の条件
チーズ製造工場において、洗浄液は加圧下でスプレーされる。これらの洗浄条件を最適にシミュレートするために、前記浸漬実験条件より厳しいスプレー誘導エージングシステムを設定する。
【0035】
これを行うために、サーモスタットで温調が維持される油浴に連結されたジャケット付き反応器を使用する。試験成形品を辺長3cm×3cm×0.5cmの板に切断し、次いでこれらの板を反応器の底から約5cmの316Lステンレス鋼格子上に置く。次いで、この試験溶液を遠心ポンプを用いて循環させる。この板は、図1のスキームに従ってこの溶液が振りかけられる。
【0036】
試験洗浄用組成物は、それぞれ、1%メタンスルホン酸または1%リン酸(残りは水である。)を含み、PPと70℃で4または6日間接触される。このスプレー時間後、次いでこの板を取り出し、室温の蒸留水ですすぎ、次いで開放空気中で4時間乾燥させ、次いでAFM測定値を採取する。
【0037】
以下の表2は、スプレーによってこの洗浄溶液に接触されたポリプロピレン成形試料上で採取された粗さ測定値をまとめる。これらの測定値は、最初の粗さに対する時間tにおける粗さの比によって表される。
【0038】
【表4】

【0039】
浸漬によってであろうと、スプレーによってであろうと、MSA系組成物は、リン酸系組成物より、ポリプロピレン成形品の損耗が少ないことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1から4個の炭素原子を含む1種または複数の短鎖アルカンスルホン酸を含み、好ましくはメタンスルホン酸(MSA)を含む水性洗浄用組成物を使用することを特徴とする、食品で、より詳細には酪農製品で汚れたポリオレフィン系装置を洗浄する方法。
【請求項2】
洗浄用組成物が、0.5重量%から100重量%、好ましくは0.5重量%から20重量%、有利には0.5重量%から5重量%のアルカンスルホン酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が、1種または複数の共溶媒、1種または複数の水混和性の共酸、場合によって1種または複数の増粘剤、場合によって1種または複数の界面活性剤、および場合によって、気泡剤、気泡安定剤等の様々なその他の添加剤を場合によって含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ポリオレフィン系装置が、ポリプロピレン(PP)を含み、好ましくは本質的にPPからなることを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の方法。
【請求項5】
汚れたポリオレフィン系装置と洗浄用組成物とを接触させるステップが、10から90℃の間で約1分から数十分の範囲の時間実施され、続いて、好ましくは水で1回または複数回すすぎ、さらに乾燥させることを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−14769(P2013−14769A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−180901(P2012−180901)
【出願日】平成24年8月17日(2012.8.17)
【分割の表示】特願2010−508882(P2010−508882)の分割
【原出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】