説明

食品の保水機能改質剤

【課題】冷凍食品の離水防止を含み、食品の保水機能改善方法を提供する。
【解決手段】イオン化カルシウムを含む水溶性ミネラル成分からなり、冷凍食品又は生鮮食料品に含まれる食物繊維成分に対しイオン化カルシウムを含む水溶性ミネラル成分を浸透させ、食物繊維で形成される保水構造を増強する食品改質剤が提供される。食品の離水防止は少なくともイオン化カルシウム10〜5000ppmを含む希薄水溶液に畜肉、魚肉、海鮮物、野菜などを浸漬することにより原料の持つ保水構造を強化し、冷凍解凍時の離水を抑制することができる。食物繊維を含まないまたは少ない食品原料に対し水溶性食物繊維成分とともに水溶性ミネラル成分を浸透させ、解凍及び調理後の嵩歩留まりを向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍食品の保水機能改質剤及びそれを用いる保水機能改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍食品等の離水防止剤として種々の添加剤が提案されている。第1は豆腐、茶碗蒸し、厚焼き卵、練り製品、コロッケ、春巻き、しゅうまい、餃子、こんにゃくに対し魚類の皮や骨から得たゼラチン粉末の添加である(特許文献1)。第2に豆腐厚揚げ類に対し卵白及び/又は乳清蛋白の添加である(特許文献2)。第3に水分の多い海苔の佃煮に対しこんにゃく粉、水飴及び澱粉を合わせて調理した乾燥こんにゃく加工品の添加が提案されている(特許文献3)。また、第4にフライ類、点心類、畜肉加工品、魚肉加工品、大豆加工品に対し膨化穀類の添加が提案され(特許文献4)、第5に惣菜又は具材に対し高粘度のグアーガムやキサンタンガムに代え、低粘性ガラクトキシログルカンの添加が提案されている(特許文献5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−164655号公報
【特許文献2】特開平11−225699号公報
【特許文献3】特開2004−215646号公報
【特許文献4】特開2006−6236号公報
【特許文献5】特開2008−141972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のいずれもが有機物の添加が一般的であって、食品衛生上無害であるとしても食品の味に影響を与え、食品の栄養価に懸念を与える。
【0005】
そこで、本発明者らは、鋭意研究の結果、食品が保有するまたは保有させる食物繊維成分に対しイオン化カルシウムに代表される水溶性ミネラル成分を組み合わせると、食物繊維の固有の保水構造の機能が増強されるためか、水溶性ミネラル成分の希薄水溶液(調味液を含む)に畜肉、魚肉、海鮮物、野菜などの原料を浸漬するか又は原料表面に噴霧することによって、ミネラル分が原料組織に浸透し、原料組織の保水構造から離水することを防止できることを見出した。また、食物繊維を補強する場合は水溶性食物繊維を、水溶性ミネラル成分とともに添加するのが内部への浸透性の向上に優れるので好ましいことを見出した。更に、水溶性食物繊維の構成する保水構造は重曹等の膨化助剤を用いて形成させると保水構造の保水機能量を増大させるためか、解凍時または調理後の嵩歩留まりに優れ、水溶性ミネラルの保水機能はキレート効果により向上することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は原料の保有する食物繊維成分に対し、少なくともイオン化カルシウムを含む水溶性ミネラル成分を配合してなり、食物繊維の形成する保水構造の機能を増強させることを特徴とする食品の保水機能改質剤にある。保水構造は食物繊維によって形成される。その保水構造に対して水溶性ミネラル成分により保水機能が増強される。その配合比率は原料の食物繊維成分に対し水溶性ミネラル成分を10対1から1対1が適当である。立体的に形成される保水構造に対し、その機能が増強されるからであり、10対1より比率が大きくなると保水構造における増強機能が減退し、1対1より比率が小さいと保水構造における機能の向上が見られなくなるからである。イオン化ミネラル成分の内イオン化カルシウムの浸透力が最も優れているが、天然カルシウム成分である卵殻、貝殻、豚骨、牛骨、鶏がらなどの天然カルシウムを原料としてこれをイオン化するのが食品の保水構造の改質には好ましい。
【0007】
本発明の第1の保水機能改質剤は、通常、原料の食物繊維成分に対し、少なくともイオン化カルシウムを含む水溶性ミネラル成分を10:1から1対1の重量比率で付与するように、中性希薄水溶液として調製される。調味料を含む希薄水溶液としてもよい。かかる希薄水溶液は、イオン化カルシウムを10〜5000ppm、好ましくは100〜1000ppmを含み、冷凍処理前又は調理処理前の被対象食品を浸漬または冷凍処理前又は調理処理前の被対象食品に噴霧して用いられる。10ppm以下では浸漬又は噴霧処理後の保水機能の増強効果が十分でなく、5000ppmを超えても浸漬又は噴霧処理後の保水機能の増強効果が向上しないので、イオン化カルシウム換算で10ppmから5000ppm、好ましくは100〜1000ppmの範囲の希薄水溶液として用いるのが好ましい。ここで、イオン化カルシウム換算とはイオン化カルシウム以外のミネラル成分の保水機能付与能力はイオン化ミネラルに及ばず、その80%以下であるからその能力を考慮してイオン化カルシウムに換算して10ppmから5000ppmの範囲の希薄水溶液として用いることを意味する。
本発明の第2の保水機能改質剤は原料に対し食物繊維を添加し、その食物繊維の形成する保水構造の機能を強化するように水溶性食物繊維と水溶性ミネラル成分で構成することができる。その場合も食物繊維成分に対し、少なくともイオン化カルシウムを含む水溶性ミネラル成分を10:1から1対1の重量比率で付与するように、中性希薄水溶液として調製される。調味料を含む希薄水溶液としてもよい。かかる希薄水溶液は、イオン化カルシウムを10〜5000ppm、好ましくは100〜1000ppmを含み、冷凍処理前の被対象食品を浸漬または冷凍処理前の被対象食品に噴霧して用いられる。
本発明の第1及び第2の保水機能改質剤はその機能を阻害しない範囲で第三成分を含んでよく、例えば、重曹等の膨化剤を含ませ、食物繊維の形成する保水構造の保水機能増大化を図るように改善することができる。また、ミネラル成分の機能をキレート剤の配合に増強するように改善することができる。
【0008】
水溶性ミネラル成分は卵殻、貝殻、豚骨、牛骨、鶏がらなどの天然カルシウムを原料として調製するのが好ましいが、水溶性を付与するため、酸処理してイオン化し、これを乾燥固化して得るのが好ましい。具体的には、卵殻、貝殻、豚骨、牛骨、鶏がらなどの天然カルシウムを微粉砕し、発酵処理後未解離のカルシウム分を好ましくは食酢などで酸処理して溶解させ、加熱又は減圧蒸留して固形分を回収し、この回収物を加熱して有機物を蒸散させ、固化して調製するのが好ましい。
【0009】
本発明の保水機能改質剤は原料素材の食物繊維の持つ固有の保水機能を改質するものであるが、原料素材中の食物繊維が少ない時は適宜水溶性ミネラル成分とともに添加されると、原料素材の保水機能を増強させる。その成分としては、ペクチン、グアーガム(グアー豆酵素分解物)、アガロース又は寒天、グルコマンナン又はこんにゃく粉末、ポリデキストロースを含む人工食物繊維、アルギン酸ナトリウム又は海藻粉末、コンブ粉末、イヌリン又はキク科植物の根茎粉末、カラギーナンからなる群から選ばれる1種又は2種以上が使用される。特にグルコマンナン又はこんにゃく粉末を主成分とし、適宜その他の水溶性食物繊維の保水構造形成能力を考慮して二成分以上を混合して用いることができる。フライドポテト及びフライドオニオンなどはそのもの自体が食物繊維成分を含有するから、水溶性ミネラル成分のみを噴霧することにより本発明の求める保水構造に機能を持たせる効果があるので、それを考慮して本発明の食品改質剤の組成を決定するのがよい。また、食物繊維を添加して保水構造を増強するときは同時に膨化助剤を適宜添加するのが所望の膨張した保水構造を形成でき、解凍及び調理後の嵩歩留まりを向上させる。水溶性ミネラル成分の保水機能増強効果はミョウバン等のキレート助剤を併用することにより向上させることができる。したがって、本発明の添加剤の組成は食物繊維による保水構造を水溶性ミネラル成分により機能増強を基本とするが第三成分の添加により保水構造の膨化調整、水溶性ミネラル成分のキレート助剤の添加による効果の増強を図るように組成調整を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(食品改質剤原液の調製)
蒸留水1000ccに対し、以下の方法でイオン化した水溶性ミネラル成分を0.1重量%から1重量%を配合し、これを水道水等で200ないし300倍希釈して第1の保水機能改質用水溶液を調整して用いる。
【0011】
(水溶性ミネラル粉末の調製)
貝殻及び卵殻の200ミクロン以下に粉砕し、発酵に必要な澱粉と重量比5:1の割合で配合し、攪拌し、重量比3倍水を加水し、麹菌を加え一定の温度(35℃〜40℃)で5〜7日間発酵させる。発酵終了後当該液に重量比最大25%の酢酸或いはその他の有機酸を加えて未解離のカルシウム等のミネラル分を解離させる。全量溶解、解離した液を加熱或いは減圧蒸留して固形分を回収する。回収した固形分を更に1200℃で加熱して有機物を蒸散させ、純粋なミネラル成分を回収する。回収した固形ミネラルに純水を加水し、用途に応じた濃度のミネラル液を調製する。卵殻の場合次の栄養成分を有している。
栄養成分(100g中)
エネルギー 55.0Kcal 蛋白質 0.2g
糖質 0.0g 炭水化物 0.5g
ナトリウム 170mg、カルシウム 2600mg、マグネシウム 230mg
カリウム 69mg、リン 2.5mg
鉄 0.2mg、銅 50 μg、亜鉛 125μg、マンガン 75μg、珪素 10ppm
ヨウ素、イオウ、セレン 0mg

【0012】
(中性希薄水溶液の調製)
イオン化カルシウムを含む水溶性ミネラル成分を含む水溶液に1対1から1対10の重量比率で水溶性食物繊維成分を配合してなる第2の保水機能改質剤を含む純水に溶解し、中性希薄水溶液とする。水溶性ミネラル成分はイオン化カルシウム換算で10〜5000ppm、好ましくは100から1000ppmの濃度として用いる。仕上がり原料の解凍時または調理後の嵩歩留まりを向上させるためには保水構造自体を膨化させるのが望ましく、膨化剤例えば、重曹の配合量は所望の膨化度合により決定される。水溶性ミネラル成分の保水機能改善が必要な場合はキレート助剤例えばミョウバンが併用される場合があり、ミネラル成分の濃度を考慮して配合される場合がある。水溶性食物繊維、水溶性ミネラル以外にこれらの組み合わせによる構造及び機能を害しない範囲で第三成分を添加するようにしてもよい。
【0013】
(使用方法)
冷凍処理前又は調理処理前の被対象食品を上記希薄水溶液(調味料を含む場合もある)に浸漬するかまたは冷凍処理前又は調理処理前の対象食品に噴霧するようにして用いる。。
【0014】
(原料)
水溶性食物繊維成分としては、ペクチン、グアーガム(グアー豆酵素分解物)、アガロース又は寒天、グルコマンナン又はこんにゃく粉末、ポリデキストロースを含む人工食物繊維、アルギン酸ナトリウム又は海藻粉末、コンブ粉末、イヌリン又はキク科植物の根茎粉末、カラギーナンからなる群から選ばれる1種又は二種以上を用いる。特に、水溶性食物繊維成分がグルコマンナン又はこんにゃく粉末が好ましい。
【0015】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明における「離水防止」とは、冷凍した畜肉、海産物、生野菜の切り口から染み出してくる水の離水を防止することを意味する。
【0017】
本発明における「食品」とは、剥き海老、ホタテ貝、かきなどの貝類、各種魚切り身の魚類、鶏肉、豚肉、牛肉等の畜肉類、生野菜、加工した惣菜、或いは生野菜を加工した具材を含む点心類を意味し、組織に保有するまたは保有させる保水構造に水分を保有したものをいう。
【0018】
本明細書における「生野菜」としては、例えば、レタス、キュウリ、キャベツ、大根、白菜、玉ねぎ、ゴボウ、ホウレン草などが挙げられる。
本明細書における「惣菜」としては、例えば、ほうれん草のお浸しや白和え、切り干し大根の煮付け、ひじきの煮付け、きんぴらごぼうなどが挙げられる。
【0019】
本発明における「水溶性ミネラル成分」とは、卵殻、貝殻、鶏がら等の天然カルシウム成分を化学的方法、物理的方法または酵素的方法により調製した水溶性のものをいう。「水溶性ミネラル成分を化学的方法により調製する」とは、水溶性ミネラル成分を酢酸等の酸処理によりイオン化することをいう。ここで酸処理に用いる酸としては、無機酸または有機酸のいずれでもよいが、有機酸であるクエン酸、コハク酸、酒石酸、酢酸またはプロピオン酸などを用いるのが好ましい。
【0020】
「水溶性ミネラル成分を物理的方法により調製する」とは、水溶性ミネラル成分を熱処理、高圧ホモジナイズ処理、超音波処理または機械的せん断処理により調製することをいう。
【0021】
「水溶性ミネラル成分を酵素的方法により調製する」とは、水溶性ミネラル成分を酢酸発酵により酵素的に調製することをいう。
【0022】
低粘性水溶性ミネラル成分は、上記のいずれの方法でも調製することができるが、酸による化学的方法または酵素的方法により調製するのが好ましい。特に発酵処理後、食品用有機酸による化学的方法により調製するのが好ましい。
【0023】
酸による化学的方法で調製される低粘性水溶性ミネラル成分は、適切な水溶性ミネラル成分の濃度、用いる酸の種類、溶液のpH、反応温度、反応時間を選択して水溶性ミネラル成分を溶解して水溶液を得ることができる。
【0024】
水溶性ミネラル成分の調製時に用いる水溶性ミネラル成分の量は、溶液の全量に対して水溶性ミネラル成分が10〜5000ppmであり、好ましくは100〜1000ppmである。溶液のpHの値としては7前後が好ましい。通常蒸留水又は水道水1000ccに水溶性ミネラル粉末1〜10gを添加して溶解し、これを200倍〜300倍希釈して第1保水機能改善液とする。
他方、蒸留水又は水道水1000ccに水溶性ミネラル粉末1〜10g及びグルコマンナン10gを添加して溶解し、これを200倍〜300倍希釈して第2保水機能改善液とする。
【0025】
本発明に用いる「水溶性ミネラル成分」は市販で入手できるものでもよい。
【0026】
本発明において「水溶性ミネラル成分」は、具材の食物繊維全量に対して1重量%〜10重量%を浸透させるのがよく、具材の食物繊維が少ない時は適宜水溶性食物繊維とともに使用するのがよく、「水溶性ミネラル成分」に対し等量から十倍量を配合する。
【実施例】
【0027】
本発明の内容を以下の実施例及び比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、処方中、特に記載のない限り単位は重量部を意味する。
【0028】
(サラダの製造)
カット野菜(キャベツ、ニンジン、キュウリ)に第1保水機能改善液を振りかけてよく混ぜ、これを冷蔵庫に入れて2時間放置した。シャキシャキとした生野菜本来の食感及び食味が維持されていた。
実施例2:(ほうれん草のお浸しの製造)
【0029】
ほうれん草のお浸しを製造した。ほうれん草を第1及び第2保水機能改善液に10〜30分浸漬後水洗い後茹で、水気を切って、長さ3cmくらいに切り揃える。次いで第1保水改善液をを振りかけてよく混ぜた後、更に砂糖と醤油を加えて混ぜ合わせ、冷蔵庫で2時間放置した。
【0030】
実施例2は、2時間放置後も離水が認められず、盛付けた時と同じ状態であった。一方、第1保水改善液を振りかけない場合(比較例)は、離水が生じて容器の底に溜まっていた。実施例2のお浸しの食感及び食味は、比較例のお浸しの食感及び食味と差異がなかった。
【0031】
実施例3:(餃子の製造)
白菜をみじん切りにし、食塩を少々振り掛けてしばらく置き、ふきんで包んで水分を絞る。ねぎ、しょうが、にんにくはみじん切りにして、豚ひき肉と絞った白菜を混ぜ、第2保水機能改善液を調味液に加え(水溶性ミネラル1000ppm、グルコマンナン5000ppm)に調整し、これを加えてよく混ぜた。具材を餃子の皮にのせて包んだ。容器に並べて冷蔵庫に3日間保存し、状態を観察すると共に、これらをフライパンで焼いて試食し、食味及び食感を確認した。実施例3は、3日保存後も具材からの離水が認められず、皮が軟らかくなることがなかった。また、フライパンで焼いて試食した場合、好ましい食感であった。
【0032】
実施例4(鶏肉の調味処理)
鶏肉調味液に第1保水機能改善液(水溶性ミネラル1重量%液)又は第2保水機能改善液(水溶性ミネラル1重量%液及び水溶性グルコマンナン2重量%)を添加して水溶性ミネラル100ppm入り鶏肉調味液と水溶性ミネラル100ppm及びグルコマンナン200ppm入り鶏肉調味液とを調製し、これにぶつ切り生鶏肉を半時間付け込んでこれを冷凍保存した。他方、保水機能改善液を入れないで調製した調味液に半時間付け込んでこれを冷凍保存したぶつ切り生鶏肉とを解凍後フライパンで加熱調理した。
解凍時の離水抑制機能は第2改善剤、第1改善剤の順で優れ、調理後の調味液の浸透性にも優れていた。鶏肉の調理収縮がやや見られる程度で調理鶏肉は肉汁を多く含んだものとなった。それに対し、本発明の改善剤を入れない場合は解凍後の離水があるだけでなく、調理後の調味液の浸透性も悪く、鶏肉の調理収縮が進んだ。
上記第2改善液は水溶性食物繊維成分を0.1〜5重量%に水溶性ミネラル成分を0.1〜1重量%を添加して食物繊維の内部浸透性の良い改善液を調製したが、その際、膨化剤として重曹を1〜5重量%添加すると、食物繊維の形成する保水構造の保水機能を増大させることができる。この第3の改善液を用いて水溶性ミネラル100ppm及びグルコマンナン200ppm入り鶏肉調味液を調製すると、通常の鶏肉を2〜3時間浸漬すると嵩歩留りが150(1.5倍)となり、冷凍後解凍しても離水がなく、嵩歩留り150を保持することができ、油揚調理後も嵩歩留り150を保持していた。通常、リン酸液1昼夜浸漬処理で嵩歩留りを120にしても冷凍後解凍すると離水があり、嵩歩留りは100〜110に減少し、油揚調理後は嵩歩留り100以下となる。
かかる結果から、水溶性ミネラルは水溶性食物繊維の鶏肉の内部への浸透力を高め、内部の保水機能を向上させ、解凍、調理時の離水を抑制する。また、膨化剤の併用により解凍、調理後の高い嵩歩留りを保持することができる。かかる効果は貝類、魚切り身、牛肉、豚肉、羊肉の冷凍保存後の解凍処理、調理後の嵩歩留まりの向上に同様の効果を確認できる。
【0033】
実施例5(フライドポテトの調理)
短冊切りしたポテト表面に第1保水機能改善液(水溶性ミネラル0.5重量%液)又は第2保水機能改善液(水溶性ミネラル0.5重量%液及び水溶性グルコマンナン1重量%)を200倍希釈して噴霧し、15分程度放置して冷凍保存した。他方、保水機能改善液を噴霧しないで短冊切りしたポテトをそのまま冷凍保存した。両者を解凍すると、後者(保水機能改善なし)のポテト表面に離水が見られたが前者(保水機能改善あり)には殆ど離水が見られなかった。
これらの生ポテトを油揚げ処理すると、後者(保水機能改善なし)の場合の油吸収を100とすると、第1保水機能改善液の場合は70、第2保水機能改善液の場合は50まで減少した。。
かかる結果から、水溶性ミネラルは内部の保水機能を高めるだけでなく、内部の食物繊維と合体して油の吸収を抑制する被膜を形成すると考えられる。
【0034】
実施例6(冷凍ホタテの加熱調理)
冷凍ホタテを解凍後第2保水機能改善液(水溶性ミネラル0.5重量%液及び水溶性グルコマンナン1重量%)を200倍希釈してここに2〜3時間浸漬した後5分間ボイルして放冷し、その重量変化を観察した。
他方、比較として保水機能改善処理しない冷凍ホタテを解凍後5分間ボイルして放冷した。
本発明 解凍208⇒浸漬248⇒ボイル240⇒歩留まり120%
比較 解凍198⇒ ボイル114⇒歩留まり57.8%
上記の結果、歩留まり優位性は62.2%にも及び、本発明の保水機能改善剤の効果の優秀性が明確になる。上記第2保水機能改善液(水溶性ミネラル0.5重量%液及び水溶性グルコマンナン1重量%)に1〜5重量%の重曹を加えた第3改善液を調製し、これを200倍希釈してここに2〜3時間浸漬した後5分間ボイルして放冷し、その重量変化を観察した。歩留まり150%であった。
冷凍あわびの場合は解凍してボイル処理すると45〜50%の歩留りであるが、解凍して本発明の第3改善液を200倍希釈してここに2〜3時間浸漬した後5分間ボイルして放冷しても歩留りは90%前後であって、歩留まり優位性は62.2%にも及ぶ。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る保水機能改善剤は、離水抑制効果が優れているので、生野菜、惣菜、具材、刺身、冷凍エビのドリップを有効に防止できる。また、低粘性で、浸透性に優れるため、調味液の浸透性及び組織離脱を抑制し、調理収縮を抑え、食味及び食感を維持することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の食物繊維成分に対し、少なくともイオン化カルシウムを含む水溶性ミネラル成分をイオン化カルシウム換算で10〜5000ppmを含む水溶液を噴霧又は浸漬することを特徴とする食品の保水機能改質方法。
【請求項2】
原料の食物繊維成分に対し、少なくともイオン化カルシウムを含む水溶性ミネラル成分を浸透させ、食物繊維で形成する保水構造に水溶性ミネラル成分を合体させ、保水機能を増強させることを特徴とする食品の保水機能改質剤。
【請求項3】
水溶性ミネラル成分が卵殻、貝殻、豚骨、牛骨、鶏がらなどの天然カルシウムを原料としてイオン化処理して得られる請求項2記載の食品の保水機能改質剤。
【請求項4】
天然カルシウムを原料とするイオン化処理が卵殻、貝殻、豚骨、牛骨、鶏がらなどの天然カルシウム材を微粉砕し、発酵処理後未解離のカルシウム分を酸処理して溶解させ、加熱又は減圧蒸留して固形分を回収し、この回収物を加熱して有機物を蒸散させ、固化してミネラル粉末を得る処理である請求項3記載の食品の保水機能改質剤。
【請求項5】
水溶性ミネラル成分に対し水溶性食物繊維成分として、ペクチン、グアーガム(グアー豆酵素分解物)、アガロース又は寒天、グルコマンナン又はこんにゃく粉末、ポリデキストロースを含む人工食物繊維、アルギン酸ナトリウム又は海藻粉末、コンブ粉末、イヌリン又はキク科植物の根茎粉末、カラギーナンからなる群から選ばれる1種又は二種以上を重量比で1対1から1対10を添加してなる請求項1記載の食品の保水機能改質剤。
【請求項6】
第2成分として水溶性食物繊維成分とともに第3成分として膨化剤を含む請求項5記載の食品の保水機能改質剤。



【公開番号】特開2013−66441(P2013−66441A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208238(P2011−208238)
【出願日】平成23年9月23日(2011.9.23)
【出願人】(511231610)株式会社渡邉洋行 (2)
【Fターム(参考)】