説明

食品の処理方法

微生物の個体数を制御することを含むプロセスにおいて、微生物の標的株に特異的であり、望ましくない遺伝子を実質的に含まない溶解性ウイルスが利用可能である。本ウイルスは、宿主域突然変異体または「h−突然変異体」を含んでいてもよい。ウイルスを製造する一つの方法は、標的株に特異的なウイルスの存在下で、微生物の標的株のウイルス抵抗性変異体増殖することを含む。h−突然変異ウイルスだけが、増殖すると予想される。また、微生物の野生型ウイルス抵抗性、および、ウイルス抵抗性変異体も開示され、同様に、このような変異体を製造する方法も開示される。標的株微生物の制御方法は、標的株微生物の個体数の制御が望ましい処理部位にウイルスを導入すること、または、微生物の存在が望ましい処理部位に、微生物のウイルス抵抗性変異体を導入することを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
優先権の主張
本願は、2005年1月10日付けで出願された係属中の米国特許出願第11/033,022号の出願日の利益を請求し、その開示は、その全体がこの参考により本明細書に包含される。
【0002】
発明の分野
本発明は、有害な微生物の増殖を制御し、予防するウイルス、および、このようなウイルスの使用方法に関する。また本発明は、ウイルス攻撃から有用な微生物を保護することにも関する。具体的には、本発明のウイルスは、毒性因子、毒素、抗生物質耐性に関する遺伝子、およびその他の望ましくない遺伝子が欠失しており、さらに、標的微生物の野生型ウイルス抵抗性株に特異的な宿主域(h−突然変異)ウイルスを含む。より具体的には、本発明のウイルスは溶解性であり、従って、動物または植物に感染する有害な微生物を破壊することによって、それらのさらなる増殖を制御し、予防する。また、このようなウイルスを用いて、野生型とh−突然変異ウイルスに対して耐性である有益微生物株を開発し、選択することもできる。
【0003】
背景
ウイルスは、細菌、菌類、藻類および原生動物のような微生物の個体数を変化させることが知られている。自然界において、1日あたり全ての細菌の三分の一もの細菌が、ウイルスによって攻撃されていると推定されている。ウイルスによって微生物が破壊されると、その環境において微生物の個体数に変動が起こるが、これは、微生物の個体数の「サイクリング」と称される。例えば、微生物の個体数は、ウイルスが宿主微生物または「宿主」と称される感受性の高い微生物と接触して感染するまで、濃度を増加させる。微生物がウイルスに感染すると、利用可能な感受性の高い宿主微生物の数が減少し、それに応じて、ウイルスの数は増加する。宿主に感染しない場合、多くのウイルスは、太陽からの紫外光や環境に存在する酵素のような自然界の要因に曝露されて最終的には破壊される。従って、ウイルスの数は低減し、一方、その結果として宿主微生物の個体数は増加する。このような自然界における微生物の個体数のサイクリングは共通している。細菌以外の微生物を攻撃するウイルスを検出して研究することは若干難しいが、当業者は、このような微生物に感染し破壊することができるウイルスによって、あらゆる微生物の個体数(例えば、藻類、リケッチア、菌類、マイコプラズマ、原生動物)がそれと類似した方法で制御され、サイクリングすることを認識している。
【0004】
細菌ウイルス(また、「バクテリオファージ」または「ファージ」とも称される)は、偏在的であり、宿主を培養し単離に利用できるならば、あらゆる細菌群から単離することができる。ファージとは、動物(ヒトを含む)、植物、土壌および水中に、またはその表面にに見出される天然に存在する物体である。また、藻類、カビ、マイコプラズマ、原生動物、リケッチア、酵母およびその他の微生物に感染するウイルスも知られている。
【0005】
自然環境におけるウイルスの濃度を決定するための方法(また、「定量化」とも称される)として、二つの方法が一般的に用いられている。第一に、電子顕微鏡法を用いて、既定のサイズのサンプル中のウイルス粒子を可視化して、数える方法が挙げられる。第二に、生存可能なウイルスを培養するか、または増殖させて数えてもよい。培養および計数による典型的な定量化方法は、一般的にプラーク分析法と称される技術を含む。プラーク分析法では、定量しようとするウイルスを既定濃度の宿主細胞と混合し、液体(例えば緩衝液、無機塩の希釈剤または液体培地)に移す。次に、この混合物を半固体の増殖培地に移す。宿主細胞の濃度は、細胞が増殖するにつれて半固体の増殖培地中で一般的に「ローン(芝生状:lawn)」と称される密集した層を形成するのに十分な程度の高濃度でなければならない。ファージ−宿主混合物のインキュベート中に、生存可能なウイルスの多くが、宿主細胞に感染する。その後、感染した宿主細胞中で新しいウイルスが生産され、宿主細胞は、新しいウイルスがそれらから放出できるように最終的に破壊されるか、または、「溶菌する」。次に、新しいウイルスは、宿主細胞に隣接する細胞を攻撃し、最終的には溶菌させ、そこからさらに新しいウイルスが放出される。この感染の蔓延は、宿主細胞が代謝する限り継続し、その結果、芝生状の宿主細胞中に一般的に「プラーク」と称される透明な領域の形成が生じる。元の混合物に存在するウイルスの数は、芝生状の宿主細胞中に形成されるプラークの数を数えることによって決定される。従って、この方法で定量されたウイルスは、プラーク形成単位(「PFU」)と称される。
【0006】
宿主細胞を培養し、PFUを数えることによって、環境サンプル中の様々なタイプのウイルスを全て定量するために、サンプル中の異なるウイルスそれぞれの宿主細胞を培養しなければならない。所定の環境サンプルに含まれる微生物のうち多くの型が未知である。既知の微生物のうちいくつかは、培養することができない。それゆえに、培養および計数によって定量する場合、所定の環境中に存在するウイルスの数は、小さく見積もられる可能性がある。1グラムの土には、10〜10個もの微生物が含まれると推定されるにもかかわらず、直接プレートを数えること、選択的な単離、顕微鏡、および、土壌から単離されたトータルDNAの再結合キネティクスのような定量化技術では、これらの微生物のうち極めてわずかな割合しか培養できないことを示唆している。従って、電子顕微鏡による直接的な計数法の開発および応用が、様々な環境に存在するウイルスの数、加えて、ウイルスが微生物の個体数の減少において有する影響についてより優れた理解を提供している。
【0007】
ファージは、水中で定量されている。Bergh等(1989),「High abundance of viruses found in aquatic environments」(Nature 340:467)は、自然の汚染されていないノルウェーの湖中の細菌ウイルスの総濃度を決定するために、電子顕微鏡法を用いている。その水中に、約2.5×10ファージ/ml以下のファージ濃度が検出された。細菌数は、約1.5×10細胞/mlもの量であった。これらのファージおよび細菌の相対濃度から、細菌の個体数のうち三分の一もの細菌が、1日当たり1個またはそれ以上のファージの攻撃を受けてると推定される。同様に、Demuth等(1993)「Direct electron microscopy study on the morphological diversity of bacteriophage populations in Lake Plussee」(Appl.Environ.Microbiol.59:3378)は、ドイツの汚水の影響を受けていない湖中のファージレベルが、湖水中、約10ファージ/mlもの高さであることを測定している。水サンプル中に11種もの形態学的に異なるファージが同定された。
【0008】
ファージは、土壌中でも定量されている。Reanny,D.C.およびMarsh S.C.N.(1973)「The ecology of viruses attacking Bacillus stearothermophilus in soil」(Soil.Biol.Biochem.5:399)で報告されているように、宿主細胞としてバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)を用いて培養し計数する方法を用いたところ、B.ステアロサーモフィラスに感染する可能性があるファージが平均して土壌1グラム中に約4.0×10PFUに存在する。しかしながら、このReannyおよびMarshの研究では一種の宿主に対して一種のファージしか定量されない。従って、B.ステアロサーモフィラスと共にその他の細菌の宿主が試験されれば、または、電子顕微鏡法による定量化技術が用いられれば、恐らくファージ数はかなり高くなったであろう。
【0009】
また、ファージは食品にも存在する。Kennedy等(1986)「Distribution of coliphages in various foods」(J.Food Protect.49:944)によれば、12個の試験された食品のうち11個において、大腸菌(Escherichia coli)、および、大腸菌を攻撃するファージ(「大腸菌ファージ」)が検出され、これらはいずれも多くの小売市場で入手可能である。例えば、Kennedy等が試験した10種の牛ひき肉サンプル全てが、大腸菌ファージで汚染されていた。また、大腸菌ファージは、新鮮なニワトリ、新鮮な豚肉、新鮮なカキ、新鮮なマッシュルーム、レタス、チキンポットパイ、ビスケット生地、デリ・ローフ(deli loaf)、デリカテッセンのローストターキー、および、パック詰めのローストチキンのサンプル中にも存在する。同様に、Gautier等(1995)「Occurrence of Propionibacterium freudenreichii bacteriophages in Swiss cheese」(Appl.Environ.Microbiol.61:2572)では、スイスチーズ中に、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)のファージが約7×10PFU/gの濃度で検出されている。
【0010】
環境中には、望ましくない微生物と有益微生物の両方が存在する。ウイルスは、有益微生物と望ましくない微生物の両方に感染し、破壊する。このような環境において、有益微生物の典型的な例は、植物の成長を促進する土壌微生物や有毒物質を分解する微生物である。望ましくない微生物としては、病原微生物や、水の華や魚類の死滅を引き起こす藻類が挙げられる。
【0011】
天然に存在する微生物の個体数加えて、ここ数十年、多くの病院で抗生物質に耐性の病気を引き起こす微生物が流行しており、このような微生物は制御が困難であることで悪名が高い。過去50年以上にわたって広範な抗生物質が使用されたために、抗生物質耐性菌株が選択されてきた。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、チフス菌(Salmonella typhi)、軟性下疳菌(Hemophilus ducreyi)、インフルエンザ菌(Hemophilus injluenzae)、ヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、様々な赤痢菌属、腸内細菌科およびシュードモナス科の種類、およびその他の細菌種が、慣習的に用いられている多くの抗生物質に対して耐性である。入院中に起こった感染(一般的に院内感染と称される)が、1年あたり推定で60,000人の死亡の原因であり、治療を必要とするが、そのコストは、近年では毎年約450億ドルと推定されている。
【0012】
疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)の統計によれば、院内感染の大半は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、エンテロコッカス属、肺炎球菌、および、シュードモナス属によって引き起こされることが示される。加えて、1996年の世界保健機関(WHO)の年報によれば、「微生物の薬物耐性株は、結核、コレラおよび肺炎にとって一般的な治療が効かない」と報告している。
【0013】
その結果として、世界的に、1940年代から、すなわち細菌感染を処理するために抗生物質を最初に用いた直後から、抗生物質耐性細菌によって引き起こされる感染の出現が、病院内で、局所的なコミュニティー内で、および、危険な状態にある個体群において徐々に増加している。例えば、1941年には、世界中で黄色ブドウ球菌の実質的に全ての株が、ペニシリンGに対して高い感受性を有するようになった。しかしながら、1944年までには、黄色ブドウ球菌のいくつかの株が、ペニシリンを分解するペニシリナーゼ(また、一般的にはβ−ラクタマーゼとも称される)を生産できるようになった。1996年には、黄色ブドウ球菌のいくつかの株は、様々な形態のペニシリンに対して耐性を有するだけでなく、黄色ブドウ球菌(「スタフ(staph)」)感染の治療に慣習的に用いられていた7種のその他の抗生物質のうち6種に対しても耐性を有するようになった。
【0014】
1)1988年以降、このような耐性が、グラム陽性菌、例えばバンコマイシン耐性E.フェカーリスまたはE.フェシウム(E.faedum)(「VREF」)で同定されたことから、バンコマイシン耐性突然変異体の選択の可能性が重要視されてきた;また、健康管理の専門家は、VREFを死に至らせる抗生物質耐性の組み合わせ、急速な蔓延、および、VREF関連の感染に罹った患者の高い死亡率のために、VREFにも大きな関心を寄せている。
【0015】
2)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(「MRSA」)の感染は、公衆衛生に対する特に重篤な脅威となる。MRSAは、一般的に、様々なパターンの多剤耐性を示す(すなわち、複数のタイプの抗生物質に対して耐性を有する)。多くのMRSA株は、抗生物質バンコマイシンに対してのみ高い感受性を有する。
【0016】
3)抗生物質耐性の菌株への感染を治療するための新規の代替となる薬物が開発、発見されてきたにもかかわらず、多くの細菌がこのような新規の代替となる薬物に対する耐性を発達させてきた。例えば、ある種のMRSA株は、抗生物質シプロフロキサシンに対する耐性を迅速に発達させた。その上、1997年には、29日間のバンコマイシン処理に耐えた感染体から黄色ブドウ球菌株が単離された。この黄色ブドウ球菌株によってもたらされる脅威を正しくとらえるために、この黄色ブドウ球菌株は、CDCによって中間の耐性(完全な耐性より若干不足した耐性)を有すると分類され、医療上の非常事態と認識された。バンコマイシンに対する耐性を有するMRSA株が発生した場合、待機手術を含む全ての手術に関する死亡率は増加するだろうと報告されている。
【0017】
4)2001年には、ユタ州オグデンのマッケイ・ディー病院(McKay−Dee Hospital)で3人の心臓病患者からMRSAが単離されたために、緊急手術以外の全ての手術に対して、同病院の心臓外科手術室が閉鎖された。その後、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)が、ミシガン州(2002年)、ペンシルベニア州(2003年)、および、ニューヨーク州(2004年)の入院患者から単離された。
【0018】
同様に、既知の肺炎連鎖球菌株のほぼ半分が、肺炎連鎖球菌感染の初期の一次的な治療として慣習的に用いられているペニシリンに対して耐性である。いくつかの肺炎連鎖球菌株は、肺炎連鎖球菌感染の二次的な治療として慣習的に用いられているセファロスポリン抗生物質に対して耐性である。ペニシリンおよびセファロスポリン耐性肺炎連鎖球菌株は、バンコマイシンで処理してもよい。しかしながら、バンコマイシンが多くの患者に対して有する重度の副作用と、肺炎連鎖球菌のバンコマイシン耐性株が出現する可能性のために、バンコマイシンの使用は望ましくない。
【0019】
抗生物質耐性の問題は、微生物が遺伝情報(以降、簡易化にするために「遺伝子」または「DNA」と称する)を移行させることができることから、さらに悪化している。細菌のような微生物が、DNA、さらには全遺伝子さえも移行させる方法としては、接合、形質転換および形質導入が挙げられる。様々な遺伝子、例えば細菌に抗生物質に対する耐性を付与する遺伝子などを、第一微生物またはドナー微生物から、第二微生物またはレシピエント微生物に移行させることができる。抗生物質耐性に関する遺伝子を移行させることに加えて、微生物は、一般的に感染した宿主にとって有害な毒素を微生物に生産させることができる遺伝子を移行させることができる。また、微生物が感染が可能な宿主および宿主細胞のタイプを決定する毒性因子も、ある微生物からその他の微生物へ移行させることができる。
【0020】
接合の際に、プラスミドまたは染色体DNAは、小さい中空の線維状の付属器官でありレシピエント微生物の細胞膜に結合して貫通する特化した繊毛または「性繊毛」によってドナー微生物からレシピエント微生物に直接移される。接合とは、「ドナー」微生物の抗生物質耐性をコードする遺伝子がレシピエント微生物に受け渡され、レシピエントが抗生物質耐性微生物に形質転換するプロセスである。
【0021】
形質転換とは、DNAがドナー微生物によって環境に放出され、レシピエント微生物によって取り込まれるDNA移入のことである。形質転換実験を滅菌した土壌で行い、その土壌に、差異的に標識した、またはタグを付したDNAを有するバチルス・ズブチリス(Bacilus subtilis)の2種の親株を植え付けた。両方の親株のマーカーを含む細菌を単離した。しかしながら、最良の実験室条件下でも、形質転換は比較的非効率的であり、高濃度のドナーDNAおよびレシピエント細胞を必要とする。多くの微生物において形質転換が可能な条件は、自然環境または制御されていない環境において通常存在しない。従って、形質転換は、一般的に、実験上の現象とみなされている。
【0022】
形質導入は、ファージのようなウイルスによる宿主遺伝子のレシピエント微生物への移入である。ファージには、毒性または溶解性ファージ、および、溶原性ファージの2種がある。宿主細胞が毒性ファージに感染している場合、新しいファージ(一般的に子孫と称される)は宿主細胞中で増殖し、その後、子孫が放出されるように宿主細胞は溶菌するか、または破壊される。それに対して、溶原性ファージは、一般的に、それらの宿主を破壊することなく宿主細胞に感染する。宿主細胞が感染した後、溶原性ファージは、通常、それらの遺伝情報を宿主細胞のDNAに取り込ませる。その後、溶原性ファージに感染した宿主細胞の多くを、紫外光、突然変異誘発物質などの方法で溶菌サイクルに入るように誘導することができ、ここで、溶原性ファージの遺伝情報は子孫を生産し、続いて宿主細胞を溶菌させる。
【0023】
宿主DNAの形質導入は、「特殊形質導入」または「普遍形質導入」のいずれかであり得る。特殊形質導入では、溶原性ファージのゲノムは、宿主であるドナー微生物の染色体に統合され、宿主は溶解しない。宿主染色体に挿入されたファージのゲノムは、「プロウイルス」または「プロファージ」と称され、宿主細胞とその染色体が複製するときに受動的に複製される。プロウイルスを有する細菌は、溶原性であると言われている。特定の現象、例えば宿主微生物やプロウイルスが紫外光照射されることによって、プロウイルスが毒性ファージとして作用する可能性があり、それによってプロウイルスは、細菌の染色体から切り出される。このようにして切り出されたプロウイルスは、それらを有する細菌の遺伝子または「ドナー」遺伝子を伴う場合がある。新しい宿主またはレシピエント微生物に感染すると、これらの「ドナー」遺伝子は、発現される可能性もあり、それにより、レシピエント微生物の表現型または物理的な遺伝子発現が変化する可能性がある。
【0024】
溶原性ファージ、場合によっては数種の毒性ファージは、普遍形質導入を行う可能性がある。ウイルス複製中に、ファージゲノムよりむしろドナー微生物のDNA断片(これは、「ドナー」遺伝子と称される)が、ファージ頭部の内部に封入される可能性がある。宿主微生物のDNAだけを含むファージは、導入粒子(transducing particles)と称される。しかしながら、典型的なファージは、宿主または「ドナー」微生物の染色体の約1パーセントしか包含できない。従って、1つの導入粒子によって1個より多くの遺伝子を同時に移入させることは、見込みが低い。導入粒子にはファージゲノムが含まれないため、導入粒子は、レシピエント微生物に感染しても子孫を生産することができない。その代わりに、ドナー遺伝子は、レシピエント微生物の染色体に包含されなければならない。レシピエント微生物に感染した導入粒子がたった1つである場合、それらは生存すると予想され、その表現型は、統合されたドナー遺伝子によって変化する可能性がある。レシピエント微生物あたりの導入粒子の重複感染度(「MOI」)が高い場合、その細胞は恐らく破壊されると予想されることを念頭に置くことが極めて重要であり、この現象は、一般的に「外からの溶菌」と称される。
【0025】
一方の微生物から他方の微生物への遺伝情報の移入は、有益な作用を有する場合もあるし、または、望ましくない作用を有する場合もある。例えば、有益な遺伝情報の移入はChakrabarty,A.M.(1996)「Microbial degradation of toxic chemicals:Evolutionary insights and practical considerations」(ASM News 62:130)で開示されている。栄養素として一種の産業性汚染物質を含むケモスタットに微生物が豊富な土壌を導入した。1年未満で、その土壌から、汚染物質を分解するのに必要な全ての酵素を獲得したシュードモナス属をから単離した。
【0026】
同様に、望ましくない特質を示す遺伝子も移行される。このような有害な遺伝子移入の例としては、抗生物質に対する耐性を有する遺伝子や、志賀毒素、ジフテリア毒素、およびボツリヌス毒素のような毒素産生をコードする遺伝子の移入が挙げられる。毒素に関連する病気、例えば1980年の毒素性ショック症候群、1994年の「肉食性の連鎖球菌(flesh−eating streptococci)」、および、加熱が不十分なハンバーガー中の大腸菌O157:H7によって引き起こされる疾患などの大発生は、溶原性ファージによる毒素遺伝子の移入が発端で起こったものである。また、さらにその他の流行株であるコレラ菌(Vibrio cholerae)O139が生産したコレラ毒素をコードする遺伝子も、溶原性ファージによって伝達されたことが報告されている。
【0027】
ウイルスは、様々なタイプの細菌感染の治療のために単離されて使用されている。1983年3月8日にKozloff等に発行された米国特許第4,375,734号(「Kozloff」)は、氷核形成を促進する細菌であるエルウィニア・ヘルビコーラ(Erwinia herbicola)によって引き起こされる霜害から植物を保護するための野生型ファージErh1の使用を開示している。Erh1を用いたトウモロコシ植物の処理により、氷核形成によるダメージの発生率が約20%〜25%減少した。また、Kozloff等は、Erh1は、培養したE.ヘルビコーラの約90%を死滅させたことを開示するが、これは、残存した10%うちいくつかが、野生型Erh1に対して耐性を有することを示す。
【0028】
本発明者等の一人であるJacksonに1989年5月9日付けで発行された米国特許第4,828,999号(「Jackson」)は、様々な植物細菌のファージ耐性株を攻撃する宿主域または「h−突然変異体」ファージ、および、細菌が感染した植物を処理する方法を開示している。しかしながら、Jacksonで開示されているh−突然変異体ファージ、このようなファージを含む組成物および処理方法は、植物細菌に関するファージ、および、このような細菌に感染した植物の処理に限定される。
【0029】
同様に、ヒトにおける細菌性疾患の問題に取り組み、細菌増殖を別の方法で制御し、予防するためにいくつかの方策がとられてきた。1995年10月12日にWO95/27043として公開された特許出願第08/222,956号(以降、「956号出願」とする)は、突然変異ファージ株を細菌に感染した宿主に導入することによるファージ療法の一種を開示している。この突然変異ファージは、細菌に感染した宿主の防御系、特に細網内皮系の器官による分解に対して耐性であると考えられ、このようなファージは、宿主が感染している有害な細菌を攻撃すると考えられる。従って、956号出願のファージは、インビボでの抗菌剤として作用すると考えられ、単独で、または、抗生物質治療の補助剤として使用可能である。
【0030】
956号出願で開示されたファージは、望ましくない細菌を攻撃する目的で細菌に感染した宿主に導入されるが、これらのファージは、溶解性ウイルスだけでなく、ドナーの細菌のDNAの断片をレシピエント細菌に移入させることができる溶原性ウイルスも含む。さらに、956号出願は、そこで開示されたファージが、ファージ耐性菌株を攻撃することができ、それによってさらなるファージ耐性菌株の増殖を予防したり、または別の方法で制御したりすることができることをまったく開示していない。
【0031】
1915年にTwort、1917年にd’Herelleによって細菌を溶菌させる物質としてファージが発見された直後に、それらを細菌感染を治療するために使用すること(一般的にファージ療法と称される)に関する調査が始まった。植物および動物、例えば哺乳動物における多くの病気の細菌に対して、様々なファージが活性である。ヒトの病気を引き起こす細菌、例えば炭疽、気管支炎、下痢、猩紅熱、発疹チフス、コレラ、ジフテリア、淋病、パラチフス、腺ペスト、骨髄炎、およびその他の細菌によって引き起こされる病気を引き起こす細菌に対して活性なファージが既知である。当業界における多くの人々が、特にコレラの制御において最初のうちはファージ療法の有効性を確信していたが、多くのファージがインビボでの処理で無効であった。このように効化がないことは、非経口的投与した場合、宿主の免疫系によってファージが不活性化されるためであり、経口投与した場合、胃液によって変性し、ファージ耐性の細菌の突然変異体が迅速に出現するためだと考えられていた。
【0032】
細菌性疾患の制御における抗生物質の導入および使用と、それらの初期の有効性のために、治療剤としてファージを用いた調査のほとんどが停止した。近年、ファージ療法は、抗生物質耐性細菌やある種の日和見病原体、特にブドウ球菌、加えてシュードモナス属、腸内細菌(大腸菌、クレブシエラ属、プロテウス属、プロビデンシア属、セラチア属)によって引き起こされる院内感染(すなわち化膿性感染および敗血症)、傷害(細菌感染した創傷および熱傷、術後感染、骨髄炎)、皮膚および皮下組織の疾患(せつ腫症、膿瘍、急性リンパ管炎、褥瘡性潰瘍)、尿路感染(慢性膀胱炎、および、腎盂腎炎)、呼吸器疾患(副鼻腔炎、粘液膿性気管支炎、胸膜炎)およびその他の病気、例えば、腸病原性大腸菌によって引き起こされる乳児下痢症を治療するのにうまく利用されている(7,8)。細菌感染の治療において、ファージは、液体、錠剤およびカプセルの形態で経口投与してもよいし、エアロゾルによって局所投与してもよいし、直接的に適用してもよいし、静脈内投与してもよい。ファージ療法は、単独で行われ、さらに抗生物質と組み合わせても行われている。また、ファージは消毒剤としてとしても用いられており、例えば、手術室、外科手術用機器、および、患者やメディカルケアの専門家の傷害を消毒することなどの用途が挙げられる。
【0033】
しかしながら、細菌などの微生物はファージ耐性株を発生させる可能性がある。従って、ファージ療法(または細菌ではない微生物に対するウイルス治療)は、治療しようとする感染した宿主中で、または、その他のあらゆる治療環境で、微生物の標的株のウイルス抵抗性株が生存し続ける可能性があるという観点で、あまり望ましくない。
【0034】
逆に言えば、多くの有益微生物の個体数が、このような微生物の有益な特性を妨害すると予想されるウイルスの脅威に晒されている。微生物によって促進される典型的な有益なプロセスとしては、工業的な発酵(例えば食品製造における発酵)、有毒化学物質、汚染物質およびその他の望ましくない物質のバイオレメディエーション、貧鉱からの金属のリーチング、頁岩からの石油および関連生成物の抽出、および、薬物製造が挙げられる。多くの有益なプロセスの効率は、これらのプロセスを促進する微生物を攻撃すると予想される多くのウイルスの偏在的な性質によって低下する。
【0035】
従って、増加の一途をたどる微生物の抗菌薬耐性やウイルス抵抗性の出現を解決するための、微生物の個体数を制御、低減または除去する代替法の必要性がある。また、望ましくない微生物を選択して破壊するが、同時に有益微生物を存続させる治療の必要性もある。また、ウイルス抵抗性の有益微生物を提供する必要性もある。
【0036】
発明の開示
これまで説明したようにウイルスは微生物の個体数を制御するために用いられてきたが、多くの微生物は、容易にウイルスによる感染に対する耐性を発達させることができる。その上、溶原性ウイルスは必ずしも感染した宿主微生物中で増殖して溶菌させるとは限らないため、微生物の個体数を制御することにおける溶原性ウイルスの使用は効果がないことが多い。
【0037】
本明細書において「野生型」は、野生または自然界から単離された、最も高頻度で観察される表現型または物理的な特徴を提示するウイルスと定義され、これらは一般的に、「突然変異体」に対して「正常」と称される。「野生型ウイルス」は、正常な宿主域の毒性を示す。「野生型の微生物」は、特定の微生物の標的株に特異的な野生型ウイルスによる感染に耐性を有さない。
【0038】
また、「宿主域突然変異ウイルス」は、「h−突然変異ウイルス」とも称され、これらは、本明細書において、正常な宿主域よりも広範な毒性を示すウイルスと定義される。h−突然変異ウイルスは、野生型の微生物と、微生物の標的株のウイルス抵抗性変異体の両方に感染する。
【0039】
従って、本発明は、不要な遺伝子を有さず、さらに、1種またはそれ以上の微生物の標的株に特異的な1種またはそれ以上のウイルスを含む。このようなウイルスは溶解性ウイルスであり、微生物の標的株の個体数を制御、低減または除去すること等を含むプロセスで使用可能である。好ましくは、本発明に係るウイルスまたはウイルス混合物は、1種またはそれ以上のh−突然変異ウイルスを含む。また、1種またはそれ以上のh−突然変異ウイルス、および、1種またはそれ以上の野生型ウイルスの混合物も本発明の範囲内である。野生型およびh−突然変異ウイルスは、1種またはそれ以上のそれらのウイルス抵抗性変異体を含む標的株の表面にある受容体を「認識」して、これらのウイルス抵抗性変異体に感染する。本発明のウイルスは溶解性ウイルスを含むため、感染した宿主細胞は、ウイルスによって溶菌すると予想される。標的株の野生型、加えて多種多様な標的株のウイルス抵抗性変異体に感染することができるウイルスが好ましい。
【0040】
本発明のh−突然変異ウイルスは、微生物の標的株の野生型を単離して、この野生型を、標的株に特異的な野生型ウイルスの存在下で増殖させることによって生産することができる。野生型ウイルスの存在下では、標的株のウイルス抵抗性変異体が増殖すると予想される。標的株のウイルス抵抗性変異体を単離し、次にh−突然変異ウイルスを生産するために野生型ウイルスの存在下で増殖させる。続いて、標的株のh−突然変異ウイルス抵抗性変異体は、標的株のウイルス抵抗性変異体の生産と類似した方法で得ることができる。続いて、これらのh−突然変異ウイルス抵抗性変異体は、標的株の1種またはそれ以上のウイルス抵抗性変異体に感染すると予想される第二のh−突然変異体を生産するためにh−突然変異ウイルスの存在下で増殖させてもよく、それにより、それらの前駆体(predecessor)よりも広範な宿主域を有するこれらのh−突然変異体が得られる。
【0041】
本発明はまた、微生物のウイルス抵抗性およびh−突然変異ウイルス抵抗性変異体も含み、これらは、上述した通りに、さらに下記で説明されるようにして生産される。
続いて、本発明のウイルスは、標的株微生物の個体数を制御、低減または除去する方法で用いることもできる。このような方法は、望ましくない標的株微生物が存在する環境に、望ましくない遺伝子を実質的に欠失している溶解性ウイルスを導入することを含む。このようなウイルスに標的株微生物が晒されると、微生物は感染し、最終的に溶菌する。好ましくはh−突然変異ウイルスは、h−突然変異ウイルスの濃度に応じて標的株の野生型およびウイルス抵抗性変異体に感染するため、本発明の方法において好ましくh−突然変異ウイルスを使用ことによって、ウイルスが導入される環境において有効に標的株微生物を制御、低減または除去することが可能である。
【0042】
その他の形態において、微生物の個体数を制御する方法は、微生物の存在が望ましい環境に、微生物のウイルス抵抗性またはh−突然変異ウイルス抵抗性変異体を導入することを含む。このようなウイルス抵抗性およびh−突然変異ウイルス抵抗性微生物の導入は、微生物が有益なプロセスを促進するような状況において望ましい。
【0043】
発明を実施するための最良の形態
本発明は、好ましくは、微生物のウイルス抵抗性株に感染して破壊する溶解性ウイルスの宿主域突然変異体を含み、これは、h−突然変異毒性ウイルス、または、単にh−突然変異ウイルスとも称される。また、本発明は、野生型の溶解性または毒性ウイルスを含んでいてもよく、これは、簡易化にするために集合的に「ウイルス」と称される。本ウイルスは、好ましくは、望ましくない遺伝子を実質的に含まない。本発明はまた、h−突然変異ウイルス、または、h−突然変異体と望ましくない遺伝子を欠失した野生型ウイルスとの混合物の製造方法も含み、ここで、望ましくない遺伝子とは、例えば多細胞生物に感染する能力、感染した宿主微生物に望ましくない遺伝子を移入させる能力、および、溶解性の状態から溶原性の状態に変換する能力を有するウイルスを生じさせる遺伝子であり;本発明はまた、h−突然変異ウイルス、または、h−突然変異体と野生型ウイルスの混合物を用いて、微生物の個体数の増加を減少させる、除去する、または別の方法で制御する方法も含み;および、本発明はまた、h−突然変異ウイルス、または、h−突然変異体と野生型ウイルスの混合物を利用して微生物のウイルス抵抗性およびh−突然変異ウイルス抵抗性株を生産する方法も含む。また、本発明の方法によって生産する微生物のウイルス抵抗性、および、h−突然変異ウイルス抵抗性株も本発明の範囲内である。
【0044】
h-突然変異ウイルス
本発明のh−突然変異ウイルスは、溶解性または毒性ウイルスであり、これらは宿主微生物に感染して、宿主微生物の様々な成分を利用して複製し、子孫を構築し、宿主である標的株微生物を破壊する。好ましくは、本発明のh−突然変異ウイルスは、これらに限定されないが、多細胞生物に感染する能力、感染した宿主微生物に望ましくない遺伝子を移入させる能力、および、溶解性の状態から溶原性の状態に変換する能力などの望ましくない特徴を欠失している。
【0045】
このようなウイルスは、標的株微生物の外表面上にある受容体または受容体部位を「認識する」ことができる外殻タンパク質、または、「キャプシド」を含み、このような受容体のいくつかは、改変または「突然変異」されており、それにより野生型ウイルスに対する耐性、または、1種またはそれ以上のh−突然変異ウイルスに対する耐性を有する標的株微生物が付与される。h−突然変異ウイルスの標的株微生物の突然変異した受容体を認識する能力によって、h−突然変異ウイルスが、標的株微生物のウイルス抵抗性変異株に感染することが可能になる。
【0046】
本発明のウイルスの標的株微生物にある受容体を「認識する」能力によって、本発明のウイルスは標的株に特異的に感染し、同種の微生物のその他の非標的株、その他の非標的微生物、または、その他の非標的細胞には感染しない。従って、本発明のウイルスは、標的微生物に対するウイルスの特異性がない抗菌性の薬物ほど、有益微生物の活性を阻害しない。
【0047】
以下でより十分に説明されるように、本発明に係る治療方法で用いられる場合、本発明のウイルスは、標的株微生物を破壊すると増殖するため、ウイルス投与を含む治療において、繰り返し投与する必要性を減少させることができる。それに対して、抗菌療法は、治療中に抗菌剤濃度が減少するため繰り返しの適用を必要とする。
【0048】
標的株微生物の個体数が、ウイルスが感染するための標的株が存在しなくなるまで減少するか、または、除去された後、ウイルスは不活性化され、最終的には分解されると予想される。それらが分解された後、ウイルスの様々な成分は、その他の生物に栄養素として利用される可能性がある。
【0049】
本発明のh−突然変異ウイルスの製造方法は、ウイルス抵抗性微生物を単離して、そのウイルス抵抗性微生物を野生型ウイルスの存在下で増殖させ、h−突然変異ウイルスを生産して単離することを含む。
【0050】
微生物の標的株は、当業界既知の技術によって単離される。続いて、標的株は、既知の方法によって、同定してもよいし、または別の方法で解析してもよい。次に、標的株のウイルス抵抗性種は、標的株の成長または増殖を促進する培地中で標的株を培養することによって単離される。好ましくは、標的株微生物は、滅菌した半固体の培地(例えば寒天)で増殖させる。標的株は、標的株に感染することができる野生型ウイルスの存在下で増殖させる。野生型ウイルスの濃度は、望ましいMOIに依存する。好ましくは、標的株微生物の野生型ウイルスに対する相対濃度は、MOIが約1の場合、約1対1である。いくつかの標的株微生物が、それらの野生型ウイルスによる感染に耐性を付与する能力、または別の方法でウイルス感染から生き残る能力のために、野生型ウイルスの存在下で増殖すると予想される。このような微生物は野生型ウイルス抵抗性微生物と称され、寒天上で「コロニー」として増殖すると予想される。従って、野生型ウイルス抵抗性微生物は、標的株に感染するか、またはそれらに特異的であると予想される野生型ウイルスの存在下で標的株微生物を培養することによって、コロニーの形態で単離することができる。
【0051】
続いて、寒天上の「コロニー」から得た野生型ウイルス抵抗性微生物サンプルを、高濃度の野生型ウイルスを含む液体または半固体増殖培地にに移すことによって、h−突然変異ウイルスを得て、単離してもよい。従って、MOIは1より大きいことが好ましい。野生型ウイルス抵抗性微生物の濃度は、好ましくは、密集した層(また、半固体増殖培地において一般的に「ローン」とも称される)の増殖を容易にするような濃度と予想される。このようなウイルスの多くは野生型ウイルス抵抗性微生物には作用を有さないと予想されるが、いくつかの突然変異体は、ウイルス抵抗性微生物に感染して溶菌させると予想される。このようなウイルスがh−突然変異体であり、一般的に「プラーク」と称されるローンの実質的に透明な領域内で単離される。
【0052】
h−突然変異ウイルスが感染すると予想される標的株のウイルス抵抗性微生物の範囲を広げるために、ウイルス抵抗性標的株微生物を単離して、さらにh−突然変異ウイルスを製造し、選択し、単離する方法を繰り返してもよい。このような方法は、野生型ウイルスではなくh−突然変異ウイルスの存在下でウイルス抵抗性微生物を増殖させることによって行ってもよい。あるいは、この方法を数種の異なる回数で行うことによって異なる宿主域を有する様々なh−突然変異体を生産し、単離してもよい。
【0053】
望ましくない遺伝子に関するスクリーニング
ウイルスを単離した後、望ましくない遺伝子(例えば、毒性因子、毒素および抗生物質耐性に関する遺伝子)の存在または非存在を、従来のアガロースゲル電気泳動、パルスフィールドゲル電気泳動、または、核酸ハイブリダイゼーションプローブの使用のような当業界で既知の比較技術によって決定することもできる。このような技術としては、既知の望ましくない遺伝子(例えば、多細胞生物に感染する能力、感染した宿主微生物に望ましくない遺伝子を移入させる能力、および、溶解性の状態から溶原性の状態に変換する能力を有するウイルスを付与する遺伝子)を含むDNAの相補的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅した鎖を用いた、あらゆる望ましくない遺伝子のハイブリダイゼーションが挙げられる。続いて、ハイブリッドを、放射線分析のような既知の技術で検出してもよい。
【0054】
このような比較スクリーニングの例として、本発明のウイルスは溶解性ウイルスしか含まないので、溶原性ウイルスは、本発明のウイルスの遺伝子を、溶原性の特徴を有するウイルスを付与することがわかっている遺伝子と比較することによってスクリーニングされると予想される。続いて、溶原性のh−突然変異ウイルスを、本発明のウイルス混合物、および、本発明の治療方法における使用から排除してもよい。
【0055】
類似の様式で、溶原性の野生型ウイルスをスクリーニングして、本発明のウイルスおよびウイルス混合物から排除してもよい。これまでわかっているように、溶原性ウイルスは、望ましくない特徴を宿主の微生物の標的株に移行させることができる。その上、溶原性ウイルスは、標的株微生物を容易に破壊することはない。従って、微生物の個体数を制御、低減または除去することにおける溶原性ウイルスの使用は、これらの目的のための溶解性ウイルスの使用ほど望ましくはない。
【0056】
前述の方法で生産したウイルス抵抗性微生物は、類似の様式で、抗生物質耐性のようなその他の望ましくない特徴に関してスクリーニングしてもよい。
望ましくない遺伝子に関してスクリーニングした後、続いて、本発明の望ましくない特徴を欠失しているウイルスを増殖させ、本発明のウイルス混合物に利用してもよいし、本発明の方法に従って利用してもよい。
【0057】
h−突然変異体、および、野生型ウイルスの増殖
本発明のウイルスを増殖させる方法は、それらの1種またはそれ以上のウイルス抵抗性変異株を含む多量の標的株微生物を増殖することを含む。次に、望ましいウイルスまたはウイルス群、例えばそれぞれ望ましいウイルスの1種またはそれ以上のh−突然変異株、または、1種またはそれ以上の野生株を、微生物の標的株の存在下に望ましいMOIで導入する。典型的な増殖チャンバーは、栄養素を継続的に導入することができ、さらにそこから微生物および/またはウイルスを継続的に取り出すことができるバイオリアクターを含む。また、ウイルスまたはウイルス群は、大きいフラスコ中で滅菌した液体増殖培地で増殖させてもよいし、または、当業界既知のその他の方法で増殖させてもよい。
【0058】
h−突然変異体ウイルス、野生型ウイルスおよびウイルス抵抗性微生物の濃縮および保存
ウイルスまたはウイルス混合物は、化学的な沈殿や限外ろ過のような当業界既知の方法によって濃縮してもよい。その他のh−突然変異ウイルスの濃縮方法としては、「キャリアー」と称される感染しているが溶菌していない標的株宿主微生物を単離して濃縮することが挙げられる。キャリアーの使用が望ましく、これはなぜなら、1つのキャリアーが、そこでウイルスが増殖することによって最終的に溶菌し、溶菌中に多数のウイルスを放出させると予想されるためである。加えて、様々な従来の方法によってウイルスを濃縮するよりも、遠心分離のような従来の方法によってキャリアー微生物を濃縮するほうが簡単である。ウイルスで処理する部位に毒性の標的株を導入する危険がわずかであるか、そのような危険がまったく生じないように、キャリアーは標的株微生物の非病原性変異株であることが好ましい。
【0059】
ウイルス、および、ウイルスのキャリアー微生物は、本発明の方法で使用する前に、当業界で知られているように(例えば、約4℃での冷却、凍結または凍結乾燥法によって)保存してもよい。あるいは、本発明のウイルス、および、本発明のウイルスを含むキャリアーは、本発明の方法に従って用いてもよいし、および/または、それらの濃縮物を用いてもよい。
【0060】
本発明のウイルス抵抗性微生物は、ウイルスを濃縮し保存する方法と類似した方法で濃縮および/または保存してもよい。
続いて、保存された、または保存されていないウイルスおよびウイルス混合物、ならびにウイルス抵抗性微生物は、本発明の微生物の個体数を制御するプロセスに従って利用することができ、その例を以下で詳細に示す。
【0061】
微生物の個体数を制御する方法
A.微生物の個体数を制御するための毒性ウイルスの使用
本発明の方法の第一の実施態様は、標的株微生物の個体数を制御するために、本発明のウイルスまたはウイルス混合物を用いることを含む。この第一の実施態様は、標的株微生物を溶菌させるために、処理部位に本発明のウイルスを導入することを含む。
【0062】
生肉および鳥肉のような食品または食品群は、典型的な処理部位である。一般的に生肉および鳥肉の処理部位に存在する望ましくない微生物としては、これらに限定されないが、サルモネラ属、カンピロバクター属、および、エシェリキア属(例えば大腸菌)が挙げられる。典型的な大腸菌の標的株は、O157:H7と命名された悪名高い菌株である。生肉および鳥肉の処理部位に、望ましくない微生物に感染して溶菌させると予想されるウイルスを導入する例としては、これらに限定されないが、生きた動物の食物や水にウイルスを導入すること、このような動物の生活空間にウイルスを適用すること、動物の死体、肉、ならびに食肉加工工場、保存用コンテナーや輸送用コンテナー、マーケットおよび家屋内の外面にウイルスを塗布したりその他の方法で導入することが挙げられる。肉および鳥肉にウイルスを適用すると、望ましくない微生物の個体数が低減するか、または、なくなり、それによりこのような微生物によって引き起こされる病気の発生率や食品の腐敗が低減するか、または、起こらなくなると考えられる。同様に、植物およびその他の食品を本発明のウイルスで処理して、そこでの望ましくない微生物の個体数の増加を制御してもよい。
【0063】
ウイルスを導入することができるその他の典型的な処理部位としては、生きた動物(例えば哺乳動物、例えばヒト)、または、「被検者」が挙げられる。本発明のウイルスは、微生物の標的株によって引き起こされる病気の防止(すなわち予防)、または、処理(すなわち治療)に用いることもできる。治療および予防はいずれも、既知の方法で被検者にウイルスを導入することを含む。本ウイルスは、好ましくは、既知の経腸の投薬形態で経口投与される。また、本ウイルスは、エアロゾル、液体、クリーム、ローション、石鹸、粉末、および軟膏のような様々な既知の形態で局所投与してもよい。また、本発明のウイルスは、当業界既知の方法に従って、例えばWO95/27043(その開示は、その全体を参照により本発明に含める)で開示された方法に従って投与してもよい。
【0064】
本発明のウイルスは、微生物感染の治療で用いられる際に、単独で導入してもよいし、または、本明細書で「抗菌剤」または「バクテリオシン」として述べられるような1種またはそれ以上の抗生物質と組み合わせて導入してもよい。用語「バクテリオシン」は、細菌によって合成された抗菌剤に関して造られた用語であり、バクテリオシンは、標的微生物上の特異的な受容体を必要とする。様々な抗生物質およびその他の抗菌剤が当業界既知である(例えば、Handbook of Antimicrobial Therapy,The Medical Letter(1984)を参照、その開示は、その全体を参照により本発明に含める)。本発明のウイルスは、細菌の抗生物質耐性株の感染を予防し、治療することにおいて特に有用である。
【0065】
また、本発明のウイルスは、対象物から微生物の標的株を殺菌するのに用いてもよい。殺菌の際は、対象物に本ウイルスを含む組成物を塗布し、本ウイルスを標的株に感染させて溶菌させる。この方法で殺菌が可能な典型的な対象物としては、これらに限定されないが、医療施設の感染領域、医療施設中の手術室や治療室、および、健康管理の専門家が使用する器具が挙げられる。
【0066】
また、微生物によって引き起こされる植物の病気も、この方法の第一の実施態様に従って処置することが可能である。植物の病気を引き起こす、または有害な微生物、例えば氷核を形成する微生物の標的株に感染すると予想されるウイルスを、感染または汚染された植物、実生、種もしくは土壌、または、それらを支持するその他の物体に、噴霧するか、または、植物に供給する水に導入することによって適用してもよい。植物の治療の例として、マメ科植物の種を、土壌に存在するリゾビウム属の望ましくない株に感染し溶菌させるがリゾビウム属の有益な株には感染しないと予想されるウイルスまたはウイルス混合物で処置してもよい。本ウイルス(好ましくはh−突然変異ウイルス)により、望ましくないリゾビウム属の菌株が低減または除去され、それと同時に、望ましいリゾビウム属の菌株が植物の成長において植物に利益を提供すると予想される。
【0067】
また、本発明の方法の第一の実施態様は、環境に有害な微生物の個体数を制御するために用いてもよい。一例として、本発明のウイルスは、水の本体から酸素を枯渇させる微生物の個体数を減少させ、その水中の酸素濃度を増加させるのに用いてもよい。池の水、河川の水または海水に流れる汚水および肥料からの栄養素によって、水の華が形成される可能性がある。最終的には藻類が死滅し、続いて様々な微生物によって分解されて、それらが増殖し、さらに死んだ藻類の分解が続く。このような微生物が増殖する間に、水から酸素が枯渇するため、そこに生息するほとんどのその他の生物の増殖を阻害する。特定の領域で水の華を形成する可能性がある特定の藻類種に感染して溶菌させるウイルスを導入することによって、このような藻類の微生物の個体数が制御され、従って水の華の形成も制御されると予想され、それによって、水中の酸素濃度が高まり、それ以前に酸素が枯渇した処理部位にその他の種の生命が再度導かれることを促進する。
【0068】
この方法のその他の実施例として、本発明のウイルスを用いて、採炭に関連する環境問題である「酸性鉱山排水」の発生を低減させることもできる。チオバチルス・フェルオキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)は、硫化鉄を酸化する細菌種であり、これは、酸性鉱山排水の主な原因である。酸性鉱山排水は、付近の湖、河川および水流の水を汚染するため、これらの水質は劣化する。酸性鉱山排水に溶解している酸と金属は水性生物にとって毒性であるため、水を消費したり人間の活動に利用したりすることが危険になる。それゆえに、T.フェルオキシダンスに感染して溶菌させると予想されるウイルスの導入は、炭鉱からこの種の細菌を低減または除去し、酸性鉱山排水の発生を低減させることにおいて有用であると予想される。
【0069】
この本発明の方法のその他の例は、病原性物質の制御、低減および除去である。典型的な病原性物質としては、これらに限定されないが、様々なタイプの細菌(例えば、炭疽菌(Bacillus anthracis)、チフス菌(Salmonella typhi)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、ペスト菌(Yersina pestis)、ザントモナス・アルビリネアンス(Xanthomonas albilineans)、A.キャンペストリス・パソバー・シトリ(A.campestris pv.citri)、および、ザントモナス・キャンペストリス・パソバー・オリゼ(X.campestris pv.oryzae))、リケッチア(例えば、コクシエラ・バーネッティイ(Coxiella burnetii)、および、発疹チフスリケッチア(Rickettsia prowazeki))、および、真菌生物が挙げられる。このような病原性物質に感染して溶菌させる本発明のウイルスを、このような病原性物質が存在する処理部位に送達することによって、このような病原性物質の個体数を制御し、低減させると予想され、場合によっては除去されることもあり得る。
【0070】
また、本発明の方法の第一の実施態様を用いて、有益微生物の有益なプロセスを行う能力を阻害する望ましくない微生物の個体数を選択的に制御、低減または除去してもよい。当業者であれば当然であるが、有益微生物または有益な物質と称される数々のタイプの微生物が、それらの宿主に利益をもたらす。しかしながら、有益微生物のその宿主に利益をもたらす能力は、望ましくない微生物によって妨害されることがある。本方法の第一の実施態様によれば、望ましくない微生物の標的株を処理することにおいて有用であると予想される好ましいウイルスまたはウイルス混合物は標的株に感染し溶菌させるが、一方で、有益微生物に感染したり、または溶菌させたりすることはない。
【0071】
同様に、有益微生物による有毒化学物質のバイオレメディエーションは、望ましくない微生物の標的株によって妨害されることがある。例えば、バイオレメディエーション作用のある微生物の混合物中に、多種多様な抗菌物質を生産するシュードモナス属が存在していてもよい。しかしながら、このような混合物中における抗菌物質の存在は、多くの微生物が有する有毒化学物質をバイオレメディエーションする能力を破壊する可能性があるため、望ましくない。従って、本発明のウイルスは、このような混合物中の望ましくない抗生物質生産微生物の数を制御するために、本発明の方法において有用である可能性がある。
【0072】
ある種の目的においてその他の微生物も有益であるが、その他の観点において有害である場合がある。このような微生物の一種である緑膿菌(P.aeruginosa)は、土壌中に自然発生する菌であり、多くの環境の汚染物質のバイオレメディエーションにおいて有用である。しかしながら、緑膿菌は、植物および動物において様々な病気も引き起こす。従って、この本発明の方法は、上記微生物がその有益な仕事を実施した後、緑膿菌の個体数を制御、低減または除去するのに有用であると予想される。
【0073】
遺伝操作された微生物の個体数は、類似の方法で、制御、低減または除去される。多くの人々が、有益な目的のために遺伝操作された微生物を使用することは、逆効果を有する可能性があることを恐れているため、このような遺伝操作された微生物は除去することが望ましい場合がある。従って、それらを有益な目的で使用した後、この本発明の実施態様に従って遺伝操作された微生物の標的株に感染し溶菌させるウイルスを利用することによって、処理部位において遺伝操作された標的株微生物の個体数を制御、低減または除去することができる。
【0074】
B.微生物の個体数を制御するためのウイルス抵抗性微生物の使用方法
上述したように、多くの有益微生物または「有益な物質」は、有益なプロセスを行う。しかしながら、このような微生物は、ウイルスによる感染および溶菌に高い感受性を有する。従って、本発明の方法の第二の実施態様は、有益なプロセスにおける有益微生物のウイルス抵抗性株の使用を含む。
【0075】
ウイルス抵抗性微生物は、上述したように、標的株微生物に感染して溶菌させると予想される野生型および/またはh−突然変異ウイルスの存在下で、微生物の標的株を増殖させることによって製造される。続いて、ウイルス抵抗性微生物は、上記で考察したようにして単離して、別の方法で実質的に滅菌された条件下で、好ましくは制御された条件下で増殖培地中で増殖してもよい。
【0076】
本方法の第二の実施態様の使用例として、ウイルス抵抗性のパントエア・アナナス(Pantoea ananus)は、サビ菌類であるプチニア属(Puccinia spp.)にとって寄生性であるが、これは、コムギ上のサビ菌類の増殖の制御に有用である。しかしながら、P.アナナスを攻撃するファージもまたサビ菌類の近傍に存在し、P.アナナスのサビ菌類を制御する能力に有害な作用を有する。従って、コムギにP.アナナスのウイルス抵抗性株を適用することは、コムギにおけるサビ菌類の増殖の制御において有用であると予想される。同様に、サビ菌類に感染したコムギにウイルス抵抗性P.アナナスを適用することは、サビ菌類がその他のコムギ植物に蔓延することを予防することや、サビ菌類に感染したコムギ植物を処置することに有用であると予想される。
【0077】
同様に、セラチア・エントモフィリア(Serratia entomophilia)のようなある種の細菌は、ニュージーランド産の草地幼虫(New Zealand grass grub)、または、コステリトラ・ゼアランジカ(Costelytra zealandica)のような昆虫の個体数の増加および蔓延を制御し、さらに、このような細菌を適用して、植物を処置したり、または、このような昆虫がその他の植物に蔓延することを予防したりすることができる。本発明の方法の第二の実施態様において、害虫生物の制御に用いられるその他のウイルス抵抗性細菌、例えばバッタ科に対応するエンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)もまた有用である。
【0078】
これらに限定されないが、硫化物が豊富な無機質の硫化物を硫酸に酸化するためのリーチングによって、貧鉱から銅やウランのような有用な無機質を単離して濃縮すること(すなわち、T.フェルオキシダンス属、および、アシディフィラム属(Acidiphilium));瀝青質頁岩から石油および関連物質を単離すること(例えば、ロドコッカス属(Rhodococcus spp.)、スルフォバス属(Sulfobus spp.)、および/または、チオバチルス属);硫黄またはその他の物質を酸性化することによって、農業的な使用のために選択されたアルカリ性の土壌を酸性化すること(例えば、ロドコッカス属、スルフォバス属、および/または、チオバチルス属);再利用のためにタイヤおよびその他のゴム生成物を分解すること(例えば、ロドコッカス属、スルフォバス属、および/または、チオバチルス属);有害化学物質および汚染物質をバイオレメディエーションすること(例えば、ロドコッカス属、スルフォバス属、および/または、チオバチルス属);その他の微生物が悪臭(例えば、酪農場や養豚場、犬舎、飼育場などからの悪臭)を生産するような廃水を排出したり、汚泥を処理すること;および、工業的な発酵プロセス(例えば、チーズ生産のための乳酸菌)などのプロセスを行うことに関して、さらなる有益微生物が有用である。本発明の方法の第二の実施態様によれば、このようなプロセスにおけるウイルス抵抗性微生物を使用ことによって、有益微生物がそれらに特異的なウイルスに感染したり、または溶菌したりする可能性を減少させる。
【0079】
本発明を好ましい特定の実施態様に関して説明したが、本発明の範囲は、添付の請求項およびそれらの法的に等価なものによって定義されることとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の個体数を制御するためのウイルスを含有する組成物であって、
該ウイルスが、多細胞生物に感染する能力と、感染した宿主微生物に望ましくない遺伝子を移入させる能力を有さず;かつ、微生物の標的株のウイルス抵抗性変異株に感染する能力を有する、上記組成物。
【請求項2】
前記ウイルスが、溶解性ウイルスを含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記溶解性ウイルスが、溶解性の状態から溶原性の状態へ変換する能力を有さない、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記標的株に特異的な野生型ウイルスをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記野生型ウイルスが、溶解性ウイルスを含んでなる、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ウイルスに感染したキャリアー微生物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記キャリアー微生物が、非病原性の微生物を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記微生物に特異的な抗菌剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
有益微生物のウイルス抵抗性変異株を含む、有益微生物の個体数を制御するための組成物。
【請求項10】
前記ウイルス抵抗性変異株が、前記有益微生物に特異的なウイルスの野生型に対する耐性を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記ウイルス抵抗性変異株が、前記有益微生物に特異的な宿主域突然変異ウイルスに対する耐性を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
望ましくない微生物に特異的な宿主域突然変異ウイルスをさらに含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
前記有益微生物が、パントエア・アナナス(Pantoea annanus)、セラチア・エントモフィリア(Serratia entomophilia)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、チオバチルス・フェルオキシダンス(T.ferroxidans)、アシディフィラム属の一種、ロドコッカス属の一種、スルフォバス属の一種、および、チオバチルス属の一種の少なくとも一種を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項14】
微生物の標的株の個体数を制御する方法であって:
ウイルスを導入すること、ここで、該ウイルスは、多細胞生物に感染する能力または、感染した宿主微生物に望ましくない遺伝子を移入させる能力を有さず;微生物の標的株のウイルス抵抗性変異株に感染する能力を有する;および、
該ウイルスを標的株に感染させること、
を含む、上記方法。
【請求項15】
前記導入が、溶解性ウイルスを導入することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記導入が、宿主域突然変異ウイルスを導入することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記導入が、野生型ウイルスを導入することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
処理部位に抗菌剤を導入することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記導入が、前記ウイルスを生きた動物に投与することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記導入が、前記ウイルスで食品を処理することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記食品の処理が、生肉または生の鳥肉を処理することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ウイルスが、有益微生物よりも標的株微生物に対して選択的である、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
処理部位に有益微生物のウイルス抵抗性変異株を導入することを含む、有益微生物の個体数を制御する方法。
【請求項24】
前記導入が、有益微生物のウイルス抵抗性変異株に、有毒化学物質またはその他の汚染物質を晒すことを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記導入が、パントエア・アナナス、セラチア・エントモフィリア、エンテロバクター・エロゲネス、チオバチルス・フェルオキシダンス、アシディフィラム属の一種、ロドコッカス属の一種、スルフォバス属の一種、および、チオバチルス属の一種の少なくとも一種を前記処理部位に導入することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記導入が行われて菌類の増殖が制御される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記導入が行われて昆虫の個体数の増加または蔓延が制御される、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記導入が行われて、ニュージーランド草地幼虫(New Zealand grass grub)およびバッタ科などの昆虫の個体数の増加または蔓延を制御するために行われる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記導入が、有益微生物のウイルス抵抗性変異株を植物に適用することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記導入が行われて硫化物が硫酸に酸化される、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記導入が行われて瀝青質頁岩から石油および石油関連物質が単離される、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
前記導入が行われて硫黄が酸性化される、請求項23に記載の方法。
【請求項33】
前記導入により、アルカリ性の土壌を酸性化すること、ゴム生成物を分解すること、有害化学物質または汚染物質をバイオレメディエーションすること、汚水または廃水を処理すること、悪臭または悪臭源を処理すること、発酵プロセスのうち少なくとも一種が行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
宿主域突然変異ウイルスの製造方法であって:
微生物の標的株を単離すること;
標的株に特異的な野生型ウイルスの存在下で標的株を増殖させることによって、標的株のウイルス抵抗性変異体を単離すること;
野生型ウイルスの存在下でウイルス抵抗性変異体を増殖させることによって、宿主域突然変異ウイルスを単離すること;
宿主域突然変異ウイルスの存在下で標的株のウイルス抵抗性変異体を増殖させることによって、標的株の宿主域突然変異ウイルス抵抗性変異体を単離すること;および、
宿主域突然変異ウイルスの存在下で宿主域突然変異ウイルス抵抗性変異体を増殖させることによって、第二の宿主域突然変異ウイルスを単離すること、
を含む、上記方法。
【請求項35】
望ましくない遺伝子に関する標的株、および、宿主域突然変異ウイルス抵抗性変異体のうち少なくとも一種をスクリーニングすることをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
第二の宿主域突然変異ウイルスを単離することが、複数の標的株の宿主域突然変異ウイルス抵抗性変異体に対する特異性を有する宿主域突然変異ウイルスを単離することを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
いずれかの溶原性ウイルスに関してスクリーニングし、それらを排除することをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
望ましくない遺伝子に関する宿主域突然変異ウイルス、および、第二の宿主域突然変異ウイルスのうち少なくとも一種をスクリーニングすることをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
微生物のウイルス抵抗性変異体の製造方法であって:
野生型の微生物に特異的なウイルスに野生型の微生物を晒すことによって、宿主域突然変異ウイルスを単離すること;
宿主域突然変異ウイルスに野生型の微生物を晒すことによって、微生物のウイルス抵抗性変異体を単離すること;
少なくとも一種の宿主域突然変異ウイルスに微生物のウイルス抵抗性変異体を晒すことによって、少なくとも一種の第二の宿主域突然変異ウイルスを単離すること;および、
少なくとも一種の第二の宿主域突然変異ウイルスに、少なくとも一種の野生型の微生物、および、少なくとも一種の微生物のウイルス抵抗性変異体を晒すことによって、少なくとも一種の微生物の第二のウイルス抵抗性変異体を単離すること、
を含む、上記方法。
【請求項40】
前記少なくとも一種のウイルス抵抗性変異体を単離すること、および、少なくとも一種の第二のウイルス抵抗性変異体を単離することが、前記微生物に特異的な宿主域突然変異ウイルスの存在下で、少なくとも一種の野生型の微生物、および、ウイルス抵抗性変異体を増殖させることを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記少なくとも一種の第二のウイルス抵抗性変異体を単離することが、複数の宿主域突然変異ウイルスによる感染に対する耐性を有する少なくとも一種の第二のウイルス抵抗性変異体を単離することを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
哺乳動物にとって病原性の微生物の標的株のウイルス抵抗性変異株に特異的であり、それらに感染することができる宿主域突然変異ウイルスを含む、食品において哺乳動物にとって病原性の微生物の個体数を制御するための組成物。
【請求項43】
前記微生物が、サルモネラ属、カンピロバクター属、または、大腸菌(E.coli)などの腸内病原体である、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
前記標的株が、大腸菌O157:H7を含む、請求項42に記載の組成物。
【請求項45】
食品において哺乳動物にとって病原性の微生物の標的株の個体数を制御する方法であって:
食品に溶解性ウイルスを適用すること、ここで、該溶解性ウイルスは、標的株に特異的であるが、多細胞生物に感染する能力、または、宿主微生物に望ましくない遺伝子を移入させる能力を有さない;および、
該溶解性ウイルスを標的株に感染させること、
を含む、上記方法。
【請求項46】
前記溶解性ウイルスが、宿主域突然変異ウイルスを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記溶解性ウイルスが、野生型ウイルスを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記感染が、溶解性ウイルスを腸内病原体の標的株に感染させることを含み、ここで、腸内病原体は、例えば、サルモネラ属、カンピロバクター属、または、エシェリキア属である、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
前記標的株が、大腸菌O157:H7を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
微生物に感染した宿主を処理する方法であって:
宿主に、望ましくない遺伝子を実質的に含まず、微生物に特異的な溶解性ウイルスを含む組成物を投与して、ウイルスと微生物とを接触させること;および、
微生物に溶解性ウイルスを感染させること、
を含む、上記方法。
【請求項51】
前記溶解性ウイルスが、宿主域突然変異ウイルスを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記溶解性ウイルスが、野生型ウイルスを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記組成物が、抗菌剤をさらに含む、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
目的物から微生物の標的株を殺菌する方法であって:
目的物を、標的株に特異的な溶解性宿主域突然変異ウイルスを含む組成物に晒すこと;および、
溶解性宿主域突然変異ウイルスを標的株に感染させること
を含む、上記方法。
【請求項55】
微生物が可能性のある宿主に感染することを予防する方法であって:
可能性のある宿主に感染している間に宿主域突然変異ウイルスと微生物とが接触するように、可能性のある宿主に宿主域突然変異ウイルスを含む組成物を投与すること、
を含む、上記方法。
【請求項56】
第一の微生物から第二の微生物への望ましくない遺伝子の移行の予防方法であって:
望ましくない遺伝子を実質的に含まず、第一の微生物に特異的な溶解性ウイルスに、第一の微生物および第二の微生物のうち少なくとも一種を晒すこと;および、
第一の微生物に、該溶解性ウイルスを感染させること、
を含む、上記方法。
【請求項57】
前記望ましくない遺伝子が、毒性因子、毒素産生、または、抗生物質耐性をコードする遺伝子から選択される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
水中の酸素濃度を減少させる微生物を、それらに感染して溶菌させると予想されるウイルスに晒すことを含む、水中の酸素濃度を増加させる方法。
【請求項59】
前記晒すことが、微生物のウイルス抵抗性株の少なくともいくつかに感染して溶菌させると予想される宿主域突然変異ウイルスを含むウイルスに微生物を晒すことを含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記晒すことが、前記ウイルスを藻類に適用することを含む、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
前記晒すことが、前記ウイルスを水に導入することを含む、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
水中の酸素濃度を減少させる細菌に感染して溶菌させると予想されるウイルスおよび宿主域突然変異ウイルスを含む、水中の酸素濃度を増加させる組成物。
【請求項63】
酸性鉱山排水を低減または予防する方法であって:
酸性鉱山排水が発生する環境、または、それらが発生する可能性がある環境に、チオバチルス・フェルオキシダンスに感染して溶菌させると予想されるウイルスを導入することを含む、上記方法。
【請求項64】
前記導入が、炭鉱に前記ウイルスを導入することを含む、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記導入が、酸性鉱山排水が発生するか、または発生する可能性がある環境に、チオバチルス・フェルオキシダンスのウイルス抵抗性株に感染して溶菌させると予想される宿主域突然変異ウイルスを導入することを含む、請求項63に記載の方法。
【請求項66】
チオバチルス・フェルオキシダンスに感染して溶菌させると予想される宿主域突然変異ウイルスを含む、酸性鉱山排水を低減または予防するための組成物。

【公表番号】特表2008−526892(P2008−526892A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550568(P2007−550568)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【国際出願番号】PCT/US2006/000854
【国際公開番号】WO2006/074460
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(507233084)オムニライティックス・インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】