説明

食品の変質抑制方法及び食品包装体

【課題】酸素の影響を受けて変色、退色、変質し易い食品の商品寿命を、高額の設備投資、遮光性材料やガスバリヤー性材料などの高コストの包装材料及び脱酸素剤などの食品以外の添加物を必要としない安価な手段で達成し得る食品の変質抑制方法の提供。
【解決手段】食品と、冷暗所において酸素吸収作用を有する野菜とを包装容器に収容して密封し、これを冷暗所保管し、この冷暗所保管後の包装容器内の残存酸素濃度を7体積%以下とすることを特徴とする食品の変質抑制方法。この野菜としては、キャベツ、ニンジン、キュウリ、葱類、もやし、アスパラガス、ブロッコリー、スィートコーン、セロリ、レタス、ほうれん草、かぼちゃ、エノキダケ、オクラ、ハーブ類からなる群から選択される1種又は2種以上が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理食品、肉や魚介類などの生鮮食品、半調理食品などの食品を包装容器に収容し、包装容器の開口を蓋やヒートシール用フィルム、ラップなどで閉じて密封包装した食品包装体において、その容器内部の残存酸素濃度を低減せしめて食品の保存安定性を高め、保存期間を延長させるための食品の変質抑制方法、及び該変質抑制方法によって食品の保存安定性を高めた食品包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品を包装容器に収容し密封した食品包装体において、容器内部の酸素濃度を低下させ、食品の酸化変質を抑制する従来技術としては、例えば、特許文献1〜2が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、ガスバリア性の包装体内をガス置換または真空脱気して酸素濃度を低く抑える方法が開示されている。しかし、この従来技術は、包装体製造設備が大型で高額になるとともに、広い設置スペースが必要になる問題がある。また、この方法は小ロットの生産には不向きである。
【0004】
特許文献2には、生野菜類または変色し易い生野菜類の加工品を凍結真空乾燥した後、鉄粉を主剤とする脱酸素剤と共に実質的に非通気性の容器に密封し保存する食品の保存方法が開示されている。しかし、鉄粉を主剤とする脱酸素剤を使用した場合、食品包装体を金属探知機にかけて金属異物混入の有無を確認する時に、この脱酸素剤が金属として検知されることがあり、金属異物混入をチェックし難くなるという問題がある。また、この種の脱酸素剤は、食品包装体の開封後は廃棄物になる。
【0005】
また、一般的な食品保存の技術分野において、食品包装体内部を炭酸ガスなどの不活性ガスで置換する方法があるが、この方法は包装体製造設備が大型で高額になるとともに、広い設置スペースが必要になる問題がある。
【0006】
また、遮光性の袋や容器で食品を包装して光を遮断し、食品の劣化を抑制する方法がある。しかし、この方法によると内容物が視認できないので、消費者が内容物を見比べて選択し購入する傾向が強い惣菜類には不向きである。
【特許文献1】特開昭56−1846号公報
【特許文献2】特公昭63−62176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、酸素の影響を受けて変色、退色、変質し易い食品の商品寿命を、高額の設備投資、遮光性材料やガスバリヤー性材料などの高コストの包装材料及び脱酸素剤などの食品以外の添加物を必要としない安価な手段で達成し得る食品の変質抑制方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、食品と、冷暗所において酸素吸収作用を有する野菜とを包装容器に収容して密封し、これを冷暗所保管し、この冷暗所保管後の包装容器内の残存酸素濃度を7体積%以下とすることを特徴とする食品の変質抑制方法を提供する。
【0009】
本発明の食品の変質抑制方法において、冷暗所保管後の包装容器内の残存酸素濃度を5体積%以下とすることが好ましい。
【0010】
本発明の食品の変質抑制方法において、前記野菜が、キャベツ、ニンジン、キュウリ、葱類、もやし、アスパラガス、ブロッコリー、スィートコーン、セロリ、レタス、ほうれん草、かぼちゃ、エノキダケ、オクラ、ハーブ類からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の食品の変質抑制方法において、前記食品が、加熱処理された食品であることが好ましい。
この加熱処理された食品としては、例えば、豆類、野菜類、蛸、蟹、海老、シャコを加熱処理した食品からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0012】
本発明の食品の変質抑制方法において、前記食品は、海草類、ハム、生ハム、ベーコン、ソーセージ、天然油脂、魚介類、魚肉練り製品、食肉、これらを使用した食品、生菓子からなる群から選択される1種又は2種以上であってもよい。
【0013】
本発明の食品の変質抑制方法において、前記包装容器内に、前記食品と前記野菜と共に脱酸素剤を入れることも可能である。
【0014】
また本発明は、食品と、冷暗所において酸素吸収作用を有する野菜とを包装容器に収容して密封し、前述した本発明に係る食品の変質抑制方法を実行して包装容器内の残存酸素濃度が7体積%以下とされたことを特徴とする食品包装体を提供する。
【0015】
本発明の食品包装体において、前記包装容器及びその開口を塞ぐ蓋の少なくとも一部が透明又は光透過性であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、食品と、冷暗所において酸素吸収作用を有する野菜とを包装容器に収容して密封し、これを冷暗所保管することによって、野菜の呼吸作用などの酸素吸収作用で食品包装体内の酸素を吸収することにより、食品の変色、退色、変質を抑制できるので、特別の高額な製造設備や包装材料を使用せずに、食品の酸化による変色、退色、変質が抑制された安価な食品包装体を提供できる。
また、本発明の方法では、脱酸素剤等の非食品成分を同封する必要がないので、誤飲誤食などの事故が回避でき、安全性を高めることができる。
また、食品包装体内に脱酸素剤を入れる必要が無くなるので、脱酸素剤に含まれる鉄分によって、食品包装体の異物検査時に金属探知機に反応することがないので、金属異物混入をチェックし易くなる。
また、包装容器内に野菜を入れ、更に脱酸素剤を使用すれば、より強力な変色、退色、変質防止効果が得られる。
さらに、野菜の種類を適宜選択し、適切な形状に裁断することにより、喫食時につけ合わせとして、或いは調理の材料として活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の食品の変質抑制方法は、食品と、冷暗所において酸素吸収作用を有する野菜とを包装容器に収容して密封し(以下、この密封後の製品を食品包装体と記す。)、この食品包装体を冷暗所保管し、この冷暗所保管後の食品包装体内の残存酸素濃度を7体積%以下、好ましくは5体積%以下とすることを特徴としている。また本発明の食品包装体は、食品と、冷暗所において酸素吸収作用を有する野菜とを包装容器に収容して密封し、前述した本発明に係る食品の変質抑制方法を実行して包装容器内の残存酸素濃度が7体積%以下とされたことを特徴としている。
【0018】
<酸素吸収作用を有する野菜>
暗所において植物は、呼吸作用によって、酸素を吸収して炭酸ガスを放出する。一方、光が当たっているときは、炭酸ガスを消費して酸素を放出する光合成反応が呼吸反応と競合して進行し、明るさが光補償点以上になると、酸素濃度は増加する。暗所においては呼吸作用が優先して進行するので、密閉した容器内に植物を入れておくと、容器内の酸素濃度が低下する。
また、暗所に置かれると、食品の変色、退色、変質が進行し難くなる。
【0019】
この作用を利用すれば、脱酸素剤などを使用しなくても、食品の組み合わせだけで食品の酸素による品質劣化を抑制することができる。
また、野菜の呼吸作用によって生成する炭酸ガスによる変質抑制効果も利用できる。
【0020】
酸素吸収作用を有する野菜としては、呼吸作用を有し食用に供される植物であれば使用できる。また、呼吸に限らず、酸化酵素などの酵素による酸素吸収作用、含有する酸化防止成分(アスコルビン酸やトコフェロールなど)による酸素吸収作用などを有する野菜についても使用することができる。
【0021】
呼吸で食品包装体内の炭酸ガス濃度が高くなると、炭酸ガスが水分に溶解して食品の表面のpHを低下させるので、微生物の増殖抑制効果や鮮度保持効果が期待できる。
【0022】
酸素吸収作用を有する野菜を選択する目安として、密閉した内容量180mLの容器内に野菜40gを収容して密封し、冷暗所(温度5〜10℃)で24時間保管後の容器内の酸素の体積濃度が7体積%以下、或いは、炭酸ガスの体積濃度が10体積%以上を現出可能な野菜が特に有用に使用できる。
【0023】
この野菜の具体例としては、キャベツ、ニンジン、キュウリ、葱類、もやし、アスパラガス、ブロッコリー、スィートコーン、セロリ、レタス、ほうれん草、かぼちゃ、エノキダケ、オクラ、ハーブ類からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
酸素吸収作用を有する野菜は、切り方で酸素吸収量が変化する。この点については後述する実施例において詳述するが、後述の表1及び表2に記したように、ざく切り>千切り>みじん切りの順で、一般には野菜を細かく切るほど酸素吸収量は増え、残存酸素濃度は小さくなる傾向が見られる。野菜の種類によっては必ずしも前記傾向に当てはまらない場合もあるので、野菜の切り方に関しては、酸素吸収効果(又は炭酸ガス発生効果)と、外観や食味など、使用する野菜の食品としての適性を考慮して選択すればよい。
【0025】
酸素吸収作用を有する野菜の使用量は、食品とこの野菜とを収容した食品包装体内の空気量と、この野菜の酸素吸収能力を考慮して設定する。更に、これを消費者の嗜好の予測を加味して修正してもよい。
【0026】
<食品>
本発明において、食品包装体内に包装する食品としては、特に限定されないが、本発明の効果を有効活用する観点から、酸素の影響を受けて変色、退色、変質しやすい食品が望ましい。また、前述した酸素吸収作用を有する野菜に該当する食品は対象外とする。
【0027】
加熱した緑色野菜は、緑色成分のクロロフィルが可視光線と酸素の影響で分解し易いために変色し易く、変色した商品は商品価値が低下するので、本発明の実施により変色退色時間を延長することができる。特に、茹でた枝豆、温野菜、海草類などにおいては、本発明の利用価値が高い。
【0028】
海老、蟹などの甲殻類は、酸化によりメラニンが生成して黒く変色する。本発明の実施により、変色退色や風味の悪化を抑制できる。
【0029】
ハム、ソーセージは、酸化により肉色の変色が生じる場合がある。本発明の実施により、肉色の変色防止に有効である。
【0030】
食品中の天然油脂類は、空気中の酸素により自動酸化して風味や栄養価が損なわれる。本発明の実施により、天然油脂類の酸化を抑制できる。また、光照射による焼き色や揚げ色の退色も防止できる。なお、天然油脂を多く含む食品としては、天ぷら、唐揚げなどが挙げられる。
【0031】
生菓子類は、カビ発生防止などへの応用も期待できる。カビは好気性微生物であり、本発明により酸素濃度を低下させた食品包装体の容器内では、その生育を抑制することができる。
【0032】
<冷暗所保存>
茹で野菜などの食品における緑色の退色防止は、残存酸素濃度が概ね1体積%以下で効果があることを、これまでのガス置換包装の研究における経験から得ている。
【0033】
食品包装体の冷暗所保管処理後に、店頭に陳列した時点での残存酸素濃度が7体積%以下、好ましくは5体積%以下に達していれば、酸素の作用により食品が変質・退色する時間を延長できる効果がある。
【0034】
この冷暗所保管処理後に食品包装体を店頭に陳列すると、食品包装体に光が照射されて酸素吸収作用を有する野菜の呼吸が更に進行して、変色退色や変質の進行よりも早く、残存酸素濃度が1体積%以下にまで低下すると考えられる。
【0035】
冷暗所保管の温度は、保管温度5〜10℃の範囲が好ましい。保管温度が5℃未満であると、酸素吸収作用を有する野菜が低温障害を起こす恐れがあり、また、呼吸量が少なくて酸素吸収効果が十分に得られない恐れがある。保管温度が10℃を超えて常温に近づくと、微生物の繁殖などの問題が発生し易い。
【0036】
冷暗所保管時の明るさは、光の作用による食品の変色退色や変質を防止すると共に、光合成反応による酸素の発生を抑えるために、暗いほど好ましい。目安として10ルックス以下、できれば1ルックス(月明かり程度)以下とするのがよい。
【0037】
冷暗所保管時間は、16時間以上、好ましくは24時間以上とする。ただし、酸素吸収作用を有する野菜の種類、組み合わせ等によって、冷暗所保管時間の短縮(調整)は可能である。
【0038】
<他の添加剤>
本発明の食品の変質抑制方法において、前記包装容器内に、前記食品と前記野菜と共に脱酸素剤を入れて密封し、食品包装体とすることも可能である。この脱酸素剤としては、鉄粉を主剤とする従来周知の脱酸素剤を用いることができる。また、この種の脱酸素剤以外にも、食品用の酸化防止剤を使用することもできる。
【0039】
<食品包装体の包装容器>
本発明の食品の変質抑制方法において、食品と前記野菜とを収容するための包装容器としては、密封時に包装容器内部と外部とが遮断されて食品包装体内部が実質的に密封されるものであればよく、包装容器や蓋の材質、形状、寸法、閉蓋構造などは特に限定されない。例として、プラスチック製容器、木質容器、金属箔などからなる容器や袋などが使用できる。
【0040】
この包装容器としては、プラスチックシートを真空成形、真空圧空成形、熱盤成形した包装容器が特に好ましい。この包装容器の素材としては、プラスチック単独又は複数のプラスチックの組み合わせのみならず、プラスチック以外の材質、例えば、金属箔、紙類、繊維質が複合されたものであってもよい。
【0041】
この包装容器の密封手段は限定されないが、プラスチック製のフィルム、シート、又は成形した蓋体を容器開口部に接着又は熱融着して密封する手段が好ましい。
【0042】
包装容器本体や密封手段に使用するプラスチック成形体やフィルム、シートは、通常、食品包装の分野で使用されるものであれば使用できる。プラスチック材料としては限定されないが、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、或いはこれらの組み合わせなどが好ましい。また、これらの樹脂にタルクなどの充填剤を配合したものや、発泡剤を使用して発泡させたものも使用できる。また、ガスバリヤー性の高い樹脂を併用してもよい。
【0043】
食品包装体は、消費者が陳列時に内容物(食品及び野菜)を視認できるように、少なくとも一部が透明ないし光透過性であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
[野菜による残存酸素濃度変化の測定]
各種の野菜を包装容器に入れて密封し、所定の温度に調整した冷蔵庫内で所定時間保管した後、包装容器内の残存酸素濃度及び炭酸ガス濃度を測定し、比較した。
試験に用いた包装容器は、ポリエチレンテレフタレート系樹脂シート(厚さ0.5〜0.65mm)を熱成形した透明の包装用容器で、内容量は180mLである。密閉は、プラスチックフィルム(PET(厚さ12μm)/ABF65C(厚さ30μm)のドライラミネートフィルム)を前記包装容器の開口部にヒートシールすることにより実行した(ABF65Cは、東セロ社製のPET用シーラントフィルム)。
【0045】
[容器内の残存酸素及び残存炭酸ガス濃度の測定方法]
測定に使用した酸素、炭酸ガス測定器は、Dansensor社製 CheckMate O/COとした。
測定器のセンサーは、Oがジルコニア式、COが赤外吸収式とした。
容器内のガス採取法は、容器内に直接針を差込み吸引する方式とした(サンプル量:5mL)。
【0046】
(1)野菜の呼吸量一覧
前記包装容器に、表1中に記した各種の野菜をそれぞれ40g入れ、包装容器を密封し、包装容器を10℃の冷蔵庫内に入れ、24時間冷暗所保管し、包装容器内の残存酸素濃度(後述する各表及び各図中、「O」と略記する。単位は体積%であり、「%」と略記する。)及び残存炭酸ガス濃度(後述する各表及び各図中、「CO」と略記する。単位は体積%であり、「%」と略記する。)を測定した。その結果を表1と図1にまとめて記す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1及び図1の結果より、試験した野菜のうち、キャベツ、ニンジン、もやし、キャベツ/ニンジン(質量比2:1)の混合物、アスパラガス、ブロッコリー、セロリの葉、ほうれん草、カボチャ、えのき茸、オクラなどで残存酸素濃度が5体積%以下という良好な結果が得られた。
また、同じ野菜でも、切り方により残存酸素濃度が影響を受ける。一般に、細かく切るほど残存酸素濃度が少なくなるという傾向が見られた。
また、残存酸素濃度が少ない試験品は、残存炭酸ガス濃度が多くなる傾向が見られた。
【0049】
(2)切り方の違いによる呼吸量の比較:キャベツ
前記(1)の試験において、同じ野菜でも切り方により残存酸素濃度が異なる傾向が見られたことから、切り方の違うキャベツについて、包装容器内の残存酸素濃度及び残存炭酸ガス濃度の経時変化を測定した。
「ざく切り」、「千切り」及び「みじん切り」したキャベツを用意し、これらを前記包装容器にそれぞれ40g入れ、包装容器を密封し、包装容器を10℃の冷蔵庫内に入れて保管し、保管開始直後(0時間)、保管開始から4時間、8時間及び24時間経過時点で、それぞれの試験品について包装容器内の残存酸素濃度及び残存炭酸ガス濃度を測定した。その結果を表2及び図2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2及び図2の結果より、残存酸素濃度は、ざく切り>千切り>みじん切りの順となり、キャベツについては細かく切るに従い呼吸が活発になり、残存酸素濃度は減少する傾向が見られた。
【0052】
(3)切り方の違いによる呼吸量の比較:ニンジン
前記(2)で試験したキャベツに代えて、ニンジンを用い、同様の試験を実施した。
「短冊切り」、「千切り」及び「みじん切り」したニンジンを用意し、これらを前記包装容器にそれぞれ40g入れ、包装容器を密封し、包装容器を10℃の冷蔵庫内に入れて保管し、保管開始直後(0時間)、保管開始から4時間、8時間及び24時間経過時点で、それぞれの試験品について包装容器内の残存酸素濃度及び残存炭酸ガス濃度を測定した。その結果を表3及び図3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3及び図3の結果より、ニンジンを用いた場合には、前記(2)のキャベツの場合よりも呼吸量が多く、残存酸素濃度が少ない。残存酸素濃度は、短冊切り>みじん切り>千切りの順となり、キャベツのパターンと比べ、みじん切りと千切りが逆転し、ニンジンに関しては必ずしも細かく切ることが効果的とは言えない結果となった。
【0055】
(4)野菜呼吸量の最適温度の確認
野菜として、キャベツの千切りとニンジンの千切りとを質量比2:1で混合したMIX野菜を用い、該MIX野菜30g又は40gを前記包装容器に入れて密封し、これを5℃と10℃とした冷蔵庫に入れて保存し、保管開始直後(0時間)、保管開始から4時間、20時間及び24時間経過時点で、それぞれの試験品について包装容器内の残存酸素濃度及び残存炭酸ガス濃度を測定した。なお、MIX野菜を40g用い、5度で保管した試験は、同じものを2個試験し(5℃−1、5℃−2と記す)、10℃で保管した試験品は、同じものを3個試験した(10℃−1、10℃−2、10℃−3と記す。)。
残存酸素濃度(O%)についての結果を表4及び図4に示し、残存炭酸ガス濃度(CO%)についての結果を表5及び図5に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
表4〜表5、図4〜図5の結果から、冷暗所での保管温度が5℃の場合は、残存酸素濃度が高くて、酸素吸収効果が低かった。MIX野菜の量を40gとし、保管温度10℃で24時間保管した場合が最も有効であった。
【0059】
[食品の保存性試験]
食品と野菜とを包装容器に入れて密封し、所定の温度に調整した冷蔵庫内で所定時間保管し、保管後の包装容器内の残存酸素濃度及び残存炭酸ガス濃度を測定した。
包装容器と、この容器を密封するためのプラスチックフィルムは、前述したものと同じく内容量180mLの包装容器とプラスチックフィルムを用い、包装容器の密封は、容器開口にこのプラスチックフィルムをヒートシールすることによって行った。
冷暗所保管後の食品包装体は、温度5℃又は10℃で照明が1000lxのショーケースに24時間保存して、食品の外観、風味について、茹でて冷ました直後の枝豆と比較して、次の表6に示す評価基準に従って、「見た目の評価」、「風味の評価」を調べた。なお、食品のこれらの評価点は、3以上を合格とする。
【0060】
【表6】

【0061】
(5)野菜の違いによる枝豆の保存試験
食品として、茹でた枝豆を用いた。枝豆50gを、表7に示す各種の野菜30gとともに前記包装容器に入れて密封した各種の食品包装体を作製した。これらの食品包装体を5℃の冷蔵庫内に24時間保管した。この後、各種の食品包装体を温度5℃で照明が1000lxのショーケースに24時間保存し、その後、各食品包装体の枝豆について、外観、臭気、味を調べ、前記評価基準に従って評価した。結果を表7にまとめて記す。
【0062】
【表7】

【0063】
表7の最下段のデータは、コントロール(野菜を入れずに枝豆だけ入れた食品包装体)であり、このコントロールでは、残存酸素濃度の変化が少なく、ショーケース保存後の評価においては、見た目の評価、風味の評価とも、評価点が3以下で不合格であった。
一方、50gの枝豆とともに30gの各種野菜を入れた食品包装体では、いずれも残存酸素濃度がコントロールよりも低くなり、食品の見た目、風味共に改善された。しかし、この試験では、冷暗所保管温度が5℃と低めであったことと、野菜の量が少なかったために、見た目の評価、風味の評価ともに合格したものは少なかった。この試験の中では、野菜をキャベツ、ニンジン或いはそれらの組み合わせとしたものが良好な結果であった。
【0064】
(6)冷暗所保管時間の変化による効果確認
食品として、茹でた枝豆を用いた。また、同封する野菜として、千切りキャベツ+千切りニンジン(質量比2:1)を用いた。
枝豆40gと、野菜40gとを、前記包装容器に入れて密封し、食品包装体を作製した。この食品包装体を10℃の冷蔵庫内に保管しないもの(冷暗所保管0時間)、8時間保管したもの、16時間保管したもの、及び24時間保管したものをそれぞれ作製し、それらの容器内の残存酸素濃度及び残存炭酸ガス濃度を測定した。
冷暗所保管時間の異なる各食品包装体は、温度10℃で照明が1000lxのショーケースに24時間保存した。その後、各食品包装体の枝豆について、見た目の色、臭気、味を調べた。
【0065】
この試験において、見た目の色は、各試験品を、茹でて冷ました直後の枝豆と比較して表6の評価基準により評価した。
【0066】
また、風味については、各試験品を、茹でて冷ました直後の枝豆と比較して異臭、異味の有無について調べ、表6の評価基準により評価した。
この試験の結果をまとめて表8に示す。また、冷暗所保管時間と容器内ガス(O,CO)濃度の関係について、図6に示す。
【0067】
【表8】

【0068】
表8及び図6の結果から、前述した枝豆と野菜との組み合わせの場合、冷暗所保管時間を16時間以上、好ましくは24時間以上とすれば、枝豆の変質を効果的に抑制できることが分かった。
【0069】
(7)食品と野菜の混合比の違いによる効果確認
食品として、茹でた枝豆を用いた。また、同封する野菜として、千切りキャベツ+千切りニンジン(質量比2:1)を用いた。
枝豆と野菜とを、表9に示すグラム数で前記包装容器に入れて密封した各種の食品包装体を作製した。
この食品包装体を10℃の冷蔵庫内に24時間保管し、冷暗所保管後の容器内の残存酸素濃度及び残存炭酸ガス濃度を測定した。
冷暗所保管後、枝豆と野菜の混合比の異なる各食品包装体は、温度10℃で照明が1000lxのショーケースに24時間保存した。その後、各食品包装体の枝豆について、見た目の色、臭気、味を調べた。
【0070】
この試験において、見た目の色は、各試験品を、茹でて冷ました直後の枝豆と比較して表6の評価基準により評価した。
【0071】
また、風味は、各試験品を、茹でて冷ました直後の枝豆と比較して、表6の評価基準により評価した。
【0072】
この試験の結果をまとめて表9に示す。また、冷暗所保管後の容器内ガス濃度について、図7に示す。
【0073】
【表9】

【0074】
表9及び図7の結果から、この枝豆と野菜の組み合わせの場合、枝豆40g+野菜40gの組み合わせが最適であった。野菜をこれより増やすと、残存酸素濃度は減少し、枝豆の保存効果も更に良くなるが、枝豆以外のコストが高くなる。
【0075】
(8)各種食品の変質抑制効果の確認
食品として、スライスハム(25g)、生ハム(20g)、ボイルエビ(30g)、茹でダコ(30g)、海草サラダ(20g)、温野菜(30g)、ボイルシャコ(30g)、リンゴとバナナのスライス混合(20g)を用いた。
また、同封する野菜として、千切りキャベツ+千切りニンジン(質量比2:1)を用いた。
各種食品と、野菜40gとを、前記包装容器に入れて密封した各種の食品包装体を作製した。
この食品包装体を10℃の冷蔵庫内に24時間保管し、冷暗所保管後の容器内の残存酸素濃度及び残存炭酸ガス濃度を測定した。
冷暗所保管後、温度10℃で照明が1000lxのショーケースに24時間保存した。その後、各食品包装体の残存酸素濃度及び残存炭酸ガス濃度を測定した。その結果を表10にまとめて示す。
【0076】
【表10】

【0077】
また、包装容器内に、前記各種食品のみを入れ、野菜を入れないで密封し、前記野菜入りの食品包装体と同様に冷暗所保管及びショーケース保存を行った、野菜無し比較例を作製した。ショーケース24時間保存後の各種食品の外観と風味について、前記野菜無し比較例と、前記野菜入りの食品包装体と比較して表6の評価基準により評価した。結果を表10に示す。
スライスハムについては、野菜無し比較例は完全に肉色が退色し、ハムの風味も無かったのに対し、野菜入りの食品包装体は、ショーケース保存後も肉色を保っており、風味も保持しており、良好な結果であった。
生ハムについては、野菜無し比較例は完全に肉色が退色し、臭いや味が劣化していたのに対し、野菜入りの食品包装体は、ショーケース保存後も肉色を保っており、風味も保持しており、良好な結果であった。
ボイルエビについては、野菜無し比較例と野菜入りの食品包装体とで、色に差は無かった。海老臭は野菜無し比較例の方が強かった。
茹でダコについては、野菜無し比較例は色が黒ずんでおり、臭いや味がやや劣化していたのに対し、野菜入りの食品包装体は、ショーケース保存後も新鮮な色を保っており、臭いや味に変化は無く、良好な結果であった。
海草サラダについては、野菜無し比較例はアカトサカやワカメが退色し、臭いや味がやや劣化していたのに対し、野菜入りの食品包装体は、赤色、緑色とも保持され、臭いや味に変化は無く、良好な結果であった。
温野菜については、野菜無し比較例は緑色が退色し、異臭は無いが野菜臭が少なくなっていたのに対し、野菜入りの食品包装体は、緑色が十分に保たれ、野菜臭も保持され、良好な結果であった。
ボイルシャコについては、野菜無し比較例は退色したのに対し、野菜入りの食品包装体は退色しなかった。臭いに関しては明確な差がなかった。
リンゴとバナナのスライス混合については、野菜無し比較例と野菜入りの食品包装体との間で大差なかった。
【0078】
(9)比較例
比較例として、市販の脱酸素剤を入れた食品包装体を作製し、冷暗所保管及びショーケース保存後の容器内の残存ガス(O,CO)濃度を調べた。
食品としては、茹でた枝豆を用いた。
脱酸素剤としては、空気250mL用、ニッソー樹脂株式会社製のセキュールDU−250N(鉄系水分依存型)と、セキュールSW250(CO発生型)を用いた。
前記包装容器と同材質で内容量440mLの包装容器に、枝豆200gと、前記いずれかの脱酸素剤とを入れて密封した試験品と、枝豆200gのみを入れて脱酸素剤を入れないで密封した試験品(以下、脱酸素剤無しと記す。)を作製した。これらの試験品を5℃の冷蔵庫内に入れ、8時間保管後、16時間保管後、及び24時間保管後、それぞれの試験品の容器内の残存酸素濃度及び残存炭酸ガス濃度を測定した。
続いて、冷暗所保管時間の異なる各種の試験品を、温度5℃で照明が1000lxのショーケースに24時間保存した。その後、各試験品の残存酸素濃度及び残存炭酸ガス濃度を測定した。その結果を表11にまとめて示す。また、ショーケース保存後の各試験品の枝豆について、茹でて冷ました直後の枝豆と比較して、見た目の色、味について評価した。見た目の色と風味の評価基準は、表6の評価基準と同じである。これらの評価結果についても表11にまとめて記す。
【0079】
【表11】

【0080】
表11の結果から、脱酸素剤を用いた場合、少なくとも冷暗所保管に24時間は必要であった。また、残存酸素濃度は、使用する脱酸素剤のタイプによりかなり異なる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施例における「(1)野菜の呼吸量一覧」での残存ガス(O,CO)濃度の測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例における「(2)切り方の違いによる呼吸量の比較:キャベツ」での残存ガス(O,CO)濃度の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例における「(3)切り方の違いによる呼吸量の比較:ニンジン」での残存ガス(O,CO)濃度の測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例における「(4)野菜呼吸量の最適温度の確認」での残存酸素濃度(O%)の測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例における「(4)野菜呼吸量の最適温度の確認」での残存炭酸ガス濃度(CO%)の測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例における「(6)冷暗所保管時間の変化による効果確認」での残存ガス(O,CO)濃度の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例における「(7)食品と野菜の混合比の違いによる効果確認」での残存ガス(O,CO)濃度の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品と、冷暗所において酸素吸収作用を有する野菜とを包装容器に収容して密封し、これを冷暗所保管し、この冷暗所保管後の包装容器内の残存酸素濃度を7体積%以下とすることを特徴とする食品の変質抑制方法。
【請求項2】
冷暗所保管後の包装容器内の残存酸素濃度を5体積%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の食品の変質抑制方法。
【請求項3】
前記野菜が、キャベツ、ニンジン、キュウリ、葱類、もやし、アスパラガス、ブロッコリー、スィートコーン、セロリ、レタス、ほうれん草、かぼちゃ、エノキダケ、オクラ、ハーブ類からなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の食品の変質抑制方法。
【請求項4】
前記食品が、加熱処理された食品であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の食品の変質抑制方法。
【請求項5】
前記加熱処理された食品が、豆類、野菜類、蛸、蟹、海老、シャコを加熱処理した食品からなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項4に記載の食品の変質抑制方法。
【請求項6】
前記食品が、海草類、ハム、生ハム、ベーコン、ソーセージ、天然油脂、魚介類、魚肉練り製品、食肉、これらを使用した食品、生菓子からなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の食品の変質抑制方法。
【請求項7】
前記包装容器内に、前記食品と前記野菜と共に脱酸素剤を入れることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の食品の変質抑制方法。
【請求項8】
食品と、冷暗所において酸素吸収作用を有する野菜とを包装容器に収容して密封し、請求項1〜7のいずれかに記載の食品の変質抑制方法を実行して包装容器内の残存酸素濃度が7体積%以下とされたことを特徴とする食品包装体。
【請求項9】
前記包装容器及びその開口を塞ぐ蓋の少なくとも一部が透明又は光透過性であることを特徴とする請求項8に記載の食品包装体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−136208(P2009−136208A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315766(P2007−315766)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000239138)株式会社エフピコ (98)
【Fターム(参考)】