説明

食品の殺菌方法

【課題】 クロストリジウム・ボツリヌス等の芽胞菌を効果的に殺菌し、且つ食品の味や香り、食感を損なわない食品の殺菌方法を提供する。
【解決手段】 殺菌対象となる食品中に、システイン、アラニン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、ロイシン、及びグリシンから選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸を添加した後、50〜600MPaの圧力で1〜240分間処理する高圧処理工程と、
前記高圧処理工程後、60〜100℃の温度で5分間以上加熱する低温殺菌処理工程と
を備えることを特徴とする食品の殺菌方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の殺菌方法、特に食品の安全性の面で問題となる耐熱性及び耐圧性の高い芽胞を有するクロストリジウム・ボツリナム等の芽胞菌の殺菌に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の高圧処理を用いた微生物の殺菌は、100℃以上の高温加熱殺菌と比べて、食品の味や香り、食感を損なわないことが知られている。加えて、高圧処理殺菌は、加熱処理殺菌に比べてエネルギー効率もよいため、現在までに様々な高圧処理殺菌方法が検討されている。しかしながら、芽胞菌として知られる細菌は、耐圧性を有する芽胞を形成し、高圧処理単独の殺菌では、このような芽胞菌の芽胞を殺菌することは難しい。このため、例えば、高圧処理を用いて芽胞を殺菌する方法として、高圧処理と加熱処理を併用する方法(例えば、特許文献1〜3)、や、高圧処理と添加物などを併用する方法(例えば、特許文献4〜7)等が報告されている。
【0003】
これらの高圧処理殺菌方法では、圧力に対してあまり強くない芽胞菌、無芽胞菌、カビ、酵母等を殺菌することが可能である。しかしながら、ある種の芽胞菌が形成する芽胞は、耐圧性や耐熱性が極めて高く、先に述べたような従来の高圧処理方法では十分に殺菌することができない。特に、強力な神経毒を産生することから、食品の安全性に関わる最も重要な微生物であり、食品殺菌の指標菌とされているクロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)等のクロストリジウム属菌の形成する芽胞は、耐圧性が極めて強く、高圧処理を用いて殺菌することが難しい。
【0004】
これに対して、高圧処理後にクロストリジウム・ボツリナム等のクロストリジウム属菌の芽胞の発育を抑制する添加物を用いる方法も提案されている(特許文献4)ものの、この方法では芽胞の発育を抑制するのみで殺菌には至っておらず、安全性の面で十分であるとは言えない。一方で、1000MPa程度の高圧力処理と100℃程度の高温での加熱処理を同時に行うことによって、これら芽胞の殺菌が可能であることが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、このような高い圧力処理と高温での加熱処理を同時に行なえるような処理装置は、現在のところ実験用の小型装置のみであって、食品製造に実際に用いられるような大型の処理装置においては、同様の高温・高圧処理条件を再現することが困難であるとともに、実用に際してのコスト面での負担も大きい。加えて、高温・高圧で処理しているため、食品の風味や食感が落ちてしまうという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−91770号公報
【特許文献2】特開平5−227925号公報
【特許文献3】特開2000−32965号公報
【特許文献4】特開平5−252920号公報
【特許文献5】特開平8−182486号公報
【特許文献6】特開平5−227925号公報
【特許文献7】特開平6−70730号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Applied And Environment Microbiology, Vol.72, No.5, p3476-3481, May 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に説明したように、従来の高圧殺菌処理方法では、例えば、クロストリジウム・ボツリナム等のクロストリジウム属菌が形成する熱や圧力に強い芽胞を十分に殺菌することは難しく、特にこのような芽胞が生育可能な低酸性の食品の殺菌法として用いるには安全性の面で問題があった。すなわち、本発明の解決しようとする課題は、高耐熱性、高耐圧性の芽胞菌を効果的に殺菌し、且つ食品の味や香り、食感を損なわない食品の殺菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、前記従来技術の課題に鑑みて鋭意検討を行った結果、食品中にシステイン等の特定種のアミノ酸を添加し、50〜600MPaの圧力で高圧処理を行うことによって、高耐熱性、高耐圧性の芽胞菌を効率的に発芽させ、その後、さらに60〜100℃で低温殺菌処理することによって、発芽した芽胞菌を効果的に殺菌することができることを見出した。これにより、食品の味や香り、食感を損なうことなく、従来の高圧処理法では殺菌の難しかった高耐熱性、高耐圧性の芽胞菌を十分に殺菌することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかる食品の殺菌方法は、殺菌対象となる食品中に、システイン、アラニン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、ロイシン、及びグリシンから選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸を添加した後、50〜600MPaの圧力で1〜120分間処理する高圧処理工程と、前記高圧処理工程後、60〜100℃の温度で5分間以上加熱する低温殺菌処理工程とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、前記殺菌方法において、前記アミノ酸を、食品中0.01〜0.15mol/l添加することが好適である。
また、前記殺菌方法において、前記アミノ酸としてアラニン及び/又はシステインを用いることが好適である。
【0011】
また、前記殺菌方法において、前記高圧処理工程の際、前記アミノ酸とともに、重曹を添加した後、高圧処理することが好適である。
また、前記殺菌方法において、前記重曹を、食品中0.2〜1.0mol/l添加することが好適である。
また、前記殺菌方法において、前記アミノ酸の含有量が合計0.15mol/l未満の食品を殺菌対象とすることが好適である。
【0012】
また、本発明にかかる食品の殺菌方法は、アミノ酸含有量が合計0.01mol/l以上の食品中に、重曹を添加した後、50〜600MPaの圧力で1〜240分間処理する高圧処理工程と、前記高圧処理工程後、60〜100℃の温度で5分間以上加熱する低温殺菌処理工程とを備えることを特徴とするものである。
また、前記殺菌方法において、前記重曹を、食品中0.2〜1.0mol/l添加することが好適である。
【0013】
また、本発明にかかる殺菌方法において、食品中の芽胞菌を殺菌することが好適である。
また、前記殺菌方法において、食品中のクロストリジウム属菌を殺菌することが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる食品の殺菌方法によれば、食品中にシステイン等の特定種のアミノ酸を添加した状態で、50〜600MPaで高圧処理を行い、その後、60〜100℃で低温殺菌処理を行うことによって、食品の味や香り、食感を損なうことなく、従来の高圧処理法では殺菌することの難しかった高耐熱性、高耐圧性の芽胞菌を効果的に殺菌することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】0.08Mアミノ酸添加、100MPa高圧処理条件での殺菌効果試験の結果をまとめた図である(試験例1−1)。
【図2】0.08Mアミノ酸添加、200MPa高圧処理条件での殺菌効果試験の結果をまとめた図である(試験例1−2)。
【図3】0.08Mアミノ酸添加、400MPa高圧処理条件での殺菌効果試験の結果をまとめた図である(試験例1−3)。
【図4】0.08Mアミノ酸添加、0.1MPa処理条件での殺菌効果試験の結果をまとめた図である(試験例1−4)。
【図5】圧力条件を各種変化させ、アミノ酸添加、高圧処理による殺菌効果試験を行なった結果をまとめた図である。
【図6】処理時間を各種変化させ、アミノ酸添加、200MPa,45℃高圧処理条件での殺菌効果試験を行なった結果をまとめた図である(試験例4−1)。
【図7】処理時間を各種変化させ、アミノ酸添加、200MPa,70℃高圧処理条件での殺菌効果試験を行なった結果をまとめた図である(試験例4−2)。
【図8】アミノ酸添加濃度を各種変化させ、200MPa,45℃,120分間高圧処理条件での殺菌効果試験を行なった結果をまとめた図である(試験例5−1)。
【図9】アミノ酸添加濃度を各種変化させ、200MPa,70℃,15分間高圧処理条件での殺菌効果試験を行なった結果をまとめた図である(試験例5−2)。
【図10】アミノ酸とともに重曹を添加し、100MPa,70℃、15分間高圧処理条件での殺菌効果試験を行なった結果をまとめた図である(試験例6−1)。
【図11】アミノ酸とともに重曹を添加し、200MPa,70℃、15分間高圧処理条件での殺菌効果試験を行なった結果をまとめた図である(試験例6−2)。
【図12】重曹添加濃度を各種変化させ、100MPa,70℃、15分間高圧処理条件での殺菌効果試験を行なった結果をまとめた図である。
【図13】ハヤシライス中に重曹を添加し、100MPa,70℃、15分間高圧処理条件での殺菌効果試験を行なった結果をまとめた図である(試験例8−1)。
【図14】ハヤシライス中に重曹を添加し、200MPa,70℃、15分間高圧処理条件での殺菌効果試験を行なった結果をまとめた図である(試験例8−2)。
【図15】ゴボウ中にアミノ酸及び重曹を添加し、100MPa,70℃、15分間高圧処理条件での殺菌効果試験を行なった結果をまとめた図である(試験例8−3)。
【図16】ゴボウ中にアミノ酸及び重曹を添加し、200MPa,70℃、15分間高圧処理条件での殺菌効果試験を行なった結果をまとめた図である(試験例8−4)。
【図17】アミノ酸及び重曹添加後、高圧処理及び加熱処理によるクロストリジウム・ボツリナム(62A:A型毒産生株)の殺菌効果試験の結果をまとめた図である(試験例9−1)。
【図18】アミノ酸及び重曹添加後、高圧処理及び加熱処理によるクロストリジウム・ボツリナム(213B:B型毒産生株)の殺菌効果試験の結果をまとめた図である(試験例9−2)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、従来の高圧処理法では十分に殺菌することのできなかった芽胞菌、特に食品の安全性の面で問題となるとともに、耐熱性及び耐圧性の非常に高い芽胞を有するクロストリジウム・ボツリナム等のクロストリジウム属菌に関し、特にその芽胞の発芽に着目してなされたものである。すなわち、クロストリジウム・ボツリナム等のクロストリジウム属菌が形成する芽胞は、耐熱性及び耐圧性が非常に高いものの、芽胞そのままの状態では増殖することはなく、代謝も非常に小さい。しかしながら、生育に適した環境になると芽胞が発芽し、通常の代謝増殖能を有する栄養細胞となる。ここで、芽胞の状態では耐熱性及び耐圧性が高いために殺菌処理が非常に難しいものの、発芽した栄養細胞の状態であれば比較的低温で加熱することによって殺菌することができる。したがって、芽胞菌が形成した芽胞を効率よく発芽させることができれば、低温加熱処理によって芽胞菌を十分に殺菌することが可能となる。
【0017】
本発明の殺菌方法では、システイン等の特定種のアミノ酸を添加した状態で、高圧処理を行うことによって、高耐熱性、高耐圧性の芽胞菌が形成する芽胞を効率よく発芽させることができる。さらにその後、比較的低温で加熱処理を行うことによって、発芽した芽胞菌を効果的に殺菌することができる。これにより、従来の高圧処理法では殺菌が非常に困難であった高耐熱性、高耐圧性の芽胞菌を十分に殺菌することができ、また、高温での加熱処理を行わないため、食品の味や香り、食感を損なうことがない。
【0018】
このため、本発明にかかる食品の殺菌方法は、殺菌対象となる食品中に、システイン、アラニン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、ロイシン、及びグリシンから選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸を添加した後、50〜600MPaの圧力で1〜120分間処理する高圧処理工程と、前記高圧処理工程後、60〜100℃の温度で5分間以上加熱する低温殺菌処理工程とを備えることを特徴としている。
【0019】
本発明の殺菌方法においては、特に芽胞菌を含む微生物による汚染が問題となり、且つ高圧処理可能な食品が対象となる。本発明の殺菌方法の対象となる食品としては、特に限定されるものではないが、例えば、液状食品、半流動食品等がある。液状食品としては、清涼飲料水、炭酸飲料、栄養ドリンク、コンソメスープ、ミネストローネ、味噌汁、お吸い物等の粘性のない液体を含む食品が挙げられる。また、半流動食品としては、カレー、シチュー、おかゆ、あんかけ、ゼリー、フルーツソース等の粘性のある液体を含む食品が挙げられる。一方で、固形食品の場合には、通常、食品の内部までアミノ酸を均一に浸透させることは難しく、内部まで十分な殺菌効果を得ることは難しいものの、外表面のみであれば殺菌効果が得られるため、この範囲内であれば、本発明の殺菌方法を適用することができる。
【0020】
なお、殺菌対象となる食品のpHは5.0〜9.0の範囲であることが望ましい。この範囲を逸脱すると、すなわち、低pH又は高pH環境では芽胞の発芽が生じ得ず、著しく殺菌効果に劣る場合がある。また、食品の水分活性は0.94以上にあることが望ましい。これよりも水分活性が低いと、低pH又は高pHの場合と同様に、芽胞の発芽が生じない環境条件となり、殺菌効果が得られない場合がある。
【0021】
〈高圧処理工程〉
本発明の殺菌方法においては、高圧処理に先立って、殺菌対象となる食品中に特定種のアミノ酸を添加する。なお、特定種のアミノ酸は食品中で均一になるように添加・混合する必要がある。アミノ酸としては、システイン、アラニン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、ロイシン、又はグリシンのいずれかのアミノ酸を適宜選択して使用することができる。また、これらのアミノ酸の2種以上を組み合わせて用いても構わない。食品中に添加するアミノ酸の量は、食品中、0.01〜0.15mol/lであることが好ましい。アミノ酸の添加量が、食品中0.01mol/lよりも少ないと、高圧処理を行っても芽胞を効率的に発芽させることができず、十分な殺菌効果が得られない場合があり、一方で、食品中0.15mol/lよりも多く添加しても、これ以上の殺菌効果の向上はみられず、むしろ食品の風味等に悪影響を及ぼす場合がある。なお、アミノ酸の種類によって殺菌効果に差があり、効果的に殺菌可能な順に、システイン、アラニン、メチオニン、フェニルアラニン、ロイシン、セリン、グリシンとなる。なお、殺菌対象とする食品中にすでにアミノ酸が0.15mol/l以上含まれている場合には、さらにアミノ酸を添加しても殺菌効果がそれ以上改善されない場合がある。このため、本発明においては、特にアミノ酸0.15mol/l未満の食品を殺菌対象とした場合に、有利な殺菌改善効果が得られる。
【0022】
つづいて、上記特定種のアミノ酸を添加した食品を高圧処理する。高圧処理は、50〜600MPaの圧力で1〜120分間行う。より好ましくは、100〜600MPaの圧力で10〜120分間高圧処理を行う。高圧処理時の圧力が50MPaより小さいと、芽胞の発芽が十分でなく、殺菌効果が不十分となる場合がある。一方で、圧力が高すぎても発芽が抑制される傾向にあり、600MPaを超える圧力で処理した場合、芽胞の発芽が抑制されて、殺菌効果が不十分となる場合があることに加え、現在市販のされている食品加工用の高圧処理装置の多くが限界圧力600MPaであり、これ以上の圧力処理は現実的でない。また、処理時間は、1分間未満であると、芽胞の発芽が十分でなく、殺菌効果が不十分となる場合があり、一方で、120分間を超えて処理しても、これ以上の発芽効果は得られない一方で、処理が過剰となり、食品の味や香り、食感を損なう恐れがある。
【0023】
また、高圧処理時の温度は40〜80℃とすることが望ましい。40℃未満では、芽胞菌が発芽し難い場合があり、一方で、80℃を超えると、熱による食品へのダメージが大きく、食品の味や香り、食感が劣化するほか、装置にもダメージを与え、エネルギーロスが大きくなる。高圧処理時の温度は、殺菌対象となる食品の量、種類、粘度などによって適宜決定することができる。また、高圧処理を行う前に、湯煎機など加温装置を用いて、予め食品を高圧処理の温度まで加温しておくことが望ましい。加温は食品の中心温度が目的の温度に達するまで行う。高圧処理装置としては、上記の圧力及び温度条件を達成できる装置であれば、いずれのものを用いてもよい。
【0024】
なお、本発明の殺菌方法においては、上記特定種のアミノ酸を添加した状態で、高圧処理を行うことが特に重要である。すなわち、アミノ酸を添加した状態で、高圧処理を行なうことによって、クロストリジウム属菌のような高耐熱性、高耐圧性の芽胞菌を効率よく発芽させることができるのであって、アミノ酸添加単独、あるいは高圧処理単独では、芽胞菌を十分に発芽させることはできない。また、高圧処理した後にアミノ酸を添加した場合であっても、芽胞を効率的に発芽することができないため、殺菌が不十分となる。
【0025】
また、本発明の殺菌方法においては、殺菌対象となる食品に対し、上記特定種のアミノ酸に加えて、さらに重曹(炭酸水素ナトリウム)を添加することが好適である。アミノ酸に加え、さらに重層を添加することによって、アミノ酸を単独で使用した場合と比較して、さらに殺菌効果が改善される。食品中に添加する重曹の量は、食品中、0.2〜1.0mol/lであることが好ましい。重曹の添加量が、食品中0.2mol/lよりも少ないと、殺菌効果が改善されない場合があり、一方で、食品中1.0mol/lよりも多く添加すると、むしろ食品の風味等に悪影響を及ぼす場合がある。
【0026】
なお、殺菌対象とする食品中にアミノ酸が0.01mol/l以上含まれている場合であっても、さらに重層を添加して高圧処理を行なうことによって、殺菌効果が改善される。このため、アミノ酸を0.01mol/l以上含む食品を殺菌対象である場合に、重曹を添加した上で、以上と同様にして高圧処理を行なうことによって、優れた殺菌効果が得られ、このような殺菌方法についても本発明の範疇である。
【0027】
〈低温殺菌処理工程〉
つづく低温殺菌処理工程では、前記高圧処理工程後の食品を60〜100℃で、5分間以上加熱する。より好ましくは、70〜95℃で、5〜30分間加熱処理を行う。60〜100℃の温度で加熱することによって、前記高圧処理工程により発芽した芽胞菌を十分に殺菌することができ、これに加えてカビや酵母、無芽胞菌等についても殺菌することができる。なお、加熱する温度や時間は、殺菌対象となる食品の量、種類、粘度等によって適宜決定される。温度が60℃よりも低い、あるいは加熱時間が5分より短いと、発芽した芽胞菌を十分に殺菌することができない場合がある。一方で、100℃を超える温度で加熱処理した場合、熱による食品へのダメージが大きく、食品の味や香り、食感が劣化してしまう。
【0028】
また、低温殺菌処理工程の後、食品を適切な貯蔵温度まで速やかに冷却することによって保存性をより向上させることができる。あるいは、製造上の都合等により、高圧処理工程の後、低温殺菌処理工程を行うまでに時間が必要な場合は、高圧処理工程後に食品を冷却し、数時間〜1日程度冷蔵した後、低温殺菌処理工程を行っても、ほぼ同様の殺菌効果が得られる。
【0029】
なお、本発明の殺菌方法において、殺菌対象となる食品は、予め容器に充填した状態で前記高圧処理工程及び低温殺菌処理工程を行ってもよく、あるいは全工程を終了後、殺菌済みの食品を殺菌済みの容器に無菌的に充填して製品としてもよい。なお、通常の場合、食品を容器に充填した状態で、前記高圧処理工程及び低温殺菌処理工程を行うことが、製造上望ましい。すなわち、殺菌対象となる食品を容器に充填し、上記特定種のアミノ酸を容器中に添加・混合した後、封入する。そして、この食品を封入した容器に対して、前記高圧処理工程及び低温殺菌処理工程を行う。
【0030】
予め食品を容器に充填した状態で、前記高圧処理工程及び低温殺菌処理工程を行う場合、食品を充填する容器は、高圧処理可能な容器である必要がある。高圧処理可能な容器とは、すなわち、外部からかけた圧力が容器を介して間接的に内部の食品に作用する必要があり、且つ圧力によって穴が開いたり、壊れたり、溶けたりしない容器である。また、高圧処理につづいて低温殺菌処理を行うため、加熱により容器内の食品へと熱が伝わる必要があり、且つ加熱によって溶けたり、穴が開いたり、壊れたりしない必要がある。このような容器として、具体的には、加圧による体積変化が許容可能な缶等の金属容器、あるいはプラスチックカップ、パウチ等の軟包装容器が挙げられる。また、長期間の保存を可能とするためには、ガスや光に対するバリア性を有する容器が望ましい。
【実施例1】
【0031】
以下、本発明にかかる食品の殺菌方法の実施例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
最初に本実施例において用いた試験条件および試験方法について説明する。
【0032】
〈供試菌株〉
供試菌株として、強力な毒素を産生することから、食品の安全性に関わる最も重要な微生物であり、極めて強い耐圧性を持つ嫌気性芽胞菌であるクロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)の加熱殺菌実験における代替菌として使用され、且つ強い耐圧性を持つ嫌気性芽胞菌であり、腐敗菌の一種でもあるクロストリジウム・スポロゲネス(Clostridium sporogenes)を用いた。
【0033】
〈供試菌液の調製〉
クロストリジウム・スポロゲネス(Clostridium sporogenes NBRC14293)は、5mlのTP培地(5% Tripticase peptone、 0.5% Bacto Peptone、0.125%リン酸水素二カリウムpH7.5)に接種し、35℃で1晩かけて培養した(第一培養菌液)。その後、第一培養菌液1mlを9mlの新しいTP培地に移し、4時間培養した(第二培養菌液)。続いて、第二培養菌液10mlを90mlの新しいTP培地に移し、4時間培養した(第三培養菌液)。最後に、第三培養菌液100mlを900mlの新しいTP培地に移し、2日間培養した(第四培養菌液)。培養はすべて嫌気条件下で行った。最後の2日間だけ、エージレス(FX、三菱ガス化学株式会社、東京)を用いて脱酸素した。その他は、ガス(10%水素+10%二酸化炭素+80%窒素)置換を行った。第四培養菌液は、芽胞形成していることを顕微鏡で確認した後に、遠心分離(4℃で12000rpm、10分間)して菌を沈殿させ、上清を捨て滅菌蒸留水を30ml加えて洗浄した。洗浄は、5回繰り返した。洗浄後、15ml遠沈管に菌液を5mlずつ分注し、−16℃で冷凍保存した。菌液は、30℃の温浴中に10分間浸して解凍して100μlのPCRチューブに分注し、80℃、10分間加熱して栄養細胞を死滅させてから4℃まで冷却させ、再び−16℃のフリーザーに入れ凍結保存し、使用した。
【0034】
〈試験方法〉
1mlのリン酸緩衝液(pH7.0)をフレキシブルパウチに入れ、上記で作製したクロストリジウム・スポロゲネスの菌液を10μl入れ、さらにアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、又はバリンのうち一種類を0.08mol/lの濃度になるように添加し、空気が入らないようにヒートシールし、下記に示す各種処理条件で処理を実施した。
上記処理後の各処理パウチから、クロストリジウム・スポロゲネス入りの溶液を分取し、0.85%生理食塩水で適宜希釈し、希釈溶液と寒天を除いたクロストリジア測定用培地(日水製薬株式会社、東京)を試験管に1:1で混合し、アルミキャップを乗せ、嫌気条件下で4日間、35℃培養した。菌数は5本最確数法で測定した。
また、以上のようにして測定した処理後の菌数と初発の菌数について、log(N[処理後菌数]/N0[初発菌数])を算出し、殺菌効果とした。
【0035】
〈処理条件〉
以下の条件での処理を実施した。
試験例1−1:各種アミノ酸を0.08mol/lとなるように添加し、100MPa、45℃で120分間高圧処理後、80℃、10分加熱処理
試験例1−2:各種アミノ酸を0.08mol/lとなるように添加し、200MPa、45℃で120分間高圧処理後、80℃、10分加熱処理
試験例1−3:各種アミノ酸を0.08mol/lとなるように添加し、400MPa、45℃で120分間高圧処理後、80℃、10分加熱処理
試験例1−4:各種アミノ酸を0.08mol/lとなるように添加し、0.1MPa、45℃で120分間高圧処理後、80℃、10分加熱処理
なお、上記試験例1−1〜1−4については、比較のため、アミノ酸無添加の条件で同様の試験を行なった。
【0036】
〈試験結果〉
試験例1−1〜1−4の試験結果を下記表1及び図1〜4にそれぞれ示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1及び図1〜4に示すように、アミノ酸を添加せずに高圧処理、低温加熱処理を行った条件では、いずれも菌数は1桁以上減少しなかったが、0.08Mのシステイン、アラニン、セリン、メチオニン、フェニルアラニン、グリシン、又はロイシンを添加して高圧処理、低温加熱処理を行なった試験例1−1〜1−3の条件では、菌数が1桁以上減少した。より具体的には、システインで4桁以上、アラニン、セリン、メチオニンで3桁以上、フェニルアラニン、グリシン、ロイシンで2桁以上まで減少した。一方で、高圧処理を行なわなかった試験例1−4の条件では、アミノ酸の添加の有無に関わらず生残数の減少は見られなかった。80℃,10分間の低温加熱処理では胞子は死滅しないことから、アミノ酸と高圧処理が相乗的に発芽を促し、つづく低温加熱処理によって発芽した栄養細胞が殺菌されたものと考えられる。また、100〜400MPaで高圧処理、低温加熱処理した試験例1−1〜1−3のうち、200MPaで処理した試験例1−2の場合において最も高い殺菌効果が得られた。
【実施例2】
【0039】
つづいて、上記試験において特に殺菌改善効果の見られたアミノ酸4種(アラニン、グリシン、システイン、及びセリン)を添加した上で、高圧処理中の温度を変化させて同様の試験を行うことによって、高圧処理中の最適温度について検討した。
〈試験方法〉
上記実施例1と同様にして、クロストリジウム・スポロゲネス菌液を緩衝液とともに封入したパウチに、上記各種アミノ酸(アラニン、グリシン、システイン、セリンのうち1種類)をそれぞれ0.08mol/lとなるように添加し、温度20〜70℃(20,45,70℃)、圧力100〜200MPa(100Pa,200Pa)の条件で120分間高圧処理後、80℃、10分間低温加熱処理した。
なお、比較試験として、低圧処理条件(0.1MPa、20〜70℃、120分処理)、及びアミノ酸無添加処理条件で上記同様の試験を行った。
〈試験結果〉
上記各温度、各圧力条件で処理した場合の殺菌効果の試験結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示すように、20℃の条件で高圧処理した場合、上記4種類のアミノ酸を添加しても殺菌効果は小さく、生残菌数の減少は1〜2桁程度であった。45℃で高圧処理を行なった場合、アミノ酸添加による殺菌効果の改善が顕著にみられ、特にアラニン、システインを添加して100〜200MPaの条件で高圧処理した場合、生残菌数は3〜5桁減少した。70℃高圧処理の場合、アミノ酸添加によるの殺菌改善効果はさらに向上しており、特に200MPa処理条件では生残菌数が5桁以上減少した。
【実施例3】
【0042】
つづいて、高圧処理工程における圧力を変化させて同様の試験を行うことによって、好適な処理圧力について検討した。
〈試験方法〉
上記実施例1と同様にして、クロストリジウム・スポロゲネス菌液を緩衝液とともに封入したパウチに、アミノ酸3種類(アラニン、グリシン、システイン)をそれぞれ0.08mol/lの濃度になるように添加し、圧力25〜400MPa(25,50,100,200,400,500,600MPa)、温度70℃の条件で120分間高圧処理後、80℃で10分間加熱処理した。
〈試験結果〉
上記各圧力条件で処理した場合の殺菌効果の試験結果を表3及び図5に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
上記表3及び図5に示すように、圧力が大きくなるとともに、低温加熱処理後の生菌数が減少した。システインを添加した場合、50MPa以上で明らかな殺菌効果が得られ、50MPaでは約3桁、100〜600MPaでは5桁以上の減少がみられた。アラニン、グリシンを添加した場合、50MPaでは効果がなかったものの、アラニンでは100MPa以上で5桁以上、グリシンでは200MPa以上で5桁以上の殺菌効果が得られた。
【実施例4】
【0045】
さらに、高圧処理工程の時間を変化させて同様の試験を行うことによって、好適な処理時間について検討した。
〈試験方法〉
試験例4−1:上記実施例1と同様にして、クロストリジウム・スポロゲネス菌液を緩衝液とともに封入したパウチにアミノ酸4種類(アラニン、グリシン、システイン、セリン)をそれぞれ0.08mol/lの濃度になるように添加し、圧力200MPa、温度45℃の条件で、30〜120分間(30,60,120分間)高圧処理後、80℃、10分間加熱処理した。
試験例4−2:上記試験同様にクロストリジウム・スポロゲネス菌液及びアミノ酸4種を添加したパウチを、圧力200MPa、温度70℃の条件で、10〜120分間(10,15,30,60,120分間)高圧処理後、80℃、10分間加熱処理した。
〈試験結果〉
上記試験例4−1の試験結果を表4及び図6に、上記試験例4−2の試験結果を表5及び図7に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
上記表4及び図6に示すように、200MPa,45℃で高圧処理した場合、高圧処理時間が長くなるほど、処理後の生菌数が減少した。システインを添加した場合、60分後には約4桁減少した。また、アラニン、セリンを添加した場合、120分後には4桁以上減少した。グリシンを添加した場合、60分後に約3桁減少した。
さらに、上記表5及び図7に示すように、200MPa,70℃で高圧処理した場合、200MPa,45℃で高圧処理した場合と比べて、極めて短時間で生菌数が減少した。アラニン、システイン、セリンを添加した場合、30分後には約5桁の減少が見られた。また、グリシンを添加した場合、60分後で約5桁の減少が見られた。
【実施例5】
【0049】
さらに、高圧処理工程におけるアミノ酸濃度を変化させて同様の試験を行うことによって、好適な処理濃度について検討した。
〈試験方法〉
試験例5−1:上記実施例1と同様にして、クロストリジウム・スポロゲネス菌液を緩衝液とともに封入したパウチに、上記実施例1において効果の認められた7種類のアミノ酸(アラニン、セリン、グリシン、メチオニン、ロイシン、フェニルアラニン、システイン)を、それぞれ0.001〜0.08mol/lになるように添加し、圧力200MPa,温度45℃で120分間高圧処理後、80℃、10分間低温加熱処理した。
試験例5−2:上記試験と同様にクロストリジウム・スポロゲネス菌液にアミノ酸7種を各種濃度で添加したパウチを、圧力200MPa,温度70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間低温加熱処理した。
〈試験結果〉
上記試験例5−1の試験結果を表6及び図8に、上記試験例5−2の試験結果を表7及び図9に示す。
【0050】
【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
上記表6及び図8に示すように、200MPa,45℃で120分間高圧処理した場合、0.01〜0.02mol/lまではアミノ酸濃度の増加とともに殺菌効果が向上した。なお、これよりも高い濃度添加した場合であっても殺菌効果はほとんど変わらず、また、低下することもなかった。
また、上記表7及び図9に示すように、200MPa、70℃で10分間高圧処理した場合も、200MPa,45℃で120分間高圧処理した場合と同様に、0.01〜0.02mol/lより高い濃度では効果はほとんど変わらなかった。以上の結果から、アミノ酸の添加濃度は、0.01〜0.02mol/lであることが望ましいと考えられる。
【実施例6】
【0053】
つづいて、アミノ酸に加えて、さらに重曹(炭酸水素ナトリウム)を同時に添加して高圧処理を行なうことによって、アミノ酸と重曹との相乗効果について検討した。
〈試験方法〉
試験例6−1:上記実施例1と同様にして、クロストリジウム・スポロゲネス菌液を緩衝液とともに封入したパウチに、(1)グリシン0.08mol/l、(2)グリシン0.08mol/l及び重曹0.4 mol/l、又は(3)重曹0.4mol/lを添加した後、100MPa,70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間低温加熱処理した。なお、(1)については、重曹0.4mol/lと同等のpH(pH8.4)に調整した。
試験例6−2:上記試験同様に、クロストリジウム・スポロゲネス菌液に、(1)〜(3)の条件で0.08mol/lグリシン及び/又0.4mol/l重曹を添加し、圧力200MPa,温度70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間低温加熱処理した。
〈試験結果〉
上記試験例6−1の試験結果を表8及び図10に、上記試験例6−2の試験結果を表9及び図11に示す。
【0054】
【表8】

【0055】
【表9】

【0056】
上記表8及び図10に示すように、100MPa、70℃で15分間高圧処理した場合、(1)グリシン単独では殺菌効果があまり得られず、また、(3)重曹単独ではまったく殺菌効果は得られなかったものも、(2)両者を併用することで、1〜2桁菌数が減少することがわかった。また、(1)グリシン単独添加条件においては、0.4M重曹添加の場合と同程度のpH8.4へと調整しているにもかかわらず、胞子の発芽が起こらなかったことから、重曹の併用による発芽促進効果は、単純にpHの調整によるものではないことが理解される。
他方、上記表9及び図11に示すように、200MPa、70℃で15分間高圧処理した場合、(3)重曹単独添加では1桁、(1)グリシン単独添加では3桁程度の減少がみられたのに対し、(2)両者の併用により、菌数は4〜5桁以上減少した。以上の結果から、グリシンと重曹とを組み合わせることで、高圧処理−低温加熱処理の殺菌効果が相乗的に促されていることが明らかとなった。
【実施例7】
【0057】
さらに、高圧処理工程における重曹の濃度を変化させて同様の試験を行うことによって、好適な処理濃度について検討した。
〈試験方法〉
上記実施例1と同様にして、クロストリジウム・スポロゲネス菌液を緩衝液とともに封入したパウチに、0.08mol/lグリシンに加え、(1)重曹0.4mol/l,(2)重曹0.2mol/l,(3)重曹0.1mol/l,(4)重曹0.01mol/lを添加し、100MPa、70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間低温加熱処理した。
〈試験結果〉
上記各濃度条件で処理した場合の殺菌効果の試験結果を表10及び図12に示す。
【0058】
【表10】

【0059】
上記表10及び図12に示すように、0.08mol/lのグリシンに加えて、0.01 mol/l又は0.1 mol/lの重曹を添加した場合、殺菌効果は改善しなかったものの、0.2mol/l以上の濃度で重曹を添加することによって、1桁以上の殺菌効果が得られた。
【実施例8】
【0060】
つづいて、遊離アミノ酸を多く含む食品に重曹を添加、あるいはアミノ酸含有量の比較的少ない食品中にアミノ酸と重曹とを同時に添加して高圧処理を行なうことによって、食品中での殺菌効果について検討した。
〈試験方法〉
試験例8−1:ハヤシライス(200MPa高圧処理)
(1)重曹添加区では、フレキシブルパウチにハヤシライス1mlを入れ、重曹を0.4mol/lの濃度となるように添加し、クロストリジウム・スポロゲネス胞子を10μl接種してヒートシールし、200MPa、70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間加熱処理した。(2)重曹非添加区では、フレキシブルパウチにハヤシライス1mlを入れ、重曹を添加した時と同様のpH8.4に調製し、クロストリジウム・スポロゲネス胞子を10μl接種してヒートシールし、200MPa、70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間加熱処理した。
試験例8−2:ハヤシライス(100MPa高圧処理)
上記試験例8−1と同様の条件で、100MPa、70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間加熱処理した。
【0061】
試験例8−3:ゴボウ(200MPa高圧処理)
(1)アミノ酸添加区では、クロストリジウム・スポロゲネス胞子液(5.4×10spores/ml)に1gのゴボウを浸した後、ゴボウの周りにいる微生物を滅菌蒸留水で洗浄し、風乾した後、アラニンを0.08mol/lの濃度になるように添加し、重曹を添加した時と同様のpH8.4に調製した浸漬液に漬け、200MPa、70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間加熱処理した。(2)重曹及びアミノ酸添加区では、クロストリジウム・スポロゲネス胞子液(5.4×10spores/ml)に1gのゴボウを浸した後、ゴボウの周りにいる微生物を滅菌蒸留水で洗浄し、風乾した後、重曹を0.4mol/l及びアラニンを0.08mol/lの濃度になるように添加した浸漬液に漬け、200MPa、70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間加熱処理した。(3)重曹添加区では、クロストリジウム・スポロゲネス胞子液(5.4×10spores/ml)に1gのゴボウを浸した後、ゴボウの周りにいる微生物を滅菌蒸留水で洗浄し、風乾した後、重曹を0.4mol/lの濃度になるように添加した浸漬液に漬け、200MPa、70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間加熱処理した。
試験例8−4:ゴボウ(100MPa高圧処理)
上記試験例8−3と同様の条件で、100MPa、70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間加熱処理した。
【0062】
〈試験結果〉
上記試験例8−1,2の試験結果を表11及び図13,14に、上記試験例8−3,4の試験結果を表12及び図15,16に示す。
【0063】
【表11】

【0064】
【表12】

【0065】
表11及び図13,14に示すように、遊離アミノ酸を多く含む食品であるハヤシライスを200MPa、70℃で15分間高圧処理した場合、重曹を添加することによって4桁以上の殺菌効果が得られた。なお、(2)重曹非添加の3桁と比べても(1)重曹添加によって殺菌効果が改善されていることが確認された。また、100MPa,70℃で15分間の条件では、(2)重曹非添加の場合は殺菌効果が得られなかったのに対し、(1)重曹添加により1〜2桁の殺菌効果が得られた。
また、表12及び図15,16に示すように、アミノ酸含有量の比較的少ないゴボウを200MPa、70℃で15分間高圧処理した場合、(3)重曹単独では殺菌効果はほとんど得られていないものの、(1)アラニンを単独添加、あるいは(2)アラニンと重曹との両者を添加すると、生菌数は2桁以上減少し、検出限界以下となった。一方で、100MPa、70℃で15分間高圧処理した場合、(3)重曹単独又は(1)アラニン単独の添加では効果がなく、(2)アラニンと重曹との併用によって2桁の殺菌効果が得られた。
【実施例9】
【0066】
〈供試菌株〉
クロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)2種を用いた。
〈供試菌液の調製〉
クロストリジウム・ボツリナム(C.botulinum 62A(A型毒素産生株)及び213B(B型毒素産生株)を、TP培地にて30℃,1日培養後、室温で3日さらに培養した。胞子の形成は位相差顕微鏡にて確認後、滅菌蒸留水で5回洗浄した。
【0067】
〈試験方法〉
試験例9−1:C.botulinum 62A(A型毒素産生株)
1mlの処理液(pH7.0)をフレキシブルパウチに入れ、さらに上記で作成したクロストリジウム・ボツリナム(C.botulinum 62A(A型毒素産生株))の菌液10μlを入れ、、空気が入らないようにヒートシールし、下記に示す各種処理条件で処理を実施した。
(1)アミノ酸添加区では、アラニンを0.08mol/lの濃度になるように添加し、pH7.0に調製した上、200MPa、70℃、15分間高圧処理後、80℃、10分間加熱処理した。
(2)重曹及びアミノ酸添加区では、重曹を0.4mol/l及びアラニンを0.08mol/lの濃度になるように添加し、200MPa、70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間低温加熱処理した。
(3)重曹添加区では、重曹を0.4mol/lの濃度になるように添加し、200MPa、70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間低温加熱処理した。
(4)アミノ酸・重曹非添加添加区では、アミノ酸及び重曹を添加せず、pHを7.0に調整し、200MPa、70℃で15分間高圧処理後、80℃、10分間低温加熱処理した。
【0068】
試験例9−2:C.botulinum213B(B型毒素産生株)
上記試験例9−1と同様の条件で、クロストリジウム・ボツリナム213B(B型毒素産生株)を用いて、その殺菌効果を調べた。
【0069】
〈試験結果〉
上記試験例9−1の試験結果を表13及び図17に、上記試験例9−2の試験結果を表14及び図18に示す。
【0070】
【表13】

【0071】
【表14】

【0072】
表13及び図17に示すように、クロストリジウム・ボツリナムの62A株を用いた場合、(2)アラニンと重曹とをともに添加すると1桁の殺菌効果があったものの、他の処理区では有意な殺菌効果が認められなかった。一方で、表14及び図18に示すように、クロストリジウム・ボツリナムの213B株を用いた場合では、(4)アミノ酸のみを添加したpH7.0のリン酸緩衝液においても3桁程度の殺菌効果が認められ、さらに(2)アラニンと重曹との両者を添加することによって殺菌効果がさらに改善され、生残菌数が約5桁減少した。これらの結果から、C.sporogenesだけでなく、C. botulinumに対しても、アミノ酸と重曹とを併用することによって、高圧処理−低温加熱処理による殺菌効果が相乗的に促されることが明らかとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌対象となる食品中に、システイン、アラニン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、ロイシン、及びグリシンから選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸を添加した後、50〜600MPaの圧力で1〜120分間処理する高圧処理工程と、
前記高圧処理工程後、60〜100℃の温度で5分間以上加熱する低温殺菌処理工程と
を備えることを特徴とする食品の殺菌方法。
【請求項2】
請求項1に記載の殺菌方法において、前記アミノ酸を、食品中0.01〜0.15mol/l添加することを特徴とする食品の殺菌方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の殺菌方法において、前記アミノ酸として、システイン及び/又はアラニンを用いることを特徴とする食品の殺菌方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の殺菌方法において、前記高圧処理工程の際、前記アミノ酸とともに、重曹を添加した後、高圧処理することを特徴とする食品の殺菌方法。
【請求項5】
請求項4に記載の殺菌方法において、前記重曹を、食品中0.2〜1.0mol/l添加することを特徴とする食品の殺菌方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の殺菌方法において、アミノ酸の含有量が合計0.15mol/l未満の食品を殺菌対象とすることを特徴とする食品の殺菌方法。
【請求項7】
アミノ酸含有量が合計0.01mol/l以上の食品中に、重曹を添加した後、100〜600MPaの圧力で1〜240分間処理する高圧処理工程と、
前記高圧処理工程後、60〜100℃の温度で5分間以上加熱する低温殺菌処理工程と
を備えることを特徴とする食品の殺菌方法。
【請求項8】
請求項7に記載の殺菌方法において、前記重曹を、食品中0.2〜1.0mol/l添加することを特徴とする食品の殺菌方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の殺菌方法において、食品中の芽胞菌を殺菌することを特徴とする食品の殺菌方法。
【請求項10】
請求項9に記載の殺菌方法において、食品中のクロストリジウム属菌を殺菌することを特徴とする食品の殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−75338(P2012−75338A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220693(P2010−220693)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【出願人】(505111982)学校法人 新潟科学技術学園 新潟薬科大学 (7)
【Fターム(参考)】