説明

食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの評価方法

【課題】食品咀嚼時に感知する硬さ、食感、及びテクスチャーを的確に反映し、かつ、少ない測定回数で得られる指標によって、食品咀嚼時における食品の硬さ、食感、及びテクスチャーを数値的に定量化し、統計的にそれらの違いを判別することを可能とする、食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの評価方法を提供する。
【解決手段】食品の試料をプランジャーで押圧し、同時に押圧中の荷重及び歪率を連続的に測定し、前記の荷重及び歪率の値を基に、最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次以上の近似多次曲線の歪率−荷重曲線を作成し、前記の近似多次曲線における極大値を計算して求め、該極大値を食品咀嚼時における食品の硬さを表す指標とし、前記の近似多次曲線における極大値から、これに後続する極小値までの間に存在する変曲点における接線の傾きを計算して求め、該接線の傾きを食品咀嚼時における食品の食感を表す指標とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの評価方法に関する。詳しくは、特に複雑に破断するクッキー、ビスケット、パイなどの食品について、少ない測定回数で、食品咀嚼時に知覚される食品の硬さ、食感、及びテクスチャーを数値的に定量化し、それらを統計的に評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間にとって食物の摂取は、単に生命の維持のためのエネルギーの獲得だけを目的とする行為ではなく、味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚の五感の全てを働かせて、より積極的に「おいしさ」を追求し、「満足感」、「幸福感」を享受しようとする行為である。一般的に、食物の「おいしさ」の要素として、「味」、「香り」、「外観」とともに「テクスチャー」が挙げられる。
【0003】
テクスチャーとは、国際標準化機構(International Organization for Standardization)の定義では、「力学的、触覚的及び適切であれば視覚的、聴覚的な方法で感知できる食物のレオロジー的、構造的属性の総体」であるとされる。すなわち、テクスチャーは、食品を食べる人間が感知して表現する食感と、食品自体の物性の両方を合わせた意味の用語として一般に理解されている。そして、テクスチャーの測定あるいは評価については、従来、ヒトの感覚器官により評価をする官能評価と、食品の物性を客観的に評価する物理学的測定が行われてきた。
しかしながら、現在に至るまで、食品の総合的なテクスチャーの測定あるいは評価に関しては、確立され、広く認められた方法はなかった。
【0004】
一般に各種食品の物性の測定装置として、例えば、レオメータ、クリープメータなどと称されるカ学的性状を測定する装置が普及している。該装置は圧縮破断強度、引っ張り強度、切断強度、弾性、粘弾性、脆さ、粘着性、応力緩和、クリープ等の測定が可能である。
【0005】
ここで、食品、例えば、ゲル状食品、果実などを食べたときの「硬さ」を評価する方法として、荷重−歪率曲線の破断点の荷重を指標とする評価方法がある。例えば、寒天、ゼラチン、ナタデココ、コンニャクゲルなどは、測定試料のどの部分をサンプリングしても「硬さ」の指標である破断点の荷重にバラツキがなく、比較的数値が安定しているため、この評価方法が有効である。
しかしながら、クッキー、ビスケット、パイなどの焼き菓子は複雑な破断をするため、破断点の荷重にかなりのバラツキがあり、そのため、信頼性のある破断点の荷重を得るためには、1つの試料に対して、100〜200回程度と多数回の測定を行う必要がある。
【0006】
また、クッキー、ビスケット、パイなどの焼き菓子は先述の通り、複雑な破断をするため、通常、荷重−歪率曲線上に破断点が複数あり、これらの中から食品を実際に食べたときの「硬さ」を最も反映した破断点を特定することは困難である。
【0007】
一方、「食感」に関して言えば、クッキー、ビスケット、パイなどの焼き菓子は、一般的に「サクサク」した食感を持つものが好まれる傾向にある。消費者はこのような食感を食品の優れた特性として認識し、次回購買の際の参考にすると大いに考えられるので、ヒトが実際に感知する前記のような食感を的確に反映した指標によって、食品の食感を評価する必要がある。その場合、食品の食感を評価する方法として、荷重−歪率曲線の破断点の荷重を食感の指標とすることも考えられる。
【0008】
しかしながら、例えば、しけった物と乾いた物とでは食感が全く異なるにもかかわらず、破断点の荷重がほぼ等しいケースもあり、そのため、破断点の荷重のみで食感を推測するのは困難である。また、上述したように、クッキー、ビスケット、パイなどの焼き菓子は複雑な破断をするため、破断点の荷重にかなりのバラツキがあり、信頼性のある破断点の荷重を得るために多数回の測定を行う必要がある。また、破断点が複数あるため、「食感」を最も反映した破断点を特定することは困難である。
【0009】
これまで食品の物性の測定方法あるいは食感の評価方法に関して、いくつかの提案がなされている。例えば、乳幼児用又は嚥下困難者用食品(ムース)について、上顎模型の形状計測に基づき、口蓋及び舌の形状をそれぞれモジュール化した口蓋容器及び舌プランジャーを備えた食品の物性測定器具を用い、最大応力を測定する提案(特許文献1)がある。
【0010】
また、レオメータを用い、クッキーやスナック菓子などの供試食品の破断曲線を取得し、数学的解析により所定の周波数領域での破断エネルギーを求め、官能検査のクリスプネスとの間の統計的解析を行うことにより、該破断エネルギーをクリスプネスの指標とする提案(特許文献2)がある。
【0011】
また、物性がゾルからゲルに変化する豆腐、蒲鉾、チーズなどのゲル形成食品に、内部に浸透性のある特定波長(400nmから50,000nmnmの範囲)の光を照射し、得られた吸光度曲線の特に800nm〜840nm付近の吸光度と破断力に高い負の相関があることを利用したゲル形成食品の品質判定方法の提案(特許文献3)がある。
【0012】
また、キウイやセロリなどの食品にレオメータのプローブを挿入して、発生する振動を取得し、ノイズを取り除いた該振動データから単位時間当たりの振幅密度を得て、この振幅密度が高いほど「シャキシャキ感」が高い(例えば、ダイコンよりネギの方が、振幅密度が高く、シャキシャキしている)と評価する提案(特許文献4)がある。
【0013】
また、クロワッサン、デニッシュペストリーなどの層状食品をレオメータで押圧してプランジャーにかかる荷重の合計を破断エネルギー値Eとして算出し、「破断エネルギー値E/破断点の数Njを求め、該数値を層状食品の食感の指標として評価する提案(特許文献5)がある。
【0014】
また、ゲル状食品あるいは果実などの複数試料について、荷重及び歪率のデータを連続的に測定できる装置(レオメータ等)を用いた測定を行い、得られた荷重及び歪率の測定値を基に近似四次曲線の歪率−荷重曲線を最小自乗法により作成し、当該曲線における破断点である極大値に到達する以前の曲線部分の変曲点における接線の傾きを食品の硬さとして評価する提案(特許文献6)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−283975号公報
【特許文献2】特開2001−133374号公報
【特許文献3】特開2003−106995号公報
【特許文献4】特開2007−57476号公報
【特許文献5】特開2007−225460号公報
【特許文献6】特願2009−70952
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1の提案は、ヒトの口蓋、舌の形状をモジュール化することによる、最大応力の測定方法の改善に過ぎない。また、特許文献2の提案は、異なる食感を有しながら類似の音響パターンを有するクッキーやスナック菓子の差を判断する上では適用が難しい。また、特許文献3の提案は、ゾルからゲルに変化する食品の物性を確認するに過ぎず、得られた焼き菓子の食感を評価するものではない。また、特許文献4の提案は、ネギやダイコンなどの野菜組織の「シャキシャキ感」の評価はできるが、異なる食感を有しながら類似の音響パターンを有するクッキーやスナック菓子の差を判断する上では適用が難しい。また、特許文献5の提案は、クロワッサン、デニッシュペストリーなどの層状食品の食感を評価する提案であり、焼き菓子においてパイのような層状食品には有効であるが、クッキー、スナック菓子などに適用した場合を考慮すると、全ての焼き菓子に対して有効ではない。また、特許文献6の提案は、破断挙動の比較的単純なゲル状食品には有効であるが、焼き菓子の場合、破断が急激に起こり、荷重−歪率曲線の挙動が複雑であるため、四次方程式に近似することが適切ではなく、したがって、焼き菓子には有効ではない。
【0017】
このような状況から、従来方法では食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの評価が困難であった食品、例えば、クッキー、ビスケット、パイなどの焼き菓子に関して、ヒトの実際の咀嚼時における食品の硬さ、「サクサク感」、「しけり感」、「パイらしい食感」などの食感、さらには、テクスチャーの違いを数値的に的確に表すことのできる新しい食品の評価方法の開発が望まれていた。
【0018】
そこで、本発明は、従来方法では食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの評価が困難であった食品、例えば、クッキー、ビスケット、パイなどの焼き菓子に関して、ヒトが食品咀嚼時に実際に感知する硬さ、食感、及びテクスチャーを的確に反映し、かつ、少ない測定回数で得られる指標によって、食品咀嚼時における食品の硬さ、食感、及びテクスチャーを数値的に定量化し、統計的にそれらの違いを判別することを可能とする、食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの評価方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記課題を解決するため、本発明者らは、焼き菓子その他の食品を食べたときの硬さを反映した破断点を容易に特定して数値化した指標であって、なおかつ「サクサク感」、「しけり感」、「パイらしい食感」などの食感を判別できる指標について鋭意検討を行った。そして、焼き菓子その他の食品からなる複数試料について、荷重及び歪率のデータを連続的に測定できる装置(レオメータ等)を用いた測定を行い、得られた荷重及び歪率の測定値を基に、五次以上の近似多次曲線の歪率−荷重曲線を最小自乗法により作成し、当該曲線に存在する極大値、及び変曲点における接線の傾きの値を計算して求めた。通常、クッキー、ビスケット、パイのような焼き菓子その他の食品においては、破断点における荷重が食品の硬さを示すと考えられるが、その破断点は前記近似多次曲線に存在する極大値として表され、したがって、ヒトが実際に食品を咀嚼したときに感知する硬さは、極大値をその指標とすることで数値化できることを本発明者らは見出した。
【0020】
また、前記近似多次曲線において、極大値から、これに後続する極小値までの間の変曲点における接線の傾きは、破断点以降において荷重が減少する度合いを表すが、これは、ヒトが実際に食品を咀嚼したときの「サクサク感」、「しけり感」などの食感を反映していることが統計的に明らかとなり、したがって、ヒトが実際に食品を咀嚼したときに感知する食感は、変曲点における接線の傾きをその指標とすることで数値的に表すことができることを本発明者らは見出した。
さらには、前記近似多次曲線において、極大値から、これに後続する極小値までの間の変曲点における接線の傾きが小さいほど、「パイらしい食感」が感じられることが分かった。
【0021】
そして、本発明者らは、上記の知見から、前記の極大値及び/又は接線の傾きが、ヒトが実際に食品を咀嚼したときの食品のテクスチャーを表す指標となることを見出した。
【0022】
かくして、本発明は、食品の試料をプランジャーで押圧し、同時に押圧中の荷重及び歪率を連続的に測定し、
前記の荷重及び歪率の値を基に、最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次以上の近似多次曲線の歪率−荷重曲線を作成し、
前記の近似多次曲線における極大値を計算して求め、該極大値を食品咀嚼時における食品の硬さを表す指標とし、
前記の近似多次曲線における極大値から、これに後続する極小値までの間に存在する変曲点における接線の傾きを計算して求め、該接線の傾きを食品咀嚼時における食品の食感を表す指標とし、
前記の極大値及び/又は接線の傾きを、食品咀嚼時における食品のテクスチャーを表す指標とすることを特徴とする、食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、複雑な破断をするため、破断点の荷重にバラツキがあるなどの理由から、硬さ、食感、及びテクスチャーを的確に評価することが困難であった食品(例えば、焼き菓子)に関して、少ない測定回数で、食品咀嚼時における食品の硬さ、食感、及びテクスチャーをそれぞれ数値的に定量化して、統計的にそれらの違いを判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】食品試料(バタークッキー)の荷重及び歪率のデータを基に作成した近似五次曲線の歪率−荷重曲線の一例を示す図である。
【図2】食品試料(ビスケット)の荷重及び歪率のデータを基に作成した近似五次曲線の歪率−荷重曲線の一例を示す図である。
【図3】食品試料(ビスケット)の荷重及び歪率のデータを基に作成した近似五次曲線の歪率−荷重曲線の一例を示す図である。
【図4】食品試料(しけったビスケット)の荷重及び歪率のデータを基に作成した近似五次曲線の歪率−荷重曲線の一例を示す図である。
【図5】食品試料(パイ菓子)の荷重及び歪率のデータを基に作成した近似五次曲線の歪率−荷重曲線の一例を示す図である。
【図6】食品試料(しけったパイ菓子)の荷重及び歪率のデータを基に作成した近似五次曲線の歪率−荷重曲線の一例を示す図である。
【図7】食品試料(バタークッキー)の荷重及び歪率のデータを基に作成した近似六次曲線の歪率−荷重曲線の一例を示す図である。
【図8】食品試料(ビスケット)の荷重及び歪率のデータを基に作成した近似六次曲線の歪率−荷重曲線の一例を示す図である。
【図9】食品試料(ビスケット)の荷重及び歪率のデータを基に作成した近似六次曲線の歪率−荷重曲線の一例を示す図である。
【図10】食品試料(しけったビスケット)の荷重及び歪率のデータを基に作成した近似六次曲線の歪率−荷重曲線の一例を示す図である。
【図11】食品試料(パイ菓子)の荷重及び歪率のデータを基に作成した近似六次曲線の歪率−荷重曲線の一例を示す図である。
【図12】食品試料(しけったパイ菓子)の荷重及び歪率のデータを基に作成した近似六次曲線の歪率−荷重曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明に係る食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの評価方法は、まず、評価すべき食品試料をプランジャーで押圧し、同時に押圧中の荷重及び歪率を連続的に測定する。本発明で評価が可能な食品は、例えば、クッキー、ビスケット、パイ、クラッカー、乾パン、ウエハース、スナック菓子、米菓子などの焼き菓子;天ぷら、フライ、から揚げなどの揚げ物;寒天、ゼラチン、ナタデココ、コンニャクゲル、アロエなどのゲル状食品;リンゴ、ナシ、黄桃、白桃、ブドウ、ブルーベリー、イチゴ、バナナ、メロン、スイカ、パイナップル、マンゴ、パパイヤなどの果実;ダイコン、カブ、ニンジン、カボチャ、ナス、ミニトマトなどの野菜;豆腐を挙げることができるが、これらの食品に限定されるわけではない。これらの食品のうち、クッキー、ビスケット、パイ、クラッカー、乾パン、ウエハース、スナック菓子、米菓子などの焼き菓子が特に好適である。このように、本発明の評価方法は、複雑に破断する食品、すなわち、従来、硬さ、食感、及びテクスチャーを的確に評価することができなかった食品も、評価の対象とすることができる。
【0026】
食品試料のサイズは、押圧する際に使用するプランジャーに基づいて、荷重及び歪率の測定に適した範囲のサイズにすればよい。また、測定に適した形状は問わず、通常、ホールの形状、円柱体、直方体、立方体、球体及びこれに類似する形状が採用される。例えば、直径20mm×高さ2mmないし直径50mm×高さ8mmの円柱体、底辺30mm×底辺20mm×高さ2mmないし底辺20mm×底辺20mm×高さ20mmの直方体ないし立方体、直径5mmないし20mmの球体などが例示される。なお、本発明の評価方法において、評価に供する試料の個数は特に限定されない。
【0027】
食品試料を押圧するために使用しうる装置としては、一般にプランジャーと呼ばれる、圧縮破断試験を行うことができる装置、すなわち、通常、円柱状の部品を有し、その先端部分で食品試料を一定速度(通常、0.01〜50mm/秒)で押し潰し、同時に押圧中に負荷される荷重とその荷重に対する歪率を連続的に測定することができる装置であるならば、特に制限はない。食品試料を押圧するプランジャー部分の形状は、測定する食品の実際の咀嚼態様を考慮して選択することが好ましく、例えば、主として前歯で噛む食品の場合は、くさび形、奥歯で噛む食品の場合は、円柱形のプランジャーを選択することが好ましい。市販品としては、クリープメータRE2−33005B、クリープメータRE2−3305B(以上、株式会社山電製、商品名)、レオメータCR−500DX−S(株式会社レオテック製、商品名)などを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。なお、これらの装置には、測定結果を外部に出力するためのソフトが予め組み込まれている。
【0028】
次に、前記の測定装置の出力データである荷重及び歪率の値を基に、最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次以上の近似多次曲線、例えば、近似五次曲線の歪率−荷重曲線を作成する。近似多次曲線は、五次以上であればよく、通常は、五次又は六次の近似曲線とする。前記の測定によって得られた出力データである荷重及び歪率は、五次以上の多次方程式で近似すると、出力データ分布のほぼ中央を通過する近似多次曲線として描くことができ、かつ破断曲線に酷似することを本発明者らは発見した。これにより、破断点の荷重にかなりのバラツキがあるため、従来、多数回の測定を行う必要があった焼き菓子などの食品であっても、少ない測定回数で、食品の硬さ、食感、及びテクスチャーを評価することが可能となる。
【0029】
この近似多次曲線の歪率−荷重曲線を作成するには、まず、荷重及び歪率のデータを、例えば、表計算ソフトなどのデータとしてコンピュータに取り込む。ここで、歪率(%)とは、荷重を加えない場合に比べて、試料がどれだけ変形したかを表す数値であり、{(荷重をかける前の試料の高さ−ある所定の荷重をかけたときの試料の高さ)/(荷重をかける前の試料の高さ)}×100(%)で求めることができる。例えば、実際の測定で、試料の高さが20%減少したときは、歪率は20%となる。1個の食品試料に対して、荷重及び歪率を測定する回数は食品の種類によって異なるが、破断点の前後を合わせて合計で5〜100回、好ましくは10〜80回、より好ましくは10〜50回を挙げることができる。かかる測定回数は、従来の評価技術に比べて少ない回数である。
【0030】
コンピュータに取り込んだ荷重及び歪率のデータは、最小自乗法を用いて、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次以上の近似多次曲線の荷重−歪率曲線を作成するために使用される。具体的には、荷重及び歪率のデータから、最小自乗法を用いて近似多次曲線の方程式を求め、それをグラフ化することにより近似多次曲線の荷重−歪率曲線が作成される。これらは市販ソフトを利用することによって自動的に行うことができる。
【0031】
既に述べたように、食品の硬さに関する評価方法は、荷重−歪率曲線上の破断点における荷重値を食品の硬さの指標として採用することが一般的に行われていた。しかしながら、先述の通り、焼き菓子のように複雑な破断挙動を示す試料の場合、測定ごとに破断点の荷重値にかなりのバラツキがあり、また硬さの指標となる適切な破断点を特定するのが困難であった。そのため、食品の硬さを評価するには、このバラツキを平均化し、なおかつ適切と思われる破断点を選択して数値化する必要があった。また、焼き菓子などにおいては、乾いた物としけった物とで破断点荷重がほぼ同値の物もあり、乾いた物としけった物とを数値化することによって区別する必要があった。
【0032】
そこで、本発明においては、前記の歪率−荷重曲線について五次以上の近似多次曲線を作成し、その曲線について極大値を計算して求め、食品の咀嚼時における食品の硬さを表す指標として採用する。同一条件下では、極大値における荷重値が大きいほど、歯ごたえがあり、硬いと評価される。なお、極大値は、前記の近似多次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点である。
【0033】
前記の近似多次曲線の荷重−歪率曲線について詳しく説明すると、通常は、極大値、極小値がそれぞれ1つ以上存在し、かつ、それぞれ同数存在する。例えば、図1に示した、バタークッキーを試料とした近似五次曲線のグラフにおいては(実施例1参照)、グラフ曲線が上昇から下降に転じる点である極大値、及び下降から上昇に転じる点である極小値がそれぞれ2つずつ認められる。近似多次曲線の荷重−歪率曲線において、極大値、極小値の数は、食品の成分組成、物理的構成などの各種要因によって変動し、例えば、パイ菓子、クロワッサンのような層状食品においては、通常、複数の極大値、極小値が存在する。
【0034】
食品を咀嚼した場合、ある時点で組織が壊れる、すなわち破断が起こるが、この破断点は、前記の近似多次曲線の荷重−歪率曲線におけるピーク値である極大値に相当する。複数の極大値が存在する場合、最も大きい荷重値をとる極大値が、食品を咀嚼した場合の硬さを最も的確に反映する。本発明では、荷重−歪率曲線を五次以上の近似多次曲線で表しているため、食品を咀嚼した場合の硬さを最も的確に反映した破断点の特定が非常に容易となる。
【0035】
例えば、図1に示した近似五次曲線について、食品を咀嚼したときの荷重−歪率の関係について説明すると、荷重(gf)=0から荷重が増加するに伴って歪率も増加し、最初の破断点で最初の極大値を迎え、その後、最初の極大値に後続する極小値、すなわち、最初の破断点に対応する荷重が局所的に最も減衰した点である最初の極小値に到達するまで歪率は増加するが荷重は減少し、最初の極小値を過ぎると再び、歪率の増加に伴って荷重も増大し、第2の破断点で、最初の極大値よりも小さい第2の極大値を迎え、その後、この第2の極大値に後続する第2の極小値に到達するまで歪率は増加するが荷重は減少し、第2の極小値を過ぎると再び、歪率の増加に伴って荷重も増大する関係であることが理解できる。
【0036】
また、本発明においては、前記の近似多次曲線における極大値から、これに後続する極小値までの間(破断点以降の荷重の減衰部分)に存在する変曲点における接線の傾きを計算して求め、該接線の傾きを食品咀嚼時における「サクサク感」、「しけり感」、「カリカリ感」、「シャキシャキ感」、「シャリシャリ感」、「ザクザク感」、「ガリガリ感」、「コリコリ感」、「パリパリ感」、「ポリポリ感」、「バリバリ感」などの、食品の食感を表す指標とする。該接線の傾きによって、食感の違いを数値的に表すことが可能となり、例えば、同一条件下では、この接線の傾きが大きいほど、「サクサク感」が強くなることが統計的に明らかとなっている。極大値及び極小値が複数存在する場合は、前記接線の傾きも複数存在することになるが、その場合は、最も大きい荷重値をとる極大値と、これに後続する極小値までの間の変曲点における接線の傾きが、食品を咀嚼した時の食感を最も的確に表す指標となる。なお、本発明において、「後続する極小値」とは、前記の近似多次曲線に存在する、ある特定の極大値に続いて最初に現れる極小値を意味する。極小値は、前記の近似多次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が負から正に変化する点である。
【0037】
また、本発明においては、前記の指標に加えて、近似多次曲線の分散度を示すR値を計算して求め、このR値を、特に、「パイらしい食感」、「クロワッサンらしい食感」などの食感を表す指標として採用することができる。R値は、その値が小さいほど測定結果の分散傾向が強いことを意味し、すなわち、層状の性質が強いことになり、「パイらしい食感」、「クロワッサンらしい食感」などの食感を表すことになるからである。R値は一般に決定係数と呼ばれ、相関係数Rの2乗に等しく、0≦R≦1の値をとる。なお、前記近似多次曲線の極大値、極小値、変曲点及び該変曲点での接線の傾きは、市販ソフトを利用することによって簡単に求めることができる。
【0038】
また、本発明においては、前記の極大値及び/又は接線の傾きを、食品咀嚼時における食品のテクスチャーを表す指標とする。前述したように、テクスチャーは、食品を食べる人間が感知して表現する食感と、食品自体の物性の両方を合わせた概念であるから、本発明において規定する食品の硬さを表す指標である極大値と、食感を表す指標である接線の傾きのうち、少なくとも一方を採用することによって、食品のテクスチャーを表すことができる。
【0039】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
市販されているバタークッキー(直径55mm×厚さ8.5mm円柱体)を、試料台の上に載置し、クリープメータRE2−33005B(山電社製、商品名)を用いて、該バタークッキーの上面方向から、接触面積50mmの円柱状のプランジャーを、1.0mm/秒の速度で押圧することにより、荷重(gf)及び歪率(%)を測定した。荷重(gf)及び歪率(%)の測定は、同一試料に対して15回測定した。前記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする近似五次曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、五次関数式:y=0.0000452376x−0.0096003924x+0.7306543401x−23.1402794260x+241.9761128358x+720.7439501385で表された(図1参照)。また、この時、近似五次曲線の分散度合いを示すR値は0.669となった。
次いで、前記の近似五次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点であって、かつ、最も大きい荷重値をとる極大値を特定したところ、該極大値のX座標は7.6、Y座標は1513.0であった。また、該極大値に後続する極小値を特定したところ、該極小値のX座標は34.9、Y座標は139.2であった。
次いで、前記の歪率−荷重曲線において、前記の極大値から極小値の間に存在する変曲点を特定したところ、X座標は17.5、Y座標は958.3であり、該変曲点における接線の傾きは−81.2であった。
【0041】
(実施例2)
市販されているビスケット(直径60mm×厚さ6mm円柱体)について実施例1と同様の操作を行った。前記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする近似五次曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、五次関数式:y=0.0000309152x−0.0067157687x+0.5748110521x−23.4186267445x+412.4118587289x−549.4356481123で表された(図2参照)。また、この時、近似五次曲線の分散度合いを示すR値は0.751となった。
次いで、前記の近似五次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点であって、かつ、最も大きい荷重値をとる極大値を特定したところ、該極大値のX座標は16.5、Y座標は2001.8であった。また、該極大値に後続する極小値を特定したところ、該極小値のX座標は56.0、Y座標は1030.6であった。
次いで、前記の歪率−荷重曲線において、前記の極大値から極小値の間に存在する変曲点を特定したところ、X座標は27.7、Y座標は1672.9であり、該変曲点における接線の傾きは−41.8であった。
【0042】
(実施例3)
市販されているビスケット(底辺60mm×底辺48mm×厚さ9mm直方体)について実施例1と同様の操作を行った。前記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする近似五次曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、五次関数式:y=0.0000478682x−0.0108325413x+0.8968073150x−32.0799328004x+421.7423101608x+35.1647268115で表された(図3参照)。また、この時、近似五次曲線の分散度合いを示すR値は0.757となった。
次いで、前記の近似五次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点であって、かつ、最も大きい荷重値をとる極大値を特定したところ、該極大値のX座標は10.4、Y座標は1839.4であった。また、該極大値に後続する極小値を特定したところ、該極小値のX座標は40.1、Y座標は143.0であった。
次いで、前記の歪率−荷重曲線において、前記の極大値から極小値の間に存在する変曲点を特定したところ、X座標は20.7、Y座標は1166.8であり、該変曲点における接線の傾きは−93.9であった。
【0043】
(実施例4)
市販されているビスケット(底辺60mm×底辺48mm×厚さ9mm直方体)について、該ビスケットを大気中5日間放置して、しけらせたものについて、実施例1と同様の操作を行った。前記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする近似五次曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、五次関数式:y=0.0000209571x−0.0046069094x+0.3842720666x−15.0198770917x+255.3397892694x−229.0461047341で表された(図4参照)。また、この時、近似五次曲線の分散度合いを示すR値は0.777となった。
次いで、前記の近似五次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点であって、かつ、最も大きい荷重値をとる極大値を特定したところ、該極大値のX座標は16.2、Y座標は1305.5であった。また、該極大値に後続する極小値を特定したところ、該極小値のX座標は70.8、Y座標は462.0であった。
次いで、前記の歪率−荷重曲線において、前記の極大値から極小値の間に存在する変曲点を特定したところ、X座標は26.4、Y座標は1145.1であり、該変曲点における接線の傾きは−22.4であった。
【0044】
(実施例5)
市販されているパイ菓子(底辺55mm×底辺35mm×厚さ9mm直方体)について、実施例1と同様の操作を行った。前記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする近似五次曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、五次関数式:y=0.0000128762x−0.0029877961x+0.2594004685x−10.0052086407x+155.5830151201x−105.0879867998で表された(図5参照)。また、この時、近似五次曲線の分散度合いを示すR値は0.289となった。
次いで、前記の近似五次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点であって、かつ、最も大きい荷重値をとる極大値を特定したところ、該極大値のX座標は13.5、Y座標は926.8であった。また、該極大値に後続する極小値を特定したところ、該極小値のX座標は39.8、Y座標は591.5であった。
次いで、前記の歪率−荷重曲線において、前記の極大値から極小値の間に存在する変曲点を特定したところ、X座標は23.2、Y座標は789.6であり、該変曲点における接線の傾きは−20.4であった。
【0045】
(実施例6)
市販されているパイ菓子(底辺55mm×底辺35mm×厚さ9mm直方体)について、該パイ菓子を大気中に5日間放置して、しけらせたものについて、実施例1と同様の操作を行った。前記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする近似五次曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、五次関数式:y=0.0000370242x−0.0073996256x+0.5731014177x−20.4863649299x+310.5086939365x−464.8031841358で表された(図6参照)。また、この時、近似五次曲線の分散度合いを示すR値は0.798となった。
次いで、前記の近似五次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点であって、かつ、最も大きい荷重値をとる極大値を特定したところ、該極大値のX座標は14.0、Y座標は1175.2であった。また、該極大値に後続する極小値を特定したところ、該極小値のX座標は38.9、Y座標は703.0であった。
次いで、前記の歪率−荷重曲線において、前記の極大値から極小値の間に存在する変曲点を特定したところ、X座標は22.8、Y座標は986.3であり、該変曲点における接線の傾きは−30.7であった。
【0046】
(試験例1)
実施例1〜6で述べた各検体について、専門パネラー10名により、硬さに関する官能評価を行った。その結果、実施例1のバタークッキーと実施例2のビスケットを比較したところ、パネラー全員が、実施例1のバタークッキー(極大値のY座標:1513.0)よりも、実施例2のビスケット(極大値のY座標:2001.8)の方が硬い食感であると回答した。
また、実施例1のバタークッキー(変曲点の傾き:−81.2)は破断後、サクサクした食感であるのに対し、実施例2のビスケット(変曲点の傾き:−41.8)は破断後、硬い食感が残ると回答した。
【0047】
(試験例2)
試験例1と同様に、実施例3のビスケットと実施例4のビスケットの比較を行ったところ、パネラー全員が、実施例3のビスケット(極大値のY座標:1839.4)は硬い食感であり、実施例4のビスケット(極大値のY座標:1305.5)よりも硬い食感であると回答した。
また、実施例3のビスケット(変曲点の傾き:−93.9)は破断後、サクサクした食感であるのに対し、実施例4のビスケット(変曲点の傾き:−22.4)は破断後、しけった食感であると回答した。
【0048】
(試験例3)
試験例1と同様に、実施例5のパイ菓子と実施例6のパイ菓子(しけったもの)の比較を行ったところ、パネラー全員が、実施例5のパイ菓子(極大値のY座標:926.8)は、パイの層と層の間の空気によって軟らかい食感が感じられるのに対し、実施例6(極大値のY座標:1175.2)は、しけったことによってパイの層と層が固着した硬い食感であると回答した。
また、実施例5のパイ菓子(変曲点の傾き:−20.4、R値:0.289)は破断後、多層で破断が感じられ、サクサクしたパイらしい食感であるのに対し、実施例6のパイ菓子(変曲点の傾き:−30.7、R値:0.798)は最も大きな破断以降はサクサクしたパイらしい食感がなく、クッキーに近いサクサクした歯応えであると回答した。
【0049】
試験例1〜3の結果から、近似五次曲線の歪率−荷重曲線における極大値のY座標(荷重値)の大小が、食品試料の硬さの程度を反映していることが確認できた。また、前記の変曲点における傾きの大小が、サクサクした歯応えの食感の程度を反映していることが確認できた。さらに、R値の大小が、パイらしい食感の程度を反映していることが確認できた。このように、本発明によれば、従来方法では硬さ、食感、及びテクスチャーの評価が困難であった焼き菓子について、少ない測定回数で得られる指標を用いることにより、食品咀嚼時における食品の硬さ、食感、及びテクスチャーを数値的に定量化し、それらの違いを容易に判別できることが分かった。
【0050】
(実施例7)
実施例1で得られた測定値を基に、X軸を歪率、Y軸を荷重とする近似六次曲線の歪率−荷重曲線を作成した。
その結果、該歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=−0.000000158382x+0.000088017919x−0.013975312464x+0.940449871215x−27.847629558499x+284.031622232170x+632.940466832369で表された(図7参照)。また、この時、近似六次曲線の分散度合いを示すR値は0.670となった。
次いで、前記の近似六次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点であって、かつ、最も大きい荷重値をとる極大値を特定したところ、該極大値のX座標は7.6、Y座標は1551.5であった。また、該極大値に後続する極小値を特定したところ、該極小値のX座標は34.1、Y座標は140.3であった。
次いで、前記の歪率−荷重曲線において、前記の極大値から極小値の間に存在する変曲点を特定したところ、X座標は17.0、Y座標は987.9であり、該変曲点における接線の傾きは−86.7であった。
【0051】
(実施例8)
実施例2で得られた測定値を基に、X軸を歪率、Y軸を荷重とする近似六次曲線の歪率−荷重曲線を作成した。
その結果、該歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=0.000000476258x−0.000097663788x+0.006422710726x−0.054388249102x−9.334177145618x+287.202060697600x−292.115734149701で表された(図8参照)。また、この時、近似六次曲線の分散度合いを示すR値は0.753となった。
次いで、前記の近似六次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点であって、かつ、最も大きい荷重値をとる極大値を特定したところ、該極大値のX座標は18.2、Y座標は2037.2であった。また、該極大値に後続する極小値を特定したところ、該極小値のX座標は50.6、Y座標は992.0であった。
次いで、前記の歪率−荷重曲線において、前記の極大値から極小値の間に存在する変曲点を特定したところ、X座標は30.5、Y座標は2189.2であり、該変曲点における接線の傾きは−52.2であった。
【0052】
(実施例9)
実施例3で得られた測定値を基に、X軸を歪率、Y軸を荷重とする近似六次曲線の歪率−荷重曲線を作成した。
その結果、該歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=−0.000000269589x+0.000120635174x−0.018268161597x+1.253053850107x−40.064671302505x+492.970779391471x−113.057557536754で表された(図9参照)。また、この時、近似六次曲線の分散度合いを示すR値は0.760となった。
次いで、前記の近似六次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点であって、かつ、最も大きい荷重値をとる極大値を特定したところ、該極大値のX座標は10.0、Y座標は1892.3であった。また、該極大値に後続する極小値を特定したところ、該極小値のX座標は38.9、Y座標は177.6であった。
次いで、前記の歪率−荷重曲線において、前記の極大値から極小値の間に存在する変曲点を特定したところ、X座標は19.7、Y座標は1220.6であり、該変曲点における接線の傾きは−99.3であった。
【0053】
(実施例10)
実施例4で得られた測定値を基に、X軸を歪率、Y軸を荷重とする近似六次曲線の歪率−荷重曲線を作成した。
その結果、該歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=0.000000224452x−0.000039647638x+0.001588122894x+0.087354162752x−8.362288998804x+195.923068057512x−105.313041419954で表された(図10参照)。また、この時、近似六次曲線の分散度合いを示すR値は0.783となった。
次いで、前記の近似六次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点であって、かつ、最も大きい荷重値をとる極大値を特定したところ、該極大値のX座標は17.7、Y座標は1321.0であった。また、該極大値に後続する極小値を特定したところ、該極小値のX座標は72.1、Y座標は489.2であった。
次いで、前記の歪率−荷重曲線において、前記の極大値から極小値の間に存在する変曲点を特定したところ、X座標は29.3、Y座標は1109.9であり、該変曲点における接線の傾きは−26.4であった。
【0054】
(実施例11)
実施例5で得られた測定値を基に、X軸を歪率、Y軸を荷重とする近似六次曲線の歪率−荷重曲線を作成した。
その結果、該歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=−0.000000109506x+0.000042442301x−0.006010270194x+0.404307695051x−13.256927522496x+184.661579076433x+44.106907162815で表された(図11参照)。また、この時、近似六次曲線の分散度合いを示すR値は0.290となった。
次いで、前記の近似六次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点であって、かつ、最も大きい荷重値をとる極大値を特定したところ、該極大値のX座標は12.6、Y座標は936.5であった。また、該極大値に後続する極小値を特定したところ、該極小値のX座標は38.1、Y座標は604.4であった。
次いで、前記の歪率−荷重曲線において、前記の極大値から極小値の間に存在する変曲点を特定したところ、X座標は21.5、Y座標は804.4であり、該変曲点における接線の傾きは−21.3であった。
【0055】
(実施例12)
実施例6で得られた測定値を基に、X軸を歪率、Y軸を荷重とする近似六次曲線の歪率−荷重曲線を作成した。
その結果、該歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=0.000000160137x−0.000006209414x−0.002980008833x+0.361196194393x−15.730119407177x+267.948781749233x−375.343644766137で表された(図12参照)。また、この時、近似六次曲線の分散度合いを示すR値は0.798となった。
次いで、前記の近似六次曲線を表す関数y=f(x)の一次導関数f'(x)の符号が正から負に変化する点であって、かつ、最も大きい荷重値をとる極大値を特定したところ、該極大値のX座標は14.8、Y座標は1170.0であった。また、該極大値に後続する極小値を特定したところ、該極小値のX座標は40.3、Y座標は682.1であった。
次いで、前記の歪率−荷重曲線において、前記の極大値から極小値の間に存在する変曲点を特定したところ、X座標は24.4、Y座標は968.4であり、該変曲点における接線の傾きは−30.4であった。
【0056】
実施例7〜12の結果から、六次関数近似で得られた前記の極大値、極小値、及び、変曲点の傾きの値は、それぞれ、実施例1〜6において五次関数近似で得られた極大値、極小値、及び、変曲点の傾きの値と同値ではないが、五次関数近似の場合と同様の傾向を示す値となることが分かった。また、パネラーによる官能評価と上記の数値が相関することも五次関数近似の場合と同様であった。このように、五次以上の近似多次曲線の歪率−荷重曲線から得られる前記の各指標によって、食品咀嚼時における食品の硬さ、食感、及びテクスチャーを数値的に定量化し、それらの違いを容易に判別できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品の試料をプランジャーで押圧し、同時に押圧中の荷重及び歪率を連続的に測定し、
前記の荷重及び歪率の値を基に、最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次以上の近似多次曲線の歪率−荷重曲線を作成し、
前記の近似多次曲線における極大値を計算して求め、該極大値を食品咀嚼時における食品の硬さを表す指標とし、
前記の近似多次曲線における極大値から、これに後続する極小値までの間に存在する変曲点における接線の傾きを計算して求め、該接線の傾きを食品咀嚼時における食品の食感を表す指標とし、
前記の極大値及び/又は接線の傾きを、食品咀嚼時における食品のテクスチャーを表す指標とすることを特徴とする、食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの評価方法。
【請求項2】
近似多次曲線の分散度合いを示す決定値であるR値を計算して求め、該R値を食品咀嚼時における食品の食感又はテクスチャーを表す指標とする請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
近似多次曲線が、近似五次曲線又は近似六次曲線である請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
食品が、焼き菓子である請求項1〜3のいずれか1項に記載の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−215072(P2011−215072A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85178(P2010−85178)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)