説明

食品の鮮度を保持するための包装紙

【課題】食品の鮮度を保持するための包装紙を提供する。
【解決手段】食品の鮮度を保持するための包装紙であって、
紙又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率20ないし60%のアルコール溶液を含浸、塗布又は印刷したことを特徴とする包装紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の鮮度を保持するための包装紙に関するものであり、詳細には、紙又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率20ないし60%のアルコール溶液を含浸、塗布又は印刷したことを特徴とする包装紙に関する。
【背景技術】
【0002】
肉、魚、野菜等の生鮮食品は、小売店から家に持って帰る間にも、例えば、高温や高湿度等の影響により、容易に細菌等が発生・増殖し、変色や腐敗が進行してゆくという問題がある。更に、一度細菌が発生・増殖すると、その後冷蔵庫に入れても、確かに細菌の増殖は緩やかになるものの、依然として細菌が増殖し続けてゆくという問題がある。
上記の問題を解決する、即ち、初期の段階での細菌の発生・増殖が抑えられるように、鮮度保持機能を有する食品の包装紙が幾つか使用されているが、その効果が十分でなかったり、移り香が起きる等の問題があり、あまり普及していないのが現状である。
また、鮮度保持のために、遠赤外線材を使用する包装紙(例えば、特許文献1参照。)、酸化チタンを使用する包装紙(例えば、特許文献2参照。)、粉末の炭を使用する包装紙(例えば、特許文献3参照。)等が提案されている。これらは、鮮度を維持するため材料を基材にコーティング又は基材中に混入させるものであるが、何れの場合も、簡単な操作で製造できるといえるものではなく、また、生鮮食品の包装紙の形態として使用するのに適していないものであったり、使い捨てに使用できる程の経済性を有していないものであった。
一方、幅広い抗菌性を有し、天然素材で安全性が高い物質としてヒノキチオールが知られている。しかし、ヒノキチオールは、水溶化が困難であり、紫外線に弱いという欠点を有しているため、溶解性が高いアルコールに混ぜて使用されるのが一般的であり、歯磨き、ヘアートニック等に使用されるに留まっている。
また、天然ヒノキチオールは食品添加物に指定されているにも拘らず、上記の理由等により、梅干のカビの予防程度にしか使用されていない。
【特許文献1】特開2005−105077号公報
【特許文献2】特開2003−040701号公報
【特許文献3】特開2001−010660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、慣用の鮮度保持機能を有する食品の包装紙で観られた上記の問題を解決し得る、即ち、十分な鮮度保持機能を有し且つ移り香等の問題を起こさない食品の包装紙であって、更に、安全性が高く経済性に優れる食品の包装紙の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、安全で幅広い抗菌性を有する天然素材であるヒノキチオール、若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール溶液を、紙又は不織布に含浸、塗布又は印刷すると、十分な鮮度保持機能を有し且つ移り香等の問題を起こさない食品の包装紙とすることが可能であること、及び、該包装紙は、安全性が高く経済性にも優れることを見出し本発明を完成させた。
【0005】
即ち、本発明は、
(1)食品の鮮度を保持するための包装紙であって、
紙又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又は
アルコール含有率20ないし60%のアルコール溶液を含浸、塗布又は印刷したことを特徴とする包装紙、
(2)前記ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩において2種以上の金属が使用される前記(1)記載の包装紙、
(3)前記金属が銅、アルミニウム、亜鉛又はこれらの混合物である前記(2)記載の包装紙、
(4)アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を含む水溶液を使用する前記(1)ないし(3)の何れか1つに記載の包装紙、
(5)グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む水溶液を使用する前記(1)ないし(4)の何れか1つに記載の包装紙、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の包装紙は、十分な鮮度保持機能を有し、それにより、肉、魚、野菜等の生鮮食品における細菌の発生・増殖による変色や腐敗を抑えることを可能とし、また、移り香等の発生を抑えることができ、更に、安全性が高く経済性に優れるものである。
特に好ましい態様において、各種成分を含有する水溶液又はアルコール溶液がインクの替わりに、オフセット、グラビア等の印刷機により印刷される。この場合、単に水溶液に含浸させた場合よりも、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩の安定性が増し、その結果、効果が持続する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明の、食品の鮮度を保持するための包装紙は、紙又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率20ないし60%のアルコール溶液を含浸、塗布又は印刷することにより製造できる。
【0008】
本発明に使用する紙又は不織布は、包装紙として使用できるものであれば特に限定されないが、具体的な紙としては、例えば、上質紙、中質紙、コート紙、アート紙、マット紙及び再生紙等が挙げられ、具体的な不織布としては、例えば、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布、湿式不織布及び複合化不織布等が挙げられる。
【0009】
本発明に使用するヒノキチオールは、タイワンヒノキ、ヒバ、アスナロ等の原料植物に由来する精油から抽出された天然物でもよく、化学合成品でもよい。また、市販品のヒノキチオールをそのまま用いてもよい。原料植物としては、入手容易性の観点から、ヒバが好ましい。原料植物からのヒノキチオールの抽出・精製は公知の方法により行うことができる。前記精油としてはヒバ油が好ましい。化学合成品も公知の方法により得ることができる。市販のものとしては、たとえば、高砂香料(株)や大阪有機化学工業(株)から販売されているものを挙げることができる。
【0010】
ヒノキチオールの金属錯体としては、ヒノキチオールと、亜鉛、銅、鉄、カルシウム、マグネシウム、バリウム、スズ、コバルト、チタン、バナジウムなどとの金属錯体が挙げられる。ヒノキチオールと金属との割合は、特に限定されるものではないが、通常、ヒノキチオール:金属のモル比が2:1のもの、あるいは3:1のものが好ましく用いられる。
【0011】
ヒノキチオール若しくはヒノキチオールの金属錯体の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;銅塩、亜鉛塩等の遷移金属塩;ジエタノールアミン塩、2−アミノ−2−エチル−1,3−
プロパンジオール塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;モルホリン塩、ピペラジン塩、ピペリジン塩等のヘテロ環アミン塩、アンモニウム塩、アルギニン塩、リジン塩、ヒスチジン塩等の塩基性アミン塩等の有機塩類等を挙げることができる。
【0012】
これらのヒノキチオール若しくはその金属錯体又はこれらの塩は、1種類だけ単独で含有されていてもよいし、2種類以上併用してもよく、2種以上の金属が使用されるのが好ましい。
【0013】
また、好ましくは、前記金属は銅、アルミニウム、亜鉛又はこれらの混合物である。
【0014】
また、ヒノキチオールの金属錯体又は金属錯体の塩は、耐光性がヒノキチオールよりも優れているので、耐候性が要求される場合には、ヒノキチオールの金属錯体又は金属錯体の塩を用いることが好ましい。
【0015】
ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩は、媒体1000gに対して、50μgないし100g、好ましくは、0.1gないし10g、より好ましくは、0.5ないし3gの割合で添加される。
尚、上記媒体は、水であるか又はアルコール含有率20ないし60%となるアルコール(水溶液)である。
【0016】
水溶液に使用する水は、水道水でも脱イオン水や蒸留水等の精製水でも使用できるが、脱イオン水等の精製水を使用するのが好ましい。
アルコール溶液に使用するアルコールは、たとえば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらは単独であるいは複数を組み合わせて使用してもよい。好ましいアルコールはエタノールである。
【0017】
紙又は不織布に含浸、塗布又は印刷する水溶液又はアルコール溶液中には、更に、アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を含むことができる。これらの抽出成分自体、ヒノキチオールほどではないにしても抗菌力を有するため、他の有害な菌に対する消毒効果を期待できる。また、ヒノキチオールは、一般に水に対する溶解度が0.2質量%が限界といわれているが、これらの抽出液との併用により、1質量%程度の水溶液を容易に得ることができる。従って、ヒノキチオールの含有量の高い水溶液を容易に調製できるという点からも、上記抽出物を共存させることが好ましい。
【0018】
アロエの抽出物とは、主にアロエが葉に持つゼリー状の身(葉肉)を厚搾抽出法で抽出し、熱を加えて濃縮安定化したエキスをいう。このようなアロエエキスに代えて、主成分であるアントラキノン誘導体のアロインやバーバーロインを用いてもよい。アロエ抽出物には、アロインやバーバーロインの他、アロエ‐エモジン、アロエシン、アロエニンなども含まれる。
【0019】
緑茶の抽出物としては、粉砕した緑茶を熱湯で抽出し、精製し濃縮した液を使用する。緑茶の抽出物の主成分は茶ポリフェノールである。茶ポリフェノールは、分子内にフェノール性水酸基を複数もつ化合物の総称で、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピガテキンガレート、エピガロカテキンガレートなどを主要成分とする。
【0020】
熊笹の抽出物は、低温高圧圧搾抽出法で、熊笹を抽出することにより得られる。低温高圧圧搾抽出法は、熊笹を高圧に設定した機械装置によって温度を上げずに抽出する方法で
、その時にしぼり出された液を濃縮した液が熊笹抽出物となる。熊笹は、日本や中国に広く分布しているイネ科のササの1種である。熊笹の抽出物には、主成分であるトリテルペノール(β−アミリン・フリーデン)の他、リグニン残渣、還元糖、グルコースなどの糖類も含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合成品の混合物を用いることもできる。
【0021】
ドクダミは、日本、タイワン、中国、ヒマラヤ、ジャワに分布し、山野や庭などに見られる多年草である。ドクダミの抽出物は、熊笹と同様に、低温高圧圧搾抽出法という方法で抽出する。ドクダミ抽出物には、クエルシトリン(quercitrin)、アフゼニン(afzenin)、ハイぺリン(hyperin)、ルチン、クロロゲン酸、β−シトステロール、cisおよびtrans-N-(4-ヒドロキシスチリル)が含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合
成品の混合物を用いることもできる。
【0022】
前記抽出物としては、アロエ、緑茶、熊笹及びドクダミの抽出物から選択される1種類だけを用いてもよいが、2種類以上を併用することが好ましく、より好ましくは上記4種の抽出物を全て含む。
【0023】
前記抽出物を添加する際の配合量は、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩1質量部に対して、1ないし4質量部使用するのが好ましく、より好ましくは、1.2ないし3.5質量部の範囲である。
また、添加する際の各抽出物の配合量は以下の通りである。
例えば、アロエの抽出物は、媒体1000gに対して、20μgないし100g、好ましくは、0.1gないし10g、より好ましくは、0.5ないし2.5gの割合で添加される。
例えば、緑茶の抽出物は、媒体1000gに対して、20μgないし100g、好ましくは、0.1gないし5g、より好ましくは、0.2ないし2gの割合で添加される。
例えば、熊笹の抽出物は、媒体1000gに対して、10μgないし50g、好ましくは、0.05gないし3g、より好ましくは、0.1ないし1gの割合で添加される。
例えば、ドクダミの抽出物は、媒体1000gに対して、10μgないし50g、好ましくは、0.05gないし3g、より好ましくは、0.1ないし1gの割合で添加される。
尚、上記媒体は、水又はアルコール含有率20ないし60%となるアルコール(水溶液)である。
【0024】
紙又は不織布に含浸、塗布又は印刷する水溶液又はアルコール溶液中には、グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を添加することもできる。
【0025】
グリセリンとしては、グリセリンおよびグリセリンの各種誘導体が挙げられる。
界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル類、キラヤサポニン等が挙げられる。これらを含有することにより、ヒノキチオール濃度を10質量%にまで高めた水溶液とすることができる。
【0026】
アルコール溶液を使用する場合は、上記のような添加物を使用することなく高濃度のヒノキチオール溶液とすることができる。本発明の包装紙においては、殆どの場合、アルコールは含浸、塗布又は印刷後又はその間に蒸発して残存しないため殆ど問題となることは無く、また、例え多少残存したとしてもその多くは包装紙の表面に存在し、それにより、包装紙の中に入れる生鮮食品に混入するアルコールの量は僅かなものとなるため問題とはならない。
【0027】
前記水溶液又はアルコール溶液中には更に、柿の葉、松、杉、あま茶づる、シソ、ワサ
ビ、アカネ、ウメ、ニンニク、ペパーミント、ヨモギ、サンショウ、ダイオウ、アザミ、ハッカ、ビワ、ムラサキ、ラベンダー、レモングラス、及びレンギョウの抽出成分、ハチミツより抽出されるプロポリス等を含有してもよい。これらは、ヒノキチオールの殺菌力を損なうことなく、ヒノキチオールの独特の臭い、苦みを緩和することができ、また、水に対するヒノキチオールの溶解度を高めることができる。
【0028】
上記に加え、さらに必要に応じて、従来使用されている添加剤、例えば金属石鹸、動物抽出物、ビタミン剤、ホルモン剤、アミノ酸等の薬効剤、色素、香料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤等を適宜配合することもできる。
【0029】
本発明の包装紙は、上記で示された各種成分を含有する水溶液又はアルコール溶液を紙又は不織布に、含浸、塗布又は印刷することにより製造される。
【0030】
上記含浸は、各種成分を含有する水溶液又はアルコール溶液中に紙又は不織布を浸漬し、その後乾燥することにより行うことができる。
【0031】
上記塗布としては、例えば、刷毛塗り、ロールコート、スプレーコート(吹き付け)、スピンコート、スリットコート等の慣用の塗布方法を採用することができる。
【0032】
上記印刷としては、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷及びオフセット印刷等を採用することができ、グラビア印刷及びオフセット印刷が好ましく、特にグラビア印刷が好ましい。
また、インクとして使用する水溶液又はアルコール溶液の温度は、30ないし60℃であるのが好ましく、また、30℃ないし45℃であるのが好ましい。
【0033】
塗布又は印刷は、紙又は不織布の片面のみに施されてもよいし、両面に施されてもよい。しかし、有効成分を削減できるという点から片面のみに施されるのが好ましい。
【0034】
また、塗布又は印刷が、紙又は不織布の片面のみに施される場合、例えば、袋状の包装紙の内側のみに有効成分の塗布又は印刷が施された態様としたり、ロール状に巻き付けた包装紙の内側の面のみに有効成分の塗布又は印刷が施された態様とすれば、有効成分(ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩等)が施された面は実質的に光が遮断されることになるため、長期に亘って包装紙の鮮度保持機能を維持することが可能となる。
【0035】
また、事前に肉、魚、野菜等の生鮮食品と接触する箇所が想定できる包装紙であれば、その箇所のみに有効成分を含む水溶液又はアルコール溶液を塗布又は印刷すれば、更に、有効成分の削減が可能となる。
【0036】
本発明の包装紙は、肉、魚、野菜等の生鮮食品に使用することにより、食中毒の原因となる病原菌、例えば、黄色ブドウ球菌、大腸菌等の繁殖を有意に抑えることができ、これにより、食中毒の防止だけでなく、生鮮食品の変色や腐敗を抑え、鮮度を維持できる時間を延長することができる。
【0037】
本発明の包装紙は、各種成分を含有する水溶液又はアルコール溶液を紙又は不織布に含浸することだけに限らず、塗布又は印刷することによっても製造することができる。
この場合、特に、オフセット印刷、グラビア印刷により製造された包装紙は、単に水溶液又はアルコール溶液を含浸させた場合に比して、高い鮮度保持機能を示すだけでなく、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩の安定性を向上させ、その結果として効果が持続する。
オフセット印刷、グラビア印刷等により、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩が、紙又は不織布の表面のみに局在化して(即ち、殆ど内部に浸透せず)留まることになると考えられるが、しかし、何故、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩の安定性が向上するかについては明確ではない。
【実施例】
【0038】
以下の実施例により本発明をより詳しく説明する。但し、実施例は本発明を説明するためのものであり、いかなる方法においても本発明を限定することを意図しない。
実施例1:包装紙の製造
上質紙に以下の組成の水溶液(30℃)をインクとして用い、慣用のグラビア印刷機及び印刷条件でグラビア印刷(全面)を行うことにより、包装紙を製造した。
【表1】

尚、上記包装紙におけるヒノキチオールの量は、HPLC分析により、2.9μg/cm2であった。
【0039】
実施例2:黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対する包装紙の効果試験
実施例1と同様の方法で製造した包装紙(2セット製造し、それぞれ、包装紙1、包装紙2と記載する。)で食材(牛肉、本マグロ(赤身))を包装し、冷蔵保存中のこれらの食材に付着した黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対する効果を検討した。
市販牛肉ブロックと本マグロ(赤身)ブロックをそれぞれ無菌的に1g程度の大きさに切り分けた。
大腸菌(Escherichia coli)IFO 12529株及び黄色ブドウ球
菌(IFO 12732株)を、それぞれ普通ブイヨン培地で37℃にて18時間培養した後、培養液10μLを3mLの普通ブイヨン培地に添加後、37℃にて6時間振とう培養した。この培養液を生理食塩水(0.85%食塩水)にて10段階希釈し、105倍ま
で希釈したものを添加細菌液(大腸菌、黄色ブドウ球菌)とした。添加細菌液10μLを食材に塗布し、安全キャビネット内で5分間菌液が乾燥するまで放置した。
各食材を包装紙1、2にて包装し、4℃にて3日間保存した。また、対照として未包装の食材を4℃にて3日間保存した。保存後、各食材の表面から菌を採取し、これを寒天培地に添加し、35℃で24時間培養した。菌種として黄色ブドウ球菌を用いた際の各培地における細菌繁殖状況を示す写真を図1として示し、菌種として大腸菌を用いた際の各培地における細菌繁殖状況を示す写真を図2として示した。
尚、図1中、上段が食材として牛肉を用いた際の、下段が食材として本マグロ(赤身)を用いた際の細菌繁殖状況を示し、左からそれぞれ、対照(未包装)、包装紙1、包装紙2の培地を示す。
また、図2は、上段が食材として本マグロ(赤身)を用いた際の、下段が食材として牛肉を用いた際の細菌繁殖状況を示し、左からそれぞれ、対照(未包装)、包装紙1、包装紙2の培地を示す。
【0040】
図1より、黄色ブドウ球菌を用いた牛肉においては、対照においても黄色ブドウ球菌が繁殖しなかった。黄色ブドウ球菌を用いた本マグロ(赤身)においては、対照では黄色ブドウ球菌が繁殖したのに対して、包装紙1、包装紙2を用いた場合はこの繁殖が抑制されることが解った。
図2より、大腸菌を用いた牛肉、本マグロ(赤身)の双方において、対照では大腸菌が繁殖したのに対して、包装紙1、包装紙2を用いた場合はこの繁殖がかなり抑制されることが解った。
【0041】
実施例3:大腸菌に対する包装紙の効果試験(本マグロ(中トロ))
実施例1と同様の方法で製造した包装紙(2セット製造し、それぞれ、包装紙1、包装紙2と記載する。)で本マグロ(中トロ)を包装し、冷蔵保存中のこの食材に付着した大腸菌に対する効果を検討した。
市販本マグロ(中トロ)ブロックを無菌的に1g程度の大きさに切り分けた。
実施例2と同様にして大腸菌を培養し、本マグロ(中トロ)に塗布した。
各食材を包装紙1、2にて包装し、4℃にて2日間保存した。また、対照として未包装の食材を4℃にて2日間保存した。保存前及び保存後に、各食材の表面から菌を採取し、これを寒天培地に添加し、35℃で24時間培養した。各培地における細菌繁殖状況を示す写真を図3として示した。
尚、図3中、上段が保存前の、下段が保存後の細菌繁殖状況を示し、左からそれぞれ、対照(未包装)、包装紙1、包装紙2の培地を示す。
【0042】
図3より、大腸菌を用いた本マグロ(トロ)においては、対照では保存前と保存後において明らかに大腸菌が繁殖していることが解った。これに対して、包装紙1、包装紙2を用いた場合は保存前と保存後において、殆ど大腸菌が繁殖していないことが明らかとなった。
また、試験前の本マグロ(トロ)の写真を図4(左:対照、中:包装紙1、右:包装紙2)として、また、試験後の本マグロ(トロ)の写真を図5(左:対照、中:包装紙1、右:包装紙2)として示したが、図4と図5の比較から、対照において見られた変色が包装紙1、包装紙2を用いた場合には殆ど生じていないことが解った。
【0043】
実施例4:包装紙の抗菌効果試験(牛肉及びマグロ)
実施例1と同様の方法で製造した包装紙(3セット製造し、それぞれ、包装紙1、包装紙2、包装紙3と記載する。)で食材(牛肉、マグロ)を包装し、冷蔵保存中のこれらの食材に付着した細菌に対する抗菌効果を検討した。
試験方法は、以下に記載した通りに行い、また、対照として、フードウェル ペーパーホイル(東洋アルミプロダクツ(株)社製)及びヘルシーケース中判(東洋アルミプロダクツ(株)社製)を使用した。
1.食材
市販牛肉ブロックとマグロブロックをそれぞれ無菌的に1g程度の大きさに切り分けた。
2.供試菌株及び菌数測定用培地
大腸菌としてE.coli ATCC25922株を用いた。生菌数(無添加群)はACプレート(3Mペトリフィルム)、大腸菌群数は大腸菌群測定用CCプレート(3Mペトリフィルム)を用いて添付のマニュアルに従って菌(群)数を測定した。
3.添加大腸菌液の作製と塗布
大腸菌は3mLのトリプトソーイブイヨンにて37℃で16時間培養後、培養液10μLを3mLのトリプトソーイブイヨンに添加後、37℃にて6時間振とう培養した。この培養液を生理食塩水(0.85%食塩水)にて10段階希釈し、105倍まで希釈したも
のを添加大腸菌液とした。添加大腸菌液10μLを食材に塗布し、安全キャビネット内で5分間菌液が乾燥するまで放置した。
4.保存試験
各食材5ブロックを包装紙1ないし3、フードウェル ペーパーホイル(東洋アルミプロダクツ(株)社製)及びヘルシーケース中判(東洋アルミプロダクツ(株)社製)にて包装し、4℃にて保存した。市販牛肉は0時間、1日間、2日間、3日間、6日間保存後に生菌数と大腸菌群数を測定した。市販マグロは0時間、6時間、1日間、2日間、3日間保存後に大腸菌群数を測定した。
5.生菌数の測定
各期間保存後、食材を秤量し、10倍量の生理食塩水を添加し、30秒間攪拌後、生理食塩水にて10倍段階希釈し、希釈液1mLを生菌測定用培地に添加し、35℃で48時間培養した。生菌数の測定は添付のマニュアルに従った。
牛肉における生菌数の経時変化を表2に示した。
【表2】

6.大腸菌群数の測定
各期間保存後、食材に10mLの生理食塩水を添加して30秒間攪拌後、生理食塩水にて10倍段階希釈し、希釈液1mLを大腸菌群測定用培地に添加し、35℃で24時間培養した。大腸菌群数の測定は添付のマニュアルに従った。
マグロにおける大腸菌群数の経時変化を表3に示し、牛肉における大腸菌群数の経時変化を表4に示した。
【表3】

【表4】

【0044】
結果
表2から、包装紙(包装紙1ないし3)を用いた場合は、バラツキはあるものの、試験開始から2日目まで(包装紙1では3日目まで)は、牛肉の生菌数の増加を抑制又は減少させるものの、それ以降は、生菌数は増加して100000個/g(測定限界)以上となることが解った。ペーパーホイルでは試験開始1日目から生菌数の増加が認められ、試験開始2日目からは100000個/g(測定限界)以上に増加した。ヘルシーケースでは、包装紙1ないし3とほぼ同様に2日目以降、生菌数の増加が認められた。
表3から、包装紙1ないし3を用いた場合、実験開始直後からマグロにおいて大腸菌群数の低下が認められ、それ以降はほぼ同程度の大腸菌群数が検出されたことが解った。ペーパーホイルでは試験期間を通してほほ同程度の大腸菌群数が検出された。
表4から、包装紙1ないし3を用いた場合、実験開始直後から牛肉において大腸菌群数の低下が認められ、1日目以降も大腸菌群数が低下し続け、3日目には検出限界以下まで減少したことが解った。ペーパーホイル及びヘルシーケースにおいても大腸菌群数の低下は認められたものの、検出限界以下になることはなかった。試験期間を通してほほ同程度の大腸菌群数が検出された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】食材として牛肉及び本マグロ(赤身)を使用し、菌種として黄色ブドウ球菌を用いた際の、各培地における細菌繁殖状況を示す写真である。
【図2】食材として牛肉及び本マグロ(赤身)を使用し、菌種として大腸菌を用いた際の、各培地における細菌繁殖状況を示す写真である。
【図3】食材として本マグロ(中トロ)を使用し、菌種として大腸菌を用いた際の、各培地における細菌繁殖状況を示す写真である。
【図4】保存試験前の本マグロ(トロ)の写真である。
【図5】保存試験後の本マグロ(トロ)の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品の鮮度を保持するための包装紙であって、
紙又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率20ないし60%のアルコール溶液を含浸、塗布又は印刷したことを特徴とする包装紙。
【請求項2】
前記ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩において2種以上の金属が使用される請求項1記載の包装紙。
【請求項3】
前記金属が銅、アルミニウム、亜鉛又はこれらの混合物である請求項2記載の包装紙。
【請求項4】
アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を含む水溶液を使用する請求項1ないし3の何れか1項に記載の包装紙。
【請求項5】
グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む水溶液を使用する請求項1ないし4の何れか1項に記載の包装紙。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−29491(P2009−29491A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197466(P2007−197466)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000222141)東洋アルミエコープロダクツ株式会社 (106)
【出願人】(501382063)株式会社ジェイシーエス (14)
【Fターム(参考)】