食品の鮮度保持シート、及びその製造方法
【課題】脱酸素機能を発揮する他、食品の過乾燥が防止でき、食品の金属探知機による検査の効率も高めることができて、しかも静菌ができて異臭の発生も抑制することのできる鮮度保持シートを提供すること。
【解決手段】非鉄被酸化材12を含む紙台紙11を、通気性を有するフィルムによって包み込んだ食品の鮮度保持シートであって、紙台紙11は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体13を内添したものであり、かつ、非鉄被酸化材12の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添したものであること。
【解決手段】非鉄被酸化材12を含む紙台紙11を、通気性を有するフィルムによって包み込んだ食品の鮮度保持シートであって、紙台紙11は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体13を内添したものであり、かつ、非鉄被酸化材12の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添したものであること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の鮮度を保持するためのシート、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ケーキや和菓子等の食品では、製造してから販売されるまでの間、その鮮度を維持する種々な対策が施されるが、食品の鮮度を落とす原因としては、代表的に次の3つが考えられる。
【0003】
(1)食品自体の過度な乾燥または湿潤
(2)空気中の酸素による酸化
(3)細菌やカビの増殖
上記原因(1)の「食品自体の過度な乾燥または湿潤」は、例えば紙やフィルム等の包装材による包装によって、ある程度除去できるようになってきており、上記原因(2)の「空気中の酸素による酸化」についても、例えば、特許文献1及び特許文献2等において、種々な対策が提案されてきている。
また、上記原因(3)の「細菌やカビの増殖」についても、上記特許文献1や特許文献2等において、その解消技術が提案されている。
特許文献1の技術では、エタノール蒸気発生体、鉄粉系の脱酸素剤及び陰イオン交換体を共存させた食品品質保持剤が提案されており、この食品品質保持剤によれば、アセトアルデヒドに伴う臭気だけでなく、他の臭気の発生を抑制し、食品の鮮度や風味を保持することができると考えられる。勿論、エタノール蒸気発生体からのエタノールによる静菌機能も発揮されると考えられる。
一方、特許文献2では、鉄系の脱酸素剤、エタノールまたはエタノール徐放剤、アミノ基を有する化合物、及び活性炭からなる食品保存剤が提案されているが、この食品保存剤によれば、鉄系の脱酸素剤による脱酸素機能、及びエタノールまたはエタノール徐放剤からのエタノールによる静菌機能が発揮されると考えられる。
しかしながら、これらの特許文献1及び特許文献2の技術では、「鉄粉系の脱酸素剤」あるいは「鉄系の脱酸素剤」を使用しているため、これらが金属探知機に反応して、包装された食品の「異物混入の検査」が効果的に行えないことになる。包装された食品においては、製造や包装途中において異物(主として鉄で形成されている針や、機械部品、あるいはその欠けたもの)が混入しているかいないかを金属探知機によって検査するのであるが、この食品に、特許文献1のような「食品品質保持剤」が使用されていたり、特許文献2のような「鉄系の脱酸素剤」が使用されていたりすると、その中の「鉄粉系の脱酸素剤」や「鉄系の脱酸素剤」が金属探知機による検査で検出されてしまうからである。
また、これらの特許文献1及び特許文献2の技術では、鉄の酸化を利用した脱酸素機能を発揮する「鉄粉系の脱酸素剤」あるいは「鉄系の脱酸素剤」を使用しているため、鉄が酸化する際に「発熱」することになるが、この発熱によって食品が過乾燥する可能性もある。
そこで、特許文献3〜特許文献5によって提案されているように、脱酸素を行う被酸化物として、アスコルビン酸あるいはエリソルビン酸、またはこれらの塩を使用して、脱酸素剤を形成することがなされているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−109856号公報
【特許文献2】特開平8−140643号公報
【特許文献3】特開昭53−46490号公報
【特許文献4】特開平5−268924号公報
【特許文献5】特許第2658640号掲載公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献3では「(強)アルカリ」を使用しなければならないものとなっていて、食品の包装内に内装するものとしては好ましくないものであり、このことは、特許文献4及び特許文献5の技術でも同様である。
一方、特許文献2で問題となっているように、静菌のためのエタノールまたはエタノール徐放剤を使用すると、これらが化学変化をして「アセトアルデヒド」を発生する原因となるのであり、食品が「異臭」を放つことになってしまうことになる。脱酸素剤を入れて包装した食品が異臭を放つようでは、食品自体の鮮度が保持されていたとしても、食品の消費者にとってみれば非常に問題である。
以上纏めれば、「鉄粉系」あるいは「鉄系」の脱酸素剤を使用すると、金属探知機による異物検査が効果的に行えず、しかも「鉄粉系」あるいは「鉄系」の脱酸素機能に基づく発熱によって食品が過乾燥することになり、また、エタノールまたはエタノール徐放剤を使用すると、食品が「アセトアルデヒド」に起因する異臭を放つことになる可能性が高くなる。
そこで、本発明者等は、「鉄粉系」あるいは「鉄系」ではないアスコルビン酸あるいはエリソルビン酸、またはこれらの塩を使用しながらも、強アルカリを使用しないで済み、静菌のためのエタノールまたはエタノール徐放剤を使用することのできる鮮度保持シートとするにはどうしたらよいか、について種々検討を重ねてきた結果、本発明を完成したのである。
すなわち、本発明の目的とするところは、脱酸素機能を発揮する他、食品の過乾燥が防止でき、食品の金属探知機による検査の効率も高めることができて、しかも静菌ができて異臭の発生も抑制することのできる鮮度保持シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、まず、請求項1に係る発明の採った手段は、後述する実施形態の説明中で使用する符号を付して説明すると、
「非鉄被酸化材12を含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだ食品の鮮度保持シート10であって、
紙台紙11は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体13を内添したものであり、かつ、非鉄被酸化材12の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添したものであることを特徴とする食品の鮮度保持シート10」
である。
すなわち、この請求項1に係る食品の鮮度保持シート10は、図1の(a)または(b)に示すように、人体に全く無害な活性炭や珪藻土のような多孔質無機粉体13を内添した紙台紙11に、アスコルビン酸あるいはエリソルビン酸またはこれらの塩である非鉄被酸化材12、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添したものである。
また、この請求項1に係る食品の鮮度保持シート10は、図1にも示すように、非鉄被酸化材12、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミン等の非鉄被酸化材12を含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだものであり、図3に示すように、食品とともに、ガスバリア性のフィルムからなる包装体20中に入れても、非鉄被酸化材12、多孔質無機粉体13、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミン等の非鉄被酸化材12が、当該ガスバリア性の包装体20内に漏れ出ることは無く、従って、ガスバリア性の包装体20中の食品が、これらの非鉄被酸化材12、多孔質無機粉体13、及びエタノールまたはエタノール徐放剤によって汚損されることもないのである。
以上のようにした請求項1に係る鮮度保持シート10を、食品とともにガスバリア性の包装体20内に入れて商品化したものを、金属探知機に掛けても、当該鮮度保持シート10は、金属、特に鉄あるいはその酸化物を全く含まないのであるから、当該鮮度保持シート10の存在によっては無反応となる。仮に、この金属探知機が反応したとすれば、ガスバリア性の包装体20内の鮮度保持シート10以外のものに反応したことになるから、確実に異物の混入があると判断できるのである。(金属探知機の効率的な使用)
また、この請求項1に係る鮮度保持シート10を、食品とともにガスバリア性の包装体20内に入れると、この食品から出る湿気を多孔質無機粉体13が吸着することになり、吸着された水と当該多孔質無機粉体13の触媒作用によって、フィルム14内に入ってきた酸素が非鉄被酸化材12を酸化することになる。フィルム14内の酸素がなくなれば、包装20内にまだ残有している気体酸素がその分圧によりフィルム14内に侵入し、更に非鉄被酸化材12を酸化させる。以上のことが繰り返されることにより、食品の包装20内の酸素の全てが非鉄被酸化材12の酸化に費やされ、結果的に、包装内の気体酸素が全て固定化されて、脱酸素が完成するのである。(空気中の酸素による酸化の防止)
多孔質無機粉体13は、ガスバリア性の包装体20内の水分を吸着するから、包装体20内の食品の過度な湿潤が防止されることは当然として、水分を吸着した多孔質無機粉体13の触媒作用によって非鉄被酸化材12が酸化される際には、当該鮮度保持シート10において発熱反応は起きないため、食品が過度に乾燥されることもないのである。
勿論、この請求項1の食品の鮮度保持シート10は、非鉄被酸化材12の酸化反応に必要な水分を自ら内包していて、気体酸素が入ってきたときに、直ちにこの酸素によって非鉄被酸化材12が酸化されるものであり、和菓子やソーセージのような湿潤状態にしておくのが好ましい食品のための脱酸素剤としても適したものである。そして、この食品の鮮度保持シート10は、食品中から水分を奪うことがないのであるから、食品が必要とする湿潤状態は維持し続けるのである。(食品自体の過度な乾燥または湿潤の防止)
一方、紙台紙11に添着してあったエタノールまたはエタノール徐放剤からは、エタノール(アルコール類)が発生あるいは蒸散して、これがフィルム14を通してガスバリア性の包装体20内に拡散する。ガスバリア性の包装体20内に拡散したアルコール類は、静菌作用を有しているのであるから、ガスバリア性の包装体20内の食品にカビを生やしたり、その他の殺菌の増殖を防止するのである。(細菌やカビの増殖の防止)
ところで、エタノールまたはエタノール徐放剤から発生したエタノールは、アスコルビン酸あるいはエリソルビン酸またはこれらの塩である非鉄被酸化材12に接触すると、「悪臭」の原因物質であるアセトアルデヒドを発生させることがある。しかしながら、この請求項1の鮮度保持シート10は、紙台紙11にポリアリルアミンが添着してあるから、このポリアリルアミンがフィルム14内にてアセトアルデヒドを直ちに固定して除去することになる。このため、アセトアルデヒドがガスバリア性の包装体20内に拡散することは殆ど無く、ガスバリア性の包装体20を開封したとしても、異臭が発生することはない。(アセトアルデヒドを原因とする異臭の除去)
従って、この請求項1の鮮度保持シート10は、脱酸素機能を発揮する他、食品の過乾燥が防止でき、食品の金属探知機による検査の効率も高めることができて、しかも静菌ができて異臭の発生も抑制することのできるものとなっているのである。
次に、上記課題を解決するために、請求項2に係る発明の採った手段は、後述する最良形態中の符号を付して説明すると、
「非鉄被酸化材12を含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだ食品の鮮度保持シート10であって、
紙台紙11は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体13、及びポリアリルアミンを内添したものであり、かつ、非鉄被酸化材12の溶液、及び、エタノールまたはエタノール徐放剤を内添したことを特徴とする食品の鮮度保持シート10」
である。
すなわち、この請求項2の食品の鮮度保持シート10は、紙台紙11を構成する繊維中に多孔質無機粉体13、及びポリアリルアミンを内添しておいて紙台紙11とし、この紙台紙11全体に、非鉄被酸化材12の溶液、及び、エタノールまたはエタノール徐放剤を内添したものである。これに対して、上記請求項1の食品の鮮度保持シート10は、まず、紙台紙11を構成する繊維中に多孔質無機粉体13を内添しておいて紙台紙11とし、この紙台紙11全体に、非鉄被酸化材12の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添したものであり、この点が、この請求項2の食品の鮮度保持シート10とは異なっているものである。その他の点は、上記請求項1と同様である。
この請求項2の食品の鮮度保持シート10も、請求項1のそれと同様に、非鉄被酸化材12の酸化反応に必要な水分を自ら内包していて、気体酸素が入ってきたときに、和菓子やソーセージのような湿潤状態にしておくのが好ましい食品のための脱酸素剤としてより適したものであり、直ちにこの酸素によって非鉄被酸化材12が酸化されるものである。そして、この食品の鮮度保持シート10も、食品中から水分を奪うことがないのであるから、食品が必要とする湿潤状態は維持し続けるのである。
従って、この請求項2に係る食品の鮮度保持シート10は、上記請求項1のそれと同様に、脱酸素機能を発揮する他、食品の過乾燥が防止でき、食品の金属探知機による検査の効率も高めることができて、しかも静菌ができて異臭の発生も抑制することのできるものとなっているのである。
上記請求項1に係る食品の鮮度保持シート10は、次の請求項3の製造方法によって製造できるものであるが、この請求項3に係る発明の採った手段は、
「非鉄被酸化材12、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだ食品の鮮度保持シート10を、次の各工程を含んで製造する方法。
【0007】
(1)紙台紙11を構成するためのスラリー中に多孔質無機粉体13を混入して抄紙することにより、多孔質無機粉体13を内添した紙台紙11を抄紙する抄紙工程;
(2)この抄紙された紙台紙11を乾燥する乾燥工程;
(3)この乾燥工程を経た紙台紙を所定形状に切断する工程;
(4)この切断工程を経た紙台紙に前記非鉄被酸化材の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを噴霧する噴霧工程;
(5)前記非鉄被酸化材を含む紙台紙を前記フィルムによって包み込む工程」
である。
すなわち、この請求項3に係る製造方法は、請求項1の食品の鮮度保持シート10を製造するためのものであり、多孔質無機粉体13を内添して抄紙された紙台紙11を乾燥した後に、非鉄被酸化材12、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添した紙台紙11を、フィルム14によって包装するようにしたものである。
すなわち、この請求項3の製造方法は、請求項1の説明中で採用した材料によってスラリーを形成して、このスラリーから、多孔質無機粉体13を内添した紙台紙11を抄紙するのが上記(1)の工程である。この工程(1)で使用するスラリー中には、後述する実施の形態中で説明するような材料が使用される。
この請求項3に係る製造方法では、上記の抄紙工程(1)を済ませた紙台紙11について、乾燥工程(2)にて乾燥させた後、次の切断工程(3)にて所定形状に切断し、工程(4)にて非鉄被酸化材12の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを噴霧することにより内添するのである。
この噴霧工程(4)では、非鉄被酸化材12が気体酸素と直接接触することがないため、未だ酸化されることはない。なお、この噴霧工程(4)にて噴霧される溶液中に、アスコルビン酸またはエリソルビン酸あるいはこれらの塩の酸化を促進させるための塩化カルシウム、塩化マグネシウムあるいは塩化ナトリウム等の塩化塩を溶かし込んでおいてもよい。これらの塩化塩は水溶性であるため、上述した抄紙工程(1)でのスラリー中に溶かし込んでおいても紙台紙11中に内添させることが困難であるだけでなく、抄紙機を錆び付かせてしまうから、入れるとすれば、この噴霧工程(4)での溶液中が最適である。
最後に、工程(5)において、非鉄被酸化材12を添加した紙台紙11をフィルム14による包装を行うことにより、製品としての食品の鮮度保持シート10が完成するのである。
つまり、この食品の鮮度保持シート10は、乾燥工程を経た紙台紙11を切断して、切断された各紙台紙11に非鉄被酸化材12の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを噴霧してから、これをフィルム14によって包み込むものである。
従って、この請求項3の製造方法は、請求項1の食品の鮮度保持シート10を確実かつ連続的に製造し得るものとなっているのである。
また、以上の請求項2に係る食品の鮮度保持シート10は、次の請求項4の製造方法によって製造できるものであるが、この請求項4に係る発明の採った手段は、上述した符号を使用しながら説明すると、
「非鉄被酸化材12、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだ食品の鮮度保持シート10を、次の各工程を含んで製造する方法。
(1)紙台紙11を構成するためのスラリー中に、多孔質無機粉体13及びポリアリルアミンを混入して抄紙することにより、多孔質無機粉体13及びポリアリルアミンを内添した紙台紙11を抄紙する抄紙工程;
(2)この抄紙された紙台紙11を乾燥する乾燥工程;
(3)この乾燥工程を経た紙台紙を所定形状に切断する工程;(4)この切断工程を経た紙台紙、またはこれに重ねられる別の紙台紙に、前記非鉄被酸化材の溶液、及び、エタノールまたはエタノール徐放剤を噴霧する噴霧工程;
(5)前記非鉄被酸化材を含む紙台紙を前記フィルムによって包み込む工程。」
である。
抄紙すべきスラリー中に多孔質無機粉体13及びポリアリルアミンを混入してから、この多孔質無機粉体13及びポリアリルアミンを含むスラリーから、多孔質無機粉体13及びポリアリルアミンを内添した紙台紙11を抄紙するのが上記(1)の工程である。この工程(1)で使用するスラリー中には、後述する実施の形態中で説明するような材料が使用されるのであるが、上記ポリアリルアミンは凝集剤としての役割をも果たすのである。
従って、この請求項4の製造方法も、請求項2の食品の鮮度保持シート10を確実かつ連続的に製造し得るものとなっているのである。
【発明の効果】
【0008】
以上説明した通り、本発明に係る鮮度保持シート10は、
「非鉄被酸化材12を含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだ食品の鮮度保持シート10であって、
紙台紙11は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体13を内添したものであり、かつ、非鉄被酸化材12の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添したものであること」
あるいは、「非鉄被酸化材12を含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだ食品の鮮度保持シート10であって、
紙台紙11は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体13、及びポリアリルアミンを内添したものであり、かつ、非鉄被酸化材12の溶液、及び、エタノールまたはエタノール徐放剤を内添したこと」
にその構成上の主たる特徴があり、これにより、脱酸素機能を発揮する他、食品の過乾燥が防止でき、食品の金属探知機による検査の効率も高めることができて、しかも静菌ができて異臭の発生も抑制することのできる鮮度保持シート10を提供することができるのである。
【0009】
つまり、本発明によれば、食品の鮮度を落とす次の3つの原因、
(1)食品自体の過度な乾燥または湿潤
(2)空気中の酸素による酸化
(3)細菌やカビの増殖
をそれぞれ除去することができるだけでなく、自らは文字通り「シート状」となっているから、ガスバリア性の包装体20内に食品とともに入れても何ら嵩張らず、食品包装の補助品として、極めて使用効果の高いものとなっているのである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る食品の鮮度保持シートの拡大断面図であり、(a)は単層の紙台紙11を採用した場合の拡大断面図、(b)は複数層の紙台紙11を採用した場合の拡大断面図である。
【図2】同鮮度保持シートの製造工程の概略を示す概略図である。
【図3】同鮮度保持シートを食品とともにガスバリア性の包装体20内に収納したときの性分の動きや作用を概略的に示した斜視図である。
【図4】水分22%のときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図5】水分22%のときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図6】水分50%のときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図7】水分50%のときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図8】水分70%のときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図9】水分70%のときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図10】空気を注入した20℃のときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図11】空気を注入した30℃のときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図12】空気を注入した20℃のときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図13】空気を注入した30℃のときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図14】表9中の丸数字1の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図15】表9中の丸数字1の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図16】表9中の丸数字1の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【図17】表9中の丸数字2の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図18】表9中の丸数字2の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図19】表9中の丸数字2の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【図20】表9中の丸数字3の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図21】表9中の丸数字3の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図22】表9中の丸数字3の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【図23】表9中の丸数字4の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図24】表9中の丸数字4の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図25】表9中の丸数字4の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【図26】表9中の丸数字5の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図27】表9中の丸数字5の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図28】表9中の丸数字5の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【図29】表9中の丸数字6の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図30】表9中の丸数字6の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図31】表9中の丸数字6の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【図32】表9中の丸数字7の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図33】表9中の丸数字7の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図34】表9中の丸数字7の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、上記のように構成した各請求項に係る発明を、図面に示した最良の形態である食品の鮮度保持シート10について、その製造方法とも併せてそれぞれ説明する。
【0012】
(第1実施例)
図1には、上記水分依存型食品の鮮度保持シート10が示してあるが、図1の(a)にて示した食品の鮮度保持シート10は、1枚の紙台紙11に対して、多孔質無機粉体13の内添と、非鉄被酸化材12の添着とを行ったものであり、これに対して、図1の(b)に示した食品の鮮度保持シート10は、多孔質無機粉体13を内添した紙台紙11と、非鉄被酸化材12を添着した紙台紙11とを完全に分けたものである。図1の(a)に示した食品の鮮度保持シート10は、非鉄被酸化材12の周囲にその反応促進を行う多孔質無機粉体13を均等に分散させて、非鉄被酸化材12の酸化を均等に行うメリットがあるものであり、図1の(b)に示した2枚の非鉄被酸化材12からなる食品の鮮度保持シート10より、外気中の酸素や水分の吸着を効果的に行うメリットがあるものである。
勿論、紙台紙11の外側を包み込んでいるフィルム14は、内添した多孔質無機粉体13の外部への洩れ出を防止しながら、空気中の酸素や水分を食品の鮮度保持シート10内に通すものであり、当該食品の鮮度保持シート10を収納した食品容器内を汚さないで、かつ脱酸素機能や吸湿機能が十分発揮できるようにするものである。換言すれば、この食品の鮮度保持シート10を構成しているフィルム14は、ガスバリア性を無くすとともに、粉体バリア性、つまり多孔質無機粉体13を外部へ出さない機能を有しているものである。
さて、紙台紙11であるが、この紙台紙11は、図2及び図3の抄紙工程において連続抄紙(タッピ抄紙)で形成するものである。この第1実施例の食品の鮮度保持シート10を構成する紙台紙11の抄紙工程で重要なことは、そのスラリー中に、多孔質無機粉体13を予め添加しておくことにより、抄紙された紙台紙11の中にこの多孔質無機粉体13を内添した状態にすることである。
紙台紙11そのものの材料としては、パルプ繊維が適しており、特に自然繊維パルプが適している。またパルプ繊維の長さは特に限定されないが、次に述べる多孔質無機粉体13を内添できるものが適している。
この紙台紙11には非鉄被酸化材12を含ませるのであるが、この非鉄被酸化材12としては、文字通り、「鉄」や「酸化鉄」は対象外であり、主として、アスコルビン酸あるいはエリソルビン酸、またはこれらの塩を使用するものである。これらのアスコルビン酸あるいはエリソルビン酸、またはこれらの塩は、弱酸性のものであって、上述した特許文献3等において使用されているような強アルカリ性のものでないことは明らかである。
多孔質無機粉体13は、本実施例では、所謂活性炭を使用したが、その他にも、木炭、泥炭、亜炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛等であっても良い。また、この多孔質無機粉体13としては、他にも珪藻土、水酸化マグネシウム、ゼオライト、バーミキュライト、活性白土パーライト等も適用できるものである。
すなわち、多孔質無機粉体13としては、人体に全く無害であると共に、食品の包装内に存在している水分を吸着して、非鉄被酸化材12の酸化を促進する触媒作用を有している必要があるため、上述した活性炭や、ヤシガラ活性炭、木炭、泥炭、亜炭や珪藻土の他、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ゼオライト、バーミキュライト、活性白土、パーライトがある。
また、この多孔質無機粉体13としては、紙台紙11に内添する、つまり、紙台紙11内に抄き込む必要があることから、上に例示したような物質がよく、かつ、紙台紙11内への均等な内添が実行できるように、その平均粒度は、10μm〜1mm程度のものが好ましい。特に、本発明に係る食品の鮮度保持シート10は、文字通り「シート状のもの」として、食品包装内に入れるものであるから、非常に薄いものである必要があり、そのために、後述する紙台紙11に内添したときに、全体が薄くなり得るような平均粒度の多孔質無機粉体13を採用することが適している。
つまり、この多孔質無機粉体13は、文字通り粉体であることが、抄紙時のスラリー中での分散が良くなると共に、抄紙後においてパルプ繊維による保持、つまり内添が良好になる上で好適である。特に、この多孔質無機粉体13の分散性や内添効果を高める上では、この多孔質無機粉体13の平均粒径が10μm〜1mmの範囲内であることが好ましい。多孔質無機粉体13の平均粒径が10μmより小さいと、分散性はよいが抄紙機の網から逃げてしまって、紙台紙11への内添がうまくいかず、一方、1mmより大きいと分散性が悪くなるだけでなく、抄紙機の紙台紙11の平滑性を損なうことになるからである。
以上のような多孔質無機粉体13を内添する紙台紙11は、各種繊維を一般的な抄紙機に掛けて、多孔質無機粉体13と共に抄紙することにより形成されたものであり、使用する繊維としては、木材パルプ、非木材(例えばヤシガラ)パルプ、麻、リンターパルプ等の天然繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維等の合成繊維、あるいは炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維がある。
勿論、非鉄である非鉄被酸化材12としては、前述したように、アスコルビン酸、又はエリソルビン酸、あるいはこれらのナトリウム塩が使用されるが、この非鉄被酸化材12の添着は、その水溶液を、抄紙して乾燥させた紙台紙11に噴露することによりなされるものである。
非鉄被酸化材12が添着された多孔質無機粉体13が内添された紙台紙11は、フィルム14によって包み込まれる。このフィルム14は、空気中の酸素や湿気を内部に通すが、内部の多孔質無機粉体13やパルプ繊維を外部には出さない非常に小さな穴を形成したものである。なお、このフィルム14は、紙台紙11内の合成繊維が熱によって軟化したとき、この軟化繊維と溶着し得るような材料によって形成すると、食品の鮮度保持シート10全体の厚さをより薄くすることができて、有利である。
この多孔質無機粉体13の種類と、パルプ繊維との配合割合は、次に示す表1の通りであり、表1には実施例1から4の4種類の配合割合成分比のものが例示してある。これらの材料を入れたスラリー中に、カチオンまたはアニオン凝集剤を用いてミキサーで混合することにより、パルプ繊維に多孔質無機粉体13を定着させ、坪量が200(g/m2)の紙台紙11としたのである。
【0013】
【表1】
その後は、抄紙された紙台紙11を乾燥機に掛けて乾燥させ、表1中に示したアスコルビン酸の各配合割合の溶液を噴霧した。このように形成した紙台紙11を、切断工程及び包装工程にて、所定の形状のものに切断して、これをフィルム14にて包み込むことにより、図1に示したような食品の鮮度保持シート10としたものである。
【0014】
(第2実施例)
次に、第2実施例について説明すると、この食品の鮮度保持シート10は、上記第1実施例でも説明した通り、図1の(a)または(b)に示したような形態を有するものである。
すなわち、この第2実施例に係る食品の鮮度保持シート10を構成する紙台紙11の抄紙条件は次の表2に示す通りであり、第1実施例の場合と同様に、坪量が200(g/m2)のものを抄紙するようにした。
【0015】
【表2】
抄紙した紙台紙11は、これを乾燥工程に掛けて乾燥させた後、表2に示したよう配合割合のアスコルビン酸やエリソルビン酸の溶液を噴霧工程にて噴霧して、そのまま切断及び包装工程にてフィルム14による包装を行った。
ここで問題になるのが、アスコルビン酸やエリソルビン酸の溶液の噴霧量であるが、本第2実施例では、5cm×5cm角の紙台紙11について、表2中の実施例5〜実施例15に示した濃度の溶液をこの表2中に示したようグラム数となるように吹き付けるようにしたものである。
そして、溶液を吹き付けた5cm×5cm角の試料を、第1実施例の場合と同様に、50非鉄被酸化材12非鉄被酸化材12の空気中に曝して、完全に酸素がなくなるまでの時間を測定したところ、右から2番目の欄に示したような時間数で脱酸素が完了した。なお、実施例5及び実施例6については、24時間後の残有酸素量が示してある。
このような、製品化された後も湿潤状態にある食品の鮮度保持シート10は、前述した自力反応型であり、空気中の酸素が当該食品の鮮度保持シート10内に入ってくれば、この酸素がその非鉄被酸化材12を酸化することになるものである。このような自力反応型の食品の鮮度保持シート10は、湿った状態にあるのが好ましい食品、例えば、まんじゅうやカステラ、あるいはソーセージ等に使用するものとして適しているものである。
以上のように構成した鮮度保持シート10を、図3に示したように、ガスバリア性を有するガスバリア性の包装体20内に収納して、所定時間放置した後、金属探知機等で異物検査を行ったり、食品の過乾燥の有無等を調査し、市販品との比較を行った結果、表3のような結果が得られた。
【0016】
【表3】
以上のような鮮度保持シート10を構成する紙台紙11について、これを抄造する原材料について、脱酸素機能の速効タイプ、遅効タイプ、及び一般タイプに分けて示すと、次の表4〜表6の通りである。ここで、速効タイプは、半日〜1日で脱酸素機能を発揮するもの、遅効タイプは、4日〜6日で脱酸素機能を発揮するもの、そして、一般タイプは、2日〜4日で脱酸素機能を発揮するものと定義する。また、表4〜表6中の「活性炭P」は、平均粒径が15μm、比表面積が1200g/m2、全細孔容積が0.7ml/gのものであり、表4中の「活性炭S」は、平均粒径が35μm、比表面積が1250g/m2、全細孔容積が1.08ml/gのものである。
【0017】
【表4】
【0018】
【表5】
【0019】
【表6】
(検証結果)
以上の実施例を実施するに当たって、発明者等は、次の点の検証を詳しく行った。
・シート水分保持率による脱酸素能への影響
・注入空気量によるガス吸放出への影響
・ポリアリルアミン添加によるアセトアルデヒドの除去この場合、先に示す表9中の、丸数字1〜7で示す7種類の化合物の添加変更を行って試行した。
(シート水分保持率による脱酸素能への影響についての検証)
この原紙(7cm×7cm、3g)に31%エリソルビン酸水溶液0.95〜3.05gを添加し、さらにエタノール(ナカライテスク(株)製)を含浸させ、食品等の内容物と直接接触しないように石灰乾燥剤用のガス透過性フィルムで包装し、多機能型鮮度保持シートとした。このときの設定条件は表7の通りとした。
【0020】
【表7】
ガス評価試験は、以下の通りとした。ガスバリアフィルム内に、多機能型(本発明に係る)鮮度保持シート10と350mlの空気を密封し、酸素濃度計(飯島電子工業(株)製、製品名:パックマスター)を用いて、20℃環境下におけるガスバリアフィルム内の残存酸素濃度を測定した。また、同様の環境下でガステック検知管(エタノール用No.112L)を用いてエタノール蒸散濃度の測定を行った。
酸素残留濃度、エタノール蒸散濃度の結果を図4〜図9に示す。脱酸素剤原紙の水分保持率を22%〜70%になるように原紙への還元剤(エリソルビン酸)添加量を調整した。この添加量から原紙1枚あたりが脱酸素処理できる空気の理論値は179ml〜572mlとなる。これに対して、実際の空気注入量を350mlに固定した場合、注入空気量が脱酸素能力を超えると図4のように酸素濃度の減少が進まなくなり、品質保持する食品を劣化させる危険性がある。よって、図6、または図8のような脱酸素能力範囲内の適正な空気量の注入が必要とされる。
また、エタノール蒸散濃度は図5、図7、図9のとおり5時間程度で急激に立ち上がり、それ以降は袋内で飽和することが分かった。さらに、エタノール添加量が脱酸素速度に影響するため、市販されている鉄系脱酸素剤の一般型と同じ脱酸素24時間以内を目指す場合は、エリソルビン酸添加量とエタノール添加量及び注入空気量を最適化し、脱酸素速度とエタノール蒸散速度のバランスを取ることが非常に重要となる。
【0021】
(注入空気量によるガス吸放出への影響の検証)
次に、脱酸素剤原紙(7cm×7cm、3g)に31%エリソルビン酸水溶液3.05gを添加し、原紙1枚あたりへの水分保持率を70%に固定した。さらに0.3gまたは0.6gのエタノールを含浸させ、ガス透過性フィルムで包装した。このときの設定条件は表8の通りとした。ガス評価試験は、ガスバリアフィルム内に多機能型鮮度保持シートと200〜500mlの空気を密封し、酸素濃度計を用いて、20℃または30℃環境下におけるフィルム内の残存酸素濃度を測定した。また、同様の環境下でガステック検知管を用いてエタノール蒸散濃度の測定を行った。
【0022】
【表8】
環境温度20℃において、空気注入量(200〜500ml)、エタノール添加量(0.3、0.6g)による酸素残存濃度への影響を図10に示す。また30℃環境下での同様の試験結果を図11に示す。エリソルビン酸の添加量から脱酸素剤原紙1枚あたりが処理できる空気量は572mlであり、空気注入量が少ない程、脱酸素到達時間が短くなった。エタノール添加量で比較すると添加量が多いと脱酸素到達時間が長くなった。また、環境温度が30℃では脱酸素到達時間が20℃よりも大幅に短くなることが分かった。いずれの条件でもほぼ24時間以内に脱酸素が終了し、実用的であることが分かった。
空気注入量による蒸散エタノール濃度への影響を図12(環境温度20℃)、図13(環境温度30℃)に示す。エタノールの蒸散はほぼ2日のうちにフィルム内で飽和し、15日経過してもほぼ均一であることが分かった。
【0023】
(ポリアリルアミン添加によるアセトアルデヒドの除去の検証)
鉄系脱酸素剤とエタノールが同一環境内に存在すると、主剤とエタノールの接触によりエタノールが酸化されアセトアルデヒドが発生することが報告されている。
この系においてもアセトアルデヒドの測定を行ったところ、ガス発生が確認された。そこでエリソルビン酸及びエタノールの添加に併せて、さらに表9の7種類のポリアリルアミン系薬剤(日東紡績(株)、以下PAAと略記)をそれぞれ脱酸素剤原紙に添加し、アセトアルデヒドガスの減少について検討した。アセトアルデヒド濃度の測定は、ガステック検知管(アセトアルデヒド用 No.92、92M、92L)を用いて行った。このときの設定条件は表10の通りとした。
【0024】
【表9】
【0025】
【表10】
ガス分析を行った結果を図14〜図34に示すが、図14〜図16は、(1)のPAA−HCL−10L添加した場合を、図17〜図19は、(2)PAA−15添加した場合を、図20〜図22は、(3)PAA−U5000添加した場合を、図23〜図25は、(4)PAS−92添加した場合を、図26〜図28は、(5)PAA−D19A添加した場合を、図29〜図31は、(6)PAS−M−1A添加した場合を、図32〜図34は、(7)PAS−92A添加した場合を、それぞれ示している。
ブランク(No.36)とPAA添加品全てを比較すると、PAAを添加することにより、それぞれ脱酸素到達時間とエタノール蒸散濃度に大差はなく、PAA添加は脱酸素能とエタノール蒸散能に影響がないことが分かった。アセトアルデヒド発生量は、ブランクの場合、初期段階で1000ppmを超えるが、時間の経過と共にアセトアルデヒド自体の崩壊による濃度減少が見られた。15日後でもフィルム内には400ppmのアセトアルデヒドガスが残留した。しかし、(6)の場合の、PAS−M−1Aを除いた各種PAAを0.03g添加したものは初期段階でのアセトアルデヒド濃度はブランクの半分に抑えられ、反応が遅いものでも9日後には検出されなくなった。これはエタノールガスが酸化剤に接触することにより生成するアセトアルデヒドガスをPAAが即座に固定したためと判断できる。
また、PAA添加量の増加に伴い、初期段階ではアセトアルデヒド濃度は抑制され、0.1g以上添加では2日後には完全に検出されなくなり、PAAの添加は効果があることが分かった。さらに9日後にもアセトアルデヒドガスが存在しないことも確認できた。
(検証のまとめ)
食の安全への意識が高まる中、脱酸素剤等の品質保持剤はその利用が一般的となり、食品包装材料の重要な構成品となっている。これらは、年々多機能化の要求が高まっているため、
1.破損時の飛散や誤飲誤食の危険性がない。
2.金属探知器が使用でき、異物混入対策が取れる
3.酸化防止とカビ、酵母及び細菌やカビの抑制機能がある
等の安全で多機能型の鮮度保持シートの開発について検討した。非金属系脱酸素シートにエタノール蒸散機能の付与による高付加価値化を検討した結果、この多機能型脱酸素シートにさらにポリアリルアミンを付与することで、エリソルビン酸とエタノールとの接触により発生するアセトアルデヒドを除去できることが分かった。
今後は、この多機能型の脱酸素シートから発生するアセトアルデヒドを完全除去する技術を確立し、エリソルビン酸とエタノール及びポリアリルアミンの添加による脱酸素機能、エタノール蒸散機能への影響を検討し、これら添加薬剤の最適化を図る。また、薬剤を添加したシートの脱酸素機能とエタノール蒸散機能を最大限に発揮しながら添加薬剤の外部への漏出を防ぐフィルムを開発する。これらにより、脱酸素機能、エタノール蒸散機能を保持したまま、破損時の危険性がなく、金属探知器が使用でき、同封する食品を過乾燥としない多機能型鮮度保持シート(シート状の多機能型品質保持剤)が開発できた。
【符号の説明】
【0026】
10 食品の鮮度保持シート
11 紙台紙
12 非鉄被酸化材
13 多孔質無機粉体
14 フィルム
20 ガスバリア性の包装体
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の鮮度を保持するためのシート、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ケーキや和菓子等の食品では、製造してから販売されるまでの間、その鮮度を維持する種々な対策が施されるが、食品の鮮度を落とす原因としては、代表的に次の3つが考えられる。
【0003】
(1)食品自体の過度な乾燥または湿潤
(2)空気中の酸素による酸化
(3)細菌やカビの増殖
上記原因(1)の「食品自体の過度な乾燥または湿潤」は、例えば紙やフィルム等の包装材による包装によって、ある程度除去できるようになってきており、上記原因(2)の「空気中の酸素による酸化」についても、例えば、特許文献1及び特許文献2等において、種々な対策が提案されてきている。
また、上記原因(3)の「細菌やカビの増殖」についても、上記特許文献1や特許文献2等において、その解消技術が提案されている。
特許文献1の技術では、エタノール蒸気発生体、鉄粉系の脱酸素剤及び陰イオン交換体を共存させた食品品質保持剤が提案されており、この食品品質保持剤によれば、アセトアルデヒドに伴う臭気だけでなく、他の臭気の発生を抑制し、食品の鮮度や風味を保持することができると考えられる。勿論、エタノール蒸気発生体からのエタノールによる静菌機能も発揮されると考えられる。
一方、特許文献2では、鉄系の脱酸素剤、エタノールまたはエタノール徐放剤、アミノ基を有する化合物、及び活性炭からなる食品保存剤が提案されているが、この食品保存剤によれば、鉄系の脱酸素剤による脱酸素機能、及びエタノールまたはエタノール徐放剤からのエタノールによる静菌機能が発揮されると考えられる。
しかしながら、これらの特許文献1及び特許文献2の技術では、「鉄粉系の脱酸素剤」あるいは「鉄系の脱酸素剤」を使用しているため、これらが金属探知機に反応して、包装された食品の「異物混入の検査」が効果的に行えないことになる。包装された食品においては、製造や包装途中において異物(主として鉄で形成されている針や、機械部品、あるいはその欠けたもの)が混入しているかいないかを金属探知機によって検査するのであるが、この食品に、特許文献1のような「食品品質保持剤」が使用されていたり、特許文献2のような「鉄系の脱酸素剤」が使用されていたりすると、その中の「鉄粉系の脱酸素剤」や「鉄系の脱酸素剤」が金属探知機による検査で検出されてしまうからである。
また、これらの特許文献1及び特許文献2の技術では、鉄の酸化を利用した脱酸素機能を発揮する「鉄粉系の脱酸素剤」あるいは「鉄系の脱酸素剤」を使用しているため、鉄が酸化する際に「発熱」することになるが、この発熱によって食品が過乾燥する可能性もある。
そこで、特許文献3〜特許文献5によって提案されているように、脱酸素を行う被酸化物として、アスコルビン酸あるいはエリソルビン酸、またはこれらの塩を使用して、脱酸素剤を形成することがなされているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−109856号公報
【特許文献2】特開平8−140643号公報
【特許文献3】特開昭53−46490号公報
【特許文献4】特開平5−268924号公報
【特許文献5】特許第2658640号掲載公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献3では「(強)アルカリ」を使用しなければならないものとなっていて、食品の包装内に内装するものとしては好ましくないものであり、このことは、特許文献4及び特許文献5の技術でも同様である。
一方、特許文献2で問題となっているように、静菌のためのエタノールまたはエタノール徐放剤を使用すると、これらが化学変化をして「アセトアルデヒド」を発生する原因となるのであり、食品が「異臭」を放つことになってしまうことになる。脱酸素剤を入れて包装した食品が異臭を放つようでは、食品自体の鮮度が保持されていたとしても、食品の消費者にとってみれば非常に問題である。
以上纏めれば、「鉄粉系」あるいは「鉄系」の脱酸素剤を使用すると、金属探知機による異物検査が効果的に行えず、しかも「鉄粉系」あるいは「鉄系」の脱酸素機能に基づく発熱によって食品が過乾燥することになり、また、エタノールまたはエタノール徐放剤を使用すると、食品が「アセトアルデヒド」に起因する異臭を放つことになる可能性が高くなる。
そこで、本発明者等は、「鉄粉系」あるいは「鉄系」ではないアスコルビン酸あるいはエリソルビン酸、またはこれらの塩を使用しながらも、強アルカリを使用しないで済み、静菌のためのエタノールまたはエタノール徐放剤を使用することのできる鮮度保持シートとするにはどうしたらよいか、について種々検討を重ねてきた結果、本発明を完成したのである。
すなわち、本発明の目的とするところは、脱酸素機能を発揮する他、食品の過乾燥が防止でき、食品の金属探知機による検査の効率も高めることができて、しかも静菌ができて異臭の発生も抑制することのできる鮮度保持シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、まず、請求項1に係る発明の採った手段は、後述する実施形態の説明中で使用する符号を付して説明すると、
「非鉄被酸化材12を含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだ食品の鮮度保持シート10であって、
紙台紙11は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体13を内添したものであり、かつ、非鉄被酸化材12の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添したものであることを特徴とする食品の鮮度保持シート10」
である。
すなわち、この請求項1に係る食品の鮮度保持シート10は、図1の(a)または(b)に示すように、人体に全く無害な活性炭や珪藻土のような多孔質無機粉体13を内添した紙台紙11に、アスコルビン酸あるいはエリソルビン酸またはこれらの塩である非鉄被酸化材12、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添したものである。
また、この請求項1に係る食品の鮮度保持シート10は、図1にも示すように、非鉄被酸化材12、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミン等の非鉄被酸化材12を含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだものであり、図3に示すように、食品とともに、ガスバリア性のフィルムからなる包装体20中に入れても、非鉄被酸化材12、多孔質無機粉体13、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミン等の非鉄被酸化材12が、当該ガスバリア性の包装体20内に漏れ出ることは無く、従って、ガスバリア性の包装体20中の食品が、これらの非鉄被酸化材12、多孔質無機粉体13、及びエタノールまたはエタノール徐放剤によって汚損されることもないのである。
以上のようにした請求項1に係る鮮度保持シート10を、食品とともにガスバリア性の包装体20内に入れて商品化したものを、金属探知機に掛けても、当該鮮度保持シート10は、金属、特に鉄あるいはその酸化物を全く含まないのであるから、当該鮮度保持シート10の存在によっては無反応となる。仮に、この金属探知機が反応したとすれば、ガスバリア性の包装体20内の鮮度保持シート10以外のものに反応したことになるから、確実に異物の混入があると判断できるのである。(金属探知機の効率的な使用)
また、この請求項1に係る鮮度保持シート10を、食品とともにガスバリア性の包装体20内に入れると、この食品から出る湿気を多孔質無機粉体13が吸着することになり、吸着された水と当該多孔質無機粉体13の触媒作用によって、フィルム14内に入ってきた酸素が非鉄被酸化材12を酸化することになる。フィルム14内の酸素がなくなれば、包装20内にまだ残有している気体酸素がその分圧によりフィルム14内に侵入し、更に非鉄被酸化材12を酸化させる。以上のことが繰り返されることにより、食品の包装20内の酸素の全てが非鉄被酸化材12の酸化に費やされ、結果的に、包装内の気体酸素が全て固定化されて、脱酸素が完成するのである。(空気中の酸素による酸化の防止)
多孔質無機粉体13は、ガスバリア性の包装体20内の水分を吸着するから、包装体20内の食品の過度な湿潤が防止されることは当然として、水分を吸着した多孔質無機粉体13の触媒作用によって非鉄被酸化材12が酸化される際には、当該鮮度保持シート10において発熱反応は起きないため、食品が過度に乾燥されることもないのである。
勿論、この請求項1の食品の鮮度保持シート10は、非鉄被酸化材12の酸化反応に必要な水分を自ら内包していて、気体酸素が入ってきたときに、直ちにこの酸素によって非鉄被酸化材12が酸化されるものであり、和菓子やソーセージのような湿潤状態にしておくのが好ましい食品のための脱酸素剤としても適したものである。そして、この食品の鮮度保持シート10は、食品中から水分を奪うことがないのであるから、食品が必要とする湿潤状態は維持し続けるのである。(食品自体の過度な乾燥または湿潤の防止)
一方、紙台紙11に添着してあったエタノールまたはエタノール徐放剤からは、エタノール(アルコール類)が発生あるいは蒸散して、これがフィルム14を通してガスバリア性の包装体20内に拡散する。ガスバリア性の包装体20内に拡散したアルコール類は、静菌作用を有しているのであるから、ガスバリア性の包装体20内の食品にカビを生やしたり、その他の殺菌の増殖を防止するのである。(細菌やカビの増殖の防止)
ところで、エタノールまたはエタノール徐放剤から発生したエタノールは、アスコルビン酸あるいはエリソルビン酸またはこれらの塩である非鉄被酸化材12に接触すると、「悪臭」の原因物質であるアセトアルデヒドを発生させることがある。しかしながら、この請求項1の鮮度保持シート10は、紙台紙11にポリアリルアミンが添着してあるから、このポリアリルアミンがフィルム14内にてアセトアルデヒドを直ちに固定して除去することになる。このため、アセトアルデヒドがガスバリア性の包装体20内に拡散することは殆ど無く、ガスバリア性の包装体20を開封したとしても、異臭が発生することはない。(アセトアルデヒドを原因とする異臭の除去)
従って、この請求項1の鮮度保持シート10は、脱酸素機能を発揮する他、食品の過乾燥が防止でき、食品の金属探知機による検査の効率も高めることができて、しかも静菌ができて異臭の発生も抑制することのできるものとなっているのである。
次に、上記課題を解決するために、請求項2に係る発明の採った手段は、後述する最良形態中の符号を付して説明すると、
「非鉄被酸化材12を含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだ食品の鮮度保持シート10であって、
紙台紙11は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体13、及びポリアリルアミンを内添したものであり、かつ、非鉄被酸化材12の溶液、及び、エタノールまたはエタノール徐放剤を内添したことを特徴とする食品の鮮度保持シート10」
である。
すなわち、この請求項2の食品の鮮度保持シート10は、紙台紙11を構成する繊維中に多孔質無機粉体13、及びポリアリルアミンを内添しておいて紙台紙11とし、この紙台紙11全体に、非鉄被酸化材12の溶液、及び、エタノールまたはエタノール徐放剤を内添したものである。これに対して、上記請求項1の食品の鮮度保持シート10は、まず、紙台紙11を構成する繊維中に多孔質無機粉体13を内添しておいて紙台紙11とし、この紙台紙11全体に、非鉄被酸化材12の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添したものであり、この点が、この請求項2の食品の鮮度保持シート10とは異なっているものである。その他の点は、上記請求項1と同様である。
この請求項2の食品の鮮度保持シート10も、請求項1のそれと同様に、非鉄被酸化材12の酸化反応に必要な水分を自ら内包していて、気体酸素が入ってきたときに、和菓子やソーセージのような湿潤状態にしておくのが好ましい食品のための脱酸素剤としてより適したものであり、直ちにこの酸素によって非鉄被酸化材12が酸化されるものである。そして、この食品の鮮度保持シート10も、食品中から水分を奪うことがないのであるから、食品が必要とする湿潤状態は維持し続けるのである。
従って、この請求項2に係る食品の鮮度保持シート10は、上記請求項1のそれと同様に、脱酸素機能を発揮する他、食品の過乾燥が防止でき、食品の金属探知機による検査の効率も高めることができて、しかも静菌ができて異臭の発生も抑制することのできるものとなっているのである。
上記請求項1に係る食品の鮮度保持シート10は、次の請求項3の製造方法によって製造できるものであるが、この請求項3に係る発明の採った手段は、
「非鉄被酸化材12、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだ食品の鮮度保持シート10を、次の各工程を含んで製造する方法。
【0007】
(1)紙台紙11を構成するためのスラリー中に多孔質無機粉体13を混入して抄紙することにより、多孔質無機粉体13を内添した紙台紙11を抄紙する抄紙工程;
(2)この抄紙された紙台紙11を乾燥する乾燥工程;
(3)この乾燥工程を経た紙台紙を所定形状に切断する工程;
(4)この切断工程を経た紙台紙に前記非鉄被酸化材の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを噴霧する噴霧工程;
(5)前記非鉄被酸化材を含む紙台紙を前記フィルムによって包み込む工程」
である。
すなわち、この請求項3に係る製造方法は、請求項1の食品の鮮度保持シート10を製造するためのものであり、多孔質無機粉体13を内添して抄紙された紙台紙11を乾燥した後に、非鉄被酸化材12、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添した紙台紙11を、フィルム14によって包装するようにしたものである。
すなわち、この請求項3の製造方法は、請求項1の説明中で採用した材料によってスラリーを形成して、このスラリーから、多孔質無機粉体13を内添した紙台紙11を抄紙するのが上記(1)の工程である。この工程(1)で使用するスラリー中には、後述する実施の形態中で説明するような材料が使用される。
この請求項3に係る製造方法では、上記の抄紙工程(1)を済ませた紙台紙11について、乾燥工程(2)にて乾燥させた後、次の切断工程(3)にて所定形状に切断し、工程(4)にて非鉄被酸化材12の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを噴霧することにより内添するのである。
この噴霧工程(4)では、非鉄被酸化材12が気体酸素と直接接触することがないため、未だ酸化されることはない。なお、この噴霧工程(4)にて噴霧される溶液中に、アスコルビン酸またはエリソルビン酸あるいはこれらの塩の酸化を促進させるための塩化カルシウム、塩化マグネシウムあるいは塩化ナトリウム等の塩化塩を溶かし込んでおいてもよい。これらの塩化塩は水溶性であるため、上述した抄紙工程(1)でのスラリー中に溶かし込んでおいても紙台紙11中に内添させることが困難であるだけでなく、抄紙機を錆び付かせてしまうから、入れるとすれば、この噴霧工程(4)での溶液中が最適である。
最後に、工程(5)において、非鉄被酸化材12を添加した紙台紙11をフィルム14による包装を行うことにより、製品としての食品の鮮度保持シート10が完成するのである。
つまり、この食品の鮮度保持シート10は、乾燥工程を経た紙台紙11を切断して、切断された各紙台紙11に非鉄被酸化材12の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを噴霧してから、これをフィルム14によって包み込むものである。
従って、この請求項3の製造方法は、請求項1の食品の鮮度保持シート10を確実かつ連続的に製造し得るものとなっているのである。
また、以上の請求項2に係る食品の鮮度保持シート10は、次の請求項4の製造方法によって製造できるものであるが、この請求項4に係る発明の採った手段は、上述した符号を使用しながら説明すると、
「非鉄被酸化材12、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだ食品の鮮度保持シート10を、次の各工程を含んで製造する方法。
(1)紙台紙11を構成するためのスラリー中に、多孔質無機粉体13及びポリアリルアミンを混入して抄紙することにより、多孔質無機粉体13及びポリアリルアミンを内添した紙台紙11を抄紙する抄紙工程;
(2)この抄紙された紙台紙11を乾燥する乾燥工程;
(3)この乾燥工程を経た紙台紙を所定形状に切断する工程;(4)この切断工程を経た紙台紙、またはこれに重ねられる別の紙台紙に、前記非鉄被酸化材の溶液、及び、エタノールまたはエタノール徐放剤を噴霧する噴霧工程;
(5)前記非鉄被酸化材を含む紙台紙を前記フィルムによって包み込む工程。」
である。
抄紙すべきスラリー中に多孔質無機粉体13及びポリアリルアミンを混入してから、この多孔質無機粉体13及びポリアリルアミンを含むスラリーから、多孔質無機粉体13及びポリアリルアミンを内添した紙台紙11を抄紙するのが上記(1)の工程である。この工程(1)で使用するスラリー中には、後述する実施の形態中で説明するような材料が使用されるのであるが、上記ポリアリルアミンは凝集剤としての役割をも果たすのである。
従って、この請求項4の製造方法も、請求項2の食品の鮮度保持シート10を確実かつ連続的に製造し得るものとなっているのである。
【発明の効果】
【0008】
以上説明した通り、本発明に係る鮮度保持シート10は、
「非鉄被酸化材12を含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだ食品の鮮度保持シート10であって、
紙台紙11は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体13を内添したものであり、かつ、非鉄被酸化材12の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添したものであること」
あるいは、「非鉄被酸化材12を含む紙台紙11を、通気性を有するフィルム14によって包み込んだ食品の鮮度保持シート10であって、
紙台紙11は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体13、及びポリアリルアミンを内添したものであり、かつ、非鉄被酸化材12の溶液、及び、エタノールまたはエタノール徐放剤を内添したこと」
にその構成上の主たる特徴があり、これにより、脱酸素機能を発揮する他、食品の過乾燥が防止でき、食品の金属探知機による検査の効率も高めることができて、しかも静菌ができて異臭の発生も抑制することのできる鮮度保持シート10を提供することができるのである。
【0009】
つまり、本発明によれば、食品の鮮度を落とす次の3つの原因、
(1)食品自体の過度な乾燥または湿潤
(2)空気中の酸素による酸化
(3)細菌やカビの増殖
をそれぞれ除去することができるだけでなく、自らは文字通り「シート状」となっているから、ガスバリア性の包装体20内に食品とともに入れても何ら嵩張らず、食品包装の補助品として、極めて使用効果の高いものとなっているのである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る食品の鮮度保持シートの拡大断面図であり、(a)は単層の紙台紙11を採用した場合の拡大断面図、(b)は複数層の紙台紙11を採用した場合の拡大断面図である。
【図2】同鮮度保持シートの製造工程の概略を示す概略図である。
【図3】同鮮度保持シートを食品とともにガスバリア性の包装体20内に収納したときの性分の動きや作用を概略的に示した斜視図である。
【図4】水分22%のときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図5】水分22%のときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図6】水分50%のときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図7】水分50%のときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図8】水分70%のときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図9】水分70%のときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図10】空気を注入した20℃のときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図11】空気を注入した30℃のときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図12】空気を注入した20℃のときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図13】空気を注入した30℃のときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図14】表9中の丸数字1の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図15】表9中の丸数字1の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図16】表9中の丸数字1の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【図17】表9中の丸数字2の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図18】表9中の丸数字2の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図19】表9中の丸数字2の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【図20】表9中の丸数字3の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図21】表9中の丸数字3の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図22】表9中の丸数字3の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【図23】表9中の丸数字4の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図24】表9中の丸数字4の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図25】表9中の丸数字4の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【図26】表9中の丸数字5の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図27】表9中の丸数字5の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図28】表9中の丸数字5の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【図29】表9中の丸数字6の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図30】表9中の丸数字6の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図31】表9中の丸数字6の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【図32】表9中の丸数字7の化合物を入れたときの、酸素残留濃度の結果を示すグラフである。
【図33】表9中の丸数字7の化合物を入れたときの、エタノール蒸散濃度の結果を示すグラフである。
【図34】表9中の丸数字7の化合物を入れたときの、アセトアルデヒド発生濃度の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、上記のように構成した各請求項に係る発明を、図面に示した最良の形態である食品の鮮度保持シート10について、その製造方法とも併せてそれぞれ説明する。
【0012】
(第1実施例)
図1には、上記水分依存型食品の鮮度保持シート10が示してあるが、図1の(a)にて示した食品の鮮度保持シート10は、1枚の紙台紙11に対して、多孔質無機粉体13の内添と、非鉄被酸化材12の添着とを行ったものであり、これに対して、図1の(b)に示した食品の鮮度保持シート10は、多孔質無機粉体13を内添した紙台紙11と、非鉄被酸化材12を添着した紙台紙11とを完全に分けたものである。図1の(a)に示した食品の鮮度保持シート10は、非鉄被酸化材12の周囲にその反応促進を行う多孔質無機粉体13を均等に分散させて、非鉄被酸化材12の酸化を均等に行うメリットがあるものであり、図1の(b)に示した2枚の非鉄被酸化材12からなる食品の鮮度保持シート10より、外気中の酸素や水分の吸着を効果的に行うメリットがあるものである。
勿論、紙台紙11の外側を包み込んでいるフィルム14は、内添した多孔質無機粉体13の外部への洩れ出を防止しながら、空気中の酸素や水分を食品の鮮度保持シート10内に通すものであり、当該食品の鮮度保持シート10を収納した食品容器内を汚さないで、かつ脱酸素機能や吸湿機能が十分発揮できるようにするものである。換言すれば、この食品の鮮度保持シート10を構成しているフィルム14は、ガスバリア性を無くすとともに、粉体バリア性、つまり多孔質無機粉体13を外部へ出さない機能を有しているものである。
さて、紙台紙11であるが、この紙台紙11は、図2及び図3の抄紙工程において連続抄紙(タッピ抄紙)で形成するものである。この第1実施例の食品の鮮度保持シート10を構成する紙台紙11の抄紙工程で重要なことは、そのスラリー中に、多孔質無機粉体13を予め添加しておくことにより、抄紙された紙台紙11の中にこの多孔質無機粉体13を内添した状態にすることである。
紙台紙11そのものの材料としては、パルプ繊維が適しており、特に自然繊維パルプが適している。またパルプ繊維の長さは特に限定されないが、次に述べる多孔質無機粉体13を内添できるものが適している。
この紙台紙11には非鉄被酸化材12を含ませるのであるが、この非鉄被酸化材12としては、文字通り、「鉄」や「酸化鉄」は対象外であり、主として、アスコルビン酸あるいはエリソルビン酸、またはこれらの塩を使用するものである。これらのアスコルビン酸あるいはエリソルビン酸、またはこれらの塩は、弱酸性のものであって、上述した特許文献3等において使用されているような強アルカリ性のものでないことは明らかである。
多孔質無機粉体13は、本実施例では、所謂活性炭を使用したが、その他にも、木炭、泥炭、亜炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛等であっても良い。また、この多孔質無機粉体13としては、他にも珪藻土、水酸化マグネシウム、ゼオライト、バーミキュライト、活性白土パーライト等も適用できるものである。
すなわち、多孔質無機粉体13としては、人体に全く無害であると共に、食品の包装内に存在している水分を吸着して、非鉄被酸化材12の酸化を促進する触媒作用を有している必要があるため、上述した活性炭や、ヤシガラ活性炭、木炭、泥炭、亜炭や珪藻土の他、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ゼオライト、バーミキュライト、活性白土、パーライトがある。
また、この多孔質無機粉体13としては、紙台紙11に内添する、つまり、紙台紙11内に抄き込む必要があることから、上に例示したような物質がよく、かつ、紙台紙11内への均等な内添が実行できるように、その平均粒度は、10μm〜1mm程度のものが好ましい。特に、本発明に係る食品の鮮度保持シート10は、文字通り「シート状のもの」として、食品包装内に入れるものであるから、非常に薄いものである必要があり、そのために、後述する紙台紙11に内添したときに、全体が薄くなり得るような平均粒度の多孔質無機粉体13を採用することが適している。
つまり、この多孔質無機粉体13は、文字通り粉体であることが、抄紙時のスラリー中での分散が良くなると共に、抄紙後においてパルプ繊維による保持、つまり内添が良好になる上で好適である。特に、この多孔質無機粉体13の分散性や内添効果を高める上では、この多孔質無機粉体13の平均粒径が10μm〜1mmの範囲内であることが好ましい。多孔質無機粉体13の平均粒径が10μmより小さいと、分散性はよいが抄紙機の網から逃げてしまって、紙台紙11への内添がうまくいかず、一方、1mmより大きいと分散性が悪くなるだけでなく、抄紙機の紙台紙11の平滑性を損なうことになるからである。
以上のような多孔質無機粉体13を内添する紙台紙11は、各種繊維を一般的な抄紙機に掛けて、多孔質無機粉体13と共に抄紙することにより形成されたものであり、使用する繊維としては、木材パルプ、非木材(例えばヤシガラ)パルプ、麻、リンターパルプ等の天然繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維等の合成繊維、あるいは炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維がある。
勿論、非鉄である非鉄被酸化材12としては、前述したように、アスコルビン酸、又はエリソルビン酸、あるいはこれらのナトリウム塩が使用されるが、この非鉄被酸化材12の添着は、その水溶液を、抄紙して乾燥させた紙台紙11に噴露することによりなされるものである。
非鉄被酸化材12が添着された多孔質無機粉体13が内添された紙台紙11は、フィルム14によって包み込まれる。このフィルム14は、空気中の酸素や湿気を内部に通すが、内部の多孔質無機粉体13やパルプ繊維を外部には出さない非常に小さな穴を形成したものである。なお、このフィルム14は、紙台紙11内の合成繊維が熱によって軟化したとき、この軟化繊維と溶着し得るような材料によって形成すると、食品の鮮度保持シート10全体の厚さをより薄くすることができて、有利である。
この多孔質無機粉体13の種類と、パルプ繊維との配合割合は、次に示す表1の通りであり、表1には実施例1から4の4種類の配合割合成分比のものが例示してある。これらの材料を入れたスラリー中に、カチオンまたはアニオン凝集剤を用いてミキサーで混合することにより、パルプ繊維に多孔質無機粉体13を定着させ、坪量が200(g/m2)の紙台紙11としたのである。
【0013】
【表1】
その後は、抄紙された紙台紙11を乾燥機に掛けて乾燥させ、表1中に示したアスコルビン酸の各配合割合の溶液を噴霧した。このように形成した紙台紙11を、切断工程及び包装工程にて、所定の形状のものに切断して、これをフィルム14にて包み込むことにより、図1に示したような食品の鮮度保持シート10としたものである。
【0014】
(第2実施例)
次に、第2実施例について説明すると、この食品の鮮度保持シート10は、上記第1実施例でも説明した通り、図1の(a)または(b)に示したような形態を有するものである。
すなわち、この第2実施例に係る食品の鮮度保持シート10を構成する紙台紙11の抄紙条件は次の表2に示す通りであり、第1実施例の場合と同様に、坪量が200(g/m2)のものを抄紙するようにした。
【0015】
【表2】
抄紙した紙台紙11は、これを乾燥工程に掛けて乾燥させた後、表2に示したよう配合割合のアスコルビン酸やエリソルビン酸の溶液を噴霧工程にて噴霧して、そのまま切断及び包装工程にてフィルム14による包装を行った。
ここで問題になるのが、アスコルビン酸やエリソルビン酸の溶液の噴霧量であるが、本第2実施例では、5cm×5cm角の紙台紙11について、表2中の実施例5〜実施例15に示した濃度の溶液をこの表2中に示したようグラム数となるように吹き付けるようにしたものである。
そして、溶液を吹き付けた5cm×5cm角の試料を、第1実施例の場合と同様に、50非鉄被酸化材12非鉄被酸化材12の空気中に曝して、完全に酸素がなくなるまでの時間を測定したところ、右から2番目の欄に示したような時間数で脱酸素が完了した。なお、実施例5及び実施例6については、24時間後の残有酸素量が示してある。
このような、製品化された後も湿潤状態にある食品の鮮度保持シート10は、前述した自力反応型であり、空気中の酸素が当該食品の鮮度保持シート10内に入ってくれば、この酸素がその非鉄被酸化材12を酸化することになるものである。このような自力反応型の食品の鮮度保持シート10は、湿った状態にあるのが好ましい食品、例えば、まんじゅうやカステラ、あるいはソーセージ等に使用するものとして適しているものである。
以上のように構成した鮮度保持シート10を、図3に示したように、ガスバリア性を有するガスバリア性の包装体20内に収納して、所定時間放置した後、金属探知機等で異物検査を行ったり、食品の過乾燥の有無等を調査し、市販品との比較を行った結果、表3のような結果が得られた。
【0016】
【表3】
以上のような鮮度保持シート10を構成する紙台紙11について、これを抄造する原材料について、脱酸素機能の速効タイプ、遅効タイプ、及び一般タイプに分けて示すと、次の表4〜表6の通りである。ここで、速効タイプは、半日〜1日で脱酸素機能を発揮するもの、遅効タイプは、4日〜6日で脱酸素機能を発揮するもの、そして、一般タイプは、2日〜4日で脱酸素機能を発揮するものと定義する。また、表4〜表6中の「活性炭P」は、平均粒径が15μm、比表面積が1200g/m2、全細孔容積が0.7ml/gのものであり、表4中の「活性炭S」は、平均粒径が35μm、比表面積が1250g/m2、全細孔容積が1.08ml/gのものである。
【0017】
【表4】
【0018】
【表5】
【0019】
【表6】
(検証結果)
以上の実施例を実施するに当たって、発明者等は、次の点の検証を詳しく行った。
・シート水分保持率による脱酸素能への影響
・注入空気量によるガス吸放出への影響
・ポリアリルアミン添加によるアセトアルデヒドの除去この場合、先に示す表9中の、丸数字1〜7で示す7種類の化合物の添加変更を行って試行した。
(シート水分保持率による脱酸素能への影響についての検証)
この原紙(7cm×7cm、3g)に31%エリソルビン酸水溶液0.95〜3.05gを添加し、さらにエタノール(ナカライテスク(株)製)を含浸させ、食品等の内容物と直接接触しないように石灰乾燥剤用のガス透過性フィルムで包装し、多機能型鮮度保持シートとした。このときの設定条件は表7の通りとした。
【0020】
【表7】
ガス評価試験は、以下の通りとした。ガスバリアフィルム内に、多機能型(本発明に係る)鮮度保持シート10と350mlの空気を密封し、酸素濃度計(飯島電子工業(株)製、製品名:パックマスター)を用いて、20℃環境下におけるガスバリアフィルム内の残存酸素濃度を測定した。また、同様の環境下でガステック検知管(エタノール用No.112L)を用いてエタノール蒸散濃度の測定を行った。
酸素残留濃度、エタノール蒸散濃度の結果を図4〜図9に示す。脱酸素剤原紙の水分保持率を22%〜70%になるように原紙への還元剤(エリソルビン酸)添加量を調整した。この添加量から原紙1枚あたりが脱酸素処理できる空気の理論値は179ml〜572mlとなる。これに対して、実際の空気注入量を350mlに固定した場合、注入空気量が脱酸素能力を超えると図4のように酸素濃度の減少が進まなくなり、品質保持する食品を劣化させる危険性がある。よって、図6、または図8のような脱酸素能力範囲内の適正な空気量の注入が必要とされる。
また、エタノール蒸散濃度は図5、図7、図9のとおり5時間程度で急激に立ち上がり、それ以降は袋内で飽和することが分かった。さらに、エタノール添加量が脱酸素速度に影響するため、市販されている鉄系脱酸素剤の一般型と同じ脱酸素24時間以内を目指す場合は、エリソルビン酸添加量とエタノール添加量及び注入空気量を最適化し、脱酸素速度とエタノール蒸散速度のバランスを取ることが非常に重要となる。
【0021】
(注入空気量によるガス吸放出への影響の検証)
次に、脱酸素剤原紙(7cm×7cm、3g)に31%エリソルビン酸水溶液3.05gを添加し、原紙1枚あたりへの水分保持率を70%に固定した。さらに0.3gまたは0.6gのエタノールを含浸させ、ガス透過性フィルムで包装した。このときの設定条件は表8の通りとした。ガス評価試験は、ガスバリアフィルム内に多機能型鮮度保持シートと200〜500mlの空気を密封し、酸素濃度計を用いて、20℃または30℃環境下におけるフィルム内の残存酸素濃度を測定した。また、同様の環境下でガステック検知管を用いてエタノール蒸散濃度の測定を行った。
【0022】
【表8】
環境温度20℃において、空気注入量(200〜500ml)、エタノール添加量(0.3、0.6g)による酸素残存濃度への影響を図10に示す。また30℃環境下での同様の試験結果を図11に示す。エリソルビン酸の添加量から脱酸素剤原紙1枚あたりが処理できる空気量は572mlであり、空気注入量が少ない程、脱酸素到達時間が短くなった。エタノール添加量で比較すると添加量が多いと脱酸素到達時間が長くなった。また、環境温度が30℃では脱酸素到達時間が20℃よりも大幅に短くなることが分かった。いずれの条件でもほぼ24時間以内に脱酸素が終了し、実用的であることが分かった。
空気注入量による蒸散エタノール濃度への影響を図12(環境温度20℃)、図13(環境温度30℃)に示す。エタノールの蒸散はほぼ2日のうちにフィルム内で飽和し、15日経過してもほぼ均一であることが分かった。
【0023】
(ポリアリルアミン添加によるアセトアルデヒドの除去の検証)
鉄系脱酸素剤とエタノールが同一環境内に存在すると、主剤とエタノールの接触によりエタノールが酸化されアセトアルデヒドが発生することが報告されている。
この系においてもアセトアルデヒドの測定を行ったところ、ガス発生が確認された。そこでエリソルビン酸及びエタノールの添加に併せて、さらに表9の7種類のポリアリルアミン系薬剤(日東紡績(株)、以下PAAと略記)をそれぞれ脱酸素剤原紙に添加し、アセトアルデヒドガスの減少について検討した。アセトアルデヒド濃度の測定は、ガステック検知管(アセトアルデヒド用 No.92、92M、92L)を用いて行った。このときの設定条件は表10の通りとした。
【0024】
【表9】
【0025】
【表10】
ガス分析を行った結果を図14〜図34に示すが、図14〜図16は、(1)のPAA−HCL−10L添加した場合を、図17〜図19は、(2)PAA−15添加した場合を、図20〜図22は、(3)PAA−U5000添加した場合を、図23〜図25は、(4)PAS−92添加した場合を、図26〜図28は、(5)PAA−D19A添加した場合を、図29〜図31は、(6)PAS−M−1A添加した場合を、図32〜図34は、(7)PAS−92A添加した場合を、それぞれ示している。
ブランク(No.36)とPAA添加品全てを比較すると、PAAを添加することにより、それぞれ脱酸素到達時間とエタノール蒸散濃度に大差はなく、PAA添加は脱酸素能とエタノール蒸散能に影響がないことが分かった。アセトアルデヒド発生量は、ブランクの場合、初期段階で1000ppmを超えるが、時間の経過と共にアセトアルデヒド自体の崩壊による濃度減少が見られた。15日後でもフィルム内には400ppmのアセトアルデヒドガスが残留した。しかし、(6)の場合の、PAS−M−1Aを除いた各種PAAを0.03g添加したものは初期段階でのアセトアルデヒド濃度はブランクの半分に抑えられ、反応が遅いものでも9日後には検出されなくなった。これはエタノールガスが酸化剤に接触することにより生成するアセトアルデヒドガスをPAAが即座に固定したためと判断できる。
また、PAA添加量の増加に伴い、初期段階ではアセトアルデヒド濃度は抑制され、0.1g以上添加では2日後には完全に検出されなくなり、PAAの添加は効果があることが分かった。さらに9日後にもアセトアルデヒドガスが存在しないことも確認できた。
(検証のまとめ)
食の安全への意識が高まる中、脱酸素剤等の品質保持剤はその利用が一般的となり、食品包装材料の重要な構成品となっている。これらは、年々多機能化の要求が高まっているため、
1.破損時の飛散や誤飲誤食の危険性がない。
2.金属探知器が使用でき、異物混入対策が取れる
3.酸化防止とカビ、酵母及び細菌やカビの抑制機能がある
等の安全で多機能型の鮮度保持シートの開発について検討した。非金属系脱酸素シートにエタノール蒸散機能の付与による高付加価値化を検討した結果、この多機能型脱酸素シートにさらにポリアリルアミンを付与することで、エリソルビン酸とエタノールとの接触により発生するアセトアルデヒドを除去できることが分かった。
今後は、この多機能型の脱酸素シートから発生するアセトアルデヒドを完全除去する技術を確立し、エリソルビン酸とエタノール及びポリアリルアミンの添加による脱酸素機能、エタノール蒸散機能への影響を検討し、これら添加薬剤の最適化を図る。また、薬剤を添加したシートの脱酸素機能とエタノール蒸散機能を最大限に発揮しながら添加薬剤の外部への漏出を防ぐフィルムを開発する。これらにより、脱酸素機能、エタノール蒸散機能を保持したまま、破損時の危険性がなく、金属探知器が使用でき、同封する食品を過乾燥としない多機能型鮮度保持シート(シート状の多機能型品質保持剤)が開発できた。
【符号の説明】
【0026】
10 食品の鮮度保持シート
11 紙台紙
12 非鉄被酸化材
13 多孔質無機粉体
14 フィルム
20 ガスバリア性の包装体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非鉄被酸化材を含む紙台紙を、通気性を有するフィルムによって包み込んだ食品の鮮度保持シートであって、
前記紙台紙は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体を内添したものであり、かつ、前記非鉄被酸化材の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添したものであることを特徴とする食品の鮮度保持シート。
【請求項2】
非鉄被酸化材を含む紙台紙を、通気性を有するフィルムによって包み込んだ食品の鮮度保持シートであって、
前記紙台紙は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体、及びポリアリルアミンを内添したものであり、かつ、前記非鉄被酸化材の溶液、及び、エタノールまたはエタノール徐放剤を内添したことを特徴とする食品の鮮度保持シート。
【請求項3】
非鉄被酸化材、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを含む紙台紙を、通気性を有するフィルムによって包み込んだ食品の鮮度保持シートを、次の各工程を含んで製造する方法。
(1)前記紙台紙を構成するためのスラリー中に多孔質無機粉体を混入して抄紙することにより、前記多孔質無機粉体を内添した前記紙台紙を抄紙する抄紙工程;
(2)この抄紙された紙台紙を乾燥する乾燥工程;
(3)この乾燥工程を経た紙台紙を所定形状に切断する工程;
(4)この切断工程を経た紙台紙に前記非鉄被酸化材の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを噴霧する噴霧工程;
(5)前記非鉄被酸化材を含む紙台紙を前記フィルムによって包み込む工程。
【請求項4】
非鉄被酸化材、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを含む紙台紙を、通気性を有するフィルムによって包み込んだ食品の鮮度保持シートを、次の各工程を含んで製造する方法。
(1)前記紙台紙を構成するためのスラリー中に、多孔質無機粉体及びポリアリルアミンを混入して抄紙することにより、前記多孔質無機粉体及びポリアリルアミンを内添した前記紙台紙を抄紙する抄紙工程;
(2)この抄紙された紙台紙を乾燥する乾燥工程;
(3)この乾燥工程を経た紙台紙を所定形状に切断する工程;
(4)この切断工程を経た紙台紙、またはこれに重ねられる別の紙台紙に、前記非鉄被酸化材の溶液、及び、エタノールまたはエタノール徐放剤を噴霧する噴霧工程;
(5)前記非鉄被酸化材を含む紙台紙を前記フィルムによって包み込む工程。
【請求項1】
非鉄被酸化材を含む紙台紙を、通気性を有するフィルムによって包み込んだ食品の鮮度保持シートであって、
前記紙台紙は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体を内添したものであり、かつ、前記非鉄被酸化材の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを内添したものであることを特徴とする食品の鮮度保持シート。
【請求項2】
非鉄被酸化材を含む紙台紙を、通気性を有するフィルムによって包み込んだ食品の鮮度保持シートであって、
前記紙台紙は、これを構成している繊維中に多孔質無機粉体、及びポリアリルアミンを内添したものであり、かつ、前記非鉄被酸化材の溶液、及び、エタノールまたはエタノール徐放剤を内添したことを特徴とする食品の鮮度保持シート。
【請求項3】
非鉄被酸化材、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを含む紙台紙を、通気性を有するフィルムによって包み込んだ食品の鮮度保持シートを、次の各工程を含んで製造する方法。
(1)前記紙台紙を構成するためのスラリー中に多孔質無機粉体を混入して抄紙することにより、前記多孔質無機粉体を内添した前記紙台紙を抄紙する抄紙工程;
(2)この抄紙された紙台紙を乾燥する乾燥工程;
(3)この乾燥工程を経た紙台紙を所定形状に切断する工程;
(4)この切断工程を経た紙台紙に前記非鉄被酸化材の溶液、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを噴霧する噴霧工程;
(5)前記非鉄被酸化材を含む紙台紙を前記フィルムによって包み込む工程。
【請求項4】
非鉄被酸化材、エタノールまたはエタノール徐放剤、及びポリアリルアミンを含む紙台紙を、通気性を有するフィルムによって包み込んだ食品の鮮度保持シートを、次の各工程を含んで製造する方法。
(1)前記紙台紙を構成するためのスラリー中に、多孔質無機粉体及びポリアリルアミンを混入して抄紙することにより、前記多孔質無機粉体及びポリアリルアミンを内添した前記紙台紙を抄紙する抄紙工程;
(2)この抄紙された紙台紙を乾燥する乾燥工程;
(3)この乾燥工程を経た紙台紙を所定形状に切断する工程;
(4)この切断工程を経た紙台紙、またはこれに重ねられる別の紙台紙に、前記非鉄被酸化材の溶液、及び、エタノールまたはエタノール徐放剤を噴霧する噴霧工程;
(5)前記非鉄被酸化材を含む紙台紙を前記フィルムによって包み込む工程。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【公開番号】特開2013−99292(P2013−99292A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245397(P2011−245397)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【出願人】(000217295)田中製紙工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【出願人】(000217295)田中製紙工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
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