説明

食品の鮮度保持包装体および鮮度保持方法

【課題】 食品の鮮度を保持するために好適な鮮度保持包装体及びそれを用いた食品の鮮度保持方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも、イソチオシアン酸アリル、糖アルコール、植物油、エタノール及び食塩を含むペースト状物を、少なくとも一部に不織布を使用した通気性包装材料で包装した鮮度保持包装体であって、該ペースト状物がイソチオシアン酸アリルを0.1〜2重量%含有する鮮度保持包装体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルカラシ油の成分であるイソチオシアン酸アリル(以下、AITという)からなる食品の鮮度保持包装体および、この包装体を用いた、食品の鮮度保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実や野菜等の青果物や水産加工品等の生鮮食品は流通途上で追熟や酸化による風味の低下や変色、更には微生物による腐敗やカビの発生を伴い、鮮度が低下し、商品価値を損なう問題がある。この為、一般的には、出来るだけ低温で保管し、酸化防止剤や抗菌剤等を用いたりして食品の流通過程で無菌的環境を整えることが望ましいが、設備面や人体への安全性及び経済的に限界がある。
【0003】
食品の鮮度保持の為に、人体への安全性の高いわさびや芥子等の植物の抽出物であるAITの抗菌、防カビ、防虫力を応用しようとした試みもあり、具体的には、AIT抽出油を直接食品に添加する方法(特許文献1)や、AITを乳化させた水溶液に食品を浸漬する方法(特許文献2)、更に、AIT抽出油の蒸発ガスを食品に接触させる方法(特許文献3)が提案されている。しかし、AITは独特の臭気を有するため、これらの食品にAITを直接接触させる方法は、食品の風味を変質させる欠点があった。
【0004】
また、AITの蒸散性を活用し、AITガスを食品に接触させ、食品の鮮度を保持する方法が検討され、AITを含有するフィルムで食品を包装する方法(特許文献4)や、AITを含有するゲルの成型品を食品と接触させる方法(特許文献5)や、AITを吸収させた担体を包装した製剤を用いる方法(特許文献6,7)等が提案されている。
【0005】
しかし、これらの方法は、いずれもAITガスの抗菌性能が顕著に発揮される濃度20ppm以上、好ましくは100ppm以上のAITを蒸散させることを目的とするため、鮮度保持を目的として使用すると、食品にAIT特有の異臭が付き、食品本来の風味を損なうこととなる。
【0006】
【特許文献1】特開2002−119242号公報
【特許文献2】特開昭57−99182号公報
【特許文献3】実開平03−10794号公報
【特許文献4】特開2000−343640号公報
【特許文献5】特開平07−112018号公報
【特許文献6】特開平03−178902号公報
【特許文献7】特開2001−136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、食品の鮮度保持に好適な鮮度保持包装体及びそれを用いた食品の鮮度保持方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、果実等の食品の鮮度低下抑制について鋭意研究を重ねた結果、特定の組成のAIT含有製剤を特定の包装材料からなる包材に充填した包装体を用いて、容器内のAIT濃度を0.2〜10ppmに保持することにより、食品には異臭を付着させず、食品を好適に鮮度保持できることを発見し、本発明を完成した。なお、本明細書に記載するAIT濃度は、体積比(AITの体積/容器内の体積)で表される濃度とする。
【0009】
すなわち、本発明は、少なくとも、AIT、糖アルコール、植物油、エタノール及び食塩を含むペースト状物を、少なくとも一部に不織布を使用した通気性包装材料で包装した鮮度保持包装体であって、該ペースト状物がAITを0.1〜2重量%含有する鮮度保持包装体である。
【0010】
本発明においては、前記ペースト状物が、糖アルコールを20〜60重量%、植物油を2〜10重量%、エタノールを2〜10重量%及び食塩を5〜15重量%含有すること、前記通気性包装材料が外面から耐熱性有孔フィルム、不織布及び低軟化点フィルムの順に積層した包装材料であること、前記耐熱性有孔フィルムの酸素透過度が2,000ml/(m・MPa・D)以下、開孔率が0.1〜30%であり、前記不織布の軟化点が200℃以上、坪量が20〜50g/mであり、前記低軟化点フィルムの酸素透過度が10,000ml/(m・MPa・D)以上、厚みが20〜60μmであることが好ましい。
【0011】
また本発明は、前記鮮度保持包装体と共に、食品を容器内に収納し、該容器内のAITの濃度を0.2〜10ppmとする、食品の鮮度保持方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、容器内のAIT濃度を食品の鮮度保持に好適な濃度に調整することが可能となり、果実や野菜等の追熟を遅らせ、食品の本来の品質を保持することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明でいう食品とは、具体的にはイチゴ、オウトウ、ブドウ、メロン、キウイ等の果実や、豆類、根菜類等の野菜、水産物等の生鮮食品をいい、常温や冷蔵下で流通に供される食品に適用される。
【0014】
本発明において、ペースト状物は、少なくとも、AIT、糖アルコール、植物油、エタノール及び食塩を含み、かつ、AITを0.1〜2重量%含有する。また、ペースト状物の成分としては、糖アルコールを20〜60重量%、植物油を2〜10重量%、エタノールを2〜10重量%、食塩を5〜15重量%含有させることが好ましい。これらの成分調整によって、AITをペースト状物の中に内包させ、包装体とした際に、AITを適正に徐放することが出来る。
【0015】
本発明のペースト状物作製時に用いられるAITとしては、人工的に化学合成されたAITや天然物由来のAITが使用できる。また、AITを含有するアリルカラシ油のような精油を使用してもよい。アリルカラシ油としては、天然のわさびやカラシの精油が用いられ、80〜95重量%のAIT成分の他、数種類のイソシアネート成分を含有しているものが好ましく用いられる。ペースト状物作製時に用いられる造粘成分である糖アルコールとしては50〜70重量%のソルビット水溶液が好適に用いられる。植物油は溶解希釈剤として用いられ、サラダ油、菜種油、大豆油、コーン油等が例示されるが、なかでもサラダ油が好適に用いられる。エタノールは揮発促進成分として、食塩は保水成分として用いられる。これらの各成分は包装体とする際用いられる包装材料の機能と相乗的に作用して好適なAIT蒸散速度を発揮する。
【0016】
本発明において、AITを含有するペースト状物を包装体とする為に充填する小袋用の包装材料としては、少なくとも一部に不織布を使用した通気性包装材料が用いられるが、なかでも、外面から耐熱性有孔フィルム、不織布、低軟化点フィルムの順に積層した包装材料が好ましい。
【0017】
不織布としては、軟化点200℃以上のプラスティック繊維からなり、坪量20〜50g/mのもので、かつ、ガーレ式透気度が20秒以下のものが好ましく用いられる。具体的な材質としては、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートが好適に用いられる。
【0018】
耐熱性有孔フィルムとは、軟化点が200℃以上であり、かつ、直径0.2〜1.5mmの小孔を有するフィルムを意味する。耐熱性有孔フィルムとしては、小孔が均一に分散し、0.1〜30%の開孔率で施孔された、酸素透過度が2,000ml/(m・MPa・D)以下のフィルムであることが好ましい。フィルムとしては、ナイロン6等のポリアミドやポリエチレンテレフタレート等の他、これらの延伸フィルム及びこれらとシーラントがラミネートされたフィルムが好適に用いられる。また、シーラントとしては、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニール共重合体等が好適に用いられる。
【0019】
低軟化点フィルムとは、軟化点150℃以下のフィルムを意味する。低軟化点フィルムとしては、厚み20〜60μmのフィルムが好ましく用いられ、酸素透過度を10,000ml/(m・MPa・D)以上に設定して用いることが好ましい。具体的には、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニール共重合体等が好適に用いられる。
【0020】
本発明の包装材料において、外面の小孔を付した酸素透過性の低い耐熱性有孔フィルムと、内面の酸素透過度の高い低軟化点フィルムの間に不織布層を設けることにより、両フィルム間に微細な空隙が出来、孔を閉塞することなくラミネートすることが出来る。このため、本発明の鮮度保持包装体においては、低軟化点フィルムのAIT透過性が外面の小孔部分のみに制限されず、ペースト状物中に内包されたAITが食品を収納した容器の中を、持続的に0.2〜10ppmに維持することができる。
【0021】
本発明の鮮度保持包装体と食品を収納した容器内のAIT濃度を0.2ppm〜10ppm、好ましくは0.2ppm〜5ppmとすることで、該食品の鮮度保持効果を発揮できる。該容器内のAIT濃度が10ppmより高い場合にはAIT臭が食品に残留する為に好ましくなく、0.2ppmより低い場合には鮮度保持効果が出ない為に好ましくない。
【0022】
本発明における、鮮度保持包装体と食品を収納する容器は、容器外との通気性が確保されたものであれば特に制限はなく、容積、形状、材質等いずれも食品の保存に適した任意のものを採用することができる。
【0023】
本発明の鮮度保持包装体は、流通過程で持続的に少量のAITを蒸散し、かつ、食品の使用時には蒸散したAITは食品から散逸する。このため、AITが食品内に過度に蓄積されることはなく、前記の濃度範囲を維持することで、果実等の食品の鮮度が好適に保持される。
【0024】
本発明の鮮度保持包装体は、食品の大きさや数量に応じてペースト状物の配合組成を調整し、包装材料に充填・包装することによりAITの発生量の調整を容易に達成できる。
【実施例】
【0025】
次に実施例によって更に詳細に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
70重量%ソルビット水溶液50重量部とサラダ油5重量部の混合物に、AIT含有率93%のアリルカラシ油を0.5重量部、食塩6重量部、エタノール5重量部を混合し、AIT濃度が0.7重量%であるペースト状物を得た。三方シール型自動充填包装機を用いて、酸素透過度1,200ml/(m・MPa・D)のポリエチレンテレフタレート(厚み:12μm)へ、直径0.5mmの孔を上下2.5mm間隔で開孔処理した開孔率3%のフィルムに、軟化点260℃、ガーレ式透気度0.2秒のポリエチレンテレフタレート製不織布(坪量:40g/m)と、酸素透過度50,000ml/(m・MPa・D)の低密度ポリエチレン(厚み:40μm)をラミネートした包装材料に、上記ペースト状物を一包当たり2g充填し、かつ包装して、35mm×45mmの三方シールされた鮮度保持包装体を得た(包装材料は低密度ポリエチレン面を内面とした)。
【0027】
収穫直後のオウトウ(佐藤錦)80個を、ポリスチレン製トレーに詰め、2トレーを段ボール箱に収納して、上記包装体と共に、厚み40μm、酸素透過度50,000ml/(m・MPa・D)のポリエチレン袋に封入した。
20℃下に放置して、2日後、4日後のポリエチレン袋内AIT濃度をガスクロマトグラフを用いて測定し、かつ、オウトウの性状を目視および食味にて調べた。
AIT濃度の結果を表1に、オウトウの性状変化の結果を表2に記載した。
【0028】
(比較例1)
酸素透過度1,200ml/(m・MPa・D)のポリエチレンテレフタレート(厚み:12μm)へ直径0.5mmの孔を上下2.5mm間隔で開孔処理した開孔率3%のフィルムと、酸素透過度50,000ml/(m・MPa・D)の低密度ポリエチレン(厚み:40μm)をラミネートした包装材料に、実施例1のペースト状物を充填し、かつ包装して、35mm×45mmの三方シールされた包装体を得た(包装材料は低密度ポリエチレン面を内面とした)。
【0029】
実施例1と同様、収穫直後のオウトウ(佐藤錦)80個を、ポリスチレン製トレーに詰め、2トレーを段ボール箱に収納して、上記包装体と共に、厚み40μm、酸素透過度50,000ml/(m・MPa・D)のポリエチレン袋に封入した。
20℃下に放置して、2日後、4日後のポリエチレン袋内AIT濃度をガスクロマトグラフを用いて測定し、かつ、オウトウの性状を目視および食味にて調べた。
AIT濃度の結果を表1に、オウトウの性状変化の結果を表2に記載した。
【0030】
(比較例2)
70重量%ソルビット水溶液50重量部とサラダ油5重量部の混合物に、AIT含有率93%のアリルカラシ油を5重量部、食塩6重量部、エタノール5重量部を混合し、AIT濃度が6.5重量%であるペースト状物を得た。三方シール型自動充填包装機を用いて、上記ペースト状物を一包当たり2g、実施例1と同様の包装材料に充填し、かつ包装して、35mm×45mmの三方シールされた包装体を得た(包装材料は低密度ポリエチレン面を内面とした)。
【0031】
実施例1と同様、収穫直後のオウトウ(佐藤錦)80個を、ポリスチレン製トレーに詰め、2トレーを段ボール箱に収納して、上記包装体と共に、厚み40μm、酸素透過度50,000ml/(m・MPa・D)のポリエチレン袋に封入した。
20℃下に放置して、2日後、4日後のポリエチレン袋内AIT濃度をガスクロマトグラフを用いて測定し、かつ、オウトウの性状を目視および食味にて調べた。
AIT濃度の結果を表1に、オウトウの性状変化の結果を表2に記載した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表1及び2から明らかなように、本発明の包装材料を使用しなかった比較例1においては、容器内のAIT濃度が低濃度に留り、オウトウの鮮度を保持することができなかった。また、AIT濃度が6.5重量%という高濃度のペースト状物を使用した比較例2においては、容器内のAIT濃度が高濃度となったため、オウトウの鮮度保持は可能であったものの、刺激味やわさび臭の付着が生じた。これに対し、本発明の鮮度保持包装体を使用した実施例1においては、容器内のAIT濃度が適切に保持されたため、刺激味やわさび臭が付着することなく、オウトウの鮮度を保持することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、イソチオシアン酸アリル、糖アルコール、植物油、エタノール及び食塩を含むペースト状物を、少なくとも一部に不織布を使用した通気性包装材料で包装した鮮度保持包装体であって、該ペースト状物がイソチオシアン酸アリルを0.1〜2重量%含有する鮮度保持包装体。
【請求項2】
前記ペースト状物が、糖アルコールを20〜60重量%、植物油を2〜10重量%、エタノールを2〜10重量%及び食塩を5〜15重量%含有する、請求項1記載の鮮度保持包装体。
【請求項3】
前記通気性包装材料が外面から耐熱性有孔フィルム、不織布及び低軟化点フィルムの順に積層した包装材料である、請求項1または2記載の鮮度保持包装体。
【請求項4】
前記耐熱性有孔フィルムの酸素透過度が2,000ml/(m・MPa・D)以下、開孔率が0.1〜30%であり、前記不織布の軟化点が200℃以上、坪量が20〜50g/mであり、前記低軟化点フィルムの酸素透過度が10,000ml/(m・MPa・D)以上、厚みが20〜60μmである、請求項3記載の鮮度保持包装体。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか1項記載の鮮度保持包装体と共に、食品を容器内に収納し、該容器内のイソチオシアン酸アリルの濃度を0.2〜10ppm(体積比)とする、食品の鮮度保持方法。

【公開番号】特開2010−57382(P2010−57382A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223872(P2008−223872)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【出願人】(392031642)山忠わさび株式会社 (1)
【Fターム(参考)】