説明

食品フレーバーおよびその製造方法

【課題】現状より熱安定性や持続性があり、力価のコントロールが可能な含イオウ系有機分子を有するフレーバーを提供する。
【解決手段】含イオウ系有機分子を有する食品フレーバーにおいて、含イオウ系有機分子は、酸素と硫黄原子を含む基本骨格をチオアルキル基で修飾した熱安定性や持続性をもつジスルフィド系化合物であることを特徴とする食品フレーバーであり、酸素と硫黄原子を含む基本骨格をチオアルキル基で修飾する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性や持続性があり、力価のコントロールが可能な含イオウ系有機分子を有する食品フレーバーおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレーバリング成分は、多種多様な食物や飲料製品にフレーバーまたは風味を賦与し、提供し、変更し、または増強する目的で、これらの製品に用いられている。
【0003】
例えば、コーヒー芳香は、インスタントコーヒーや即席(ready to drink)コーヒー飲料、並びにアイスクリーム、ベーキング製品、またはキャンディーのようなコーヒーの風味付けした食物などに利用される。
【0004】
しかし、コーヒー芳香は極めて不安定であることが知られている。コーヒー芳香が分解すると、望ましくない不快でコーヒー以外のものに似た香気を生成する。
【0005】
下記特許文献1は、揮発性フレーバリング成分を安定化し、これを添加する食物に所望なフレーバー、風味、および他の官能特性を賦与する能力を保存することを満足させるものとして提案されたものである。
【特許文献1】特表2004−526027号公報
【0006】
この特許文献1は、芳香供給成分と、芳香供給成分中の化合物と化学的に相互作用して、芳香に所望なフレーバーまたは官能特性を賦与する所望な化合物の量を増加させ、または所望なフレーバー特性を抑制する、または芳香の望ましくないフレーバーまたは官能特性に寄与またはそれを生成させる望ましくない化合物の量を減少させるのに十分な量で含まれている安定剤を含んでなるもので、安定剤は、好ましくは、硫黄または窒素を含む親核試薬、例えば、二酸化硫黄、亜硫酸塩、亜硫酸塩、チオール、アミンまたはアミノ酸、システイン、グルタチオンまたは酵素を含むまたは生成する化合物または物質であるとする。
【0007】
下記化学式1に示す化合物1のR1からR3の部位を様々な有機基に変換することにより、イチゴ、カカオ、紅茶、チョコレート、マンゴー、肉や穀物のロースト様香気を示すことが知られている。
【化1】

【0008】
また、下記化学式2に示す化合物2についても、ミント、グレープフルーツ、グレープ、ミート様の香気を示す。
【化2】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在の調味料業界では多くの食品フレーバーが開発されているが、熱安定性や香気成分のコントロールを行う点で問題がある。
【0010】
中でも含イオウ系有機化合物については風味を向上させる成分分子が多く知られ、香気についても閾値が低いことから実用的な食品フレーバーとして用いられているが、香気成分としての化学安定性や力価等について更なる向上が求められている。
【0011】
前記特許文献1では、明細書の段落番号0012の記載において、食材用に安定化した芳香成分を供給する上で、酸素、亜硫酸塩、または亜硫酸塩、チオール、アミンまたはアミノ酸を含むまたは生成する物質を添加するとしている。
【0012】
しかし、添加剤によって、芳香成分の酸化を減少または防止するとしているが、芳香成分である故に起こる外部での飛散による現象についての解決策が示されていない。
【0013】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、現状より熱安定性や持続性があり、力価のコントロールが可能な含イオウ系有機分子を有するフレーバーが得られる食品フレーバーおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の本発明は前記目的を達成するため、食品フレーバーとして、含イオウ系有機分子を有する食品フレーバーにおいて、含イオウ系有機分子は、酸素と硫黄原子を含む基本骨格をチオアルキル基で修飾した熱安定性や持続性をもつジスルフィド系化合物であることを要旨とするものである。
【0015】
請求項2記載の本発明は、食品フレーバーの製造方法として、ジスルフィド系化合物の含イオウ系有機分子を有する食品フレーバーの製造方法であり、酸素と硫黄原子を含む基本骨格をチオアルキル基で修飾することを要旨とするものである。
【0016】
硫黄原子に結合する置換基R3が水素原子、すなわちチオール基の場合、様々な香気成分になるが、メチル基、アセチル基であっても香気としてはあまり変化がないことが知られている。
【0017】
本発明によれば、この部位をチオアルキル(−S−R)基で修飾したジスルフィド系化合物によって香気成分を維持した上で、機能性を付与させることができる。
【0018】
熱安定性の向上については、チオール基が比較的不安定な化学種であることから、調理中の高温状態や食品の長期間保存中における自動酸化等で、香気活性が落ちる弱点を有しているが、この部位をジスルフィド化すると、システイン・シスチンの関係と同様に生理活性に差が無い分子種になるとともに、チオール基の保護による化学的安定性が得られる。これは高温での調理の際に有効な特性となる。また、分子量が増大することから不要な揮発を防ぎ、香気を長時間維持できる。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように本発明の食品フレーバーおよびその製造方法は、現状より熱安定性や持続性があり、力価のコントロールが可能な含イオウ系有機分子を有するフレーバーを提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明は、化学的処理による香気特性のコントロールについては、ジスルフィドとチオールの特性を活用した機能発現を利用するもので、図1に示すように、ジスルフィド結合および置換基R3を有する分子はチオール(R4−S−H)の添加により、ジスルフィドとチオール間における交換反応が起こり、香気の力価が上がる分子骨格へと化学変化する。この反応はチオールの添加によりコントロールできる。
【0021】
図1において、R4はシステイン・ホモシステイン・グルタチオン等任意のチオール含有成分を指す(分子性化合物でなくても良く、たとえばガーリックエキス等SH基を含んだ食品でも可能である)。
【0022】

【0023】
硫黄原子に結合する置換基R3 が水素原子、すなわちチオール基の場合、様々な香気成分になるが、メチル基、アセチル基であっても香気としてはあまり変化がないことが知られている。
【0024】
本発明は、この部位をチオアルキル(−S−R)基で修飾したジスルィド系化合物によって香気成分を維持した上で、熱安定性や持続性を付与させるものである。
【0025】
チオールはジスルフィドとの間で交換反応が起こるので、ジスルフィド系の香気材料に対して、システイン、ホモシステイン、グルタチオン等のチオール基を有する天然分子を別途加えることで緩やかな交換反応が起こり、チオール系の分子に戻る。
【0026】
交換反応を進めるためには、目的の芳香成分はジスルフィドの状態で保持させる。香気成分が必要なときは、チオール基をもつ成分を加えることによりS−S、S−H交換反応を行って目的分子をチオール化し、これが強い香気成分を持つようにする。
【0027】
香料としての力価は一般にチオール系分子の方が大きいことから、添加量を調整することにより、力価の強いチオール系香気分子の発生が調整可能となり、調理もしくは食品の製造時に香気の強さが任意で調整できる様になる。
【0028】
合成した化合物は、イチゴ、カカオ、紅茶、チョコレート、マンゴー、肉や穀物のロースト様香気、ミント、グレープフルーツ、グレープ等の食品フレーバーとして利用する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の食品フレーバーの香気成分の発生メカニズムを示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含イオウ系有機分子を有する食品フレーバーにおいて、含イオウ系有機分子は、酸素と硫黄原子を含む基本骨格をチオアルキル基で修飾した熱安定性や持続性をもつジスルフィド系化合物であることを特徴とする食品フレーバー。
【請求項2】
ジスルフィド系化合物の含イオウ系有機分子を有する食品フレーバーの製造方法であり、酸素と硫黄原子を含む基本骨格をチオアルキル基で修飾することを特徴とした食品フレーバーの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−16304(P2012−16304A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154620(P2010−154620)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(301002990)明王物産株式会社 (4)
【Fターム(参考)】