説明

食品中のグルテンを低下させるためのプロテアーゼ混合物

【課題】セリアックスプルーおよび/または疱疹状皮膚炎の治療に使用される製剤の提供。
【解決手段】グルテナーゼ酵素の薬学的製剤を提供する。この酵素は、プロリルエンドペプチダーゼ(PEP)、例えばミクソコックス・ザンサス(Myxococcus xanthus)のPEP;およびエンドプロテアーゼ、例えばオオムギ・バルガレ亜種(Hordeum vulgare subsp. vulgare)のEPB2、これらの生物学的に活性のある断片または誘導体を含む。胃および膵臓の酵素による切断に耐性を示すことが知られている、あるグルテンオリゴペプチドが、このような酵素によって消化されることで、セリアックスプルーもしくは疱疹状皮膚炎の患者における、その毒性作用は予防されるか、または緩和される。セリアックまたは疱疹状皮膚炎の患者の治療に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
1953年に、コムギ、オオムギ、およびライムギ中に存在する一般的な食品タンパク質グルテンの摂取が、感受性のある人に疾患を引き起こすことが最初に認識された。グルテンは、疾患の誘導に関与すると考えられている、グルタミンおよびプロリンに富むグルテニン分子およびプロラミン分子の複合混合物である。感受性のある人による、このようなタンパク質の摂取は、効率的かつ長期間に及ぶペプチドおよび他の栄養の末端消化に関与することが知られている、小腸の通常は豊富なラグ様の内壁の上皮の平坦化を生じる。セリアックスプルーの臨床症状は、疲労、慢性の下痢、栄養吸収不良、体重減少、腹部膨満、貧血、ならびに骨粗鬆症および腸管悪性疾患(リンパ腫および癌)を発症するリスクの実質的な増大を含む。この疾患の発症率は、ヨーロッパ人集団では200人に約1人である。
【0002】
関連疾患は、激しいかゆみを伴う水疱、丘疹、および蕁麻疹様の病変のクラスターを特徴とする慢性発疹である疱疹状皮膚炎である。IgAの蓄積は、ほぼ全ての正常な外見および傍病変部の皮膚で生じる。無症候性のグルテン感受性腸症は患者の75〜90%に、および患者の血縁者の一部に見られる。発症は通常、漸進的である。かゆみおよび焼灼感は重度であり、および患者がひっかくことで、一次病巣が近傍の皮膚の湿疹化によって不明瞭となって湿疹の誤診につながることがしばしばある。長期間にわたってグルテン非含有食を厳格に守ることで、一部の患者では疾患をコントロールできる可能性があり、または薬剤療法の必要性を無くすか、もしくは少なくすることができる。かゆみの緩和には、ダプソン、スルファピリジン、およびコルヒチンが時に処方される。
【0003】
セリアックスプルーは一般に自己免疫疾患であるとみなされ、および患者の血清中に抗体が見出されることは、同疾患の免疫学的性質の理論を支持する。組織トランスグルタミナーゼ(tTG)およびグリアジンに対する抗体は、活性型のセリアックスプルーのほぼ100%の患者に認められ、およびこのような抗体、特にIgAクラスの抗体の存在が同疾患の診断に使用されている。
【0004】
大半の患者は、HLA-DQ2[DQ (a1*0501, b1*02)]および/またはDQ8[DQ (a1*0301, b1*0302)]の分子を発現する。腸の損傷は、特定のグリアジンオリゴペプチドとHLA-DQ2抗原またはDQ8抗原間の相互作用に起因し、これによってTリンパ球の増殖を上皮下層で誘導すると考えられている。Tヘルパー1細胞およびサイトカインが、小腸の絨毛萎縮に至る局所的な炎症過程に重要な役割を果たすようである。
【0005】
現時点で、同疾患の優れた治療法は、グルテンを含むあらゆる食物を完全に避ける以外に存在しない。グルテンの除去は、小児では予後を変化させ、および成人では実質的に改善するものの、それでも一部の人、主に発症時に重度の疾患であった成人は、この疾患によって命を落とす。重要な死因は、リンパ網内系疾患(特に腸管リンパ腫)である。グルテン非含有食が、このリスクを小さくするか否かは不明である。明瞭な臨床的寛解は、再生検またはEMA価上昇によってのみ検出される組織学的な再発にしばしば関連づけられる。
【0006】
グルテンは広範囲に、例えば市販のスープ、ソース、アイスクリーム、ホットドッグ、および他の食品に使用されているので、患者は、避けるべき食品の詳細なリストと、セリアック病に知悉した栄養士による専門的なアドバイスを必要とする。少量のグルテンの摂取でさえも寛解を妨げるか、または再発を促す恐れがある。補充性ビタミン、ミネラル、および造血剤補給が、欠乏症に応じて必要となる場合もある。少数の患者は、グルテン除去に弱く反応するか、または全く反応しない。この理由は、診断が誤っているか、または疾患が難治性であるかのいずれかである。後者の場合、経口コルチコステロイド(例えばプレドニゾンの10〜20 mgを1日2回)が反応を誘導する可能性がある。
【0007】
セリアックスプルーの重篤性および広範囲性を考えれば、同疾患を治療する、または同疾患の作用を改善する優れた方法が求められる。本発明は、こうしたニーズについて説明する。
【発明の概要】
【0008】
発明の概要
本発明は、セリアックスプルーおよび/または疱疹状皮膚炎の治療に有用なグルテナーゼ酵素および酵素製剤を提供する。この酵素は、食品中の毒性グルテンオリゴペプチドのレベルを、患者による摂取の前または後に低下させる。対象となる酵素は、プロリルエンドペプチダーゼ(PEP)、例えばミクソコックス・ザンサス(Myxococcus xanthus)のPEP;およびエンドプロテアーゼ、例えばオオムギ・バルガレ亜種(Hordeum vulgare subsp. vulgare)のEPB2、これらの生物学的に活性のある断片または誘導体を含む。胃および膵臓の酵素による切断に耐性を示すことが知られている、あるグルテンオリゴペプチドが、このような酵素によって消化されることで、セリアックスプルーもしくは疱疹状皮膚炎の患者における、その毒性作用は予防されるか、または緩和される。
【0009】
1つの態様では、本発明は、精製されたミクソコックス・ザンサスのPEP、この生物学的に活性のある断片または誘導体;およびこの薬学的製剤を提供する。同酵素は、異種宿主細胞、例えば異種細菌で発現させることが可能であり、かつアフィニティクロマトグラフィーで精製することができる。同酵素は精製可能であり、凍結乾燥可能であり、および錠剤、腸溶コーティングが施されたカプセル剤などの単位用量に、生物学的活性を実質的に保持しながら製剤化可能なことが明らかとなっている。対象となる製剤は、酵素が、活性薬剤の腸への送達を可能とする腸溶コーティング剤中に含まれる製剤、および活性薬剤が、胃の酸性条件における消化に耐性を示すように安定化された製剤を含む。このような製剤は、1種類もしくは複数の酵素、または混合物、すなわちさまざまな活性を有する薬剤の「カクテル」を含む場合がある。
【0010】
本発明の以上の、ならびに他の局面および態様を以下にさらに詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】pHが、FMのPEP、MXのPEP、およびSCのPEPのターンオーバー数(kcat)に及ぼす作用を示す。
【図2】胃および膵臓の酵素による不活性化に対するFMのPEPおよびMXのPEPの耐性を示す。膵臓酵素の安定性は、5 U/mlのFMのPEPおよびMXのPEPを1 mg/mlトリプシン、1 mg/mlキモトリプシン、0.2 mg/mlエラスターゼ、および0.2 mg/mlカルボキシペプチダーゼA(40 mMリン酸、pH=6.5)で処理することで評価した。ペプシンの安定性は、FMのPEPおよびMXのPEP(5 U/ml)を1 mg/mlペプシン(pH=2、20 mM HCl)で処理することで検討した。
【図3】各PEPによるPQPQLPYPQPQLPの加水分解の部位特異性を示す。HPLC-UV(215 nm)のトレースを各反応混合物について示す。初期切断断片(100μM (SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLP、0.1μM酵素、t=5分)をタンデム質量分析で同定した。出発物質(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLP、および切断断片A:(SEQ ID NO: 11、アミノ酸1〜8) PQPQLPYP、B:(SEQ ID NO: 11、アミノ酸7〜13) YPQPQLP、C:(SEQ ID NO: 12、アミノ酸1〜6) PQPQLP、D:(SEQ ID NO: 11、アミノ酸2〜6) QPQLP)をトレース中に示す。
【図4A】FMのPEP、MXのPEP、およびSCのPEPによる

の加水分解を示す。図4Aは、10μMの基質および0.1μmの酵素の存在下における加水分解
の時間依存性を示す。基質は、N末端のLeuが欠損した等量の32merの存在のために、約18
分の保持時間にダブレットとして現われており;この混入物の存在は解析に影響していな
い。残存ピーク面積から、基質(33mer + 32mer)の消失速度を2.3μM/分(FMのPEP)、0.43
μM/分(MXのPEP)、および0.07μM/分(SCのPEP)と算出した。
【図4B】FMのPEP、MXのPEP、およびSCのPEPによる

の加水分解を示す。図4Bは、FMのPEP(t=1分)およびMXのPEP(t=5分)による加水分解のため
に観察された初期切断断片を示す。
【図4C】FMのPEP、MXのPEP、およびSCのPEPによる

の加水分解を示す。図4Cは、FMのPEPおよびMXのPEPが触媒した33merの基質の加水分解に
由来する初期切断断片の要約を示す。
【図5A】PEPによる

の競合タンパク質分解を示す。10μMの、より長いペプチド、および50μMの、より短いペ
プチドを0.1μMのFMのPEPとともにインキュベートした。
【図5B】PEPによる

の競合タンパク質分解を示す。10μMの、より長いペプチド、および50μMの、より短いペ
プチドを0.1μMのMXのPEPとともにインキュベートした。
【図5C】PEPによる

の競合タンパク質分解を示す。10μMの、より長いペプチド、および50μMの、より短いペ
プチドを0.1μMのSCのPEPとともにインキュベートした。
【図6】A、Bは、30 mg/mlのペプシンで処理されたグルテンの存在下における、

の競合タンパク質分解を示す。この基質複合混合物を生理学的条件で、膵臓酵素(トリプ
シン、キモトリプシン、カルボキシペプチダーゼ、エラスターゼ)、刷子縁膜の酵素(ラッ
トの小腸に由来)、および(A)FMのPEP、または(B)MXのPEPのいずれかの混合物とともに処
理した。
【図7】(SEQ ID NO:12)麻酔したラットの小腸内腔内を個々のPEP(0.1μM)とともに灌流した

のタンパク質分解を示す。個々の酵素-基質混合物を、カテーテルを介して、上部空腸の1
5〜20 cmのセグメントに導入した。セグメントの別の端で試料を回収し、およびUV-HPLC(
215 nm)で解析した。いずれのPEPも含まない対照を、最上段のトレースに示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
態様の詳細な説明
グルテナーゼ酵素および酵素製剤は、グルテン不耐性の治療に有用である。この酵素は、食品中の毒性グルテンオリゴペプチドのレベルを、患者による摂取の前または後のいずれかにおいて低下させる。対象となる酵素は、プロリルエンドペプチダーゼ(PEP)、例えばミクソコックス・ザンサスのPEP;およびエンドプロテアーゼ、例えばオオムギ・バルガレ亜種のEPB2を含む。胃および膵臓の酵素による切断に耐性を示すことが知られているあるグルテンオリゴペプチドは、このような酵素によって消化されることで、患者における、その毒性作用は予防されるか、または緩和される。グルテン不耐性は主にセリアックスプルーおよび疱疹状皮膚炎と関連するが、例えば他の患者、例えば自閉症と関連する患者でも見られることが当技術分野で既知である。このような患者も本発明の方法で治療することができる。
【0013】
一部の患者では、これらの方法および組成物は、重篤な健康上の問題を生じることはなく、つまりこれらの健康状態のいずれにも苦しんではいない個体とほぼ同じで、患者がグルテンを摂取することを可能とする。いくつかの態様では、本発明の製剤は、(複数の)活性薬剤の腸への送達を可能とする腸溶コーティング剤中に含まれるグルテナーゼを含み;他の態様では、(複数の)活性薬剤は、酸性の胃の条件で消化に耐性を示すように安定化されている。場合によっては、(複数の)活性薬剤は酸性pH条件下で加水分解活性を有し、および、したがって、胃そのものの中で毒性グルテン配列に対してタンパク質分解過程を開始することができる。本発明で提供される別の投与法は、患者の細胞、例えば腸細胞が高レベルのグルテナーゼを発現するような遺伝的修飾;および患者の腸管に一過的または恒久的にコロニーを形成させることを目的とした、このようなグルテナーゼを発現する微生物の導入を含む。このような修飾された患者細胞(患者に由来しないが、患者に投与時に免疫学的に拒絶されない細胞を含む)、および本発明の微生物は、いくつかの態様では、薬学的に許容可能な賦形剤中に製剤化されるか、または食品中に導入される。別の態様では、本発明は、グルテナーゼで前処理済みであるか、または同酵素が混合された食品、およびグルテンの毒性オリゴペプチドを除去するように食品を処理する方法を提供する。
【0014】
本発明の組成物は、治療目的だけでなく予防目的でも使用することができる。本明細書で用いる「治療する」という表現は、疾患の予防、および疾患または既存の条件の治療の両方を意味する。本発明は、患者の臨床症状を安定化させるか、または改善させるための、進行中の疾患の治療に大きな進展を提供する。このような治療は望ましくは、罹患組織の機能喪失の前に実施されるが、失われた機能を回復させるか、またはさらなる機能喪失を防ぐために有用な場合もある。治療効果の証拠は、疲労、慢性の下痢、栄養吸収不良、体重減少、腹部膨満、貧血、およびセリアックスプルーの他の症状などの症状の重症度によって特に測定される、疾患の重症度の何らかの減少の場合がある。他の疾患の兆候は、グルテンに特異的な抗体の存在、組織トランスグルタミナーゼに特異的な抗体の存在、炎症促進性のT細胞およびサイトカインの存在、組織学的検査または他の検査によって明らかとなる小腸の絨毛構造の損傷、腸の透過性の昂進などを含む。
【0015】
本発明の方法で治療される可能性のある患者は、1つもしくは複数の血清学的検査、例えば抗グリアジン抗体、抗トランスグルタミナーゼ抗体、抗筋肉膜抗体;例えばセリアック病変を同定するための内視鏡による評価;例えば、繊毛萎縮、陰窩過形成、上皮内リンパ球の浸潤を検出するための小腸粘膜の組織学的評価;およびグルテンの食事への含有に依存する任意のGI症状によってセリアックスプルーであると診断された患者を含む。
【0016】
経口プロテアーゼの安全性を考えると、経口プロテアーゼには、I型糖尿病、セリアック患者であると診断された者の家族であること、HLA-DQ2陽性者、および/または正式な診断が未だ下されていないグルテン関連症状が見られる患者などの高リスク集団を対象とした予防的使用もある。このような患者は、通常用量または低用量(通常用量の10〜50%)の酵素によって治療される可能性がある。同様に、このような薬剤の一次的な高用量の使用は、例えば便中脂肪排泄アッセイ法で判断されるような腸の機能が未だ正常に戻っていない、グルテンが関与する腸症から回復中の患者に対しても予想される。
【0017】
本発明から利益を得る可能性のある患者は、任意の年齢であってよく、成人および小児を含んでよい。特に小児は予防的治療による利益を得る。というのは、毒性グルテンペプチドに対する初期曝露の予防は、同疾患の初期発生を防ぐことが可能であるからである。予防に適した小児は、素因の遺伝的検査によって、例えばHLA分類よって;家族歴によって;T細胞アッセイ法によって;または他の医学的手段によって同定することができる。当技術分野で既知のように、小児を対象とした使用時には、投与量を調節することができる。
【0018】
本発明の方法、ならびに特定の患者におけるその有効性を判定するための検査、または応用は、本明細書の記載内容に従って、当技術分野で標準的な手順で実施することができる。したがって本発明の実施は、当業者の範囲に含まれる分子生物学(組換え手法を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学における従来の手法を使用することができる。このような手法は、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、second edition (Sambrook et al., 1989); 「Oligonucleotide Synthesis」 (M.J. Gait, ed., 1984); 「Animal Cell Culture」 (R.I. Freshney, ed., 1987); 「Methods in Enzymology」(Academic Press, Inc.); 「Handbook of Experimental Immunology」(D.M. Weir & C.C. Blackwell, eds.); 「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(J.M. Miller & M.P. Calos, eds., 1987); 「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M. Ausubel et al., eds., 1987); 「PCR: The Polymerase Chain Reaction」(Mullis et al., eds., 1994);および「Current Protocols in Immunology」(J.E. Coligan et al., eds., 1991)などの文献、ならびにこれらの全ての最新版または改訂版に詳しく説明されている。
【0019】
本明細書で用いる「グルテナーゼ」という表現は、単独で、または内因性の酵素または外因的に添加された酵素と組み合わせることで、コムギ、オオムギ、オートムギ、およびライムギのグルテンタンパク質の毒性オリゴペプチドを切断して非毒性の断片とすることが可能な、本発明の方法に有用な酵素を意味する。グルテンは、それぞれコムギ、ライムギ、オオムギおよびオートムギに由来する、グリアジン、セカリン、ホルデイン、およびアベニンに亜分類可能な、グルテニンおよびプロラミンに分割可能な、穀物の練り粉中のタンパク質画分である。グルテンタンパク質に関する、さらなる考察は、参照により本明細書に組み入れられるWieser (1996) Acta Paediatr Suppl. 412: 3-9にまとめられている。
【0020】
酵素
本発明の1つの態様では、グルテナーゼ酵素はPEPである。プロリルエンドペプチダーゼのホモロジーベースの同定(例えばPILEUP配列解析による同定)は、この開示で意図されるように、本発明の方法における使用に適したPEPを同定するために、当業者に常用的に実施されている。PEPは、微生物、植物、および動物で産生される。PEPはセリンプロテアーゼスーパーファミリーの酵素に属し、およびSer残基、His残基、およびAsp残基を含む、保存された触媒三つ組残基(トライアード)を有する。これらのホモログの一部は特性が明らかにされており、例えばフラボバクテリウム・メニンゴセプチカム(F. meningoscepticum)、アエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、アエロモナス・プンクタータ(Aeromonas punctata)、ノボスフィンゴビウム・カプスラーツム(Novosphingobium capsulatum)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)、および哺乳類供給源に由来する酵素は、生化学的に特性が明らかにされたPEPである。シアノバクテリア(Nostoc)およびシロイヌナズナ(Arabidopsis)の酵素などの他の酵素はPEPである可能性が高いが、現時点では十分に特性が明らかにされいない。対象となる酵素のホモログは、公開配列データベースに登録されている場合があり、および本発明の方法は、このようなホモログを含む。候補となる酵素は、標準的な異種発現法で発現され、およびその特性は、本明細書に記載されたアッセイ法で評価される。
【0021】
本発明の1つの態様では、グルテナーゼは、フラボバクテリウム・メニンゴセプチカムのPEP(Genbank ID # D10980)である。フラボバクテリウム・メニンゴセプチカムの酵素に関して、このファミリーの酵素の対での配列同一性は30〜60%の範囲にある。したがってPEPは、フラボバクテリウム・メニンゴセプチカムの酵素(パイロコッカスの酵素など)に30%を超える同一性を有する酵素、もしくは40%を超える同一性を有する酵素(ノボスフィンゴビウムの酵素など)、またはフラボバクテリウム・メニンゴセプチカムの酵素に50%を超える同一性を有する酵素(アエロモナスの酵素など)を含む。さまざまなアッセイ法によって、このPEPの治療的有用性が検証されている。インビトロで同酵素は、高度に炎症性の33mer

を含む複数の毒性グルテンペプチドを速やかに切断することが報告されている。インビボで同酵素は、腸の刷子縁膜のペプチダーゼと相乗的に作用して、このようなペプチド、ならびに胃および膵臓のプロテアーゼで切断されたグルテンを速やかに無毒化する。同酵素は広い鎖長特異性を有しているため、胃から十二指腸内に放出されるプロリンに富む長いペプチドの分解に特に良好に適したものとなっている。同酵素はpH 7付近に至適pHを有し、および上部小腸の弱酸性環境に類似の条件で高い比活性を有する。フラボバクテリウムのPEPは、過去に検討されたグルテン中の全てのT細胞エピトープを切断可能である。これは、α-グリアジン中に存在する免疫優位なエピトープを特に好む。食品雑貨店で入手可能なグルテンを、このPEPで処理すると、LC-MS解析、およびセリアックスプルーの患者の小腸生検に由来するポリクローナルT細胞系列の試験によって判断されるように、その抗原性が速やかに低下するのが観察される。変性タンパク質は、齧歯類、ウサギ、およびヒトで非アレルギー性である。これは膵臓のプロテアーゼによる分解に対して比較的安定であり、つまり、生理学的条件下でこのような酵素群と協調して作用すると推定されるため、重要な特性である。
【0022】
対象となる別の酵素は、スフィンゴモナス・カプスラータ(Sphingomonas capsulata)のPEP(Genbank ID# AB010298)である。同酵素は、フラボバクテリウムおよびミクソコックスの酵素と同等である。同酵素はフラボバクテリウムのPEPまたはミクソコックスのPEPの双方より広い配列特異性を有し、および、したがって極めて広範囲の抗原エピトープを分解することができる。ミクソコックスの酵素と同様に、この酵素も大腸菌(E. coli)で良好に発現される。
【0023】
対象となる別の酵素は、ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)のPEP(Genbank ID# D25535)である。同酵素は、ダイノルフィンAおよびサブスタンスPなどのペプチド中のいくつかのPro-Xaa結合を効率的に切断する能力を元にPEP活性を有することが報告されている。推定メタロプロテアーゼには、小さなサイズ、および十二指腸内の膵臓酵素と協調して適切に機能させるpHプロファイルといった利点がある。したがって同酵素は、セリアックスプルーの治療のための良好な候補となる。
【0024】
対象となる別の酵素は、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)のPEP(Genbank ID# 321529)である。上記のPEP群とは異なり、このPEPは亜鉛酵素である。同酵素は、カゼインペプチドYQEPVLGPVRGPFPIIVおよびRPKHPIKHQなどの長いペプチド基質を効率的にタンパク質分解可能である。タンパク質分解は全てのPVサブサイトおよびPIサブサイトにおいて生じることから、このPEPが、グルテン中に高頻度で見出されるようなS1'位の疎水性残基を好むことが示唆される。L. helveticus CNRZ32の産生株は、チーズ製造に広く使用されているので、この酵素は、食品グレードの酵素として望ましい特性を有する。
【0025】
対象となる別の酵素は、ミクソコックス・ザンサスのPEP(Genbank ID# AF127082)である。同酵素はフラボバクテリウムのPEPの多くの利点を有する。同酵素は33merを短い非毒性ペプチドに切断する。フラボバクテリウムの酵素は、グリアジンペプチド中のPQ結合に対して比較的厳密な優先性を有するようであるが、ミクソコックスの酵素はPQ結合、PY結合、およびPF結合を切断可能であり、これは広範囲のグルテンエピトープをタンパク質分解を可能とする特徴である。フラボバクテリウムの酵素と比較して、同酵素は、膵臓のプロテアーゼに対する同等の安定性、および酸性環境に対する優れた安定性を有する。ミクソコックスの酵素は大腸菌で良好に発現されるので、同酵素の安価な産生が可能となる。
【0026】
対象となるグルテナーゼ酵素断片は、少なくとも約20隣接アミノ酸、より一般的には少なくとも約50隣接アミノ酸の断片を含み、および100残基もしくはそれ以上のアミノ酸、最も長くてタンパク質全体を含む場合があり、ならびに追加の配列を含むようにさらに延長可能である。いずれの場合でも、重要な基準は、断片が、セリアックスプルーの症状に寄与する毒性オリゴペプチドを消化する能力を保持しているか否かということである。
【0027】
一次配列を変化させない、対象となる修飾は例えば、アシル化(例えばラウリル基、ステアリル基、ミリスチル基、デシル基など)、PEG化、エステル化、またはアミド化を含む、タンパク質の化学的誘導体化を含む。これらの修飾は、例えば、PEG側鎖、またはラウリル基を表面のリシンに結合させることによって、タンパク質分解に対する酵素の耐性を高めるために使用できる。例えば、その合成およびプロセシング中における、またはさらなるプロセシング段階におけるタンパク質のグリコシル化パターンを修飾することによって;例えばタンパク質を、哺乳類のグリコシル化酵素もしくは脱グリコシル化酵素などのグリコシル化に影響する酵素に曝露することによって作られるような、グリコシル化の修飾も含まれる。リン酸化されたアミノ酸残基、例えばホスホチロシン、ホスホセリン、またはホスホスレオニンを有する配列も含まれる。
【0028】
グルテナーゼ、例えば天然のグルテナーゼのアミノ酸配列を当技術分野で既知のさまざまな方法で変化させることで、標的変化を配列に、および本発明の製剤および組成物に有用な追加のグルテナーゼ酵素を導入することができる。このような異型は典型的には、通常は配列が、対応する天然タンパク質または親タンパク質とは異なるものの所望の生物学的活性を保持する、機能が保存された異型である。異型は、酵素活性を保持するグルテナーゼの断片も含む。当技術分野で既知のさまざまな方法、例えばランダム変異および標的変異を組み合わせたファージディスプレイ、走査変異の導入などで標的変化を作ることができる。
【0029】
異型は天然の配列と実質的に類似している可能性があり、すなわち少なくとも1アミノ酸が異なり、および少なくとも2アミノ酸が異なる場合があるが、一般的には約10アミノ酸を上回らない(天然の配列のサイズに応じた差の数)。配列の変化は、置換、挿入、または欠失の場合がある。アラニンまたは他の残基を系統的に導入する走査変異を使用して、重要なアミノ酸を決定することができる。保存的なアミノ酸置換は典型的には、以下のグループ内における置換を含む:(グリシン、アラニン);(バリン、イソロイシン、ロイシン);(アスパラギン酸、グルタミン酸);(アスパラギン、グルタミン);(セリン、スレオニン);(リシン、アルギニン);および(フェニルアラニン、チロシン)。
【0030】
さまざまな修飾を酵素の配列に施すことができる。MXのPEPは、ブタの筋肉または脳に由来する酵素と類似の構造を有する。この酵素は、円筒状の樽型のプロペラドメインに共有結合的に連結された、典型的なα/βヒドロラーゼフォールドを有する触媒ドメインからなる。触媒ドメインは、N末端の残基1〜67およびC末端の残基410〜678から構成され;プロペラドメインは残基71〜406を含む。残基67〜70および残基407〜409によって形成される2本の直線状の鎖は共有結合的に2つのドメインに連結される。ミクソコックス・ザンサスのPEPのこの解析は、修飾型酵素の設計に有用である。典型的には、このような修飾型酵素は、いずれも活性に重要であると考えられる、触媒三つ組残基(Ser533、Asp616、およびHis651)、ならびに保存されたArg618残基を保持する。残基Asn534、Tyr453、およびArg618はプロリルエンドペプチダーゼファミリー中に保存されており、かつこれらの残基は、修飾型酵素の設計中に保存される場合もある。1つの態様では、プロペラドメインの拡張領域が、例えば5〜10個のGly残基を含む短い柔軟なリンカーと置き換えられることで、タンパク質の末端が削られ、およびペプシンに対するタンパク質分解感受性が低下する。
【0031】
例えば変異は、結合ポケット中の触媒性のSer533に近接するV458およびG532を対象に作られる。これらの変異体は、Suc-Ala-Pro-pNAに対する野生型の活性を保持するが、13merに対する低い活性を示す。他の変異体、R572A/Q、I575A、およびF229Yは、より長い基質に対して高い特異性を有する。
【0032】
対象となる特定の特徴を提供するように修飾された酵素を、酵素の活性を最適化するか、または例えば野生型のレベルに回復させるために、例えば当技術分野で既知の変異誘発、エクソンシャッフリングなどと、これに続くスクリーニングまたは選択によって、さらに修飾することができる。
【0033】
タンパク質分解に対する耐性、および/または胃内に見られるような酸性条件に対する耐性を改善するために、ならびに可溶性の特性を最適化するために、もしくは治療用薬剤としてより適切なものとするために、分子生物学的手法および/または化学的手法によって修飾されたタンパク質も本発明の実施において有用である。例えば、ペプチダーゼの主鎖、安定性を高めるために環状化することができる(Friedler et al. (2000) J. Biol. Chem. 275: 23783-23789を参照)。このようなタンパク質の類似体は、天然のL-アミノ酸、例えばD-アミノ酸または非天然の合成アミノ酸以外の残基を含む類似体を含む。
【0034】
本発明の実施に有用なグルテナーゼタンパク質は、組換え産生系から、および天然の供給源から、従来の方法に準じて単離して精製することができる。プロテアーゼの産生は、大腸菌、出芽酵母(S. cerevisiae)、ピキア・パストリス(P. pastoris)、ラクトバチルス(Lactobacilli)、バチルス(Bacilli)、およびアスペルギルス(Aspergilli)などの生物における、確立された宿主-ベクター系を使用して達成することができる。組込み型または自己複製型のベクターを、この目的で使用することができる。このような宿主の一部では、プロテアーゼが細胞内タンパク質として発現され、および続いて精製されるが、他の宿主では、酵素が細胞外環境中に分泌される。タンパク質の精製は、イオン交換クロマトグラフィー、Ni-アフィニティクロマトグラフィー(もしくはいくつかの代替的なクロマトグラフィー法)、疎水性相互作用クロマトグラフィー、および/または他の精製法を組み合わせることで実施することができる。典型的には、本発明の実施に使用される組成物は、所望の産物の少なくとも20%(重量)、より一般的には少なくとも約50%(重量)、好ましくは少なくとも約85%(重量)、少なくとも約90%を含み、および治療目的では、産物の調製およびその精製法に関連する混入物に関して少なくとも約95%(重量)である場合がある。一般的には、これらのパーセンテージは全タンパク質に基づく。このような組成物中のタンパク質は、少なくとも約500μg/ml;少なくとも約1 mg/mg;少なくとも約5 mg/ml;少なくとも約10 mg/mlまたはそれ以上の濃度で存在する場合がある。
【0035】
1つの局面では、本発明は、グルテナーゼの精製された調製物を提供する。このような酵素は組換え法で産生可能である。1つの態様では、このような方法では、発現用に細菌宿主を使用するが、真菌系および真核系が一部の目的に有用である。シグナル配列を含むコード配列、またはシグナル配列を含むように人工的に作られたコード配列を、細菌宿主の細胞周辺腔中に分泌させることができる。次に浸透圧ショックプロトコールを加えることで、細胞周辺腔のタンパク質を上清中に放出させることができる。
【0036】
酵素が細胞質酵素の場合、細胞周辺腔へ分泌させるためにシグナル配列を加えることができるか、または酵素を細胞質溶解物から単離することができる。精製法は例えば、ヒスチジンタグの導入と組み合わせるNi-NTAアフィニティ精製;および当技術分野で既知のクロマトグラフィー法、例えば陽イオン交換、陰イオン交換、ゲル濾過、HPLC、FPLCなどを含む。
【0037】
安定な保存などの多様な目的で、酵素を凍結乾燥させることができる。凍結乾燥は好ましくは、最初に濃縮された調製物、例えば少なくとも約1 mg/mlを対象に実施される。PEGを付加することで酵素の安定性を高めることができる。MXのPEPを、比活性を損なうことなく凍結乾燥可能なことが明らかとなっている。凍結乾燥した酵素および賦形剤は、腸溶コーティングが施されたカプセル剤または錠剤の製造に有用であり、例えば1個のカプセル剤または錠剤は少なくとも約1 mgを含んでよい。PEP、一般的には少なくとも約10 mgのPEPは、少なくとも100 mgのPEP、少なくとも約500 mgのPEP、またはそれ以上を含んでよい。本明細書に詳述されるように、活性の実質的な部分が保持されて、かつ少なくとも約1か月4℃で安定なとなるように腸溶コーティングを施すことができる。MXのPEPが、錠剤の剤形で活性を保持することも明らかとなっている。
【0038】
本発明の以前には、ヒトに摂取されるか、または食品と混合されるグルテナーゼの必要性は無かった。したがって本発明の以前は、大半のグルテナーゼは、摂取時にヒトに害を及ぼす恐れのある混入物を含まない状態では存在しなかった。本発明は、このようなグルテナーゼ調製物に関するニーズを掘り起こし、ならびに、これらおよびその作製法を提供する。関連する態様で本発明は、セリアックスプルー患者に毒性を示すことが明らかにされたグルテン含有食品に由来するが、オリゴペプチドおよびオリゴペプチド配列の濃度および量を減じるように処理された新しい食品を提供する。グルテンを含まないか、またはグルテン量を減らした食品が作られているが、本発明の食品がこのような食品と異なる点は、食品のグルテナーゼ処理によって調製される点だけだけでなく、内容についても異なる。というのは、先行技術の方法では、食品の(セリアックスプルーの患者に対して)非毒性の成分を変化させ、結果的に、さまざまな味および組成をもたらすからである。先行技術の食品は例えば、ヨーロッパで入手可能で、かつ100 ppmに満たないグルテンを含む、食品規格(Codex Alimentarius)のコムギデンプンを含む。このようなデンプンは一般に、水にグルテンが不溶である一方でデンプンは可溶であるという事実を用いる工程で調製される。
という。
【0039】
1つの態様では、本明細書で用いる「グルテナーゼ」という表現は、本明細書に記載された1つもしくは複数の基準に適合するプロテアーゼ酵素またはペプチダーゼ酵素を意味する。このような基準は、酵素の修飾の評価にも、例えば修飾が施された後のスクリーニングツールとして有用である。いくつかの態様では、MXのPEPのアミノ酸配列の修飾、または非ペプチド性の修飾は、このようなアッセイ法で評価される。当業者であれば、これらの基準を用いて、本発明の方法に使用される、候補となる酵素または酵素の修飾の適切性を判断することができる。多くの酵素が、基準の2つ、3つ、4つ、またはそれ以上を含む複数の基準に適合し、および一部の酵素は全ての基準に適合する。「プロテアーゼ」または「ペプチダーゼ」という表現はグルテナーゼを意味する場合があり、および本明細書で用いられるように、ペプチド結合を切断する能力を有するタンパク質またはこの断片を意味し、切断され得るペプチド結合は、オリゴペプチド、もしくはより大きなタンパク質の末端または内部のいずれかに存在する場合がある。プロリン特異的なペプチダーゼは、本発明の実施に有用なグルテナーゼである。
【0040】
本発明のグルテナーゼは、以下のペプチダーゼの1つに対して、アミノ酸レベルで少なくとも約20%の配列同一性を有する、より一般的には少なくとも約40%の配列同一性を有する、および好ましくは少なくとも約70%の配列同一性を有するプロテアーゼおよびペプチダーゼの酵素を含む:フラボバクテリウム・メニンゴセプチカムに由来するプロリルエンドペプチダーゼ(PEP)(Genbankアクセッション番号D10980)、アエロモナス・ハイドロフィラに由来するPEP(Genbankアクセッション番号D14005)、スフィンゴモナス・カプスラータに由来するPEP(Genbankアクセッション番号AB010298)、ウサギに由来するDCP I(Genbankアクセッション番号X62551)、アスペルギルス・フミガタース(Aspergillus fumigatus)に由来するDPP IV(Genbankアクセッション番号U87950)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)に由来するカルボキシペプチダーゼ(Genbank ID# D25288)、ラクトバチルス・ヘルベティカスに由来するPEP(Genbank ID# 321529)、またはオオムギに由来するシステインプロテイナーゼB(Genbankアクセッション番号JQ1110)。
【0041】
本明細書に記載された上記の各プロテアーゼは、毒性グリアジン配列に対する高められた特異性、より長い基質に対する改善された寛容性、酸安定性、ペプシン耐性、膵臓酵素によるタンパク質分解に対する耐性、および有効期間の改善などの所望の特性を改善するように人工的に作製することができる。所望の特性を、標準的なタンパク質工学的手法で人工的に作製することができる。
【0042】
プロリン残基以外に、グルタミン残基も、グルテンタンパク質中に高頻度で存在する。セリアックスプルーにおけるグルテンの毒性は、特定のGln残基の存在と直接関連づけられている。したがって、グルタミン特異的なプロテアーゼは、セリアックスプルーの治療にも有益である。オートムギは、グルタミンには富むがプロリン残基には特に富まないタンパク質を含むので、グルタミン特異的なプロテアーゼのさらなる利益は、軽度のオートムギ不耐性を示すセリアック患者におけるオートムギ寛容性の改善である。このようなプロテアーゼの一例は、グルテンに由来する上述のシステインエンドプロテイナーゼである。この酵素はグルテンタンパク質を速やかに切断し、Gln後切断に明瞭な選好性を有する。α2-グリアジンを効率的に消化することが報告されているオオムギのエンドプロテアーゼ(Genbank accession U19384)にも関心が寄せられる。同酵素は酸性条件で活性を示し、かつ経口投与される栄養補助食品として有用である。グルテン含有食には、酸性の胃の中で免疫原性グルテンペプチドが効率的に分解され、このようなペプチドが腸内に進み、および免疫系に提示されるように、経口投与されるプロEPB2を追加可能である。この酵素に高い配列類似性を有するタンパク質にも関心が寄せられる。これらの酵素の1つの利点は、オオムギ由来のグルテン中に存在するために、ヒトの経口摂取に安全であると見なされるという点である。
【0043】
腸のジペプチジルペプチダーゼIVおよびジペプチジルカルボキシペプチダーゼIは、グルテンから毒性グリアジンペプチドへの分解における律速酵素である。これらの酵素は、哺乳類の小腸内におけるグルテン消化のボトルネックである。なぜなら(i)他のアミノペプチダーゼおよびカルボキシペプチダーゼと比較して比活性が腸の刷子縁で比較的低いからであり;ならびに(ii)基質の鎖長に対する強い感受性のために33merなどの長い免疫毒性ペプチドを極めて緩やかに切断するからである。これらの問題はいずれも、他の供給源に由来するプロリン特異的なアミノペプチダーゼおよびカルボキシペプチダーゼを投与することで緩和することができる。例えば、アスペルギルス・オリザ(Aspergillus oryzae)に由来するX-Proジペプチダーゼ(Genbank ID# BD191984)、およびアスペルギルス・サイトイに由来するカルボキシペプチダーゼ(Genbank ID# D25288)はセリアックの腸におけるグルテンの消化を改善することができる。
【0044】
本発明のグルテナーゼは、以下のモチーフの1つを含むペプチドの切断に関して少なくとも2.5 U/mg、好ましくは25 U/mg、およびより好ましくは250 U/mgの比活性を有するペプチダーゼまたはプロテアーゼを含む:Gly-Pro-pNA、Z-Gly-Pro-pNA(Zはベンジルオキシカルボニル基)、およびHip-His-Leu(「Hip」は馬尿酸、pNAはパラ-ニトロアニリド、および1 Uは、1分間あたりの1μmoleの基質のターンオーバーの触媒に必要な酵素の量)。色素生産性の基質をスクリーニングに使用することができる。例えばCbz-Gly-Pro-pNAまたはSuc-Ala-Pro-pNAなどの基質は、プロリン特異的なプロテアーゼの同定を可能とする。類似の基質を、グルタミン特異的なプロテアーゼの同定に使用することもできる。これらのアッセイ法は、UV-Vis分光光度法で追跡することができる。
【0045】
本発明のグルテナーゼは、以下の任意の酵素分類に属する酵素を含む:EC 3.4.21.26、EC 3.4.14.5、またはEC 3.4.15.1。
【0046】
本発明のグルテナーゼは、至適条件下でグルテン中の既知のT細胞エピトープを含む以下の任意のペプチドの切断に関して少なくとも約2.5 s-1 M-1、一般的には少なくとも約250 s-1 M-1、および好ましくは少なくとも約25000 s-1 M-1のkcat/Kmを有する酵素を含む:

。上記エピトープの1つもしくは複数を含む、より長い、生理学的に産生されたペプチドの切断、例えばα-グリアジンに由来する33mer

の切断、およびγ-グリアジンに由来する26mer

の切断を評価することもできる。本発明のグルテナーゼは、消光された蛍光発生基質(SEQ
ID NO: 36) Abz-QPQQP-Tyr(NO2)-Dに関する特異性kcat/Kmが2 mM-1 s-1を上回るペプチダーゼまたはプロテアーゼを含む。これらのアッセイ法は、HPLCまたは蛍光分光法で追跡することができる。後者のアッセイ法に関しては、適切なフルオロフォアを、ペプチドのアミノ末端およびカルボキシ末端に結合させることができる。
【0047】
本発明の実施に有用なグルテナーゼは、前処理した基質を切断して毒性グルテンオリゴペプチドを除去する能力によって同定することができる。ここで「前処理した基質」は、ペプシン(1:100質量比)、トリプシン(1:100)、キモトリプシン(1:100)、エラスターゼ(1:500)、ならびにカルボキシペプチダーゼAおよびB(1:100)を含む、生理学的量の胃および膵臓のプロテアーゼで処理されたグリアジン、ホルデイン、セカリン、またはアベリンの各タンパク質である。ペプシンによる消化は、胃内における消化を再現したpH 2における20分間の処理と、これに続く十二指腸における分泌型の膵臓酵素による消化を再現した反応混合物の、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、およびカルボキシペプチダーゼによるpH 7における1時間のさらなる処理によって実施することができる。前処理した基質は、例えば生理学的条件で消化に耐性を示すオリゴペプチドを含む。グルテナーゼは、産物の10%未満が、(SEQ ID NO: 3、アミノ酸1〜9)PQPQLPYPQより長いように(A215でモニタリングされるC18逆相HPLCカラム上における、より長い保持時間によって判断される)、ペプシン-トリプシン-キモトリプシン-エラスターゼ-カルボキシペプチダーゼ(PTCEC)で処理されたグルテンの切断を触媒可能である。
【0048】
ペプチダーゼまたはプロテアーゼが、前処理した基質を切断する能力は、酵素が37℃で1時間インキュベートする1 mg/mlの前処理した基質、および10μg/mlのペプチダーゼもしくはプロテアーゼを含む反応混合物中における遊離のNH2末端の濃度を高める能力を測定することで決定できる。本発明の実施に有用なグルテナーゼは、このような条件で、遊離のアミノ末端の濃度を、一般的には少なくとも約25%、より一般的には少なくとも約50%、および好ましくは少なくとも約100%高める。グルテナーゼは、10μg/mlの酵素との1時間のインキュベーション後に、1 mg/mlの「前処理した基質」中に約1000 Daを上回るオリゴペプチドの残存モル濃度を少なくとも約2倍、一般的には少なくとも約5倍、および好ましくは少なくとも約10倍減じる能力を有する酵素を含む。このようなオリゴペプチドの濃度は、当技術分野で既知の方法、例えばサイズ排除クロマトグラフィーほかの方法で推定することができる。
【0049】
本発明のグルテナーゼは、セリアック患者の腸生検に由来するポリクローナルT細胞系列によって追跡されるグルテン全体を無毒化する能力;LC-MS-MSによって追跡されるグルテン全体を無毒化する能力;および/または、グリアジンに特異的な配列を認識する能力を有するモノクローナル抗体を使用するELISA法によって追跡されるグルテン全体を無毒化する能力を有する酵素を含む。
【0050】
例えばグルテナーゼは、「前処理した基質」がHLA-DQ2に対する(SEQ ID NO: 17) PQPELPYPQPQLPの結合を拮抗可能な力価を低下させることができる。基質がHLA-DQに結合する能力は、その毒性の指標となり;約8アミノ酸より短い断片は一般に、クラスIIのMHCと安定な状態で結合しない。毒性オリゴペプチドの濃度を低下させることによる、毒性オリゴペプチドを消化するグルテナーゼによる処理は、これらを含む混合物が、MHCとの結合をめぐって試験ペプチドと競合することを妨げる。候補となるグルテナーゼが本発明の目的に使用可能か否かを検討するために、「前処理した基質」の1 mg/mlの溶液を最初に10μg/mlの候補グルテナーゼとともにインキュベートし、および次に、結果として得られる溶液が、HLA-DQ2分子に事前に結合された放射活性のある(SEQ ID NO: 18) PQPELPYPQPQPLPを置換する能力を、本発明の方法の有用性の指標となる、非処理対照に対する置換の減少によって定量することができる。
【0051】
本発明のグルテナーゼは、セリアックスプルー患者における「グルテン負荷試験食」に対する抗tTG抗体応答を、少なくとも約2倍、より一般的には少なくとも約5倍、および好ましくは少なくとも約10倍、低下させる酵素を含む。「グルテン負荷試験食」は、直前までグルテン非含有食を摂取していたセリアックスプルーの成人患者による3日間の100 gのパン/日の摂取と定義される。抗tTG抗体応答は、末梢血を対象に、当技術分野で既知の標準的な臨床診断検査で測定することができる。
【0052】
「グルテナーゼ」という表現に含まれないペプチダーゼは以下のペプチダーゼである。ヒトのペプシン、ヒトのトリプシン、ヒトのキモトリプシン、ヒトのエラスターゼ、パパイヤのパパイン、およびパイナップルのブロメラインであり、および一般的に除外されるペプチダーゼは、このようなペプチダーゼに対してアミノ酸レベルで98%を上回る配列同一性を有する酵素であり、さらに一般的に除外されるペプチダーゼは、このようなペプチダーゼに対してアミノ酸レベルで90%を上回る配列同一性を有する酵素であり、ならびに好ましくは除外されるペプチダーゼは、このようなペプチダーゼに対してアミノ酸レベルで70%を上回る配列同一性を有する酵素である。
【0053】
セリアックスプルー患者に対して潜在的な有害作用を有するグルテンタンパク質には、トリティカム・アエスティバム(Triticum aestivum);トリティカム・アエチオピカム(Triticum aethiopicum);トリティカム・バエオチカム(Triticum baeoticum);トリティカム・(ミリティナエ(Triticum militinae);トリティカム・モノコッカム(Triticum monococcum);トリティカム・シンスカジャエ(Triticum sinskajae);トリティカム・ティモフィービィ(Triticum timopheevii);トリティカム・タージダム(Triticum turgidum);トリティカム・ウラーツ(Triticum urartu);トリティカム・バビロビィ(Triticum vavilovii);トリティカム・ジューコフスキー(Triticum zhukovskyi)などを含む種であるコムギの保存タンパク質が含まれる。コムギの保存タンパク質をコードする遺伝子に関する総説には、Colot (1990) Genet Eng (N Y) 12: 225-41などがある。グリアジンは、コムギのグルテンのアルコール可溶性のタンパク質画分である。グリアジンは典型的にはグルタミンおよびプロリンに、特にN末端部分において富む。例えば、α-グリアジンおよびγ-グリアジンの先頭の100アミノ酸は、それぞれ約35%および約20%のグルタミン残基およびプロリン残基を含む。多くのコムギのグリアジンは特性が解析されており、かつコムギ、および他の穀物に多くの株が存在することから、より多くの配列が、分子生物学の常用の方法で同定されると推定される。本発明の1つの局面では、天然の対応植物とは、少ない量のグルタミン残基およびプロリン残基を含むグリアジンタンパク質を有する点が異なる遺伝子改変植物を提供する。
【0054】
グリアジンの配列の例は、例えば、Genbankにアクセッション番号AJ133612;AJ133611;AJ133610;AJ133609;AJ133608;AJ133607;AJ133606;AJ133605;AJ133604;AJ133603;AJ133602;D84341.1;U51307;U51306;U51304;U51303;U50984;およびU08287として提供されているコムギのαグリアジンの配列を含むがこれらに限定されない。コムギのωグリアジンの配列は、Genbankアクセッション番号AF280605に記載されている。
【0055】
本発明の目的に鑑みて、毒性グリアジンオリゴペプチドは、グリアジン、および食用穀物、例えばコムギ、ライムギ、オオムギなどに由来する上記の関連保存タンパク質の、正常なヒトによる消化に由来するペプチドである。このようなオリゴペプチドは、セリアックスプルーにおけるT細胞に対して抗原として作用すると考えられている。クラスIIのMHCタンパク質に対する結合に関しては、免疫原性ペプチドは一般的には約8〜20アミノ酸の長さであり、より一般的には約10〜18アミノ酸である。このようなペプチドは、モチーフPQPQLP(SEQ ID NO: 8)などのPXPモチーフを含む場合がある。オリゴペプチドが、特定の患者において免疫原性を有するか否かの判定は、当業者に既知の標準的なT細胞活性化および他のアッセイ法によって容易に下される。
【0056】
本明細書に記載されるように、消化中に、ペプチダーゼ耐性のオリゴペプチドは、グルテン、例えばグリアジンの曝露後に正常な消化酵素として留まる。ペプチダーゼ耐性オリゴペプチドの例を例えば、SEQ ID NO: 5、6、7、および10に提供する。免疫原性のあるグリアジンオリゴペプチドの他の例については、参照により本明細書に組み入れられる、Wieser (1995) Baillieres Clin Gastroenterol 9 (2): 191-207に記載されている。
【0057】
候補酵素が毒性グルテンオリゴペプチドを消化するか否かの判定は、上述したように経験的に下すことができる。例えば、候補を1つもしくは複数のGly-Pro-pNA、Z-Gly-Pro-pNA、Hip-His-Leu、Abz-QLP-Tyr(NO2)-PQ、Abz-PYPQPQ-Tyr(NO2)、PQP-Lys(Abz)-LP-Tyr(NO2)-PQPQLP、PQPQLP-Tyr(NO2)-PQP-Lys(Abz)-LPの各モチーフを含むオリゴペプチドと;または

の1つもしくは複数のオリゴペプチドと;または生理学的量の胃および膵臓のプロテアーゼで処理されたグリアジン、ホルデイン、セカリン、またはアベニンの各タンパク質の1つもしくは複数を含む前処理した基質と結合させることができる。個々の場合において候補は、仮に候補がオリゴペプチド切断能力を有すれば、本発明のグルテナーゼであると判定される。腸の刷子縁に存在する、ヒト細胞に低毒性を有し、かつ生理学的条件で活性を示すグルテナーゼは、本発明のいくつかの応用における使用に好ましく、および、したがって、候補グルテナーゼを対象とした、このような特性のスクリーニングに有用な可能性がある。
【0058】
このようなアッセイ法に用いるオリゴペプチドまたはタンパク質の基質は、合成、組換え法、天然の供給源からの単離などの従来の手法に準じて調製することができる。例えば固相ペプチド合成では、アミノ酸を連続的に追加して、直線状のペプチド鎖を作製する(Merrifield (1963) J. Am. Chem. Soc. 85: 2149-2154を参照)。組換えDNA技術を使用してペプチドを作製することもできる。
【0059】
毒性オリゴペプチドの消化のレベルをベースライン値と比較することができる。出発物質の消失、および/または消化生成物の存在は従来の方法で追跡することができる。例えば、検出可能なマーカーをペプチドに結合させ、および続いて、マーカーと関連する分子量の変化を、例えば酸沈殿法、分子量排除などで見極めることができる。ベースライン値は、対照試料の値、または対照集団を代表する統計値であることができる。観察された活性が確実に信頼できるようにするために、同時に行われる平行反応、陽性および陰性の対照、ならびに用量反応などを含む、さまざまな対照を実施することができる。
【0060】
本明細書に記載されたスクリーニング法で同定される活性グルテナーゼは、特性が改善されたグルテナーゼを同定するための類似化合物を合成するためのリード化合物となり得る。類似化合物の同定は、自己無撞着場(SCF)解析、配置間相互作用(CI)解析、および正常モードの動態解析などの手法を用いて実施することができる。
【0061】
グルテナーゼの望ましい特性は、胃内(低いpHおよびペプシン)条件に対する安定性である。胃内安定性が高められたグルテナーゼは、変異誘発と、これに続く96ウェルプレートなどの高スループットスクリーニングフォーマット中の液体培地へのコロニートランスファーによって同定可能である。成長させた後に、細胞培養物画分を溶解して、および溶解物を、胃内条件(ペプシン、pH 2)を再現した条件で、さまざまな時間インキュベートすることができる。その後、溶解物を対象に、適切な色素生産性基質(例えばCbz-スクシニル-Ala-Pro-pNA)を使用するアッセイ法を行うことができる。胃内安定性が高められた抽出物の存在下では、濃い黄色の発色が見られることになる。
【0062】
製剤
本発明の1つの態様では、セリアックスプルーの患者には、グルテナーゼまたは本発明の方法にしたがって処理された食品が提供されることに加えて、組織トランスグルタミナーゼの阻害剤、抗炎症剤、抗潰瘍剤、マスト細胞安定剤、および/またはアレルギー剤が提供される。このような薬剤の例は、コンパクチン、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、およびアトロバスタチンなどの抗炎症性を有するHMG-CoAレダクターゼ阻害剤;アクリバスチン、セチリジン、デスロラタジン、エバスチン、フェキソフェナジン、レボセチリジン、ロラタジン、およびミゾラスチンなどの抗アレルギー性ヒスタミンH1受容体拮抗剤;モンテルカストおよびザフィルルカストなどのロイコトリエン受容体拮抗剤;セレコクシブおよびロフェコキシブなどのCOX2阻害剤;BIRB-796などのp38 MAPキナーゼ阻害剤;ならびにクロモグリク酸ナトリウム(クロモリン)、ペミロラスト、プロキシクロミル、レピリナスト、ドキサントラゾール(doxantrazole)、アンレキサノクス、ネドクロミル、およびプロビクロミル(probicromil)などのマスト細胞安定剤を含む。
【0063】
本明細書で用いる「市販の」化合物は、Acros Organics (Pittsburgh PA)、Aldrich Chemical (Milwaukee WI, Sigma ChemicalおよびFlukaを含む)、Apin Chemicals Ltd. (Milton Park, UK)、Avocado Research (Lancashire, U.K.)、BDH Inc. (Toronto, Canada)、Bionet (Cornwall, U.K.)、Chemservice Inc. (West Chester, PA)、Crescent Chemical Co. (Hauppauge, NY)、Eastman Organic Chemicals、Eastman Kodak Company (Rochester, NY)、Fisher Scientific Co. (Pittsburgh, PA)、Fisons Chemicals (Leicestershire,
UK)、Frontier Scientific (Logan, UT)、ICN Biomedicals, Inc. (Costa Mesa, CA)、Key Organics (Cornwall, U.K.)、Lancaster Synthesis (Windham, NH)、Maybridge Chemical Co. Ltd. (Cornwall, U.K.)、Parish Chemical Co. (Orem, UT)、Pfaltz & Bauer, Inc. (Waterbury, CN)、Polyorganix (Houston, TX)、Pierce Chemical Co. (Rockford, IL)、Riedel de Haen AG (Hannover, Germany)、Spectrum Quality Product, Inc. (New Brunswick, NJ)、TCI America (Portland, OR)、Trans World Chemicals, Inc. (Rockville, MD)、Wako Chemicals USA, Inc. (Richmond, VA)、Novabiochem、およびArgonaut Technologyを含むがこれらに限定されない業者から得られる可能性がある。
【0064】
グルテナーゼおよび本発明の処理した食品との同時投与に有用な化合物は、当業者に既知の方法で作製することもできる。本明細書で用いる「当業者に既知の方法」は、さまざまな参考書およびデータベースを通じて見つけることができる。本発明の化合物の調製に有用な反応物の合成について詳述した適切な参考書および専門書、または調製に関して記載された記事の参考文献は例えば、「Synthetic Organic Chemistry」、John Wiley & Sons, Inc.、New York; S. R. Sandler et al.、「Organic Functional Group Preparations」、2nd Ed.、Academic Press,、New York、1983; H. O. House、「Modern Synthetic Reactions」、2nd Ed.,、W. A. Benjamin, Inc. Menlo Park, Calif. 1972; T. L. Gilchrist、「Heterocyclic Chemistry」、2nd Ed.、John Wiley & Sons、New York、1992; J. March, 「Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms and Structure」、4th Ed.、Wiley-Interscience、New York、1992を含む。特異的かつ類似の反応物は、大半の公共図書館および大学図書館で、ならびにオンラインデータベース(the American Chemical Society, Washington, D.C.、詳細はwww.acs.org)を通じて利用可能な、米国化学会のケミカルアブストラクトサービス(Chemical Abstract Service)によって作成された既知化合物のインデックスによって見つけることができる。既知ではあるがカタログ上で市販されていない化合物は、多くの標準的な化合物供給業者(例えば上記の業者)がカスタム合成サービスを提供しているカスタム化学合成業者によって作製することができる。
【0065】
本発明のグルテナーゼタンパク質、および/または同タンパク質とともに投与される化合物は、治療目的の投与のために、さまざまな製剤中に混合される。1つの局面では、このような薬剤は、適切な薬学的に許容可能な担体または希釈物と混合することで薬学的組成物に製剤化され、および錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、軟膏、溶液、坐剤、注射液、吸入剤、ゲル、微粒子、およびエアロゾルなどの、固体、半固体、液体、または気体の状態で調製物に製剤化される。したがって、グルテナーゼおよび/または他の化合物の投与は、さまざまな方法で、一般的には経口投与で達成することができる。グルテナーゼおよび/または他の化合物は、投与後に全身に拡散する可能性があるほか、または製剤化のために、もしくは活性用量を移植部位に保持するように作用する移植片の使用のために、局所に留まる場合がある。
【0066】
薬学的投与剤形の場合、グルテナーゼおよび/または他の化合物は、その薬学的に許容可能な塩の状態で投与可能なほか、または単独で、もしくは適切な混合状態で、ならびに他の薬学的に活性のある化合物と組み合わせて使用することもできる。薬剤は、既に述べた手順で混合することで活性のカクテルを得ることができる。以下の方法および賦形剤は例示的であり、かつ本発明を制限するものとして解釈されない。
【0067】
経口調製物の場合、薬剤は単独で、または例えば、乳糖、マンニトール、コーンスターチ、またはジャガイモデンプンなどの従来の添加物と;結晶セルロース、セルロース誘導体、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤と;コーンスターチ、ジャガイモデンプンまたはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの崩壊剤と;タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤と;および望ましいならば、希釈物、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、および着香剤とともに、錠剤、粉末剤、顆粒剤、またはカプセル剤を作製するように適切な添加物と組み合わせて使用することができる。
【0068】
本発明の1つの態様では、経口用製剤は、活性薬剤が腸管に送達されるように腸溶コーティング剤を含む。当技術分野では、腸溶コーティングが施されたタンパク質の、小腸内腔への効率的な送達に、いくつかの方法を用いることができる。多くの方法は、胃から十二指腸内に食物が放出された時のpHの急上昇の結果としてのタンパク質の放出に、または食物が小腸内に侵入する時の十二指腸内に分泌される膵臓のプロテアーゼの作用に拠っている。PEPおよび/またはグルタミン特異的プロテアーゼの腸内送達に関しては、酵素は通常、適切な緩衝液(例えば、リン酸、ヒスチジン、イミダゾール)、および賦形剤(例えば、ショ糖、乳糖、トレハロースなどの凍結保護物質)の存在下で凍結乾燥される。凍結乾燥された酵素の塊(enzyme cake)を賦形剤と混合し、次に、胃の酸性環境から、ならびに胃内のペプシンの作用からタンパク質を保護するポリマーコーティング剤によって腸溶コーティングが施されるカプセル内に充填する。またはタンパク質微小粒子を保護層でコーティングすることもできる。例示的なフィルムは、酢酸フタル酸セルロース、酢酸フタル酸ポリビニル、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、および酢酸/コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メタクリレート共重合体、およびフタル酸セルロースアセテートである。
【0069】
他の腸溶性製剤は、消化器の粘膜、および細胞でできた内壁と強い接着性相互作用を示し、および両方の粘膜の吸収上皮およびパイエル板のリンパ組織を覆う濾胞関連上皮を通過する、生物学的に分解され得るポリマーから人工的に作製されたポリマー微小粒子を含む。ポリマーは、腸管上皮との長期間に及ぶ接触を維持し、かつポリマーは、実際にはこれを細胞を介して、および細胞間を透過する。これについては例えば、Mathiowitz et al. (1997) Nature 386 (6623): 410-414を参照されたい。薬剤送達系は、Dorkoosh et al.
(2001) J Control Release 71 (3): 307-18に記載されている超多孔性ヒドロゲル(superporous hydrogel; SPH)およびSPH複合体(composite)(SPHC)のコアを使用することもできる。
【0070】
グルテン感受性の人を対象としたグルテンの無毒化は、食物が胃の内部に入ると直ちに開始する場合がある。というのは、胃の酸性環境(約pH 2)はグルテンの可溶化に適しているからである。酸に安定なPEPまたはグルタミン特異的なプロテアーゼの胃内への導入は、ペプシンの作用と相乗的に作用し、セリアック患者の小腸内へのグルテンの侵入に伴う毒性ペプチドの崩壊を加速させる。小腸内で作用するPEPとは対照的に、胃の酵素は、腸溶コーティングによる製剤化を必要としない。実際には、複数のプロテアーゼ(オオムギに由来する、上述のシステインプロテイナーゼを含む)が、対応するプロタンパク質を酸性条件で切断することで自己活性化するからである。本発明の1つの態様では、このような製剤は、胃内で活性化されるプロ酵素を含む。
【0071】
別の態様では、グルテナーゼを産生可能な微生物、例えば細菌または酵母の培養物が患者に投与される。このような培養物は、腸溶カプセルとして製剤化することが可能であり;これについては例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,008,027号を参照されたい。または、胃の酸性環境でも安定な微生物を、カプセルに充填するか、または食品調製物と混合して投与することができる。
【0072】
別の態様では、グルテナーゼを食品と混合するか、またはグルテンを含む食品を前処理するために使用する。食品中に存在するグルテナーゼは、摂取前または摂取中に酵素的に活性化する可能性があり、および活性のタイミングを制御するためにカプセルに充填するか、または別の方法で処理することができる。または、グルテナーゼをカプセルに充填して、摂取後に、例えば腸管内で一定時間を経た後での放出を達成することができる。
【0073】
製剤は典型的には、単位投与剤形で提供される。「単位投与剤形」という表現は、ヒト被験者への単位投与量として適切な物理的に明瞭な単位を意味し、個々の単位は所定量のグルテナーゼを、所望の効果を十分生じると計算された量で、薬学的に許容可能な希釈剤、担体、または溶媒とともに含む。本発明の単位投与剤形の仕様は、使用される複合体の種類、および達成されるべき作用、ならびに宿主内で各複合体と関連する薬力学に依存する。
【0074】
溶媒、アジュバント、担体、または希釈物などの薬学的に許容可能な賦形剤は市販されている。さらに、pH調整剤および緩衝剤、等張性調整剤、安定剤、湿潤剤などの薬学的に許容可能な補助物質も市販されている。本発明の方法および組成物に有用な任意の化合物は、薬学的に許容可能な塩基付加塩として提供され得る。「薬学的に許容される塩基付加塩」は、生物学的または他の側面で望ましくない遊離酸の生物学的な有効性および特性を保持する塩を意味する。このような塩は、無機塩基または有機塩基を遊離酸に添加することで調製される。無機塩基に由来する塩は、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウムの塩などを含むがこれらに限定されない。好ましい無機塩は、アンモニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウムの塩である。有機塩基に由来する塩は、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン(hydrabamine)、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N-エチルピペリジン、ポリアミン樹脂などの、一級、二級、および三級のアミンの塩、天然の置換アミンを含む置換アミン、環状アミン、および塩基性イオン交換樹脂を含むがこれらに限定されない。特に好ましい有機塩基は、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、コリン、およびカフェインである。
【0075】
治療対象となる患者および条件、ならびに投与経路に依存して、グルテナーゼを0.01 mg〜500 mg/kg体重/日、例えば平均的な人については約20 mg/日の投与量で投与することができる。成人のインビボにおけるグルテンの効率的なタンパク質分解は、治療的に有効な酵素の少なくとも約500単位、一般的には少なくとも約1000単位、より一般的には少なくとも約2000単位、および多くて約50,000単位、一般的には多くて約20,000単位を必要とする可能性がある。1単位は、指定の条件下で1分間あたり1μmolのCbz-Gly-Pro-pNA(PEPの場合)、またはCbz-Gly-Gln-pNA(グルタミン特異的なプロテアーゼの場合)の加水分解に必要な酵素の量と定義される。大半のPEPは5〜50単位/mgタンパク質の範囲の比活性を有する。用量は増加する場合があるが、有用な投与量を超えてもさらなる利益は得られない場合があることは、当業者には理解されると思われる。小児用製剤に関しては、投与量は適切に調節される。小児の場合、有効用量は少ない場合があり、例えば少なくとも約0.1 mgまたは0.5 mgである。併用療法では、同等の用量の2種類の酵素が投与される。しかしながら、その比は、2種類の酵素の、胃および十二指腸における不活性化に対する相対的な安定性の影響を受ける。
【0076】
酵素を用いたセリアックスプルーの治療は、食前または食事とともに実施時に最も有効であると推定される。しかしながら、食品は胃内に0.5〜2時間留まり、および主要作用部位は小腸内であると推定されるので、酵素は食後1時間以内に投与される場合もある。
【0077】
インビボにおけるグルテンの最適な無毒化は、適切な胃のプロテアーゼを、十二指腸内でグルテンペプチドに膵臓酵素と協調して作用するPEPと混合することで達成することもできる。これは、2種類の酵素用量、例えば2個のカプセル剤/錠剤を同時に;2種類の酵素の適切な量による。ほかの方法で投与することで達成可能である。凍結乾燥された十二指腸用PEPの粒子または顆粒は、十二指腸内でのみ酵素の放出を促す適切なポリマー腸溶コーティングによって保護することができる。これとは対照的に、胃内へのプロテアーゼの放出は、投与剤形の摂取後、直ちに開始される。PEP、および酵素組織トランスグルタミナーゼの阻害剤などの補足的治療薬を含む併用療法も提供される。
【0078】
本発明のいくつかの態様では、製剤は、選択されたプロテアーゼのカクテルを含む。このような組み合わせは、より大きな治療効果を達成可能である。1つの配合剤では、フラボバクテリウムのPEPおよびミクソコックスのPEPが同時に製剤化されるか、または同時に投与されることで、広範囲のグルテン抗原ペプチドの分解が可能となる。同様に、上記リストの1種類もしくは2種類のPEPと、酸に安定なPEPまたはグルタミンエンドプロテアーゼの併用療法は、胃内で、より効率的なグルテンタンパク質分解に至ることによって、上部小腸におけるグルテン同化の作用を単純化する可能性がある。
【0079】
別の態様では、製剤化または投与のプロトコールは、プロテアーゼ産物およびトランスグルタミナーゼ2(TG2)の阻害剤を併用する。このような製剤化は、グルテン関連腸症からの追加的な保護を有する可能性がある。というのはTG2は、セリアックの胃内におけるグルテンペプチドに対して大きな炎症促進性作用を有することが報告されているからである。特に、ハロ-ジヒドロイソキサゾール部分、ジアゾメチルケトン部分、またはジオキソインドール部分を含むTG2阻害剤は、この目的に有用である。
【0080】
別の態様では、プロテアーゼまたはプロテアーゼカクテルは、抗炎症剤、例えばスタチン;p38 MAPキナーゼ阻害剤;抗TNFα剤;ほかの薬剤とともに投与されるか、および/または製剤化される。
【0081】
当業者であれば、用量レベルが、酵素の種類、症状の重症度、および副作用に対する被験対象の感受性の関数として変動し得ることを容易に理解すると思われる。一部のグルテナーゼは他のグルテナーゼより強力である。任意の酵素に関して好ましい投与量は、当業者によって、さまざまな手段で容易に決定されうる。好ましい手段は、任意の化合物の生理学的な力価を測定することである。
【0082】
対象となる他の製剤は、遺伝的修飾のために腸管細胞を標的とするために、対象グルテナーゼをコードするDNAの製剤を含む。これについては例えば、腸管上皮細胞の遺伝子改変について記載された、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,258,789号を参照されたい。
【0083】
治療法
本発明の方法は、有効用量のグルテナーゼを送達することで、消費されるための食品、またはセリアックスプルーおよび/または疱疹状皮膚炎の個体に消費される食品を処理するために用いられる。仮に、グルテナーゼがヒトに直接投与される場合は、(複数の)活性薬剤は薬学的製剤中に含まれる。または所望の作用は、グルテナーゼを食品中に組み入れることによって、またはグルテナーゼを発現する生きている生物を投与することなどによって得られる場合がある。適切な患者の診断には、当業者に既知のさまざまな基準を用いることができる。グリアジンおよび/または組織トランスグルタミナーゼに特異的な抗体の量的な増加は疾患の指標となる。家族歴、およびHLA対立遺伝子HLA-DQ2[DQ(a1*0501,
b1*02)]および/またはDQ8[DQ(a1*0301, b1*0302)]の存在は、疾患に対する感受性の指標となる。
【0084】
治療の効果は、臨床転帰に関して測定することができるか、または免疫学的もしくは生化学的な検査によって判定することができる。有害なT細胞活性の抑制は、反応性Th1細胞について列挙することによって、病変部位におけるサイトカインの放出の定量によって、または当技術分野で既知の自己免疫性T細胞の存在を調べる他のアッセイ法を使用して測定することができる。または、疾患の症状の緩和を調べることができる。
【0085】
さまざまな投与法が使用可能であり、好ましくは、例えば食事を用いる経口投与が使用される。治療用製剤の投与量は、疾患の性質、投与頻度、投与様式、宿主からの薬剤のクリアランスなどに応じて大きく変動する。初期用量は多くし、次により少量の維持用量を続けることができる。用量は、低頻度で毎週もしくは隔週に投与することができるほか、またはより頻繁に、より少量に分けて、かつ食事と共に毎日、週2回、または有効投与量レベルを維持するために必要な他の期間で投与することができる。
【0086】
本出願は、それぞれが明瞭に参照により本明細書に組み入れられる、2004年4月26日に出願された米国特許仮出願第60/565,668号;2002年2月14日に出願された米国特許仮出願第60/357,238号;2002年に5月14日に出願された米国特許仮出願第60/380,761号;2002年に6月28日に出願された米国特許仮出願第60/392,782号;および2002年に10月31日に出願された米国特許仮出願第60/422,933号;2002年11月20日に出願された米国特許仮出願第60/428,033号;2002年に12月20日に出願された米国特許仮出願第60/435,881号;、ならびに2004年に2月14日に出願された米国特許出願第10/367,405号に関する。
【実施例】
【0087】
以下の実施例は、当業者に提供する目的で、本発明の作製法および使用法の完全な開示および説明とともに記載し、かつ本発明の範囲を制限するか、または以下に示す実験が全てであるか、もしくは実施された唯一の実験であることを意味する意図はない。使用される数値(例えば量、温度など)に関して精度を高めるための取り組みが成されているが、ある程度の実験誤差および偏差が存在する可能性はある。特に明記された部分を除き、割合(part)は重量の割合であり、分子量は重量平均分子量であり、温度はセ氏温度であり、および圧力は大気圧または大気圧の近傍である。
【0088】
実施例1
PEP活性の比較
天然のプロリルエンドペプチダーゼ間における類似性および差に関する知見を得るために、本発明者らは、さまざまな細菌供給源に由来する3種類の相同なPEPの特性を系統的に比較した。本発明者らの研究では、それぞれフラボバクテリウム・メニンゴセプチカム(FM)およびスフィンゴモナス・カプスラータ(SC)に由来する2種類の既知の組換えPEP、ならびに異種組換えタンパク質として本発明者らが初めて発現させたミクソコックス・ザンサス(MX)に由来する新しいPEPを使用した。これらのPEPの酵素活性を、モデル基質に対して、ならびにセリアックスプルーの病態に潜在的に関連する2種類のグルテン由来ペプチドに対して定量的に解析した。特に本発明者らは、各PEPの活性に対する、基質の鎖長、pH、膵臓のプロテアーゼ、および腸の刷子縁ペプチダーゼの影響を探索した。これらの研究の一環として、インビボおよびエクスビボの実験の両方を実施した。
【0089】
実験手順
PEP遺伝子のクローニング
対応する細菌株(フラボバクテリウム・メニンゴセプチカム: ATCC 13253; スフィンゴモナス・カプスラータ: ATCC 14666;ミクソコックス・ザンサス: ATCC 25232)に由来するゲノムDNAからPEP遺伝子を増幅した。MXの推定PEPの配列はNCBIデータベース(Locus ID AAD31004)から入手できる。PCR増幅に使用したオリゴヌクレオチドは、

を含む。増幅された遺伝子をpET28bプラスミド(Novagen)にクローニングした。
【0090】
PEPの発現および精製
発現プラスミドを形質転換によってBL21(DE3)細胞に導入した。37℃で成長させた形質転換体を、100μMのIPTGの存在下で22℃で一晩かけて誘導した。低温による誘導は、活性酵素の収率を改善することが明らかとなっている。全ての精製段階は、特に明記しない限り4℃で実施した。FMおよびSCのPEP酵素は天然の状態でシグナル配列を有するので、大腸菌の細胞周辺腔中に分泌される。したがって、いずれかのPEPを含む高濃度のタンパク質溶解物を得るために、改変された浸透圧ショックプロトコール(EMD Biosciences, CA)を用いた。細胞ペレット(4 Lの培養物)を30 mlの30 mM Tris-HCl, pH 8、20%ショ糖、および1 mM EDTAに再懸濁し、および室温で10分間、緩やかに攪拌した。懸濁物を10,000 gで15分間遠心分離し、細胞ペレットを氷冷dH2O中で再懸濁し、および氷上で10分間、緩やかに攪拌した。ショックを与えた細胞を次に40,000〜50000 gで30分間、再び遠心分離した。細胞周辺腔タンパク質を含む上清を、1 M NaCl溶液(最終濃度は300 mM NaCl)、1 Mイミダゾール溶液(最終濃度は5 mMイミダゾール)、および1 mlのNi-NTA樹脂(Qiagen, CA)で1〜2時間処理した。次に粗タンパク質を、追加の1 mlのNi-NTA樹脂を含むカラムに添加した。0〜10 mMのイミダゾールを含む洗浄緩衝液(50 mM リン酸、300 mM NaCl, pH 7.0)による十分な洗浄段階後に、PEPを150 mMイミダゾール、50 mMリン酸、300 mM NaCl, pH 8で溶出した。FMのPEPをさらにFPLCシステム(Amersham Pharmacia, NJ)で、HiTrap-SP陽イオン交換カラムを通して精製した。HiTrap-SPカラムに添加する前に、同タンパク質を20 mMリン酸緩衝液(pH 7)中に交換した。注入後、PEPを20 mM リン酸、pH 7(緩衝液A)〜20 mMリン酸、500 mM NaCl, pH 7(緩衝液B)の塩勾配で流速1 mL/分で溶出した。最初に、細胞質タンパク質であるMXのPEPを全細胞溶解物からNi-NTAアフィニティクロマトグラフィー(既に詳述)で精製した。このタンパク質をさらに1 mL/分の速度で20 mM HEPES、2 mM DTT,
pH 7.0の均一濃度勾配を用いてSuperdex 200ゲル濾過カラム(Amersham)で精製した。
【0091】
活性アッセイ法
プロリン後切断活性をZ-Gly-Pro-p-ニトロアニリド、およびスクシニル-Ala-Pro-p-ニトロアニリド(Bachem, CA)を使用して測定した。Z-Gly-Pro-pNAをPBS:水:ジオキサン(8:1.2:0.8)アッセイ法用混合物に溶解した。Z-Gly-Pro-pNAの濃度は100〜600μMを変動した。基質Z-Gly-Pro-pNAは酵素活性の検出には有効であったが、高濃度では不溶性であるため、基質飽和条件における速度論的測定は不可能であった。これとは対照的にスクシニル-Ala-Pro-pNAには、検討した全てのpH値における高い水溶性という利点があり、および、したがって、速度論的研究に好ましい基質であった。30μlの10X PBS緩衝液、最終濃度が0.01〜0.02μMの酵素、および最終濃度が100μM〜4 mMの範囲のSuc-Ala-Pro-pNA(5 mMのストック)からなる反応混合物(300μl)におけるFM、SC、およびMXのPEPによるSuc-Ala-Pro-pNAの加水分解をモニタリングした。p-ニトロアニリドの放出は、410 nmの波長において分光光度的に検出した。反応の初期速度は、ミカエリス-メンテン関係に従って、Kmおよびkcatの計算に用いられている410 nmにおける吸光度の上昇によって決定した。pHが酵素活性に及ぼす影響の測定に関しては一連のpH緩衝液を、3.0〜6.0のpH値についてはクエン酸およびリン酸二ナトリウムを用いて、および7.0〜8.0のpH値についてはリン酸ナトリウムを用いて調製した。反応混合物(300μl)は、30μlの10X pH緩衝液、最終濃度が0.01μMの酵素、および100 μM〜4 mMの最終濃度のSuc-Ala-Pro-pNAからなるものとした。
【0092】
pHの安定性
酸性環境曝露後に酵素活性を保持する能力を決定した。pH値が1.5〜4.0の塩酸溶液(10μl)を1μlの酵素と10〜20分間かけて混合した。次に、この酸性混合物を40μlの10X PBS溶液、60μlの5 mM基質で最終容量を300μlとして中和した。回収された酵素の活性を分光光度的に測定し、および同一条件で非酸処理した対照と比較した。
【0093】
胃および膵臓のプロテアーゼの安定性
96ウェルのU底プレート内に5μLの2x反応緩衝液(40 mM Na2HPO4、膵臓酵素の場合はpH=6.5、またはペプシンの場合は20 mM HCl)を添加し、および1μLの分解性酵素(1 mg/mlペプシン、または1 mg/ml トリプシン、1 mg/mlキモトリプシン、0.2 mg/mlエラスターゼ、および0.2 mg/mlカルボキシペプチダーゼAのカクテルのいずれか)に続いて、4μLのPEP(5〜10 U/ml)を添加した。このプレートを37℃で、さまざまな時間(例えば0分間、5分間、10分間、20分間、および30分間)、190μLのPEP基質溶液(2μlのZ-Gly-Pro-p-ニトロアニリド(ジオキサン中に16.8 mg/ml、14μlのジオキサン、24μlの水、150μlの10 mM PBS緩衝液、pH=7.5)を各ウェルに添加して、ともにインキュベートした。アッセイ法の残存活性を調べるために、410 nmで、1〜2分間かけて10秒ごとに吸光度を測定した。個々の緩衝液は5 mg/mlのグルテンも含むようにした。ペプシンに関しては非処理のグルテンを使用した一方で、事前にペプシンでタンパク質分解したグルテン(0.01 M HCl, pH=2.0、1:50 w/w、2時間、37℃)を他の全ての酵素に関して使用した。酸(pH=2.0)を含むウェルを、10μLの0.1 M NaOHを添加して中和後にPEP基質を添加した。酵素活性は、典型的にはゼロ時点で観察される最大活性に対するパーセンテージで表す。
【0094】
基質特異性
上記の標準基質に加えて、酵素の特異性も、グルテン中のγ-グリアジンタンパク質の配列に由来する2種類の免疫原性ペプチドを用いて評価した。両ペプチドとも固相ペプチド合成法で合成した。ペプチド(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLPは免疫優性のγII-エピトープを含み、かつペプシンまたは任意の膵臓酵素によるタンパク質分解に耐性を示す。同基質に対するPEPの特異性を、100μMの(SEQ ID NO: 12) PQPQLPYPQPQLP、および100μMのSuc-Ala-Pro-pNAを混合して0.02μMのPEPと25℃で反応させる競合アッセイ法で評価した。Suc-Ala-Pro-pNA切断の初期速度を分光光度的に測定し、(SEQ ID NO: 13) PQPQLPYPQPQLPの加水分解の初期速度をHPLCで決定した。(SEQ ID NO: 14) PQPQLPYPQPQLPの加水分解に関する見かけ上の特異性kcat/kMは、Suc-Ala-Pro-pNAに関する酵素の既知のkcat/KM、および2種類の基質に関して観察された反応速度を元に決定することができた。PQPQLPYPQPQLPに加えて、より複雑であるが生理学的に重要なペプチド

に関するPEPの特異性の評価も行った。タンパク質分解反応を、5〜100μMのペプチドおよび0.1μMのPEPを含むPBS緩衝液中で、37℃で1分間〜4時間の時間、実施した。
【0095】
基質濃度の低下、ならびに随伴する中間体の減少、および生成物の蓄積をHPLC解析でモニタリングした。BeckmanまたはRainin Dynamax SD-200、215 nmおよび280 nmに設定したVarian 340 UV検出器からなるシステムでRP-HPLCを実施した。溶媒Aは、0.1% TFAを含むH2Oとし、および溶媒Bは、0.1% TFAを含むアセトニトリルとし;使用した勾配は、0〜15分は0〜5% B、15〜30分は5〜30% B、30〜35分は30〜100% B、5分間100% Bとし;流速は1 mL/分とし;分離は4.6 x 150 mmの逆相C-18カラム(Vydac, Hesperia, CA, USA)で実施した。試料を10分間、13,400 gで遠心分離後、10〜100μlを注入した。(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLPならびに33merのいずれもが、複数のプロリンの後のエンドプロテアーゼ切断部位(post-proline endoproteolytic site)を有していた。したがって、反応期間中に複数のペプチドが蓄積し、その一部は二次的なPEP基質そのものである。UV-HPLC(LCQ Classic/Surveyor, ThermoFinnigan, CA)を併用したエレクトロスプレーイオントラップMS-MSを使用して、(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLPおよび33mer中に好ましい切断部位を同定した。
【0096】
適切な生理学的環境における33merおよび(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLPのタンパク質分解のさらなる評価に関しては、グルテン(30g/L)を0.01 M HCl(pH=2.0)に懸濁し、およびペプシン(600 mg/L)の存在下で37℃で2時間インキュベートした。結果として得られた溶液を10 M NaOHで中和し、およびリン酸緩衝液(40 mM, pH 6.5)で10 g/Lに希釈した。次に25μlの同懸濁物に33mer(0.1 mg/ml)、(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLP(0.08 mM)、トリプシン(0.1 mg/ml)、キモトリプシン(0.1 mg/ml)、エラスターゼ(0.02 mg/ml)、カルボキシペプチダーゼA(0.02 mg/ml)を添加した。プロリルエンドペプチダーゼ(FMまたはMX;1x:500 mU/ml;5x:2.5 U/ml;10x:5 U/ml)、およびラットの腸の刷子縁表面膜(BB、1x:40 mU/ml、2x:80 mU/ml、DPP IV活性)を総体積が150μlとなるように添加した。この混合物を37℃でインキュベートし、および25μlのアリコートを0分、5分、10分、30分、および60分の時点で採取し、直ちに熱を加えて不活性化させた。
【0097】
個々のPEPの鎖長特異性を調べるために、本発明者らは、グルテン由来のペプチドの両方を含む競合反応を実施し、反応混合物を対象にRP-HPLCを行い、および各基質の消失を時間の関数としてモニタリングした。33mer(32.5分)、および(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLP(27.5分)のピーク面積を積分した。
【0098】
インビボにおけるエンドペプチダーゼ活性
成体(雌および雄)のラットを麻酔し、および外科的処置中は36〜37℃に維持した。腹腔を開き、および15〜20 cmの空腸セグメントの開始点と終結点に短い切り込みを入れた。ポリエチレン製のカテーテルを挿入し、および2つの末端中に固定した。入力側のカテーテルを、溶液を満たしたポンプ駆動型のシリンジに接続した。空腸セグメントを最初にPBS緩衝液で潅流し、任意の残存細片を流速0.4 mL/分で除去した。次に、精製したペプチド溶液(ペプチド濃度の範囲は25〜100μM)で空腸セグメント全体を0.4 mL/分で10〜40分間の滞留時間で潅流した。共潅流の場合は、入力側のカテーテルを2本の並列シリンジ(simultaneous syringe)と接続する。そのうち1本はペプチド溶液用とし、およびもう1本はプロリルエンドペプチダーゼ溶液用(濃度範囲は50〜500μU/μl)とした。出力側のカテーテルから出た液体を、ドライアイス中の小型の遠心分離用チューブに回収し、続く解析に使用した。回収した消化生成物をC18カラムを使用するHPLCで解析した。
【0099】
結果
PEPタンパク質の発現
FMおよびSCのPEPはそれぞれ固有のシグナル配列を有し、および、したがって大腸菌の細胞周辺腔空間中に分泌型の可溶性酵素として発現される。単純な凍結-融解処理の手順によって、細胞質タンパク質の目立った混入なく、細胞周辺腔タンパク質を回収した。これとは対照的に、MXのPEPは天然のシグナル配列を欠き、および、したがって細胞質タンパク質として発現された。PEPを各溶解物からNi-NTAアフィニティ精製と、これに続く第2のクロマトグラフィー段階で精製した。FM、SC、およびMXの活性型のPEPの収量は、それぞれ1 mg/L、60 mg/L、および30 mg/Lであった。さまざまなPEPの純度は、SDS-PAGEの結果、90%を上回ると判定された。
【0100】
標準基質を使用した速度論的解析
標準的な色素生産性基質スクシニル-Ala-Pro-pNAを使用して、各PEPの活性を最初に評価した。410 nmでp-ニトロアニリンの放出を検出し、および速度論的データをミカエリス-メンテン関係に適合させた。標準基質として、一般的に使用されているZ-Gly-Pro-pNAではなく、スクシニル-Ala-Pro-pNAを選択した。これは、後者の基質の溶解性が低く、共溶媒の使用が必要なためである。スクシニル-Ala-Pro-pNAに関して、FM、MX、およびSCのPEPについて算出されたkcatおよびKMの値を示す(表1)。いずれの酵素も、セリンプロテアーゼと同等レベルの活性を示したが、MXのPEPについてはFMのPEPより高い特異性を有していた一方で、SCのPEPは中間レベルの特異性を有している(表2)。MXのより高い特異性は、KMに反映されるような、基質に対する、より高い親和性に主に帰することができる。
【0101】
(表1)FMのPEP、MXのPEP、およびSCのPEPによるスクシニル-Ala-Pro-p-ニトロアニリドの加水分解に関する速度パラメータ

【0102】
(表2)免疫原性グリアジンペプチド(SEQ ID NO: 4) PQPQLPYPQPQLPに対するFMのPEP、MXのPEP、およびSCのPEPの特異性

【0103】
酵素活性対pH
十二指腸の管腔環境のpHは約6である。したがって、治療的に有用なPEPは、このpHで、高い比活性を保持していなければならない。各PEPの定常状態におけるターンオーバー速度kcatを、図1に示すように100〜4000μMのスクシニル-Ala-Pro-pNAを用いて、さまざまなpH条件で測定した。FMのPEPおよびMXのPEPの両方が、pH 6前後の活性部位のpKaを示し、pH 6〜8の範囲に最適な活性があることが判明した。pH 5における両酵素の低下した活性は、ヒスチジン残基がセリンプロテアーゼ触媒三つ組残基中の一般的な塩基としての役割を果たすことが十分確立されていることと矛盾しないが、この事実は、活性酵素のコンフォメーションから不活性状態への変化を示す可能性もある。このようなコンフォメーション変化は、構造的に特性が解析済みのブタの脳のPEPの触媒サイクルに関連づけられている。興味深いことに、最も広いpHプロファイルを有するSCのPEPは、弱塩基性条件において最大速度の顕著な上昇を示した。
【0104】
PEPの安定性
経口投与される治療用タンパク質は、胃の酸性およびタンパク質分解性の環境から保護されるように製剤化することができるが、PEPの固有の酸安定性は、セリアックスプルーの治療薬としての使用に望ましい特徴である可能性が高い。したがって本発明者らは、各PEPの活性が、1.6〜3.9の選択されたpH値における10分間のインキュベーション後に完全なまま留まる規模を評価した。このpH範囲内では、FMのPEPは、その当初の活性の50〜70%を保持しており;MXのPEPは、70〜90%の活性を保持しており;およびSCのPEPは、30〜80%の活性を保持していた。したがって、いずれのPEPも中程度に酸安定であるようであるが、MXのPEPが最も可変性に富む。治療効果は、十二指腸中に分泌される膵臓プロテアーゼとともに、PEPのグルテンに対する作用を必要とすると考えられるので、胃および膵臓の両酵素に対するFMのPEPおよびMXのPEPの耐性を評価した。これに関して本発明者らは、酵素を生理学的量のペプシンとともに(pH 2)、またはトリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、およびカルボキシペプチダーゼAを含むカクテル(pH 6.5)のいずれかとともにプレインキュベートした。図2からわかるように、FMとMXのPEPはいずれも、ペプシンが触媒するタンパク質分解に対する感受性が高い一方で、生理学的量の膵臓酵素の存在下における分解に対して顕著に安定なようである。
【0105】
基質としてPQPQLPYPQPQLPを使用した速度論的解析
免疫原性ペプチドPQPQLPYPQPQLPはγ-グリアジン中に繰り返し出現する配列であり、ならびに胃および膵臓のプロテアーゼによるタンパク質分解に耐性を示す。このペプチドは、腸の刷子縁のペプチダーゼによる消化に対する耐性も高く、ジペプチジルカルボキシペプチダーゼI(DCP1)のみが同ペプチドに作用可能である。このペプチドがPEPで処理されると、内部のプロリン残基において切断され、刷子縁のアミノペプチダーゼの新しい認識部位が生じる。したがって(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLPはPEPの特異性を探るための良好な試験用基質となる。
【0106】
(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLPならびに競合基質としてSuc-Ala-Pro-pNAを含むアッセイ法用混合物を対象に、各PEPのkcat/KM値を決定した。両基質の消失速度は、独立した検出法で決定した。(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLPの消失の初期速度はHPLCで評価し、Suc-Ala-Pro-pNAの消費速度は分光光度的に測定した。FMとMXのPEPはいずれも、色素生産性の基質と比較して、グルテンペプチドに対して5倍高い特異性を有していた一方で、SCのPEPは、グルテンペプチドに対する特異性に7倍の上昇を示した(表2)。この特異性の昂進は、より長いペプチドが、触媒部位に追加的な係留部分を提供する可能性があることを示唆している。これは、Ala-Pro-pNA(N末端のスクシニル基またはカルボキシベンジル基を欠く)が、いずれのPEPとも反応しなかったという観察と一致する仮説である。
【0107】
各PEPによる(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLPの加水分解の領域特異性を解析するために、初期時点に対応する試料をLC/MS/MSでさらに解析した。図3A〜3Dに示す結果から、各PEPが固有のサブサイト選好性を有することがわかる。FMのPEPによる好ましい切断部位は、(SEQ ID NO: 11) PQPQLPPYP|QPQLPの位置に見られるが、MXのPEPは同じペプチドをもっぱら(SEQ ID NO: 11) PQPQLP|YPQPQLPの位置で切断する。SCは、どちらの切断部位に対しても同等の選好性を示した。全ての酵素がペプチドを、配列中央付近に位置するプロリンで優先的に切断した。この事実は、DPP IVなどのプロリン特異的エキソペプチダーゼとの機能上の差を明瞭に示している。
【0108】
鎖長の寛容性および選択性
セリンプロテアーゼファミリーに由来するプロリルエンドペプチダーゼは、潜在的基質の鎖長に制限されることが示唆されている。この仮説を、今回検討した3種類の細菌PEPに関して検証するために、本発明者らは、コムギのグリアジンに由来する生理学的に重要な33merペプチドの配列

に対する、その加水分解活性を比較した。FMのPEP(0.1μM)は、10μMの33merを約2〜3分で加水分解可能であったが、SCのPEPは同等のエンドポイントに至るまでに1時間を超える時間を必要とした。初期速度を元に、FMのPEPが33merに対してMXのPEPより5倍速く作用し、およびSCのPEPより20倍を超えて速く作用すると推定された。したがってSCのPEPは、長いペプチド基質に対して厳密な鎖長限界を有すると考えられる。
【0109】
FMおよびMXのPEPによる33merの加水分解に由来する中間体および生成物をLC/MS/MSで解析した(図4B〜C)。いくつかの特徴が注目に値する。第1に、比較的初期の時点でも、MXのPEPの消化生成物はもっぱら短い断片である一方で、FMのPEPの消化は、

などの長い中間体の有意なプールを生じた。したがって、両PEPとも33merを効率的にタンパク質分解可能であるが、この複合基質に対する加水分解パターンは明瞭に異なる。特にMXのPEPは連続移動的であるように思われる(すなわち個々の33mer基質分子に対して、放出に先立って鎖中の全ての好ましい部位を逐次的に切断する)か、または同酵素が、より短い鎖の基質に対して強い傾向を有するかのいずれかのようである。2種類の酵素によって生じたC末端の断片が異なることも注目に値すると言える(FMのPEPの場合のはQPQPF、およびMXのPEPの場合はYPQPQPF)。この知見は、(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLPの消化に関して観察されたサブサイト選好性と矛盾しない。
【0110】
3種類の酵素の鎖長選択性を直接調べるために、本発明者らは、

を各PEPと同時にインキュベートした(図6A〜C)。SCのPEPもMXのPEPも13merのペプチドに対して明瞭な選好性を示したが、FMのPEPは両ペプチドに対して同等の選択性を示した。
【0111】
基質選好性をさらに評価するために、(SEQ ID NO: 11) PQPQPLPYPQPQLPおよび33merを、ペプシンで処理したグルテンと混合し、ならびにBBMおよびFMのPEPまたはMXのPEPのいずれかの存在下で膵臓酵素と反応させた。HPLCのトレース(図6A〜B)に見られるように、33merの保持時間が最も長く、(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLPおよび他の中間の長さのグルテンペプチドは早く溶出された。この場合もFMのPEPは、(SEQ ID NO: 11) PQPQLPYPQPQLP、33mer、および他のグルテンペプチドを同等の速度でタンパク質分解した(図6A)。MXのPEPの消化に関しては、PQPQLPYPQPQLP、および他の、より短いペプチドは速やかに分解された(10分で)が、33merの加水分解は、より遅い速度で生じた(図6B)。
【0112】
インビボにおける加水分解
完全な小腸におけるペプチド消化に関する上記の生化学的観察の意味を検証するために、各PEPをラットの空腸で33merのペプチド基質とともに同時に灌流し、および潅流部分(point of perfusion)から15〜20 cmの距離で回収した溶出液を解析した。この生きている動物のモデルで、灌流された(管腔)PEP、および刷子縁(表面)のペプチダーゼの協調作用の影響を評価する。上記のインビトロで得られた結果からわかるように、BBM酵素が33merを不十分に切断した一方で、FMのPEPは、MXおよびSCのPEPの両方と比較して33merの、より完全な分解を促した(図7)。PEPの50〜500μU/μlの用量範囲内で、33merの加水分解の規模はPEPの用量増加に伴って拡大し、高用量のPEPが、哺乳類の腸内におけるグルテンの分解を加速する可能性があることがわかる。
【0113】
グリアジンペプチドの強い抗原性が、その例外的な消化耐性に関連づけられた最近の知見に関しては、プロリルエンドペプチダーゼが、セリアックスプルーの経口療法に潜在的に興味深いファミリーの酵素であると同定された。これらの酵素の酵素学的特性を理解することは、このような使用に不可欠である。上述の試験で、3種類の細菌供給源に由来するプロリルエンドペプチダーゼを選択し、大腸菌で組換えタンパク質として発現させ、ならびに続いて精製して、および特性を解析した。これらの酵素のうち2種類(フラボバクテリウム・メニンゴセプチカムに由来する酵素とスフィンゴモナス・カプスラータに由来する酵素)は既に報告されており、第3の酵素(ミクソコックス・ザンサスに由来する酵素)は、プロリルエンドペプチダーゼファミリーの新しい酵素である。
【0114】
これらの酵素のエンド型タンパク質分解特性を調べるためには、内部に切断部位を有するペプチド基質を使用することが重要である。Z-Gly-Pro-pNAもしくはSuc-Ala-Pro-pNAなどのモデル基質は、プロリルエンドプロテアーゼの同定および特性解析に頻繁に使用されているが、これらの基質だけでは、エンドペプチダーゼを相互に、またはプロリン特異的なアミノペプチダーゼ(ジペプチジルペプチダーゼIV (DPP IV)など)と区別するための適切な知見は得られない。セリアックスプルーに関しては、2種類のペプチド

が、プロリルエンドペプチダーゼの基本特性を調べるために、ならびにグルテンを無毒化する能力に有用なプローブであると認識されている。ペプチドPQPQLPYPQPQLPは、セリアックの腸内におけるT細胞が関与する対グルテン応答における免疫優性的な役割を果たすことが明らかとなっているγ-グリアジン中に見出されるエピトープを含む。これは、胃または膵臓のいずれのプロテアーゼによっても切断されず、および腸の刷子縁膜(BBM)のペプチダーゼによる消化に対して高度に耐性を示し、ジペプチジルカルボキシペプチダーゼIのみが極めて限られた速度で作用可能である。したがって、このペプチドの腸内代謝の効率は、本研究で検証されたように、外因性プロリルエンドペプチダーゼの存在下では改善すると推定することができる。このペプチドをPEPで処理すると、内部のプロリン残基で切断され、刷子縁アミノペプチダーゼ用の新しい認識部位が生じる。したがってPQPQLPYPQPQLPは、PEPの特異性の良好なプローブである。
【0115】
33merのグリアジンペプチド

を、これらの研究のための相補性プローブとして選択した。なぜならこれは安定であり、生理学的に得られた胃および膵臓におけるγ-グリアジンの消化生成物であり、および、過去に検討された、ほぼ全てのセリアックスプルー患者に由来するグルテン反応性のT細胞の増殖を強く刺激するからである。したがって、この33merのペプチドのエンド型のタンパク質分解は、外因性のPEPに関して特に取り組みがいのある目的である。他の大半の抗原性グルテンペプチドと同様に、この33merは複数のプロリン残基を含み、およびPEPに対して複数の切断部位を提示すると推定することができる。同時に、その多価性は、PEPの作用だけでは、同ペプチドの残存する全ての抗原性を除去する可能性が低いことを示唆する。したがって、PEPの作用および腸の刷子縁膜の内因性ペプチダーゼの組み合わせは、この長くてプロリンに富むペプチドの免疫学的な中和および食物の同化に必要である。
【0116】
2種類のグリアジンペプチドに対する3種類の細菌由来のPEPの分子認識特性に関する本発明者らの調査から、これらの酵素の少なくとも2つの興味深く、かつ潜在的に重要な特徴が判明した。その1つは、今回検討した全3種のPEPは、標準色素生産性基質に対して高い特異的な活性を示したが(表1)、鎖長特異性には顕著な差が見られたことである(図3A〜C)。SCのPEPおよびMXのPEPは、FMのPEPと比較してPQPQLPYPQPQLPに高い特異性を示したが(表2)、より長い33merのグリアジンペプチドに関しては、特にSCのPEPの場合は逆も真であり、33merに対する活性は極めて低かった(図4A)。
【0117】
構造的および生化学的な解析から、PEPの活性が30アミノ酸未満の残基を含む基質に制限されることが提案されている。33merのペプチドに対するMXのPEP、および特にFMのPEPの良好な活性については驚きである。FMのPEPの鎖長寛容性の広さは、競合的なインビトロおよびインビボにおけるアッセイ法で明瞭に証明されており、FMのPEPは、より長い、および、より短い基質を同等の速度で切断可能であった。もう1つは、両グリアジン基質に由来する主要タンパク質分解産物の配列解析の結果、PEPが、より長い反復性の配列に関して明瞭なサブサイト特異性、ならびに領域特異性を有することが判明したことである。例えばFMのPEPはもっぱらPQPQLPYP|QPQLPで切断するが、MXのPEPはPQPQLP|YPQPQLP部位を好み、およびSCのPEPは、いずれの部位に対しても同等の活性を有していた。
【0118】
同様に、33merペプチドの初期加水分解産物の配列解析は、FMのPEPとMXのPEP間に領域化学的な差があることを強調していた。MXのPEPの処理は、大半が4〜5残基の断片を生じたが(おそらく両端から逐次的切断)、FMのPEPは、より長い中間体(おそらくペプチドの中央付近における優先的な切断の結果)を生じた。したがって、これらの酵素の活性部位は明らかに異なり、セリアックスプルー患者を対象とした、食物中のグルテンの無毒化における、これらの酵素の使用に潜在的な意味がある。
【0119】
本発明者らは、基質特異性の解析に加えて、本発明者らの一連の3種類のPEPの他の治療的に重要な特性の調査も行った。このような特性は、酵素活性のpH依存性、タンパク質の酸耐性、ならびに胃、膵臓、および腸のプロテアーゼ/ペプチダーゼによる不活性化に対する耐性を含む。いずれの酵素も、上部小腸の軽度に酸性の環境(pH 6〜6.5)に良好にマッチするpH活性プロファイルを有する。また、酸曝露ならびに膵臓プロテアーゼ(ペプシンではない)の作用に対して中程度に安定であるようでもあり、なかでもMXのPEPが最も安定である。これらの酵素は、ラットの完全な小腸内腔における活性も保持し、腸分泌物ならびに刷子縁膜のペプチダーゼの両方に対して安定であることを意味する。最後に、これらの酵素の発現レベルは、組換え大腸菌内では有意に異なる。具体的には、FMのPEPと比較してSCおよびMXのPEPの発現レベルは実質的に高かった。
【0120】
ブタの脳のPEPは、タンパク質分解を調節すると考えられる、通常とは異なるβ-プロペラドメインを含む2ドメイン構造を有する。この構造的に特徴的なPEPと、FM、MX、およびSCのPEP間の対での配列アラインメントの結果、同一性(類似性)はそれぞれ39%(49%)、36%(45%)、および40%(48%)であることが判明している。これらのアラインメントは、細菌のPEPが触媒ドメインおよびβ-プロペラドメインを含むことも示唆している。これらの活性部位は2つのドメイン間の界面の近傍に位置すると推定されるので、ドメイン間の界面における変異誘発はタンパク質の動態を変化させ、および基質寛容性および基質特異性に影響すると考えられる。
【0121】
上記の結果は、PEP酵素のタンパク質工学上の取り組みの基礎となるものである。このファミリーのセリンプロテアーゼは、cDNAの配列は決定されているが遺伝子産物は未だ明らかにされていない他の数多くの推定ホモログを含む。本研究の一環として発現されて初めて特性が解析された、MXのPEPの好ましい特性に鑑みて、これは追加的な野生型酵素のスクリーニングに有用であると考えられる。
【0122】
実施例2
ラクトバチルス(Lactobacilli)におけるPEPの異種発現
本発明の1つの態様では、セリアックスプルーの患者に、本発明のPEPを発現するように修飾された組換え生物が提供される。このような組換え生物は、患者に悪影響を及ぼすことなく腸粘膜にコロニーを形成可能なために、患者へのPEPの内因的な供給源となる生物から選択される。1例として、ラクトバチルス・カセイ(L. casei)およびラクトバチルス・プランタリウム(L. plantarium)などのラクトバチルスは腸粘膜にコロニーを形成して、PEP酵素を局所的に分泌可能である。食品加工に広範囲に使用されていることを考えれば、これらは、産業(食品加工)、および医学(薬学的製剤用のPEPの調製)における使用に効率的なPEP供給源としても使用可能である。PEPは、このようなラクトバチルスでは、標準的な組換えDNA技術を使用して発現される。例えばShawら(Straw, DM, Gaerthe, B; Leer, RJ, Van der Stap, JGMM, Smittenaar, C.; Den Bak-Glashouwer, Heijne, MJ, Thole, JER, Tielen FJ, Pouwels, PH, Havenith, CEG (2000) Immunology 100, 510-518)は、破傷風毒素を細胞内で発現する、および表面結合状態で発現するラクトバチルス種を作製した。完全なPEP遺伝子(効率的な細菌分泌用のリーダー配列を含む)を、それぞれ(調節可能な)アミラーゼプロモーターまたは(構成的な)乳酸デヒドロゲナーゼプロモーターの制御下で、pLP401またはpLP503などのシャトル発現ベクターにクローニングする。または、組換え食品グレードのラクトバチルス株が、部位特異的な組換え技術で作製されている(例えば、Martin MC, Alonso, JC, Suarez JE, and Alvarez MA Appl. Env. Microbial. 66, 2599-2604, 2000を参照)。ラクトバチルスの発酵には、Martin et al.に記載されているような標準的な培養条件が用いられる。
【0123】
実施例3
酵母におけるPEPの異種発現
天然の細胞および組換え細胞の両方、ならびに生物体を、本発明の実施に有用なグルテナーゼを産生させるために使用する。好ましいグルテナーゼおよび産生細胞は、フラボバクテリウム、アエロモナス、スフィンゴモナス、ラクトバチルス、アスペルギルス、キサントモナス(Xanthomonas)、パイロコッカス、バチルス、およびストレプトマイセス(Streptomyces)などの一般に安全であることが知られている生物に由来するものを含む。細胞外グルテナーゼ酵素は、アスペルギルス・オリザおよびラクトバチルス・カセイなどの微生物から得られる場合がある。好ましい細胞は食品の作製で既に使用されているが、本発明の実施に有用なグルテナーゼを発現するように修飾された細胞を含む。1例として、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)などの酵母株は、分泌型の異種タンパク質の高レベルの発現に有用である。上記の任意のPEP(成熟タンパク質のみ)をコードする遺伝子を、分泌型タンパク質の最適な産生用に設計された発現プラスミドにクローニングする。このような異種発現戦略の一例は、Parekh, R.N. and Wittrup, K.D. (Biotechnol. Prog. 13, 117-122, 1997)に記載されている。自己複製型のベクター(例えば2μm)、または組込型のベクター(例えばpAUR101)のいずれかを使用することができる。GAL1-10プロモーターは誘導型プロモーターの1例であり、ADH2プロモーターは構成的プロモーターの1例である。成熟PEPをコードするcDNAを、シグナル切断部位およびKex2p切断部位を含む合成プレプロ領域を含むリーダー配列の下流に融合させる。出芽酵母BJ5464は、ペプチダーゼを産生させるための宿主として使用することができる。振盪フラスコ発酵の条件は、既に引用した文献、Parekh and Wittrupに記載されている。または、高細胞密度の流加(fed-batch)培養をペプチダーゼの大規模生産に使用することが可能であり;この目的の代表的な手順は、Calado, C.R.C, Mannesse, M. , Egmond, M. , Cabral, J.M.S. and Fonseca, L. P. (Biotechnol. Bioeng. 78, 692-698, 2002)に記載されている。
【0124】
実施例4
プロリルエンドペプチダーゼの腸溶カプセル製剤
ゼラチンカプセルに100 mgのミクソコックス・ザンサスのプロリルエンドペプチダーゼ、および10 mgの二酸化シリコンを充填する。このカプセルにEudragitポリマーで腸溶コーティングを施し、および真空チャンバー内で72時間置く。次にカプセルを、10℃〜37℃の温度範囲、および35〜40%の制御湿度レベルにおく。
【0125】
実施例5
プロリルエンドペプチダーゼの腸溶カプセル製剤の試験
セリアックスプルー患者が2週間の試験に動員される試験を実施する。10%二酸化シリコンを混合した90%のミクソコックス・ザンサスのプロリルエンドペプチダーゼを含むゼラチンカプセルを使用する。カプセルに同混合物を手作業で充填し、嵌め合わせ(banded)、および10% シュレテリック(Sureteric)腸溶コーティング剤(Merck & Companyのカナダの子会社が開発したフタル酸ポリビニルアセテートのポリマー)でコーティングする。胃の酸性環境を再現する目的で、試料を酸で処理し、コーティング剤を1 N HClに1時間、曝露する。次に、このカプセルを真空チャンバー内に72時間おく。
【0126】
2個の100 mgのカプセル剤を、各患者に食事前に服用してもらう。患者は、不快感、例えば膨満感、下痢、および腹痛を引き起こすことが知られているものを控えることなく、食事を全て食べるように指示される。
【0127】
実施例6
プロリルエンドペプチダーゼの腸溶丸剤製剤
400 mgのL-酒石酸、および40 mgのポリエチレングリコール-水素化ヒマシ油(HCO-60)を5 mlのメタノールに溶解する。この溶液を、事前に30℃に温めておいた乳鉢に移す。同溶液に100 mgのミクソコックス・ザンサスのプロリルエンドペプチダーゼを添加する。PEPを添加した直後に、暖気(40℃)中で混合物を乳棒で攪拌し、および次にデシケーター内に移して、真空下で一晩静置して溶媒を除去する。結果として得られた固体塊を乳棒で微粉化し、ならびに30 mgの炭酸水素ナトリウムおよび少量の70%エタノールとともに練る。次に同混合物を分割し、およびサイズが約2 mmの丸剤に成形し、ならびに十分乾燥させる。腸溶製剤を得るために、乾燥後の丸剤にフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HP-55)によるコーティングを施す。
【0128】
実施例7
エンドプロテアーゼの活性
オオムギ(Hordeum vulgare subsp. vulgare)に由来するエンドプロテアーゼの遺伝子(EPB2; PubMedアクセッション番号U19384、ヌクレオチド94〜1963)をpET28b(Invitrogen)ベクターに、BamHIおよびEcoRI挿入部位を使用してサブクローニングし;結果として得られたプラスミドをpMTB1と命名した。不活性な43 kDaのプロタンパク質型のEPB2を、BL21大腸菌細胞の細胞質中でpMTB1から発現させた。同プロタンパク質を、7 M尿素を使用して封入体から可溶化した。可溶化タンパク質をNi-NTAカラムで精製した。プロEPB2の、成熟した活性型への自己活性化は、クエン酸-リン酸緩衝液、pH 3(0.1 Mクエン酸ナトリウムおよび0.2 Mリン酸ナトリウムを混合して調製されたもの)を添加することで達成された。このような酸性条件では、プロEPB2は、分子量が30 kDaの成熟型に速やかに変換する(図2)。72時間後までに成熟型EPB2は自己分解を起こす。N末端の配列決定の結果、N末端の配列がVSDLPで始まることが判明した。
【0129】
酸性条件下では、成熟型のEPB2は、セリアックスプルーの人々に免疫原性を有するペプチドの供給源である、精製したα2-グリアジンを効率的に消化する。システインプロテイナーゼ阻害剤ロイペプチンは同活性を阻害することから、その機構がシステインプロテアーゼであることが確認されている。プロEPB2の活性化およびα2-グリアジンの消化の至適pHは2.4〜3.5であり、したがって、プロEPB2の経口投与からなる、セリアックスプルーの治療が可能となる。
【0130】
実施例8
ミクソコックス・ザンサスのPEPの製剤化および有効性解析
ミクソコックス・ザンサスのPEPの凍結乾燥を以下の手順で実施した。実施例1に記載された手順でPEPを精製し、および7.7 mg/mlの初期濃度に、10K MWCO Pelliconダイアフィルトレーション膜(Millipore, PLCGC10, 50 cm, Cat. No. PXC010C50)を使用したクロスフロー(Tangential-Flow)濾過(TFF)で濃縮した。TFF(MilliporeのLabScale TFF (Cat. No. 29751)を使用)を約12時間かけて(50 psi(retentate)/30 psi(permeant)の圧力)、周期的に50 mMリン酸ナトリウム、3%ショ糖、pH 7.5の保存液に添加して実施した。次に、PEG-4000を標的濃度が1%となるように添加した。最終タンパク質濃度は70〜100 mg/mlとした。この材料を遠心分離した後に凍結乾燥した。凍結乾燥は、正方形のペトリ皿(Falcon Cat. No. 35-1112)内で、DuraStop凍結乾燥機中で、以下の表に記載されたパラメータを用いて実施した。典型的には、1 mgの凍結乾燥材料あたりに0.7〜0.85 mgのPEPが存在した。凍結乾燥中にPEPの比活性の喪失は認められなかった。

*P. 温度=段階終了時における平均生成物温度。
**1°=一次乾燥。
***2°=二次乾燥。
【0131】
ミクソコックス・ザンサスのPEPの混合を以下の手順で実施した。凍結乾燥した塊を微粉砕して軽粉末(light powder)とした。回収に関して全試料の重量を測定し、および密封した50 mLの円錐形バイアル内で4℃で保存した。混合物を以下の手順で調製した。混合した混合物に適切な流動性および崩壊性を得るために、賦形剤を選択した。

【0132】
凍結乾燥した酵素および賦形剤をV型ブレンダー内で数時間かけて混合した。次にこの材料を用いて腸溶コーティングが施されたカプセル剤または錠剤を作製した。100〜150 mgのM. xanthusのPEPを1個の硬ゼラチンカプセル、サイズ00(Capsugel)に充填することができる。または、酵素活性に影響しないVcapベジタブルカプセル(サイズ00、Capsugel)を使用することもできる。
【0133】
カプセル剤の腸溶コーティングに関しては、腸溶コーティング溶液を以下の手順で調製した。

【0134】
腸溶コーティング剤を、スターラープレート上のビーカー内で激しく混合した。次に同溶液をデカントしてスプレーボトルに移した。ラット用のカプセル剤を、20グループについてペーパータオル上に慎重に配し、および腸溶コーティング溶液をカプセルに吹き付けた。暖気を用いて、カプセルをある程度、乾燥させてから、乾燥したペーパータオル上に移し、30分かけて風乾させた後に、次のコーティング剤を吹き付けた。カプセルの全ての側面をカバーするために、計3つのコーティング剤を吹き付けた。これらを数時間かけて風乾させた後に、保存用の容器へ移した。腸溶コーティングの結果、PEPのある程度の活性は失われるが、活性の実質的な部分は保持され、かつ4℃における保存で少なくとも1か月は安定である。
【0135】
腸内送達のために酵素を製剤化する別の方法は、腸溶コーティングを施した錠剤である。錠剤は、上部小腸の弱酸性の環境で、より速やかに溶解するという利点を有する。錠剤のもう1つの利点は、カプセル剤の場合より多くの酵素を、より小さな体積に圧縮可能な点である。主な短所は、高圧下でタンパク質が高頻度で変性することである。ミクソコックス・ザンサスのPEPの錠剤調製の方法では、上記の同じように凍結乾燥された混合物を使用した。錠剤は3000 psiの打抜き強度(punch strength)を15秒間保つことで調製した。この過程で活性は失われず、同酵素の錠剤が有用であることが判明した。
【0136】
上述の腸溶コーティングが施された経口カプセル製剤の有効性を検討するために、2つのタイプの試験を実施した。インビトロ溶解試験を、Hanson SR8-Plus Dissolution Testerで、人工胃液(Simulated Gastric Fluid)(SGF; 2 g/L NaCl, pH 1.2、調整には6 N HClを使用)、および人工腸液(Simulated Intestinal Fluid)(SIF; 6 g/Lの一塩基リン酸カリウム、10 g/Lのパンクレアチン、pH 6.8を適宜使用、調整には5 N NaOHを使用)を使用して実施した。腸溶コーティングが施されたカプセル剤を最初に、37℃で最長2時間、SGFへの溶解に対する耐性に関して検討した。タンパク質の放出は認められなかった。続いて、カプセル剤を対象に同等の溶解試験をSIFを用いて37℃で行った。カプセル化材料の実質的な部分は15分で放出された。30分以内に材料は完全に放出された。
【0137】
カプセル剤のインビボ試験を、小型の硬ゼラチンカプセル(サイズ9のカプセル、Torpac)を用いてラットを対象に実施した。約16 mgの凍結乾燥製剤混合物を、約7 mgのPEPに対応する、それぞれ腸溶コーティングが施されたカプセル内に封入した。一晩絶食させたラットに、1個のPEPまたはプラセボのカプセル剤を、以下の手順で調製したグルテンシロップの測定量(300 mgグルテン/kg体重)とともに経口から強制補給的に投与した。300 gの市販のコムギグルテン粉末(Bob's Red Mill, Milwaukie OR)を10 Lの0.01 M HCl溶液に添加してpHを2.0とした。ペプシン(6.0 g, American Laboratories)を添加した。37℃で1時間のインキュベーション後に、35 mlの1 M HClを添加してpHを2.0に調整した。さらに37℃で2時間、維持した後に、溶液に35 gのNa2HPO4を添加して中和し、および10 M NaOH(32.5
ml)を用いてpHを7.9に調整した。次に、トリプシン/キモトリプシン粉末(3.75g)(Enzyme
Development Corp;トリプシンは1000 USP/mg、キモトリプシンは1000 USP/mg)を添加し、反応を37℃で2時間、pH 7.9で維持し(pHは1時間後に10 M NaOHを用いて7.9に再調整した)、および100℃に加熱して15分維持することで酵素を不活性化した。最終グルテン溶液をチーズクロスで濾過して、残存する大きな粒子を除去した。1個のPEPカプセルを与えた動物、および1個の偽カプセルを与えた動物を、それぞれ45分後および90分後に屠殺し、および小腸内容物を対象にグルテン量の解析をC18逆相HPLCで行った。クロマトグラムを、各試料中の全タンパク質量に関して標準化した。トップ=45分、ボトム=90分(緑色=プラセボ、青色=PEPカプセル)。
【0138】
グルテン由来のペプチドは20〜30分の領域に溶出される。45分ならびに90分の時点では、ペプシン-トリプシン-キモトリプシンで処理されたグルテンは、偽処理動物では、最小限で代謝されていたが、広範囲で代謝されると考えられる。総合すると、以上の結果は、腸溶コーティングが施されたPEPカプセル剤が胃内環境で分解されず、かつ小腸内において食品中のペプチドのタンパク質分解を触媒可能であることを意味する。
【0139】
本明細書で引用された全ての出版物、特許、および特許出願は、個々の出版物、特許、または特許出願が具体的かつ個別に参照により組み入れられると示されているように、参照により本明細書に組み入れられる。
【0140】
本発明を、本発明の実施に好ましい様式を含むように、本発明者らによって見出されたか、または提案された特定の態様に関して説明した。本出願に鑑みて、数多くの修正および変更が、本発明の意図された範囲から逸脱することなく、例示された特定の態様に成され得ることは当業者に理解されると思われる。さらに、生物学的な機能同等性に関する問題のために、方法、構造、および化合物に関して、種類または量に生物学的な作用に影響を及ぼすことなく、変更が成され得る。全てのこのような修正は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効用量のグルテナーゼおよび薬学的に許容可能な賦形剤を含む、セリアックスプルーおよび/または疱疹状皮膚炎の治療に使用される製剤。
【請求項2】
グルテナーゼがプロリルエンドペプチダーゼである、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
プロリルエンドペプチダーゼが、フラボバクテリウム・メニンゴセプチカム(Flavobacterium meningosepticum)のPEP、スフィンゴモナス・カプスラータ(Sphingomonas capsulata)のPEP、またはペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)のPEPである、請求項2記載の製剤。
【請求項4】
プロリルエンドペプチダーゼがミクソコックス・ザンサス(Myxococcus xanthus)のPEPである、請求項2記載の製剤。
【請求項5】
グルテナーゼがグルタミン特異的プロテアーゼである、請求項1記載の製剤。
【請求項6】
グルタミン特異的プロテアーゼが、オオムギ(Hordeum vulgare)のエンドプロテアーゼ、アスペルギルス・オリザ(Aspergillus oryzae)のX-Proジペプチダーゼ、またはアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)のカルボキシペプチダーゼである、請求項5記載の製剤。
【請求項7】
グルテナーゼが酸性条件で安定である、請求項1記載の製剤。
【請求項8】
経口投与に適している、請求項1記載の製剤。
【請求項9】
腸溶コーティング剤を含む、請求項1記載の製剤。
【請求項10】
ミクソコックス・ザンサスのPEPを少なくとも約50重量%含む組成物。
【請求項11】
ミクソコックス・ザンサスのPEPが少なくとも1 mg/mlの濃度で存在する、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
ミクソコックス・ザンサスのPEPをアフィニティクロマトグラフィーで精製する、請求項10記載の組成物。
【請求項13】
ミクソコックス・ザンサスのPEPが凍結乾燥されている、請求項10記載の組成物。
【請求項14】
ミクソコックス・ザンサスのPEPが薬学的単位用量で製剤化されている、請求項10記載の組成物。
【請求項15】
患者のグルテン毒性を減弱させる、有効用量のグルテナーゼを患者に投与する段階を含む、グルテン不耐性を治療する方法。
【請求項16】
グルテナーゼが請求項1〜9のいずれか一項記載の製剤で提供される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
グルテナーゼを食物と混合する、請求項15記載の方法。
【請求項18】
グルテン不耐性が、セリアックスプルーまたは疱疹状皮膚炎と関連する、請求項15記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−92125(P2012−92125A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−274450(P2011−274450)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【分割の表示】特願2007−510724(P2007−510724)の分割
【原出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(503115205)ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (69)
【出願人】(507158341)アルヴィン ファーマシューティカルズ インコーポレーティッド (5)
【Fターム(参考)】