説明

食品保存剤および食品の保存方法

【課題】特別な装置を必要とせずに製造可能であり、取り扱い性に優れ、食品に直接添加することができ、食品の味質に与える影響が少ない食品保存剤を提供する。
【解決手段】還元イソマルツロース結晶100重量部およびのエタノール5〜150重量部を含む抗菌性結晶粉末を提供する。本発明の抗菌性結晶粉末は、濃度50重量%以上のエタノール水溶液と還元イソマルツロース水溶液を混合し、晶析させることによって製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗菌性結晶粉末を提供する。本発明はさらに、該抗菌性結晶粉末を含有する食品保存剤およびこれを用いた食品の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールは人体に対して比較的安全性が高く、微生物に対する抗菌作用を有することから、従来から食品の保存性を改善するために利用されている。しかしながら、エタノールやエタノールを含有する製剤は通常液体として供給されるために流通過程において液漏れ等のトラブルが発生することがあった。またエタノールは揮発性が高いために保管の際には密閉容器が必要になるなど、粉末に比べ取り扱い性が悪かった。
このような背景からエタノールを糖類などの担体に担持させることにより取り扱い性を改善した粉末エタノールが知られている。
【0003】
特許文献1には無水乳糖に酒精(エタノール)を吸着させた粉末エタノールが記載されている。しかしながら、乳糖は一般的に結晶水を有しているため、担体として用いる無水乳糖を得るために噴霧乾燥等の方法により脱水処理する必要があり、設備投資や製造コストの上昇が避けられなかった。また、乳糖は還元性を有し、食品に添加する場合、食品中の成分と反応して着色を生じたり、味質や風味が損なわれる恐れがあるため、添加量を制限する必要があった。
【0004】
特許文献2にはエタノール20〜70重量部とソルビットまたはマンニットなどの糖アルコール80〜30重量部との混合物を50〜100℃で加熱溶解し、これを冷却粉砕して得られる粉末エタノール組成物が記載されているが、この粉末エタノール組成物を得るためには密閉空間で攪拌が可能で、且つ温度管理が可能な装置で行う必要があった。また、ソルビットやマンニットなどの糖アルコールはエタノールの担持力が弱く、乾燥状態ではエタノールが揮発してしまう傾向にあった。
【0005】
【特許文献1】特公昭44−21398号公報
【特許文献2】特開昭63−63777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特別な装置を必要とせずに製造可能であり、取り扱い性に優れ、食品に直接添加することができ、食品の味質に与える影響が少ない食品保存剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、濃度50重量%以上のエタノール水溶液と還元イソマルツロース水溶液を混合し、晶析させることにより得られる粉末状の結晶が、食品に不快な味質を与えることなく、食品の保存性を改善する効果があることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、還元イソマルツロース結晶100重量部に対し5〜150重量部のエタノールを含む抗菌性結晶粉末に関する。本発明はさらに、前記抗菌性結晶粉末を含有する粉末状食品保存剤、および粉末状食品保存剤を食品に添加することを特徴とする食品の保存方法を提供するものである。
【0009】
本発明の抗菌性結晶粉末は、還元イソマルツロース100重量部に対して、5〜150重量部のエタノールを含有するものである。本発明の抗菌性結晶粉末においてエタノールは、還元イソマルツロースの結晶中に成分として含まれるもの、および結晶表面に付着するものとからなる。還元イソマルツロース100重量部に対するエタノールの割合としては、10〜130重量部が好ましく、15〜110重量部含有するものが特に好適に用いられる。含有するエタノールの割合が5重量部を下回る場合は、添加する食品の種類または食品の保存状態によっては保存効果が不十分となる場合があり、150重量部を上回る場合は粉末の流動性が悪く、取り扱い難くなる傾向がある。
【0010】
本発明の抗菌性結晶粉末は、濃度50重量%以上のエタノール水溶液と還元イソマルツロース水溶液を混合し、晶析させることにより製造される。本発明の抗菌性結晶粉末を得るために特別な操作や装置は必要なく、濃度50重量%以上のエタノール水溶液と還元イソマルツロース水溶液を常温で混合し、晶析させればよい。
【0011】
濃度50重量%以上のエタノール水溶液としては、エタノール濃度80重量%以上のものがより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。エタノールは一般に食品工業用途に用いられているエタノールであればよく、一般的なアルコールの変性剤、例えば、フレーバーH−No.4、フレーバーH−No.9等を含有したものであってもよい。
【0012】
還元イソマルツロース水溶液は、市販されているものがそのまま使用できる。市販のシロップは濃縮あるいは希釈した後、使用してもよい。また、粉末あるいは結晶として市販されている固体の還元イソマルツロースを水に溶解して水溶液としたものであってもよい。
【0013】
還元イソマルツロース水溶液の濃度は、特に制限されないが、効率的に抗菌性結晶粉末が得られる点で、30〜80重量%が好ましく、50〜70重量%がより好ましい。
【0014】
還元イソマルツロース水溶液とエタノール水溶液は、エタノール水溶液1重量部に対して、好適には還元イソマルツロース水溶液0.1〜2重量部、より好ましくは0.5〜1.5重量部となるよう混合すればよい。
【0015】
還元イソマルツロース水溶液とエタノール水溶液の混合液中の還元イソマルツロースとエタノールの量比としては特に限定的ではないが、操作性の観点から還元イソマルツロース:エタノールの重量比が50:50〜1:99であるのが好ましい。エタノール量が多くなるほど製造コストが上昇することから、コスト面を考慮すると、より好ましい還元イソマルツロース:エタノールの重量比は40:60〜25:75程度であるといえる。
【0016】
エタノール水溶液と還元イソマルツロース水溶液の混合は、晶析を促すために攪拌しながら行うのが好ましい。晶析時間は特に限定的ではなく、十分な結晶の析出が認められた時点で終了すればよい。発生した抗菌性結晶は遠心分離等により、固体と液体を分離することで、特に粉砕等の工程を経ることなく、粉末として得ることができる。
【0017】
得られた粉末は、必要に応じて乾燥して用いてもよい。乾燥は棚式乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、流動層乾燥等の乾燥方法が採用できる。乾燥時の温度は得られた粉末が溶融あるいは溶解せず、かつエタノールの沸点以下の温度であればよい。例えば棚式乾燥法によって乾燥を行う場合、50〜60℃にて5〜120分間程度乾燥すればよい。乾燥条件を調節することによって、本発明の抗菌性結晶粉末に含まれるエタノールの量を調節することができる。
【0018】
本発明の抗菌性結晶粉末の粒子径は限定的ではないが、10〜1000μm程度が好ましく、20〜500μm程度がより好ましい。
【0019】
本発明の抗菌性結晶粉末は、さらに植物から抽出された天然抗菌性物質を含有するものであってもよい。本発明の抗菌性結晶粉末に植物から抽出された天然抗菌性物質を含有させる方法は限定されないが、例えば、濃度50重量%以上のエタノール水溶液に予め上記の天然抗菌性物質を溶解させておき、この親水性溶媒と還元イソマルツロース水溶液を混合し、晶析させる方法が挙げられる。前記方法により得られる抗菌性結晶粉末は、天然抗菌性物質がエタノールと同様に抗菌性結晶粉末内部に担持および/または結晶粉末表面に付着され、抗菌性が高まるため好ましい。天然抗菌性物質を含有する抗菌性結晶粉末における天然抗菌性物質の割合は、エタノール100重量部に対して1〜20重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0020】
天然抗菌性物質が抽出される植物としては、オレガノ、甘草、クローブ、セージ、茶、トウガラシ、ホップ、ローズマリー、カワラヨモギ、ヒノキ、モウソウチク、ワサビ、ニンニク、ユッカ、カラシ等が例示される。これら天然抗菌性物質は2種以上であってもよい。
【0021】
かかる天然抗菌性物質としては、水、エタノール、メタノール、グリセロール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ベンゼン、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、エチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ヘキサン、クロロホルム、ジクロルメタン等の溶媒を用いて抽出させたものが例示される。これらの中でも、エタノール、プロピレングリコール等のそのまま食品へ添加可能な溶媒を用いて抽出されたものがより好適に用いられる。
【0022】
本発明の抗菌性結晶粉末は、粉末状食品保存剤としてそのまま食品に添加することができる。本発明の食品保存剤には副成分を混合することもできる。副成分としては、有機酸、有機酸塩、アミノ酸、脂肪酸、塩基性蛋白・ペプチド等の粉末を挙げられる。有機酸としては酢酸、乳酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、アジピン酸、ソルビン酸等が挙げられる。有機酸塩としては前記有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。アミノ酸としてはグリシン、アラニン等が挙げられる。脂肪酸としてはカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等の炭素原子数8〜12の脂肪酸が挙げられる。塩基性蛋白・ペプチドとしてはプロタミン、リゾチーム、ε−ポリリジン、キトサン、ペクチン分解物、ナイシン等が挙げられる。副成分は2種以上であってもよい。
【0023】
これら副成分を含有する粉末状食品保存剤を得るために特別な操作は必要なく、各粉末を単に混合すればよいが、予め各粉末の粒径を揃えた上で混合すれば、食品中で偏析等を起こしにくいため、好ましい。
【0024】
本発明の粉末状食品保存剤の食品への添加方法としては、原材料と共に混合する方法の他に食品表面に付着させる方法が挙げられる。
本発明の粉末状食品保存剤の食品重量に対する添加量は、食品の種類や目的により異なる。本発明の粉末状食品保存剤を食品中へ混合する場合、保存剤の量は食品全重量の0.5〜20重量%程度が好ましく、1〜10重量%程度がより好ましい。本発明の粉末状食品保存剤を食品表面に付着させて用いる場合には、保存対象となる食品の表面上を覆うことができる量であればよい。
【0025】
本発明の粉末状食品保存剤が適用可能な食品としては特に限定されず、コロッケ、トンカツ、フライドチキン、魚フライ、唐揚げ等のフライ食品、ハンバーグ、肉団子、餃子、シュウマイ、ソーセージ等の食肉惣菜、パン、カステラ等のベーカリー製品、ケーキ、饅頭等の和・洋菓子類、イチゴ、サクランボ、ブドウ、メロン、スイカ、パイナップル、キュウリ、トマト等の青果物などの食品に適用できる。
【0026】
また、そば、うどん、餅、ドライフルーツ等の打ち粉、和洋菓子のデコレーションに使用される粉砂糖の代替物としても利用できる。
【0027】
打ち粉に使用される小麦粉や片栗粉など澱粉質は、非加熱状態では食品汚染の原因になり易いことから、これらの代替物としての利用は特に好ましい。また和洋菓子のデコレーション等に利用される粉砂糖には固結を防止するためにデキストリン等の澱粉質が添加されており、小麦粉や片栗粉と同様に食品汚染の原因となり易いため、粉砂糖の代替品としての利用も好ましい。また、代替品としてだけではなく、従来から用いられている小麦粉、片栗粉、粉砂糖等に本発明の粉末状食品保存剤を配合したものを打ち粉等として用いてもよい。この場合、本発明の粉末状食品保存剤の配合量は0.5重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましい。
【0028】
本発明の粉末状食品保存剤は適用する食品の種類や目的に応じて、粒子径を整えて使用してもよい。食品表面に付着させて使用する場合、付着性の点で粒子径は1000μm以下程度が好ましく、500μm以下程度がより好ましい。粒子径は10μm以上、特に20μm程度以上としたものが好適に用いられる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の粉末状食品保存剤を食品に添加することにより、食品の味質に与える影響を最小限に留めつつ、簡単に食品の保存性を改善することが可能となる。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明する。
[実施例]
【0030】
実施例1
室温にて92.5重量%エタノール水溶液650gを1000ml容ビーカーに投入し、固形分濃度60重量%の還元イソマルツロース水溶液250gを攪拌しながらビーカー内に滴下した。滴下終了後さらに10分間攪拌し、次いでビーカー内に発生した結晶を濾布(PP9B)を付したバケット型遠心機(SYK5000−15A,三陽理化学器械製作所製)を用いて、3500rpmで5分間遠心分離し、抗菌性結晶粉末(本発明品1)343gを得た。
得られた結晶粉末のエタノール量、還元イソマルツロース量、水分量を下記の方法で確認した。
エタノール量: エタノール測定キット(F−キット、ベーリンガー・マンハイム社製)を用いて測定。
還元イソマルツロース量:80℃、760torrの条件下で15時間乾燥させ、その重量を測定。
水分量:未乾燥結晶粉末重量より、エタノール量および還元イソマルツロース量を差し引くことにより算出。
結果を表1に示す。
【0031】
実施例2
実施例1で得られた抗菌性結晶粉末を60℃の恒温器内で2時間乾燥して抗菌性結晶粉末(本発明品2)を得た。本発明品2の組成を実施例1と同一の方法により確認した。結果を表1に示す。
【0032】
比較例1
ソルビトール粉末(特級試薬、99重量%)270g及びエタノール(特級試薬、99.5重量%)230gを1L容ステンレス容器に入れ、攪拌装置を備えた耐圧密閉オートクレーブ(AKICO製)内で85℃に加温して、1時間混合した。混合物を冷却した後、60℃の恒温器内で2時間乾燥して比較品1を得た。比較品1の組成を下記の方法で確認した。
エタノール量:実施例1と同一の方法
ソルビトール量:抗菌性結晶粉末を80℃、760torrの条件下で15時間乾燥させ、その重量を測定。
水分量:未乾燥結晶粉末重量より、エタノール量およびソルビトール量を差し引くことにより算出。
結果を表1に示す。
【0033】
比較例2
92.5重量%エタノール水溶液650gを1000ml容ビーカーに入れ、固形分濃度60重量%のソルビトール水溶液250gを攪拌しながらビーカー内に滴下した。その後1時間攪拌したが結晶は得られなかった。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例3、4および比較例3
試験方法
市販の食パンを約1/4にカットしたもの(重量=約14g)8個に対し、各々カビ(Aspergillus niger,4.0CFU/ml)を接種した後、実施例1および2で得られた本発明品を約0.4g(パン重量当たり約3%)ずつ表面に振り掛けて検体とした。各検体を30℃で3日間保存し、カビが生育した検体数を目視にて確認した。また比較例3として粉末状食品保存剤を添加せずに製造した検体8個を同様に保存し、カビの生育の有無を確認した。
【0036】
尚、粉末状食品保存剤は実施例1および2で得られたものを42タイラーメッシュ(目開き355μm)の篩を通して篩別したものを使用した。
【0037】
結果
本発明の粉末状食品保存剤を添加した食パンは全ての検体でカビの生育が抑制されていたが、無添加の食パンは全ての検体でカビの生育が確認された。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例5
イチゴ6個(重量=約80g)に対し、実施例2で得られた本発明品2を0.04g(イチゴ重量の約0.05%)振りかけて検体とした。2時間室温で放置した後、6名のパネラーにより官能検査を行った。官能検査は無添加品を対照として、異臭(エタノールの臭い)の有無を検査した。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元イソマルツロース結晶100重量部に対し5〜150重量部のエタノールを含む抗菌性結晶粉末。
【請求項2】
さらに植物から抽出された天然抗菌性物質を含有する請求項1記載の抗菌性結晶粉末。
【請求項3】
天然抗菌性物質が抽出される植物が、オレガノ、甘草、クローブ、セージ、茶、トウガラシ、ホップ、ローズマリー、カワラヨモギ、ヒノキ、モウソウチク、ワサビ、ニンニク、ユッカおよびカラシから選択される1種以上である請求項2記載の抗菌性結晶粉末。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の抗菌性結晶粉末を含有する粉末状食品保存剤。
【請求項5】
さらに有機酸、有機酸塩、アミノ酸、脂肪酸、塩基性蛋白および塩基性ペプチドから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項4記載の粉末状食品保存剤。
【請求項6】
濃度50重量%以上のエタノール水溶液と還元イソマルツロース水溶液を混合し、晶析させる工程を含む、請求項1記載の抗菌性結晶粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項4または5に記載される粉末状食品保存剤を食品に添加することを特徴とする食品の保存方法。
【請求項8】
請求項4または5に記載される粉末状食品保存剤が食品重量に対し、0.5〜20重量%添加された食品。
【請求項9】
請求項4または5に記載される粉末状食品保存剤を含む打ち粉または粉糖。

【公開番号】特開2008−61520(P2008−61520A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240286(P2006−240286)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】