説明

食品保存空間の酸素濃度調整方法

【課題】イオン導電性の高分子固体電解質膜を用いた酸素濃度調整手段により、食品保存空間の酸素濃度を低減する場合、酸素センサを用いて酸素濃度の調整を行うと、酸素センサが高価であるために、コスト高となるという課題があった。
【解決手段】酸素濃度調整手段に流れる電流値の積分値Aiから食品保存空間の酸素濃度Xiを算出し、これと目標酸素濃度との関係から、酸素濃度調整手段off(作動を停止する)とする時期を判断する制御方法を用いる。酸素センサを用いなくても、食品保存空間の酸素濃度調整が、低コストで可能となる効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等を保管する雰囲気の酸素濃度調整を可能とする冷蔵庫等の保管庫の酸素濃度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品を長期保存する方法としては、凍結保存が一般的である。しかし、凍結保存することにより、食品の組織が破壊され、食肉などでは、解凍時のドリップの流出により味覚の低下が生じることも否めない。
【0003】
また、凍結保存は調理をする際に解凍の手間が生じる欠点がある。また、長期保存のための手段として酸素濃度を低減させる方法も考案されており、食品の油脂の酸化や変色を防止することが可能である。
【0004】
そのための有力な脱酸素技術として、高分子固体電解質膜による電気化学的な酸素濃度調整手段が知られており、これを用いた冷蔵庫が提案されているが(特許文献1)実用化には至っていない。
【0005】
この方法では、以下に示す素子を用いる。素子の構造は、カチオン伝導性の高分子固体電解質の両側に白金などの触媒層が設けられ、そのさらに両側に給電極を設けたものである。給電極に電圧を印加することで、陽極側で、水が分解され酸素と水素イオンが発生し、このうち発生した水素イオンは高分子固体電界質中を陰極側に移動する。陰極は脱酸素すべき空間に面しており、前記空間内の酸素が、陽極から移動した水素イオンと反応して水を生成する。見かけ上、陰極側の酸素が減少し、陽極側の酸素増加するため、酸素ポンプとして作用し、陰極側の酸素濃度を低減することが可能である。
【0006】
また、カチオン伝導性の高分子固体電解質の代わりに、アニオン伝導性の高分子固体電解質を用いた酸素濃度調整手段も知られており、その場合は、陰極側で、水とともに酸素が還元されて水酸イオンを生じ、これが印加された電界によって高分子固体電解質中を、陰極から陽極へ移動し、陽極で酸化されて、酸素と水を生じる。従って、アニオン伝導膜の場合も、陰極から陽極へ酸素がポンピングされる(特許文献2)。
【0007】
また、酸素濃度の調整方法としては、酸素ポンプを作動させて食品保存空間の酸素濃度を低減し、その際、食品保存空間内の酸素濃度を酸素センサによって検知し、低下し過ぎた場合には、酸素ポンプを停止して、外部からの空気を導入する方法が開示されている(特許文献3)。
【0008】
また、高分子固体電解質を用いた酸素濃度調整手段は、カチオン性、アニオン性にかかわらず、その脱酸素速度、酸素富化速度が雰囲気の湿度に強く依存し、定電圧を印加して駆動させた場合、湿度の変化により脱酸素速度が大きく変動することが知られている。
【特許文献1】特開2005−48977号公報
【特許文献2】特開平10−100028号公報
【特許文献3】特開2008−134054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の高分子固体電解質を用いた酸素濃度調整手段により、食品等を保管する陰極側の空間の酸素を除去して酸素濃度を低減する場合、空気中の酸素濃度の1/2〜1/4の濃
度にしなければ、明確な効果が得られない。しかし、高分子固体電解質がカチオン伝導性の場合には、酸素濃度を低減するために酸素濃度調整手段を作動させ続けると、空気中の酸素量に対して過剰の水素イオンが供給される場合があり、その場合、酸素濃度がほぼ0となり、過剰の水素イオンから水素生成し、爆発等の可能性が生じることが課題となっている。また、高分子固体電解質がアニオン伝導性の場合には、過剰の水素イオン供給による水素発生は生じないが、酸素濃度がほぼ0になることにより、保管される食品が野菜の場合には、無酸素呼吸により劣化が進行するという課題があった。
【0010】
一方、酸素濃度を酸素センサによりモニターして、酸素濃度に応じて酸素濃度調整手段を作動させることによって、上記問題は解決可能であるが、酸素センサが高価であるために、低コストで実現することが困難であるという課題があった。
【0011】
以下で水素放出のメカニズムと、プロトンの過剰供給を回避することが困難な理由を説明する。
【0012】
まず、水素放出のメカニズムに関しては以下の通りである。
【0013】
脱酸素が進み酸素濃度が0になった場合でも、酸素濃度調整手段に電圧が印加されている限り、陽極から陰極へは水素イオンの供給は継続する。この水素イオンは、本来酸素と反応するはずであるが、その酸素がないため、陰極で還元され水素となり、陰極側の空間に放出される。
【0014】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、食品等を保存する空間への水素放出と、野菜の無酸素呼吸とを回避し、目的の酸素濃度での食品保存を安全に低コストで実現する冷蔵庫等の保管庫を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来の課題を解決するために、本発明の食品保存空間の酸素濃度調整方法は、陽極及び陰極に挟持されたイオン伝導性を有する固体高分子電解質膜を含んでなる酸素濃度調整手段と、前記酸素濃度調整手段を用いることで酸素濃度調整が可能な食品保存空間とを有する保管庫における、前記食品保存空間の酸素濃度制御方法であって、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加して前記酸素濃度調整手段に電流を流し、前記電流の積分値から脱酸素量を算出し、前記食品保存空間内の初期酸素量と前記脱酸素量とから酸素濃度調整手段の停止時期を決定することを特徴とするものである。
【0016】
酸素濃度調整手段に流れる電流の積分値により脱酸素量が算出可能であるため、初期の食品保存空間内の酸素量をもとに、食品保存空間内の酸素濃度が算出できる。算出した酸素濃度に達した際に、酸素濃度調整手段を停止させれば、目標の酸素濃度が実現され、脱酸素時の水素イオンの過剰供給は起こらず、水素の放出が回避される。また、酸素濃度が0になることもなく野菜の無酸素呼吸による劣化も進行しない。結果として、目的の酸素濃度を低コストで安全に実現可能とする効果が得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の酸素濃度を調整する保管庫では、酸素濃度がほぼ0になる野菜の無酸素呼吸による劣化は起こらず、また、水素イオンの過剰供給も起こらず、水素の放出が回避されるために、食品が保存される空間を安全に効率よく低コストで目的の酸素濃度とすることが可能である。この結果、安全に食品をより長期間高品位な状態で保存することが低コストで可能となる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
第1の発明は、陽極及び陰極に挟持されたイオン伝導性を有する固体高分子電解質膜を含んでなる酸素濃度調整手段と、前記酸素濃度調整手段を用いることで酸素濃度調整が可能な食品保存空間とを有する保管庫における、前記食品保存空間の酸素濃度制御方法であって、
前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加して前記酸素濃度調整手段に電流を流し、前記電流の積分値から脱酸素量を算出し、前記食品保存空間に通じる空間内の初期酸素量と前記脱酸素量とから酸素濃度調整手段の停止時期を決定することで構成される。
【0019】
脱酸素量は、酸素濃度調整手段に流れる電流の積分値で決まる。このため、初期の食品保存空間の容積がわかっていれば、酸素濃度を酸素センサを用いて検知することなく酸素濃度を算出することが可能となる。さらに、算出された酸素濃度が目標の酸素濃度に達した時点で、酸素濃度調整手段の作動を停止することで、酸素センサを用いず、低コストで食品保存空間の酸素濃度の調整が可能となる効果が得られる。また、この際、食品保存空間の酸素に対して過剰の水素イオン供給は起こらず、水素イオンは全て酸素と反応して水となる。こうして、水素の放出は回避され、安全な、酸素濃度調整と食品の高品位な状態での保管が可能となる効果が得られる。
【0020】
第2の発明は、特に、第1の発明において、酸素濃度調整手段に流れる電流値を一定とする構成を有する。
【0021】
酸素濃度調整手段に流れる電流値が一定となることで、電流の積分値の算出が電流の値と電流が流された時間との簡単な積となり、複雑な積分をする必要がなく、回路への負荷を減らし、より低コストで食品保存空間の酸素濃度の調整が可能となる効果が得られる。
【0022】
第3の発明は、特に、第2の発明において、酸素濃度調整手段に流れる電流を定電流制御する際に、前記酸素濃度調整手段に印加される電圧が許容最大値を越えた場合には、前記定電流制御する電流値を低下させることで構成される。
【0023】
電流値を一定に保つために酸素濃度調整手段に印加される電圧が高くなりすぎると、長時間経過するうちに、触媒の溶解等の劣化が進み、電流値が低下するとともに、脱酸素速度が低下し、長期の信頼性が確保できなくなる。要求される耐久性(特性を確保したい時間)により許容電圧が決まってくる。
【0024】
一方、雰囲気の相対湿度が低くなると、固体電解質のイオン電導度が低下し、抵抗が増大するため、定電流制御のもとでは印加される電圧が上昇する。例えば、保管庫の扉を開くこと等により温度が上昇し相対湿度が低下すると、電圧が増大する。この場合、湿度が低下しすぎると印加電圧が許容最大値を超え、上述の劣化が進みやすくなる。
【0025】
これに対し、上記の酸素濃度調整手段に印加される電圧が許容最大値を越えた場合に、前記一定の電流値を低下させる構成をとることにより、電圧を許容値以下に調整できるため、長期の信頼性が確保される効果が得られる。
【0026】
第4の発明は、特に、第2あるいは第3の発明において、酸素濃度調整手段に流れる電流を定電流制御する際に、前記酸素濃度調整手段に印加される電圧が許容最大値を下回った場合には、前記定電流制御する電流値を増大させることで構成される。
【0027】
雰囲気の相対湿度が高くなると、固体電解質のイオン電導度が上昇し、抵抗が減少するため、定電流制御のもとでは印加される電圧が低下する。例えば、開いていた保管庫の扉を閉じた際には、温度が低下に伴い相対湿度が上昇し、印加電圧は低下する。
【0028】
酸素濃度調整手段に流れる電流値は、雰囲気の相対湿度が高ければ大きくなるため、雰囲気の温度低下等により相対湿度が上昇すると、電流値の上昇を回避するために印加される電圧は低下する。
【0029】
これに対し、酸素濃度調整手段に印加される電圧が許容最大値を下回った場合には、前記定電流制御する電流値を増大させる構成を有することで、より効率よく酸素濃度の調整が可能となる効果が得られる。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0031】
(実施の形態1)
本実施の形態では、脱酸素補助容器を有する保管庫を例に、脱酸素時における本発明の「電流の積分値から脱酸素量を算出し、前記食品保存空間に通じる空間内の初期酸素量と前記脱酸素量とから酸素濃度調整手段の停止時期を決定する」酸素濃度制御方法に関して述べる。
【0032】
図1は、本実施の形態における保管庫として冷蔵庫内の酸素濃度調整可能な、脱酸素補助容器が通じた食品保存空間を示した断面図である。
【0033】
図1は、保管庫である冷蔵庫が有する複数の保存室の一つを抽出して示したものであり、全面の保存室扉1と、上下面の断熱仕切壁2、仕切板4で形成される空間に、内部が食品保存空間8となった食品保存容器7が、脱酸素補助容器6と通気性を保持して接続されて配置されている。また、図では、簡単のために、酸素濃度調整手段5の陰極と陽極との無機は省略されて記載されているが、食品保存空間8に通じる脱酸素補助容器6には、内部の脱酸素が可能なように、酸素濃度調整手段5の陰極側が脱酸素補助容器6の内側を向いて配置されている。同様に省略されて記載されているが、食品保存空間8に通じる脱酸素補助容器内部図では、食品保存容器7は密閉可能な開閉部を有しており、そこから食品を出し入れすることが可能である。
【0034】
尚、仕切板4と本体断熱壁3の間の空間あるいはこれに繋がった空間には、冷却器、ファン等が設置され、保存室に冷気を供給しているが、ここでは簡単のために冷却器、ファン等は省略して記載している。
【0035】
また図2は、本実施の形態の食品保存空間の脱酸素時の酸素濃度制御の手順を示したものである。
【0036】
以下では、図1を参照しながら、図2を用いることで、酸素濃度制御の具体的な手順を説明する。
【0037】
まず、酸素濃度を制御する前に、食品保存容器7を開け、食品を食品保存容器内7内に設置した後に、食品保存容器7を密閉状態とする。
【0038】
引き続き、実際の手順に従い、酸素濃度の制御を行う。図2に記載したように、まず、準備ブロックに示した項目を実施する。具体的には、食品保存空間の目標酸素濃度の設定、食品保存空間の体積算出である。
【0039】
食品保存空間の体積は、正確には図1から、食品損容器7内の食品が占める体積以外の体積と、脱酸素補助容器6内の体積を加えたものと定義するものとする。しかし、これは食品体積が一定ではなく、また正確に求めることが困難であるため、食品保存空間の体積
は、便宜的に、不確定な食品保存容器の体積を無視して、脱酸素補助容器の体積に等しいと仮定する。また、目標酸素濃度は、簡単のため0に設定する。実際には、脱酸素補助容器内が酸素濃度0になっても、食品保存容器内の空気が存在するために食品保存空間内の酸素濃度が0あるいは、ほぼ0になることはない。つまり、脱酸素補助容器は、食品保存空間内の酸素濃度を0にしない効果を有している。
【0040】
上記準備ブロックが終了した後、酸素濃度調整手段に標準電圧V0を印加する。こうすることで、酸素濃度調整手段はonとなる。
【0041】
次に、破線で囲んだ酸素濃度調整手順を実施する。
【0042】
具体的には、先ず、一定時間t毎に、電流値の積分値A1(A)を算出する。さらに、4電子が酸素分子1個に相当することを考慮して、A1(A)から脱酸素量を算出する。次に、この脱酸素量を用いて、食品保存空間の酸素濃度を算出する。算出時には、既に説明したように脱酸素補助容器の体積を食品保存空間の体積とし、そこから上記脱酸素量に相当する酸素が除かれたとして酸素濃度Xを算出する。最後に、上記で算出した食品保存空間内の酸素濃度Xと目標酸素濃度0とを比較し、Xが0以下であれば、酸素濃度調整手段に印加する電圧を0にして、酸素濃度調整手段をoffにする。酸素濃度Xが0よりおおきければ、再びt0時間後に、上記の操作を繰返す。
【0043】
以上の操作で、脱酸素補助容器内の体積に相当する酸素が除かれる。食品保存空間の酸素濃度は、脱酸素補助容器の体積と食品保存容器内の食品以外の体積できまるが、例えば前記の比が2:1であれば、食品保存空間の酸素濃度は約7%となる。この体積比を変えることで、食品保存空間の酸素濃度レベルを設定できる。
【0044】
このように本発明の方法を用いることで、食品保存空間の酸素濃度が0近傍になることは回避され、水素発生や、野菜の無酸素呼吸による劣化も回避される効果が得られる。
【0045】
次に、図3を用いて、カチオン伝導性を有する高分子固体電解質を用いた酸素濃度調整手段を例に、酸素濃度調整手段の構成と作用に関して詳細を説明する。
【0046】
図3は、本実施の形態における酸素濃度調整手段5の断面図である。図3に示したように、酸素濃度調整手段5は、中央部に高分子固体電解質膜12があり、その左側に陰極13、右側に陽極14があり、各極の外側に給電極15が設けられ、さらに、これらが枠11で固定されている。また、この酸素濃度調整手段5は、脱酸素補助容器8内を脱酸素するために、陰極13が脱酸素補助手容器8の内側に、陽極14が脱酸素補助容器8の外側になるように配置される。
【0047】
引き続き、図3を用いて酸素濃度調整手段5の作用を説明する。酸素濃度調整手段5への電圧印加は、二つの給電極15への電圧印加によって行われる。この電圧印加により、陽極14側では、空気中の水蒸気が電気分解されて酸素が発生し、同時に発生する水素イオンが、印加された電圧により、高分子固体電解質膜12中を陽極14から陰極13へ移動する。水は、陽極14側の空間から水蒸気として供給されるため、陽極14側空間の湿度は低下する。
【0048】
一方、陰極13側空間にある酸素は、陰極13側に移動した水素イオンと反応して水となる。こうして、陰極13側の脱酸素が進行する。このとき、生成した水の多くは電解質膜中に取り込まれるが、一部の水は、陰極13側空間へ放出され、対応する空間の湿度を上昇させる。また、電解質中に取り込まれた水は、陽極11側に移動して酸素と水素イオンとに分解される。
【0049】
従って、全体としては陰極13側空間の酸素濃度が低下し、陽極14側の酸素濃度が上昇するため、酸素が陰極13側から陽極14側へポンピングされたこととなる。同時に、水蒸気は、陽極14側から、陰極13側へポンピングされることになる。
【0050】
本実施の形態で用いられる高分子固体電解質膜12としては、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸膜(膜厚:数十ミクロンメートル〜数百ミクロンメートル)が好適に用いられる。また、陽極14及び陰極13には、白金等の触媒を担持したカーボン粉末とフッ素樹脂粉末の混合物を加圧成形して適度な撥水性を持たせた多孔質電極が用いられる。また、給電体12には、カーボンクロスやカーボンペーパー等が用いられる。但し、陽極14は、電圧印加により酸化されやすいカーボン粉末を白金等の担持体として用いず、直接高分子固体電解12上に白金層を形成して陽極14とすることが好ましい。また、陽極側の吸電極15として、上記カーボンペーパーやカーボンクロスの代わりに、表面に白金メッキしたメッシュ状のチタン等が好適に用いられる。
【0051】
尚、本実施の形態で記載した各部の構成、材料は、以下の実施の形態でも、特に構成の違いについて述べない場合には、好適に適用できる。
【0052】
(実施の形態2)
次に第2の実施の形態について説明する。
【0053】
本実施の形態では実施の形態1と同じ構成については同じ作用効果を奏するものであり同じ符号を付して説明を省略した。従って、異なる部分についてのみ説明する。
【0054】
本実施の形態の構成上の特徴は、酸素濃度調整を行う場合に、酸素濃度調整手段に流れる電流を定電流制御することである。脱酸素補助容器が通気性を有したまま連結された食品保存空間、酸素濃度調整手段の構成に関しては、実施の形態と同じである。
【0055】
酸素濃度調整手段に流れる電流が定電流となることにより、電流値の積分を算出する際に、複雑な計算が不要となり、算出に必要な回路が簡素化され、より低コストで酸素濃度の調整が可能となる効果が得られる。
【0056】
尚、本実施の形態で記載した構成は、以下の実施の形態でも、特に構成の違いについて述べない場合には、好適に適用できる。
【0057】
(実施の形態3)
次に第3の実施の形態について説明する。
【0058】
本実施の形態では実施の形態1および2と同じ構成については同じ作用効果を奏するものであり同じ符号を付して説明を省略した。従って、異なる部分についてのみ説明する。
【0059】
本実施の形態の構成上の特徴は、酸素濃度調整手段に印加される電圧に許容最大値を設けることと、印加される電圧が最大許容電圧を下まわる場合には、電流値を上げる手順を導入することである。
【0060】
以下では、本実施の形態における酸素濃度制御方法を、図4〜7を用いて説明する。
【0061】
まず、図4を用いて、酸素濃度制御方法の概要を説明する。
最初に、準備ブロックの手順を実施、その後に、酸素濃度調整手段に電圧を印加して、酸素濃度調整手段をonにする。次に、酸素濃度調整手段off判断ブロックと電流値制御
ブロックの二つのブロックの手順を並行して実施する。前者は、脱酸素量に応じて、酸素濃度調整手段の作動を停止するものであり、後者は、酸素濃度調整手段に印加される電圧により、定電流制御されている電流値のレベルを変更するものである。また、後述するように、二つのブロックは、時間t0毎に、手中の最小単位が繰り返し実施され、この繰り返しは、酸素濃度調整手段off判断ブロックにおいて、offの判断がなされ、酸素濃度調整手段がoff(作動を停止)する継続される。
【0062】
次に、図5を用いて、酸素濃度調整手段off判断ブロックについて詳しく説明する。図5より、一定時間t0毎に、まず、電流値の積分値が算出される。算出は、各時間での電流値Iiに継続される時間t0をかけて足し合わせることで行われる(t0×(I1+I2+I3・・・・・))。次に、実施の形態1と同様にして、食品保存空間酸素濃度Xiの算出を実施する。その後、前記酸素濃度Xiと目標酸素濃度(=0)とを比較し、酸素濃度Xiが0以下であれば、酸素濃度調整手段をoffとし、それ以外の場合は、時間t0後に、再び上記の手順を開始する。
【0063】
次に、図6を用いて、電流値制御ブロックに関して詳しく説明する。
【0064】
図6に示したように、このブロックの手順では、まず、その時点での電流値Iiを実現している酸素濃度調整手段に印加されている電圧Viと最大許容電圧Vmaxとを比較し、前者が大きければ、電流値を下げて定電流制御を行う。電圧Viが最大許容電圧Vmaxより小さい場合は、電流値を上げて定電流制御を行う。また、電圧Viが最大許容電圧Vmaxに等しい場合は、電流値を変えずに定電流制御を継続する。
【0065】
次に、上記のようにして酸素濃度を制御する際の、酸素濃度調整手段に流れる電流値と酸素濃度調整手段に印加される電圧との関係を図7に示す。
【0066】
初期電流値I0は、比較的小さく設定されているが、食品保存容器が閉められた直後であり湿度が低いために、電流I0を確保するための電圧はVmax+1/10×Vmaxに近い値となっている。しかし、時間が経過して湿度が上昇すると、時間t0ではかなり電圧が低下し、Vmax−1/10×Vmaxを下回る値となる。このため、時間t0では電流値が引き上げられて定電流制御が行われる。時間t0〜2t0では、電流値を引き上げたことにより、初期的に電圧が上昇するが、湿度の上昇に伴い電圧が低下する。これは、時間0〜t0と同じ現象である。
【0067】
時間2t0〜3t0では電圧に変極点が見られる。これは、時間tcにおいて、冷蔵庫の前面扉が開けら(時間2t0〜tc)れたために、食品保存空間内の温度が上昇し、湿度が低下したためである。しかし再び扉が閉められると(時間tc〜3t0)、湿度が上昇するために、電流値を維持する電圧が低下する。この後、再び時間0〜2t0と同様の電流値と電圧との変化が、時間3to〜5toにおいても観察される。
【0068】
このように、本実施の形態の酸素濃度制御法を用いることで、過度に大きい電圧の酸素濃度調整手段への印加が回避され、また許される電圧以下で最大電流を流し、酸素濃度調整の効率を最大にすることが可能となる効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明の酸素濃度制御法を用いれば、低コスト、高効率しかも長期の耐久性を確保して、野菜、食肉等の高品位な保存が安全な状態で可能となるため、業務用、家庭用に関わらず食品保存を行う冷蔵庫等の保管庫に、また酸素濃度に敏感な薬品、医療用材料、化学物質の保存を行う冷蔵庫等の保管庫に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態1、2、3における冷蔵庫内の酸素濃度調整可能な食品保存空間を示した断面図
【図2】本発明の実施の形態1、2における酸素濃度調整の手順を示した図
【図3】本発明の実施の形態1、2、3における酸素濃度調整手段の断面図
【図4】本発明の実施の形態3における酸素濃度調整の手順を示した図
【図5】本発明の実施の形態3における酸素濃度調整手段off判断ブロックの操作手順を示した図
【図6】本発明の実施の形態3における電流値制御ブロックの操作手順を示した図
【図7】酸素濃度調整手段に流れる電流値と酸素濃度調整手段に印加される電圧との関係を示した図
【符号の説明】
【0071】
1 保存室扉
2 断熱仕切壁
3 本体断熱壁
4 仕切板
5 酸素濃度調整手段
6 脱酸素補助容器
7 食品保存容器
8 食品保存空間
9 枠
10 高分子固体電解質膜
11 陰極
12 陽極
13 給電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極に挟持されたイオン伝導性を有する固体高分子電解質膜を含んでなる酸素濃度調整手段と、前記酸素濃度調整手段を用いることで酸素濃度調整が可能な食品保存空間とを有する保管庫における、前記食品保存空間の酸素濃度制御方法であって、
前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加して前記酸素濃度調整手段に電流を流し、前記電流の積分値から脱酸素量を算出し、前記食品保存空間に通じる空間内の初期酸素量と前記脱酸素量とから酸素濃度調整手段の停止時期を決定することを特徴とする食品保存空間の酸素濃度制御方法。
【請求項2】
酸素濃度調整手段に流れる電流を定電流制御する請求項1に記載の食品保存空間酸素濃度制御法。
【請求項3】
酸素濃度調整手段に流れる電流を定電流制御する際に、前記酸素濃度調整手段に印加される電圧が許容最大値を越えた場合には、前記定電流制御する電流値を低下させる請求項2に記載の食品保存空間の酸素濃度制御方法。
【請求項4】
酸素濃度調整手段に流れる電流を定電流制御する際に、前記酸素濃度調整手段に印加される電圧が許容最大値を下回った場合には、前記定電流制御する電流値を増大させる請求項2あるいは3に記載の食品保存空間の酸素濃度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−243103(P2010−243103A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93836(P2009−93836)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】