説明

食品包装方法及び食品包装用フィルム

【課題】中の食品の食感を劣化させないように、初期の高水分活性時には迅速に水分を放出し、適正な食感の水分活性になった後はその水分活性を少なくとも賞味期限の間維持する程度の水蒸気透過性を有する、食品包装方法の提供。
【解決手段】係数kを、フィルムの透過水分重量/(フィルムの透湿度×フィルムの表面積×使用日数×包装袋内と周囲雰囲気との相対湿度差/90)と定義し、kの値を、k=A・eBx ただし、xは包装袋内の相対湿度と表した場合、保存周囲雰囲気が温度23℃、相対湿度60%RHの時、(1)A=1.1±0.1、(2)B≧0.14の湿度依存性を有する透湿度を有し、且つ、(3)40℃・90%RHの周囲雰囲気、厚さ30μmにおける透湿度が500〜1000/(m・日)の食品包装用フィルムを用いる。フィルムは、ポリウレタン樹脂及びSBSを混練してフィルム成型するか又はこれらを熱接着することで積層形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品包装方法及び食品包装用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から例えばパンといった食品は、紙製の袋、又はオレフィン系のプラスチックフィルムの袋に入れて販売されている。ここで、紙製の袋については、微生物による汚染、塵埃、異物の混入の危険性が常に問題になっている。一方、オレフィン系の袋については、中のパンの風味又は食感を著しく損ねることが問題となっている。特に、フランスパンのように固い食感を特徴とする食品の場合、焼き上がり直後の食品中に含まれる水分のうち結合水を除いた自由水の割合を表す水分活性は0.95(密封雰囲気内の相対湿度の1/100)であるのに対し、適切な食感を与える水分活性は0.90から0.85であり、このような水分活性になるまで放置・乾燥した後に包装しなければ包装系内の全水分量が大きいために硬い食感が損なわれる。水分活性が十分下がる程度に乾燥する前にオレフィン系のプラスチック袋を用いてパンを包装すると、包装袋の高い防湿性のために(透湿性が低いために)中のパンが急激に柔らかくなり、食感を損ねてしまう。一方、フランスパンの包装によく用いられる紙の袋で包装すると、紙の透湿性が高過ぎるために袋の中の水分が過剰に減少して、適切な水分活性である0.85以下にまで低下するため、賞味期限前の2〜3日で中のパンが固くなってこの場合も食感を損ねてしまう。
【0003】
したがって、適切な食感の上限である水分活性0.90までは水蒸気透過率が高く水分を速やかに系外に蒸散させ、その後はなるべく水分が蒸散しない包装フィルムが理想的な包装材料であるが、少なくとも水分活性が0.90になった後は、賞味期限である3日後までは水分活性を0.85以上に保持できる程度の低い水蒸気透過率を有するフィルムが、パンの包装材料として適していることになる。
【0004】
オレフィン系のプラスチックフィルムの袋で包装する場合に、上記のような透湿性が低過ぎる問題を解決するため、従来は直径0.5mm〜3mm程度の穴を多数開けた袋を用いていた。しかしながら、このような穴を多数開けたことにより、袋の外からの塵埃の侵入、微生物による汚染の危険性が増すことになった。また、最近、包装袋内に針等を混入させる犯罪が増えており、悪戯を防止する包装(Tamper Resist Packaging)が要請されている。しかしながら、穴が開いていることにより製造の際の混入と店内での悪戯との区別がつきにくくなり、結果として犯罪、悪戯を防ぐことができなくなるという問題がある。このようなことは、例えば、特許文献1にも記載されている。
【特許文献1】特開2002−370320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、包装袋に密封された状態で販売されている食品は多数あるが、上記のように本来の食品の風味、食感を著しく損ねることがある。このため、食品の風味、食感を損なわないような材質の包装袋が考え出されている。例えば、医療、工業の分野で広く用いられているポリウレタン樹脂は、その透湿度は食品用としては一般に高く、厚さ30μmにおいて1300〜1500g/(m・日)であり、特殊なものでは厚さ30μmにおいて6000g/(m・日)にも達するため、食品の分野にまで用いられることはなかった。また、ポリウレタン樹脂は、柔らかくて粘るために加工しにくく、通常は離型紙(セパレータ)を用いてフィルム加工し、加工後に離型紙から剥がしていた。
【0006】
また、ポリウレタン樹脂以外の材質として、透湿度の高い不織布、レーヨン紙、セロファン、穴開きフィルム、ポリ乳酸フィルム、厚さ30μm以下のスチレンフィルムが考えられるが、上記のポリウレタン樹脂はヒートシール性(熱密封性)があるために袋状に加工することができるのに対し、不織布等はヒートシール性が無いという問題があり、又そのものだけでは袋状に加工することは不可能であった。
【0007】
さらに、包装直後の食品の水分活性が高い場合には、高い透湿度により速やかに食品の水分を蒸発させ、食品が適切な水分活性に低下した後は、食品の食感を損ねないように店頭に展示される所定の期間、食品の適切な水分活性を維持し得るような材料の包装袋が望ましい。すなわち、透湿度にある条件の湿度依存性を有する材料の包装袋が、このような水分活性の範囲で適切な食感を得る食品の包装に適している。
【0008】
このような透湿度に湿度依存性がある特性を有するフィルムとして親水性のフィルムであるセロファンが挙げられるが、セロファンは湿潤時の強度の低下が大きく、十分な強さを得られない。また、ヒートシール性のある防湿セロファンは、透湿度が小さい。
【0009】
以上のような課題に鑑みて、本発明は、適切な食感の上限である水分活性までは水蒸気透過率が高くて水分を速やかに系外に蒸散させ、その後、賞味期限までは適切な食感の下限である水分活性以上に水分活性を保持できる食品包装方法及び食品包装用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために本発明に係る食品包装方法は、係数kを、フィルムの透過水分重量/(フィルムの透湿度×フィルムの表面積×使用日数×包装袋内と周囲雰囲気との相対湿度差/90)と定義し、kの値を、k=A・eBx ただし、xは包装袋内の相対湿度、と表した場合、保存周囲雰囲気(包装袋外)が温度23℃、相対湿度60%RHの時、(1)A=1.1±0.1、(2)B≧0.14である湿度依存性を有する透湿度を有し、且つ、(3)40℃・90%RHの周囲雰囲気、厚さ30μmにおける透湿度が500〜1000/(m・日)の特性を有するフィルムを用いる。
【0011】
また、前記課題を解決するために本発明に係る食品包装用フィルム又はパン包装用フィルムは、係数kを、フィルムの透過水分重量/(フィルムの透湿度×フィルムの表面積×使用日数×包装袋内と周囲雰囲気との相対湿度差/90)と定義し、kの値を、k=A・eBx ただし、xは包装袋内の相対湿度、と表した場合、保存周囲雰囲気(包装袋外)が温度23℃、相対湿度60%RHの時、(1)A=1.1±0.1、(2)B≧0.14である湿度依存性を有する透湿度を有し、且つ、(3)40℃・90%RHの周囲雰囲気、厚さ30μmにおける透湿度が500〜1000/(m・日)の特性を有する。
【0012】
一実施形態の食品包装用フィルムは、ポリウレタン樹脂及びSBSを、所定の混合比で混練してフィルム成型することにより、又は熱接着することにより形成することができる。
【0013】
また、前記課題を解決するために本発明に係る食品包装用積層フィルムは、透過性基材の少なくとも片側に、ポリウレタン樹脂及びSBSを具えて構成される食品包装用フィルムを熱接着して積層形成される。
【0014】
さらに、上記構成の食品包装用積層フィルムにおいて、透過性基材が、不織布、レーヨン紙、セロファン、穴開きフィルム、ポリ乳酸フィルム、厚さ30μm以下のスチレンフィルムのいずれかであるのが好ましい。
【0015】
また、前記課題を解決するために本発明に係る食品包装用袋は、食品包装用積層フィルムを筒状又は袋状に形成する。
【0016】
さらに、上記構成の食品包装用フィルムにおいて、フィルムを、パン、野菜、果物、肉類、魚介類、サラダ及び惣菜に適用するのが好ましい。
【0017】
また、上記構成の食品の包装方法において、フィルムを、パン、野菜、果物、肉類、魚介類、サラダ及び惣菜に適用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の食品包装方法及び食品包装用フィルムによれば、包装内の食品の相対湿度の所定の範囲における変化にしたがって、透湿度が適切に変化する特性を有するフィルムを使用する。すなわち、包装直後の食品の相対湿度が高い場合には、フィルムの高い透湿度により速やかに食品の水分を蒸発させ、食品が適切な相対湿度に低下した後は、食品の食感を損ねないように店頭に展示される所定の期間、食品の適切な相対湿度を維持し得るような特性を有するフィルムを提供し得る。
【0019】
本発明では、ポリウレタン樹脂とSBSとを組み合わせることにより、従来は食品包装用フィルムの材質として適さなかったポリウレタン樹脂を用いることが可能となる。すなわち、透湿度が高過ぎる点と、柔らか過ぎて離型紙上に製膜するといった加工が難しい点を、SBSと組み合わせることで補うことが可能である。このような両者を組み合わせたフィルムは、その透湿度が500〜1000g/(m・日)であり、且つ、包装直後の食品の相対湿度が高い場合には、フィルムの高い透湿度により速やかに食品の水分を蒸発させ、食品が適切な相対湿度に低下した後は、食品の食感を損ねないように店頭に展示される所定の期間、食品の適切な相対湿度を維持することができ、特にパンのような食品の包装に最適である。
【0020】
なお、ポリウレタン樹脂以外のセロファン、ポリ乳酸フィルム、スチレンフィルムには、ヒートシール性が無く食品の包装としては適さないのに対し、ポリウレタン樹脂はヒートシール性が高く、セロファンと比較して湿潤時の強度の低下が大きくなく、さらにはSBSとの組み合わせで適度な透湿度特性を有し且つ加工が容易な食品包装用フィルムにすることが可能となる。そして、適度な透湿度を有するため、密封しても包装袋の中身の食品の食感を損ねることを防ぐことができる。また、穴を開ける必要が無いため、微生物による汚染、塵埃、異物の混入、悪戯を防止することができ、消費者に対してより安全な商品の提供を実現することが可能となる。さらに、穴が開いていないため、食品の表面に、バター、クリーム、ジャム、ソース、マスタード、ケチャップ、マヨネーズ等、流動性のある調味料が塗られていても、穴を通してそれらが包装袋の外に出ることもなく、購入者の手を汚したり、衣服を汚すこともない。
【0021】
また、本発明の食品包装用フィルムは、食品としてパンだけではなく、野菜、果物、肉類、魚介類に適用し得る。野菜、果物に適用した場合には水蒸気の蒸散による包装袋内部の結露を減少させることで、食品の劣化を大幅に遅らせることが可能である。肉類、魚介類、サラダ、惣菜に適用した場合には、穴が開いていないことで外部からの汚染を防ぐとともに、内部が結露しにくいことで微生物の増殖を防ぐことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明に係る包装袋の効果を試験するためのパンを例とした食品の経時変化の試験方法を示しており、図1(a)は、パンの底面に荷重をかける方法を示し、図1(b)は、パンの内部に荷重をかける方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る食品包装用フィルム、食品包装用積層フィルム及びこれを用いた食品包装袋の好ましい実施形態について説明する。
【0024】
本発明に係る食品包装用積層フィルムは、透過性基材の少なくとも片側に、ポリウレタン樹脂及びSBSから成る合成樹脂皮膜を、接着剤によらずに熱接着により貼合して形成されるものである。この合成樹脂皮膜は、食品包装袋の材料となるフィルムで、ポリウレタン樹脂及びSBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)から成り、その透湿度は500〜1000g・30μm/(m・日、40℃・90%RH)である。合成樹脂皮膜は、ポリウレタン樹脂及びSBSを所定の混合比で混練してフィルム成型するか、又はそれらの間に接着層を設けずに両者の薄膜を熱接着して積層形成することで作製される。なお、ポリウレタン樹脂とSBSとの混合比は、重量比で8:2が好適であるが、このような比率に限定されず、SBSは重量パーセントで5%乃至40%の範囲の割合で混合される。また、本発明の特性を損なわない範囲で、合成樹脂皮膜には、添加剤として公知の熱安定剤、酸化防止剤、結晶造核剤、滑り剤、帯電防止剤、光安定剤、遮光剤、鮮度保持剤等を添加しても良い。
【0025】
また、透過性基材は、不織布、レーヨン紙、セロファン、穴開きフィルム、ポリ乳酸フィルム、厚さ30μm以下のスチレンフィルム等が好ましい。この透過性基材は、合成樹脂皮膜の引張強度、引裂強度、突刺強度等を補完し、袋内の水蒸気・水分を吸収・吸蔵し、袋内の水分をコントロールし、内容物のクッション材としての機能もあり、また袋を作る時、ヒートシール層となることもでき、ファッション性を付与できる効果も期待できる。
【0026】
透過性基材として使用し得る不織布は、合成繊維、天然繊維等を適当な方法でマット状や薄綿状にして、接着剤や繊維自身の熱によって繊維同士を接合して作る。ここで、合成繊維として、アクリル繊維、アセテート繊維、トリアセテート繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等が好適である。一方、天然繊維として、木綿繊維、麻繊維等の長繊維、短繊維が好適である。
【0027】
上記のように、本発明に係る食品包装用積層フィルムは、透過性基材の少なくとも片側に、ポリウレタン樹脂及びSBSから成る合成樹脂皮膜を形成して成るものである。その製造方法として、フィルム押出機のTダイにより、190〜220℃の温度で透過性基材上に合成樹脂を押出コーティングする製造方法が挙げられる。また、フィルム押出機のTダイにより、190〜220℃の温度で合成樹脂を押出し、冷却することで得たフィルムと透過性基材とを熱接着することで製造してもよい。
【0028】
本発明に係る食品包装用積層フィルムを用いた食品包装袋は、以下のようにして製造される。すなわち、食品包装用積層フィルムを三角形、四角形、長方形等の形状に切断し、2枚重ねた状態で食品投入口を残して周囲を熱接着することで袋状に製造される。他の製造方法としては、食品包装用積層フィルムを筒状にして合掌部分を熱接着し、その後筒を扁平にして長手方向に対して直角な横方向に扁平な筒を熱接着する。そして、熱接着した部分と次の熱接着した部分の中間位置と、熱接着部分自体の中間位置とを、袋の長手方向に対して直角方向に切断することで、一端が開口している食品包装袋ができ上がる。食品の袋内への充填は、上記の様にして作った袋の開口部から入れ、開口部を熱接着してもよく、又は、上記袋の製作工程で、食品を先に食品包装用積層フィルム間に入れ、その後食品包装用積層フィルムを切断し又は切断せずに、袋の周辺部を熱接着してもよい。
【0029】
なお、本発明に係る食品包装袋は、透過性基材と、ポリウレタン樹脂及びSBSから成る合成樹脂皮膜とから構成する場合に限られず、上記のようにして製造された合成樹脂皮膜のみで食品包装袋を構成してもよい。
【実施例1】
【0030】
以下に、パンの包装袋を例とした各種試験結果を詳細に説明する。
【0031】
ここでは、フランスパンを食品用包装袋に入れたときのパンの経時変化を測定した。試験に用いた食品用包装袋は、本発明に係る食品包装用積層フィルムを用いて製造した食品包装袋を含め、6種類とした。
【0032】
試験の実施方法は、以下の通りである。
食品:フランスパン 約145g
包装袋の大きさ:160mm×350mm(1120cm
試験条件(周囲雰囲気):温度23℃ 湿度60%RH
包装袋の材質:
1.本発明の透湿度700g/(m・日、40℃・90%RH)の、不織布17g/(ポリウレタン樹脂80% SBS20%)50μmから成る積層フィルム
2.本発明の透湿度1000g/(m・日、40℃・90%RH)の、不織布17g/(ポリウレタン樹脂80% SBS20%)30μmから成る積層フィルム
3.透湿度1500g/(m・日、40℃・90%RH)の、不織布17g/(ポリウレタン樹脂)50μmから成る積層フィルム
4.透湿度2000g/(m・日、40℃・90%RH)の、不織布17g/(ポリウレタン樹脂)30μmから成る積層フィルム
5.透湿度4.3g/(m・日、40℃・90%RH)の、厚さ35μmのOPP(延伸ポリプロピレン)フィルム
6.重量50gのコピー用紙(対照)
【0033】
試験の方法は、それぞれ、調理の直後に包装袋に入れてから1日経過後、3日経過後、7日経過後にパンを袋から取り出して、図1に示すように、パンの底面を3mm径の円筒形のステンレス鋼製のプローブで押した場合にプローブがパンを突き破った時点での荷重;図2に示すように、パンを輪切りにした断面を、10mm径の円筒形のアルミニウム製のプローブで内部に向けて10mm押した時点での荷重;の測定の2種類とした。なお、プローブの押し込み速度はいずれの試験も1mm/sである。
【0034】
以下に実験結果を示す。表1は、パンの底面について行った実験結果である。一方表2は、パンの食感について、パンの底面についての好適な荷重範囲と荷重範囲の上限及び下限とを示しており、好適範囲にある場合には食感が良好であり、上限又は下限の範囲にある場合には可食範囲であることを示す。また、表3は、経過日数と荷重との関係を示すグラフである。表1及び表3に示すように、紙の場合、好適な荷重範囲である800g重〜1671g重の範囲内にあるのは、調理から1日経過後までであった。3日経過以後は荷重が当該好適な荷重範囲を大幅に超えて、食に適さない結果となった。
【0035】
OPPフィルムの場合は、いずれの場合も800g重未満であり、1日経過の時点で、すでに柔らか過ぎる結果となった。一方、本発明の透湿度700g(以下、g/(m・日、40℃・90%RH)という単位を適宜省略する)の包装袋を用いた場合は、7日経過した時点では好適な荷重範囲を超えているものの、3日経過後までは1672g重未満であり、3日経過後までは良好であることが分かった。本発明の透湿度1000gの包装袋を用いた場合は、3日経過後には好適な荷重範囲を超えたが、可食範囲にある2164g重であった。透湿度1500gの包装袋及び2000gの包装袋を用いた場合は、いずれも3日経過後で好適な荷重範囲を大幅に超えており、3日経過した時点で固くなり過ぎることが分かった。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
次に、パンの内部について行った実験結果を示す。表4は、パンの内部について行った実験結果である。表5は、パンの内部についての好適な荷重範囲と荷重範囲の上限及び下限とを示しており、好適な荷重範囲にある場合には良好であり、上限又は下限の範囲にある場合には可食範囲であることを示す。また、表6は、経過日数と荷重との関係を示すグラフである。表4及び表6に示すように、紙の場合、好適な荷重範囲である79g重〜256g重の範囲内にあるのは、調理から1日経過後までであった。3日経過以後は荷重が当該好適な荷重範囲を大幅に超えて、固くなり過ぎる結果となった。
【0040】
OPPフィルムの場合は、7日経過しても好適な荷重範囲であった。一方、本発明の透湿度700gの包装袋を用いた場合は、3日経過した時点で好適な荷重範囲を超えるものの、荷重の上限に収まっており、3日経過後まで可食範囲であることが分かった。本発明の透湿度1000gの包装袋及び透湿度1500gの包装袋を用いた場合も同様であり、3日経過後まで可食範囲であることが分かった。一方、透湿度2000gの包装袋を用いた場合は、3日経過後で好適な荷重範囲を大幅に超えてしまい、3日経過した時点で固くなり過ぎることが分かった。
【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
以上の結果をまとめて以下の表7に示す。ここで、表7の数値は、上記好適な荷重範囲内であった場合を50点とし、荷重の上限又は下限にあった場合を25点として、パンの底面についての結果と内部についての結果とを足し合わせた数値である。ここで、100点の場合は作りたてに近く、75点の場合は良好であり、50点の場合は商品として提供できるものの限界であり、25点の場合は商品として供するのが不可である。通常、パンの賞味期限は2〜3日であるため、表7の3日経過後の欄で試験結果を比較すると、本発明の透湿度700gの包装袋を用いた場合が総合点数が75点であり、パンの包装に最も適した透湿度であった。すなわち、本発明の透湿度700gの包装袋を用いた場合に賞味期限を通して中の食品の品質が最も良好であることが分かった。次に総合点数が高いのは、本発明の透湿度1000gの包装袋を用いた場合であり(50点)、これらのことから、パンの包装に適した透湿度は、透湿度700gでは1日後が75点で可食限界の50点以上であることから、本発明の500g/(m・日、40℃・90%RH)〜1000g/(m・日、40℃・90%RH)ということができる。また、上記以外の透湿度を有するフィルムを用いた場合には、賞味期限内で良好な品質は得られなかった。なお、使用するフィルムの表面積、中に入れるパンの量によって、好適な透湿度は変化すると推測される。
【0045】
【表7】

【実施例2】
【0046】
次に、ポリウレタン樹脂及びSBSを混合したフィルムを用いた包装袋の中に様々な重量のシリカゲルとともに入れたフランスパンについて、所定の時間乾燥した後、上記のようにしてパンの底面をプローブで押した場合に(図1(a))、プローブがパンを突き破った時点での荷重を測定する試験を行った。試験結果を以下の表8に示す。なお、包装袋に入れたシリカゲルの重量は、0g(試料0)、9.35g(試料1)、21.43g(試料2)、37.44g(試料3)である。
【0047】
表8に示すように、パンのERH(平衡相対湿度、水分活性の100倍の値)は、シリカゲルを入れなかった試料(試料0)が最も高く、シリカゲルの重量が増えるにしたがってERHの値が低下し、試料3では最も低い値となった。パンの水分も試料0の場合が最も高く、シリカゲルの重量が増えるにしたがって低下して試料3が最も低かった。一方、パンの荷重強さは、試料0が最も低くて240g重程度であり、シリカゲルの重量が増えるにしたがって上昇し、試料3では3000g重を超えた。
【0048】
【表8】

【0049】
表8のデータを元に、パンのERH、水分及びの荷重強さをグラフ化した結果を以下の表9に示す。表9では、横軸にERH(%)、左の縦軸にパンの水分(%)、右の縦軸にパンの荷重強さ(g重)を表している。グラフの各曲線は、それぞれ4点の値を基に求めた近似曲線である。ここで、表2に示すように適切な荷重強さを690乃至2160g重程度とすると、その場合の水分活性(ERHの1/100)は表9の荷重強さに関する曲線から0.82乃至0.91程度と推定される。また、表9の水分に関する曲線からそのときのパンの水分は、18.5%乃至25.8%程度であると推定される。このようにして、パンの好適な水分活性及び水分を推定することが可能である。
【0050】
【表9】

【0051】
なお、焼きたてのパンの水分は、表8のシリカゲルを入れなかった場合の31.0%程度であると考えられる。また、焼いてから1日経過後の荷重強さは、表1のOPPの1日経過後の値から630g重程度とすると、焼いてから1日経過しても、表9から水分は26.0%以上であると推定される。
【0052】
パンは、焼成後、粗熱を取りながら水分を除去させて任意の温度まで冷却し、後工程(スライス、包装)に搬送する。冷却や水分の除去が不足している場合、包装後の製品表面への水分の凝縮によるカビの発生や、製品の軟化によるケービング(腰折れ)又はスライス不良を引き起こす。一方、冷却過剰の場合には、冷却中の水分ロスが大きくなり、表面の硬化など食感に大きな影響を及ぼす。パンは、一般に店頭に展示されてから3日程度を販売期間とするため、パンの包装袋の材料となるフィルムは、パンの水分を焼きたての31.0%から冷却後に25.8%まで下げ、その後少なくとも3日間は18.5%を保持させるような特性を有するのが好ましい。また、表9より、水分が31.0%である焼きたての場合、相対湿度は90%RH以上であるため、相対湿度90%RH以上において透過する水分重量が大きいフィルムが好ましい。
【0053】
このような条件を考慮すると、パンの包装に適したフィルムは、具体的には、係数kを、フィルムの透過水分重量/(フィルムの透湿度×フィルムの表面積×使用日数×包装袋内と周囲雰囲気との相対湿度差/90)と定義し、kの値を、
k=A・eBx ただし、xは包装袋内の相対湿度
と表した場合、保存周囲雰囲気(包装袋外)が温度23℃、相対湿度が60%RHの時、(1)A=1.1±0.1、(2)B≧0.14である湿度依存性を有する透湿度を有し、且つ、(3)40℃・90%の周囲雰囲気、厚さ30μmにおける透湿度が500〜1000/(m・日)の特性を有するフィルムである。このように、パンの包装に適したフィルムは、上記のようにして定義される係数k(又は透湿度)が、湿度依存性を有するものである(高湿度下で透湿度が大きい)。
【0054】
ここで、ポリウレタン樹脂及びSBSを混合したフィルムの透過水分重量から、フィルムの包装内の相対湿度x%RHに対する係数kを実際に測定したときの測定値を以下の表10に示す。表10のグラフの横軸は包装内の相対湿度x(%RH)で、縦軸は上記のようにして定義される係数kの値を示す。グラフの曲線は、40℃・90%RHの周囲雰囲気、厚さ30μmにおける透湿度が、700g/(m・日)及び1000g/(m・日)の場合について、保存周囲雰囲気(包装袋外)を温度23度、相対湿度60RHとした場合の、それぞれ測定した合計6点の測定値から回帰分析を行って求めた近似曲線である。
【0055】
この近似曲線は、k=A・eBxなる式で表される。ここで、A、Bは定数で、A=1.1±0.1、B≧0.14であり、eはオイラー数である。この曲線は、相対湿度90%RH以上ではk値が高いが、相対湿度が下がるにつれてk値が急激に減少しており、k値の湿度依存性を良く表している。また、相対湿度が92%RHでk値がほぼ0.0045、相対湿度が87%RHでk値がほぼ0.0030、相対湿度が82%RHでk値がほぼ0.0010となっており、上記の係数kに関する条件に良く適合している。パンの包装用のフィルムとしては、表10のグラフの曲線で表されるようなk値を特性として有する材料のフィルムを使用するのが好ましいが、上記のようにしてk=A・eBxなる式によって回帰分析したときA=1.1±0.1、B≧0.14である場合、パンの包装に適しているものと考えられる。
【0056】
【表10】

【0057】
透湿度の高いフィルムにはスチレン、軟質の塩化ビニル等のフィルムがあるが、このような疎水性のフィルムは、透湿度の湿度依存性を有しない。透湿度に湿度依存性を有する親水性のフィルムのうち、結晶性のポリマーナイロンやEVOH(エチレン―ビニルアルコール共重合樹脂)のフィルムは、高湿度下で透湿度が大きくなく透湿度の湿度依存性を有しない。また、親水性のフィルムのうち、セロファンは透湿度の湿度依存性が大きいが、湿潤時の強度の低下が大きく、十分な強さを得られない。また、ヒートシール性のある防湿セロファンは、高湿度下での透湿度が小さい。
【0058】
このようなことから、上記の表1、表9及び表10等の結果から、透湿度が高く、透湿度に温度依存性があるパンの包装に適したフィルムは、親水性のウレタン樹脂に疎水性の樹脂(SBS、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂等)を混合した本発明に係る食品包装用フィルムである。
【0059】
なお、上記の実施例では、食品として(フランス)パンを例に説明したが、本発明が対象とする食品はパンに限らず他の食品も可能である。例えば、本発明を野菜、果物の包装に使用しても水蒸気の蒸散による包装袋内部の結露を防止し得るとともに、包装された野菜や果物から発生する水蒸気を包装袋の外に速やかに放出することで、食品の劣化を大幅に遅らせることが可能であり、さらには微生物による汚染も防止し得る。また、肉類、魚介類、サラダ、惣菜の包装も同様であり、穴が開いていないことで外部からの汚染を防ぐとともに、内部が結露しないことで微生物の増殖を防ぐことが可能である。
【0060】
以上、本発明の食品包装方法及び食品包装用フィルムに関する好適な実施例を説明したが、本発明によれば、包装直後の食品の相対湿度が高い場合には、フィルムの高い透湿度により速やかに食品の水分を蒸発させ、食品が適切な相対湿度に低下した後は、食品の食感を損ねないように店頭に展示される所定の期間、食品の適切な相対湿度を維持し得るような、透湿度が相対湿度に対して適切な湿度依存性を有するフィルムを提供し得る。また、ポリウレタン樹脂とSBSとを組み合わせることにより、従来は食品包装用フィルムの材質として適していなかったポリウレタン樹脂を用いることが可能となる。すなわち、透湿度が高過ぎる点と、柔らか過ぎて離型紙上に製膜するなどの加工が難しい点を、SBSと組み合わせることで補うことが可能である。このような両者を組み合わせたフィルムは、その透湿度が40℃・90%RHで500〜1000g/(m・日)であり、特にパンといった食品の包装に最適である。
【0061】
なお、ポリウレタン樹脂以外のセロファン、ポリ乳酸フィルム、スチレンフィルムには、ヒートシール性が無く食品の包装としては適さないのに対し、ポリウレタン樹脂はヒートシール性が高く、セロファンと比較して湿潤時の強度の低下は大きくなく、さらにはSBSとの組み合わせで適度な透湿度を有し且つ加工が容易な食品包装用フィルムにすることが可能となる。そして、適度な透湿度を有するため、包装袋の内部に水分が結露しにくく、包装袋の中身の食品の食感を損ねることを防ぐことができる。また、穴を開ける必要が無いため、微生物による汚染、塵埃、異物の混入、悪戯を防止することができ、消費者に対してより安全な商品の提供を実現することが可能となる。さらに、穴が開いていないため、食品の表面に、バター、クリーム、ジャム、ソース、マスタード、ケチャップ、マヨネーズ等、流動性のある調味料が塗られていても、穴を通してそれらが包装袋の外に出ることもなく、購入者の手を汚したり、衣服を汚すこともない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る食品包装用フィルム、食品包装用積層フィルム及びこれを用いた食品包装袋は、パンといった食品の包装に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品包装方法であって、
係数kを、フィルムの透過水分重量/(フィルムの透湿度×フィルムの表面積×使用日数×包装袋内と周囲雰囲気との相対湿度差/90)と定義し、kの値を、
k=A・eBx ただし、xは包装袋内の相対湿度
と表した場合、保存周囲雰囲気(包装袋外)が温度23℃、相対湿度60%RHの時、(1)A=1.1±0.1、(2)B≧0.14である湿度依存性を有する透湿度を有し、且つ、(3)40℃・90%RHの周囲雰囲気、厚さ30μmにおける透湿度が500〜1000/(m・日)の特性を有するフィルムを用いることを特徴とする食品包装方法。
【請求項2】
食品包装用フィルムであって、
係数kを、フィルムの透過水分重量/(フィルムの透湿度×フィルムの表面積×使用日数×包装袋内と周囲雰囲気との相対湿度差/90)と定義し、kの値を、
k=A・eBx ただし、xは包装袋内の相対湿度
と表した場合、保存周囲雰囲気(包装袋外)が温度23℃、相対湿度60%RHの時、(1)A=1.1±0.1、(2)B≧0.14である湿度依存性を有する透湿度を有し、且つ、(3)40℃・90%RHの周囲雰囲気、厚さ30μmにおける透湿度が500〜1000/(m・日)の特性を有することを特徴とする食品包装用フィルム。
【請求項3】
パン包装用フィルムであって、
係数kを、フィルムの透過水分重量/(フィルムの透湿度×フィルムの表面積×使用日数×包装袋内と周囲雰囲気との相対湿度差/90)と定義し、kの値を、
k=A・eBx ただし、xは包装袋内の相対湿度
と表した場合、保存周囲雰囲気(包装袋外)が温度23℃、相対湿度60%RHの時、(1)A=1.1±0.1、(2)B≧0.14である湿度依存性を有する透湿度を有し、且つ、(3)40℃・90%RHの周囲雰囲気、厚さ30μmにおける透湿度が500〜1000/(m・日)の特性を有することを特徴とするパン包装用フィルム。
【請求項4】
ポリウレタン樹脂及びSBSを、所定の混合比で混練してフィルム成型することにより、又は熱接着することにより形成されることを特徴とする請求項2に記載の食品包装用フィルム。
【請求項5】
透過性基材の少なくとも片側に、前記ポリウレタン樹脂及びSBSを具えて構成される請求項4に記載の食品包装用フィルムを熱接着して積層形成されることを特徴とする食品包装用積層フィルム。
【請求項6】
前記透過性基材が、不織布、レーヨン紙、セロファン、穴開きフィルム、ポリ乳酸フィルム、又は厚さ30μm以下のスチレンフィルムのいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の食品包装用積層フィルム。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の食品包装用積層フィルムを筒状又は袋状に形成したことを特徴とする食品包装袋。
【請求項8】
パン、野菜、果物、肉類、魚介類、サラダ及び惣菜に適用することを特徴とする請求項2又は4に記載の食品包装用フィルム。
【請求項9】
パン、野菜、果物、肉類、魚介類、サラダ及び惣菜に適用することを特徴とする請求項1に記載の食品包装方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−225234(P2011−225234A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95041(P2010−95041)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(595166273)有限会社神山包装材料 (2)
【Fターム(参考)】