説明

食品包装用フィルム及び食品包装体

【課題】電子レンジ等での加熱時に、フィルムの所定の位置から内圧を確実に自動的に逃がすことができる、柔軟な食品包装用フィルムを提供する。
【解決手段】自己粘着性フィルムよりなる基材11の厚み方向に切り込み12が設けられており、当該切り込み12の深さdが、前記基材の厚みh未満の深さである、食品包装用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品包装用フィルム及び食品包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各家庭において電子レンジを用いて簡便な食品の加熱もしくは加熱調理が行われている。例えば、予めプラスティック製の包装材料で作製された包装袋に封入され、冷凍又はチルド状態で保管や輸送がなされている食品を、前記包装袋内に封入したまま加熱もしくは加熱調理している。
【0003】
しかし、冷凍又はチルド状態の食品を電子レンジにて加熱する場合も、密封包装されたまま電子レンジ加熱を行うと、発生した水蒸気により密封包装された袋の内圧が上昇し、その結果、袋が膨張し、ついには破裂するという問題がある。
また、食事の際に、加熱した包装袋から皿等に移し変えるとき、包装袋の変形や、加熱時の劣化による包装袋の破れ等の発生により、高温に加熱された食品に接触し火傷を負う等の危険が発生するおそれがある。
なお、上述した形態は、調理済みの食品が冷凍又はチルド状態で密封包装されており、当該密封包装された食品を購入した消費者が、当該密封状態を保持したまま行うという利便性に意義を有するものであり、家庭で材料から調理し、それを包装用袋に熱シールを施して密封包装して保管するようなものではない。
【0004】
その他にも、意匠性を有するシリコン製の電子レンジ加熱調理用容器も多数市販されているが、比較的高価であり、また、シリコン自体に不快臭があるとともに、料理後の各種食材の臭い残りが激しく、簡単な洗浄では完全に消臭することができないという問題もあり、さらには、色の濃い食材を調理するとシリコン容器に色素が沈着したりする等の問題がある。さらには、シリコン製の容器は柔軟であるため、内部に食品を入れた状態で運搬する際には形状が不安定であることにより食品がこぼれたりするおそれがある。
【0005】
電子レンジ加熱による破裂を防止する機能を有する包装体に関しては、従来から各種提案がなされている。
例えば、特許文献1においては、耐熱基材にシール層を積層した包装材で、一端が基材の外面に開放され、他端が少なくともシール層に達する内圧開放口を設け、内圧開放口の他端に融着界面が一致し、かつ外面までの厚みが5〜30μmの破断層をシール層に設けた内圧解放可能な包装材が提案されている。
特許文献2においては、スリット又は微細孔を具えたベースシート表面にカバー層がコーティングされ、熱と圧力によって広げられたベースシートのスリットと、カバー層の亀裂とが連通して開口部が形成させる、電子レンジ調理用パッケージの圧力コントロール構造が提案されている。
特許文献3においては、基材層と内面に設けられたシーラント層とを有し、圧力調整部は基材層の厚み方向の一部又は全体に欠損部又は劣化部を形成し、欠損部の内面側のシーラント層同士を融着して形成される電子レンジ加熱用包装袋が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4136091号公報
【特許文献2】特開2001−180764号公報
【特許文献3】特開2007−331816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3においては、食品を所定の袋で密封包装した状態で流通に置くことを前提としており、流通時、保管時には袋の破損はなく、電子レンジ加熱時に開孔して蒸気を抜くことで、袋の破裂を防止する技術については記載がなされているが、いずれも自己粘着性を有さず、さらには接着剤を介して積層した複数層構成となっており、柔軟性に劣り、加熱による接着剤成分の溶出のおそれがあり、所定の容器の蓋材として使用するものとしては不向きな構成となっている。また、加熱後の高温になった食材を移し変える際の、使用者の火傷の危険性について考慮されたものでもなく、自らが家庭で調理を行うための調理用包装材を提供するものではない。
【0008】
そこで本発明においては、家庭で調理を行う際、通常の保存時には通気性が無いため食品の変質劣化や乾燥を抑制することができ、電子レンジ等での加熱時には、所定の圧力に達した時にフィルムの所定の位置から内圧を確実に自動的に逃がすことができ、また、高温になった食品を他の容器に移し変える手間をなくすことで、火傷等の危険性を回避することができ、柔軟で容器の蓋材として好適で、加熱調理にも使用可能な食品包装用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した従来技術の課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、基材となる自己粘着性フィルムに、厚み方向に深さを制御した切込みを形成した食品包装用フィルムが、上述した従来技術の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
〔1〕
自己粘着性フィルムよりなる基材の厚み方向に切り込みが設けられており、当該切り込みの深さが、前記基材の厚み未満の深さである、食品包装用フィルム。
〔2〕
前記切り込みの深さが、前記基材の厚みの20〜80%である前記〔1〕に記載の食品包装用フィルム。
〔3〕
前記基材となる自己粘着性フィルムが、ゲル分率10〜50質量%の架橋ポリエチレンフィルムである前記〔1〕又は〔2〕に記載の食品包装用フィルム。
〔4〕
カット刃を具備する収納箱に、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の食品包装用フィルムが、ロール状に巻回された状態で収納されている食品包装体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、家庭で調理を行う際、通常の保存時には通気性が無いため食品の変質劣化を抑制することができ、電子レンジ等での加熱時には、所定の圧力に達した時にフィルムの所定の位置から内圧を確実に自動的に逃がすことができる、柔軟な食品包装用フィルムを提供することができる。
また、袋形状ではなく、食品を入れた所定の容器の蓋材とすることが可能な自己粘着性フィルムよりなるラップ形態とすることで、加熱により高温になった食品を他の容器に移し変える手間が必要でなくなり、火傷等の危険性を回避することができ、コスト的にも有利な食品包装用フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の食品包装用フィルムの一例の概略断面図を示す。
【図2】(a)切り込み形成用のピナクル刃の一例の概略平面図を示す。(b)ピナクル刃を具備するピナクルダイの一例の概略平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、図を参照して詳細に説明する。なお本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
各図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、さらに図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。
さらに、本明細書において、「略」を付した用語は、当業者の技術常識の範囲内でその「略」を除いた用語の意味を示すものであり、「略」を除いた意味自体をも含むものとする。
【0014】
〔食品包装用フィルム〕
本実施形態の食品包装用フィルムは、自己粘着性フィルムよりなる基材の厚み方向に切り込みが設けられ、当該切り込みの深さは前記基材の厚み未満の深さである、食品包装用フィルムである。
【0015】
図1に、本実施形態の食品包装用フィルムの一例の概略断面図を示す。
図1に示すように、本実施形態の食品包装用フィルム10は、自己粘着性フィルムよりなる基材11に、厚み方向に切り込み12が形成されている。
前記切り込み12の深さdは、前記基材11の厚みh未満であり、前記基材11を貫通しない状態に設定されている。
上記のような切り込み12を具備していることにより、本実施形態の食品包装用フィルムは、通常の保存時には貫通孔が無いため、基材フィルムの保有するバリア性によって、食品の乾燥や変質劣化を抑制することができ、電子レンジ等での加熱時には、内側の圧力が上昇し、所定の圧力に達した時にフィルムの切り込みが貫通孔となることで内圧を確実に自動的に逃がすことができる。
また、厚み方向の切り込み12の深さdを制御することにより、開孔する圧力を調整することが可能となる。
【0016】
(自己粘着性フィルム)
本実施形態の食品包装用フィルムの基材11を構成する自己粘着性フィルム11は、単層フィルムでもよく、フィルム構成材料を共押出しすることにより作製した多層構造のフィルムであってもよい。
「自己粘着性」とは、同じ材料のフィルムを2枚重ね合わせ、軽く押圧することによって、2枚が粘着したような外見を呈し、少々の引き剥し力や剪断的な力では離れなくなる現象である。なお、「自己粘着性フィルム」は、同材料のフィルム間のみならず、異種のフィルム間であっても、上記のような粘着したような外見を呈する。
基材11構成するフィルムの「自己粘着性」については、密着仕事量が0.5〜3.0mJ/25cm2であることが好ましく、0.8〜2.0mJ/25cm2であることがより好ましい。0.5mJ/25cm2以上にすることにより、本実施形態の食品包装用シートをロール状に巻回して使用する際、実用的な密着性が得られ、3.0mJ/25cm2以下とすることにより、良好な取扱性を確保できる。
前記密着仕事量は、以下の方法で測定することができる。
まず、底面積25cm2、高さ55mm、重さ400gのアルミ製の円柱形の治具を2個用意し、双方の治具の底面に、底面と同形の濾紙を貼り付ける。
双方の濾紙を貼り付けた治具の底面に、皺が入らないように28℃で1ヶ月保管後のラップフィルムを被せ、輪ゴムで抑えて固定する。このラップフィルムを被せた2個の治具を、ラップフィルムを被せた側の面同士がピッタリ重なり合うように合わせて、加重500gで1分間圧着する。次いで、引張圧縮試験機にて5mm/分の速度で、そのラップフィルム面同士を相互に面に垂直方向に引き剥がすときに必要な仕事量(密着仕事量)を測定する(単位:mJ/25cm2)。なおこの測定は、23℃、50%RHの雰囲気中で行う。
【0017】
本実施形態の食品包装用フィルムは、食品を収納する所定の容器に対して用いる等、包装する対象物の形状に対して実用上良好な追随性を有していることが必要であり、所定の柔軟性を有していることが必要である。
具体的には、基材11となる自己粘着性フィルムは引張弾性率が100〜1000Mpaであることが好ましく、300〜600Mpaであることがより好ましい。
引張弾性率を100Mpa以上にすることにより取扱性が良好なものとなり、1000Mpa以下にすることにより実用的に良好な柔軟性が得られる。
引張弾性率はJIS K7113に準拠して測定することができる。
具体的には、フィルムをMD方向及びTD方向に、長さが200mm、幅が10mmに切り出してサンプルとし、チャック間距離を100mm、引張速度を5mm/分に設定した定速引張試験機で引っ張って、2%歪み時における弾性率を引張弾性率とする。
上記引張弾性率はMD方向とTD方向との平均値を示す。なお、MD方向とはフィルム製膜時の流れ方向であり、TD方向とはMD方向と直交する方向である。
【0018】
基材11の自己粘着性フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂等が挙げられる。特に、耐熱性、カット性に優れるポリ塩化ビニリデン系フィルムや架橋ポリエチレンフィルムが好ましく、二軸延伸架橋ポリエチレンフィルムがより好ましい。
前記二軸延伸架橋ポリエチレンフィルムは、例えば、ダブルバブルインフレーション法により製膜でき、単数もしくは複数の押出機を用いて、前記フィルムを構成する材料であるポリエチレンと所定の可塑剤とを含有する樹脂組成物を環状ダイスから溶融押出して、これを急冷固化させたのち、α線、β線、γ線、中性子線、電子線等から選択される電離性放射線を照射したものを延伸機内に誘導し、延伸開始点を、ポリエチレンと所定の可塑剤を含有する樹脂組成物の融点以上、かつ融点+40℃以下までの範囲に加熱しながら、速度差を設けたニップロール間でエアー注入を行い、MD方向、TD方向にそれぞれ延伸することにより得られる。
延伸倍率はMD方向、TD方向ともに5〜10倍が好ましく、6〜10倍がより好ましい。5倍以上に延伸することで易引裂性が得られ、10倍以下にすることにより延伸安定性が得られる。
【0019】
基材11を構成する自己粘着性フィルムは、ゲル分率が10〜50質量%の架橋ポリエチレンフィルムであることが好ましい。ゲル分率は15〜40質量%であることがより好ましく、20質量%〜35質量%であることがさらに好ましい。ゲル分率を10質量%以上にすることで易引裂性が得られ、50質量%以下にすることで延伸時の安定性が得られる。
ゲル分率は、架橋度の尺度として用いられ、以下の方法で測定される。
先ず、精密天秤を用いて小数点以下2桁で自己粘着性フィルムの試料を約100mg計り取り、その試料を、袋状に折り畳んだ150メッシュのステンレス製金網中に入れ、全体の質量を精密天秤で小数点以下2桁まで測定したものをサンプルとする。次に、前述のサンプルを1000mLの沸騰パラキシレン中で12時間抽出し、乾燥後、全体の質量を精密天秤を用いて小数点以下2桁で測定し、次式にて不溶解分の質量を求める。
不溶解分の質量(mg)=抽出前のサンプルの質量−抽出後のサンプルの質量
前記不溶解分の抽出前試料に対する割合をゲル分率として、次式により求める。
ゲル分率(質量%)=(不溶解分の質量/抽出前の試料質量)×100
【0020】
基材11を構成する自己粘着性フィルムとして架橋ポリエチレンフィルムを使用することにより易引裂性が得られ、所定のカット刃での容易な切断が可能となる。
基材11の厚みは、8〜20μmが好ましく、10〜15μmがより好ましい。8μm以上にすることにより加工時の実用的な強度が得られ、20μm以下にすることにより、所定のカット刃での切断が容易になる。
【0021】
<切り込み>
本実施形態の食品包装用フィルムを構成する基材である自己粘着性フィルムには、上述したように、厚み方向に切り込み12が形成されている。
前記切り込み12の深さdは、基材11の厚みhの20〜80%が好ましく、40〜60%がより好ましい。20%以上にすることで、加熱時に安定した開孔性が得られ、80%以下にすることで、通常の保存時における開孔を抑制することができる。
切り込み12の形状は、例えば、「−」、「+」、「×」、「*」、「○」字形状等、特に規定するものではないが、薄いフィルムの場合、直線状ではなくカーブを付けた「C」「U」、「Ω」字形状等が、開孔時にフィルムの裂けが伝播しにくく、フィルム片の脱落を防止できる観点からより好ましい。
切り込み12の大きさは、特に規定するものではないが、切れ目の長さで1〜15mm程度が妥当である。数、位置についても特に規定するものではなく、容器の蓋として用いたときに、容器の上面に少なくとも1個以上の切込みが含まれればよい。
例えば、フィルムの幅方向の中央付近に、流れ方向沿って、長径が5mm程度のU字状の切込みを3cmピッチで連続に1列もしくは複数列形成する等が好ましい例として挙げられる。
【0022】
〔食品包装用フィルムの製造方法〕
以下、本実施形態に係る食品包装用シートの一例の製造方法について説明する。
先ず、上述した自己粘着性フィルムを形成し得る所定の樹脂材料を用いて、二軸延伸フィルムを作製する。二軸延伸架橋ポリエチレンフィルムは、ダブルバブルインフレーション法により、単数もしくは複数の押出機を用いて、ポリエチレンと所定の可塑剤とを含有する樹脂組成物を環状ダイスから溶融押出して、これを急冷固化させ、その後、α線、β線、γ線、中性子線、電子線等から選択される電離性放射線を照射し、これを延伸機内に誘導し、延伸開始点を、ポリエチレンと所定の可塑剤を含有する樹脂組成物の融点以上、かつ融点+40℃以下までの範囲に加熱しながら、速度差を設けたニップロール間でエアー注入を行い、MD方向、TD方向にそれぞれ延伸することにより得られる。
次に、前述の方法で製膜された二軸延伸架橋ポリエチレンフィルムに、厚み方向に切り込みを形成する。切り込みの形成方法としては、一般的にダイカッターを使用する方法が挙げられる。ダイカッターに設けられる凸状押切刃としては、例えば、ピナクル((株)塚谷刃物製作所 商標)等が用いられる。
例えば、基材11であるフィルムの繰り出し機と巻き取り機との間に、図2(a)に示すような形状を有し、所定の高さを有する刃を、所定の金属板、例えばステンレス板上に所定の間隔で形成した図2(b)に示すようなピナクルダイ((株)塚谷刃物製作所 商標)を巻き付けたロールとその受けロールを設ける。
次に、長尺のフィルムを繰り出し機から巻き取り機に向かって走行させ、前記ピナクルダイと連続的に加圧接触させることで、図1に示すような切り込み12を形成する。
切り込み12の深さdは、刃の高さで任意に調整が可能である。
その他、切り込み12の形成方法としては、レーザー照射による方法等が適用できるが、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
その後、所定の幅にスリットすることにより、本実施形態の食品包装用フィルムが得られる。
【0023】
〔食品包装体〕
本実施形態の食品包装体は、カット刃を具備する収納箱に、上述した本実施形態の食品包装用フィルムが、ロール状に巻回された状態で収納されている。
本実施形態の食品包装体は、必要な時に必要量を容易にカットできる、食品包装用フィルムとして適した形状を提供することができる。
本実施形態の食品包装用フィルム及び食品包装体は、例えば、電子レンジでの食品の加熱、もしくは耐熱皿に蓋として用いることで、高温になる加熱調理にも好適に使用できる。また、本実施形態の食品包装用フィルムは、常温以下の温度条件下では、貫通孔がないため、通常の食品保存用ラップとしての使用も可能である。
さらに、本実施形態の食品包装用フィルムはシート状の形態とし、使用の際、所望の大きさにカットして用いることにより、所定の容器の蓋として利用でき、これを電子レンジにより加熱した際、高温になった食品を他の容器に移し変える手間がかからず、使用者の火傷等の危険性を回避できる。
【実施例】
【0024】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
実施例及び比較例における測定方法及び評価方法は下記の通りである。
<ゲル分率>
フィルムのゲル分率は、以下の方法で算出した。
精密天秤を用いて小数点以下2桁で試料を約100mg計り取り、その試料を150メッシュのステンレス製金網を袋状に折りたたんだ中に入れ、全体の質量を精密天秤を用いて小数点以下2桁まで測定したものをサンプルとした。
次に、前記サンプルを1000mLの沸騰パラキシレン中で12時間抽出し、乾燥後、全体の質量を、精密天秤を用いて小数点以下2桁まで測定し、次式にて不溶解分の質量を求めた。
不溶解分の質量(mg)=抽出前のサンプルの質量−抽出後のサンプルの質量
前記不溶解分の抽出前試料に対する割合がゲル分率として、次式により求めた。
ゲル分率(質量%)=(不溶解分の質量/抽出前の試料質量)×100
【0026】
<カット性>
後述する実施例及び比較例において作製したフィルムを、サランラップ(旭化成ホームプロダクツ株式会社製)の化粧箱から200mm引き出して、化粧箱に付属しているカット刃で容易に切断できるかを、下記の4段階で評価した。
◎:軽い力できれいに切断可能であった。
○:多少の力が必要なもののきれいに切断可能であった。
△:切断は可能であるが、スムーズに切断が出来なかった。
×:切断が困難で化粧箱が変形した。
【0027】
<密着仕事量>
密着仕事量は、以下の方法で測定した。
まず、底面積25cm2、高さ55mm、重さ400gのアルミ製の円柱形の治具を2個用意し、双方の治具の底面に、底面と同形の濾紙を貼り付けた。
双方の濾紙を貼り付けた治具の底面に、皺が入らないようにフィルムを被せ、輪ゴムで抑えて固定した。
このフィルムを被せた2個の治具を、フィルムを被せた側の面同士がピッタリ重なり合うように合わせて、加重500gで1分間圧着した。
次いで、引張圧縮試験機にて5mm/分の速度で、そのフィルム面同士を相互に面に垂直方向に引き剥がすときに必要な仕事量(密着仕事量)を測定した(単位:mJ/25cm2)。
【0028】
<切り込み深さ>
レーザー顕微鏡(OLYMPUS社製 OLS400)を用いて、無作為に抽出した10箇所の切り込みの深さを測定し、平均値を算出した。
【0029】
<開孔性>
直径15cmの陶器の容器に水を100mL入れ、後述する実施例及び比較例において作製したフィルムで容器に密着させるように蓋をし、電子レンジで加熱(1000W−60s)した。10回行ったときの開孔状況を確認した。
◎:10回すべて開孔した。
○:6〜9回開孔した。
△:1〜5回開孔した。
×:1回も開孔しなかった
【0030】
<耐熱性>
フィルムの耐熱性を、食品包装用ラップフィルムの東京都条例耐熱試験法に則って測定した。具体的には、幅30mm、長さ140mmに切り出した試験フィルムの上下端部25mmをのりしろとして用いて固定し、10gの荷重をかけた。
これをオーブンに入れ、設定温度において1時間以内に切れた温度より5℃低い温度を耐熱温度とした。温度の設定は5℃刻みで行った。
【0031】
<総合評価>
上述したカット性、開孔性の評価を総合し、以下の2段階で評価した。
○:各項目の評価が全て○と◎から構成されるもの。
×:各項目の評価で△、又は×を含むもの。
【0032】
〔実施例1〕
図1に示す基材11となる自己粘着性フィルムとして、巾300mmの架橋ポリエチレンフィルム(旭化成ケミカルズ社製 サンテックA210E、厚み11μm)を用いた。
次に、凸状押切刃を具備するダイカッターを用いて切り込み12を形成した。
ダイカッターに設けられる凸状押切刃としては、図2(a)に示すU字形状を有するピナクル((株)塚谷刃物製作所 商標)刃20を用いた。
当該ピナクル刃20は、図2(a)の平面図において半径2.5mmの半円部と長さ2.5mmの直線部により構成されており、受けロールとの隙間を5μmとした。
上述したようなピナクル刃が、図2(b)に示すように、所定のステンレス板に略30mm間隔で配置された板状体21であるピナクルダイ((株)塚谷刃物製作所 商標)を用いて基材11となる自己粘着性フィルムに切り込み12を以下のようにして形成した。
基材11である自己粘着性フィルムを繰り出し機と巻き取り機との間で、ライン速度30m/minとして走行させ、その走行途上に、図2(b)に示すピナクルダイを巻き付けたロールとその受けロールを設け、前記ピナクルダイの位置をフィルムの幅方向の中央の位置に合わせて連続的に加圧接触させ、深さ6μmの切り込みを形成し、食品包装用フィルムを得た。
なお、切り込みの形成の際には、ピナクルダイを巻きつけたロールと受けロールとの間に一定の隙間を設け、基材11である自己粘着性フィルムが受けロール上を接触しながら通過するようにした。切り込みは切残しの量によって制御した。具体的には、ピナクルダイと受けロール隙間を0.480mmとし、ピナクル刃の高さを0.475mmに設計し、11μmのフィルム厚みに対し5μmの切残し加工を施すことで、切り込み深さを6μmとした。
当該食品包装用フィルムを、内径28mm、長さ310mmの紙管に20m巻回したのち、サランラップ(旭化成ホームプロダクツ株式会社製)の化粧箱に収納し、食品包装体を得た。上記評価結果を下記表1に示す。
【0033】
〔実施例2〕
基材11となる自己粘着性フィルムにポリエチレン系フィルム(旭化成ケミカルズ社製 サンテックAMT、厚み11μm)を用いた。
その他の条件は、実施例1と同様として食品包装用フィルム及び食品包装体を作製し、上記評価結果を下記表1に示す。
【0034】
〔実施例3〕
基材11となる自己粘着性フィルムにポリエチレン系フィルム(旭化成ケミカルズ社製 サンテックAMT、厚み11μm)を用い、切り込みの深さを9μmとした。
その他の条件は、実施例1と同様として食品包装用フィルム及び食品包装体を作製し、上記評価結果を下記表1に示す。
【0035】
〔実施例4〕
基材11となる自己粘着性フィルムにポリエチレン系フィルム(旭化成ケミカルズ社製 サンテックAMT、厚み11μm)を用い、切り込みの深さを2μmとした。
その他の条件は、実施例1と同様として食品包装用フィルム及び食品包装体を作製し、上記評価結果を下記表1に示す。
【0036】
〔比較例1〕
基材11として未延伸ポリエチレン系フィルム(三井化学ファブロ株式会社製クレアフォース、厚み11μm)を用いた。
切り込みを形成せず、その他の条件は、実施例1と同様として食品包装用シート及び食品包装体を作製し、上記評価結果を下記表2に示す。
【0037】
〔比較例2〕
基材11として架橋ポリエチレンフィルム(旭化成ケミカルズ社製 サンテックA210E)組成に滑剤としてタルクを0.5%添加し自己粘着性をなくした厚み11μmのフィルムを用いた。
その他の条件は、実施例1と同様として食品包装用シート及び食品包装体を作製し、上記評価結果を下記表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表1に示すように、実施例1〜4によれば、保存時には通気性が無いため食品の変質劣化を抑制することができ、電子レンジ等での加熱時には、所定の圧力に達した時にフィルムの所定の位置から内圧を確実に自動的に逃がすことができる食品包装用フィルムが得られた。
表2に示すように、比較例1においては、切り込みを設けなかったため、上記<開孔性>の試験の際、フィルム面に凹みが発生し、フィルムを剥がす際に、急激に蒸気が発生した。
また、比較例2においては、自己粘着性フィルムを用いなかったため、上記<開孔性>の試験の際、容器に密着せず、電子レンジ内に水滴が付着した。
【0041】
次に、上述のようにして作製した実施例1の食品包装用フィルムを用いて実際に料理の加熱調理を行い、食品包装用フィルムの効果を検証した。
〔実施例5〕
イオン株式会社製の冷凍食品「TOPVALUE ゆでスパゲティ」を開封し、中身を耐熱性の容器に移し替えた。これに上述した〔実施例1〕の食品包装用フィルムで蓋をし、電子レンジ加熱(500W、4分間)を行った。
加熱開始後、2分程度で内圧が上昇し、食品包装用フィルムが膨れ始め、3分程度で1箇所開孔し、その状態が維持されたまま加熱が続けられた。
加熱終了後はフィルムを外し、そのまま食卓に並べ食することができた。
【0042】
〔比較例4〕
イオン株式会社製の冷凍食品「TOPVALUE ゆでスパゲティ」を、当該食品の表記に従い内袋を開封せずに電子レンジ加熱(500W、4分間)を行った。
加熱開始後、2分程度で内圧が上昇し袋が膨れ始め、3分程度で蒸気抜き孔から蒸気が出、その状態が維持されたまま加熱が続けられた。
該形態の食品を食するには、加熱終了後中身を容器に移し替える必要があるが、袋を持ち上げた際、蒸気抜き孔から熱い蒸気や水滴が出てきて手に付着したり、袋を破った勢いで高温になった中身が飛び出し手に接触したり、袋を傾けて移し替える際、袋が柔軟なため変形して中身をこぼして接触する等の危険性があった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の食品包装用フィルムは、食品の埃よけ、乾燥防止用フィルム、食品を包んだ状態で冷蔵や冷凍を行う保存用フィルム、電子レンジ加熱もしくは加熱調理用フィルム等として、産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0044】
10 食品包装用フィルム
11 基材
12 切り込み
20 ピナクル刃
21 ピナクルダイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己粘着性フィルムよりなる基材の厚み方向に切り込みが設けられており、当該切り込みの深さが、前記基材の厚み未満の深さである、食品包装用フィルム。
【請求項2】
前記切り込みの深さが、前記基材の厚みの20〜80%である請求項1に記載の食品包装用フィルム。
【請求項3】
前記基材となる自己粘着性フィルムが、ゲル分率10〜50質量%の架橋ポリエチレンフィルムである請求項1又は2に記載の食品包装用フィルム。
【請求項4】
カット刃を具備する収納箱に、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の食品包装用フィルムが、ロール状に巻回された状態で収納されている食品包装体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−39953(P2013−39953A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179212(P2011−179212)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(390017949)旭化成ホームプロダクツ株式会社 (56)
【Fターム(参考)】