説明

食品包装用フィルム

【課題】低溶出性、フィルム巻き出し性、外観に優れる、新たな食品包装用フィルムを提供する。
【解決手段】塩素含有樹脂を主とする成分Aと、質量平均分子量(Mw)が5万以上40万以下である塩素非含有樹脂を主とする成分Bと、滑剤を含有する樹脂組成物Xを成形してなる食品包装用フィルムであって、前記樹脂組成物X中における下記成分Aと下記成分Bの含有量の質量比が99:1〜55:45の範囲であり、下記成分Aと下記成分Bの合計含有量100質量部に対して前記滑剤の含有量が0.1質量部以上5質量部以下であり、前記樹脂組成物Xの温度190℃、壁剪断応力1×10Paにおける滑り速度が0.1mm/sec以上10mm/sec以下の範囲である食品包装用フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素を含有する塩素含有樹脂を主原料の一つとする食品包装用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品の包装、特に精肉、鮮魚、青果等の生鮮食品の包装には、透明性、柔軟性およびヒートシール性に優れたストレッチフィルムが、食品包装用フィルムとして広く使用されている。この種のフィルムとしては、従来、ポリ塩化ビニル系樹脂にアジピン酸エステル系可塑剤と各種防曇剤を配合したポリ塩化ビニル系樹脂組成物をフィルムに成形したものが一般的であった。
【0003】
食品包装用フィルムに配合する添加剤については、衛生性並びに食品等への移行性が重要視される。
添加剤の衛生性に関しては、米国のFDA規格(Food and Drug Administration)や日本のPL規格(塩化ビニル樹脂製包装容器包装等に関する自主規制基準)等に規定されており、添加剤の無毒化配合が確立されている。他方、食品等への移行性については、昭和57年厚生省告示20号試験により蒸発残留物試験法として抽出試験が規定されている。
このような背景において、食品包装用フィルムに配合する添加剤として、これまで種々のものが用いられてきた。しかしながら、添加剤、特にフィルムを柔軟にするために添加する可塑剤については、その種類や量によっては、厚生省告示20号に定めるn−ヘプタン抽出量が150質量ppm近くになったり、或いは上回ったりする場合があった。
【0004】
そこで、食品包装用フィルムに関して、次のような提案が為されている。
例えば特許文献1において、ポリ塩化ビニル系樹脂に、可塑剤として分子量が1,000〜3,000の脂肪族多塩基酸系ポリエステルと、グリセリンエステルとを併用し、該ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、前記ポリエステル系可塑剤を5〜40重量部、グリセリンエステルを40〜1重量部を配合した組成物とすることにより、すなわち、高分子量の可塑剤を使用することにより、可塑剤を減量することなく、前記PL規格や厚生省告示などによって重要視されている可塑剤、安定剤、防曇剤等の添加剤の抽出が極めて少なく安全性に優れた食品包装用塩化ビニル系樹脂組成物とする提案が為されている。
【0005】
しかし、当該組成物は、溶融粘度が高くて滑り性が低いため、樹脂温度が高まることによるフィルムの焼けや押出ライフの低下が問題であった。さらに、ポリエステル系可塑剤が多い場合には、フィルム表面の滑り性が減少し、自動包装機などで包装した場合にトレーの角でやぶれが発生し、仕上がりが悪くなりやすいという問題があった。また、グリセリンエステル系可塑剤が多い場合には、滑り性付与効果により溶融粘度を低減し安定して押出でき、包装適性にも優れる効果があるが、n−ヘプタン抽出量は多くなるという問題があった。
【0006】
そこで、ポリエステル系の可塑剤を用いた場合であっても、フィルムの滑り性や防曇性が悪くならないように、炭素数8〜22の高級脂肪酸を、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して0.1〜1重量部添加することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、高級脂肪酸を添加すると、滑り性の低下を補うことはできるが、高級脂肪酸自体は疎水性のために防曇性が低下し、フィルム表面に水滴が生じて内容物の確認が困難になるという新たな品質上の不具合が生じてしまう。
【0007】
ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対し平均分子量が1,000〜3,000のアジピン酸系ポリエステル可塑剤8〜22重量部、炭素数が8以上のアルキル基を有するアジピン酸エステル系可塑剤及び/又は炭素数が10以下のアルキル基を有する脂肪族アルコール2種以上とアジピン酸との反応で得られる混合アジピン酸エステル系可塑剤8〜22重量部、エポキシ化植物油5〜20重量部、高級脂肪酸、グリセリンとのエステル0.05〜3部からなるポリ塩化ビニル系ストレッチフィルムが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
このストレッチフィルムにおいては、食品容器包装用として好適な、n−ヘプタン抽出量をさらに低減し、その他のフィルム特性であるフィルム巻き出し力、フィルム外観も向上した低溶出フィルムが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−269145号公報
【特許文献2】特開平9−176424号公報
【特許文献3】特開2006−104242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、食品包装用フィルム、特に塩素含有樹脂を主原料とする食品包装用フィルムに関しては、食品包装用途に求められる溶出性、巻き出し性及び外観(ムラ)を同時に満足させることが難しいという課題を抱えていた。
【0011】
そこで本発明は、塩素含有樹脂を主原料の一つとする食品包装用フィルムにおいて、可塑剤の溶出性、フィルムの巻き出し性、外観(ムラ)がともに優れる、新たな食品包装用フィルムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記成分Aと、下記成分Bと、滑剤とを含有する樹脂組成物Xを成形してなる食品包装用フィルムであって、前記樹脂組成物X中における下記成分Aと下記成分Bの含有量の質量比が99:1〜55:45の範囲内であり、下記成分Aと下記成分Bの合計含有量100質量部に対して前記滑剤の含有量が0.1質量部以上5質量部以下であり、前記樹脂組成物Xの温度190℃、壁剪断応力1×10Paにおける滑り速度が0.1mm/sec以上10mm/sec以下の範囲内であることを特徴とする、食品包装用フィルムを提案する。
成分A:塩素含有樹脂を主とする成分
成分B:質量平均分子量(Mw)が5万以上40万以下である塩素非含有樹脂を主とする成分
【発明の効果】
【0013】
本発明は、塩素含有樹脂を主とする成分Aに、分子量が比較的高い塩素非含有樹脂を主とする成分Bを配合することにより、成分Bのブリードや溶出を抑えることができる。さらに、樹脂組成物Xの滑り速度を特定の範囲に制御することによって、食品包装用フィルムに適した滑り性を付与することができ、フィルム巻き出し性や、フィルムの外観、特にムラのない均一性をより一層優れたものにすることができる。よって、本発明の食品包装用フィルムは、食品包装用のラップフィルム等として好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の一例としての食品包装用フィルム(以下「本フィルム」と称する)について説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<本フィルム>
本フィルムは、所定の成分Aと、所定の成分Bと、滑剤とを所定比率で含有してなる樹脂組成物Xを成形して得ることができる。
【0016】
(成分A)
本フィルムにおける成分Aは、塩素含有樹脂(以下、「成分A樹脂」ともいう)を主とする成分である。
ここで、塩素含有樹脂を主とする成分とは、成分Aが塩素含有樹脂以外の成分を含有することを許容する意であり、成分A中において塩素含有樹脂の占める割合が50質量%を超えている必要があり、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90%質量以上であって、100質量%を包含する概念である。
【0017】
塩素含有樹脂としては、例えば塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン単独重合樹脂及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−エチレン共重合樹脂、塩化ビニル−プロピレン共重合樹脂、塩化ビニル−スチレン共重合樹脂、塩化ビニル−イソブチレン共重合樹脂、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合樹脂、塩化ビニル−ウレタン共重合樹脂、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合樹脂、塩化ビニル−スチレン−無水マレイン酸三元共重合樹脂、塩化ビニル−スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、塩化ビニル−ブタジエン共重合樹脂、塩化ビニル−イソプレン共重合樹脂、塩化ビニル−塩素化プロピレン共重合樹脂、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−マレイン酸エステル共重合樹脂、塩化ビニル−メタクリル酸エステル共重合樹脂、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合樹脂、塩化ビニル−マレイミド共重合樹脂などの塩化ビニル共重合樹脂を挙げることができ、これらのうちの1種を単独で使用することも、又は2種類以上を併用することもできる。
【0018】
また、上記例示した塩素含有樹脂と、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−3−メチルブテンなどのα−オレフィン重合樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−プロピレン共重合樹脂などのポリオレフィンとの共重合樹脂、又は、上記例示した塩素含有樹脂と、例えばポリスチレン、アクリル樹脂、ポリウレタン及びスチレンなどからなる群のうちの少なくとも1種と、他の単量樹脂(例えば無水マレイン酸、ブタジエン、アクリロニトリル等)との共重合樹脂なども使用することができる。
【0019】
さらにまた、後塩素化塩化ビニル樹脂も成分A樹脂として使用することができる。
この後塩素化塩化ビニル樹脂としては、塩素化前の塩化ビニル樹脂の平均重合度が500〜1400であるものが好ましい。平均重合度が500以上であれば、耐衝撃性を維持することができ、平均重合度が1400以下であれば、溶融流動性を維持することができ、成形が容易となる。
後塩素化塩化ビニル樹脂の平均塩素含有量は、58〜70質量%、特に60〜70質量%であるのが好ましい。平均塩素含有量が少な過ぎると、耐熱性が低下し変形が発生しやすくなり、逆に多過ぎると、流動性が大きく低下し、成形が困難となる。
【0020】
塩素含有樹脂の平均重合度は、300〜2,000であるのが好ましく、より好ましくは500〜1,500である。平均重合度が小さ過ぎると、成形樹脂が充分な強度とならないおそれがあり、大きすぎれば、成形加工時に充分に混練させることが難しく、加工性が低下するおそれがある。
【0021】
塩素含有樹脂のガラス転移温度(以下、Tgともいう)は、50℃以上、120℃以下の範囲であるのが好ましく、成形加工性の面から特に70℃以上或いは90℃以下の範囲であるのがより一層好ましい。
【0022】
成分Aには、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂や、市販の安定剤、滑剤、衝撃改良剤、加工助剤、耐熱向上剤、艶消し剤、架橋剤、充填剤、発泡剤、帯電防止剤、防曇剤、プレートアウト防止剤、難燃剤、蛍光造白剤、防黴剤、金属不活性剤、顔料、染料、抗酸化剤、光安定剤などを含有してもよい。
【0023】
(成分B)
本フィルムにおける成分Bは、質量平均分子量(Mw)が5万以上40万以下の範囲内である塩素非含有樹脂(以下「成分B樹脂」ともいう)を主とする成分である。
ここで、塩素非含有樹脂を主とする成分とは、成分Bが塩素非含有樹脂以外の成分を含有することを許容する意であり、成分B中において塩素非含有樹脂の占める割合が50質量%を超えている必要があり、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90%質量以上であって、100質量%を包含する概念である。
【0024】
成分B樹脂のMwが5万以上であれば、本フィルムの表面へのブリードや溶出を低減することができる。また、Mwが40万以下であれば溶融粘度が高すぎて成形加工性に劣るというような問題を生じることもない。
かかる観点から、成分B樹脂のMwは、特に10万以上或いは30万以下の範囲がさらに好ましい。
ここで、質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、溶媒にクロロホルムを用いて、溶液濃度0.2wt/vol%、溶液注入量200μl、溶媒流速1.0ml/分、溶媒温度40℃で測定し、ポリスチレン換算で算出することができる。
【0025】
また、本フィルムを透明性に優れたフィルムとする観点から、成分B樹脂は、成分A樹脂と完全相溶することが好ましい。
ここで、「完全相溶する」とは、成分Bと成分Aの混合樹脂のガラス転移温度が単一であることを意味し(この点は後で詳述する)、成分AとBが分子レベルで相溶し、海島構造をとらないようになる。
【0026】
成分B樹脂としては、Mwが前記の範囲であって、好ましくは成分A樹脂と完全相溶するものを、公知の熱可塑性樹脂の中から適宜選択して使用することができる。中でも、ポリエステル系樹脂、その中でも特にコハク酸、アジピン酸及びテレフタル酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上のジカルボン酸と、1,4−ブタンジオールとを共重合成分として含むポリエステル系樹脂を好ましく例示することができる。
このようなポリエステル系樹脂は、いずれも軟質樹脂であって、しかも成分A樹脂と相溶する特性を備えているため、前記成分A樹脂とブレンドすることにより、本フィルムの伸び特性、低溶出性及び透明性を顕著に高めることができる。
【0027】
さらに、前記ポリエステル系樹脂には、本発明の特徴を損なわない範囲で1,4ブタンジオール以外のジオールを共重合させてもよい。
この際に使用することができるジオールとしては、例えば1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等を挙げることができる。これらは単独で使用することも、2種類以上を併用することもできる。
【0028】
また、前記ポリエステル系樹脂には、本発明の特徴を損なわない範囲で、コハク酸、アジピン酸、及びテレフタル酸以外のジカルボン酸を共重合させてもよい。使用することができるジカルボン酸としては、例えばスベリン酸、セバシン酸、イタコン酸、ドデカン二酸、セルロース酢酸等が挙げられる。これらは単独で使用することも、2種類以上を併用することもできる。
【0029】
本フィルムに好適に用いることができるポリエステル系樹脂としては、例えばポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)などを挙げることができる。
これらの中でも、植物由来成分であるコハク酸を利用したポリブチレンサクシネート(PBS)やポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)が特に好ましい。
【0030】
さらに、ポリエステル系樹脂は、脂肪族オキシカルボン酸単位を含有するものでもよい。
この際、脂肪族オキシカルボン酸単位を与える脂肪族オキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸等、またはこれらの低級アルキルエステル若しくは分子内エステル等を挙げることができる。
これらに光学異性樹脂が存在する場合には、D樹脂、L樹脂またはラセミ樹脂の何れでもよく、形態としては固樹脂、液樹脂または水溶液のいずれであってもよい。これらの中で特に好ましいものは、乳酸またはグリコール酸である。これら脂肪族オキシカルボン酸は単独で使用することも、2種以上の混合物としても使用することもできる。
前記脂肪族オキシカルボン酸の量は、ポリエステル系樹脂を構成する単量樹脂成分全樹脂を基準(100モル%)として、下限が通常0モル%以上、好ましくは0.01モル%以上であり、上限が通常30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0031】
また、ポリエステル系樹脂としては、「3官能以上の脂肪族多価アルコール」、「3官能以上の脂肪族多価カルボン酸またはその酸無水物」、又は、「3官能以上の脂肪族多価オキシカルボン酸」を共重合させたものは、得られるポリエステル系樹脂の溶融粘度を高めることができる点で好ましい。
【0032】
3官能の脂肪族多価アルコールの具体例としては、例えばトリメチロールプロパン、グリセリン等を挙げることができる。これらは単独でも2種以上混合して使用することもできる。
4官能の脂肪族多価アルコールの具体例としては、例えばペンタエリスリトール等を挙げることができる。
3官能の脂肪族多価カルボン酸またはその酸無水物の具体例としては、例えばプロパントリカルボン酸またはその酸無水物を挙げることができる。
4官能の多価カルボン酸またはその酸無水物の具体例としては、例えばシクロペンタンテトラカルボン酸またはその酸無水物等を挙げることができる。これらは単独でも2種以上混合して使用することもできる。
【0033】
3官能の脂肪族オキシカルボン酸は、(i)カルボキシル基が2個とヒドロキシル基が1個を同一分子中に有するタイプと、(ii)カルボキシル基が1個とヒドロキシル基が2個のタイプとに分かれ、何れのタイプも使用可能である。具体的には、リンゴ酸等が好ましく用いられる。
4官能の脂肪族オキシカルボン酸は、(i)3個のカルボキシル基と1個のヒドロキシル基とを同一分子中に共有するタイプ、(ii)2個のカルボキシル基と2個のヒドロキシル基とを同一分子中に共有するタイプ、(iii)3個のヒドロキシル基と1個のカルボキシル基とを同一分子中に共有するタイプとに分かれ、何れのタイプも使用可能である。具体的には、クエン酸、酒石酸等を挙げることができる。これらは単独でも2種以上混合して使用することもできる。
【0034】
このような3官能以上の化合物の量は、ポリエステル系樹脂を構成する単量樹脂全樹脂を基準(100モル%)として、通常0モル%以上、好ましくは0.01モル%以上であり、上限は通常5モル%以下、好ましくは2.5モル%以下である。
【0035】
目的とする重合度のポリエステル系樹脂を得るためのジオール成分とジカルボン酸成分とのモル比は、その目的や原料の種類により好ましい範囲は異なる。例えば酸成分1モルに対するジオール成分の量が、0.8モル以上、好ましくは0.9モル以上であり、上限が通常1.5モル以下、好ましくは1.3モル以下、特に好ましくは1.2モル以下である。
また、ポリエステル系樹脂には、本発明の特徴に影響を与えない範囲で、ウレタン結合、アミド結合、カーボネート結合、エーテル結合等を導入することができる。
【0036】
成分B樹脂のガラス転移温度(Tg)は、−80℃〜30℃の範囲であるのが好ましい。成分B樹脂のTgが−80℃以上であれば実用物性を発現することができ、30℃以下であれば常温での粘着効果が強すぎて成形加工性に劣るというような問題が生じることもない。
このような観点から、成分B樹脂のガラス転移温度(Tg)は−60℃以上、或いは0℃以下であるのがさらに好ましく、特に−50℃以上、或いは−20℃以下であるのがより一層好ましい。
【0037】
成分B樹脂のメルトフローレート(MFR)は、190℃、2.16kg荷重で測定した場合、通常0.1g/10分以上である。また上限は、通常100g/10分以下、好ましくは50g/10分以下、特に好ましくは30g/10分以下である。
【0038】
成分B樹脂としては、市販された製品を使用することもできる。例えばBASF(株)製の「Ecoflex」シリーズ、三菱化学(株)製の「GSPla」シリーズ、昭和高分子(株)製の「ビオノーレ」シリーズ、ダイセル化学(株)製の「セルグリーン」シリーズ等が商業的に入手可能なものとして挙げられる。
【0039】
(滑剤)
本フィルムに用いる滑剤の種類は特に限定するものではない。成分Bとの相溶性の観点から、脂肪酸とペンタエリスリトールとのエステル、又は、脂肪酸とジペンタエリスリトールとのエステルを好ましく例示することができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
前記滑剤における脂肪酸としては、例えばコハク酸、アジピン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和直鎖脂肪酸、ソルビン酸、けい皮酸、ミリストレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸などを挙げることができる。中でも、不飽和脂肪酸であるアジピン酸、オレイン酸とペンタエリストールのエステルを用いると、本フィルムに滑り性付与効果と防曇性のバランスをより効果的に付与できるため好ましい。
【0041】
前記成分Aと前記成分Bの合計含有量を100質量部とする場合の滑剤の含有量は、0.1質量部以上5質量部以下の範囲内であることが重要であり、好ましくは0.2質量部以上4.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以上4質量部以下である。滑剤の含有量が0.1質量部未満であると、樹脂組成物Xの溶融体の金型での滑り性が低過ぎるため、金属表面との粘着性が高くなり過ぎ、塩素含有樹脂自体が熱劣化し、フィルム製膜が困難となる。また、滑剤の含有量が5質量部より多いと、フィルムの防曇性の低下やフィルムムラの発生、長期保管時のせり出し現象などの現象が起こりやすくなる。
但し、成分Bの含有量が多くなると、滑り速度を規定の範囲内とすることができる滑剤含有量の範囲が狭くなるため、成分Bの含有量が、成分Aと成分Bの合計含有量の30質量部以上である場合には、成分Bの含有量に対する滑剤の含有量比(滑剤/成分B)は0.001〜0.060であるのが好ましく、特に0.005以上或いは0.045以下、中でも特に0.010以上或いは0.030以下であるのがさらに好ましい。
【0042】
(防曇剤)
本フィルムは、さらに防曇剤を含有することが好ましい。
防曇剤としては、相溶性と色調の観点から、例えばモノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンアルキルエーテルなどを特に好ましく用いることができる。これらは1種単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
中でも、少なくともポリエチレングリコール脂肪酸エステルを含む、すなわちポリエチレングリコール脂肪酸エステルを単独で用いるか、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を併用するのが、安定した防曇性発現の観点から好ましい。
【0043】
前記のモノグリセリン脂肪酸エステルとしては、炭素原子数が12〜18の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸のグリセリンエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
この具体的な化合物としては、例えばモノグリセリンラウレート、モノグリセリンパルミテート、モノグリセリンステアレート、モノグリセリンオレートが挙げられ、これらの中では、モノグセリンオレートが好ましい。
【0044】
前記のジグリセリン脂肪酸エステルとしては、炭素原子が12〜18の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸のジグリセリンエステルからなる群より選ばれるすくなくとも一種の化合物が好ましい。
この具体的な化合物としてはジグリセリンラウレ−ト、ジグリセリンパルミテ−ト、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンオレートが挙げられ、これらの中ではジグリセリンオレートが好ましい。
【0045】
前記のソルビタン脂肪酸エステルとしては、炭素原子数が12〜18の飽和または不飽和脂肪酸のソルビタンエステルが好ましい。具体的にはソルビタンラウレート、ソルビタンミリステート、ソルビタンパルミテート、ソルビタンステアレート、ソルビタンオレート、ソルビタンリノレートなどが挙げられる。
【0046】
前記のポリエチレングリコール脂肪酸エステルとしては、炭素原子が10〜20の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸のポリエチレングリコールエステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物が好ましい。
この具体的な化合物としては、例えばポリエチレングリコールデカネート、ポリエチレングリコールラウレート、ポリエチレングリコールミリスチリネート、ポリエチレングリコールパルミチネート、ポリエチレングリコールステアレート酸及びポリエチレングリコールオレートなどが挙げられる。更に、エステルの形態は、モノエステル及びジエステルのいずれであってもよいが、より高い効果を得るためには、モノエステルが好ましい。
【0047】
前記のポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、炭素数が12〜18の飽和アルコールのポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましく、より好ましくは、エチレンオキサイドの付加モル数が3〜7であるポリオキシエチレンアルキルエーテルである。具体的にはポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンパルミチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどが挙げられる。
【0048】
前記成分Aと前記成分Bの合計含有量を100質量部とする場合の防曇剤の含有量は1質量部以上であることが好ましく、中でも2質量部以上、その中でも特に3質量部以上であるのがより好ましい。また、該含有量の上限は10質量部以下であることが好ましく、中でも9質量部以下、その中でも特に8質量部以下であるのがさらに好ましい。
防曇剤の含有量が1質量部以上であれば、良好な防曇性が得られるほか、食品包装用フィルムへの成形性、十分な包装適性が得られるため好ましい。また、含有量が10質量部以下であれば、本フィルムの表面への防曇剤のブリードアウトが生じにくく、本フィルムの透明性を維持可能であるため好ましい。
【0049】
(その他の成分)
樹脂組成物Xは、上述した成分A、成分B、滑剤及び防曇剤以外に、必要に応じて適宜添加剤を含有することができる。
この添加剤としては、例えば着色剤、無機充填剤、有機充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、帯電防止剤、可塑剤などを挙げることができる。これらの添加剤の添加量は特に限定されるものではなく、本フィルムの所望とする物性を阻害することのない範囲において適宜決定することができる。
【0050】
(樹脂組成物X)
樹脂組成物Xは、前記の成分Aと、前記の成分Bと、前記の滑剤と、必要に応じて前記の防曇剤を含有する樹脂組成物であって、ガラス転移温度が単一であることが好ましい。
【0051】
ここで、樹脂組成物Xのガラス転移温度が単一であるとは、前記樹脂組成物Xについて歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定(JIS K7198A法の動的粘弾性測定)により測定される損失弾性率(E”)の主分散のピークが1つ存在する、言い換えれば損失弾性率(E”)の極大値が1つ存在するという意味である。前記樹脂組成物Xのガラス転移温度が単一であることにより、得られる食品包装用フィルムが優れた透明性を実現できる。
【0052】
樹脂組成物Xのガラス転移温度が単一であることは、前記樹脂組成物Xについて前記動的粘弾性測定において測定される損失正接(tanδ)の主分散のピークが1つ存在する、言い換えれば損失正接(tanδ)の極大値が1つ存在するものであるということもできる。
また、前記動的粘弾性測定のほか、示差走査熱量測定などによってもガラス転移温度が単一であることを確認することができる。具体的には、JIS K7121に準じて、加熱速度10℃/分で示差走査熱量計(DSC)を用いてガラス転移温度を測定した際に、ガラス転移温度を示す変曲点が1つだけ現れるものであるということもできる。
【0053】
一般的にポリマーブレンド組成物のガラス転移温度が単一であるということは、混合する樹脂がナノメートルオーダー(分子レベル)で相溶した状態にあることを意味し、相溶している系と認めることができる。よって、成分Aと成分Bとがナノメートルオーダー(分子レベル)で相溶することが好ましい。また、成分Aと滑剤とがナノメートルオーダー(分子レベル)で相溶することが好ましい。さらにまた、成分Bと滑剤とがナノメートルオーダー(分子レベル)で相溶することが好ましい。
【0054】
樹脂組成物Xのガラス転移温度は、前記の動的粘弾性の温度分散測定により測定される損失弾性率(E”)の主分散のピーク値を示す温度で表されるものであり、該ガラス転移温度が前記塩素含有樹脂のガラス転移温度以上、前記成分B樹脂のガラス転移温度以下の範囲にあることが好ましい。
【0055】
樹脂組成物Xのガラス転移温度は−60〜20℃であることが好ましく、−55℃以上、或いは20℃以下であることがより好ましく、−40℃以上、或いは5℃以下であることがさらに好ましい。樹脂組成物Xのガラス転移温度がかかる範囲内であれば、容器包装により一層の優れた食品包装用フィルムを提供することができる。
【0056】
樹脂組成物Xにおいて、成分Aと成分Bの含有量の質量比は99:1〜55:45の範囲であることが重要である。前記質量比は90:10〜60:40であることがより好ましく、特に80:20〜60:40の範囲であることが特に好ましい。
成分Aと成分Bの含有量の質量比が99:1を超えて成分Aが多くなると、十分な軟質化効果を得ることが困難になるため好ましくない。一方、質量比が55:45を超えて成分Bが多くなると、溶融張力が低下しフィルムの製膜性が悪化したり、分散性が悪化したりするため好ましくない。
【0057】
樹脂組成物X中の植物由来成分の含有割合としては、25質量%以上であるのが好ましく、特に30質量%以上、その中でも40質量%以上であるのがさらに好ましい。上限値としては、成分B樹脂を構成する植物由来割合の観点から90質量%程度である。
【0058】
また、樹脂組成物Xは、温度190℃、壁剪断応力1×10Paにおける滑り速度が0.1mm/sec以上、10mm/sec以下の範囲内であることが重要である。
【0059】
ここで滑り速度とは、島津製作所製フローテスターCFT−500Cを用い、内壁面をクロムメッキしたSmoothノズルと、内壁面の表面粗さがJIS B0601に基づき測定した算術平均粗さRa=10μmであるGrooveノズルについて、それぞれ温度190℃、壁剪断応力1×10MPaにおける前記樹脂組成物Xの流量を測定し、以下の式(1)によって算出するものである。なお、各ノズルは断面積が同一であるものを使用する。
V=(Qsmooth−Qgroove)/S (1)
ここで、上記式(1)において、V[mm/sec]:滑り速度、Qsmooth[mm/sec]:Smoothノズルにおける流量、Qgroove[mm/sec]:Grooveノズルにおける流量、S[mm]:各ノズルの断面積、である。
【0060】
塩素含有樹脂の溶融体の滑り挙動は、塩素含有樹脂と金属壁面との間で発生し塩素含有樹脂内部では発生しないので、壁面がなめらかなSmoothノズルでは見かけの流動は滑り流動と粘性流動の両方を含んでいるといわれている。そのため、適度な凹凸がついたGrooveノズルを用いるとその凹凸に塩素含有樹脂が入り込むため壁面では塩素含有樹脂溶融体となり、その流動は粘性流動のみとなる。よって、その2種類のノズルを用いることによって塩素含有樹脂の滑り流動と粘性流動を分離することができる。
【0061】
本発明者らは、樹脂組成物Xの滑り速度を所定の範囲に制御すれば、外観が良好なフィルムを得ることが可能であることを見出した。すなわち、前記樹脂組成物Xの滑り速度が0.1mm/sec未満であると、溶融体の金型での滑り性が低過ぎるため金属表面との粘着性が高くなり過ぎ、塩素含有樹脂自体が熱劣化し、フィルム製膜が困難となる。一方、前記樹脂組成物Xの滑り速度が10mm/secより大きいと、溶融体の金型での滑り性が高過ぎるため、金型内ですべり流動が支配的となり流れムラによるフィルム外観が悪化する。
【0062】
このとき、成分A、成分B及び滑剤の組成比を、必要に応じてさらに防曇剤の組成比を、上述した範囲内に調整することにより、樹脂組成物Xの滑り速度を上記範囲とすることができる。この際、例えば成分Aと成分Bの組成比が異なれば、樹脂組成物Xの滑り速度を上記範囲とするための滑剤の含有量の範囲も異なるものとなる。より具体的には、成分Bの含有比が増加するのに伴い、樹脂組成物Xの滑り速度が上記範囲となる滑剤の含有量の範囲の上限値は低くなる。よって、上述したように、成分Bの含有量が、成分Aと成分Bの合計含有量の30質量部以上である場合には、成分Bの含有量に対する滑剤の含有量比(滑剤/成分B)は0.001〜0.060であるのが好ましく、特に0.005以上或いは0.045以下、中でも特に0.010以上或いは0.030以下であるのがさらに好ましい。
【0063】
(本フィルム)
本フィルムは、前記の樹脂組成物Xを成形することにより得ることができる。
【0064】
樹脂組成物Xから本フィルムを成形する方法は、特に限定するものではなく、例えばTダイを使用した押出キャスト法や、インフレーション法など、公知の適宜方法を採用すればよい。
【0065】
本フィルムの厚みは、好ましくは7μm〜12μmであり、さらに好ましくは8μm〜11μmである。かかる範囲にあることによって、本フィルムを食品包装用として好適に利用することができる。
【0066】
本フィルムは、常温での伸び特性に優れており、23℃の温度条件下において、JIS K7161に基づき測定したMD方向の引張伸び率が、100%以上であることが好ましく、150%以上であることがより好ましく、200%以上であることが特に好ましい。
引張伸び率をこのような範囲とするためには、例えば成分Aと成分Bの比率を前述した範囲内で調整すればよい。但し、この調整手段に限定するものではない。
【0067】
本フィルムは、低溶出性に優れており、厚生省告示20号に定める蒸発残留物試験法(両面法)で測定したn−へプタン抽出量を10ppm以下とすることができ、より好ましくは9ppm以下とすることができる。
n−ヘプタン抽出量をかかる範囲とするためには、例えば成分Bと滑剤、防曇剤の量を前述の範囲内で調整すればよい。但し、この調整手段に限定するものではない。
【0068】
本フィルムはフィルム巻き出し力が小さいことによって、使用時に容易に巻き出すことが可能であり、幅50mmの本フィルムを巻いた紙管を滑らかに回転させ、巻き出し速度3cm/secで巻き出した際の荷重を、好ましくは1.5N以下、特に好ましくは1.4N以下、中でも特に好ましくは1.3N以下とすることができる。
フィルム巻き出し力をかかる範囲とするためには、例えば成分Aと成分Bの比率を前述の範囲内で調整すればよい。但し、この調整手段に限定するものではない。
【0069】
本フィルムは、防曇性に優れており、例えば縦11.5cm、横11.5cm、深さ6cmのPP製容器に水を深さ2.5cm入れ、その後フィルム包装し、温度0〜5℃、相対湿度25〜35%RHの冷蔵庫に1時間保管しても、水分がフィルム表面に凝結せずに内容物が鮮明に確認できる。仮に水分がフィルム表面に凝結しても、水膜がレンズ状にならず均一で内容物が鮮明に確認することができる。
このような防曇性を有するためには、例えば防曇剤の量を前述の範囲内で調整すればよい。但し、この調整手段に限定するものではない。
【0070】
<用語の説明>
一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(JIS K6900)。例えば厚さに関して言えば、狭義では100μm以上のものをシートと称し、100μm未満のものをフィルムと称すことがある。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0071】
本発明において、「P〜Q」(P,Qは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「P以上Q以下」の意と共に、「好ましくはPより大きい」及び「好ましくはQより小さい」の意を包含する。
また、本発明において、「P以上」(Qは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはPより大きい」の意を包含し、「Q以下」(Qは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはQより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0072】
以下、実施例および比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではない。
【0073】
<原料>
先ず、実施例及び比較例で使用した原料について説明する。
【0074】
(成分A)
塩素含有樹脂として、平均重合度:1030、質量平均分子量:6万、Tg:82℃の塩化ビニル樹脂を用いた。
【0075】
(成分B)
(B−1):1,4−ブタンジオールとコハク酸、アジピン酸、及び乳酸との縮重合体であるポリブチレンサクシネートアジペート(質量平均分子量:17万、酸成分:コハク酸74モル%、アジピン酸20モル%、乳酸6モル%、Tg:−40℃、MFR(190℃、2.16kg荷重):4.5g/10分、植物由来成分:85.7%)を用いた。
(B−2):1,4−ブタンジオールとアジピン酸とテレフタル酸との縮重合体であるポリブチレンアジペートテレフタレート(質量平均分子量:16万、酸成分:アジピン酸52モル%、テレフタル酸48モル%、Tg:−28℃、MFR(190℃、2.16kg荷重):2.5g/10分、植物由来成分:0%)を用いた。
(B−3):1,3−ブタンジオールとアジピン酸の縮重合体であるポリブチレンアジペート(質量平均分子量:0.06万、酸成分:アジピン酸100モル%、植物由来成分:0%)の大日本インキ社製の商品名「W−360EL」を用いた。
(B−4):アジピン酸ジイソノニル(質量平均分子量:0.04万)である、ジェイプラス社製の商品名「DINA」を用いた。
【0076】
(滑剤)
滑剤として、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルであるペンタエリスリトールのアジピン酸オレイン酸エステル(コグニス社製、商品名「Loxiol−G71S」)を用いた。
【0077】
(防曇剤)
防曇剤として、グリセリン脂肪酸エステルであるグリセリンラウレート(理研ビタミン社製、商品名「リケマールL−71」)、及び、ソルビタン脂肪酸エステルであるソルビタンオレート(花王社製、商品名「エマノーンO−10V」)を用いた。
【0078】
(安定剤)
カルシウム亜鉛系安定剤(CaZn安定剤)として、アデカ社製、商品名「アデカスタブSC−320」を使用した。
エポキシ化大豆油として、ダイセル化学工業社製の商品名「S300」(植物由来成分の割合95質量%)を用いた。
【0079】
<実施例・比較例>
表1(各原料の含有量は質量部で示す)に示した割合で成分A、成分B、滑剤、防曇剤及び安定剤(カルシウム亜鉛系安定剤1質量部、エポキシ化大豆油18質量部)を秤量し、これらをヘンシェルミキサーで混合して樹脂組成物Xを得た。この樹脂組成物Xを、単軸押出機を用いて樹脂温度が200℃となるように設定し、Tダイ法にて溶融押出製膜を行い、厚み10μmのフィルム(サンプル)を得た。
【0080】
<評価方法>
実施例・比較例で使用した原料、並びに、実施例・比較例で得られた樹脂組成物X及びフィルム(サンプル)について、以下の方法で測定・評価を行い、結果を表1に示した。なお、フィルム製膜時の流れ方向をMD、MDとの直交方向をTDと呼ぶ。
【0081】
(質量平均分子量)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、溶媒にクロロホルムを用いて、溶液濃度0.2wt/vol%、溶液注入量200μl、溶媒流速1.0ml/分、溶媒温度40℃で測定を行い、ポリスチレン換算で成分B樹脂の質量平均分子量(Mw)を算出し、次の基準で評価した。
○:成分B樹脂のMwが5万以上40万以下
×:成分B樹脂のMwが5万未満、または40万より大きい
【0082】
(滑り速度)
島津製作所製フローテスターCFT−500Cを用い、内壁面をクロムメッキしたSmoothノズル(断面積:800mm)と、内壁面の表面粗さがJIS B0601に基づき測定した算術平均粗さRa=10μmであるGrooveノズル(断面積:800mm)について、それぞれ温度190℃、壁剪断応力1×10MPaにおける樹脂組成物Xの流量を測定し、前記式(1)に従いすべり速度を算出し、次の基準で評価した。
○:0.1mm/sec以上10mm/sec以下
×:0.1mm/sec未満、または10mm/secより大きい
【0083】
(外観)
実施例・比較例で作成したフィルム(サンプル)を目視し、次の基準で評価した。
○:ムラがなく内容物が鮮明に確認できる。
△:ムラが一部に発生しているが内容物が鮮明に確認できる。
×:ムラが全幅に発生し内容物が鮮明に確認できない。
【0084】
(フィルム巻き出し性)
円筒形の紙管(外径85mm、幅330mm)に、幅50mm、厚み10μmのフィルム(サンプル)を10mだけ巻き付け、フィルム巻物が滑らかに回転するように、該紙管内に塩化ビニル樹脂製のパイプ(外径25mm)を挿入した。そして、幅が一定になるようにフィルム先端をクリップで担持しながら、地面と水平方向に引っ張り、巻き出し速度3cm/secでフィルムを巻き出した際に掛かる荷重を、フォースゲージを用いて測定し、次の基準で評価した。
○:1.5N以下
×:1.5Nより大きい
【0085】
(防曇性)
縦11.5cm、横11.5cm、深さ6cmのPP製容器に水(23℃)を深さ2.5cm入れ、その後、フィルム(サンプル)を用いて該容器の開口部を密閉するようにフィルム包装し、温度:0〜5℃、相対湿度:25〜35%RHの冷蔵庫内に1時間保管し、保管後の曇り度合いを次の基準で評価した。
○:凝結せずに内容物が鮮明に確認できる。
△:凝結はするが水膜が均一で内容物が鮮明に確認できる。
×:凝結し、かつ水膜が不均一でレンズ状になり内容物が鮮明に確認できない。
【0086】
(溶出性)
厚生省告示20号に定める蒸発残留物試験法(両面法:いわゆる浸漬法)で、フィルム(サンプル)のn−へプタン抽出量(ppm)を測定し、次の基準で評価した。
○:10ppm以下
×:10ppmより多い
【0087】
【表1】

【0088】
実施例1〜4において、中間物質としての樹脂組成物を一部取り出してガラス転移温度を測定したところ、単一のガラス転移温度が測定されたことから、実施例1〜4の樹脂組成物は完全相溶していることが確認された。
また、表1から明らかである通り、実施例1〜4で得たフィルム(サンプル)は、外観、フィルム巻き出し性、防曇性、低溶出性のいずれにも優れたものであった。他方、比較例1−7で得たフィルム(サンプル)は、外観、フィルム巻き出し性、防曇性及び低溶出性のいずれかの評価に問題があった。特に実施例1−4と比較例3−7を比較すると、樹脂組成物の滑り速度を0.1〜10mm/secの範囲とすることで、フィルムの外観、フィルム巻き出し性、防曇性及び低溶出性をバランスよく高めることができることが分かった。
【0089】
なお、実施例1と実施例2とを比較すると、成分BのMwは大きく違わないのに、滑り速度が大きく異なっている。これは、B−1はコハク酸とアジピン酸という脂肪族カルボン酸、B−2はアジピン酸以外に、芳香族カルボン酸であるテレフタル酸が共重合されているため、この分子構造の差異が表面の活性に差異を与えると推察される。
また、比較例7については、フィルム巻き出し性を試験したところ、フィルム(サンプル)を巻き付けた後、水平方向にフィルムを引っ張っても剥離させることができず、巻き出すことができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分Aと、下記成分Bと、滑剤とを含有する樹脂組成物Xを成形してなる食品包装用フィルムであって、前記樹脂組成物X中における下記成分Aと下記成分Bの含有量の質量比が99:1〜55:45の範囲内であり、下記成分Aと下記成分Bの合計含有量100質量部に対して前記滑剤の含有量が0.1質量部以上5質量部以下であり、前記樹脂組成物Xの温度190℃、壁剪断応力1×10Paにおける滑り速度が0.1mm/sec以上10mm/sec以下の範囲内であることを特徴とする、食品包装用フィルム。
成分A:塩素含有樹脂を主とする成分
成分B:質量平均分子量(Mw)が5万以上40万以下である塩素非含有樹脂を主とする成分
【請求項2】
前記滑剤が、脂肪酸とペンタエリスリトールのエステル、又は、脂肪酸とジペンタエリスリトールとのエステル、又は、これら2種類のエステルの混合樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の食品包装用フィルム。
【請求項3】
前記塩素非含有樹脂が、コハク酸、アジピン酸及びテレフタル酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上のジカルボン酸と、1,4−ブタンジオールとを共重合成分として含むポリエステル系樹脂であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の食品包装用フィルム。
【請求項4】
前記樹脂組成物Xがさらに防曇剤を含むことを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載の食品包装用フィルム。
【請求項5】
幅50mm、厚み10μmのフィルムを、地面と水平方向に巻き出し速度3cm/secで巻き出したときの荷重が1.5N以下であることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載の食品包装用フィルム。

【公開番号】特開2012−188548(P2012−188548A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53307(P2011−53307)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】