説明

食品包装用可食性フィルム

【課題】流通、保管時には、低い透湿性により、包装内容物を湿気による変質から保護し、調理や喫食時には、食品具材を包装したまま水又は湯に投入して使用することが可能な低い透湿性と水易可溶性とを有する即席食品等の食品包装用可食性フィルムを提供すること。
【解決手段】酵母菌体をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる酵母菌体粉砕処理物、又は、酵母菌体から水又は極性溶媒に可溶な可溶性菌体内成分を除去した菌体残渣、或いは、該菌体残渣を酸性水溶液で処理して更に水又は極性溶媒に可溶な可溶性成分を除去した菌体残渣或いはそれらの粉砕処理物からなる酵母細胞壁画分又は酵母細胞壁画分含有物に、ゼラチンを配合し、フィルムシート状に成形することにより、低い透湿性を有し、しかも、水又は湯に投入して容易に可溶化することが可能な、低い透湿性と水易可溶性とを両立させた食品包装用可食性フィルムを製造する。本発明の可食性フィルムは、耐透湿性、水易可溶性と共に、適度の伸縮性と機械的強度、及び、優れた酸素バリアー性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルム、特に、即席食品のような食品の包装に適用して、流通、保管時には、低い透湿性により、包装内容物を湿気による変質から保護し、しかも、水易可溶性を具備して、調理や喫食時には、食品具材を包装したまま水又は湯に投入して使用することが可能な食品包装用可食性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
容器入り即席麺等の即席食品においては、粉末スープや乾燥野菜等の乾燥具材、或いは香辛料、調味料等は、吸湿するのを防ぐため、通常ポリエチレン等のプラスチックフィルムで包装した袋に入れられており、使用者は、使用時に開封して内容物を取り出し使用に供している。しかし、即席性が重要なこのような食品において、開封作業は煩雑感を与えることから、ないことが好ましい。また、使用時に開封した袋等は、廃棄物として処理されることから、このような袋自体を開封後に廃棄物として出さないことは、環境の面からも好ましい。
【0003】
ところで、従来より食品等の包装材料として、ゼラチン、カゼインナトリウム、寒天或いはカラギーナンのような水溶性多糖類等を基材とする可食性フィルムが知られている。これらは包装フィルム自体を可食性として使用に供するものであるが、例えば、特開平6−105660号公報には、ゼラチンをベースとしてペクチン、グリセリン、蔗糖脂肪酸エステルを混合し、フィルム状に成形することにより、溶解性、ヒートシール性、ブロッキン性に優れた可食性フィルムが開示されている。また、特開平6−183456号公報には、ゼラチンに少量のコラーゲンを加えた素材により、保管中に内部の物品が吸湿したり、味や香りその他の成分が放出されることを防止し、使用時に湯により包装フィルムを溶解させる構成の包装フィルムが開示されている。
【0004】
更に、特開2002−95426号公報には、寒天とゼラチンとを混合して形成した可食性ベースフィルムの一面側に、食品用のワックス等の疎水層を形成した、耐透湿性とヒートシール性を向上させた可食フィルムが、特開2008−79525号公報には、少なくともイヌリンを含む糊料と、寒天、カラギーナン、ゼラチン、ファーセレラン、ペクチン等からなるその他の糊料を含む、熱溶解性、ヒートシール性、加工性に優れた可食性フィルムが開示されている。
【0005】
上記のとおり、各種の可食フィルムが開示されている。しかし、該可食フィルムを即席食品のような食品の包装に適用して、流通、保管時には、低い透湿性により、包装内容物を湿気による変質から保護し、しかも、調理や喫食時には、水易可溶性を具備し、食品具材を包装したまま水又は湯に投入して容易に可溶化して使用することが可能な食品包装用可食性フィルムとしての性能を満足するために、例えば、耐透湿性を向上させると、水可溶性が低下したり、水可溶性を向上させると、耐透湿性が低下したりして、両者を完全に満足する可食性フィルムを提供することが難しいという問題があった。また、食品包装材としての利用を可能とするためには、一定の機械的強度と伸縮性等の包装材としての機械的特性が要求される。したがって、これらの要求を満足する優れた物性と、より安価で、安全な食品包装用可食性フィルムの開発が要望されている。
【0006】
一方で、酵素処理した酵母から水又は極性溶媒に可溶な可溶性菌体内成分を除去した菌体残渣、或いは、該菌体残渣を酸性水溶液で処理して更に水又は極性溶媒に可溶な可溶性成分を除去した菌体残渣からなる酵母細胞壁画分から形成されたコーティングフィルムが開示されている(特開2000−44878号公報、特開2002−220793号公報、特開2002−249714号公報)。該コーティングフィルムは、酸素透過度が極めて低く、高い酸素バリアー性を有する等の優れた物性のフィルムを提供するが、該フィルムを食品の包装に適用して、水又は湯に易溶解性の可食性フィルムを提供するというものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−105660号公報
【特許文献2】特開平6−183456号公報
【特許文献3】特開2000−44878号公報
【特許文献4】特開2002−95426号公報
【特許文献5】特開2002−220793号公報
【特許文献6】特開2002−249714号公報
【特許文献7】特開2008−79525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルムを提供すること、特に、即席食品のような食品の包装に適用して、流通、保管時には、低い透湿性により、包装内容物を湿気による変質から保護し、しかも、水易可溶性を具備して、調理や喫食時には、食品具材を包装したまま水又は湯に投入して使用することが可能な低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(4)からなる群より選ばれる酵母細胞壁画分又は酵母細胞壁画分含有物、好ましくは(1)又は(4)記載の粉砕処理物、更に、好ましくは平均粒子径が1〜10μmの(1)又は(4)記載の粉砕処理物にゼラチンを配合し、フィルムシート状に成形することにより製造してなる低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルムからなる:
(1)酵母菌体をそのまま若しくは乾燥処理した後、微粉砕して得られる粉砕処理物;(2)酵母菌体から水又は極性溶媒に可溶な可溶性菌体内成分を除去した菌体残渣;(3)(2)の菌体残渣を酸性水溶液で処理して更に水又は極性溶媒に可溶な可溶性成分を除去した菌体残渣;(4)(2)又は(3)の菌体残渣をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる粉砕処理物。
【0010】
本発明の可食性フィルムは、低い透湿性と水易可溶性を有する上記のような特性と共に、食品包装用フィルムとして、適度の伸縮性と機械的強度を有し、更に、優れた酸素バリアー特性を有する。
【0011】
本発明の可食性フィルムの調製において、可食性フィルムの低い透湿性と水易可溶性とを両立するために、酵母細胞壁画分或いは酵母細胞壁画分含有物に配合するゼラチンの割合は、酵母細胞壁画分或いは酵母細胞壁画分含有物の乾燥重量1重量部に対して、ゼラチンを0.5〜4重量部配合することが好ましい。本発明の食品包装用可食性フィルムを容器入り即席麺等における、粉末スープや乾燥野菜等の乾燥具材、或いは香辛料、調味料等の包装に用いることにより、該食品の保管時には、低い透湿性により、吸湿による内容物の変質を防止し、調理或いは喫食時には、食品具材を包装のまま水又は湯に投入して使用することが可能な食品用の包装を提供することができる。
【0012】
本発明の食品包装用可食性フィルムを製造するには、酵母菌体をそのまま若しくは乾燥処理した後に、平均粒子径が好ましくは1〜10μmとなるように粉砕処理した酵母細胞壁含有物、又は、酵母菌体から水又は極性溶媒に可溶な可溶性菌体内成分を除去した菌体残渣、或いは、該菌体残渣を酸性水溶液で処理して更に水又は極性溶媒に可溶な可溶性成分を除去し、必要に応じて更に平均粒子径が1〜10μmとなるように粉砕処理した菌体残渣からなる酵母細胞壁画分に、ゼラチンを所定割合で配合し、フィルムシート状に成形することにより製造することができる。
【0013】
すなわち、具体的には本発明は、〔1〕以下の(1)〜(4)からなる群より選ばれる酵母細胞壁画分又は酵母細胞壁画分含有物にゼラチンを配合し、フィルムシート状に成形することにより製造してなる低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルム:
(1)酵母菌体をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる酵母菌体粉砕処理物;
(2)酵母菌体から水又は極性溶媒に可溶な可溶性菌体内成分を除去した菌体残渣;
(3)(2)の菌体残渣を酸性水溶液で処理して更に水又は極性溶媒に可溶な可溶性成分を除去した菌体残渣;
(4)(2)又は(3)の菌体残渣をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる酵母菌体粉砕処理物
や、〔2〕酵母菌体をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる酵母菌体粉砕処理物の平均粒子径が1〜10μmである上記〔1〕記載の食品包装用可食性フィルムや、〔3〕食品包装用可食性フィルム原料として、酵母細胞壁画分或いは酵母細胞壁画分含有物1重量部に対してゼラチンを0.5〜4重量部用いる上記〔1〕又は〔2〕記載の低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルムからなる。
【0014】
また、本発明は、〔4〕食品包装用可食性フィルムが、調理或いは喫食時に、食品具材を包装のまま水又は湯に投入して使用するための即席食品の包装用のものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルムや、〔5〕以下の(1)〜(4)からなる群より選ばれる酵母細胞壁画分又は酵母細胞壁画分含有物にゼラチンを配合し、フィルムシート状に成形することからなる、低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルムの製造方法:
(1)酵母菌体をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる酵母菌体粉砕処理物;
(2)酵母菌体から水又は極性溶媒に可溶な可溶性菌体内成分を除去した菌体残渣;
(3)(2)の菌体残渣を酸性水溶液で処理して更に水又は極性溶媒に可溶な可溶性成分を除去した菌体残渣;
(4)(2)または(3)の菌体残渣をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる粉砕処理物
や、〔6〕酵母菌体をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる粉砕処理物の平均粒子径が1〜10μmであることを特徴とする上記〔5〕記載の低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルムの製造方法からなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、特に、即席食品のような食品の包装に適用して、流通、保管時には、低い透湿性により、包装内容物を湿気による変質から保護し、しかも、水易可溶性を具備して、調理や喫食時には、食品具材を包装したまま水又は湯に投入して使用することが可能な低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルムを提供する。更に、本発明の可食性フィルムは、上記のような特性と共に、食品包装用フィルムとして、適度の伸縮性と機械的強度を有し、更に、優れた酸素バリアー特性を有し、本発明は、食品包装用可食性フィルムとして優れた物性の可食性フィルムを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、以下の(1)〜(4)からなる群より選ばれる酵母細胞壁画分又は酵母細胞壁画分含有物、好ましくは(1)又は(4)記載の粉砕処理物、更に、好ましくは平均粒子径が1〜10μmの(1)又は(4)記載の粉砕処理物にゼラチンを配合し、フィルムシート状に成形することにより製造してなる低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルムからなる:
(1)酵母菌体をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる粉砕処理物;(2)酵母菌体から水又は極性溶媒に可溶な可溶性菌体内成分を除去した菌体残渣;(3)(2)の菌体残渣を酸性水溶液で処理して更に水又は極性溶媒に可溶な可溶性成分を除去した菌体残渣;(4)(2)または(3)の菌体残渣をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる粉砕処理物
【0017】
本発明において、用いられる酵母は、ビール酵母、ワイン酵母、パン酵母、トルラ酵母等の飲食品への使用が可能な酵母であればいずれの酵母であってもよい。具体的には、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastrianus)等のサッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)等のキャンディダ(Candida)属に属する酵母、トルラスポラ・デルブルッキー(Torulaspora delbrueckii)等のトルラスポラ(Torulaspora)属に属する酵母、クルイベロミセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)等のクルイベロミセス属(Kluyveromyces)に属する酵母、ピヒア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)等のピヒア(Pichia)属に属する酵母等があげられる。これらの酵母は単独または組み合わせて用いることができる。
【0018】
酵母菌体としては、酵母を固体培地、液体培地等の培地に培養して得られる培養物、該培養物から固液分離して得られる菌体等があげられる。ビール、発泡酒等の発泡性麦芽飲料、雑種等のビール様飲料の製造工程内での発酵工程後に回収された泥状酵母や市販の酵母菌体を用いてもよい。酵母菌体はそのまま次の処理に用いてもよいし、必要に応じて、水、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩の水溶液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝液等に懸濁して用いてもよい。
【0019】
酵母菌体として、発泡性麦芽飲料やビール様飲料の製造工程内での発酵工程後に回収された酵母を用いる場合、苦味が付与されることを防ぐため、アルカリ水溶液で洗浄する等の脱苦味処理を施した菌体を用いることが好ましい。酵母菌体を粉砕処理する場合、酵母菌体はそのまま粉砕処理に供してもよいが、天日乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理に供して乾燥処理物とした後に粉砕処理に供してもよい。粉砕処理としては、ブレンダー、ホモジナイザー、ボールミル、気流粉砕機等による粉砕処理があげられる。粉砕処理物の粒径は小さいほど好ましいが、通常平均粒子径が1〜10μm、より好ましくは平均粒子径が1〜5μmである。酵母菌体の粉砕処理物は酵母細胞壁画分の含有物として本発明に用いることができる。
【0020】
酵母菌体から蛋白質、アミノ酸、糖質、核酸、有機酸等の水又は極性溶媒に可溶な可溶性菌体内成分を除去する方法としては、酵母菌体を酵素処理し、水又はエタノール等の有機溶媒で洗浄する方法、酵母菌体を水に分散し(1:1000〜6:10重量比、好ましくは5:100重量比)、ホモジナイザー、スターラー、振とう器などを使用して均一化し、pHを中性又はその付近に調整した後に加熱し、熱水で抽出する方法等があげられる。酵母菌体を酵素処理する方法としては、酵母の菌体内酵素を利用する自己消化処理する方法、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、β−グルカナーゼ、エステラーゼ、リパーゼ等の酵素を添加して酵素反応させる方法等を挙げることができる。酵素処理条件は使用する酵素により適宜設定する。
【0021】
酵母菌体を熱水抽出する場合、温度は通常は70〜100℃の範囲であり、好ましくは80〜100℃、最も好ましくは約90〜100℃の温度である。抽出時間は1〜240分、好ましくは30〜180分、例えば約60分又はそれ以上である。これらの処理を行なった後、遠心分離、濾過等の適当な分離手段により得られた菌体残渣を酵母細胞壁画分として用いることができる。また、さらに塩酸、硫酸、リン酸、等の無機酸、酢酸、クエン酸等の有機酸等の酸性水溶液で処理した後、水又はエタノール等の有機溶媒で洗浄して菌体内の水または極性溶媒に可溶な成分を除去したものを酵母細胞壁画分として用いてもよい。
【0022】
これらの酵母細胞壁画分は、そのまま本発明に用いてもよいが、上記の粉砕処理に供して平均粒子径が1〜10μm、より好ましくは平均粒子径が1〜5μmの粒子として本発明に用いることが好ましい。
【0023】
本発明に用いられるゼラチンは、牛、豚、魚等いずれの動物由来のゼラチンであってもよい。酸処理により得られるゼラチン(タイプA)と、アルカリ処理により得られるゼラチン(タイプB)のいずれのタイプのものを用いてもよい。
【0024】
本発明の可食性フィルムの製造において、酵母細胞画分又は酵母細胞画分含有物とゼラチンを配合し、可食性フィルムを成形するに際しては、酵母細胞壁画分又は酵母細胞壁画分含有物の乾燥重量1重量部に対してゼラチンを好ましくは0.5〜4重量部添加し、必要に応じて水、保湿剤、油脂、乳化剤等を混合し、加熱してゼラチンを溶解させた後、冷却し、型に流し込み、乾燥させる等の方法により成形することができる。保湿剤としては、ソルビトール、トレハロース、アラビノース、ハチミツ、澱粉等の多糖類、乳酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸、プロビレングリコール等が挙げられる。油脂としては、菜種硬化油脂、大豆硬化油脂、牛油硬化油脂、サラダ油等が挙げられる。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、大豆レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、カゼインナトリウム等の他、これらの製剤が挙げられる。
【0025】
本発明の可食性フィルムの厚さは、用途に応じて適宜調整することができる。透湿性を低くする観点からは厚い方が好ましいが、水への溶解性を向上させる観点からは薄い方が好ましい。両者のバランスを考慮した厚さとしては、例えば、50〜150μmであることが好ましい。
【0026】
本発明の可食性フィルムを用いて、例えば、常法により製袋することにより、透湿性が低く、可食であり、かつ水易可溶性の袋(以下、本発明の袋ともいう)を製造することができる。本発明の袋は、透湿性が低いことから、内容物の吸湿による変質、固化を防ぐことができ、可食性かつ水易可溶性であることから、使用時に開封する必要がなく、そのまま使用することができるため、調理の便利性と廃棄物が発生しない等の利点を有する。このため、本発明の袋は、調理時に水またはお湯を使用する飲食品、例えば、即席麺等に添付する調味料、香辛料、具材等の包装に好適に用いられる。
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
<可食性フィルムの調製>
ビール工場より副生物としてのビール酵母スラリーを入手し、遠心分離して得られた泥状生酵母を水に懸濁した。懸濁液を50℃で自己消化させた後、再度遠心分離して、可溶性菌体内成分を除去した自己消化残渣を得た。該自己消化残渣を0.1mol/lの塩酸に懸濁して80℃で20分間酸処理した後、遠心分離して可溶性画分を除去して得られた残渣を酸処理酵母細胞壁画分として得た。
【0029】
該画分中の平均粒子径をレーザー回析式湿式法で測定したところ、5〜10μmであった。
また、上記スラリー酵母をアルカリ水溶液中に分散させアルカリ状態にし、遠心分離し、得られた泥状酵母を水に分散させ攪拌しながら水洗浄を行った。pHが中性付近になるまで繰り返し水洗浄を行った後、遠心分離して得た脱水酵母を乾燥処理した。得られた乾燥酵母を気流粉砕機に供して粉砕して脱苦味乾燥酵母の粉砕処理物を得た。該粉砕品の粒子の平均粒子径を測定したところ、約3μmであった。
【0030】
<可食性フィルムの透湿試験>
第1表に記載の量の酸処理酵母細胞壁画分または脱苦味乾燥酵母の粉砕処理物、ゼラチン、乳酸ナトリウムおよびソルビットならびに水を混合し、湯せんにより加熱溶解させホモジナイズした。40℃まで冷却しミラー版に流し込み冷風乾燥させてフィルムシートを作製した。
該フィルムシートを用いて6cm×8cmの袋を作製した。該袋に粉末状のラーメンスープ5gを入れて密封した後、ポリ袋に入れて密封し、30℃、相対湿度77%の条件下で3日間保存し、内容物(ラーメンスープ)の状態を観察した。また、コントロールとしてアルミラミネートフィルムを用いて同様の操作を行った。
【0031】
結果を表1に示す。なお、表中の記号の意味は次のとおりである。◎:開始時の状態と変化なし。○:微少のケーキングが認められるが、全体的には開始時の状態と変化なし。△:ケーキングが認められる。×:ケーキングが認められ、崩すことができない。また、酵母細胞壁画分1重量部に対するゼラチン量を第1表に示した。細胞壁画分は、別途調べた結果から、酸処理酵母細胞壁画分については4.8重量%、脱苦味乾燥酵母については30%として算出した。
【0032】
【表1】

【0033】
第1表に示すとおり、酵母細胞壁画分又は酵母細胞壁画分の含有物にゼラチンを含有したフィルムシートで作製した袋を用いた場合、相対湿度77%という過酷な条件下においても、ラーメンスープを3日間良好な状態で保存することができた。なお、フィルムNo.1〜5のいずれのフィルムを用いた袋も保存後お湯をかけたところ、ラーメンスープとともにすみやかに溶解した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、特に、即席食品のような食品の包装に適用して、流通、保管時は優れた耐透湿性を有すると共に、調理や喫食時には、食品具材を包装したまま水又は湯に投入して使用することが可能な低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルムを提供する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(4)からなる群より選ばれる酵母細胞壁画分又は酵母細胞壁画分含有物にゼラチンを配合し、フィルムシート状に成形することにより製造してなる低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルム。
(1)酵母菌体をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる酵母菌体粉砕処理物;
(2)酵母菌体から水又は極性溶媒に可溶な可溶性菌体内成分を除去した菌体残渣;
(3)(2)の菌体残渣を酸性水溶液で処理して更に水又は極性溶媒に可溶な可溶性成分を除去した菌体残渣;
(4)(2)又は(3)の菌体残渣をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる酵母菌体粉砕処理物。
【請求項2】
酵母菌体をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる酵母菌体粉砕処理物の平均粒子径が1〜10μmである請求項1記載の食品包装用可食性フィルム。
【請求項3】
食品包装用可食性フィルム原料として、酵母細胞壁画分或いは酵母細胞壁画分含有物1重量部に対してゼラチンを0.5〜4重量部用いる請求項1又は2記載の低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルム。
【請求項4】
食品包装用可食性フィルムが、調理或いは喫食時に、食品具材を包装のまま水又は湯に投入して使用するための即席食品の包装用のものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルム。
【請求項5】
以下の(1)〜(4)からなる群より選ばれる酵母細胞壁画分又は酵母細胞壁画分含有物にゼラチンを配合し、フィルムシート状に成形することからなる、低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルムの製造方法。
(1)酵母菌体をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる酵母菌体粉砕処理物;
(2)酵母菌体から水又は極性溶媒に可溶な可溶性菌体内成分を除去した菌体残渣;
(3)(2)の菌体残渣を酸性水溶液で処理して更に水又は極性溶媒に可溶な可溶性成分を除去した菌体残渣;
(4)(2)または(3)の菌体残渣をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる粉砕処理物
【請求項6】
酵母菌体をそのまま若しくは乾燥処理した後微粉砕して得られる粉砕処理物の平均粒子径が1〜10μmであることを特徴とする請求項5記載の低い透湿性と水易可溶性とを有する食品包装用可食性フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−103788(P2011−103788A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260117(P2009−260117)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(505144588)キリン協和フーズ株式会社 (50)
【出願人】(000190943)新田ゼラチン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】