説明

食品害虫の防除剤および食品における食品害虫を防除する方法

【課題】貯蔵食品害虫の防除技術の提供。
【解決手段】D−プシコースを有効成分とする食品害虫防除剤およびその利用。
【効果】人に無害で甘味料としての特性を有するD−プシコースを食品用の甘味料およびその一部をして使用することにより食品害虫の防除が可能である。また、単に食品に添加混合するだけの簡便方法により食品害虫を防除する技術を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品害虫の防除剤およびそれを用いる食品における食品害虫を防除する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、穀物を貯蔵する倉庫や精米所などをはじめ 乾燥食品やお菓子などの食品加工工場においては食品害虫が発生することから、害虫は異物混入の一原因であるとして、その対策が必要であり、また、家庭においても食品害虫による被害が発生することはよく知られている。
食品害虫の問題を解決するには、食品害虫が低温と乾燥に弱いことを利用して、食品を保管する際は低温化に行うことが効果的であり、温度が15℃以下になると多くの食品害虫の発育や繁殖が抑えられる。しかしながら、この温度では殺虫することはできない。また、湿度を50%以下に抑えると、カビの発生や虫の発生を抑えられる。一度開封した食品は、虫が侵入出来ないようにしっかり蓋や封をして、密封性の高い容器に入れて保管することが原則であり、特に、一度で使い切れなかった、香辛料、粉体食品類(小麦粉、天ぷら粉、お好み焼き粉、ホットケーキミックス、ココア等)は、密封した容器に食品を入れ冷蔵庫に保管するのが最も簡便な方法である。
【0003】
家庭で発生した食品害虫の殺虫方法としては、虫の発生した食品に直接殺虫剤を噴霧することはできず、食品を廃棄するしかない。冷凍殺虫をする場合もあるが、卵や幼虫を取り出すのは難しい。昆虫類は60℃以上の温度で数分間処理をすると効果的に殺虫できるが、冷凍と同様の問題がある。
貯穀害虫に直接薬剤を用いる場合は、市販されているエアゾール剤やゴキブリ用のくん蒸剤を使っての殺虫や、餌や性フェロモンを用いたトラップも市販されておりこれらの利用が考えられる。食品工場や倉庫で発生した食品害虫の殺虫方法としては、リン化水素(ホスフィン)などのくん蒸剤やピレスロイド系や有機リン系の殺虫剤を使用することができる。害虫による汚染がはじまる以前から忌避剤を使用することも一つの方法である。
【0004】
食品害虫を駆除するには上記する方法などが採用されているが、特許文献においても種々の方法がみられる。その一例を以下に示す。
化学薬品による害虫の駆除としては、[1α,3α−(Z)]−(±)−(2−メチル[1,1'−ビフェニル]−3−イル)メチル 3−(2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシレートと2−[1−メチル−2−(4−フェノキシフェノキシ)エトキシ]ピリジンとを有効成分として含有する貯穀害虫駆除組成物が提案されている(特許文献1)。
【0005】
薬品類を使用しない例としては、貯穀害虫で汚染された穀物に対する主な殺虫処理法である臭化メチル燻蒸の代替となる有効な殺虫技術として、穀物に対し30〜300keVの低エネルギー電子線照射を、時期をずらして2回行う殺虫方法(特許文献2)や、穀粉又は乾燥穀類誘導製品を、−18℃以下の温度で緩慢冷凍・凍結処理を行うことにより、該食品或いは食品材料を変質することなく、穀粉又は乾燥穀類誘導製品に混入した虫及び虫の卵を死滅させることができ、該食品或いは食品材料を変質することなく、簡便な手段で、安全かつ効果的に、殺虫及び/又は殺卵処理することを可能とする技術が提案されている(特許文献3)。
【0006】
また、害虫忌避剤を使用する例としては、貯穀害虫であるコクゾウ、スジコナマダラメイガ、ノシメマダラメイガ及びゴキブリ、衣料害虫であるコイガ、人体害虫であるダニ類に対する忌避効能を高めたヨモギエキス含有液とドクダミエキス含有液及び定着剤を主成分とする植物エキス含有液組成物をフィルム上に塗布・乾燥してなる害虫忌避用フィルム(特許文献4)や、 ニラムオイルおよび/またはパチュリアルコール、α−ブルネセン、α−グアイエン、セイチレンおよびβ−カリオフィレンの少なくとも1種を有効成分とするコクゾウムシなどの貯穀害虫の忌避剤(特許文献5)が提案されている。
【0007】
さらに、菓子類の製造工程における害虫の侵入を防止する例としては、外部からの害虫等の侵入を未然に回避すると共に冷凍装置の廃熱を解消することができる、電装箱の下側に配設されたカバー部材と、ドレン受けの下方両側に設けられ、電装箱及びカバー部材の両側に位置する側板パネルと、カバー部材の下側を閉塞する下部フレーム(底面パネル)とを設けて冷菓製造装置(特許文献6)や、クッキーなどの焼き菓子の結露を防止すると共に虫等の異物の混入を防止し、高品質で安全性の高い菓子を提供するための装置であって、上方に開口を有する包装容器に、焼成した焼き菓子(160℃程度)を入れる(a)。硬質樹脂製の上下基板の開口部に、網目30〜40メッシュのメッシュを挟み覆い板とする。焼き菓子を入れたら直ぐに包装容器に覆い板を被せ、覆い板の開口部を包装容器の開口に一致させる(b)。包装容器7内の空気は、開口部を通して循環するので焼き菓子の熱は放散する。メッシュにより包装容器内へ虫などの異物の通過を遮断する。所定時間(10〜15分程度)放置して冷ました(40〜50℃程度)後、覆い板外して、包装容器に蓋をして密封する(c)(特許文献7)が提案されている。
以上例示した食品害虫駆除技術は、食品類に外的な処理を施すことを主にするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−247415号公報
【特許文献2】特開2006−136316号公報
【特許文献3】特開2005−204572号公報
【特許文献4】特開2004−224753号公報
【特許文献5】特開2005−145863号公報
【特許文献6】特開2001−245602号公報
【特許文献7】特開2002−209505号公報
【特許文献8】WO2008/142860号公報
【特許文献9】特許2001−1−1387号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、甘味料として使用可能な単糖であるD−プシコースの食品害虫の防除という新規用途を提供することを目的とする。甘味料として使用可能な単糖を食品中に含有させることにより、食品中で食品害虫が成育することを抑制するものであり、食品中に生育している虫類の生育阻害、殺虫することにより食品が虫により汚染されて不衛生になることを防止すると共に、健康に害を与えることのない、不快な感情を与えることのない食品を提供することを目的とするものである。また、本発明は、D−プシコースが甘味を呈することを利用して、甘味を必要とする食品類へ用いる甘味料の一部または全部として使用することにより、D−プシコースの甘味料および食品害虫防除剤との両特性を利用した新しい利用分野を提供することを目的とするものである。また、本発明は、保存食品と称される、加工後に長期間保存される食品類、例えば、チョコレートなどの菓子類や、穀粉と甘味料が混合されてなるケーキミックスなどの紛体食品類における食品害虫の防除を目的とするものである。さらに、本発明は、健康食品としての機能をも有する食品類を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の(1)ないし(6)の食品害虫の防除剤を要旨としている。
(1)D−プシコースを有効成分とすることを特徴とする食品害虫の防除剤。
(2)甘味料として使用可能なD−プシコース含有結晶糖質組成物からなる上記(1)に記載の食品害虫の防除剤。
(3)食品害虫が、コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキ、ノシメマダラメイガ、ガイマイツヅリガ、チャイロコメノゴミムシダマシ、ジンサンシバンムシ、タバコシバンムシ、コクゾウ、ココクゾウ、コナナガシンクイ、バクガ、ノコギリヒラタムシ、カクムネヒラタムシ、スジマダラメイガ、スジコナマダラメイガ、ノシメマダラメイガから選ばれた1種以上である上記(1)または(2)に記載の食品害虫の防除剤。
(4)甘味料を含有する食品または貯蔵食品中に配合して用いられる上記(1)、(2)または(3)記載の食品害虫の防除剤。
(5)上記食品が、菓子類または菓子類を製造するための原料粉である上記(4)に記載の食品害虫の防除剤。
(6)D−プシコースの濃度が1.0〜12.0重量%になるように食品中に配合して用いられる上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の食品害虫の防除剤。
【0011】
また、本発明は以下の(7)ないし(9)の食品における食品害虫を防除する方法を要旨としている。
(7)上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の食品害虫の防除剤を食品中に配合することを特徴とする食品における食品害虫を防除する方法。
(8)上記食品中にD−プシコースの濃度が1.0〜12.0重量%になるように配合する上記(7)に記載の食品における食品害虫を防除する方法。
(9)上記食品が、甘味料を含有する食品または貯蔵食品である上記(7)または(8)に記載の食品における食品害虫を防除する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、食品原料となる穀物やそれを利用した加工食品類、貯蔵または流通に長期間を要する食品類の食品害虫による被害を低減することができる食品害虫の防除剤および食品における食品害虫を防除する方法を提供することができる。食品中にD−プシコースを配合するという簡便な方法で食品害虫を防除することを可能とするものであり、既知の殺虫技術が抱えていた課題を解消し、穀物や食品類の貯蔵、流通過程における害虫発生およびそれによる損耗を防止に貢献するものである。
【0013】
本発明は、新規な食品害虫の防除剤を提供するものであり、D−プシコースを食品中に添加するという簡便な方法により有害な食品害虫を防除することができる。D−プシコースは人体に無害で、砂糖の約70%の甘みを有する糖であるから食品類の甘味料として添加することが可能であり、甘味料を用いた貯蔵食品類の食品害虫防除技術として特に有用である。また、本発明の食品害虫防除剤は、食品中に添加混合することのみにより防除作用を発揮するために特別な装置や材料を必要とすることはなく、例えば、食品の包装は従来のまま適用できる。本発明を適用して製造された食品類には害虫による消費者からの苦情もなく、また、流通、貯蔵の段階において消耗する食料資源をきわめて少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ヒラタコクヌストモドキに対するD−プシコースの生育阻害効果を示す。なお、グラフ縦軸は、バイアルあたりの害虫のステージごとの虫数(ヒラコクヌストモドキ)を示す。
【図2】スジコナマダレメイガに対するD−プシコース、D−フラクトースの生育阻害効果(幼虫の生育状況調査の結果)を老齢幼虫の体長mm/頭で示す。
【図3】図2の実験におけるD−プシコース、D−フラクトースの生育阻害効果を幼虫体重(mg/頭)で下段に、引き続き実施した成虫への羽化数の調査結果を(幼虫10頭当たり成虫羽化数)で上段に示す。すなわち、グラフ縦軸は、(下段)幼虫10頭当たりの重さ(mg)(スジコナマダラメイガ)、(上段)幼虫10頭を飼育して成虫へ羽化した個体数(スジコナマダラメイガ)を示す。
【図4】D−プシコース、D−フラクトースの生育阻害効果を成虫への羽化数(幼虫10頭当たり成虫羽化数)で示す。すなわち、グラフ縦軸は、幼虫10頭を飼育して成虫へ羽化した個体数(スジコナマダラメイガ)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のD−プシコースを有効成分とする食品害虫の防除剤は、D−プシコースを含有する食品であって、D−プシコースにより食品害虫が防除されている食品、および食品中の食品害虫を防除する方法に係わるものである。
D−プシコースは自然界に微量にしか存在しない単糖であって、自然界に多量に存在する単糖であるグルコースやフラクトースに対して、希少糖と称されているものである。このD−プシコースは、ほぼゼロカロリーで、甘さが砂糖の70%のさわやかな甘みを呈する人体に無害な糖であり、血糖値の上昇抑制作用、抗酸化作用を有することなどが知られている。本発明者等はD−プシコースがこれらの特性に加え、食品害虫の成育の抑制あるいは殺虫する特性を有することを見出し、これを食品害虫の防除に利用する用途発明を発明したものである。
本発明のD−プシコースを有効成分とする食品害虫の防除剤は、食品類を貯蔵中における食品害虫による生物的な汚染を抑制するものである。穀物を貯蔵する倉庫や精米所などをはじめ、乾燥食品やお菓子などの食品加工工場にも多く発生する食品害虫は、食品類への異物混入の一つとして消費者からのクレームになりやすく、また、製品の品質を維持するという点でも重要であり、これらの問題点を解決する技術を提供するものである。
【0016】
本発明では食品全般に関する食品害虫を対象とするものではあるが、特に、長時間または長期間保存される貯蔵食品類に適用される。本発明での貯蔵食品とは、年または月の単位で貯蔵されるような食品類を主として対象とするが、食品害虫の卵一幼虫一蛹一成虫に変態するライフサイクルの各期間の長さによっては数日間以上貯蔵をするような食品をも含む。こうした貯蔵食品としては、例えば、米、豆などの穀類;小麦粉などの穀粉およびその加工品である麺、パン、ビスケットなどの菓子類、穀粉を原料とする加工品製造用のケーキミックスやパンミックスなどのミックス類;煮干しやビーフジャーキーなどの乾燥動物質食品、干しシイタケなどの乾燥植物質食品、七味唐辛子などの香辛料、味噌、醤油、マヨネーズ、ケッチャップなどの調味料などを挙げることができる。さらにまた、ヒトによって飼育される動物(すなわち、家畜及びペット)用の全ての種類の食品を挙げることができる。例えば、家畜用の飼料、ペットフード及び競走馬用の特殊な食品を含む。
本発明が適用されるさらに好ましい食品類としては、D−プシコースが甘みを有することから糖を含有する菓子類などの食品が最も適している。
【0017】
長期間貯蔵する食品類としては、穀類、穀粉が最も典型的なものであり、また、大量に保存するため食品害虫の被害は甚大なものとなるが、穀粉を使用して製造される食品類であって、製造後に消費者に届くまでに数日以上がかかるもの、輸送前の倉庫での貯蔵などいずれかの段階で長期間を要するものや、消費者の手元に届いて開封された後に長期間断続して使用されるものには食品害虫の被害にあうことが多い。加工食品類は通常加工段階で加熱され、食品害虫やその卵などは死滅するが、貯蔵中に包装を破り侵入することもあるため注意が必要である。また、穀粉類をそのままの状態で使用する、例えば、ケーキミックス類には特に食品害虫の被害が出ないよう対策を施しておくことが必要である。
【0018】
多くの食品メーカーは昆虫混入の対策に苦慮しているが、例えば、チョコレート製品に侵入する昆虫を防止する以下のような研究がなされている。ノシメマダラメイガは広範な食性をもち、コメのような穀類からチョコレートなどの菓子類まで被害を与えるポストハーベスト害虫の代表的ともいえる存在である。「食品に虫が入っていた」との苦情の約7割は、ノシメマダラメイガである。この虫は、夏場には約1ケ月で卵から成虫になるが、食品を加害するのは幼虫だけである。卵からかえった幼虫は約2mmであり、知らなければ糸くずのように見える。その後、幼虫は4回の脱皮をして体長1.3cm程まで成長し、蛹を経て体長1cm前後の成虫になる。成虫の寿命は約10日である。ノシメマダラメイガはチョコレートの包装の孔や隙間から侵入するから、包装のエアーリークを低下させることにより食品害虫の被害を低減させることができることが実証されている。しかしながら、虫の侵入を完全に防止することは難しいことから、虫が侵入しない厳重な包装とともに、一旦侵入した食品害虫の生育を阻害することが必要となる。本発明は、D−プシコースには食品害虫の生育を阻害する作用を有していること、カロリーゼロの甘味料であることを利用して、食品類に添加混合することができるため、特に甘味料を使用する菓子類における食品害虫の防除には最適な技術を提供するものである。以下に本発明について詳述する。
【0019】
[D−プシコース]
D−プシコースとは、自然界での存在量が、グルコースやフラクトースに比べて極めて少ない希少糖と呼ばれている単糖に含まれている。甘味のある糖としてショ糖やブドウ糖などがあるが、D−プシコースは炭素数が6個ある単糖としてブドウ糖と同じ範疇にあり、D−フラクトース(果糖)から、微生物が産生する酵素である「D−タガトース3−エピメラーゼ」を用いて生産される。D−プシコースは砂糖(ショ糖)の約70%の甘みがあり、さわやかな味のするほぼゼロカロリーの糖である。D−プシコースの生産工程3段階に大別される。第一は上記酵素を微生物により生産する工程。第二は酵素を固定化しバイオリアクターを構築し原料(60%D−フラクトース)を流し酵素反応によりD−プシコースに変換する工程。第三はD−フラクトースとD−プシコースの混合物を分離し、D−プシコースを精製する工程からなる。
【0020】
[食品害虫の防除剤としての甘味料として使用可能なD−プシコース含有糖組成物]
甘味料として使用可能なD−プシコース含有糖組成物の具体的態様は、フラクトースの割合が20〜80重量部、グルコースとプシコースの合計の割合が80〜20重量部程度で、プシコースがグルコースおよびプシコースの合計を100重量部とした場合、5重量部以上、好ましくは10重量部以上の比率の砂糖の甘味度と味質に近く肥満などの生活習慣病を予防する甘味料である(特許文献8)。
その甘味料は、その成分であるフラクトース、グルコース、プシコースの混合物であり、各成分を混合して得られる。フラクトース、グルコースは、天然界で一般に存在する単糖であり、天然界から単離して得られるほか、フラクトースは、グルコースをグルコースイソメラーゼ処理して得られた果糖ブドウ糖液糖等から分離して得られる。また、グルコースは、澱粉を加水分解して製造されている。また、プシコースは、天然界では、わずかしか存在しない希少糖の一種で、フラクトースをケトヘキソース3−エピメラーゼ処理することにより得られる。その製造方法は、各構成成分の混合でも得られるが、ブドウ糖を原料としてグルコースイソメラーゼを作用させて製造される果糖ブドウ糖液糖にD−プシコースを添加しても得られるし、上記により得られた果糖ブドウ糖液糖をさらに、D−ケトース3−エピメラーゼを作用させ、フラクトースの一部をD−プシコースに変換することによっても得られる。さらに、グルコース溶液にグルコースイソメラーゼとD−ケトース3−エピメラーゼを同時に作用させ、グルコース、フラクトース、D−プシコースを上記特定の範囲の新甘味料を一工程で製造することもできる。コスト面では、グルコースのグルコースイソメラーゼ処理(異性化)工程とD−ケトース3−エピメラーゼ処理工程を直結した製造法や、グルコースイソメラーゼとD−ケトース3−エピメラーゼの混合酵素系で、グルコースから一度に、目的の糖組成物を製造するのが、コストの面で有利である。
D−プシコースの配合割合は、フラクトースと(グルコースとプシコースの合計)の比は80〜20重量部:20〜80重量部が好ましい。フラクトースは、80部以上になると甘みが増す反面ボディー感が低下する。またフラクトースが20部以下では、甘み感に物足りなさを感じる傾向にある。また、プシコースがグルコースおよびプシコースの合計を100重量部とした場合、5重量部以上の比率で砂糖の甘味度および味質を有する甘味料となるが、10重量部以上の比率で肥満を予防する効果を示す。
【0021】
製造方法は、果糖ブドウ糖液糖、グルコース、または澱粉を出発原料とする場合、種々の方法が可能である。
例えば、(1)果糖ブドウ糖液糖を、澱粉または、グルコースからつくり、さらに、ケトース3エピメラーゼを作用させて、プシコースをつくる。(2)澱粉を分解した分解ブドウ糖液糖にグルコースイソメラーゼとケトース3エピメラーゼを混合酵素の状態で作用させる。
(I)連続プラントを用いた方法(分解果糖ブドウ糖液糖⇒ケトース3−エピメラーゼ)
(1)分解果糖ブドウ糖液糖液の作成
分解果糖ブドウ糖液糖は、定法に従いとうもろこし、馬鈴薯あるいは甘藷などのデンプンを原料に、固定化したもしくはバッチによるアルファアミラーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースイソメラーゼなどの酵素を用い製造する。澱粉原料および用いる酵素の種類は上記に限定されるものではない。また、必要によっては酸分解によるブドウ糖液製造、アルカリを用いた異性化を行っても良い。
(2)果糖ブドウ糖液糖液糖液からD−プシコースの製造
生成した分解異性化糖液を連続的にエピメラーゼに作用させ、グルコースおよびフラクトースおよびプシコースの混合糖液を生成する。
【0022】
(II)混合酵素を用いた方法(分解ブドウ糖液糖⇒グルコースイソメラーゼ+ケトース3−エピメラーゼ)
イソメラーゼおよびエピメラーゼが含まれる固定化酵素を適当なカラムに充填し分解ブドウ糖液糖を連続的に流入させ、反応液を分取する。またこの場合、出発物質をグルコースではなく澱粉とし、アルファアミラーゼとグルコアミラーゼをさらに組み合わせた混合酵素系を使用することも可能である。
【0023】
本発明の糖組成物を製造するに際し、グルコースイソメラーゼは、グルコースに作用し、その一部をフラクトースに変換する酵素で、精製酵素を使っても良いし、該酵素を生産微生物でも良い。さらにケトヘキソース3−エピメラーゼは、フラクトースなどのケトヘキソースの3位のOHを異性化する酵素で、D−タガトース3−エピメラーゼやD−プシコース3−エピメラーゼが知られている(特許文献9:シュードモナス属に属する細菌から得ることのできるD−ケトヘキソース・3−エピメラーゼ、および非特許文献2)。また、精製酵素または、該酵素生産微生物を固定化した固定化酵素、固定化微生物でも良い。
【0024】
また、通常的に使用される、フラクトース42重量部およびグルコース58重量部を構成糖とする異性化糖にケトヘキソース3−エピメラーゼとしてタガトース3−エピメラーゼを作用させるとグルコース58重量部、フラクトース34重量部、プシコース8重量部が生成する。しかしながら、グルコースイソメラーゼとタガトース3−エピメラーゼの混合酵素をグルコースに作用させると予想外にも、グルコース41重量部、フラクトース48重量部、プシコース11重量部の混合物が得られた。どちらの混合物も従来の果糖ブドウ糖液糖に比べ、甘味度、甘味質が砂糖に近づくことがわかった。また、これらの混合物に、果糖、グルコースをさらに添加することにより、甘味度や味質を調整することができる。
【0025】
[食品害虫の防除剤としての甘味料として使用可能なD−プシコース含有糖組成物2]
D−プシコースを含有する糖組成物として、D−プシコース含有異性化糖が例示される。
現在、実用化されている糖の混合物のなかでも、「異性化糖」と呼ばれるD−グルコースとD−フラクトースからなる液糖は、飲食品などの製造において、もっとも利用頻度の高い液糖である。異性化糖には、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、高果糖液糖などがあるが、これらは現在のところ、グルコースイソメラーゼによりD−グルコース(ブドウ糖)をD−フラクトース(果糖)へ変換する異性化反応でしか工業的に実用化されていないために異性化糖と総称されている。特定のヘキソースの有する生理的な作用に着目して、特定のヘキソースを含有する糖組成物を得る目的で製造される混合糖は、新規な糖組成物である。例えば、生理的効果に優れたD−プシコースおよびD−アロースを目的とするヘキソースとしてD−グルコースとD−フラクトースを主組成とする混合糖として広く捉える「異性化糖」からD−プシコースおよびD−アロースを含む変換型の異性化糖を製造した場合、製造される目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖は、新規な糖組成物である。
【0026】
目的とする機能の種類や度合い、使用態様、使用量などに応じて、糖質含量に対し、目的とするヘキソースの含有量を決めて、それを得る目的で最適な製造条件で処理することにより目的とする組成の混合糖を製造することができる。すなわち、原料糖としてのD−グルコースとD−フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖、もしくはD−グルコースおよび/またはD−フラクトースからなる原料糖液を、塩基性イオン交換樹脂、アルカリ、およびカルシウム塩からなる群から選ばれる一種以上が存在する系で処理することにより、原料糖としてのD−グルコースとD−フラクトースを目的とするD−プシコースとD−アロースに変換する平衡反応である異性化反応を生じさせて、原料の異性化糖とは異なる糖組成のD−プシコースおよびD−アロースを含む糖組成物であって、その組成が、糖質含量に対して0.5〜17.0%のD−プシコースおよび0.2〜10.0%のD−アロースを含む糖組成物を製造することができる(特許文献10参照)。該ヘキソース組成物は、D−プシコースおよびD−アロースを同時に含有することに特徴を有し、糖質含量に対して1.0〜15.0%のD−プシコースと0.4〜8.0%のD−アロースを含有する組成からなるものが好ましいものとして、2.5〜8.0%程度のD−プシコースおよび1.5〜5.0%D−アロースを含有する組成からなるものが最も好ましいものとして、例示される。D−プシコースとD−アロースが共存するヘキソース組成物には顕著な効果が奏せられ、D−プシコースまたはD−アロースが単独での効果と対比して予期せぬ相乗効果が奏される。例えば、生理効果において優れた効果が発揮される。こうした相乗効果は、特に、体重減少率、体脂肪減少率や摂餌量減少率において特異的効果が示されている。さらに、D−プシコースおよびD−アロースを含有する糖組成物を摂取した場合には、血糖値の減少、インシュリン値の低下も認められる。糖組成物によるインシュリン値の低下については、これまでD−プシコースまたはD−アロースを単独で摂取した試験では知られていなかった効果である。
【0027】
糖組成物が上述の優れた効果を発揮するには、D−プシコースとD−アロースの全糖質に対する割合に関しては、D−プシコースでは0.5〜15.0%であり、さらに1.0〜15.0%が好ましく、2.5〜8%が最も好ましい範囲である。また、D−アロースでは0.2〜10.0%であり、さらに0.4〜8.0%が好ましく、1.5〜5.0%が最も好ましい範囲である。
D−プシコースとD−アロースの総量としては、0.7〜25.0%であり、さらに、1.0〜20.0%の範囲であることが好ましい。0.7〜25.0%であり、さらに1.4〜23.0%が好ましく、4.0〜13.0%が最も好ましい範囲である。
【0028】
[結晶化の方法]
上記のD−プシコース含有異性化糖からなる糖液を以下の方法で結晶化することができる(特許文献9)。
I:低温での結晶化法
I-(1)種結晶を入れ(あるいは入れずに)数日間約5℃で放置し、結晶を分離できる状況まで結晶化を行い、遠心分離によって結晶を分離する方法。
I-(2)種結晶を入れ(あるいは入れずに)長期間約5℃で放置する方法で、糖質溶液全体を固化結晶化しシャーベット状態とする方法。
II:D−グルコースを添加する方法
D−グルコースを糖溶液に添加し、種をいれ(あるいは入れずに)室温あるいはそれ以下で放置する方法で、糖溶液全体を固化結晶化する方法。
これらの結晶化法を目的とする結晶に合うように選択することが重要である。
【0029】
[本発明の食品害虫の防除剤が対象とする食品類]
本発明では食品全般に関する食品害虫を対象とするものではあるが、特に、長時間または長期間保存される貯蔵食品類に適用される食品害虫防除技術に関する。本発明では、貯蔵食品とは、年または月の単位で貯蔵されるような食品を主として対象とすることが好ましいが、食品害虫の卵一幼虫一蛹一成虫に変態するライフサイクルの各期間の長さによっては数日間以上の貯蔵をする食品をも含む。こうした貯蔵食品としては、例えば、米、豆などの穀類;小麦粉などの穀粉およびその加工品である麺、パン、ビスケットなどの菓子類、穀粉を原料とする加工品製造用のミックス類;煮干しやビーフジャーキーなどの乾燥動物質食品、干しシイタケなどの乾燥植物質食品、七味唐辛子などの香辛料、味噌、醤油、マヨネーズ、ケッチャップなどの調味料などを挙げることができる。
さらに好ましい食品類としては、糖を含有する食品であり、例えば、菓子に関連する食品類を挙げることができる。菓子類の具体的には、洋菓子としては、スポンジケーキ類、バターケーキ類、シュー菓子類、発酵菓子類、フィユタージュ類、タルト・タルロレット類、ワッフル類、シュトルーゼ類、料理菓子類;スポンジケーキ類・バターケーキ類・発酵菓子類・タルト・タルロレット類の一部、砂糖漬類;キャンデー類、チョコレート類、チューインガム類、ビスケット類、スナック類を挙げることができる。
また、和菓子としては、打ちもの、押しもの、掛けもの、焼きもの、あめもの、揚げもの、豆菓子、米菓;あんもの、おかもの、焼きもの、流しもの、練りもの、砂糖漬けもの;もちもの、蒸し物、焼きもの、流しもの、練りもの、揚げものなどを挙げることができる。
【0030】
[食品害虫]
一般に貯穀害虫と呼ばれるものはその全発育ステージを貯蔵食品中で過ごすものを指し、大部分はコウチュウ目とチョウ目に属している。また、これらを捕食したり、これらに寄生したりする天敵も同時に見つかることがある。天敵として知られているものの大部分は捕食性のカメムシと捕食寄生性の小さなハチである。貯穀害虫に共通する特徴としては、極めて低水分の貯蔵食品を餌とする、食品の流通と共に各地に広がり、今では貯穀害虫の多くが世界共通種となっている、倉庫等の施設内で見つかることが多く、野外ではほとんど見つかないなどがある。
本発明により防除される貯蔵食品害虫としては、甲虫(コクゾウ類・ゴミムシダマシ類・マメゾウムシ類・ヒラタムシ類・ホソヒラタムシ類・カッコウムシ類・ケシキスイ類・ヒメマキムシ類等);蛾(ノシメマダラメイガ・スジマダラメイガ・スジコナマダラメイガ・ツヅリガ・バクガ);ダニ(コナダニ類) ;チャタテムシ(茶立虫)などを挙げることができる。具体的には、コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキ、ノシメマダラメイガ、ガイマイツヅリガ、チャイロコメノゴミムシダマシ、ジンサンシバンムシ、タバコシバンムシ、コクゾウ、ココクゾウ、コナナガシンクイ、バクガ、ノコギリヒラタムシ、カクムネヒラタムシ、スジマダラメイガ、スジコナマダラメイガ、ノシメマダラメイガ、ケナガコナダニ、ヒラタチャタテムシなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0031】
[D−プシコースの食品害虫の防除]
甲虫目の貯穀害虫4種(チャイロコメノゴミムシダマシ、ヒラタコクヌストモドキ、ジンサンシバンムシ、コクゾウムシ)および、チョウ目の貯穀害虫3種(ノシメマダラメイガ、スジコナマダラメイガ、ガイマイツヅリガ)に対する殺虫作用を調査し、D-プシコースの殺虫スペクトルを解明した例を以下に説明する。
0.1〜5%のD−プシコースを添加した小麦粉でヒラタコクヌストモドキを飼育したところ、D−プシコースは、成虫に対しては殺虫活性を示さないものの幼虫の生育を強く抑制することを確認した。4%での成長抑制活性は幼虫成長阻害60%であった。そこでより高濃度での追試験を行ったところ8%の混入で極めて強い活性(蛹化率0%,幼虫成長阻害95%,2ヶ月後成虫致死率50%)が確認された。このことから以後に行う試験は4%若しくは8%で試験を行った。
【0032】
その結果、4%のD‐プシコースを添加した小麦粉では、ノシメマダラメイガ、スジコナマダラメイガ、チャイロコメノゴミムシダマシ、ジンサンシバンムシの幼虫に対してそれぞれ24%、56%、40%、32%、40%の成長阻害活性が確認され、8%では91%、88%、75%、82%の成長阻害活性が確認された。
ガイマイツヅリガおよびコクゾウムシに対する試験は玄米の表面にD−プシコースを塗付する方法で検討したところ、ガイマイツヅリガには成虫阻害活性(13%)が確認されたものの、コクゾウムシには効果が確認できなかった。これはコクゾウムシ幼虫が玄米の内部を加害しD−プシコースの処理された表面を食害しないためと考えられた。また、ガイマイツヅリガは玄米全体を食害するものの表面処理された糖の全体に占める割合は0.5%程度と見積もられ全体としての含有量が少ないためと考えられた。表面のべたつきなどからそれ以上の処理は困難であった。
以上の結果からは、D−プシコースによる害虫防除には8%程度の高濃度の処理を行うこと、ならびに局所処理でなく全体処理が望ましいことが判明した。さらに、8%前後のD−プシコースを含有する食品は、D−プシコースによる甘みを感じることからビスケットや乾パンのような甘味料を含有する貯蔵食品を対象に適用することが好ましいことが判明した。
【0033】
本発明のD−プシコースによる食品害虫の防除を行うには、D−プシコースが食品害虫と接触して体内に摂取することが重要であるため、食品類に直接添加混合する、食品類に被覆することにより害虫防除作用が発揮される。D−プシコースの食品類への添加量は30重量%以下、好ましくは1〜12重量%の範囲が食品害虫駆除作用を利用するに適当である。1%以下であれば防除効果が十分発揮されない、また、30重量%より多いと添加量が多すぎて食品としての適性が維持できないし、現在の価格から見て経済的に好ましくない。より好ましい添加量としては、4〜10重量%、最も好ましくは、6〜10重量%である。
【0034】
以下に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
[ヒラタコクヌストモドキの防除]
本実施例では、D−プシコースのヒラタコクヌストモドキへの阻害効果を試験した。
ヒラタコクヌストモドキは、コクヌストモドキとともに、小麦粉の大害虫として世界的に著名な種類であり、コムギ、トウモロコシ、コメの粉などを好み、完全な穀粒に対してもコクヌストモドキより加害能力が高く、穀粉や穀類屑、乾燥果物や乾燥野菜、加工品の製菓類(ビスケット等)からも発生することから食品に混入する被害も多い食品害虫として知られている。
ヒラタコクヌストモドキの外観は、体長3〜4mm、赤褐色で、コクヌストモドキに良く似るが、触角の先端3節が特に膨大することなく、先端に向ってだんだん太くなる。また腹面から見ると、複眼が丸く、左右の複眼の距離がより広い。幼虫は6mmに達し、尾端に1対の棘状突起がある。薄黄色で、頭部と尾端の突起は黄褐色。蛹は体長3〜4mmで、乳白色で微端に1対の長刺がある。
そのライフサイクルは、卵期間4.9日、幼虫期間18.0日、蛹期間6.1日、成虫の寿命は300日以上で、発育温度は25〜35℃である。
【0036】
[試験方法]
ヒラタコクヌストモドキの成虫8頭に対し所定量のD−プシコースを添加した小麦粉からなる餌を0.5g与えて2か月間飼育した後のヒラタコクヌストモドキの成虫、蛹、幼虫の頭数を計測した。試験は3回繰り返しその平均頭数を表1および図1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1および図1には、D−プシコースを0.25〜4%添加した餌を与えた試験例、小麦粉のみを与えた比較例の試験結果を示している。成虫については生存している頭数と死んだ頭数の平均値を示し、蛹となっている頭数の平均値、幼虫については生きている幼虫の頭数をその大きさで大、中、小と分類して示した。
D−プシコースを給餌することにより生きている成虫の頭数は若干減少する。また、蛹や幼虫の生存頭数は明らかに減少していることが表1から明らかである。特に、D−プシコースを1〜4重量%含有する餌を与えた試験例では、幼虫の生存数が減少することがはっきりと認められた。特に大きな幼虫の頭数が減少することはD−プシコースは幼虫の長期間にわたる生育を阻害していると考えられる。
【実施例2】
【0039】
実施例1により、D−プシコースを4重量%添加した餌によりヒラタコクヌストモドキの生育が阻害されることが判明したので、さらに高濃度での生育阻害効果を検討した。小麦粉に8重量%のD−プシコースを添加した餌を与えて2か月間飼育した後の結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
D−プシコースを8重量%含有する餌による生育阻害効果は、成虫、蛹、幼虫のいずれにおいても明らかに示されており、4重量%の添加では効果が少なかった成虫に対しても有効であり、8頭中の5頭以上が死ぬことが明らかとなった。また、表2からは、幼虫の生存頭数は激減している。このことはD−プシコースの存在により孵化数が大きく減少するか、孵化後に大きな幼虫にまで成長することがほとんどないことを示している。
【実施例3】
【0042】
[スジコナマダラメイガ]
スジコナマダラメイガの生育阻害効果にについて試験した。D−プシコースを4重量%含有する小麦粉からなる餌をスジコナマダラメイガの卵4mgとともに飼育して3週間後の幼虫10頭を秤量した結果を図2に示す。
スジコナマダラメイガの外観は、老齢幼虫の体長は18mm内外あり、頭部は褐色、胴部は赤みを帯びた乳白色をしている。その成虫は、体長10〜15mmで、翅を広げると21mm内外であり、前翅は灰色で、基部側がジグザグの濃い色の帯状紋がある。
スジコナマダラメイガは、製粉、精米、精麦、飼料工場などで普遍的に見られ害虫であり、工場のパイプラインのつなぎ目や機械の裏と言った粉ゴミのたまりやすいところで発生することが多い。そのライフサイクルは、卵で3日間、幼虫で22日間、蛹で7日間、成虫で12日間生存する。
【0043】
図2中の記号は、DはD体、その次のアルファベットは希少糖の頭文字であり、DF:D−フルクトース、DP:D−プシコースを示す。8%および4%は餌中の糖濃度を示す。
この試験の結果(老齢幼虫の体長mm/頭)から、DPは、スジコナマダラメイガの孵化または幼虫の生育を阻害することが認められた。また、DFでは8重量%で生育阻害効果は認められなかったが、8重量%のDPを添加した餌では顕著な生育阻害効果が認められた。図3の下段に図2の実験における幼虫体重(mg/頭)を調査した結果を示す。すなわち、図3の下段のグラフ縦軸は、幼虫10頭当たりの重さ(mg)(スジコナマダラメイガ)を示す。
【実施例4】
【0044】
実施例3の実験に引き続き(幼虫の生育状況調査に引き続き)、成虫への羽化数も調査した。その結果、図3の上段(幼虫10頭当たり成虫羽化数)および図4に示すように、8%プシコースでは羽化が0頭であり、世代更新を完全に阻害していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、食品原料や飼料原料として用いられる穀物およびこれを利用した食品類を簡便な方法により広範囲な種類の殺虫を処理することを可能とし、食品害虫を効果的に駆除することができる。穀物や加工食品類の貯蔵、流通過程での害虫の発生ならびにそれによる損耗を効果的に防止することができる。また、人畜に無害で、甘味料としても使用できるD−プシコースは、従来の食品の甘味料の代替あるいは一部置換を可能とすることによりその適用が広範囲にわたるのみならず、単に食品に添加混合することにより害虫防除作用を発揮することから従来の製造設備、貯蔵設備などをそのまま使用できるため余分な設備投資を必要としないなどの効果が奏される有用な発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−プシコースを有効成分とすることを特徴とする食品害虫の防除剤。
【請求項2】
甘味料として使用可能なD−プシコース含有結晶糖質組成物からなる請求項1に記載の食品害虫の防除剤。
【請求項3】
食品害虫が、甲虫、蛾、ダニおよびチャタテムシから選ばれた1種以上である請求項1または2に記載の食品害虫の防除剤。
【請求項4】
甘味料を含有する食品または貯蔵食品中に配合して用いられる請求項1、2または3記載の食品害虫の防除剤。
【請求項5】
上記食品が、菓子類または菓子類を製造するための原料粉である請求項4に記載の食品害虫の防除剤。
【請求項6】
D−プシコースの濃度が1.0〜12.0重量%になるように食品中に配合して用いられる請求項1ないし5のいずれかに記載の食品害虫の防除剤。
【請求項7】
請求項1ないしら6のいずれかに記載の食品害虫の防除剤を食品中に配合することを特徴とする食品における食品害虫を防除する方法。
【請求項8】
上記食品中にD−プシコースの濃度が1.0〜12.0重量%になるように配合する請求項7に記載の食品における食品害虫を防除する方法。
【請求項9】
上記食品が、甘味料を含有する食品または貯蔵食品である請求項7または8に記載の食品における食品害虫を防除する方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−82639(P2013−82639A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222042(P2011−222042)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【出願人】(506388060)株式会社希少糖生産技術研究所 (18)
【Fターム(参考)】