説明

食品容器製造用シート、食品容器及びその製造方法

【課題】 レトルト容器として、充分なガスバリヤ性を備え、レトルト食品製造時の高温度長時間の加熱に耐え、二次成形によって容器を所望の形に成形できて、使用後の処分も容易であるような食品容器を提供しようとする。また、その食品容器を製造するためのシートと、そのシートを使用した食品容器の製造方法を提供しようとする。
【解決手段】 メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合させて得られたポリアミド樹脂のフィルムの両側に、接着樹脂フィルムを介して、熱可塑性ポリエステル樹脂のフィルムを貼り合わせてなる積層シートにおいて、熱可塑性ポリエステル樹脂に結晶核剤を含ませて、しかもその結晶率を10%以下としたものをシートとする。このシートを成形したあとで、成形体を熱可塑性ポリエステル樹脂のガラス転移点以上に加熱して、結晶率を20%以上にして食品容器とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、食品容器製造用シート、食品容器及びその製造方法に関するものである。そのうちの食品容器は、合成樹脂のみで作られたレトルト食品用の容器であって、食品容器製造用シートを二次成形することによって容易に成形できることが特徴となっているものである。
【背景技術】
【0002】
インスタント食品の中では、最近レトルト食品が急速に広く普及してきた。レトルト食品は生の食材を調味料とともに容器に入れ、そのまま容器と一緒に食材を加熱して調理すると同時に滅菌し、直ちに容器の口を閉じて製品とするものである。
【0003】
レトルト食品に使用される容器は、レトルト容器と呼ばれて厳格な性能が要求される。第1に、レトルト容器は食品に触れるために永い期間にわたって無害なものでなければならない。第2に、レトルト容器は食品を変質させないで、永く貯蔵できるものでなければならず、そのためにガスとくに酸素ガスを透過させないというガスバリヤ性を持つものでなければならない。第3に、レトルト容器は調理と滅菌のために、例えば200℃で10分間加熱するというような苛酷な加熱に耐えるものでなければならない。
【0004】
このために、レトルト容器は、これまで金属箔を含んだものが多く用いられた。とくに、アルミニウム箔にポリエチレン樹脂などの樹脂フィルムを貼り合わせて、積層シートとしたものが多く用いられた。
【0005】
しかし、アルミニウム箔を用いたレトルト容器は、外から内部の食品を全く見ることができないので、購入がためらわれる。また、アルミニウム箔を用いたレトルト容器は、使用後に焼却すると、あとにアルミニウムが残るので、あと処理が厄介であるという問題があった。さらにアルミニウム箔を用いたレトルト容器は、二次加工によって皿状などに成形することができない、という欠点があった。また、最近では消費者が食品を電子レンジに入れて加熱しようとする傾向があるところ、アルミニウム箔があると、電子レンジでの加熱ができないので、不便だという苦情も寄せられた。そこで、アルミニウム箔を用いていないレトルト容器の開発が要求されるに至った。
【0006】
特公平5−87391号公報は、上記の要求に一部対応できた食品貯蔵用容器を提供している。この容器は、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合させることによって得られた特殊なポリアミド樹脂フィルムの両側に、エチレンと不飽和カルボン酸との共重合体からなる接着性フィルムを介在させて、その上に熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを貼り合わせて積層シートとしたものを容器状に成形したものである。
【特許文献1】特公平5−87391号公報
【0007】
この公報が提供する食品容器は、容器の外から内容物を見ることができ、使用後に焼却すれば残渣がないので、使用後の処分が容易であり、しかも或る程度の耐熱性を持っている。しかし、電子レンジによる加熱や、レトルト食品製造時のような高温長時間の加熱には耐えることができない、という欠点を孕んでいる。
【0008】
他方、特開2001−294279号公報は、上述の要求に答えるものとして、ポリビニルアルコールなどの高水素結合性樹脂からなるガスバリヤ層と、ポリエステル又はポリアミドの二軸延伸フィルム層と、ヒートシール性樹脂層からなる積層シートであって、特定波長の光の透過率を5%以下とした積層シートを提案している。しかし、この積層シートは二軸延伸フィルムを含んでおり、二軸延伸フィルムは二次成形のために加熱すると、収縮するので容器成形用シートとして使用することができない。
【特許文献2】特開2001−294279号公報
【0009】
また、特開昭59−62660号公報は、熱可塑性ポリエステル樹脂の中でも、とくに結晶化し易いものを選び、これに結晶化促進剤としてポリオレフィンを添加して、これを直接容器状に成形し、成形後にポリエステル樹脂を結晶化させて耐熱性の容器とすることを提案している。
【特許文献3】特開昭59−62660号公報
【0010】
しかし、熱可塑性ポリエステル樹脂は、ガスバリヤ性に乏しいから、この樹脂だけで作られた容器は食品を貯蔵するに適していない。さらに、この容器は樹脂から直接容器に成形することとされているから、成形に大掛りな装置が必要とされ、二次成形のように簡単に種々の形状の容器に成形することができない。
【0011】
また、特開平8−58037号公報は、ボイル加熱、電子レンジ加熱が可能で、ガスバリヤ性を有する耐熱性ポリエステル樹脂容器を提案している。この提案は、結晶化促進剤含有の熱可塑性ポリエステル樹脂(B)に、部分けん化されたエチレン・酢酸ビニル共重合体、すなわちエチレン・ビニルアルコール共重合体(A)を加えて混合樹脂を作り、この混合樹脂で容器を成形することとしている。しかし、この提案は、上述の共重合体(A)がポリエステル樹脂(B)よりも融点が遥かに低いために、混合樹脂を作ること自体が容易でない、という欠点を持っている。
【特許文献4】特開平8−58037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、これまではレトルト容器として、ガスバリヤ性、耐熱性、二次成形性などの要求を満たし、且つ使用後のあと処理も容易であるような容器は、提供されなかった。そこで、この発明は充分なガスバリヤ性を備え、レトルト食品製造時の高温長時間の加熱にも耐え、加熱し真空成形などの二次成形することによって容易に任意の形に成形できて、使用後の処分も問題なくできる、食品容器を提供しようとするものである。また、そのような食品容器を製造できる食品容器用シートを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明者は、上記課題を解決するには、特公平5−87391号公報が提唱する容器を改良して、耐熱性を向上させるのが適していると考えた。そこで、上記公報が提唱する5層の積層シートの各フィルムについて、耐熱性を向上させることを検討した。その結果、外層に存在する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの耐熱性を向上させるだけで、5層の積層シートはレトルト食品製造時の加熱に耐えるだけの耐熱性を持つに至ることを見出した。
【0014】
また、この発明者は、積層シートを二次成形をする前には、シート中の熱可塑性ポリエステル樹脂層を耐熱性の乏しい状態にしておいて二次成形を容易にし、二次成形したあとで熱可塑性ポリエステル樹脂を耐熱性に富んだ状態にするのが理想的であると考えた。この理想は、熱可塑性ポリエステル樹脂層に、結晶化を促進させる核剤を予め配合しておいて、この配合物を押出機に入れて押し出し、フィルムに成形すると同時に急冷して結晶率の小さいフィルムとすることによって達成できることを見出した。
【0015】
結晶率の小さい熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、これを二次成形によって容器としたあとで、得られた容器を引き続き加熱して、熱可塑性ポリエステル樹脂の結晶率を高めると、著しい耐熱性を持つに至ることを見出した。この発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
【0016】
この発明は、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合させて得られたポリアミド樹脂のフィルムの両側に、接着樹脂フィルムを介して熱可塑性ポリエステル樹脂のフィルムを貼り合わせてなる積層シートにおいて、上記ポリエステル樹脂のフィルムが結晶核剤を含んでいて、しかも結晶率が10%以下の低い状態となっていることを特徴とする、食品容器製造用シートを提供するものである。
【0017】
また、この発明は、上記の積層シートを両面から加熱して軟化させ、軟化したシートを熱可塑性ポリエステル樹脂のガラス転移点以上の温度に保持された成形型に押し付けて容器の形に成形し、その後成形された容器を上記温度に暫らく保持して、熱可塑性ポリエステル樹脂の結晶率を20%以上にすることを特徴とする、食品容器の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、この発明は、上記の製造方法によって得られた食品容器を提供するものである。その容器は、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合させて得られたポリアミド樹脂フィルムの両側に、接着樹脂フィルムを介して結晶核剤含有の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを貼り合わせてなる積層シートを容器の形に成形したものであって、その中の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの結晶率が20%以上になっていることを特徴とするものである。その中でも結晶率は25%以上であることが望ましい。
【0019】
接着樹脂フィルムは、エチレンと不飽和カルボン酸とを含んだ共重合体を主体とするフィルムであってもよい。しかし好ましいのは、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合させて得られたポリアミド樹脂と、熱可塑性ポリエステル樹脂とを加えた組成物からなるフィルムである。この組成物は、耐熱性を持っていて、しかもポリアミド樹脂にも熱可塑性ポリエステル樹脂にも接着性を持っていて、接着樹脂として充分働くものであることが見出された。この組成物に、さらに上記の共重合体を少量加えると、樹脂の混合が一層容易となる。また、さらに好ましいのは上記組成物にさらにポリエステル樹脂用の結晶核剤を加えたものである。このようなものを用いると、ポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂に対する接着樹脂フィルムの接着力が大きくなるとともに、耐熱性が一層向上するので有利である。
【0020】
この発明で用いるポリアミド樹脂は、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合させることによって得られた特殊なポリアミド樹脂(以下、これをMX樹脂という)である。MX樹脂はガスバリヤ性が良好で、とくに酸素ガスと二酸化炭素の透過率が極めて小さいために、食品容器を作るのに好適な樹脂とされる。MX樹脂は、例えば三菱ガス化学社からMXD6というような商品名で販売されている。
【0021】
この発明で用いる熱可塑性ポリエステル樹脂(以下、これをPETという)は、芳香族のジカルボン酸と脂肪族の二価アルコールとを縮合させて得られた線状高分子からなるものである。芳香族のジカルボン酸としてはテレフタール酸が多く用いられ、二価アルコールとしてはエチレングリコールが多く用いられる。PETは本来結晶性のものであるが、押出機によってフィルムに成形すると同時に冷却すると、PETは結晶化する遑がなくて結晶率の低いものとなり、通常は結晶率が10%以下となり、急冷した場合には約5%という結晶率の低い非晶性フィルムとなる。ところが、こうして得られた結晶率の低いフィルムは、ガラス転移点以上の高温に暫らく保持すると、急速に結晶率を高めて結晶率が約20%以上、さらには30%以上となる。
【0022】
PETは上述のように結晶化する性質を持っているが、その中には比較的結晶化し易いものと、比較的結晶化しにくいものとがある。結晶化し易いものは、平均分子量の大きいものである。その分子量はPETの固有粘度(I.V.値)として表わされる。この発明ではI.V.値として0.6、好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1以上のものを用いる。
【0023】
PETの結晶率は色々な方法で測定することができる。赤外線分光法、X線回折法、示差走査熱量測定法、密度法、核磁気共鳴法などによって測定できる。しかし、そのうちで比較的容易に正確に測定できるのは、密度法と示差走査熱量測定法である。
【0024】
密度法はPETの非晶部分の密度が1.455であり、PEの結晶部分の密度が1.335であると判明しているので、問題となっている資料の密度dを測定して次式により結晶率を算出する。
結晶率=1.455(d−1.335)÷d(1.455−1.335)
【0025】
示差走査熱量測定法は、PETを定速で加熱して行くと、初めに結晶が増大し、その後に融解するが、結晶の増大時には冷結晶化熱を発生し、融解時には融解熱を吸収する。そこで、結晶化に際して発生する冷結晶化熱量と、融解の際に吸収される融解熱量とを測定し、これを完全結晶の理論から導かれた融解熱量と対比して、結晶率を算出する。
【0026】
実際にPETの冷結晶化熱量と融解熱量とを測定するには、示差走査熱量測定法によるのが便利である。この方法では、測定資料と標準資料とのヒーターが独立に作動し、定速加熱の過程で両者間に温度差が生じると、どちらかの熱流の増加又は抑制機構が自動的に働いて、これを打ち消すので、この熱量測定差が直接記録されるようになっている。結晶率は理論的には次の数式に従って算出される。
(モル当たりの融解熱量の絶対値−モル当たりの冷結晶化熱量の絶対値)÷完全結晶P ETのモル当たりの融解熱量×100=結晶率(%)
【0027】
ここで完全結晶PETのモル当たりの融解熱量は、高分子データハンドブック(培風館発行)によれば、26.9KJとされているので、これを使用する。
【0028】
結晶率の低いPETは軟化点が低く、従って充分な耐熱性を持たないが、結晶率の高いPETは軟化点が高く、従って充分な耐熱性を持っている。また、結晶率の低いPETは接着し易いが、結晶率の高いPETは接着しにくく、従って印刷し難いなどの欠点を持つに至る。
【0029】
PETの結晶化を促進させる結晶核剤としては、種々のものが用いられる。核剤は大きく分けると、無機物と有機物とになる。核剤は無機物と有機物とを混合して用いることが好ましい。無機物としては、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、酸化マグネシウム等を用いることができる。これらは何れも微粉末、とくに2〜3ミクロン以下の微粉末としたものを用いるのが好ましい。その量はPETに対して0.01〜5重量%の範囲内とするのが好ましい。
【0030】
核剤のうち、有機物はポリオレフィンと有機酸のアルカリ金属塩である。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等を用いることができる。ポリオレフィンはPETに対して1〜15重量%、とくに2〜8重量%用いることが好ましい。有機酸のアルカリ金属塩としては、ステアリン酸ナトリウム、安息香的ナトリウム、エチレン・アクリル酸又はスチレン・アクリル酸共重合体のナトリウム塩等を用いることができる。有機酸のアルカリ金属塩は、PETに対して0.01〜10重量%の範囲内で用いることが好ましい。
【0031】
この発明で用いる接着樹脂は、エチレンと不飽和カルボン酸とを含んだ共重合体を主材とするものであってもよいが、またこの共重合体を分散剤として、ほかにMX樹脂とPETとを混合して得られた混合樹脂を主材としたものであってもよい。その混合割合はMX樹脂5〜95重量部にPETを95〜5重量部とすることができる。そのうちでも好ましいのはMX樹脂30〜70重量部にPET70〜30重量部の割合としたものである。また、混合樹脂にはさらにPETの結晶核剤をPETに対して1〜10重量%の割合で加えてもよい。
【0032】
この発明では、MXフィルム、接着樹脂フィルム及びPETフィルムを貼り合わせて積層シートとするが、そのときの各フィルムの厚みは次のとおりとする。3種のフィルムの中では、PETフィルムを最も大きな厚みにし、次いでMXフィルムを大きな厚みにし、接着樹脂フィルムを最も小さい厚みとする。
【0033】
それら3種のフィルムの厚みは、具体的には次のようにする。すなわち積層シートがその厚みを300〜1000ミクロンの範囲内で次第に大きくするとき、PETフィルムの厚みは180〜930ミクロンの範囲内で次第に大きくし、MXフィルムの厚みは20〜180ミクロンの範囲内で矢張り次第に大きくし、接着樹脂フィルムの厚みは10〜60ミクロンの範囲でほぼ一定にして、積層シートの厚みとともに変えない。その厚みを比率で云えば、積層シートの厚みに対し、PETフィルムの厚みは0.6〜0.93とされ、MXフィルムの厚みは0.06〜0.2とされ、接着剤フィルムの厚みは0.01〜0.2とされる。
【0034】
この発明に係る食品容器製造用シートを作るには、共押出法によることが好ましい。すなわち、結晶核剤を配合したPETを第1の押出機に供給し、接着樹脂を第2の押出機に供給し、MX樹脂を第3の押出機に供給し、これらの押出機から押し出された樹脂を1つの金型へ導く。このとき、MX樹脂が中央に位置し、その両側に接着樹脂が位置し、さらにその外側にPETが位置するように各樹脂を配列する。
【0035】
金型内へ導かれた各樹脂は、何れもフィルム状に成形されるとともに金型内の出口で又は金型を出た直後に貼り合わされて積層シートとされる。このとき、積層シートでは外側にPETフィルムが位置しているから、PETフィルムは速く冷却されるが、とくに冷却空気を吹き付けて急速に冷却する。すると、PETフィルムは結晶化する遑がなくて、結晶率が約10%以下の非晶状態となる。こうして、この発明に係る食品容器製造用シートが得られる。
【0036】
上述の積層シートを使用して食品容器を作るには、従来使用されている押圧成形法、真空成形法、圧空成形法などの設備をそのまま使用することができる。ただし、積層シートから食品容器を作る場合には、成形時の加熱をめぐる条件が大きく異なる。詳しく云えば、従来の方法では成形用の型が通常冷却されていて、加熱されたシートが成形型に密接して成形されると、成形体は冷却されてすぐに成形型から離される。
【0037】
ところが、この積層シートを使用する場合には、成形型がPETのガラス転移点以上に加熱されていて、積層シートが成形型に密接して成形されたあとで、成形体を成形型に密接させたまま成形体を加熱する。この点で従来の成形法とは異なっている。これにより、PETフィルムが結晶化されるので、成形体は耐熱性を著しく向上したものとなり、また強度も増大する。このためこうして作られた食品容器はレトルト容器として使用できるものとなる。もっとも、成形体を成形型に密接させたまま加熱する代わりに、成形体を成形型から離したあとで、別工程で成形体を加熱して、結晶率を大きくしてもよい。
【発明の効果】
【0038】
この発明によれば、食品容器製造用シートが提供されるが、そのシートはMX樹脂フィルムの両側に接着樹脂フィルムを介在させて、その上にPETフィルムを貼り合わせることによって、積層シートとされている。従って、この積層シートは簡単に剥離せず、強固なシートとなっている。そのうちのMX樹脂はガスバリヤ性がよく、とくに酸素の透過率が小さいものであるから、上記シートは食品を変質させないで貯蔵するに適したものである。他方、PETフィルムは強靭であって無害であるから、上記シートは実際に食品容器とするに適したものである。しかも、PETフィルムは結晶率の小さいものとされているから、上記シートはこれを加熱して二次成形することによって、容易に容器の形に加工することができる。
【0039】
上記のシートは、これを加熱し軟化させて、真空成形、圧空成形又は押圧成形によって容器状に成形することができる。このとき成形型をアルミニウムなどの金属で作り、これをPET樹脂のガラス転移点以上の温度に加熱しておき、成形したものをそのまま成形型上で加熱するようにすると、積層シート中のPETフィルムには結晶核剤が存在しているから、結晶核剤がPETの結晶化を促進させることとなり、PETフィルム層は、結晶率を高める。このため、成形体は耐熱性を増し、また強度を高める。こうしてレトルト食品製造時の高温長時間の加熱に耐える食品容器を作ることができる。成形体は内面にPETが位置し、PETはそれ自体無臭であるから、食品に臭を移さないし、PETは結晶率を高めているから、食品の味や臭を失わせない。この発明は、このような利益を与えるものである。
【0040】
次に、この発明を実施の一例について詳しく説明する。
【実施例1】
【0041】
この実施例では、MX樹脂として三菱ガス化学社からMXD6の商品名で販売されているものを用いた。また、接着樹脂としては三菱化学社からMODIC−AP F534Aの商品名で販売されているエチレン不飽和カルボン酸の共重合体を用いた。PETとしては東洋紡績社からIP560の商品名で販売されているものを用いた。このPETはI.V.値が1であった。
【0042】
結晶核剤としては、大日精化工業社のPET60重量%、タルク25重量%、ポリプロピレン15重量%の混合ペレットを用いた。このペレット5重量部をPET85重量部と大日精化工業社の酸化チタン含有着色剤10重量部と混合してPETフィルムを作ることとした。
【0043】
上記のMX樹脂、接着樹脂、PETを共押し出して、MX樹脂フィルムが中央に位置し、その両側に接着樹脂フィルムが位置し、その外側にPETが位置するようにして、金型の出口端でこれらのフィルムを貼り合わせて積層シートにした。
【0044】
金型から押し出された積層シートには、その表裏両面から20℃の空気を吹き付けて急冷した。こうして、MX樹脂、接着樹脂及びPETの各フィルムの厚みが、それぞれ56、15及び357ミクロンで、シート全体の厚みが800ミクロンの積層シートを得た。この積層シートにおけるPETフィルムの結晶率は約5%であった。この積層シートは軟化点が約75℃であった。
【0045】
成形型としては、皿形の窪みを持ったアルミニウム製の凹型を用意し、これを約130℃に加熱しておいた。上記積層シートを約140℃に加熱して軟化させておき、これを上記成形型上に置いて、成形型の下から減圧吸引し、積層シートを成形型に密接させて皿状容器に成形した。成形は約12秒で行うことができたが、成形した容器はそのまま成形型上に残し、成形型からの加熱によって容器を130℃に8秒間保持して、PETを結晶化させた。
【0046】
こうして結晶化させた容器は、PETの結晶率が約30%となり、軟化点が250℃となった。このように容器は耐熱性が著しく向上した。比較のために、成形したあと直ちに成形型から離した容器の軟化点は75℃であった。これにより、結晶化させた容器は結晶化させない容器よりも約175℃も高くなっていることが確認された。
【0047】
このように結晶化させた容器は軟化点が著しく向上しているので、220℃で10分間加熱するという、レトルト食品製造時の苛酷な加熱に充分耐え得るものであった。従って、この発明に係る食品容器はレトルト容器として満足なものであった。
【実施例2】
【0048】
この実施例は、実施例1と同様に行ったが、ただ接着樹脂の組成を変え、また積層シートの厚みを変えるために、金型を変えて実施した。
【0049】
接着樹脂としてはMX樹脂が45重量%、MODIC−AP F534Aが6重量%、実施例1で用いたPETが49重量%からなるものを用いた。
【0050】
上記PET、MX樹脂及び接着樹脂の各樹脂を共押し出しをして積層シートとし、押し出された積層シートを急冷してPETの結晶率が約5%の積層シートを得た。この積層シートは、その中のPETフィルム、接着剤樹脂及びMX樹脂の厚みがそれぞれ357、20及び246ミクロンで、全体の厚みが1000ミクロンとなっていた。この積層シートは約75℃で軟化した。
【0051】
この積層シートを用いて、実施例1と同様にしてシートを皿状容器に真空成形した。このとき、成形して得られた容器を成形型上に残したまま成形型を加熱して、容器を約140℃に10秒間保持してPETを結晶化させた。
【0052】
こうして結晶化させた容器はPETの結晶率が35%であり、軟化点が250℃であって、耐熱性が著しく向上していた。比較のために、成形して直ちに成形型から離した容器について、その軟化点を測定したところ、軟化点は約80℃であったので、結晶化させた容器はそれよりも約170℃も高くなっていた。
【0053】
このように結晶化させた容器は軟化点が著しく向上しているので、220℃で10分間加熱するという、レトルト食品製造時の苛酷な加熱に充分耐えることができた。従って、この発明に係る食品容器は、レトルト容器として満足なものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合させて得られたポリアミド樹脂のフィルムの両側に、接着樹脂フィルムを介して、熱可塑性ポリエステル樹脂のフィルムを貼り合わせてなる積層シートにおいて、上記ポリエステル樹脂のフィルムが結晶核剤を含んでいて、しかも結晶率が10%以下の低い状態になっていることを特徴とする、食品容器製造用シート。
【請求項2】
接着樹脂フィルムがエチレンと不飽和カルボン酸との共重合体製のフィルムであることを特徴とする、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
接着樹脂フィルムが、上記ポリアミド樹脂と、熱可塑性ポリエステル樹脂と、エチレンと不飽和カルボン酸の共重合体との組成物で作られたフィルムであることを特徴とする、請求項1に記載のシート。
【請求項4】
接着樹脂フィルムが、さらに結晶核剤を含んだ組成物で作られたフィルムであることを特徴とする、請求項3に記載のシート。
【請求項5】
請求項1−4の何れか1つの項に記載のシートを両面から加熱して軟化させ、軟化したシートを熱可塑性ポリエステル樹脂のガラス転移点以上の温度に保持された成形型に押し付けて成形し、その後成形された容器を上記温度に暫らく保持して、熱可塑性ポリエステル樹脂の結晶率を20%以上にすることを特徴とする食品容器の製造方法。
【請求項6】
メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合させて得られたポリアミド樹脂フィルムの両側に、接着樹脂フィルムを介して、結晶核剤含有の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを貼り合わせてなる積層シートからなり、この積層シートを容器の形に成形したものであって、その中の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの結晶率が20%以上になっていることを特徴とする食品容器。
【請求項7】
接着樹脂フィルムがエチレンと不飽和カルボン酸との共重合体製のフィルムであるか、又はこれに上記ポリアミド樹脂と熱可塑性ポリエステル樹脂と結晶核剤とを加えてなる組成物製のフィルムであることを特徴とする、請求項6に記載の食品容器。


【公開番号】特開2006−44729(P2006−44729A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227520(P2004−227520)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(592111894)ヤマトエスロン株式会社 (20)
【Fターム(参考)】