説明

食品改質剤

【課題】 畜肉や魚肉などの食品の劣化を防止し、かつ加熱による調理後も食感が向上する食品改質剤を提供する。
【解決手段】 フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物と、二糖類以上の糖(C)(但し(A)及び(B)を除く)、およびカルボキシル基を有する化合物(D)(但し(A)(B)及び(C)を除く)、を少なくとも含有し、かつpHが7.01〜12であることを特徴とする食品改質剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品改質剤およびこれを含有する食品に関するものである。詳しくは、畜肉や魚肉などの食品の食感向上、変色抑制、肉臭・魚臭抑制に優れた食品改質剤およびこれを含有する食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
畜肉や魚肉などの食品に用いられる酸化防止剤としては、ビタミンC、ビタミンE、ルチン、茶抽出物、コーヒー抽出物、りんご抽出物、ひまわり抽出物などが一般的に知られている。また、シソ科の植物であるローズマリーの抽出物に、抗酸化成分が含まれていることも知られている(特許文献1)。これら酸化防止剤のうちビタミンCは、発色補助剤としての効果もあるため、肉にビタミンCを添加することにより鮮度に関係なく鮮やかな赤い色を発色させてしまうことから使用には注意が必要であった。
【0003】
一方、畜肉や魚肉などの食品は調理に際して焼く、炒める、揚げる、蒸すなどの加熱によって、特に肉類は、肉汁が流出し、硬くなる性質がある。また低品質の肉や肉の部位によって、筋が多い、肉質自体が硬い等の欠点がある。このような問題を解決するために、クエン酸、炭酸塩及び/又は炭酸水素塩などの有機酸類と、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、ラクチトールなどの糖・糖アルコール類を含有するする肉類の品質改良剤(特許文献2)が提案されている。また、ローズマリーは、肉料理の味や香り付けに用いられる香辛料としても知られている。(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−105337号公報
【特許文献2】特開2007−312751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の酸化防止剤は、食品の劣化に伴う変色は抑制されるものの、食品を軟らかくしたり、肉汁や水分の流出を抑制したり、食品の劣化により発生する臭気を抑制することによって食感を向上させるという点では効果はみられなかった。また、上記した従来の品質改良剤によっても、十分満足な効果が得られるものではなかった。従って、食品の経時劣化を抑制し、かつ、食品の食感を向上させる食品改質剤の開発が望まれていた。
本発明は、これらの問題点を解決することを目的としてなされたものであり、畜肉や魚肉などの食品の劣化を防止し、かつ加熱による調理後も食感が向上または低下抑制し得る食品改質剤およびこれを含有する食品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物とエノレート構造を有する化合物とからなる群から選択される1種以上の化合物と、二糖類以上の糖、およびカルボキシル基を有する化合物、の3種の化合物を少なくとも含有し、かつ特定のpHである食品改質剤を食品に用いた場合に、食品をやわらかく、肉汁などの食品中の水分を多く含み、食感を向上させ、かつ、変色や劣化による臭気の発生を抑制することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち本発明の要旨は、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物
(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物と、二糖類以上の糖(C)(但し(A)及び(B)を除く)、およびカルボキシル基を有する化合物(D)(但し(A)(B)及び(C)を除く)、を少なくとも含有し、かつpHが7.01〜12であることを特徴とする食品改質剤並びに食品改質剤を含有する食品に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の食品改質剤を食品に添加することにより、畜肉や魚肉などの食品の変色抑制、肉臭・魚臭の抑制に優れ、さらに、食品本来持つ食感を向上または低下抑制させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明の食品改質剤は、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物と、二糖類以上の糖(C)(但し(A)及び(B)を除く)、およびカルボキシル基を有する化合物(D)(但し(A)(B)及び(C)を除く)、を少なくとも含有し、かつpHが7.01〜12であることを特徴とする食品改質剤である。
【0010】
本発明の食品改質剤の形態は限定されず、粉末状、ペースト状、固形状、液体状、顆粒状、カプセル状、錠剤等の状態で用いられ、用いる食品の形態や性質にあわせて選択することができる。たとえば、調理される前の、生の畜肉、生魚や干し魚には、液体状で用いられることが好ましい。
【0011】
本発明の食品改質剤を構成する成分について説明する。
[フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)]
本発明においてフェノール性水酸基を有する化合物とは、フェノール性水酸基、フェノール性水酸基の誘導体、それらのイオンおよびそれらの塩を有する化合物の総称を表す。フェノール性水酸基を有する化合物とは、炭化水素環または複素環である芳香環に水酸基が結合した化合物であり、芳香環は単環でも縮合環でもよい。なお、本発明において、フェノール性水酸基とカルボキシル基を共に有する化合物は、後述するカルボキシル基を有する化合物(D)に包含するものとする。
【0012】
本発明に用いられるフェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)は、天然物から得られる化合物、合成して得られる化合物のいずれでもよいが、天然物から得られる化合物が好ましく、特に天然物から抽出された化合物が好ましい。
天然物から抽出された化合物を分類するには2つの方法があり、一つは骨格構造で分類する場合、他方は慣用名で分類する場合である。
【0013】
フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)の骨格構造は限定されないが、ステロイド、テルペノイド、アルカロイド等が挙げられる。
ステロイドとしては、ゴナンとその誘導体、エストランとその誘導体、アンドロスタンとその誘導体、プレグナンとその誘導体、コランとその誘導体、コレスタンとその誘導体、骨格に酸素原子を含むステロイド骨格、炭素原子数が28以上のステロイド骨格、ホモステロイド、ノルステロイド、ビタミンD群などが挙げられる。
テルペノイドには、環式モノテルペン、環式セスキテルペン、環式ジテルペン、環式セスタテルペン、環式トリテルペン、フリードテルペン、ネオテルペンなどが挙げられる。
アルカロイドは、アコニタンからヨヒンビン=プソイドインドキシルなどが挙げられる。
【0014】
一方、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)を慣用名で分類すると、フラボノイド、イソフラボノイド、ネオフラボノイド、グリコスフィンゴ脂質、ヌクレオシドとヌクレオチド、カロテノイド、レチノイドと関連化合物、フラビン、葉酸とその関連化合物、ビタミンB6類、コリノイド、トコフェロール、イソプレノイド側鎖をもつキノン ポルフィリン、胆汁色素、クロロフィル、プロスタグランジン、トロンボキサン、ペナムとペニシリン、セファムとセファロスポリン等が挙げられる。
【0015】
テルペノイド骨格を有する化合物としては、環式テルペンの誘導体が挙げられる。環式テルペンの誘導体としては、アビエタン、アビエタート、ネオアビエタート、レボピマラート、アチサン、ベイエラン、ジバン、グラヤノトキサン、グラヤノトキシン、カウラン、ステビオール、ラブダン、ピクラサン、ピマラ、ピマラート、イソピマラート、ポドカルパン、ロサン、タキサン、パクリタキセル、タキソール、トラキロバン等が挙げられる。
【0016】
フラボノイドに分類される化合物としては、カルノソール、フラバン、アフゼレキン、カテキン、ガロカテキン、フラバノン、ナリンゲニン、ナリンギン、サクラネチン、サクラニン、エリオジクチオール 、フラボン、クリシン、アピゲニン、アピゲトリン、アピ
イン、アカセチン、リナリン、バイカレイン、ルテオリン、スクテラレイン、ペクトリナリゲニン、オイパトリン、フラボノール、ガランギン、ケンペロール、ケンペリン、フィセチン、モリン、クェルセチン(クエルセチン)、クェルシトリン(クエルシトリン)、イソクェルシトリン(イソクエルシトリン)、ルチン、ラムネチン、ミリセチン、ミリシトリン、クェルセタゲチン、フラビリウム、ペラルゴニジン、ペラルゴニン、シアニジン、シアニン、ペオニジン、ペオニン、デルフィニジン、デルフィン、ペツニジン、ペツニン、マルビジン、シリンギジン、プリムリジン、マルビン等が挙げられ、好ましくは、カルノソールまたはカルノソールの骨格を有する化合物である。
イソフラボノイドに分類される化合物としては、イソフラバン、イソフラボン、ダイゼイン、ダイジン、ホルモノネチン、ホルモノネトール、ゲニステイン、プルネトール、ゲニスチン、プルネチン 、プソイドバプチゲニン、バプチゲニン等が挙げられる。
【0017】
[エノレート構造を有する化合物(B)]
本発明においてエノレート構造を有する化合物とは、エノレート構造、エノレート構造の誘導体、それらのイオン及びそれらの塩を有する化合物の総称を表す。
エノレート構造を有する化合物とは、二重結合で結ばれた炭素−炭素結合を構成する炭素に水酸基が結合した骨格を有する化合物である。二重結合で結ばれた炭素−炭素は、炭化水素と結合して環を形成していてもよい。
【0018】
本発明に用いられるエノレート構造を有する化合物(B)は、天然物から得られる化合物、合成して得られる化合物のいずれでもよいが、天然物から得られる化合物が好ましく、特に天然物から抽出された化合物が好ましい。
【0019】
エノレート構造を有する化合物(B)は限定されないが、単糖類等が挙げられる。単糖に分類される化合物としては、酸、ラクトン分類された化合物が挙げられ、下記の化合物はエノレート構造を有する。酸としては、ノイラミン酸、ムラミン酸、粘液酸があり、ラクトンとしては、L−アスコルビン酸、アスコルビン酸、デヒドロアスコルビン酸、イソアスコルビン酸、エリソルビン酸が挙げられ、アスコルビン酸が好ましい。
【0020】
[フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物]
本発明において、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)と
エノレート構造を有する化合物(B)とは、同様の作用機構をもつ。
【0021】
フェノール性水酸基又はエノレート構造を有する化合物の水酸基は、水溶液中で式(1)及び(2)のようにOのイオン基と水素イオン(Hイオン)に解離することができ、解離していない状態(−OHの状態)との間で平衡状態にある。さらに、フェノール性水酸基及び/又はエノレート構造を有する化合物の水酸基は、水溶液が酸性の条件下では全解離せず、かつ、フェノール性水酸基は中性条件においても解離しない。そのため、酸化能力の高い(プロトンを引き抜く力が高い)化合物が分子間で存在する場合には、強く電気的な相互作用を示す。その結果、酸化還元電位が生じ、魚肉、畜肉等の赤みを維持するなど、食品の品質を改良することができる。なお、フェノール性水酸基又はエノレート構造以外の水酸基を有する化合物、例えば飽和炭化水素骨格に水酸基が結合した化合物を用いただけでは、そもそも水溶液中で式(3)のような解離は起こらないため、前記のような効果を奏することができない。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
[二糖類以上の糖(C)]
本発明に用いられる二糖類以上の糖は限定されないが、通常、食品に使用される天然糖類や澱粉から加工した糖類およびそれらを更に加工した糖類等を用いることができる。ただし本発明において、二糖類以上の糖(C)には、前記したフェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)に包含されるものは除外する。
【0026】
二糖類以上の糖としては、例えば、二糖類、三糖以上のオリゴ糖、多糖類の群から選ばれる糖またはこれらの誘導体が挙げられ、三糖以上のオリゴ糖、多糖またはこれらの誘導体が好ましい。ここで、三糖とは3分子の単糖が結合したものをいう。三糖以上のオリゴ糖とは、単糖が3〜20分子程度が結合したものをいう。更に多くの単糖分子が結合したものを多糖という。
【0027】
オリゴ糖としては、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、マルトトリオース等が挙げられる。多糖としては、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン(動物でんぷん)、セルロース、キチン、アガロース、カラギーナン、ペクチン、ヘパリン、ヒアルロン酸などが挙げられる。
【0028】
本発明に用いられる糖は、水溶性であっても水に不溶性であってもよいが、水溶性であることが好ましい。
オリゴ糖は水に溶けやすいが、多糖は水に溶け難い。三糖以上のオリゴ糖および多糖の誘導体とは、例えば、糖の水酸基を水素に置換したデオキシ糖、アルドースの末端の炭素をカルボキシル基に置き換えたウロン酸、水酸基をアミノ基に置き換えたアミノ酸、ケトン基やアルデヒド基がアルコールに還元された糖アルコール等のことをいう。
【0029】
糖アルコールとしては、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール等が挙げられ、これらは、三糖以上のオリゴ糖および多糖の誘導体(糖アルコール)の構成単位となり得る。因みに、三糖以上のオリゴ糖であるマルトトリオースを還元して得られるオリゴ糖アルコールはマルトトリオールである。
【0030】
本発明で用いる二糖類以上の糖の中では特にマルトトリオースが好ましい。マルトトリオースは、重合度が3の直鎖オリゴ糖であり、オリゴ糖の中で最も保湿力が高く、甘味度は砂糖の約1/4である。このため、甘味を上げずに、糖度を高められるので、大量に投入しても、安全で、甘味度が低い。更に、大量に投入することにより、腐敗防止、でんぷんの老化抑制などの機能が発揮できる。容易に入手し得るマルトトリオースとしては、三菱化学フーズ社製の商品「オリゴトース」がある。因みに、「オリゴトース」を還元して得たオリゴ糖アルコールは、三菱化学フーズ社製の商品「オリゴトースH−70」として市販されている。
【0031】
本発明では二糖類以上の糖を用いることにより、食品の保水性を高めると同時に、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される化合物と、後述するカルボキシル基を有する化合物(D)とを疎水界面へ濃縮させる効果を発揮する。このため、これらの成分による食品の品質を改良する効果を顕著に発現させることができる。
【0032】
〔カルボキシル基を有する化合物(D)〕
本発明においてカルボキシル基を有する化合物とは、カルボキシル基、カルボキシル基の誘導体、それらのイオン体またはそれらの塩を含有する化合物の総称である。ただし本発明において、カルボキシル基を有する化合物(D)は、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)、エノレート構造を有する化合物(B)、および二糖類以上の糖(C)の何れかに包含されるものは除外する。
【0033】
カルボキシル基を有する化合物としては、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の何れでもよい。芳香族カルボン酸としては、無置換または炭化水素基置換のカルボン酸、ヒドロキシ、アルコキシ、オキソ基置換のカルボン酸、無置換または炭化水素基置換のカルボン酸アシル基、ヒドロキシ、アルコキシ、オキソ基置換のカルボン酸アシル基等が挙げられ、脂肪族カルボン酸としては、メタン系カルボン酸、エタン系カルボン酸、プロパン系カルボン酸、ブタン系カルボン酸、ペンタン系カルボン酸、ヘキサン系カルボン酸、炭素数が7〜10の脂肪族に結合するカルボン酸、炭素数が11〜19の脂肪族に結合するカルボン酸、炭素数が20以上の脂肪族に結合するカルボン酸等が挙げられる。
【0034】
カルボキシル基を有する化合物(D)としては、芳香族カルボン酸が好ましく、中でも
ヒドロキシ、アルコキシ、オキソ基置換のカルボン酸であるフェノールカルボン酸類がより好ましい。特に、芳香環に対し、カルボキシル基を含む置換基と、フェノール性水酸基とをパラ位またはメタ位に有する化合物が好ましい。
フェノールカルボン酸としては、具体的には、ロスマリン酸、カルノジック酸、没食子酸、クロロゲン酸、サリチル酸、アニス酸、ヒドロキシ(メチル)安息香酸、β−レソルシル酸、ゲンチジン酸、γ−レソルシル酸、プロトカテク酸、α−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、オルセリン酸、m−ヘミピン酸、シリング酸、アサロン酸、マンデル酸、ヒドロキシ(フェニル)酢酸、バニルマンデル酸、ホモアニス酸、ホモゲンチジン酸、ホモプロトカテク酸、ホモバニリン酸、ホモイソバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、ホモフタル酸、ホモイソフタル酸、ホモテレフタル酸、フタロン酸、イソフタロン酸、テレフタロン酸、ベンジル酸、ヒドロキシジフェニル酢酸、アトロラクチン酸、トロパ酸、メリロト酸(メリロット酸)、フロレト酸、ヒドロカフェー酸、ヒドロフェルラ酸、ヒドロイソフェルラ酸、p−クマル酸、ウンベル酸、カフェー酸、フェルラ酸、イソフェルラ酸、シナピン酸、およびこれらの骨格を有する化合物であり、好ましくは、ロスマリン酸、カルノジック酸、没食子酸またはこれらの骨格を有する化合物である。
【0035】
カルボキシル基を有する化合物(D)を構成するカルボキシル基は、酸性条件下では一部しか解離しておらず、中性から塩基性の条件では全解離している。食品中にタンパクが存在する場合、解離していないカルボキシル基は、タンパク表面を変性させる。従って、食品中にタンパクが存在している状態では、カルボキシル基は少なくとも一部は解離していることが望ましく、全解離していることがより望ましい。解離している状態では、カルボキシレートイオンとして電子が非局在化することにより、解離していないフェノール性水酸基またはエノレート構造の水酸基のプロトンと相互作用すると考えられる。このことにより、タンパクの存在下、単独で存在しているよりもこれらの水酸基を有する化合物と存在する方が安定化しやすいと考えられる。その結果、畜肉の赤み及び劣化を抑制していると考えられる。
さらに、カルボキシル基の解離度合いが中性に近い、すなわち最終酸解離定数(pKa:化合物中の数種のカルボキシル基の中で一番最後に解離する時のpH)が7.05〜8.5、好ましくは7.10〜7.9である方が、その効果は高いと考えられる。
【0036】
〔天然物からの抽出〕
本発明に用いられるフェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)、エノレート構造を有する化合物(B)、およびカルボキシル基を有する化合物(D)は、天然物から抽出された化合物、合成して得られた化合物のいずれでもよいが、天然物から抽出された化合物が好ましい。天然物からの抽出される化合物は、植物の葉、根、茎、花、果実、種子等から抽出される成分により得られる。
天然物から抽出された化合物は、上記の(A)(B)および(D)で分類された化合物のうち2以上を含む植物から抽出しても、(A)(B)および(D)のうち1種の化合物のみを含む植物から抽出した成分を混合してもよい。
【0037】
フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)を含む植物は、シソ科植物、ツバキ科植物等であり、カルボキシル基を有する化合物(D)を含む植物は、シソ科植物、イネ科植物、マメ科植物、ツバキ科植物等である。(A)と(D)の両方の化合物を含む植物は、シソ科植物、ツバキ科植物であり、好ましくはシソ科植物である。
【0038】
抽出に用いるシソ科植物は特に制限されず、シソ、青ジソ、ローズマリー、ミント、ハッカ、バジル、セージ、マジョラム、オレガノ、タイム、レモンバーム、レモングラス等が用いられる。特に、ローズマリー、オルガノ、セージを用いるのが好ましい。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
本発明において抽出物とは、上記植物に含有される成分であって、抽出が可能な成分であれば限定されないが、通常、後述する溶媒に溶解する成分を意味する。また、溶媒に溶解しなくとも、単独で液状の成分であれば、それらも抽出物に含み得る。
【0039】
これらのシソ科植物から得られる抽出物は、有効成分が、ロスマリン酸、カルノソール、カルノジック酸を含むものが好ましい。
シソ科植物の抽出物としては、例えば、三菱化学フーズ社製「RM21シリーズ」「RMキーパーシリーズ」などの市販品を用いても、公知の方法により得られたものを用いてもよい。本発明では、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物と、カルボキシル基を有する化合物(D)として、シソ科植物から抽出される成分を用いることにより、肉臭、魚臭の矯臭効果と保水、肉本来の自然な赤味保持の機能を発揮する。
【0040】
本発明において抽出方法は限定されず、シソ科植物の種類等に応じて適宜公知の方法を用いることができる。具体的には、抽出するための溶媒としては水、エタノール、エタノール以外の有機溶剤、油脂類等が挙げられるが、本発明の食品改質剤は食品へ含有させることを考慮すると、水、エタノールまたは食用の油脂類を用いることが好ましい。また、溶媒を用いずに抽出することも可能であり、例えば、シソ科植物を加熱してプレスする等によって得ることが出来る。
【0041】
以下、ローズマリーを用いた抽出方法について具体的に説明する。ローズマリーの抽出方法は、シソ科の常緑低木であるマンネンロウ(Rosmarin usofficinalis Linne)の乾燥葉などから、水、アルコール等の極性溶媒、ヘキサン等の非極性溶媒を使用して得られる抽出物であり、α−ピネン、カフェイン、シネオール、カンファー、ボルネオール、ボルニル・アセテート、ウルソール酸、ローズマリー酸、タンニン及び/又はフラボノイドを含む混合物である。抽出液は、必要に応じ、ケイ酸カラム、活性炭などを使用して精製される(特開昭55−18435号公報、特開昭55−102508号公報、特開平8−67874号公報など)。そして、ローズマリー抽出物としては、抽出溶媒や抽出液の処理方法により、水溶性または非水溶性のものが得られる。
【0042】
ローズマリー抽出物は、抽出条件により水溶性成分と非水溶性成分の含有比率が大きく変化するので、水溶性成分と非水溶性成分を分画して得られたものを用いたほうが好ましい。例えば、本発明のローズマリー抽出物は、40〜60%の含水エタノールで処理して得られる抽出液に水を加えて非水溶性成分を析出させ、必要に応じて活性炭処理して得た濾液から溶媒を留去乾燥することにより得られる(特開昭55−18437号公報)。抽出には、ローズマリーの全草、または、その葉、根、茎、花、果実、種子の何れかを使用してもよいが、好ましくは葉を使用する。ローズマリーを刻んでから抽出した方が抽出効率の点で好ましい。
【0043】
なお、本発明において抽出物とは、抽出操作を経て得られたもののみに限定されるものではない。具体的には、フェノール性水酸基及び/又はエノレート構造を有する化合物(A)とカルボキシル基を有する化合物(C)とを含有する植物自体を食品改質剤の構成要素とすることにより、食品に含有させた際に該植物から抽出物が抽出される様態をも含み得る。このような場合においては、植物をそのまま用いる、乾燥して用いる、粉砕して用いる、これらを組合せる等によって用いることが出来る。
【0044】
[pH]
本発明の食品改質剤のpHは7.01〜12であり、好ましくは7.05〜8.5、更に好ましくは7.10〜7.9の範囲である。
この範囲にpHを調整することによって、フェノール性水酸基の一部が解離し、エノレ
ート構造を有する化合物の一部または全部が解離し、一方、カルボン酸を有する化合物のカルボン酸は全解離する。このことにより、分子間で水素結合及び/また静電的相互作用することにより、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物と、二糖類以上の糖(C)と、カルボキシル基を有する化合物(D)を効率よく肉内部へ運び、肉本来の自然な赤味、食感を保持することができる。pHが前記下限値未満では肉色素(赤味)の酸化が促進され褐色の原因となり、pHが前記上限値を超えると肉質がゴムのような弾力性を持ち、食感もボロボロに脆くなり、味も悪くなる問題がある。
【0045】
本発明の食品改質剤のpHは、食品改質剤の形態に応じて調整される。食品改質剤が水溶液または水を含む液状物の場合は、水相部分のpHを意味する。また、食品改質剤が水を含有しない液状の場合や、液状以外の形態、例えば、粉末状、ペースト状、固形状、顆粒状、カプセル状、錠剤等の固体の場合は、水に対して食品改質剤を0.3〜5.0重量%の濃度の範囲で溶解または懸濁した状態において、水相部分のpHを意味する。
本発明における食品改質剤は、二糖以上の糖(C)により、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物と、カルボキシル基を有する化合物(D)とを疎水界面に濃縮して存在させることができる。さらにpHを前記の範囲に調整することにより、二糖以上の糖(C)を含むこれら成分を効率よく肉内部へ運び、保水性を向上させるため、焼成後の歩留りを改善し、ジューシー感を付与する。さらに、肉臭、魚臭を矯臭し、自然な赤みを保持することができる。
【0046】
本発明の食品改質剤は、pHを調整するために、pH調整剤を用いてもよい。pH調整剤は限定されないが、酸解離定数が7.05〜8.5、好ましくは7.10〜7.9である有機酸か、水に溶解して得られるpHが7.05〜8.5、好ましくは7.10〜7.9である有機酸または無機酸、あるいはそれらの塩が好ましい。具体的には、炭酸およびその塩、炭酸水素および炭酸水素塩、クエン酸およびその塩、酢酸およびその塩、リン酸およびその塩、ポリリン酸およびその塩、メタリン酸およびその塩、乳酸およびその塩、フマル酸およびその塩、グルコン酸、グルコース、グルコノラクトン等が挙げられる。特に、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸、グルコノデルタラクトンを用いるのが好ましい。さらに好ましくは、炭酸塩、炭酸水素塩、クエン酸、クエン酸塩、乳酸、乳酸塩が好ましい。pH調整剤は、1種または2種以上を用いることができる。これらのpH調整剤としては公知の方法により製造したものを用いてもよい。
【0047】
なお、上記のpH調整剤として挙げたもののうち、カルボキシル基、カルボキシル基の誘導体、それらのイオン体またはそれらの塩を含有する化合物については、前記のカルボキシル基を有する化合物(D)に包含されるものである。
しかしながら、カルボキシル基を有する化合物(D)としては、前記の通り、芳香族カルボン酸が好ましく、フェノールカルボン酸類がより好ましい。本発明において、カルボキシル基を有する化合物(D)がこれらの好ましい実施形態である場合、それらの化合物以外のカルボキシル基を含む化合物は上記のpH調整剤に包含され得る。
【0048】
[その他の成分]
その他に、食品改質剤に添加できる任意成分は限定されず、具体的には、乳化剤、増粘剤、食塩、調味料、食用油、香辛料、各種たんぱく類、酵素等が挙げられる。これらの任意成分は、具体的には、乳化安定性、保水性、香味付与、平衡を保つための浸透作用、食感の改良等の目的に応じて適宜選択して用いることができる。
【0049】
[食品改質剤の製造方法]
前記の通り、本発明の食品改質剤の形態は限定されず、粉末状、ペースト状、固形状、液体状、顆粒状、カプセル状、錠剤等の状態で用いられ、用いる食品の形態や性質にあわせて選択することができる。従って、本発明の食品改質剤の製造方法も、その形態に応じて適宜選択することができ、制限されない。
【0050】
食品改質剤が粉末状、ペースト状、固形状、顆粒状、カプセル状、錠剤等の固体状態の場合、食品改質剤中の各成分の含有量は任意であるが、通常は以下の通りである。
すなわち、食品改質剤中の二糖類以上の糖(C)の含有量は、通常3〜30重量%、好ましくは5〜15重量%、更に好ましくは7〜10重量%である。食品改質剤中の二糖類以上の糖(C)の含有量が前記下限値未満である場合、保水力の低下により有効成分を疎水界面へ濃縮させる効果が得られない場合があり、前記上限値より多すぎる場合、甘味付与による味への悪影響、異常な焼き色付与の点で十分な効果が得られない場合がある。
食品改質剤中のフェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物と、カルボキシル基を有する化合物(D)との合計含有量は、0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、更に好ましくは1〜2重量%である。これらの合計含有量が前記下限値未満である場合、赤みの保持等の改質効果が得られない場合があり、前記上限値より多すぎる場合、味への悪影響を及ぼす等の点で十分な効果が得られない場合がある。
【0051】
pH調整剤は含有しなくてもよいが、pH調整剤を含有する場合の含有量は、食品改質剤中に通常20〜90重量%、好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは50〜75重量%である。pH調整剤の含有量が前記下限値未満である場合、pHを特定の範囲にすることが難しくまたは不可能となるだけではなく、変色の抑制や肉質軟化等が不十分であり改質効果が得られなかったり、前記上限値より多すぎる場合は、肉質がゴムのような弾力性を持ち、ボロボロの食感になる点で好ましくない場合がある。
食品改質剤に添加する任意の成分を用いる場合、その含有量は、食品改質剤に対して通常1〜70重量%、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%含有することができる。
【0052】
固体状態の食品改質剤の製造方法としては、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物と、二糖類以上の糖(C)、およびカルボキシル基を有する化合物(D)を同時に混合する方法が好ましいが、食品改質剤を構成する成分の性質や混合し易さの点で、混合する成分の組み合わせの順序を決定することができる。
また、pHの調整方法としては、水に対して食品改質剤を0.3〜5.0重量%の濃度の範囲で溶解または分散させた状態において、pHが通常、7.01〜12であり、好ましくは7.05〜8.5、更に好ましくは7.10〜7.9の範囲になるように調整を行う。食品改質剤が規定したpHの範囲でない場合は、pHの数値に応じて水溶液の状態でpH調整剤を添加する方法により、pHを調整し、食品改質剤中の組成比に換算し、固体状態の配合を決定する。
【0053】
食品改質剤が水溶液などの液体状である場合、食品の改質に使用する濃度に直接調整してもよいし、濃縮液として調整しておき、これを適宜希釈して使用してもよい。
液体状の食品改質剤を食品改質に使用する濃度に調整する場合、溶媒としては通常、水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコールなどが用いられ、1種または2種以上を混合して用いることができるが、特に溶媒に水を用いて水溶液として使用することが好ましい。溶媒の量は限定されないが、食品改質剤中の固形分(二糖類以上の糖(C)、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物、カルボキシル基を有する化合物(D)、pH調整剤及び任意の成分の合計量)に対して、通常1〜1000重量倍、好ましくは5〜500重量倍、更に好ましくは10〜100重量倍で用いられる。希釈が前記下限値未満である場合、食品改質剤の溶解性が低下し均一性を保てず、利用が困難となり、前記上限値より多すぎる場合は、食品改質剤としての効果が得られない等の点で好ましくない場合がある。
【0054】
液体状である食品改質剤を食品改質に使用する濃度に直接調整する場合、食品改質剤中の各成分の含有量は任意であるが、通常は以下の通りである。
食品改質剤中の二糖類以上の糖(C)の含有量は、通常0.003〜30重量%、好ましくは0.005〜15重量%、更に好ましくは0.007〜10重量%である。食品改質剤中の二糖類以上の糖(C)の含有量が前記下限値未満である場合、保水力の低下により有効成分を疎水界面へ濃縮させる効果が得られない場合があり、前記上限値より多すぎる場合、甘味付与による味への悪影響、異常な焼き色付与の点で十分な効果が得られない場合がある。
【0055】
食品改質剤中のフェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物と、カルボキシル基を有する化合物(D)との合計含有量は、0.0001〜10重量%、好ましくは0.0005〜5重量%、更に好ましくは0.001〜2重量%である。これらの合計含有量が前記下限値未満である場合、赤みの保持等の改質効果が得られない場合があり、前記上限値より多すぎる場合、味への悪影響を及ぼす等の点で十分な効果が得られない場合がある。
【0056】
pH調整剤は含有しなくてもよいが、pH調整剤を含有する場合の含有量は、食品改質剤中に通常0.02〜90重量%、好ましくは0.03〜80重量%、更に好ましくは0.05〜75重量%である。pH調整剤の含有量が前記下限値未満である場合、pHを特定の範囲にすることが難しくまたは不可能となるだけではなく、変色の抑制や肉質軟化等が不十分であり改質効果が得られなかったり、前記上限値より多すぎる場合は、肉質がゴムのような弾力性を持ち、ボロボロの食感になる点で好ましくない場合がある。
食品改質剤に添加する任意の成分を用いる場合、その含有量は、食品改質剤に対して通常通常0.001〜70重量%、好ましくは0.005〜50重量%、より好ましくは0.01〜30重量%含有することができる。
【0057】
水溶液または液状である食品改質剤を濃縮液として調整する場合、食品改質剤中の各成分の含有量は以下の通りである。
すなわち、二糖類以上の糖(C)の含有量は、通常1〜20重量%、好ましくは2〜10重量%、更に好ましくは3〜7重量%である。ニ糖類以上の糖(C)の含有量が前記下限値未満である場合、保水力の低下により有効成分を疎水界面へ濃縮させる効果が得られない場合があり、前記上限値より多過ぎる場合、甘味付与による味への悪影響、異常な焼き色付与の点で十分な効果が得られない場合がある。
【0058】
また、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物と、カルボキシル基を有する化合物(D)との合計含有量は、0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜5重量%、更に好ましくは0.5〜2重量%である。これらの合計含有量が前記下限値未満である場合、赤みの保持等の改質効果が得られない場合があり、前記上限値より多過ぎる場合、味への悪影響を及ぼす点で十分な効果が得られない場合がある。
pH調整剤は含有しなくてもよいが、pH調整剤を含有する場合の含有量は、食品改質剤中に通常20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%、更に好ましくは40〜60重量%である。pH調整剤の含有量が前記下限値未満である場合、pHを特定の範囲にす
ることが難しくまたは不可能となるだけではなく、変色の抑制や肉質軟化等が不十分となり十分な改質効果が得られず、前記上限値より多すぎる場合は、肉質がゴムのような弾力性を持ち、ボロボロの食感になる点で好ましくない場合がある。
【0059】
食品改質剤が水溶液などの液体状である場合、溶媒を除く残りの成分が溶媒に溶解した状態、または分散した状態であり、溶媒を除く残りの成分が溶媒に完全に溶けていなくてもよく、例えば、溶解後、沈殿物や浮遊物があっても、溶媒を除く残りの成分のうち1種類でも溶媒に溶けていればよい。
なお、食品改質剤を構成する溶媒は、前記のフェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)、エノレート構造を有する化合物(B)、またはカルボキシル基を有する化合物(D)を抽出した際の溶媒をそのまま用いてもよい。
【0060】
食品改質剤中の溶媒の含有量は、通常10〜70重量%、好ましくは15〜50重量%、更に好ましくは20〜40重量%である。溶媒の含有量が前記下限値未満である場合、製剤の均一性を保てず溶解性が低下し、利用が困難となり、前記上限値より多すぎる場合は、大量の添加が必要になる等の点で好ましくない場合がある。食品改質剤に添加する任意の成分は、食品改質剤に対して通常通常1〜50重量%、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは10〜15重量%含有することができる。
【0061】
食品改質剤が水溶液または液状である場合、その製造方法は限定されず、以下の方法等が挙げられる。特に下記(1)の方法が好ましい。
(1)フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物、二糖類以上の糖(C)とカルボキシル基を有する化合物(D)を混合した後、水または溶媒に溶解する方法。
(2)フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物、二糖類以上の糖(C)とカルボキシル基を有する化合物(D)をそれぞれ水または溶媒に溶解して混合する方法。
(3)フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物、二糖類以上の糖(C)とカルボキシル基を有する化合物(D)、水または溶媒を一度に混合する方法。
【0062】
また、pHの調整方法としては、液自体のpHが通常、7.01〜12であり、好ましくは7.05〜8.5、更に好ましくは7.10〜7.9の範囲になるように、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物と、二糖類以上の糖(C)、およびカルボキシル基を有する化合物(D)と前もって混合する方法が好ましい。
食品改質剤が規定したpHの範囲でない場合は、pHの数値に応じてpH調整剤を添加する方法により、pHを調整する。ただし、食品改質剤中に水を含有しない場合は、水を添加して水溶液をした常態でpHの調整を行う。
【0063】
本発明の食品改質剤は、牛、豚、鳥、羊などの生肉、アジ、サケ、イワシ、タラ、タイ、ヒラメなどの生魚や干し魚、ホタテ、エビ、イカ、タコなどの魚介類、ハム、ソーセージ、サラミ、かまぼこなどの加工肉類の食品に用いて、優れた効果を発揮する。特に、肉や身が硬い部位である場合、優れた効果が得られる。また、ペット用の食品加工品、たとえば犬、猫、魚のえさや飼料の食品改質剤としても使用できる。
【0064】
[食品改質剤の使用方法]
食品改質剤の使用形態は、食品の種類や性質によって、選択することができる。例えば、生肉、生魚等の食品に用いる場合は、液状、特に水溶液で用いるのが好ましい。食品改質剤が水溶液または液状である場合、食品改質剤に生肉や生魚等の食品を加熱調理する下処理として浸漬、塗布、インジェクション、タンブリングなどの公知の方法が用いられる。
【0065】
食品改質剤が粉末状、ペースト状等の固体状態である場合、調理する前にあらかじめ直接食品と接触、混合、食品に散布などの方法により食品に用いられる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例では、フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)、およびカルボキシル基を有する化合物(D)として、シソ科植物であるローズマリーから抽出された成分を用いた。
【0067】
[実施例1]
<ローズマリー抽出物水溶性成分の製造>
ローズマリー1kgに50%含水エタノール10Lを加えて3時間加熱還流し、温時に濾過して濾液を得た。残渣を50%含水エタノール6Lで同様に抽出する操作をさらに2回繰り返して濾液を得た。これらの濾液を合わせ、水5Lを加えて沈殿物を析出させた。これに活性炭100gを加え、1時間攪拌し、一夜冷所で保存した後に濾過して濾液を得た。この濾液を減圧濃縮し、120gのローズマリー抽出物水溶性成分を得た。この抽出成分を分析した結果、ロスマリン酸(カルボキシル基を有する化合物(D))を含有していた。
【0068】
<ローズマリー抽出物非水溶性成分の製造>
ローズマリー1kgに50%含水エタノール10Lを加えて3時間加熱還流し、温時に濾過して濾液を得た。残渣を50%含水エタノール6Lで同様に抽出する操作をさらに2回繰り返して濾液を得た。これらの濾液を合わせ、水5Lを加えて沈殿物を析出させた。これに活性炭100gを加え、1時間攪拌し、一夜冷所で保存した後に濾過して沈殿と活性炭の混合物を得た。この混合物にエタノール4Lを加え、3時間加熱還流し、温時に濾過して濾液を得た。残渣をエタノール2.4Lで同様に抽出する操作を更に2回繰り返して濾液を得た。これらの残渣を合わせ、減圧濃縮してエタノールを留去し、粉末状のローズマリー抽出物非水溶性成分を得た。この抽出成分を分析した結果、カルノジック酸(カルボキシル基を有する化合物(D))、カルノソール(フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A))を含有していた。
【0069】
(食品改質剤の調整)
表1の各成分をそれぞれ秤量し、混合して食品改質剤を得た。得られた食品改質剤を水に溶解し、200mlの水溶液aを調整した。
【0070】
(pHの測定方法)
水溶液のpHは、東亜電波工業社製HM−40Vにより測定した。
【0071】
(評価方法)
オーストラリア産焼肉用カルビ肉の肉片(一片が30〜60g)を、肉片の半分の重量の下記表1のaの組成の水溶液中に2時間冷蔵(7〜10℃)で浸漬を行った。
浸漬後、210〜240℃に設定したホットプレートで肉片の片側を1分ずつ2回くりかえし、合計4分間焼成した。焼成後、下記の項目について官能評価を行った。
【0072】
(評価基準)
〔肉質軟化〕
パネラーにより以下の基準で評価し、5人のパネラーの点数を合計した。点数が高い方が良好である。
肉質軟化の評価基準: 「軟らかい」3点、「好ましい」2点、「ふつう」1点、「硬
い」0点
〔赤み保持〕
1人のパネラーにより、以下の基準で評価した。点数が高い方が良好である。
赤み保持の評価基準: 「とても赤い」3点、「赤い」2点、「薄いピンク」1点、「
白く脱色」0点
〔肉臭〕
パネラーにより以下の基準で評価し、5人のパネラーの点数を合計した。点数が高い方が良好である。
肉臭の評価基準: 「良い肉の香り」3点、「好ましい」2点、「ふつう」1点、「好
ましくない獣臭あり」0点
【0073】
<焼成歩留率>
焼成前と焼成後の重量を測定し、焼成前の重量を100(%)として焼成後の重量の割合を計算した。
上記調整により得られた水溶液aを用いた評価結果を表1に示す。
【0074】
[比較例1〜6]
実施例1の食品改質剤の構成成分を表1に示す組成に替えた以外は実施例1と同様に、調整および評価を行った。比較例1〜6の結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
[実施例2、比較例7〜11]
(水溶液の調整方法、評価方法および評価基準)
比較例1〜4で得られたb〜eの水溶液を表2の重量比率となるようにそれぞれ秤量して混合した。実施例1における評価方法および評価基準と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の食品改質剤を食品に添加することにより、食品の変色や劣化臭の抑制に優れ、さらに、食品の加熱調理による肉汁の流出や、硬くなることを抑制するため食感を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物と、二糖類以上の糖(C)(但し(A)及び(B)を除く)、およびカルボキシル基を有する化合物(D)(但し(A)(B)及び(C)を除く)、を少なくとも含有し、かつpHが7.01〜12であることを特徴とする食品改質剤。
【請求項2】
フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)とエノレート構造を有する化合物(B)とからなる群から選択される1種以上の化合物が、天然物から抽出されたものである請求項1に記載の食品改質剤。
【請求項3】
フェノール性水酸基を有しカルボキシル基を有さない化合物(A)が、テルペノイド骨格を有するものである請求項1または2に記載の食品改質剤。
【請求項4】
カルボキシル基を有する化合物(D)が、天然物から抽出されたものである請求項1〜3の何れか1項に記載の食品改質剤。
【請求項5】
カルボキシル基を有する化合物(C)が、フェノールカルボン酸骨格を有するものである請求項1〜4の何れか1項に記載の食品改質剤。
【請求項6】
水溶液である請求項1〜5の何れか1項に記載の食品改質剤。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の食品改質剤を含有する食品。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項に記載の食品改質剤を含有する飼料。

【公開番号】特開2011−30490(P2011−30490A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179462(P2009−179462)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】