説明

食品液抽出用複合繊維シート

【課題】抽出性、粉漏れ防止性、ヒートシール性に優れると共に、安全性にも優れた食品液抽出用シートを提供することにある。
【解決手段】少なくとも二層の繊維状シートからなり、一方の繊維状シートが(A)融点が160℃以上の繊維形成性高融点高分子からなる、平織物またはネット状シートであり、他方の繊維状シートが、(B)該(A)平織物またはネット状シートを構成する繊維形成性高融点高分子よりも融点が25℃以上低い繊維形成性低融点高分子からなる不織布であって、かつ(A)平織物またはネット状シートと(B)不織布とが加熱・接着して一体化されている、食品液抽出用複合繊維シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑茶・紅茶・麦茶・コーヒー・ジュースなどのような飲料、ダシ・煮汁などのような味付けスープなどにおいて、不織布のような多孔性シートを袋状に成形して用いる食品液抽出用複合繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、茶葉を収容するバッグを、紙、不織布などで形成し、これをカップに入れてから熱湯を注入することにより、バッグ本体内の茶葉成分を抽出する、いわゆるお茶バッグ、ティーバッグ、コーヒーバッグなどが使用されている。
あるいは、いわし節、かつお節などの魚節や、昆布類などのダシを収納したバッグを、ダシの素として容器に入れ、熱湯中で煮出す味付けスープとしても活用されている。これらのバッグを用いると、使用者は直接粉末を扱う必要がなく、しかも抽出作業のあとに茶葉ガラやダシガラを抽出液から分離する作業も不要なので、調理作業性を向上できる。
【0003】
これらのバッグのシート材料としては、既にいくつかの提案がある。例えば、メルトブロー不織布のような極細繊維からなる不織布を複合して微細な茶葉粒子の粉漏れを少なくした抽出フィルター材料(特許文献1:特開平6−65851号公報)、特定の成分の芯鞘型複合繊維を含有する、抄紙時に浮き種が無く、ヒートシール性のある湿式不織布(特許文献2:特開平9−268434号公報)、ヒートシール層と非ヒートシール層を複合した、ヒートシール性に優れるカード不織布、またはスパンボンド不織布(特許文献3:特開2001−315239号公報)、芯鞘の熱バインダー繊維を20重量%以上含有し、特定のろ過速度、ろ過面積を有する不織布(特許文献4:特開平9−271617号公報)、微細な孔径を有するメルトブロー不織布などの濾過層にスパンボンド不織布などの支持層を積層した複合繊維シート材料からなるコーヒーフイルター材料(特許文献5:特許第2930365号公報)などが挙げられる。
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、極細繊維不織布によって粉漏れを防げるものの、目詰まりしやすく、抽出に時間がかかりやすくなってしまう。また、特許文献2の湿式不織布は、あくまでも湿式で抄紙する湿式不織布に関する提案であり、抄紙には繊維分散剤、粘剤、発泡抑制剤などの抄紙助剤が用いられることが多い。これらの剤は化学薬剤であって、抄紙工程からの排水および製造された紙に微量残存し、地球環境や人に対するなんらかの影響がある可能性を完全に否定することは困難である。より万全な安全性、安心感を考えれば、必ずしも人の飲料用に供するには安全性が高いとは考えにくく、好ましい方法ではないと言う意見もある。特許文献3の不織布は、ヒートシール性に配慮した構造となっているものの、不織布の製法がカード法やスパンボンド法であって、地合いや均一性に優れる提案内容ではないため、不均一性に起因して、粉漏れのリスクや、ヒートシール部の強度安定性が少ないなどの課題が残されている。さらに、特許文献4の不織布も、やはり不織布の製法がニードルパンチング、サーマルボンディングなどのいわゆる既存の製法なので、上記した課題を有している。さらに、特許文献5においても、極細繊維不織布に起因する目詰まりし易さや抽出時間の長さという問題がある。
このように、本用途に求められる、製袋加工性、熱安定性、地合いの均一性、抽出性などの性能をすべて満足させるものでは無かった。
【0005】
そのほか、食品液抽出用シートとしては、細繊度・高密度のスクリーン紗やメッシュ状のシートが市販されているが、端部がほつれたり、高価であるという問題がある。また、目ズレを生じると、茶葉の微細なものが粉漏れし、取り扱いに支障がある。
また、食品液抽出用シートとして、紙や不織布単独のものの場合、バインダー繊維を配合した湿式不織布や乾式不織布が市販されている。しかしながら、これらの商品では、抽出速度を上げるには、薄物(低目付け)が必要だが、強度が低下しやすくて弱く、破袋する場合があり、一方強度を上げるために目付けを増やすと、抽出性が低下するという問題もある。
【0006】
このように、食品液抽出用シートには、抽出するべき成分の速やかな抽出性や微細な粉末の漏れ防止などの実用性能、ヒートシールや超音波シール、溶断などの製袋加工性、熱湯でも剥がれないシール性能、方向性が少ないバランスの取れた強度などが求められる。
特に、抽出性と粉漏れ防止性の両立や、安定した不織布強度、シール強度を図って行くには、従来使用され、提案されている湿式不織布、カード法不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、スクリーン紗、メッシュシートなどではそれぞれ不十分な点があり必ずしも万全とは言えない。
【特許文献1】特開平06−65851号公報
【特許文献2】特開平09−268434号公報
【特許文献3】特開2001−315239号公報
【特許文献4】特開平09−271617号公報
【特許文献5】特許第2930365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような、問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、抽出性、粉漏れ防止性、ヒートシール性に優れると共に、安全性にも優れた食品液抽出用複合繊維シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも二層の繊維状シートからなり、一方の繊維状シートが(A)融点が160℃以上の繊維形成性高融点高分子からなる、平織物またはネット状シートであり、他方の繊維状シートが、(B)該(A)平織物またはネット状シートを構成する繊維形成性高融点高分子よりも融点が25℃以上低い繊維形成性低融点高分子からなる不織布であって、かつ(A)平織物またはネット状シートと(B)不織布とが加熱・接着して一体化されている、食品液抽出用複合繊維シートに関する。
ここで、(A)平織物またはネット状シートは、好ましくは、繊維径20〜500μm、沸水収縮率が10%以下の繊維からなり、繊維間隔0.2〜7mm、開口率55〜90%、目付けが10〜60g/mである。
また、(A)を構成するネット状シートとしては、経方向に互いに間隔をおいて配列された複数の経ストランドと、緯方向に互いに間隔をおいて配列された複数の緯ストランドとで構成され、経ストランドと緯ストランドとが互いに交差部で結合してなるものが挙げられる。
一方、(B)不織布としては、好ましくは、単糸繊度が0.1〜10dtex、目付けが3〜30g/mの、スパンボンド法、メルトブロー法、カーディング法、湿式法、あるいはエアレイド法により形成された不織布が挙げられる。
以上の(A)と(B)の重量比率は、好ましくは、90/10〜25/75である。
また、本発明の食品液抽出用複合繊維シートの総目付けは、好ましくは、13〜90g/mである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の食品液抽出用複合繊維シートは、高融点繊維からなる(A)平織物またはネット状シートと、低融点繊維からなる(B)不織布との積層・複合一体化シートであるので、
(1)片面が高融点/反対面が低融点であり、ヒートシール法で容易に製袋が可能(加熱部に非粘着、かつシール面は自己融着性を示す)、
(2)(A)平織物またはネット状シートは、強度が大であり、製袋加工や実使用において破れにくい、
(3)(A)平織物またはネット状シートは、剛性があり、特にテトラバッグ型に製袋した場合、袋がつぶれにくいので、実使用において袋内部の茶葉が圧迫されずに、抽出性がよい、
(4)平織物がネット状シート単独使いでは、細かい茶葉の漏れを防ぐには、細かい繊維を密に配する必要があり高価であるが、本発明では(A)平織物またはネット状シートと(B)不織布の複合化により、微細な茶葉粉の漏れを防ぐことができ、しかも該(A)の目ズレも防ぐことできる、
(5)(A)平織物またはネット状シートと(B)不織布との複合繊維シートであるので、繊維以外の添加物を全く使用しなくてもよく、安全性が高い食品液抽出用複合繊維シートを得ることができる、
などの効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(A)平織物またはネット状シート
本発明の(A)平織物またはネット状シートは、強度が大で製袋加工や実使用において破れにくく、剛性があるので、テトラバッグ型ティーバッグを製袋した場合に、袋がつぶれにくく、実使用において、袋内部の茶葉が圧迫されずに、抽出性を良くするなどの作用をなすものである。
ここで、(A)を構成する平織物は、通常の平組織で、打ち込み本数が経緯ともに5〜150本/インチ、好ましくは10〜100本/インチが好適である。用いる織機は、通常用いられているものでよい。平織物の代表例としては、メッシュ織物、スクリーン紗、寒冷紗などが挙げられる。
【0011】
また、(A)を構成するネット状シートとは、経方向に互いに間隔をおいて配列された複数の経ストランドと、緯方向に互いに間隔をおいて配列された複数の緯ストランドとで構成され、経ストランドと緯ストランドとが互いに交差部で結合したシートが挙げられる。
(A)を構成するネット状シートは、例えば、経緯方向にストランドを所要の本数並べてから、交差部を結合させれば良い。結合手段としては、加熱や加圧による結合以外に、バインダー樹脂を付与しても良い。あるいは、経緯のストランドを溶融状態で細孔から押し出して、一挙にネット状を形成する方法でも良い。
上記ネット状シートの具体例としては、倉敷紡績(株)製のクレネット、新日石プラスト(株)製のコンウエッドネットなどが挙げられる。
これらの(A)平織物やネット状シートは、通常、経緯直交型であるが、30度以内で軽度に斜交していてもよい。ただし、斜交角度が30度を超えると、経張力が加わった場合に伸びが大となり、(B)不織布との積層・一体化や製袋加工の工程において、不具合を生じやすくなる。
【0012】
ここで、(A)は、融点が160℃以上の繊維形成性高融点高分子から構成されていることが必要である。融点が160℃未満では、ヒートシール方式で製袋する場合に熱板への粘着が大きくなり易く好ましくない。このような高融点高分子としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの芳香族ポリエステル、ナイロン6、ナイロン6,6などの脂肪族ポリアミド、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリ乳酸などの生分解性樹脂など、が挙げられる。生分解性樹脂としては、そのほか、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンニ酸などの脂肪族ジカルボン酸成分とエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、デカメチレンジオール、ネオペンチルジオール、シクロヘキサンジメタノールなどのグリコール成分とからなる脂肪族ポリエステルなども用いられる。
なお、(A)を構成する繊維(ストランド)は、後記するような芯鞘型複合繊維であってもよい。
かかる高融点高分子の融点が160℃未満では、得られる複合繊維シートの加熱部が非粘着性とならず好ましくない。
【0013】
(A)を構成する繊維(平織物にあっては、モノフィラメント、マルチフィラメント、あるいは紡績糸、ネット状シートの場合は、経ストランドや緯ストランド)は、繊維径(総繊度)が好ましくは20〜500μm、さらに好ましくは30〜300μmである。20μm未満では、細過ぎて強度や剛性が充分でなく、一方、500μmを超える太い繊維を使った場合、ヒートシール製袋する場合に太い繊維以外の部分への加圧が充分で無くなってシール強力不足発生しやすくなるばかりか、シートの全体厚さが厚くなって商品の所定パッケージへの収納個数が少なくなり、輸送経費などのコストアップ要因を招くので、実用的でない。
【0014】
また、(A)を構成する繊維の沸水収縮率は、好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下である。ここで、沸水収縮率は、JIS L1042 B法(沸騰水浸漬法)により、沸騰水中に30分浸漬後に脱水・自然乾燥して測定するものとする。沸水収縮率が10%を超えると、熱水での抽出操作においてシートが収縮変形し、繊維間の間隔が詰まり、抽出性能が悪化する。本発明に用いられる(A)を構成する繊維の沸水収縮率は、繊維を形成する工程における条件、例えば緊張熱処理や弛緩熱処理などの条件を適正化することにより、容易に調整することができる。
【0015】
また、(A)平織物またはネット状シートは、繊維(ストランド)間隔が、好ましくは0.2〜7mm、さらに好ましくは0.25〜5mmである。0.2mm未満では、目が詰まり過ぎて抽出性能が悪化し、一方、7mmを超えると、繊維(ストランド)間に存在する不織布の強度が充分でない場合に破れる危険性が増大する。
【0016】
さらに、(A)平織物あるいはネット状シートは、開口率が好ましくは55〜90%、さらに好ましくは60〜80%である。ここで、開口率は、上記で規定した繊維(ストランド)の径と間隔によって容易に計算することができる。開口率が55%未満では、目が詰まり過ぎて抽出性能が悪化し、一方、90%を超えると、繊維(ストランド)間に存在する不織布の強度が充分でない場合に破れる危険性が増大する。
この開口率は、繊維(ストランド)の径と間隔を適正化することにより、容易に調整することができる。
【0017】
以上の(A)平織物またはネット状シートは、その目付けが好ましくは10〜60g/m、さらに好ましくは12〜50g/mである。10g/m未満では、得られる複合繊維シートの強度や剛性が弱くなり、一方、60g/mを超えると、厚さの増大などによるコストアップを招き、実用的でない。
【0018】
(B)不織布
本発明に用いられる(B)不織布は、低融点高分子で構成されているので、得られる複合繊維シートのヒートシール性を発現することができ、さらに(A)平織物またはネット状シート単独では困難な抽出性能の適正化、つまり抽出速度と微細な粉体の洩れ防止性能の適正化の役割を果たすものである。
【0019】
(B)不織布は、(A)を構成する繊維形成性高融点高分子よりも、融点が25℃以上低い、好ましくは30℃以上低い繊維形成性低融点高分子からなる不織布である。融点が25℃以上低くないと、製袋工程のヒートシール部への非粘着と、シートどうしの十分なシール強力との両立が充分でなくなり、好ましくない。
なお、(B)不織布を構成する繊維が複合繊維である場合、芯鞘型複合繊維の場合は鞘部が低融点高分子で、また、サイド・バイ・サイド型複合繊維の場合は、一方の側が低融点高分子で構成されていればよい。
このような繊維形成性低融点高分子としては、例えば共重合ポリエステル、つまりポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを基本骨格として、イソフタル酸、5−金属スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバチン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族多価アルコールなどとの変性、テトラメチレングリコールなどのポリ(アルキレンオキサシド)グリコールなどをソフトセグメントとして共重合したポリエステル系エラストマーなど、挙げられる。さらに、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンやその共重合体、ポリ乳酸などの生分解性高分子、共重合ポリアミド、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、これらのポリマーは、本発明の作用・効果を阻害しない範囲でさらに変性、混合されていても差し支えがない。融点は、110℃以上であることが好ましい。110℃未満の場合は、熱水中での抽出操作中にヒートシール部が剥離してしまう危険性が増大する。
【0020】
以上の(B)不織布は、単糸繊度が好ましくは0.1〜10dtex、さらに好ましくは0.5〜6dtexの繊維が用いられる。0.1dtex未満では、繊維間距離が接近して繊維どうしで形成される微少な穴からの抽出性がダウンしてくるばかりか、目詰りも起きやすくなる。さらに、未解繊、未分散の繊維も多くなって不織布地合いが悪くなる傾向がある。一方、繊度が10dtexを超えると、抽出スピードはアップするものの、微少な茶葉粉末、食品粉末が漏れ易くなり、本用途に適さなくなる。
【0021】
また、(B)不織布の目付けは、好ましくは3〜30g/m、さらに好ましくは5〜25g/mである。3g/m未満では、得られる複合繊維シートのヒートシール強度が低下し、粉漏れ防止性、目ズレ防止性も低下する。一方、30g/mを超えると、抽出性が悪化する。
【0022】
本発明に用いられる(B)不織布としては、スパンボンド法、メルトブロー法、カーディング法、湿式法、あるいはエアレイド法により形成された不織布が挙げられる。好ましくは、地合、タテ・ヨコのバランス、(A)との積層一体化が容易などの点で、エアレイド法による不織布が好ましい。
従来から知られているエアレイド不織布は、パルプ繊維層をベースとしてポリアクリル酸エステル系やポリ酢酸ビニル系などのケミカルバインダー樹脂を表層にスプレーしたり塗布したり、全体に含浸したりして繊維間結合を形成しているが、この方法では微量の残存モノマーや架橋剤としてのホルマリン発生の懸念があり、好ましくない。
本発明に好ましいエアレイド不織布は、熱接着性複合繊維で構成するのが好適である.
【0023】
(B)不織布のうち、エアレイド法による不織布は、多孔質ネットコンベアー上に位置する単台または多数台の噴き出し部から、繊維長2〜10mm、繊度が好ましくは0.5〜6dtexの熱接着性複合繊維を空気流と共に噴出し、ネットコンベアー下面に配置した空気サクション部で吸引しながらネットコンベアー上に繊維層を形成するものである。その後、必要に応じて、熱風処理および/または熱圧カレンダー処理して繊維間結合を形成して不織布として一体化させる。
繊維量、噴き出し条件、空気サクション条件、熱処理条件などを調節することにより所定の目付、厚さに仕上げて、本発明に用いられる繊維層を得ることができる。
【0024】
熱接着性複合繊維としては、熱で溶融して相互に結合する繊維であれば、どのような繊維でもよいが、低融点成分である熱接着成分の融点は、好ましくは110〜170℃である。さらに好ましくは、110〜160℃である。110℃未満の場合、熱湯中でシール部が剥離するリスクを生じ易く、麦茶やダシ汁などの場合は特に沸騰水に数分〜数十分浸漬されていても剥がれないことが求められるので、融点は重要である。さらに、結晶性の高いポリマーの場合は、融点未満の温度では結合が緩みにくい特徴があるのでより好適である。一方、170℃を超えると、製袋加工のヒートシールもしくは超音波シール工程において高温、低速が必要となり、生産性が落ち実用的でない。
【0025】
熱接着性複合繊維としては、低融点成分を鞘成分とし、高融点成分を芯成分とする芯鞘型、一方が低融点、他方が高融点成分であるサイド・バイ・サイド型が好適である。これらの複合繊維の両方の成分の組み合わせとしては、PP/共重合PP、PP/共重合PE、PET/PE、PET/共重合PE、PET/共重合PET(低融点共重合ポリエステル)などが挙げられる。
特に、ポリエステル系の場合はオレフィン系より水にやや馴染みやすいうえ、比重が1より大なので、水に沈降し易く、好適である。お茶バッグは、通常、水に沈み易い方が使い良い。ここで、上記低融点共重合ポリエステルの例としては、前掲のとおりである。
【0026】
熱接着性複合繊維は、エアレイド法の場合、繊維長が2〜10mmであることが好ましく、さらに好ましくは3〜5mmである。繊維長が2mm未満であると、粉末状に近づくため多孔質ネットコンベアーから抜け落ちる割合が高くなり歩留まりが悪くコストアップするばかりか、加工も難しい。一方、繊維長が10mmを超えると、繊維の紡出量が減るため生産性が悪化するばかりか、繊維の分散も悪化し、抽出性や粉漏れ防止の性能にも影響が出易い。
【0027】
また、熱接着性複合繊維の繊度は、好ましくは0.5〜6dtexであり、さらに好ましくは0.6〜5dtexである。繊度が0.5dtex未満であると、繊維間距離が接近して繊維どうしで形成される微少な穴からの抽出性がダウンしてくるばかりか、目詰りも起きやすくなる。さらに未解繊、未分散の繊維も多くなって不織布地合いが悪くなる傾向がある。一方、繊度が6dtexを超えると、抽出スピードはアップするものの、微少な茶葉粉末、食品粉末が漏れ易くなり、本用途に適さなくなる。
【0028】
なお、熱接着性複合繊維は、捲縮していても、していなくてもよく、またストランドチョップであってもよい。捲縮している場合、ジグザグ型の二次元捲縮繊維およびスパイラル型やオーム型等の三次元(立体)捲縮繊維の何れも使用できる。
【0029】
ここで、これらの熱接着性複合繊維以外の繊維、例えばPP繊維、PET繊維、PBT繊維、ナイロン6繊維、ナイロン6,6繊維、芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維、合成パルプ(例えば、三井化学(株)製SWPのような、PEやPPを素材とするフィブリル状繊維)、木材パルプ、麻、レーヨン、ビスコース繊維などを本発明の趣旨、効果を阻害しない範囲で混合しておいても良い。この場合、他の繊維の比率は20重量%以下に留めるのが好ましい。20重量%を超えると、不織布強力やヒートシール性に影響が出るばかりか、熱接着性のない繊維は実使用中に脱落し易くなる。
【0030】
以上のような繊維を原料とするエアレイド不織布製造法は、カード法などの既存の乾式不織布製造法に較べて、長さの短い繊維が使用できるので、空気流によって容易に単繊維に解繊され易い。従って、極めて地合いの良好な、つまり均一性の良好な不織布が得られるという大きな特徴を有する。食品液抽出の用途において、粉漏れが少なく、かつ抽出性が良いという性能には、均一性は重要な特性であり、既存のカード法不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布では得られ難い。また、本製造法によれば、タテ/ヨコの強力比率がほぼ1/1に近いというメリットも有する。
さらに、抄紙薬剤やケミカルバインダーを使用していないので、食品用として安全性が高いばかりか、製造時や廃棄時における環境汚染の恐れも無い。
【0031】
熱風処理:
繊維間結合を形成するための熱風処理としては、熱接着性複合繊維の低融点成分(芯鞘型複合繊維の鞘成分、あるいはサイド・バイ・サイド型複合繊維の低融点側成分)の融点以上の温度が必要である。しかしながら、低融点成分の融点よりも30℃以上高い場合、あるいは高融点成分(芯鞘型複合繊維の芯成分、あるいはサイド・バイ・サイド型複合繊維の高融点成分)の融点以上の場合は、繊維の熱収縮が大きくなり易く、地合いの悪化を招くので好ましくない。従って、熱風処理温度は、通常、110〜200℃、好ましくは120〜180℃である。
【0032】
熱圧処理:
さらに、本発明では、熱圧処理することもできる。熱圧処理は、食品液抽出シートとしての性能や、求められる厚さに応じて熱圧処理を行ない、通常、カレンダー処理が用いられる。熱風処理後にカレンダー処理しても良いし、熱風処理単独、あるいはカレンダー処理単独でも良い。両者の併用が最も強力アップが期待できるので好ましい。カレンダー処理に用いるローラーとしては、全体に均一な熱圧を加えるため、平滑表面の一対の金属ローラー、または金属ローラーと弾性ローラーの組合わせを用いることが好ましいが、多段ローラーであっても良い。また、本発明の趣旨を損なわない範囲であれば、凸凹表面のエンボスローラーであっても良い。
【0033】
カレンダー処理により熱接着する際の温度は、用いる熱接着性複合繊維の種類や、全体の目付により適宜選択されるが、あらかじめ熱風処理してある場合には、熱圧処理は厚さ調整の役割となり、常温〜低融点成分の融点までの範囲で任意に設定できる。融点に近い高温の場合には不織布強力がさらにアップする傾向があり、常温に近い場合には単なる厚さ調整の役割のみとなる。あらかじめ熱風処理してない場合には、低融点成分の融点〜マイナス30℃の範囲が適切である。強度アップには極力高温が好ましいが、融点を超えるとローラー表面への粘着が発生しやすくなるので好ましくない。融点マイナス30℃未満の場合は、ローラー圧力をアップしても不織布強力が低く、実用に耐えられない。好ましくは、100〜170℃である。
【0034】
また、カレンダー処理の線圧は、幅方向で均一な線圧になるよう設定すれば、任意の圧力を選択することができる。高圧の場合は不織布強力がアップし、厚さがダウンする。低圧の場合は勿論これに反する影響が出る。熱風処理せずに熱圧処理のみの場合は、極力高圧のほうが不織布強力の点で好ましい。通常、10〜100kgf/cmが好ましい。
【0035】
(A)と(B)との複合化
(A)と(B)との積層一体化は、(B)不織布ウェブを形成したのち、(A)を重ねて、加熱・接着・一体化してもよいし、(B)不織布ウェブ単独で、加熱・一体化したのち、さらに(A)を重ねて加熱接着してもよい。また、あらかじめ、エアレイド法で(B)不織布を作製する際に、基材シートとして(A)を多孔質ネットコンベアーに載置し、この上に(B)不織布ウェブを積層して、引き続き、熱風処理、熱圧処理を施して、(A)と(B)とを一体化してもよい。
さらに、(A)の両面に(B)不織布を積層してもよい。この場合には、(A)の両面に用いる(B)不織布として、融点の異なる繊維を使い分けておけば、易ヒートシール性、シールバーへの非融着性を確保することができる。
(A)と(B)との一体化をより強固にするには、さらに熱圧カレンダーを加えてもよいし、この際、エンボス加工を付与してもよい。カレンダー温度は、(B)不織布を構成する複合繊維の鞘部の融点よりもやや低温とすることが望ましい。好ましくは、鞘部の融点マイナス5℃〜マイナス50℃である。マイナス5℃を超えると、一部の繊維がフィルム化し始めるので、目が詰まってしまい、抽出性が悪化する。一方、マイナス50℃未満では、カレンダー効果が発揮されない。
以上の(A)と(B)との複合化における加熱・接着は、(B)不織布を製造する際の熱風処理や熱圧処理と同様の処理方法が採用される。
なお、(A)と(B)との接着については、不織布にパウダー状の低融点樹脂を散布してから加熱・一体化したり、平織物、またはネットにあらかじめ低融点樹脂を薄くコーティングしておいてから加熱・一体化したり、ケミカルバインダーを使用したりすることも可能である。この場合、不織布やネットの目をつぶさない程度に使用量を抑える必要がある。
【0036】
このようにして得られる(A)と(B)とが複合された複合繊維シートにおいて、(A)と(B)との重量比は、好ましくは90/10〜25/75、さらに好ましくは80/20〜30/70である。(A)が25重量%未満の場合は、強度や剛性への寄与が小さく、一方、90重量%を超える場合は相対的に不織布目付が小さくなり、不織布が果たすべき抽出性の適正化、ヒートシール適性の付与が困難となる。
【0037】
このようにして得られる本発明の食品液抽出用複合繊維シートの総目付は、13〜90g/mであり、好ましくは18〜70g/mである。目付が13g/m未満では、強度が弱すぎて実用上の問題を生じ、一方、90g/mを超えると繊維間間隔が密に過ぎて抽出性が悪化する。
【0038】
なお、得られる本発明の食品液抽出用シートの厚さは、通常、カレンダー処理をしたシートでは0.05〜0.5mm、カレンダー処理をしていないシート(熱風処理のみ)では0.3〜1mm程度である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
(A)として、ナイロン6の平織物〔ナイロン6モノフィラメント(22dtex、繊維径:48μm)、融点=220℃、沸水収縮率=3%、繊維間隔=0.31mm、織り密度=70本/インチ(経、緯とも)、開口率=65%、目付け=25g/m〕を用いた。
この(A)ナイロン6平織物をキャリアシートに用い、原料繊維として、芯がポリエチレンテレフタレート(PET)で、鞘が融点150℃のイソフタル酸共重合ポリエステルからなる熱接着性複合繊維(繊度2.2dtex、長さ5mm、帝人ファイバー(株)製)を、エアレイド法で、目付5g/mとして積層捕集した。この積層ウェブを157℃の熱風で繊維間結合し、さらに線圧15kgf/cmの一対の金属ローラーで、130℃でカレンダー仕上げし、目付け30g/mの紅茶抽出用複合繊維シートとした。
得られた複合繊維シートを用い、タテ5×ヨコ5×高さ6.5cmの大きさのテトラバッグに紅茶の葉2gを入れて、ヒートシール製袋した。この際、不織布面どうしが向き合うようにし、シール温度は160℃とした。この結果、良好なシール強度が得られた。反対面の平織物面は、160℃のシール部金属に対し、粘着がほとんどなかった。
このようにして製造されたテトラバッグをティーカップに入れて、90℃の湯を注ぎ、紅茶を抽出したところ、微細な粉漏れや袋破れ、シール剥離もなく、抽出物は濃さ、香り、味ともに良好であった。
【0041】
<実施例2>
(A)として、PETマルチフィラメントの平織物〔PETマルチフィラメント(110dtex/60フィラメント、マルチフィラメントの総繊維径:101μm)、融点=250℃、沸水収縮率=2%、繊維間隔=1.3mm、織り密度=18本/インチ(経、緯とも)、開口率=85%、目付け=15g/m〕を用いた。
この(A)PET平織物をキャリアシートに用い、原料繊維として、芯がポリエチレンテレフタレート(PET)で、鞘が融点150℃のイソフタル酸共重合ポリエステルからなる熱接着性複合繊維(繊度1.7dtex、長さ5mm、帝人ファイバー(株)製)を、エアレイド法で、目付10g/mとして積層捕集した。この積層ウェブを157℃の熱風で繊維間結合し、さらに線圧15kgf/cmの一対の金属ローラーで、130℃でカレンダー仕上げし、目付け25g/mの紅茶抽出用複合繊維シートとした。
得られた複合繊維シートを用い、これに煎茶の葉1.5gを入れて、タテ5×ヨコ5cmの大きさの封筒型にヒートシール製袋した。この際、不織布面どうしが向き合うようにし、シール温度は160℃とした。この結果、良好なシール強度が得られた。反対面の平織物面は、160℃のシール部金属に対し、粘着がほとんどなかった。
このようにして製造された封筒型ティーバッグを湯飲みに入れて、90℃の湯を注ぎ、煎茶を抽出したところ、微細な粉漏れや袋破れ、シール剥離もなく、抽出物は濃さ、香り、味ともに良好であった。
【0042】
<実施例3>
(A)として、倉敷紡績(株)製、PETモノフィラメントの経緯直交ネット状シート〔PETモノフィラメント(450dtex、繊維径:250μm)、融点=250℃、沸水収縮率=2%、繊維間隔=4mm、織り密度=6本/インチ(経、緯とも)、開口率=88%、目付=20g/m〕を用いた。なお、モノフィラメントの直交部は、ポリアクリル酸エステル系樹脂で接着した。
この(A)PET直交ネット状シートをキャリアシートに用い、原料繊維として、芯がポリプロピレン(PP)で、鞘がポリエチレン(PE)からなる熱接着性複合繊維(繊度3.3dtex、長さ5mm、チッソ(株)製、鞘部の融点=130℃)を、エアレイド法で、目付12g/mとして積層捕集した。この積層ウェブを134℃の熱風で繊維間結合し、さらに線圧20kgf/cmの一対の金属ローラーで、125℃でカレンダー仕上げし、目付け32g/mの鰹節抽出用複合繊維シートとした。
得られた複合繊維シートを用い、タテ15×ヨコ15cmの大きさの封筒型を作製し、これに鰹節15gを入れて、ヒートシール製袋した。この際、不織布面どうしが向き合うようにし、シール温度は145℃とした。この結果、良好なシール強度が得られた。反対面の平織物面は、135℃のシール部金属に対し、粘着がほとんどなかった。
このようにして製造された封筒型バッグを、調理用なべに水1リットルとともに入れて、煮沸させ、ダシを抽出したところ、微細な粉漏れや袋破れ、シール部剥離もなく、抽出物は濃さ、香り、味ともに良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の食品液抽出用複合繊維シートは、食品液抽出性、ヒートシール性、安全性に優れ、ティーバック、コーヒーフィルター、だしパックなどの用途に好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二層の繊維状シートからなり、一方の繊維状シートが(A)融点が160℃以上の繊維形成性高融点高分子からなる、平織物またはネット状シートであり、他方の繊維状シートが、(B)該(A)平織物またはネット状シートを構成する繊維形成性高融点高分子よりも融点が25℃以上低い繊維形成性低融点高分子からなる不織布であって、かつ(A)平織物またはネット状シートと(B)不織布とが加熱・接着して一体化されている、食品液抽出用複合繊維シート。
【請求項2】
(A)平織物またはネット状シートが、繊維径20〜500μm、沸水収縮率が10%以下の繊維からなり、繊維間隔0.2〜7mm、開口率55〜90%、目付けが10〜60g/mである請求項1記載の食品液抽出用複合繊維シート。
【請求項3】
(A)を構成するネット状シートが、経方向に互いに間隔をおいて配列された複数の経ストランドと、緯方向に互いに間隔をおいて配列された複数の緯ストランドとで構成され、経ストランドと緯ストランドとが互いに交差部で結合してなる、請求項1または2記載の食品液抽出用複合繊維シート。
【請求項4】
(B)不織布が、単糸繊度が0.1〜10dtex、目付けが3〜30g/mの、スパンボンド法、メルトブロー法、カーディング法、湿式法、あるいはエアレイド法により形成された不織布である、請求項1記載の食品液抽出用複合繊維シート。
【請求項5】
(A)と(B)の重量比率が、90/10〜25/75である請求項1〜4いずれかに記載の食品液抽出用複合繊維シート。
【請求項6】
総目付けが、13〜90g/mである請求項1〜5いずれかに記載の食品液抽出用複合繊維シート。

【公開番号】特開2007−217833(P2007−217833A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40385(P2006−40385)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(591196315)金星製紙株式会社 (36)
【Fターム(参考)】