説明

食品用てり・つや剤

【課題】食材によく絡むことで良好な食感を与え、食品につや・てりを付与して美感を向上させることができるのと同時に、食品の色や香味に影響せず、しかもでんぷん独特の好ましくない味やにおいが生じないような、てり・つや剤を製造する。
【解決手段】でんぷんの中でも、とくにタピオカ由来のでんぷんを原料として使用し、てり・つや剤を製造する。本発明のてり・つや剤は、食品本来の色や風味・香りには全く影響を及ぼすことがなく、さらに、でんぷんそのものに由来する好ましくない味やにおいを示さないことから、多様な食品に対して利用することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タピオカ由来のでんぷんを含有し、かつ呈味を有さないてり・つや剤、および本てり・つや剤を用いて製造された食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品具材に絡めることによって保水性を高め、具材の乾燥を防ぐのと共に食感を向上させたり、また食品にてり・つやを付与することで美感を向上させたりするためのてり・つや剤は、よく知られてきたものである。従来このようなてり・つや剤としては、たとえば組成物中に少なくともプルラン、ゲル化剤および糖類を含有せしめた煮物用仕上げ調味液(特許文献1)や、増粘剤、でんぷんおよびトレハロースを含有せしめる調味組成物(特許文献2)等が検討されてきた。
【0003】
しかし一方で、知られてきた上記のような特性を有するてり・つや剤は、いずれも原材料にトレハロースや水飴等の糖類、食塩や発酵調味料等の塩味・甘み等を付与する呈味成分を添加して製造されるものであった。したがって食品に利用した際、食材が持つ本来の色や風味、香りに影響を及ぼし、多様な食品に対して広く利用可能であるとは到底言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−185号公報
【特許文献2】特開2002−209547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のてり・つや剤は、食品本来の色、風味や香りに意図しない影響を与えてしまうことから、限られた用途にしか使用できないという問題があった。したがって、食材によく絡むことで良好な食感を与え、食品につや・てりを付与して美感を向上させることができるのと同時に、食品の色や香味に影響しないようなてり・つや剤の開発が望まれていた。
【0006】
発明者は、呈味を有さないてり・つや剤の製造を検討したところ、実施例に記載したように、様々なでんぷんを原料として用いててり・つや剤を製造した場合、でんぷんの種類によってでんぷん独特の味やにおいが生じてしまうなど、食品への使用に適するものとは言えない場合が多いことが判明した。すなわち、単に呈味を有さないてり・つや剤を製造しただけでは、多様な食品への利用に適した産物は得られないことが明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、発明者はさらに鋭意研究を重ねた結果、食用として用いられる多様なでんぷんの中でも、とくにタピオカ由来のでんぷんを原料として、てり・つや剤を製造することによって、上述の問題点を解決し、食材の色・風味に影響を及ぼすことなく、美感・食感を向上させ、さらにでんぷん由来の好ましくない味・においが生じないようなてり・つや剤を得られることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0008】
したがって、本発明は以下のようなものである。
(1)タピオカ由来のでんぷんを含有し、呈味を有さないてり・つや剤。
(2)さらにDE20以下のでんぷん分解物を含有する(1)記載のてり・つや剤。
(3)タピオカ由来のでんぷんの添加量の比率が4〜10重量%である(1)記載のてり・つや剤。
(4)25℃、B型粘度計で測定した粘度が400〜21000mPa・sである、(1)記載のてり・つや剤。
(5)(1)ないし(4)記載のてり・つや剤を利用して製造された食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明のてり・つや剤は、食品に適度に絡み、保水性を高めることで良好な食感を与え、また食品にてり・つやを付与することで美感を向上させるものである。しかも本てり・つや剤は呈味を有さないために、食品本来の色や風味・香りには全く影響を及ぼすことがなく、さらに、でんぷんそのものに由来する好ましくない味やにおいを示さないことから、様々な食品に対して利用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のてり・つや剤は、タピオカ由来のでんぷんを含有し、かつ呈味を一切有さないことを特徴とする。
【0011】
本発明のてり・つや剤は、美感や食感の向上を目的として食品に使用される調理用組成物である。また、本明細書において「呈味を有さない」とは、無味あるいはそれに近い味覚を指し、ゆえに本発明のてり・つや剤には、食塩、醤油・味噌等の発酵調味料、砂糖、水飴、トレハロース等の呈味付与を目的とした成分(食品や食品添加物など)は添加されていない。
【0012】
本発明のてり・つや剤は、タピオカ由来のでんぷんを原料として使用する。使用可能なでんぷんとしては、天然でんぷんまたは化工でんぷんを挙げることができ、化工でんぷんが好適である。化工でんぷんとしては、タピオカ由来の天然でんぷんをヒドロキシプロピル、エピクロルヒドリン、リン酸、アジピン酸、酢酸等により置換および/または架橋されたでんぷんを例示することができる。このようなタピオカ由来の天然でんぷんまたは化工でんぷんは既に市販されており、市販されているもののから適宜選択して使用すればよい。
【0013】
本発明のてり・つや剤では、タピオカ由来のでんぷん以外の原料として、でんぷん分解物を添加し、てり・つやをさらに増強させることもできる。ここで言うでんぷん分解物とは、でんぷんを酸または酵素等で加水分解したものであって、DE20以下の甘味を付与しないものを指し、具体的には可溶性でんぷん、デキストリンまたはマルトデキストリン等を例示できる。なお、DE(Dextrose Equivalent)とはでんぷんの加水分解の度合を示す指標であって、下記の数1の式によって算出される(丸善「丸善総合食品辞典」)。
【0014】
【数1】

【0015】
さらに、本発明のてり・つや剤には、食品の香味・色に影響を及ぼさない範囲で、保存料やpH調整剤等の食品添加物等を含有させてもよい。
【0016】
本発明のてり・つや剤は、上記各原料を水と混合してから加熱し、でんぷんを糊化させることによって製造できる。このとき、完成したてり・つや剤に対して、でんぷんの割合は4〜10重量%程度とすることが好ましい。また、加熱は80〜100℃の温度で1〜30分ほど行えばよいが、でんぷんが十分に糊化される条件であればこれに限定されない。完成したてり・つや剤では、25℃条件下、B型粘度計を用いて測定した粘度が400〜25000mPa・s程度であることが好ましい。
【0017】
本発明のてり・つや剤は、たとえばコロッケ、から揚げ、ステーキ、野菜炒め、ソーセージ、エビチリソース、パスタ、卵料理、ゆで野菜等の弁当の副食(おかず)や惣菜等の食品に対して利用することが可能である。利用する際には、調理済の食品に対して本発明のてり・つや剤を直接絡めたり、本発明のてり・つや剤を他の調味料等と混合してからこれを具材に絡めたり、本発明のてり・つや剤または本発明のてり・つや剤を他の調味料等と混合したものを食品に直接はけ等で塗布したりすればよい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)原料でんぷんの由来の差による不適な味・においの評価
下記表1に示す各種でんぷんの乾燥物60gに、デキストリン(DE10〜12)20gを加え、水を用いて1000gに調製した後、これを95℃で10分間加熱し、25℃に冷却したものを試料液(1)〜(4)とした。その後、各試料についてでんぷんがもつ特有の好ましくない味・においの官能評価を行った。結果を表2に示す。
【0020】
なお、表2中の結果は、10名のパネラーが各試料液におけるでんぷん特有の味またはにおいについて、点数1(非常に弱い)〜5(非常に強い)の絶対評価で付与した点数の平均値を表す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
上記結果より、馬鈴薯でんぷんを用いた試料液(2)はでんぷんがもつ特有の好ましくない味とにおいを強く示し、またワキシーコーンスターチ、コーンスターチを使用した試料液(3)(4)についてもでんぷん特有の味またはにおいを示した。
【0024】
これに対しタピオカでんぷんを用いた試料液(1)は、でんぷん特有の味、においとも他の試料液に比べて最も弱く、本発明のてり・つや剤の原料として使用した際に、食材が持つ本来の風味や香りに及ぼす影響が最も小さいことが明らかになった。
【0025】
(実施例2)でんぷん添加量による食材への絡み度合いの比較
下記表3に示す重量のタピオカでんぷん乾燥物に、デキストリン(DE10〜12)20gを加え、水を用いて1000gに調製した後、実施例1と同様に加熱・冷却して試料液(5)〜(8)を製造した。その後、市販の焼豚を5〜10g程度の大きさにカットし、各試料液を20gずつ絡め、3時間後に具材への絡み度合いについて評価した。結果を表3に示す。
【0026】
なお表中の結果は、10名のパネラーが各試料液における試料液の食材への絡み度合いについて、点数1(非常に悪い)〜5(非常に良い)の絶対評価で付与した点数の平均値を表す。
【0027】
【表3】

【0028】
上記結果より、でんぷんを乾燥物重量で20g使用した試料液(5)については、絡みの評価が非常に悪く、具材に絡めても簡単に流れ落ちてしまうことから、食品用のてり・つや剤の効果を示すことが困難であった。これに対し、でんぷんを乾燥物重量40〜80g使用した試料液(6)〜(8)(タピオカ由来のでんぷんの添加量の比率として4〜8重量%)については絡みの評価が高く、てり・つや剤として充分な効果を示すことが明らかになった。
【0029】
(実施例3)本発明のてり・つや剤使用による美感・食感への効果
市販の焼豚を5〜10g程度の大きさにカットし、上記試料液(7)を20g絡めた焼豚100g、および試料液を絡めていない焼豚100gを各々皿にとり、ラップで覆って3時間置いた。その後、焼豚の保湿感およびてり、食感の各項目について評価した。結果を表4に示す。
【0030】
なお、表中の結果は、10名のパネラーが焼豚の乾燥度合、食感、てりについて、乾燥度合の点数1(乾燥していない)〜5(乾燥している)、食感およびてりの点数1(非常に悪い)〜5(非常に良い)を絶対評価で付与した点数の平均値を表す。
【0031】
【表4】

【0032】
上記結果より、本発明のてり・つや剤を用いることによって、食品の乾燥を防ぎ、かつてりや食感を向上させることが可能であることが示された。
【0033】
(実施例4)本発明のてり・つや剤の粘度の測定
実施例2で効果が見られた試料液(6)および(8)の粘度を、B型粘度計を用いて測定した結果を表5に示す。試料(6)については25℃、30rpmの条件にてNo.2ローターを使用して測定した。また試料(8)については25℃、12rpmの条件にてNo.4ローターを使用して測定した。その結果、表5に示すように、25℃条件下、B型粘度計を用いて測定した粘度が400〜21000mPa・s程度であることが特に好ましいことが明らかとなった。
【0034】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タピオカ由来のでんぷんを含有し、呈味を有さないてり・つや剤。
【請求項2】
さらにDE20以下のでんぷん分解物を含有する、請求項1記載のてり・つや剤。
【請求項3】
タピオカ由来のでんぷんの添加量の比率が4〜10重量%である請求項1記載のてり・つや剤。
【請求項4】
25℃、B型粘度計で測定した粘度が400〜21000mPa・sである、請求項1記載のてり・つや剤。
【請求項5】
請求項1ないし4記載のてり・つや剤を利用して製造された食品。

【公開番号】特開2011−188748(P2011−188748A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55014(P2010−55014)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】