説明

食品用カリウム吸収抑制剤及びそれが含まれた食品

【課題】様々な食品形態にその食品の風味、香味などに影響を与えずに添加することが可能であるとともに、そのもの自体が部分吸収することが少ない食品用カリウム吸収抑制剤及びそれが含まれた食品を提供することである。
【解決手段】カリウムイオン交換能を有する食品用多糖類からなるカリウムイオン交換多糖類と、三次元網目構造の食品用高分子からなり、その三次元網目構造内に前記カリウムイオン交換多糖類を保持するとともに、三次元網目構造内にカリウムイオンを透過可能な三次元高分子と、を備えたことを特徴とする食品用カリウムイオン吸収抑制剤及びそれが含まれた食品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品として摂取されるカリウムイオンが、体内へ吸収されるのを抑制可能であるとともに、食品に添加することが可能な食品用カリウム吸収抑制剤及びそれが含まれた食品に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓疾患である急性腎炎や慢性腎炎は、腎臓の糸球体の炎症により、むくみ・血尿やたんぱく尿としての異常・高血圧などの症状としてあらわれる病気である。症状が進むと腎臓機能が極端に低下して腎不全、尿毒症などを引き起こし、日常生活に大変な負担を与える人工透析や腎臓移植が必要となる。近年の生活習慣病である糖尿病が進行した糖尿病性腎症の患者数は、増加傾向にある。血液中の電解質成分は、腎臓機能の低下により異常をきたし、カリウムの排泄機能低下は、高カリウム血症をもたらす。そこで、このような腎臓疾患を有する者は、日常生活の中で食品中における1日のカリウムイオンの摂取量が制限されている。
【0003】
このようにカリウムの摂取量が制限されている患者は、食品として摂取されたカリウムを排泄する必要がある。摂取されたカリウムを排泄する腎臓疾患の医薬品として、カリウムを吸着する機能を有する陽イオン交換樹脂からなる経口投与剤などがあり、これによりカリウムが体内に吸収される量を制限することができる。
【0004】
一方、医薬品としてでなく食品として、カリウム濃度を低減させたり、またカリウムが体内に吸収されるのを抑制する方法が考案されている。例えば、特許文献1には、イオン交換による脱塩により摂取前の原料飲料のカリウム濃度を低減させる方法が記載されており、特許文献2には、ポリアニオンを含有し、カリウムイオンの体内への吸収を抑制させることを特徴とする食品が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−209573号公報
【特許文献2】特開2000−270811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、食品飲料など液体にしか適用できず、また風味、香味などが壊されて商品価値を著しく低減するなどの問題がある。また、特許文献2に記載された食品は、生体内で消化器官中の胃酸や消化酵素などにより天然由来のポリアニオンが加水分解されるので、ポリアニオン自体が部分吸収されることがある。このポリアニオンの部分吸収により、補足したカリウムイオンは、再度離されて体内に吸収されることになるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、様々な食品形態にその食品の風味、香味などに影響を与えずに添加することが可能であるとともに、そのもの自体が部分吸収することが少ない食品用カリウム吸収抑制剤及びそれが含まれた食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、カリウムイオン交換能を有する食品用多糖類からなるカリウムイオン交換多糖類を三次元網目構造の食品用高分子の三次元網目構造内に保持させるとともに、三次元網目構造内にカリウムイオンを透過させることにより、カリウムイオンをイオン交換により吸着させ体内へのカリウムの吸収を抑制することができることを見出した。すなわち、本発明は、カリウムイオン交換能を有する食品用多糖類からなるカリウムイオン交換多糖類と、三次元網目構造の食品用高分子からなり、その三次元網目構造内に前記カリウムイオン交換多糖類を保持するとともに、三次元網目構造内にカリウムイオンを透過可能な三次元高分子と、を備えたことを特徴とする食品用カリウムイオン吸収抑制剤である。また、本発明は、このような食品用カリウムイオン吸収抑制剤が含まれたことを特徴とする食品である。
【0009】
以上のように、本発明に係る食品用カリウムイオン吸収抑制剤において、カリウムイオン交換多糖類は、三次元高分子内に保持されているので、加水分解され難く、それ自体が吸収されることを防止することができる。すなわち、カリウムイオン交換能多糖類は、天然物であるため、化学合成されたイオン交換樹脂と異なり、消化管内の胃酸や酵素、腸内細菌などにより、分解されやすく、カリウム吸着能を低下させてしまう。これを防ぐため、本発明は、三次元高分子にカリウムイオン交換多糖類を包み込むことにより、カリウムイオン交換多糖類の分解を防ぐことができる。
【0010】
三次元高分子が、カリウムイオン交換多糖類よりも消化器官内の抗分解能に優れている場合、三次元高分子が、胃酸や酵素、腸内細菌などによって分解され難く、一部分が分解されたとしても、三次元構造を保つことができるので、カリウムイオン交換多糖類の分解を防ぐことができる。また、三次元高分子が、カリウムイオン交換多糖類よりも消化器官内の抗分解能が同等か若しくは劣っている場合であっても、三次元高分子の三次元構造が崩壊された後でなければ、カリウムイオン交換多糖類が分解され難いので、カリウムイオン交換多糖類の分解を抑制することができる。
【0011】
一方、三次元高分子は、その中にカリウムイオンなど小さいものを透過させることができるが、カリウムイオン交換多糖類の分解に寄与する酵素など大きなものを透過させない、又は透過を遅らせることが好ましい。これにより、一度、三次元高分子内に透過されたカリウムイオンは、カリウムイオン交換多糖類に保持され、三次元高分子とともに排泄される。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、様々な食品形態にその食品の風味、香味などに影響を与えずに添加することが可能であるとともに、そのもの自体が部分吸収することが少ない食品用カリウム吸収抑制剤及びそれが含まれた食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る食品用カリウムイオン吸収抑制剤において、前記三次元高分子は、前記カリウムイオン交換多糖類よりも消化器官内における抗分解能が優れていることが好ましい。本発明において、消化器官内の抗分解能とは、消化器官内の胃酸や酵素、腸内細菌に対して分解され難い能力のことをいい、例えば日局第1液(人工胃液)や日局第2液(人工腸液)などに対して分解されにくく、分解されるのが遅いことをいう。具体的には、寒天やセルロースなどである。また、本発明に係る食品用カリウムイオン吸収抑制剤において、三次元高分子は、吸水膨潤した状態でも良く、あるいは均一なゲルの状態であっても良い。
【0014】
本発明に係る食品用カリウムイオン吸収抑制剤において、前記カリウムイオン交換多糖類は、カラギナン、ファーセレラン、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、アルギン酸及びその塩、ペクチン、カルボキシメチルセルロース及びその塩、アラビアガム、水素型アラビアガム、アラビノガラクタン、水素型アラビノガラクラン、サイリウムシードガム、並びにキサンタンガムのうちいずれか一以上であることが好ましい。カラギナンは、硫酸基をガラクトースの構成糖中に有する酸性多糖類であり、特に、カリウムイオン交換に有効なカラギナンとしては、ナトリウムカッパ型、ナトリウムイオタ型、ナトリウムラムダ型などであり、さらにナトリウムが除去された水素型も有効である。
【0015】
本発明に係る食品としては、例えばデザートゼリー、ところてん、みつ豆などのゼリー状食品などがある。
【実施例】
【0016】
次に、本発明に係る食品用カリウムイオン吸収抑制剤の実施例について説明する。先ず、三次元高分子として脱イオンされた寒天(伊那食品工業株式会社製:伊那寒天BA−10)を用意し、この三次元高分子としての寒天を最終濃度0.8重量%、300gの寒天水溶液となるように調整した。次に、表1に示すようにカリウムイオン交換多糖類として、脱アシル型ジェランガム(CPケルコ社製)、ネイティブ型ジェランガム(CPケルコ社製)、ナトリウムタイプカッパカラギナン(MRCポリサッカライド社製)、アルギン酸ナトリウム(キミカ製)、ペクチン(CPケルコ社製)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬)、アラビアガム(CNJ社製)、水素型アラビアガム(伊那食品工業社製)、アラビノガラクタン(MRCポリサッカライド社製)、サイリウムシードガム(大日本製薬社製)、キサンタンガム(CPケルコ社製)を用意し、これらカリウムイオン交換多糖類それぞれ5gをその寒天水溶液に添加し、加熱溶解させることによって、カリウムイオン交換多糖類を三次元高分子の三次元網目構造内に保持させ、実施例1乃至11に係る食品用カリウムイオン吸収抑制剤を得た。また、比較例として医薬品に使用されているイオン交換樹脂であるポリスチレンスルホン酸ナトリウム5gを同様に寒天水溶液に溶解させた。これら実施例1乃至11に係る食品用カリウムイオン吸収抑制剤、並びに比較例に係るカリウムイオン吸収抑制剤それぞれの液について均質な状態で冷却してゲル化させた。これらゲルをそれぞれ4mm×4mm×10mmの大きさに切断することによって検体を作製した。
【0017】
【表1】

【0018】
次に、これら実施例1乃至11に係る食品用カリウムイオン吸収抑制剤、並びに比較例に係るカリウムイオン吸収抑制剤それぞれについて、日局パドル方を応用して、精製水、日局第1液(人工胃液)及び日局第2液(人工腸液)を使いカリウムの吸着試験(37℃、100rpm、30分)を行なった。カリウムイオンの定量は原子吸光法により測定した。比較例に係るカリウムイオン吸収抑制剤を100%としたときの吸着率を計算した。その結果を表1に示す。
【0019】
表1に示すように、実施例1乃至11に係る食品用カリウムイオン吸収抑制剤は、医薬品材料に用いられている比較例よりは効果は下がるものの有効な効果が認められ、腎臓疾患患者にとっては有効な食品と考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウムイオン交換能を有する食品用多糖類からなるカリウムイオン交換多糖類と、三次元網目構造の食品用高分子からなり、その三次元網目構造内に前記カリウムイオン交換多糖類を保持するとともに、三次元網目構造内にカリウムイオンを透過可能な三次元高分子と、を備えたことを特徴とする食品用カリウムイオン吸収抑制剤。
【請求項2】
前記三次元高分子は、前記カリウムイオン交換多糖類よりも消化器官内における抗分解能が優れていることを特徴とする請求項1記載の食品用カリウムイオン吸収抑制剤。
【請求項3】
前記カリウムイオン交換多糖類は、カラギナン、ファーセレラン、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、アルギン酸及びその塩、ペクチン、カルボキシメチルセルロース及びその塩、アラビアガム、水素型アラビアガム、アラビノガラクタン、水素型アラビノガラクラン、サイリウムシードガム、並びにキサンタンガムのうちいずれか一以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の食品用カリウムイオン吸収抑制剤。
【請求項4】
前記三次元高分子は、寒天及びセルロースのいずれか一以上であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の食品用カリウムイオン吸収抑制剤。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載の食品用カリウムイオン吸収抑制剤が含有されたことを特徴とする食品。


【公開番号】特開2006−333751(P2006−333751A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−160885(P2005−160885)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】