説明

食品用品質改良剤および食品

【課題】製造方法が簡単であり、保存安定性にも優れ、各種食品に添加した際に加工や調理直後の食感や風味を長期に亘って維持できる食品用品質改良剤を提供する。
【解決手段】乳化剤、糖類およびジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体を含有することを特徴とする食品用品質改良剤。特に、本発明の好ましい態様としては、ジアセチル酒石酸モノグリセリドによってラメラ構造体が形成され、乳化剤がショ糖脂肪酸エステルおよび/またはポリグリセリン脂肪酸エステル、糖類がオリゴ糖である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品用品質改良剤および該食品用品質改良剤を含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉を含有する食品は、加工や調理時後、保存期間中に澱粉粒の老化が進行し、しっとり感が失われ、パサツキ感が出て、硬い食感になる。更に、老化臭がする場合もある。また、冷凍食品では、冷凍保存中の氷結晶の粗大化や水分の気化により食品組織の破壊が起こったり、解凍時に離水が発生したりする。更に、餅や団子に含まれる餡においても経時的に水が分離する。
【0003】
保存中の食品における上記の問題に対処するために幾つかの品質改良方法が提案されている。
例えば、油脂、有機酸モノグリセリド、ジグリセリド、乳化剤、糖類、水を特定の割合で混合した乳化油脂組成物を、冷凍食品に添加することにより、冷凍保存後の柔らかさ、しっとり感を維持すると共に、食感、風味の低下を防止する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
油脂、デキストリン類、乳化剤を含有する水中油型乳化油脂組成物を、澱粉質食品生地に練り込むことにより、冷凍、冷蔵保存時の硬化、乾燥、食感低下などの澱粉老化現象を抑制する方法も知られている(特許文献2参照)。
また、グルコマンナンのゲル化特性を利用した方法も知られている。例えば、グルコマンナンを含む糖液中に、内相にアルカリ水溶液を含むW/Oエマルションが均一に分散したpH4−8の液状食品素材の製造方法が知られている(特許文献3参照)。また、各種食品に上記の液状食品素材を配合することにより、食品の物性、食感、風味向上、チルド耐性、冷凍耐性などの保存安定性を効果的に改善する方法も知られている(特許文献4)。更に、餅類の硬化を防止するために、天然多糖類のプルランと、二糖類、乳化剤を使用する方法が知られている(特許文献5参照)。
【0005】
さらに、乳化剤および糖類を含む水溶液中に有機酸モノグリセリドのラメラ構造体を分散した品質改良剤を利用する方法も知られており、本品質改良剤を用いることで加工調理後の食品において食感や風味を長期間に亘って維持するとともに、澱粉の老化も抑制できることが明らかにされている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−236919号公報
【特許文献2】特開2001−95489号公報
【特許文献3】特開2003−88306号公報
【特許文献4】特開2003−235474号公報
【特許文献5】特開平5−84046号公報
【特許文献6】特開2009−72177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では、充分満足のいく品質改良効果は得られていない。しかも、前記の乳化油脂組成物や水中油型乳化油脂組成物は、製造時の乳化温度や時間のコントロールが難しく、組成物の安定性を維持することが困難であるといった問題があった。また、グルコマンナンのゲル化特性を利用した方法は、グルコマンナンとアルカリを徐々に相互作用させるため、複合型エマルションなどを使用する必要があり製造方法が複雑であった。更には、エマルションの安定性を長期間維持するのも困難であった。さらに、有機酸モノグリセリドとして、コハク酸モノグリセリドを用いて、ラメラ構造体を分散した品質改良剤については、保存安定性や食感や風味の点では良好であるものの、性状がペースト状であることから、計量に時間がかかり、冷水への分散性に劣るという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、製造方法が簡単であり、性状が液状であるため計量がしやすく、冷水への分散性に優れるとともに保存安定性にも優れ、各種食品に添加した際に、加工や調理直後の食感や風味を改良し、長期間に亘ってその品質を維持できる食品用品質改良剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は、鋭意検討した結果、有機酸モノグリセリドの中でもジアセチル酒石酸モノグリセリドが水溶液中で形成する特定の構造体を乳化剤と糖類によって水中に分散させることにより調製した食品用品質改良剤により、上記の目的を容易に達成し得るとの知見を得て、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、乳化剤、糖類およびジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体を含有することを特徴とする食品用品質改良剤及び該食品用品質改良剤を含有することを特徴とする食品に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の食品用品質改良剤は、製造方法が簡単であり、性状が液状であるため計量がしやすく、冷水への分散性に優れるとともに、保存安定性にも優れ、各種食品に添加した際に、加工や調理直後の食感や風味を改良し、その品質を長期間に亘って維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、この説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、その要旨を超えない限り、以下の内容に限定されるものではない。
先ず、本発明の食品用品質改良剤について説明する。本発明の食品用品質改良剤は、乳化剤、糖類、およびジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体を含有するものであって、エタノール等のアルコールの併用により、保存安定性をより一層向上させることが出来る。
【0013】
本発明で使用される乳化剤としては、特に制限されない。好ましくは、HLB値が5〜18、さらに好ましくは8〜15の乳化剤が使用される。
乳化剤として具体的には、ショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。これらの乳化剤を用いることにより、ジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造を食品用品質改良剤中に、均一に分散させることができる。
ショ糖脂肪酸エステルとしては、親水性が高く、水分散性に優れ、高温で高粘性の水分散液の状態となるものが好ましい。ショ糖脂肪酸エステルのHLB値としては5〜18が好ましく、8〜15がさらに好ましい。
ショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸として、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸などの炭素数14〜22の飽和または不飽和の脂肪酸が挙げられる。これらの中では、炭素数14〜18の飽和脂肪酸が好ましい。また、構成脂肪酸の70重量%以上がステアリン酸である脂肪酸が更に好ましい。
【0014】
ショ糖脂肪酸エステルは、それ自体既知の食品用乳化剤であり、市販されているものを使用できる。ショ糖脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、「リョートーシュガーエステルS−1670」、「リョートーシュガーエステルP−1670」、「リョートーシュガーエステルM−1695」、「リョートーシュガーエステルO−1570」、「リョートーシュガーエステルS−1170」、「リョートーシュガーエステルS−570」、「リョートーシュガーエステルS−370」、「リョートーシュガーエステルB−370」、「リョートーシュガーエステルS−170」、「リョートーシュガーエステルER−190」、「リョートーシュガーエステルPOS−135」(以上、三菱化学フーズ社製、商品名);「DKエステルF−160」、「DKエステルF−140」、「DKエステルF−110」、「DKエステルF−70」、「DKエステルF−50」(以上、第一工業製薬社製、商品名)等が挙げられる。
【0015】
ポリグリセリン脂肪酸エステルも、ショ糖脂肪酸エステルと同様に、親水性が高く、水分散性に優れ、高温で高粘性の水分散液の状態となるものが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値としては5〜18が好ましく、8〜15がさらに好ましい。
斯かるポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、特に限定されないが、ポリグリセリンの平均重合度は通常2〜20、好ましくは3〜10である。
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸などの炭素数14〜22の飽和または不飽和の脂肪酸が好ましく、構成脂肪酸の70重量%以上がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。
なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンの重合度の揃ったものを用いることも可能であり、重合度が2のものはジグリセリン脂肪酸エステル、重合度が3のものはトリグリセリン脂肪酸エステルと呼ばれ、これらも本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルに包含される。
【0016】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、それ自体既知の食品用乳化剤であり、市販されているものを使用できる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、「リョートーポリグリエステルS−10D」、「リョートーポリグリエステルP−8D」、「リョートーポリグリエステルM−10D」、「リョートーポリグリエステルL−10D」、「リョートーポリグリエステルS−24D」、「リョートーポリグリエステルS−28D」、「リョートーポリグリエステルO−15D」、「リョートーポリグリエステルO−50D」、「リョートーポリグリエステルB−100D」、「リョートーポリグリエステルER−60D」(以上、三菱化学フーズ社製、商品名);「SYグリスターMSW−7S」、「SYグリスターMS−5S」、「SYグリスターMS−3S」、「SYグリスターTS−3S」、「SYグリスターMO−5S」、「SYグリスタML−750」、「SYグリスターHB−750」、「SYグリスターCR−500」(以上、阪本薬品工業社製、商品名);「サンソフトQ−18S」、「サンソフトQ−14S」、「サンソフトQ−12S」、「サンソフトA−141E」、「サンソフトA−17E」(以上、太陽化学社製、商品名)、「ポエムDP−95RF」、「ポエムTRP−97RF」(以上、理研ビタミン社製、商品名)等が挙げられる。
本発明の食品用品質改良剤は、乳化剤が1種のみ含有されていても、2種以上含有されていてもよい。
【0017】
本発明で使用される糖類としては、特に制限されず、砂糖、ブドウ糖、異性化糖などの糖、マルトース、トレハロース、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール等の糖アルコール;各種のオリゴ糖;それらの混合物を使用することが出来る。これらの中ではオリゴ糖が好ましい。
上記のオリゴ糖としては、マルトオリゴ糖(好ましくは重合度3〜7)、ニゲロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、パノースオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、それらのシラップ等が挙げられる。
上記の糖類は、目的に応じ、適宜選択して使用され、例えば、飲食品の冷凍耐性を向上させる場合にはマルトオリゴ糖や糖アルコールが好ましい。
本発明の食品用品質改良剤の調製においては、通常、糖類は水溶液(糖液)として使用され、例えばシラップの場合はそのまま使用することも出来る。
【0018】
本発明で使用するジアセチル酒石酸モノグリセリドは、グリセリン1分子に脂肪酸1分子とジアセチル酒石酸1分子が結合した構造を有する。一般的には、ジアセチル酒石酸無水物と脂肪酸モノグリセリドを反応させることにより得られる。反応は、通常、無溶媒条件下で行われ、例えばジアセチル酒石酸無水物と炭素数18のモノグリセリドを混合し、加熱攪拌を行う。かくして得られたジアセチル酒石酸モノグリセリドは、通常、ジアセチル酒石酸、未反応モノグリセリド、ジグリセリド、その他オリゴマーを含む混合物となっている。本発明においては、このような混合物をそのまま使用してもよい。本発明の食品用品質改良剤中のジアセチル酒石酸モノグリセリドの純度を高めたい場合は、蒸留精製を行うか、市販されているものを使用できる。また、ジアセチル酒石酸部分が一部中和されたものを使用してもよい。
【0019】
ジアセチル酒石酸モノグリセリドを構成する脂肪酸は、特に限定されないが、具体的には、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸などの炭素数8〜22の飽和または不飽和の脂肪酸が挙げられる。これらの中では風味の観点からステアリン酸を主成分とする脂肪酸が好ましく、特に構成脂肪酸の70重量%以上がステアリン酸であるものが好ましい。
上記のジアセチル酒石酸モノグリセリドと水との混合物は、これらの量比、温度変化により様々な相状態をとることが可能である。これらの相状態のうち、本発明では保水力に優れるラメラ構造体(本発明では、これを「ラメラ構造体」と略称することがある。)を利用する。
【0020】
ラメラ構造体とは、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを水に分散させた際にジアセチル酒石酸モノグリセリド2分子が親水基部分を水側に向け、疎水基部分(脂肪酸)が互いに向き合い、これが2次元的に広がった構造のことである。ジアセチル酒石酸モノグリセリドは低濃度から高濃度領域の広い範囲でラメラ構造を形成し易いことが知られており、ナトリウム塩の状態において、濃度が約35〜85重量%のような高濃度領域で且つ温度が50℃以上の条件でラメラ構造体を形成する。この場合、ラメラ構造体が何層にも重なった状態が認められ、水溶液の粘度も高くなる。濃度が85重量%よりも高い場合は固体状態となり、濃度が35重量%よりも低い場合は水溶液にラメラ構造体が分散して粘性が比較的小さい状態となる。作業性などを考慮すると、低濃度かつ高温領域でラメラ構造体を形成させるのが好ましい。
【0021】
ただし、ラメラ構造体は、不安定であるため、ショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤により、構造を安定化させることが必要である。この安定化されたラメラ構造体は、親水基部分の強い水和力により層間に多量の水を保持し、その結果、澱粉粒からの水分移行が抑制される。
【0022】
尚、本発明におけるラメラ構造体は、ジアセチル酒石酸モノグリセリドのみから構成されるものが好ましいが、食品用品質改良剤中において、ジアセチル酒石酸モノグリセリドのみから構成されるラメラ構造体の一部が他の化合物等で置換された状態であってもよい。例えば、ショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤で一部が置き換えられていてもよい。また、食品用品質改良剤中において、ジアセチル酒石酸モノグリセリドの全てがラメラ構造体として存在していなくてもよい。
【0023】
ラメラ構造体は、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを水に分散させるだけで常に生じるものではないが、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを含有する水分散液を物理的に攪拌して再分散せしめることにより、分散液として調製することが出来る。
【0024】
ジアセチル酒石酸モノグリセリドによってラメラ構造体を形成する場合、その調製条件は、ジアセチル酒石酸モノグリセリドと水との量比(重量比)は、通常1:1000〜10:1、好ましくは1:100〜1:1である。
また、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを水に分散させてジアセチル酒石酸モノグリセリドを含有する水分散液を調製する際の温度は、通常30〜90℃、好ましくは50〜70℃、これを物理的に攪拌して再分散させる際の温度は、通常30〜90℃、好ましくは50〜70℃である。該温度とは、ラメラ構造体形成時の水の温度を意味する。上記の物理的分散(物理的に撹拌)には、気泡の混入を避けるため、例えばアンカーミキサー等を使用してゆっくりと撹拌する。撹拌速度は、通常10〜100rpm、好ましくは20〜50rpmである。すなわち、使用するジアセチル酒石酸モノグリセリドの種類に応じて適当な撹拌速度で撹拌することでラメラ構造体が得られる。一般的に、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを構成する脂肪酸の鎖長が長くなるにつれて、ラメラ構造体の形成温度が高くなる。前記温度範囲で、アンカーミキサー等を用いて、ジアセチル酒石酸モノグリセリドと水の混合物を、上記のように、ゆっくりと撹拌することによりジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体が調製できる。この場合、ジアセチル酒石酸モノグリセリドの水分散液中の含有量は、通常0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは0.1〜10重量%である。
【0025】
上記の方法で得られた水分散液中のラメラ構造体は比較的安定ではあるが、水を除去して乾燥固化すると、その構造は変化する。従って、ラメラ構造体を分散した水分散液は、通常、本発明の食品用品質改良剤を製造するまでの工程で乾燥固化させずに使用する。更には、本発明の食品用品質改良剤も、通常、乾燥固化させずに使用する。
また、ラメラ構造体が分散した水分散液に高い剪断をかけると、ラメラ構造が変化する場合があるため、本発明の食品用品質改良剤を製造するまでの工程で高い剪断をかけないことが好ましい。更には、本発明の食品用品質改良剤に対しても、高い剪断をかけないことが好ましい。具体的には、例えば処理圧力20MPa(ゲージ圧)以上の高圧ホモジナイザーやコロイドミルなどの使用は避けた方が好ましい。
【0026】
また、ラメラ構造体の確認は例えば偏光顕微鏡による観察によって容易に行うことが出来る。ラメラ構造体が存在する場合は偏光十字が見られる。更に、ラメラ構造体の微細構造は、電子顕微鏡観察により観察できる。試料を液体窒素で凍結させ、高真空条件下で割断し、割断表面に金属を蒸着させることにより試料のレプリカを作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察する。これにより層状のラメラ構造体が観察できる。
【0027】
本発明の食品用品質改良剤は、乳化剤、糖類およびジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体を含有することを特徴とし、通常はさらに水を含有し、好ましくは水分散液であり、また、乳化剤および糖類を含む水溶液ないし水分散液中にジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体を分散して成ることが好ましい。
【0028】
本発明の食品用品質改良剤は、糖液に乳化剤の水分散液を混合し、これにジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体の水分散液を添加して撹拌することにより調製されることが好ましいが、これに限らず、ジアセチル酒石酸モノグリセリドが形成される条件で調製されればよい。この際、エタノール等のアルコールを添加すると、食品用品質改良剤の保存中の微生物増殖を抑制することが出来るために好ましい。エタノール等のアルコールを配合する場合、本発明の食品用改良剤の調製に当たり、乳化剤の水分散液の代りに乳化剤のアルコール分散液を用い、これを糖液に添加混合してもよい。
【0029】
ここで用いられる乳化剤の水分散液中の乳化剤の含有量は、好ましくは0.001〜30重量%であり、ジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体の水分散液中のジアセチル酒石酸モノグリセリドの含有量は、通常0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは0.1〜10重量%である。
【0030】
本発明の食品用品質改良剤中の上記の乳化剤の含有量は、通常0.1〜50重量%、好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは、3〜10重量%である。乳化剤の含有量が余りにも少ない場合は、ジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体の分散が不十分となり、余りにも多い場合は、ジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体による水分保持が不十分となる傾向がある。
【0031】
本発明の食品用品質改良剤中の糖類の含有量は、通常35〜85重量%、好ましくは40〜60重量%である。糖類の含有量が余りにも少ない場合は、食品用品質改良剤の保存安定性に劣り、余りにも多い場合は、糖の種類によっては結晶が析出し、粘度が高くなるため作業性が悪くなる傾向がある。
【0032】
本発明の食品用品質改良剤中のジアセチル酒石酸モノグリセリドの含有量は、通常0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜20重量%、更に好ましくは、1〜5重量%である。ジアセチル酒石酸モノグリセリドの含有量が余りにも少ない場合は、食品用品質改良効果が不十分となり、余りにも多い場合は、食品用品質改良剤中に均一に分散しなくなる傾向がある。
【0033】
本発明の食品用品質改良剤中において、ジアセチル酒石酸モノグリセリドに対する乳化剤の含有量は、ジアセチル酒石酸モノグリセリド:乳化剤の重量比で、通常500:1〜1:500、好ましくは20:1〜1:200、更に好ましくは5:3〜1:10である。また、ジアセチル酒石酸モノグリセリドに対する糖類の含有量は、ジアセチル酒石酸モノグリセリド:糖類の重量比で、通常50:35〜1:850、好ましくは1:2〜1:600である。
【0034】
本発明の食品用品質改良剤には、必要に応じて、さらに、エタノール等のアルコールを含有させることができる。食品用品質改良剤中のアルコールの含有量は、通常1〜10重量%、好ましくは2〜5重量%である。アルコールの含有量が余りにも少ない場合は、食品用品質改良剤の保存中の微生物増殖を抑制する効果が不十分となり、余りにも多い場合は、アルコール臭が強くなるため好ましくない傾向がある。
【0035】
本発明の食品用品質改良剤の使用形態は特に限定されないが、水溶液または水分散液として用いることが好ましい。本発明の食品用品質改良剤中の水の含有量は、通常30〜80重量%、好ましくは40〜60重量%である。水の含有量が余りにも少ない場合は、食品用品質改良剤の粘度の増大により作業性が悪くなり、余りにも多い場合は、乳化剤、糖類、ジアセチル酒石酸モノグリセリドの量が少なくなるため、食品用品質改良剤の効果が弱くなる傾向がある。
【0036】
なお、本発明の食品用品質改良剤に用いられる乳化剤として、前記詳述したショ糖脂肪酸エステル、または、ポリグリセリン脂肪酸エステル以外にも、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどを用いてもよい。
【0037】
本発明の食品用品質改良剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、甘味料、香料、ビタミン、抗酸化剤などの公知の配合剤を加えてもよい。例えば、ゲル形成物質(例えば、グルコマンナン、ガラクトマンナン、寒天、ゼラチン、ペクチン、カラギーナン、カードラン、キサンタンガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸類、ポリグルタミン酸類等)、澱粉(例えば、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、ハイアミロースコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、さご澱粉、馬鈴薯澱粉、葛澱粉、甘藷澱粉等の天然澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、架橋澱粉、過ヨウ素酸酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉等の化工澱粉、粒状化澱粉、アルファ化澱粉、湿熱処理澱粉などの加工澱粉等)、有機酸(例えば、フマル酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルタル酸、マレイン酸等)、油脂(例えば、コーン油、菜種油、米油、オリーブ油、ゴマ油、大豆油、椿油、サフラワー油、綿実油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、乳脂等)、リポ蛋白(例えば、乳性蛋白とレシチンと水の混合物、卵黄蛋白とレシチンと水の混合物、大豆蛋白とレシチンと水の混合物、トウモロコシ蛋白とリン脂質と水の混合物等)アルカリ剤(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸2ナトリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸2カリウム、リン酸3カリウム、ポリリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム等の塩基性塩類)、低分子ゼラチン、VCパルミテート、甘味料、香料(例えば、オレンジフラワーウオーター、バターフレーバー、ミルクフレーバー等)、ビタミン、抗酸化剤などが挙げられる。
【0038】
本発明の食品用品質改良剤は、調製後、必要に応じ、プレート式殺菌機などを使用した一般的な加熱殺菌など行い、飲食品の食感や物性の改良剤として、様々な飲食品に使用することが出来る。
【0039】
次に、本発明の食品について説明する。本発明の食品は、前記の本発明の食品用品質改良剤を含有することを特徴とする。
【0040】
食品としては、例えば、パン類、菓子類、惣菜類、フィリング類、麺類、和菓子類、水産練製品などが挙げられる。中でも、惣菜類や麺類に用いられることが好ましい。惣菜類では、衣のサクサク感向上や剥がれ防止、衣の老化抑制のため、揚げ物に用いられることが好ましい。麺類では、老化に起因するボソつき感を抑制する効果があるため、ゆで麺に用いられることが好ましく、また、うどんや中華麺に用いられることが好ましい。さらに、粘弾性、すなわち「コシ」が強くなり、麺が滑らかになるなどの効果があるため、生麺、半生麺、蒸し麺などの麺類に用いられることが好ましい。
また、本発明の食品用品質改良剤は氷結晶の粗大化抑制効果があることや、電子レンジでの加熱調理時に硬い食感となる「引き」の現象を抑制する効果があるため、冷凍食品に用いられることが好ましく、前記の食品の冷凍食品に用いられることが好ましい。
【0041】
本発明の食品用品質改良剤の食品への添加量は、食品の全重量に対して、通常0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは0.5〜10重量%、更に好ましくは1〜10重量%であり、そのジアセチル酒石酸モノグリセリド換算の添加量として通常0.000001〜25重量%、好ましくは0.0001〜6重量%、更に好ましくは0.005〜0.5重量%である。
【0042】
このような食品に対する本発明の食品用品質改良剤の添加方法には特に制限はないが、小麦粉などに直接混合する;生地に練りこむ;水で希釈して加える;などの方法が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「比(倍率)」、「%」及び「部」は何れも重量基準を意味する。
【0044】
[水分散性]
実施例1:
乳化剤としてHLB11のショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ社製「リョートーシュガーエステルS−1170」)35gを室温でエタノール50gに分散し、糖類として75℃に加温したマルトオリゴ糖水溶液(三和澱粉工業(株)製「オリゴトース」)680gと混合し、30分間攪拌し、乳化剤、糖類及びアルコールを含む水溶液を調製した(以下「オリゴ糖液」と呼ぶ)。
一方、ジアセチル酒石酸モノグリセリド(ダニスコ社製「PANODAN 150」、脂肪酸としてステアリン酸を用いたもの)35gを脱塩水200gに分散し、60℃まで昇温しながら攪拌し、ラメラ構造体の水分散液を得た。
前記のオリゴ糖液を55℃まで冷却し、上記のジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体の水分散液を加えて20分間攪拌した。次いで、45℃まで冷却することにより、食品用品質改良剤1000gを調製した(以下「改良剤A」と呼ぶ)。なお、改良剤中Aのジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体の確認は偏光顕微鏡による観察によって行った。
【0045】
この改良剤Aを食塩3%とかん粉3%の水溶液(中華麺用捏ね水)および食塩6%の水溶液(うどん用捏ね水)に各3%ずつ添加し、泡が入らないようにプロペラ攪拌羽根により5分間攪拌して、溶解分散させた時の状態を目視観察し、以下の評価基準で評価した。攪拌終了後5分経過時の評価結果を表1に示す。
表1より、本改良剤Aは水への分散が優れていることがわかった。
【0046】
<評価基準>
○:改良剤の底部への沈降が見られず水分散性は良好
△:改良剤の底部への沈降が見られ水分散性に劣る
×:底部に改良剤が堆積し、水分散性は不良
【0047】
比較例1:
実施例1において、ジアセチル酒石酸モノグリセリドの代わりにコハク酸モノグリセリド(理研ビタミン社製「ポエムB−30」)を使用した以外は、実施例1と同様な方法で食品用品質改良剤1000gを調製した(以下「改良剤B」と呼ぶ)。この改良剤Bを使用し、実施例1と同様な方法で水分散性について評価した。攪拌終了後5分経過時の評価結果を表1に示す。本改良剤Bは底部への沈降が見られたことから水への分散が良くないことがわかる。
【0048】
【表1】

【0049】
[麺類の品質改良効果]
以下の実施例2〜6及び比較例2〜9における官能検査の評価項目は下記のように設定した。なお、以下の評価項目における評価基準は、「めんの品質と食味」(柴田茂久,食品工業,9月号,44〜46頁(1988)」を参考に設定した。評価は、官能検査の専門家が以下の基準で評点し、その平均値とした。
<硬さ>
4 :かなり不良
5 :少し不良
6 :僅かに不良
7 :普通
8 :僅かに良
9 :少し良
10 :かなり良
<粘弾性>
10 :かなり不良
12.5:少し不良
15 :僅かに不良
17.5:普通
20 :僅かに良
22.5:少し良
25 :かなり良
<滑らかさ>
4 :かなり不良
5 :少し不良
6 :僅かに不良
7 :普通
8 :僅かに良
9 :少し良
10 :かなり良
<老化感>
− :ゴワツキ感はなく老化感はない
± :多少ゴワツキ感がある
+ :硬くゴワツキ感がある
++:硬くゴワツキ感が強くある
【0050】
<冷やし中華麺(ゆで麺)>
実施例2及び比較例2、3:
表2に示した配合により、以下の製造条件で麺を調製した。
【0051】
【表2】

【0052】
(製造条件)
[1]混捏機:800g用横型練機で15分間混捏
[2]製麺機:4寸単ロール
[3]複合回数:4回で約6mmの麺帯とする
[4]麺帯熟成:室温で約1時間
[5]圧延回数:3回で約1.5mmの麺帯とする
[6]切り歯:♯20
【0053】
中華麺は各麺を同一の籠に約70gずつ入れ4分間茹で、冷水で茹でた麺を洗った。その後、よく水を切り、ほぐれ剤(不二製油製「ソヤアップ」)3倍希釈液を茹で麺に対して3%絡めたものを容器に入れ、冷蔵庫で24時間保存した。冷水で洗った茹で直後の麺と24時間冷蔵保存した麺について、食感を官能検査で評価した。
評価結果を表3に示した。
【0054】
【表3】

【0055】
表3から明らかなように、実施例2と比較例2,3とでは、硬さ、粘弾性、滑らかさの評価においては、点数は微差であった。しかしながら、老化感に大きな違いがあった。食感は、硬さ、粘弾性、滑らかさ以上に、老化感に左右される。本発明の食品用改良剤を使用した中華麺は、表3の通り、ゴワツキ感が抑えられ、老化感が少なく、食感に優れた麺であった。
【0056】
<うどん>
実施例3及び比較例4、5:
表4に示した配合により、以下の製造条件で麺を調製した。
【0057】
【表4】

【0058】
(製造条件)
[1]混捏機:800g用横型練機で15分間混捏
[2]製麺機:4寸単ロール
[3]複合回数:5回で約8mmの麺帯とする
[4]麺帯熟成:室温で約1時間
[5]圧延回数:4回で約2.5mmの麺帯とする
[6]切り歯:♯9
【0059】
各麺を同一の籠に約70gずつ入れ、14分間茹でた後、冷水で茹でた麺を洗った。その後、よく水を切り、ほぐれ剤(不二製油製「ソヤアップ」)3倍希釈液を茹で麺に対して3%絡めたものを容器に入れ、冷蔵庫で24時間保存した。冷水で洗った茹で直後の麺と24時間冷蔵保存した麺について、食感を官能検査で評価した。
評価結果を表5に示した。
【0060】
【表5】

【0061】
表5から明らかなように、実施例3と比較例4,5とでは、硬さ、粘弾性、滑らかさの評価においては、点数は微差であった。しかしながら、老化感に大きな違いがあった。上述の通り、食感は、硬さ、粘弾性、滑らかさ以上に、老化感に左右される。本発明の食品用改良剤を使用したうどんは、表5の通り、ゴワツキ感が抑えられ、老化感が少なく、食感に優れた麺であった。
【0062】
<讃岐うどん(生麺、ゆで麺)>
実施例4及び比較例6:
表6に示した配合により、以下の製造条件で麺を調製した。
【0063】
【表6】

【0064】
(製造条件)
[1]混捏機:ケーキミキサーにフックを付け低速で10分間混捏
生地をビニール袋に入れ足で2〜3cmの厚さに伸ばしてそのまま30分間放置
[2]製麺機:4寸単ロール
[3]複合回数:3回で約12mmの麺帯とする
[4]麺帯熟成:室温(13〜17℃)で約24時間
[5]圧延回数:麺棒で約2cm程度に伸ばした後、製麺機5回で約3mmの麺帯とする
[6]切り歯:♯9
【0065】
麺は一度茹でた沸騰水で14分間茹でた後、水洗いを行い、ゆで麺として冷蔵庫に保存した。冷蔵庫に保存したゆで麺を経時的に取り出し、沸騰水で15秒間茹でた後に食感を官能検査で評価した。
生地調製時の生地のまとまり具合(◎:非常に良好、○:良好、△:やや不良、×:不良)と食感の評価結果を表7に示した。
【0066】
【表7】

【0067】
表7から、本発明の食品用改良剤をうどんに使用した場合には、生地のまとまりがよく、さらに茹で置きにおける食感低下を優位に抑制できる効果もあることがわかる。
【0068】
<焼きそば(蒸し麺)>
実施例5及び比較例7、8:
表8に示した配合により、以下の製造条件で麺を調製した。
【表8】

【0069】
(製造条件)
[1]混捏機:800g用横型練機で15分間混捏
[2]製麺機:4寸単ロール
[3]複合回数:4回で約6mmの麺帯とする
[4]麺帯熟成:室温で約1時間
[5]圧延回数:3回で約1.5mmの麺帯とする
[6]切り歯:♯20
【0070】
各麺を平らな籠に約200g×2ずつ入れ、蒸し器で10分間蒸した後、水で麺を洗い、よく水切りをした後、ほぐしのためサラダ油をまぶし蒸し麺とした。ホットプレートを使用して200℃に加熱した後、20gのサラダ油を敷き、蒸し麺400gを入れ、麺をほぐした後、お湯150gを加え蓋をして1分間蒸した。蒸し終わってから、焼きそばソース50gを加えて麺にからめた。調理直後の麺と、この麺を冷蔵保存24時間した後電子レンジで加熱調理(チルド保存品のレンジアップ)したもの、および、この麺を冷凍した後電子レンジで加熱調理(冷凍品のレンジアップ)したものについて、食感を官能検査で評価した。
評価結果を表9に示した。
【0071】
【表9】

【0072】
表9の実施例5の通り、本発明の食品用改良剤を焼きそばに使用した場合、硬さ、滑らかさについては比較例7,8と同様であったが、粘弾性については本発明の食品用改良剤を用いた方が良好であることがわかった。また、この粘弾性は調理直後以上に保存後において向上した。これらの結果から、本発明の食品用改良剤を焼きそばに使用すると、チルド保存品のレンジアップにおいて、粘弾性が向上し、食感が向上することがわかった。
【0073】
<焼きうどん(蒸し麺)>
実施例6及び比較例9:
表10に示した配合により、以下の製造条件で麺を調製した。
【0074】
【表10】

【0075】
(製造条件)
[1]混捏機:800g用横型練機で15分間混捏
[2]製麺機:4寸単ロール
[3]複合回数:4回で約6mmの麺帯とする
[4]麺帯熟成:室温で約1時間
[5]圧延回数:3回で約2.5mmの麺帯とする
[6]切り歯:♯12
【0076】
各麺を平らな籠に約200gを入れ、蒸し器で15分間蒸した後、水で麺を洗い、よく水切りをした後、ほぐしのためサラダ油をまぶし蒸し麺とした。なお、蒸し開始2分でお湯をかけた。蒸しうどんは冷蔵庫で3時間冷却した。その後、ホットプレートを使用して200℃に加熱した後、10gのサラダ油を敷き、蒸し麺200gを入れ、麺をほぐした後、お湯100gを加え、蓋をして1分間蒸した。蒸し終わってから、焼きうどんソース(おたふくの焼きそばソース100部に醤油50部を混合したもの)50gを加えて麺にからめた。この調理直後の麺と、これを冷蔵庫で24時間保存(チルド保存)した後電子レンジで加熱調理したものについて、食感を官能検査で評価した。また、チルド保存品のレンジアップ後の引きを調べた。
評価結果を表11に示した。
【0077】
【表11】

【0078】
表11の実施例6の通り、本発明の食品用改良剤を焼きうどんに使用した場合、硬さについては比較例9と同様であったが、粘弾性および滑らかさについては良好であることがわかった。本発明の食品用改良剤を焼きうどんに使用すると、チルド保存品のレンジアップにおいても、粘弾性の点で比較例9よりも良好であり、食感が向上することがわかった。
さらにチルド保存品のレンジアップ後の引きを大幅に抑制する効果があることもわかった。
【0079】
[揚げ物の品質改良効果]
<ハムカツ>
実施例7及び比較例10:
実施例7では改良剤Aを用い、比較例10では改良剤Aを用いずに、以下の製造条件でハムカツを調製した。
[製造条件]
[1]市販のボロニアソーセージを用いて約4mmの厚さにスライスする。
[2]スライスハムに打ち粉として薄力粉を付ける。
[3]78〜84℃に調整した蒸し器で打ち粉をしたハムを20分間蒸する。
[4]蒸したハムを20分間冷却する。
[5]冷却したハムにバッター液(薄力粉44部と水56部)とパン粉を付ける。
(改良剤Aを添加する場合はバッター液に分散させる。)
[6]170℃で2分間フライ後、約60分間放冷した。
【0080】
フライ直後のハムカツと、2時間放冷後(フライ2時間後)のハムカツについて、食感と衣の剥がれを官能検査で評価した。
評価結果を表12に示した。
なお、実施例7および比較例10における評価項目は以下のように設定し、官能検査の専門家が以下の基準で評点し、その平均値とした。
<衣のサクサク感>
−1.0:全くない
+0.0:ない
+1.0:少しある
+2.0:かなりある
<衣の剥がれ>
−1.0:全くない
+0.0:ない
+1.0:少しある
+2.0:かなりある
【0081】
【表12】

【0082】
表12から明らかなように、実施例7と比較例10では、衣のサクサク感、衣の剥がれにおいて大きな違いがあった。
本発明の食品用改良剤をハムカツに使用した場合、サクサク感が向上し、時間経過での変化も抑制され、衣の剥がれも抑えられることがわかった。
【0083】
<鶏の唐揚>
実施例8、9及び比較例11:
以下の製造条件で鶏の唐揚を調製した。
実施例8においては、改良剤Aを以下のバッター液に対し1部添加し、実施例9においては、改良剤Aを以下のバッター液に対し2部添加し、比較例11では改良剤Aを使用しなかった。
(製造条件)
[1]鶏肉加工:
1.鶏肉600gに調味料(生姜20g、醤油73g、酒73g)を揉み込む。
2.冷蔵庫で30分間浸漬する。
3.バッター液(薄力粉46部、水54部)に調味液に浸漬した鶏肉をつける。
(改良剤Aを添加する場合はバッター液に分散させる。)
[2]フライ条件:170℃、3分間
[3]冷凍条件:フライ後15分間放冷後、冷凍庫で3時間または1.5ヶ月間冷凍
【0084】
フライ後の唐揚および冷凍保存後の唐揚について、衣の食感を官能検査で評価した。また、冷凍保存1.5ヶ月間のものについては鶏肉の臭みについても官能検査で評価した。なお、冷凍唐揚は開封状態で500Wの電子レンジにより2分間レンジアップし(品温70〜75℃)評価に用いた。
評価結果を表13に示した。
【0085】
なお、実施例8、9および比較例11における評価項目は下記のように設定し、官能検査の専門家が後述する基準で評点し、その平均値とした。
<サクサク感>
+++:非常にある
++ :よりある
+ :ある
± :ほとんどない
− :ない
<衣の引き>
+++:非常に強い
± :ほとんどない
− :ない
<肉の臭み>
++ :臭み強い
+ :臭みある
± :臭みほとんどない
− :臭みない
【0086】
【表13】

【0087】
表13から明らかなように、実施例8,9と比較例11とでは、衣のサクサク感、衣の引きにおいて食感に大きな違いがあった。本発明の食品用改良剤を鶏の唐揚に使用した場合、サクサク感が向上し冷凍による変化も抑制され、衣の引きも抑えられることがわかった。さらに、鶏肉の臭みも軽減することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、計量がしやすく、冷水への分散性が良好であり、保存安定性にも優れ、パン類、菓子類、惣菜類、フィリング類、麺類、和菓子類、水産練製品類などの用途に極めて有用な食品用品質改良剤を提供することができる。そして、本発明の食品用品質改良剤を添加して製造される上記各種食品は、加工や調理直後の食感や風味を長期間に亘って維持することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤、糖類およびジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体を含有することを特徴とする、食品用品質改良剤。
【請求項2】
乳化剤がショ糖脂肪酸エステルおよび/またはポリグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする、請求項1に記載の食品用品質改良剤。
【請求項3】
糖類がオリゴ糖であることを特徴とする、請求項1または2に記載の食品用品質改良剤。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の食品用品質改良剤を含有することを特徴とする、食品。
【請求項5】
該食品が、冷凍食品であることを特徴とする、請求項4に記載の食品。
【請求項6】
該食品が、麺類であることを特徴とする、請求項4または5に記載の食品。
【請求項7】
該麺類が、生麺、半生麺、蒸し麺、およびゆで麺から選ばれることを特徴とする、請求項6に記載の食品。
【請求項8】
該食品が、揚げ物であることを特徴とする、請求項4または5に記載の食品。

【公開番号】特開2011−172563(P2011−172563A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16385(P2011−16385)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(593204214)三菱化学フーズ株式会社 (45)
【Fターム(参考)】