説明

食品用品質改良剤

【課題】穀粉食品におけるスペックの発生を防止するための食品用品質改良剤を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種からなる、穀粉食品用品質改良剤が提供される。本発明はさらに、穀粉食品生地を製造する方法を提供する。この方法は、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種ならびに穀粉を用いて、生地を製造する工程を含む。さらに、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種ならびに穀粉を含む、食用穀粉組成物もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用品質改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉などの穀粉および水を混合して製造される食品またはその生地(具体的には、うどん、中華麺、生パスタなどの麺;餃子皮、シュウマイ皮、中華饅頭皮などの皮もの;パイ、ピザ、パンなどの生地)を保管しておくと、スペックまたは「ホシ」と呼ばれる黒い点が多数発生し、この斑点は、時間の経過とともに、数や大きさを増しかつ黒色化してくる。このため、カビと間違えられ、外観が悪くなることで商品価値が著しく低下する問題がある。
【0003】
この現象は、小麦粉に微量に含まれるふすまによるものと考えられるが、現在の製粉技術では、このふすまを小麦粉の製造過程で完全に取り除くことは難しい。そのため、スペックを抑制するために、従来から多数の提案がなされている。
【0004】
例えば、スペック抑制に関して、以下が報告されている:小麦粉を品温82〜97℃で5〜60秒間湿熱処理(特許文献1);リポキシゲナーゼの利用ならびにリポキシゲナーゼとその活性阻害物質を含む品質改良剤とを併用する方法(特許文献2、3);チアゾール類縁化合物(例えば、チアミン類)の利用(特許文献4);フェルラ酸の利用(特許文献5);セサモール、ならびに、トロポロン、麹酸、ヒノキチオール、エリソルビン酸またはアスコルビン酸のいずれかの少なくとも1種とのその組み合わせの利用(特許文献6);コウジ酸、システイン、グルタチオン、アスコルビン酸、ジチオスレイトール、フィチン酸、EDTA、イソニコチン酸ヒドラジド、パラアミノサリチル酸、ペプチドなどのチロシナーゼ阻害剤の利用(特許文献7);所定量のグルコースオキシダーゼ及びグルコースを利用したpHが8未満である生麺の製造(特許文献8、9);ヒノキチオールまたはヒノキチオールのサイクロデキストリン包接化合物の利用(特許文献10);トロポロンまたはトロポロンのサイクロデキストリン包接化合物の利用(特許文献11);アスコルビン酸、ならびに、アスコルビン酸および重合燐酸塩類の組み合わせの利用(特許文献12);生澱粉に活性グルテン粉末、加熱処理小麦粉、増粘剤および水を加えてシート状食品を得る方法(特許文献13);所定量の弱酸アルカリ金属塩と、グリシン、アラニン、ロイシン、スレオニン、リジン、ヒスチジン、アルギニン、またはシスチンのいずれかの少なくとも1種のアミノ酸との利用(特許文献14)。
【0005】
ところで、玄米の精白(すなわち精米)時に得られる米糠の有効利用もまた研究されている。米油(または「米糠油」とも呼ばれる)を除去した米糠(本明細書中で「脱脂米糠」ともいう)を焙煎したもの(本明細書中で「焙煎米糠」ともいう)からの抽出物(本明細書中で「焙煎米糠抽出物」ともいう)の有効性について報告されている。焙煎米糠抽出物は、畜肉および魚肉の嫌味臭(非特許文献1)、ならびにトリメチルアミン(魚臭)、アンモニア、ジアリルジサルファイド(ニンニク臭)、およびメチルメルカプタン(玉ねぎの腐った臭い)に起因する嫌味臭(非特許文献2)を緩和または抑制することが公知である。特許文献15では、焙煎米糠抽出物の消臭効果を利用した口腔用組成物が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−97495号公報
【特許文献2】特開昭54−163834号公報
【特許文献3】特開2004−173508号公報
【特許文献4】特開平8−140606号公報
【特許文献5】特開平8−140605号公報
【特許文献6】特開平7−255401号公報
【特許文献7】特開平7−222560号公報
【特許文献8】特開平11−137196号公報
【特許文献9】特開平11−137197号公報
【特許文献10】特開平5−260915号公報
【特許文献11】特開平5−308916号公報
【特許文献12】特開平6−7100号公報
【特許文献13】特開平3−198759号公報
【特許文献14】特開昭55−165775号公報
【特許文献15】特開2006−22053号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「既存添加物と天然香料、食品素材 天然物便覧」 第15版、第318頁、株式会社 食品と科学社、2003年11月30日発行
【非特許文献2】奥野製薬工業株式会社 食品研究部 技術資料、2003年4月1日公開
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、穀粉食品におけるスペックの発生を防止するための食品用品質改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種からなる、穀粉食品用品質改良剤を提供する。
【0010】
本発明はまた、穀粉食品生地を製造する方法を提供し、この方法は、
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種ならびに穀粉を用いて、生地を製造する工程
を含む。
【0011】
本発明はさらに、上記方法によって製造された穀粉食品生地もまた提供する。
【0012】
本発明はさらに、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種ならびに穀粉を含む、食用穀粉組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、穀粉食品生地の色や物性を損なうことなく、スペックを好適に防止し得る品質改良剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物)
本発明においては、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物が、穀粉食品の添加剤として利用される。脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物は、穀粉食品用品質改良剤であり得る。これらは、穀粉食品またはその生地においてスペックの発生を防止または抑制する作用を奏し得る。したがって、好ましくは、スペック抑制剤として利用され得る。
【0015】
焙煎米糠抽出物は、食品添加剤として公知であり、既存添加物として認められている(非特許文献1)。非特許文献1には、焙煎米糠抽出物の基原は、イネ科イネの米糠を脱脂し、焙煎したものを、熱時水で抽出後、温時エタノールでタンパク質を除去したものであり、成分としてマルトールを含む旨が記載されている。以下の実施例で使用した焙煎米糠抽出物は、非特許文献1に定義される焙煎米糠抽出物の一例であり得るが、本発明において用いられる焙煎米糠抽出物の製法は、得られる産物がスペックの発生を抑制する作用を有する限り、以下に説明するように限定はない。「ばい煎コメヌカ抽出物」(添加物表示)として入手可能な食品添加物(例えば市販物)もまた、本発明に用いられ得る。脱脂米糠抽出物は、米糠の脱脂後の焙煎を行うこと以外は、焙煎米糠抽出物と同様に調製される。
【0016】
「脱脂米糠」は、米糠から米油を除去することにより得られる。したがって、米糠からの米油抽出後の残渣であり得る。米糠としては、精米時に廃棄される皮および胚芽部を利用できる。米糠は、市販によっても入手可能である。米糠からの米油の抽出による脱脂米糠の製造は、当業者が通常用いる任意の方法が用いられ得、そのような方法としては、圧搾抽出および溶剤抽出(例えば、ヘキサンを用いる)が公知である。脱脂米糠もまた、市販により入手可能である。「焙煎米糠」とは、脱脂米糠を焙煎したものである。米糠の「焙煎」とは、容器に入れられた米糠に水分を加えずに、該容器の外部から高い温度に加熱する処理をいう。焙煎は、例えば、温度120〜210℃、より好ましくは、130〜190℃、より好ましくは約170℃にて、20〜90分間、より好ましくは、30〜60分間、より好ましくは約40分間で行われ得るが、特にこれらの条件に限定されない。
【0017】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物は、脱脂米糠または焙煎米糠を、水または有機溶剤、あるいは水および有機溶剤の組み合わせにて抽出したものである。水としては、水道水、蒸留水、純水などが用いられ得る。抽出有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、1,3−ブチレングリコールなどのアルコールが挙げられる。水および有機溶剤の組み合わせによる抽出は、水と有機溶剤(有機溶剤を高濃度(約50v/v%以上)で含む水溶液であってもよい)とで別個に順次抽出する(例えば、水による抽出後に有機溶剤による抽出を行う)、または水と有機溶剤との混合溶剤(すなわち、有機溶剤の水溶液)によって抽出するかのいずれであってもよい。
【0018】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物の調製方法の例について、以下に説明するが、これらの方法に限定されない。なお、本明細書を通して、材料に関して特に説明がなければ、当業者が通常入手可能であり用いられる材料、処理または操作に関して特に説明がなければ、当業者が通常用いる手法または装置によって行われ得る。
【0019】
一例としては、脱脂米糠または焙煎米糠を熱水による抽出に供した後、濾過により糠を取り除き得る。採取した抽出物を濃縮し、粉末化し(例えばスプレードライにて)、次いでアルコール(好ましくは、エタノール)による抽出に供し、得られた抽出物を濾過および濃縮に供することにより、最終抽出物を得る。熱水抽出は、例えば、温度80℃以上100℃未満、より好ましくは90℃〜99℃、より好ましくは約98℃の温度、および、例えば、5分間以上、好ましくは、90分間以上、より好ましくは、120分間以上の時間での条件を用い得る。アルコール抽出には、その取り扱い面を考慮して、高濃度のアルコール水溶液を抽出溶剤として用い得、例えば、50〜99.5v/v%、好ましくは70〜95v/v%、より好ましくは約90v/v%のアルコール水溶液を用い得る。アルコール抽出は、用いるアルコール抽出溶剤の沸点を考慮して行われ得るが、例えば、温度50〜78℃、より好ましくは60〜70℃、より好ましくは約65℃の温度、および、例えば、60分間以上、好ましくは、90分間以上、より好ましくは、120分間以上の時間での条件を用い得る。
【0020】
調製方法の別の例として、脱脂米糠または焙煎米糠に、アルコールおよび水を含有する溶液を加えて抽出を行い、得られた抽出物を濾過および濃縮に供し得る。この抽出溶液は、好ましくはエタノール水溶液である。水溶媒に対するアルコール濃度は、好ましくは、30〜70v/v%、より好ましくは、40〜60v/v%、より好ましくは約50v/v%である。抽出条件は、用いる抽出溶剤の沸点を考慮して行われ得るが、一般には、例えば、温度60℃〜80℃、より好ましくは65℃〜75℃、より好ましくは約70℃の温度、および、例えば、5分間以上、好ましくは、90分間以上、より好ましくは約120分間以上の時間であり得る。
【0021】
好ましくは、脱脂米糠またはその脱脂米糠を約170℃にて、約40分間焙煎した焙煎米糠を、熱水(約98℃)にて約120分間以上抽出し、得られた抽出物を濃縮し、スプレードライにて粉末化し、それに約90v/v%のエタノール水溶液を加えて、約65℃で約120分間以上抽出を行い、得られた抽出物を濃縮することにより得られる脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物が用いられ得る。あるいは、脱脂米糠または焙煎脱脂米糠に約50v/v%のエタノール水溶液を加えて、約70℃にて約120分間以上抽出後、濾過および濃縮して得られる脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物も好ましく用いられ得る。
【0022】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物は、粉末、顆粒、液、乳化液、ペーストなどの任意の形態で利用できる。例えば、上述のような手順に基づいて生成された最終生成物をそのまま穀粉食品の製造に用いても、または穀粉食品の製造に際して粉末形態を溶媒(例えば、水、アルコールなど)に溶解または懸濁または乳化して原料穀粉に添加してもよい。上述のような手順に基づいて生成された最終の液状生成物を、スプレードライまたは凍結乾燥などで粉末にまで乾燥し、粉末形態を製造し得る。例えば、液状の脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物を粉末基材であるデキストリンと共に水に溶解し、スプレードライにて粉末化し得る。さらに当業者が通常用いる方法にて顆粒化してもよい。このような粉末または顆粒は、予め穀粉食品の原料中に分散配合させ得る。
【0023】
(穀粉食品の製造)
本発明においては、穀粉食品生地の製造に、穀粉と、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種とが用いられる。一般的に、穀粉食品は、穀粉を含む原料を混捏して得られる生地から製造され得る。通常、穀粉食品生地の製造は、穀粉を含む生地原料に溶媒(例えば、水、アルコールなど)を添加し、混捏することによって行われ得る。非特許文献1に記載されるように、焙煎米糠抽出物は水またはアルコールに溶解性であるので、穀粉との混捏に有利であり得る。脱脂米糠抽出物も同様である。混捏後、必要に応じて、延伸、発酵、成形などの工程が行われ得る。
【0024】
本明細書における「穀粉」は、小麦粉を主体としたものであり得る。したがって、小麦粉単独の粉だけでなく、小麦粉に必要に応じて米粉、大麦粉などの穀粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉などの澱粉などを適宜混合したものも包含する。小麦粉としては、原料小麦の種類またはグルテン力などは問わず、強力粉、準強力粉、中力粉、および薄力粉のいずれもが用いられ得る。
【0025】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物は、溶媒に溶解もしくは懸濁もしくは乳化させた状態または固形(例えば粉末または顆粒)状態で、混捏時に穀粉と混合され得るか、あるいは、混捏前に予め穀粉中に配合(好ましくは、粉末状態で穀粉中に分散)され得る。
【0026】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物は、それらのスペック抑制能、および必要に応じて生地または最終製品の色を考慮して、穀粉に添加され得る。焙煎米糠抽出物の添加量は、原料穀粉の種類に依存し得るが、一般に、原料の穀粉(好ましくは、小麦粉)の質量に対して0.001〜5質量%(すなわち、原料穀粉100質量部に対して0.001〜5質量部:以下、「w/w%」とも称する)で添加され得る。スペック抑制能を発揮するために、原料穀粉質量に対して0.001質量%以上、好ましくは、0.005質量%以上、より好ましくは、0.01質量%以上、よりさらに好ましくは、0.05質量%以上であり得、そして生地または最終製品の色を考慮して原料穀粉質量に対して5質量%まで添加され得る。あるいは、2質量%以下、または1質量%以下、または0.5質量%以下、または0.1質量%以下であり得る。0.05〜0.1質量%が好ましい。脱脂米糠抽出物の添加量もまた原料穀粉の種類に依存し得るが、一般に、原料穀粉に対して0.001%〜10質量%(すなわち、原料穀粉100質量部に対して0.001〜10質量部)で添加し得る。スペック抑制能を発揮するために、原料穀粉質量に対して0.001質量%以上、好ましくは、0.005質量%以上、より好ましくは、0.01質量%以上、よりさらに好ましくは、0.05質量%以上であり得、そして生地または最終製品の色を考慮するが脱脂米糠抽出物自体は色が薄いため、原料穀粉に対して10質量%まで添加され得る。あるいは、原料穀粉に対して5質量%以下、または2質量%以下、または1質量%以下、または0.5質量%以下、または0.1質量%以下であり得る。0.05〜0.1質量%が好ましい。上記数値範囲内、あるいはスペック抑制能、および必要に応じて生地または最終製品の色を考慮した任意の範囲内で、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物を混合して添加してもよい。
【0027】
さらに必要に応じて、副原料として、例えば、食塩、かんすい、蛋白類、澱粉類、有機酸(塩)類、重合リン酸塩類、乳化剤、増粘安定剤、保湿剤、保存剤、食用色素、卵製品、糖類、油脂類、乳製品、イースト、イーストフード、ベーキングパウダーなども添加し得る。これらの原料もまた、混捏時に添加されても、あるいは、特に粉末などの固体形態の場合は混捏前に予め原料中に配合されてもよい。これらの副原料の添加量は、当業者に周知の量が採用され得る。
【0028】
穀粉食品とは、麺類(例えば、中華麺、うどん、生パスタなど)、皮もの(例えば、餃子皮、シュウマイ皮、中華饅頭皮)、パイ、ピザ、パン、菓子類などが挙げられる。本発明は、このような食品の生地の製造に好適に利用され得る。
【0029】
生地とは、本発明の処理がなければスペックの発生が見られ得る状態の生地を包含する。本発明においては、生の状態の生地だけでなく、冷凍生地および半乾燥生地(例えば、貯蔵用とするためまたは貯蔵したことによって水分がある程度除去されたようなもの)も包含する。冷凍生地または半乾燥生地の場合は、それらの生地の製造に通常用いられる工程が伴われ得る。
【0030】
本発明によれば、穀粉食品生地およびそのような生地からの穀粉食品の製造に、脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物あるいはその両方を添加すること以外は穀粉食品生地、およびさらにそのような生地からの穀粉食品の製造で当業者が通常用いる方法および手段(装置など)を利用できる。
【0031】
上述した方法によって製造される穀粉食品生地もまた、本発明に包含される。そのような穀粉食品生地は、ゆで、蒸し、焼き、揚げなどの加熱調理する前の冷凍、冷蔵、低温、常温、中温などの各温度で貯蔵・保存、解凍、乾燥する際の製造直後より経時的に生じるスペックの発生を抑制し得る。変色または退色による色調の低下もみられ得ない。
【0032】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種、および穀粉を含む、食用穀粉組成物もまた、本発明に包含される。このような食用穀粉組成物は、脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物あるいはその両方を粉末化し、穀粉中に配合することにより得られ得る。穀粉に関しては上記の通りである。食用穀粉組成物は、必要に応じて、製造される食品の原料粉に含まれ得る他の粉末状成分(例えば、上記の副原料)を適宜含んでもよい。脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物の含有量は上述の記載に準ずる。このような食用穀粉組成物は、穀粉食品の生地およびその最終製品の製造に好適に用いられ得る。
【0033】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
(脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物の調製)
本実施例で使用する脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物は、以下のように調製した。精米時に得られた米糠から米油を当業者が通常用いる手順に従ってヘキサンで抽出し、脱脂米糠を得た。さらに、その脱脂米糠を約170℃にて40分間焙煎し、焙煎米糠を得た。脱脂米糠または焙煎米糠を98℃の熱水にて120分間抽出した後、濾過により抽出残渣を取り除いた。採取した抽出物を濃縮し、次いでスプレードライにて粉末化し、それに90v/v%エタノールを加え、65℃にて2時間抽出を行い、それを濾過および濃縮した。このようにして脱脂米糠および焙煎米糠のそれぞれから得られた生成物を、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物とした。
【0035】
小麦粉製麺のスペック抑制評価のために、試験物質として、上記のように調製した脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物に加え、スペック抑制作用が公知でありかつ米糠由来の物質であるフェルラ酸(東京化成工業株式会社より入手)およびチアミン塩酸塩(和光純薬工業株式会社より入手)を用いた。
【0036】
なお、上記のように調製した脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物をそれぞれ高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析したところ、これらは、フェルラ酸(定量条件は下記の通り:使用カラム CHEMCOSORB 5C8-U(size 4.6×250(w));移動相 0.1%リン酸溶液:アセトニトリル=50%:50%;カラム温度 35℃;流速 1.0ml/分;検出器波長 236nmおよび322nm)、およびチアミン塩酸塩(定量条件は下記の通り:使用カラム CHEMCOBONDO 5 ODS-H(size 4.0×150(w));移動相 1mM 1-オクタンスルホン酸ナトリウム/100mM リン酸緩衝液(pH 2.6):アセトニトリル=90%:10%;カラム温度 40℃;流速 0.8 ml/分;検出器波長 270nm)のいずれも、検出限界(10ppm)以下であることを確認した。
【0037】
(麺帯の製造および評価)
下記の実施例に記載の配合比率の原料およびスペック抑制試験物質をミキサーにて8分間混合し、そぼろ状にした。これを製麺ロールで圧延し、厚さ5mmの麺帯を作製した。
【0038】
麺帯をビニール袋に入れ、10℃にて7日間保管した。いずれの試験麺帯でもスペックの発生分布に特に偏りが見られなかったので、麺帯中の任意の領域3cm2あたりに発生したスペックの数を目視にて計数した。
【0039】
また、生地の10w/v%水溶液を作製して、そのpHを測定した。
【0040】
さらに、麺帯を0.8mmまで圧延し、官能評価にて生地の伸展性を評価した。生地伸展性の評価基準は、以下の通りとした:
○ 伸展性が無添加と同じ程度;
△ 伸展性が無添加よりやや悪い;
× 伸展性が無添加より悪い。
【0041】
(実施例1)
麺帯は、以下の配合の原料から作製した:強力粉(灰分0.37%および粗蛋白11.8%を含む)100質量部、水33質量部、食塩1質量部、および75v/v%エタノール2質量部。上記麺帯へのスペック抑制試験物質の添加量は、以下の表1に示す通りである(原料穀粉の強力粉の質量に対する質量%(表中「対粉w/w%」:単に「w/w%」ともいう)で表す)。
【0042】
各麺帯のスペック数、pH、および伸展性の結果もまた以下の表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物を試験物質として用いた場合、0.001w/w%の添加でも減少が見られ始め、0.005w/w%のような少量での添加で、スペック数を無添加の約60〜70%にまで減少し、0.01w/w%では、無添加の約30〜35%にまで減少した。0.05w/w%では麺帯にほぼスペックは見られず、0.1w/w%では全く見られなかった。これに対して、フェルラ酸では、0.005w/w%の添加では、スペック数にはあまり変化は見られなかった。0.1w/w%の添加量でもスペックはなお見られた(無添加の場合の約20%以上)。本試験麺では、チアミン塩酸塩の場合、スペック数の著しい減少は見られなかった。
【0045】
生地のpHについて、フェルラ酸またはチアミン塩酸塩の添加とともに著しい低下が見られたのに対し、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物ではそのような変化は見られなかった。
【0046】
伸展性について、フェルラ酸またはチアミン塩酸塩の添加とともに著しい劣化が見られたのに対し、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物では無添加と同じ程度であり、劣化は見られなかった。
【0047】
強力粉は主にパンなどに使用され得る。生地のpHが低下すると伸展性が悪くなり得る。そうすると、生地のまとまりが悪くなり作業性が低下すると共に焼成後のボリュームが小さくなり、食感が弱くなる。
【0048】
(実施例2)
麺帯は、以下の配合の原料から作製した:準強力粉(灰分0.34%および粗蛋白11.2%を含む)100質量部、水33質量部、食塩1質量部、および75v/v%エタノール2質量部。上記麺帯へのスペック抑制試験物質の添加量は、以下の表2に示す通りである(原料穀粉の準強力粉の質量に対する質量%(表中「対粉w/w%」:単に「w/w%」ともいう)で表す)。
【0049】
各麺帯のスペック数、pH、および伸展性の結果もまた以下の表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物を試験物質として用いた場合、0.001w/w%の添加でも減少が見られ始め、0.005w/w%のような少量での添加で、スペック数を無添加の約45〜60%にまで減少し、0.01w/w%では、無添加の約10〜15%にまで減少した。0.05w/w%では麺帯にほぼスペックは見られず、0.1w/w%では全く見られなかった。これに対して、フェルラ酸では、0.005w/w%の添加では、スペック数にはあまり変化は見られなかった。0.1w/w%の添加量でもスペックはなお見られた(無添加の場合の約15%以上)。本試験麺では、チアミン塩酸塩の場合、スペック数の著しい減少は見られなかった。
【0052】
生地のpHについて、フェルラ酸またはチアミン塩酸塩の添加とともに著しい低下が見られたのに対し、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物では大きな変化は見られなかった。
【0053】
伸展性について、フェルラ酸またはチアミン塩酸塩の添加とともに著しい劣化が見られたのに対し、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物では無添加と同じ程度であり、劣化は見られなかった。
【0054】
準強力粉は主に餃子の皮に使用され得る。生地のpHが低下すると伸展性が悪くなり得る。そうすると、薄く延ばすことが難しくなり、皮が破れやすくなる。
【0055】
(実施例3)
麺帯は、以下の配合の原料から作製した:準強力粉(灰分0.34%および粗蛋白11.0%を含む)100質量部、水33質量部、かんすい(炭酸カリウム65%および炭酸ナトリウム35%でなる)1質量部、食塩1質量部、および75v/v%エタノール2質量部。上記麺帯へのスペック抑制試験物質の添加量は、以下の表3に示す通りである(原料穀粉の準強力粉の質量に対する質量%(表中「対粉w/w%」:単に「w/w%」ともいう)で表す)。
【0056】
各麺帯のスペック数、pH、および伸展性の結果もまた以下の表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物を試験物質として用いた場合、0.001w/w%の添加でも減少が見られ始め、0.005w/w%のような少量での添加で、スペック数を無添加の約40%にまで減少し、0.01w/w%では、無添加の約20〜25%にまで減少した。0.05w/w%では麺帯にほぼスペックは見られず、0.1w/w%では全く見られなかった。これに対して、フェルラ酸では、0.005w/w%の添加では、スペック数にはあまり変化は見られなかった。0.1w/w%の添加量でもスペックはなお見られた(無添加の場合の約35%以上)。本試験麺では、チアミン塩酸塩の場合、スペック数の著しい減少は見られなかった。
【0059】
生地のpHについて、フェルラ酸またはチアミン塩酸塩の添加とともに著しい低下が見られたのに対し、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物では大きな変化は見られなかった。
【0060】
伸展性について、フェルラ酸またはチアミン塩酸塩の添加とともに著しい劣化が見られたのに対し、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物では無添加と同じ程度であり、劣化は見られなかった。
【0061】
主に中華麺やワンタンの皮の製造のために、準強力粉にかんすいが添加され得る。生地のpHが低下すると伸展性が悪くなり得、さらに中華麺特有のかんすい臭が少なくなり、高pH特有の色である黄色が白色に変色してしまう。
【0062】
(実施例4)
麺帯は、以下の配合の原料から作製した:中力粉(灰分0.38%および粗蛋白9.1%を含む)100質量部、水38質量部、食塩2質量部、および75v/v%エタノール2質量部。上記麺帯へのスペック抑制試験物質の添加量は、以下の表4に示す通りである(原料穀粉の中力粉の質量に対する質量%(表中「対粉w/w%」:単に「w/w%」ともいう)で表す)。
【0063】
各麺帯のスペック数、pH、および伸展性の結果もまた以下の表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物を試験物質として用いた場合、0.001w/w%の添加でも減少が見られ始め、0.005w/w%のような少量での添加で、スペック数を無添加の約48〜63%にまで減少し、0.01w/w%では、無添加の約27〜35%にまで減少した。0.05w/w%では麺帯にほぼスペックは見られず、0.1w/w%では全く見られなかった。これに対して、フェルラ酸では、0.005w/w%の添加では、スペック数にはあまり変化は見られなかった。0.1w/w%の添加量でもスペックはなお見られた(無添加の場合の約35%以上)。チアミン塩酸塩の場合、0.005または0.01w/w%の添加では、スペック数にはあまり変化は見られなかった。0.1w/w%の添加量でもスペックはなお見られた(無添加の場合の約35%以上)。
【0066】
生地のpHについて、フェルラ酸またはチアミン塩酸塩の添加とともに著しい低下が見られたのに対し、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物では大きな変化は見られなかった。
【0067】
伸展性について、フェルラ酸またはチアミン塩酸塩の添加とともに著しい劣化が見られたのに対し、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物では無添加と同じ程度であり、劣化は見られなかった。
【0068】
中力粉は主にうどんに使用され得る。生地のpHが低下するとグルテンの形成が悪くなり、麺にしたときにコシが弱くなる。
【0069】
(実施例5)
麺帯は、以下の配合の原料から作製した:薄力粉(灰分0.35%および粗蛋白6.5%を含む)100質量部、水38質量部、食塩1質量部、および75v/v%エタノール2質量部。上記麺帯へのスペック抑制試験物質の添加量は、以下の表5に示す通りである(原料穀粉の薄力粉の質量に対する質量%(表中「対粉w/w%」:単に「w/w%」ともいう)で表す)。
【0070】
各麺帯のスペック数、pH、および伸展性の結果もまた以下の表5に示す。
【0071】
【表5】

【0072】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物を試験物質として用いた場合、0.001w/w%の添加でも減少が見られ始め、0.005w/w%のような少量での添加で、スペック数を無添加の約60%にまで減少し、0.01w/w%では、無添加の約30%にまで減少した。0.05w/w%では麺帯にほぼスペックは見られず、0.1w/w%では全く見られなかった。これに対して、フェルラ酸またはチアミン塩酸塩では、0.005w/w%または0.01w/w%の添加では、スペック数にはあまり変化は見られなかった。0.1w/w%の添加量でもスペックはなお見られた(無添加の場合の約40〜60%以上)。
【0073】
生地のpHについて、フェルラ酸またはチアミン塩酸塩の添加とともに著しい低下が見られたのに対し、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物では大きな変化は見られなかった。
【0074】
伸展性について、フェルラ酸またはチアミン塩酸塩の添加とともに著しい劣化が見られたのに対し、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物では無添加と同じ程度であり、劣化は見られなかった。
【0075】
薄力粉は主に菓子類に使用され得る。生地のpHが低下すると生地が緩くなりまとまりが無くなると共に、スポンジケーキなどでは保形性が悪くなる。
【0076】
焙煎脱脂米糠抽出物自体は褐色であるが、上記の実施例1から5では、いずれの添加量の場合も生地の色を変化させなかった。焙煎米糠抽出物および脱脂米糠抽出物は、生地のpHを変化させなかった。したがって、焙煎米糠抽出物および脱脂米糠抽出物を用いると、生地の物性および最終食品の物性に影響を与えることなく、スペックを抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、穀粉食品または生地におけるスペックの発生が好都合に防止され得、かつ該生地および食品の外観、物性などの製品特性が損なわれることがない。特に、焙煎米糠抽出物および脱脂米糠抽出物は、生地の色を変化させず、生地のpHを変化させないので、生地の伸展性を損なわず、生地表面の荒れは見られず、さらに麺としてゆでた場合にコシが弱くなることもない。また、焙煎米糠抽出物および脱脂米糠抽出物とも食品への添加物として好適に利用され得る物質であり、安全性が高い。したがって、商品価値の高い穀粉食品が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種からなる、穀粉食品用品質改良剤。
【請求項2】
穀粉食品生地を製造する方法であって、
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種ならびに穀粉を用いて、生地を製造する工程
を含む、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法により製造された穀粉食品生地。
【請求項4】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種ならびに穀粉を含む、食用穀粉組成物。