説明

食品用抗カビ液

【課題】抗カビ能を有する乳酸菌を利用して食品用抗カビ液(食品添加物として使用する)を提供する。
【解決手段】スクリーニング試験によって得た抗カビ能を有する乳酸菌を選択抽出し、溶存酸素量を高めた仕込液中で、好気条件の発酵処理を行って得た発酵液を、適宜濃縮して製出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防黴性等を示す抗菌性物質を生成する乳酸菌を用いて製出した食品用抗カビ液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品の抗カビ性を高めると、当該食品の賞味期限・消費期限が伸びるので、市場経済に与える影響は大きいが、逆に抗カビ機能を有する抗カビ剤の食品添加が問題となる場合もある。そこで従前より食品安全性の点で問題が生じない抗カビ活性を備えた乳酸菌(防黴性等を示す抗菌性物質を産生する乳酸菌)の使用が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1(特開2002−291466号公報)には、抗菌性物質としてフェニル乳酸等の有機酸を産生するラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantrum)や、抗カビ活性を備えた新規な乳酸菌としてラクトバチルス・サンフランシスエンシス(Lactobacillus sanfranciscencis)が開示されている。
【0004】
更に特許文献2(特開2005−245299号公報)には、ペニシリウム属のカビ類に対する抗カビ活性を有するラクトバチルス・デルブリッキー(Lactobacillus delbrueckii)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−291466号公報。
【特許文献2】特開2005−245299号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のとおり抗カビ活性を有する乳酸菌について、種々提案されているが、前記に提示された乳酸菌は、特に抗カビ活性に優れたものとして新規な発見菌として提示されているものであり、市場において低価格で容易に入手できるものではなく、必ずしも市場流通性において優れているとは言い難い。
【0007】
そこで本発明は、抗カビ活性を備えている乳酸菌を利用して製出し、容易に食品添加物として利用できる食品用抗カビ液を提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る食品用抗カビ液は、スクリーニング試験によって得た抗カビ能を有する乳酸菌を、溶存酸素量を高めた仕込液中で、好気条件の発酵処理を行って得た発酵液を、適宜濃縮して製出したことを特徴とするものである。
【0009】
乳酸菌は、通性嫌気性菌に属し、チトクロム系の呼吸鎖やカタラーゼなどのヘムタンパク質合成能を有さないことから、分子状酵素をエネルギー代謝に直接利用できない。むしろ乳酸菌は酵素に接触すると過酸化水素(H2O2)、さらにはスーパーオキシド・ラジカル(О2)、ヒドロキシルラジカル(HO・)などの活性酸素を合成して菌体に障害作用を示すので、乳酸菌にとって酸素の存在は好ましくないものと考えられている。しかし、近年では、菌種や菌株により異なるものの、多くの乳酸菌が活性酸素に起因する酸素毒性の防御機構を有していることや、好気条件下では発酵基質のエネルギー代謝に関連する諸酵素の活性を変動させて適応することから、酵素の存在が乳酸菌の増殖性やエネルギー獲得の点で必ずしも障害とならないことが明らかとなっている。また、好気条件下では代謝系が変動することにより、発酵による生成物の量や種類が変化することが知られている。
【0010】
乳酸菌の一部にはカビの増殖を抑制する抗カビ物質を生成するものが知られており、これらの抗カビ物質生成能を有する乳酸菌の好気発酵によって、乳酸菌の代謝系の変動、及び代謝系の活性を向上させ、結果的に抗カビ物質の生成量を増大させることができ、新規に見出された特別な乳酸菌に限定することなく、十分に抗カビ機能を備えた発酵液を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記のとおりで、容易に得られる動植物等の食品由来の抗カビ能を有する乳酸菌に基づいて、十分に抗カビ効果を備え、且つ一般の食品添加物として汎用的に使用できる発酵液を容易に得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態におけるスクリーング工程における乳酸菌前培養用の培地の配合表。
【図2】同糸状菌胞子収集用培地の配合表。
【図3】同抗カビ能の判定結果表。
【図4】同抗カビ発酵液用仕込液組成表。
【図5】同抗カビ効果試験用食パンのレシピ。
【図6】同抗カビ効果の対比表(嫌気発酵と好気発酵)。
【図7】同抗カビ効果の対比表(通気量)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明に係る抗カビ発酵液をその製出手順に基づいて説明する。抗カビ発酵液は、第一に使用乳酸菌を選定するスクリーング工程、次に抗カビ能を備えた乳酸菌の発酵工程、発酵液の濃縮工程の順で行う。
【0014】
スクリーング工程は、供試菌株から抗カビ能を有する乳酸菌を選抜するもので、供試菌株は、「Lactococcus lactis :BL株」「Lactococcus lactis:Cu−1株」「Enterococcus faecium:Str株」「Lactobacillus
sp:LAKE−2株」「Lactobacillus plantarum: LHo−2株」「Lactobacillus plantarum:KT−2株」である。
【0015】
前記供試乳酸菌を、図1に示した配合表の乳酸菌前培養用培地(MRS液体培地)で、30℃、24時間の培養を行う。
【0016】
また抗カビ能の判定指標として「Aspergillus oryzae:NRIC1210株」「Penicillium
chrysogenum:NRIC1271株」「Aspergillus niger:NRIC1221株」を、図2に示した配合表の糸状菌胞子収集様培地(MEA培地)で、30℃、5〜7日間の培養を行い、胞子が肉眼で十分観察できる程度生育させる。
【0017】
次にMEA培地上で生育したカビから胞子を採取するもので、プレート上に0.2%ペプトン添加滅菌水を10ml程度加えた後に、コンラージ棒にて胞子を培地から掻き取り、プレート上から胞子懸濁液を回収し、血球計算板を用いて胞子数を計測し、懸濁液中の胞子数が10/ml程度となるように希釈する。
【0018】
そして培養した乳酸菌の抗カビ活性試験を行うもので、MRS平板培地(MRS液体培地1Lあたり20gの寒天を加えて調製する)の上面に、乳酸菌を2〜3cm程度の線状に接種し、30℃、48時間の嫌気培養をなす。更に麦芽エキスソフト寒天培地(麦芽エキス2%、寒天0.8%)9mlを滅菌後、50℃まで冷ましてから、1.0mlの胞子懸濁液を良く混合して、乳酸菌が生育しているMRS平板培地に流し入れて2層として30℃、48時間の好気培養を行う(Overlay法)。
【0019】
前記のプレートの観察を行い抗カビ能の判定を行った。判定基準を、「−:抗カビ能無し・プレート上にクリアゾーンや糸状菌の増殖遅延などが全くみられない」「w:極弱い抗カビ能が有る」「+:弱い抗カビ能が認められる」「++:抗カビ能が認められる」「+++:強い抗カビ能が認められる」とし、その判定結果は、図3に示す通りで、Bl株、Cu−1株及びStr株は全てのカビに対して判定が「−」であり、抗カビ能が無いと認められ、LAKE−1株、LHo−2株及びKT−2株は、全てのカビに対して判定が「+」以上であり、抗カビ能を持つ菌株であると認められる。
【0020】
次の発酵工程は、前記のスクリーング工程で「抗カビ能」を備えた乳酸菌よる発酵処理であり、この発酵処理は、図4に示す組成とした仕込み液に乳酸菌(LAKE−1株及びLHo−2株を使用)スタータを接種し、30℃、120時間バブリングによる好気発酵(発酵液5Lに対して4L/分の供給)を行い、発酵液を得るものである。
【0021】
尚発酵温度は、20〜45℃の間で特に30〜37℃が好ましく、発酵時間は12〜240時間で、特に96〜120時間が望ましい。
【0022】
前記発酵工程の後に発酵液の濃縮を行うもので、濃縮工程は、減圧フライヤーを用い、70℃で80分の濃縮を行い、重量比で1/5の濃縮液(食品用抗カビ液)を得た。
【0023】
尚前記の濃縮条件は、濃縮温度50〜80℃の範囲内で、特に60〜70℃程度が望ましいし、濃縮時間は30〜300分間で行い、特に30〜90分間程度が望ましい。また濃縮率は、濃縮条件の設定により任意の濃縮率を選択できるが、特に重量比で1/2〜1/6程度になるまで濃縮することが望ましく、濃縮液(食品用抗カビ液)は、当該温度の状態のまま密封容器に充填して市場に流通させるものである。
【0024】
前記の濃縮液(食品用抗カビ液)の抗カビ効果を確認するために、抗カビ液を使用して製パンを行い、製出したパンにカビ胞子を接種し、抗カビ効果の確認を行った。
【0025】
製パンは、図5に示す製パンレシピで、水の一部を抗カビ液に置き換えて製パンを行った。製出した食パンは、1.5cm厚にスライスして、クラム中央部に10〜20個程度の「Aspergillus niger MYB-1株」胞子を接種し、無菌袋(ストマッカー)に入れて密封し、25℃設定のインキュベーター内に静置して保存し、カビの発生時間を抗カビ液無添加の食パン並びに同一菌株を嫌気発酵処理して濃縮した液を使用した場合との比較結果が図6のとおりである。
【0026】
即ち「LAKE−2株」を使用して嫌気発酵を行った区は、カビ発生までの遅延時間が2.4時間であったが、好気発酵(0.8L/分)を行った区は7.0時間と遅延時間の延長がみられた。また「LHo−2株」でも同様に嫌気発酵を行った区ではカビ発生までの遅延時間が2.7時間であったが、好気発酵を行った区は8.3時間と遅延時間の延長が認められた。
【0027】
従って上記結果から、抗カビ能を備えた乳酸菌の好気発酵によって、抗カビ物質の生成量が増加したものと認められる。
【0028】
また好気発酵条件を検討するために、LAKE−1株を使用した場合における通気量を、仕込液1Lに対して、0.22L/分、0.4L/分、0.8L/分として、30℃、120時間のバブリングによる好気発酵処理を行い、発酵液を重量比で約1/5となるまで減圧濃縮を行い、前記の製パンレシピ(対個な添加量1%)で、ストレート法により山型食パンを焼成し、前記のカビ発生試験を行った結果が図7のとおりである。
【0029】
上記の結果から、十分な通気量を確保して仕込液(培養液)中の溶存酸素が充分な状態の好気下の発酵を行うことで、乳酸菌の抗カビ物質生成量が増加するものである。
【0030】
以上のように本発明は、抗カビ能を有する乳酸菌の好気発酵によって抗カビ作用をなす物質の生成量を高め、優れた抗カビ効果を有する抗カビ液を提供できたものであり、食品添加物として容易に市場に流通させることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーニング試験によって得た抗カビ能を有する乳酸菌を、溶存酸素量を高めた仕込液中で、好気条件の発酵処理を行って得た発酵液を、適宜濃縮して製出したことを特徴とする食品用抗カビ液。
【請求項2】
培養液1Lに対して0.4L/分以上の通気量による通気発酵で発酵処理を行ってなる請求項1記載の食品用抗カビ液。
【請求項3】
振盪速度を200回/分以上の振盪発酵で発酵処理を行ってなる請求項1記載の食品用抗カビ液。
【請求項4】
発酵温度を20〜45℃の間で、発酵時間が12〜240時間の発酵処理を行ってなる請求項1乃至3記載の何れかの食品用抗カビ液。
【請求項5】
濃縮率を重量比で1/2〜1/6程度としてなる請求項1乃至4記載の何れかの食品用抗カビ液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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