説明

食品用日持ち向上剤および食品の日持ち向上方法

【課題】十分な食品保存効果が得られ、食品の味質に与える影響が少なく、食品中での分散性が良好な食品用日持ち向上剤を提供する。
【解決手段】平均粒子径が1〜15μm、且つ比表面積が2〜20m/gである難水溶性ポリフェノール粉末を含有する食品用日持ち向上剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存性に優れた食品を得るために用いる食品用日持ち向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物に含まれるポリフェノールの多くは種々の作用を有することから、様々な分野でその利用法が検討されている。例えば、食品や化粧品などではポリフェノールが有する抗酸化作用に着目し、酸化防止剤として利用されている。
【0003】
また、一部のポリフェノールには抗菌作用があることも知られている。抗菌作用を有するポリフェノールとしては、甘草から得られるカンゾウ油性抽出物、柑橘類やそばから得られるクエルセチンなどが知られており、食品分野を中心に保存剤として利用されている。しかしながら、ポリフェノールが有する抗菌効果は、合成保存料などに比べて低く、また独特な苦味や渋味を有するため食品に対する添加量を抑える必要があるため、十分な保存効果を得ることが困難であった。また、抗菌作用を有するポリフェノールの内、難水溶性を示すものは、水系の液体製剤に混合しても均一な製剤とならず、このような製剤を食品に添加しても抗菌成分が均一に分散しないことから、抗菌効果にばらつきが生じていた。難水溶性ポリフェノールは有機溶媒には比較的溶解し易いことから、分散性の問題を解決するために有機溶媒に溶解した後、食品に添加する方法が考えられるが、有機溶媒の多くは食品に使用できないことや、食品の味質や物性に多大な影響を与えるため、実用的な方法とは言えなかった。そのため従来から難水溶性ポリフェノールの食品中での分散性を改善する方法が検討されてきた。
【0004】
特許文献1は、カンゾウ油性抽出物とショ糖脂肪酸エステル等とゼラチンとを水溶性アルコールに溶解させてなる可溶化製剤に関するが、ショ糖脂肪酸エステルは酸性溶液中や食塩溶液中などでは凝集性を示すことがあるため、均一分散が不十分となる場合があった。また、ゼラチンの影響によるゲル化やそれを防止するための塩類または尿素の添加は、食品本来の物性や味質に影響を与えてしまうという問題があった。
【0005】
特許文献2は、HLBが14以上のポリグリセリンラウリン酸エステルを用いてカンゾウ油性抽出物を可溶化する方法に関するが、ポリグリセリンラウリン酸エステル等のグリセリン脂肪酸エステル類には特有の臭いがあり、食品の風味に影響を与えるため、好ましい方法とは言えなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−103932号公報
【特許文献2】特開2003−176233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、十分な食品保存効果が得られ、食品の味質に与える影響が少なく、食品中での分散性が改善された難水溶性ポリフェノール粉末を含有する食品用日持ち向上剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、抗菌成分としてポリフェノールを含有する食品用日持ち向上剤について鋭意検討した結果、難水溶性ポリフェノール粉末を微粉末化することにより、食品中での分散性が改善されると共に抗菌性能が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、平均粒子径が1〜15μm、且つ比表面積が2〜20m/gである難水溶性ポリフェノール粉末を含有する食品用日持ち向上剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の食品用日持ち向上剤は、食品の味質へ与える影響が少なく、食品中での分散性が良好であることから均一かつ高い抗菌作用を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】カンゾウ油性抽出物0.05gを水100mlに懸濁した後、分光セルに移し室温で90分放置した後の濁り具合を示す。左:市販品(粉砕前)、右:本発明の微粉末
【図2】クエルセチン0.05gを水100mlに懸濁した後、分光セルに移し室温で90分放置した後の濁り具合を示す。左:市販品(粉砕前)、右:本発明の微粉末。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で使用可能なポリフェノールは、水に不溶あるいは殆ど溶けない難水溶性ポリフェノールであればよく、20℃の水に対する溶解度が0.05g/100ml以下のものが好ましく、0.01g/100ml以下のものがより好ましい。溶解度の下限としては制限なく、水に全く不溶のポリフェノールを用いてもよい。
このようなポリフェノールとしては、カンゾウ油性抽出物、クエルセチン、プロポリス、アオイ花抽出物、ブルーベリー葉抽出物、ナタネ抽出物等が例示されるが、入手容易性の点でカンゾウ油性抽出物、クエルセチンが好ましい。
【0013】
抗菌効果の点でカンゾウ油性抽出物が特に好ましい。これら難水溶性ポリフェノールは2種以上を併用してもよい。ここでカンゾウ油性抽出物は、マメ科ウラルカンゾウ、マメ科チョウカカンゾウ等のカンゾウの根または塊茎から、アセトン、メタノール、エタノール等の有機溶媒を用いて抽出することによって得られるものであり食品添加物として従来から用いられている。カンゾウ油性抽出物としては、抽出物を濃縮乾固し後粉砕して得られる粉末状のものが市販されており、本発明においてはかかる市販品を下記のごとく処理して用いてもよい。
【0014】
市販されている難水溶性ポリフェノールは平均粒子径が30〜40μm程度であるが、これを微粉末化することにより、本発明で使用される難水溶性ポリフェノール粉末として使用することができる。難水溶性ポリフェノールの微粉末化には市販の粉砕装置が利用可能であり、本発明で規定する平均粒子径のものが得られる装置であれば特に限定されないが、例えばジェットミル、ピンミル、セラミックボールミル、石臼等が挙げられる。これら粉砕装置の中でも、圧縮空気により粒子を粉砕するジェットミルが、弱熱物質の粉砕が可能であり、不活性ガス雰囲気中での粉砕も可能である点で好ましい。
【0015】
本発明で使用する難水溶性ポリフェノール粉末は、平均粒子径が1〜15μmの微粉末であり、好ましくは平均粒子径が2〜10μm、より好ましくは4〜8μmのものがよい。難水溶性ポリフェノール粉末の平均粒子径が1μm未満では、飛散性が高まるため取り扱いが困難になると共に、ポリフェノールが有する渋味や苦味が強く発現する傾向があるため、食品の味質に影響を与えやすくなる。平均粒子径が15μmを超える場合には、均一分散が不十分となる傾向がある。
【0016】
また、難水溶性ポリフェノール粉末の比表面積は2〜20m/gであり、好ましくは3〜15m/g、より好ましくは5〜10m/gのものがよい。比表面積が2m/g未満である場合、十分な日持ち向上効果が得られない傾向があり、20m/gを超える場合には、液体製剤を調製する際に継粉(ダマ)が発生し易い傾向がある。尚、本発明でいう「平均粒子径」は、レーザー回折散乱法で測定される値の体積平均を意味する。また、「比表面積」は、B.E.T式一点法で測定される値を意味する。
【0017】
本発明の食品用日持ち向上剤は、難水溶性ポリフェノールの他に、有機酸および/または有機酸塩、アミノ酸等を含有させてもよい。本発明の食品用日持ち向上剤全体に占める難水溶性ポリフェノールの割合としては、0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜8重量%、より好ましくは0.08〜5重量%である。
【0018】
難水溶性ポリフェノールの割合が10重量%を超えると特有の渋味や苦味により食品本来の味質が損なわれ易く、0.01重量%未満であると十分な保存効果が得られない傾向がある。
【0019】
本発明の食品用日持ち向上剤には、有機酸および/または有機酸塩から選択される1種または2種以上を含有させてもよい。有機酸としては酢酸、乳酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、アジピン酸等の一般に食品保存剤に使用されている有機酸であれば使用可能であるが、その中でも保存効果が高く、且つ味質への影響が少ない点で酢酸、乳酸、フマル酸、クエン酸、アジピン酸が好ましく、酢酸、乳酸、アジピン酸がより好ましい。また、有機酸塩としては前記有機酸のナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩が挙げられ、その中でもナトリウム塩、カルシウム塩、が好ましく、特にナトリウム塩がより好ましい。
【0020】
有機酸および/または有機酸塩の割合としては、日持ち向上剤全体の1〜60重量%程度であるが、選択する有機酸や有機酸塩の種類によっても異なるため、使用する食品によって希望する保存効果や味質が得られるように調製すればよい。
【0021】
また、本発明の食品用日持ち向上剤にはアミノ酸を含有させてもよい。アミノ酸としては、グリシン、アラニン、グルタミン酸等のアミノ酸が挙げられるが、その中でも保存効果、味質への影響の少なさ、入手のし易さの点でグリシンが好ましい。
【0022】
アミノ酸の割合としては、日持ち向上剤全体の30〜98重量%、好ましくは40〜98重量%、より好ましくは60〜95重量%である。
【0023】
アミノ酸の割合が98重量%を超えると特有の苦味により食品本来の味質が損なわれ易く、30重量%未満であると保存効果が不十分となる傾向がある。
【0024】
本発明の食品用日持ち向上剤の食品への添加方法については、特に制限は無く、各成分を別々に添加してもよいし、予め各成分を混合して添加しても良い。添加時期についても特に制限は無く、加熱食品に使用する場合は加熱の前後いずれに添加してもよい。
【0025】
食品への添加量は、各食品毎に得られる保存効果や味質への影響が異なるため、希望する保存効果や味質が得られるように適宜調整すればよいが、食品100重量部に対して0.2〜2重量部、好ましくは0.5〜1.5重量部を目安に添加すればよい。
【0026】
本発明の食品用日持ち向上剤が使用可能な食品としては特に制限は無く、穀類、野菜、果実類などを主原料とする食品のように比較的蛋白質含量が低い食品から、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、魚肉ハム、ソーセージなどの水産製品、ハム、ソーセージ、ウインナーソーセージ、ベーコン、ハンバーグ、ミンチボールなどの畜肉製品、豆腐、豆乳、和・洋菓子類などの食品に使用可能である。
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0027】
実施例
難水溶性ポリフェノール粉末の製造
市販のカンゾウ油性抽出物(株式会社常盤植物化学研究所製)30gを市販のジェットミルを用いて微粉砕し、カンゾウ油性抽出物微粉末を得た。また、同様にして市販のクエルセチン(メルク社製)59.5gを微粉砕し、クエルセチン微粉末を得た。
【0028】
溶解度の測定
50ml容蓋付ガラス瓶(恒量測定済)にカンゾウ油性抽出物約0.5gおよび蒸留水70ml(水温約20℃)を入れ、マグネチックスターラーで1時間攪拌した後、10分間静置し、上澄み液の約半量をピペットで吸い上げ、0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した。得られたろ液を3個のアルミ製秤量缶(恒量測定済)に約10mlずつ入れ、各々重量を測定した後、50℃の乾燥機内で5時間乾燥させ、デシケーター内で30分間放冷した後、再び重量を測定した。各測定値からの溶液の重量(盧液の重量)と溶液中のカンゾウ油性抽出物の重量を求め、20℃の水に対する溶解度(g/100ml)を算出した。
なお、マグネチックスターラーによる攪拌時間を2時間にした以外は上記操作と同様にして溶解度を求めたが、得られた結果は攪拌時間が1時間の場合とほぼ同一であり、1時間の攪拌にて溶液(ろ液)は飽和に達していた。
クエルセチンについても上記と同じ方法にて溶解度を求めた。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
平均粒子径の測定
上記で製造したカンゾウ油性抽出物微粉末およびクエルセチン微粉末の平均粒子径を湿式粒度分布測定装置(マスターサイザー2000,マルバーン製)を用いて、以下の条件で測定した。また、対照として粉砕前の市販品の平均粒子径も同様に測定した。尚、測定は5回行い、その平均値を採用した。測定結果を表2に示す。
【0031】
[測定条件]
分散媒:水
分散剤:ヘキサメタリン酸Na
屈折率:サンプル実数部:1.81,虚数部:0,分散媒:1.33
超音波(前処理液):2分間
ポンプスピード:1500rpm
測定時間(サンプル投入〜測定):10秒
【0032】
【表2】

【0033】
比表面積の測定
上記で製造したカンゾウ油性抽出物微粉末およびクエルセチン微粉末の比表面積を比表面積測定装置(モノソーブMS−17、ユアサアイオニクス製)を用いて、以下の条件で測定した。また、対照として粉砕前の市販品の比表面積も同様に測定した。測定結果を表3に示す。
【0034】
[測定条件]
方法:BET式一点法
キャリアガス:N:30%+He:70%
測定ガス流量:15cc/分
脱気条件:50℃,30分間
【0035】
【表3】

【0036】
水に対する分散性試験
カンゾウ油性抽出物微粉末およびクエルセチン微粉末並びに粉砕前の各市販品をそれぞれ0.05gを水100mlに添加し、スターラーで30分間撹拌した後、分光セルに移し、室温で90分間静置し、分散状態を目視にて確認した。
【0037】
90分間経過後の写真を図1および2に示す。カンゾウ油性抽出物微粉末(図1右)およびクエルセチン微粉末(図2右)は、90分間経過後も良好な分散状態を保っていたが、粉砕前の市販品を用いたものは、ポリフェノール成分が沈降し、その境界面が目視で確認できた(図1左、図2左)。
【0038】
抗菌力試験1(供試菌:Saccharomyces cerevisiae)
SCD培地(栄研器材株式会社製、SCDブイヨン培地)を指定の使用法の2倍の濃度となるように調製し、1N−HCl水溶液にてpH4に調整し、オートクレーブにて滅菌後、COガスセンサー入りの試験管に2.5mlずつ分注し、さらに上記で製造したカンゾウ油性抽出物微粉末を用いて調製した懸濁液を0ppm、500ppmおよび1000ppmの濃度になるように培地入りの試験管に2.5ml分注した(0ppmは、滅菌水を分注)。比較のために、市販品(粉砕前の市販品)を用いて同じ濃度となるように懸濁液を同様に培地入りの試験管に分注した。
【0039】
次に、供試菌の菌液100μl(10CFU/ml)を接種し、30℃にて培養した。接種後の菌の増殖により発生するCOが検出されるまでの時間を測定した。また、対照として粉砕前の市販品を用いて同様に試験した。尚、COガスセンサー入りの試験管はSensiMedia(登録商標) SM000(マイクロバイオ株式会社製)を使用した。
【0040】
微粉末を使用した系では、市販品に比べCOの検出時間が遅く、菌の増殖が抑制されていた。結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
抗菌力試験2(供試菌:Bacillus subtilis)
乾燥ブイヨン培地(日水製薬株式会社製、乾燥ブイヨン)を指定の使用法の2倍の濃度となるように調製し、オートクレーブにて滅菌後、COガスセンサー入りの試験管に2.5mlずつ分注し、さらに上記で製造したカンゾウ油性抽出物微粉末を用いて調製した懸濁液を0ppm、31.3ppm、62.5ppmおよび125.0ppmの濃度になるように培地入りの試験管に2.5ml分注した(0ppmは、滅菌水を分注)。比較のために、市販品(粉砕前の市販品)を用いて同じ濃度となるように懸濁液を同様に培地入りの試験管に分注した。
【0043】
次に、供試菌の胞子懸濁液100μl(10CFU/ml)を接種し、30℃にて培養した。接種後の菌の増殖により発生するCOが検出されるまでの時間を測定した。また、対照として粉砕前の市販品を用いて同様に試験した。尚、COガスセンサー入りの試験管はSensiMedia(登録商標) SM000(マイクロバイオ株式会社製)を使用した。
【0044】
微粉末を使用した系では、市販品に比べCOの検出時間が遅く、菌の増殖が抑制されていた。結果を表5に示す。
【0045】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1〜15μm、且つ比表面積が2〜20m/gである難水溶性ポリフェノール粉末を含有する食品用日持ち向上剤。
【請求項2】
難水溶性ポリフェノール粉末の20℃の水に対する溶解度が0.05g/100ml以下である請求項1記載の食品用日持ち向上剤。
【請求項3】
難水溶性ポリフェノール粉末の割合が0.01〜10重量%である請求項1記載の食品用日持ち向上剤。
【請求項4】
難水溶性ポリフェノール粉末がカンゾウ油性抽出物、クエルセチンから選ばれる1種以上である請求項1記載の食品用日持ち向上剤。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の食品用日持ち向上剤を、食品に添加することを特徴とする食品の日持ち向上方法。
【請求項6】
食品用日持ち向上剤を食品全量に対し、0.5〜1.5重量%添加することを特徴とする請求項5記載の日持ち向上方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−213656(P2010−213656A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66462(P2009−66462)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】