説明

食品用日持向上剤

【課題】高タンパク質かつ高pHの食品(タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品)において、その風香味に影響を与えることなく日持ち性を有効かつ効果的に向上させる日持向上剤及び日持ち向上方法を提供する。
【解決手段】グリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、プロポリス抽出物の4成分を一定の割合で配合して得られる剤を用いることで、高タンパク質かつ高pHの食品の風味、呈味に影響を与えることなく、効果的にその日持ち性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高タンパク質かつ高pHの食品用の日持向上剤及び日持ち向上方法に関する。詳細には、高タンパク質かつ高pHの食品に添加した際に、風味、呈味に影響を与えることなく日持ち性(静菌性)を有効かつ効果的に向上させる日持向上剤、日持ち向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、いわゆる「中食」、「外食」の割合が増加し、スーパーやコンビニなどで販売される惣菜などを取り入れた食事形態が広く浸透している。しかし、消費期限の短い惣菜等を大量に製造・販売するスタイルは、大規模な食中毒を引き起こす危険性がある。そのため、日持向上剤や保存料などを用いて微生物を制御して、安全な食品を供給することが行われている。特に最近は、その成分の安全性などの問題から、保存料より日持向上剤が用いられる場合が極めて多い。
【0003】
日持向上剤とは、市場に流通させる消費期限の短い食品の品質を微生物の制御等によって数日間程度維持する効果を発揮する添加物のことを指し、比較的長期間にわたって食品の保存性を維持する効果を発揮する保存料とは明確に区別される。
【0004】
現在、食品用の日持向上剤成分としては、エタノール、チアミンラウリル硫酸塩、酢酸ナトリウム、グリシン、リゾチーム、中鎖脂肪酸エステル、キトサンなど多数知られており、それらは多くの場合、単独ではなく複数成分を併用して使用されている(特許文献1〜3など)。しかし、これらは特有の臭気、呈味への影響などがあり添加量が限られる場合が多い。例えば、エタノールや酢酸ナトリウムは特有の臭いがあり、グリシンは多量添加すると苦味などを感じる場合があり、これらは風味や呈味に影響する。
【0005】
また、食品中のタンパク質、多糖類、環境要因(pHや水分活性など)などによって日持向上剤の抗菌効果が低下することが知られており、特に、高タンパク質かつ高pHの食品(例えば、タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品)に対し少量で有効な効果を発揮する成分はほとんど見あたらないのが現状である。
【0006】
したがって、高タンパク質かつ高pHの食品に日持向上剤を使用する場合には、既存の成分を多量添加するしかなく、この成分由来の臭気、味などの影響から、添加食品の風味や呈味が低下することは避けられなかった。このため、高タンパクかつ高pHの食品に対し少量の添加で有効な静菌効果を発揮する有効成分や混合製剤の開発が当業界において強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−000246号公報
【特許文献2】特開2006−217892号公報
【特許文献3】特開2008−220345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高タンパク質かつ高pHの食品(タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品)において、その風味、呈味に影響を与えることなく日持ち性(静菌性)を有効かつ効果的に向上させる剤及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来の日持向上剤では効果が発揮されにくいタンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品に対して高い日持向上効果を発揮し、しかも食品本来の風味を損なうことのない新規日持向上剤の開発のために鋭意研究を行い、グリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、プロポリス抽出物の4成分を一定の割合で配合して得られる混合製剤を用いることで、タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品への添加量が従来の製剤と比較して極めて少なくても有効に静菌作用を発揮し、当該食品の風味、呈味に影響を与えることなく効果的にその日持ち性を向上させることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)グリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、プロポリス抽出物の4成分を有効成分として含有してなることを特徴とする、タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品用日持向上剤。
(2)グリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、プロポリス抽出物の4成分からなることを特徴とする、タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品用日持向上剤。
(3)更に、糖アルコール、タンパク性甘味料、酵母エキスから選ばれる1以上の成分を含有することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の剤。
(4)糖アルコールがエリスリトールであり、タンパク性甘味料がソーマチンであることを特徴とする、(3)に記載の剤。
(5)タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品が、卵加工食品、乳加工食品、大豆加工食品、肉類加工食品、魚介類加工食品のいずれかであることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の剤。
(6)グリシンを0.2〜1.0%(w/w)、クエン酸三ナトリウムを0.4〜1.0%(w/w)、グリセリン脂肪酸エステルを0.05〜1.0%(w/w)、プロポリス抽出物を0.005〜0.1%(w/w)の割合で食品に含有させるための組成比としてなることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1つに記載の剤。
(7)グリシンを0.2〜1.0%(w/w)、クエン酸三ナトリウムを0.4〜1.0%(w/w)、グリセリン脂肪酸エステルを0.05〜1.0%(w/w)、プロポリス抽出物を0.005〜0.1%(w/w)の割合で食品に含有させることを特徴とする、タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品の日持ちを向上させる方法。
(8)更に、糖アルコール、タンパク性甘味料、酵母エキスから選ばれる1以上の成分を含有させることを特徴とする、(7)に記載の方法。
(9)糖アルコールがエリスリトールであり、タンパク性甘味料がソーマチンであることを特徴とする、(8)に記載の方法。
(10)タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品が、卵加工食品、乳加工食品、大豆加工食品、肉類加工食品、魚介類加工食品のいずれかであることを特徴とする、(7)〜(9)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、グリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、プロポリス抽出物の4成分の相乗効果により、タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上という高タンパク質かつ高pHの食品に対して添加量が従来の製剤と比較して極めて少なくても有効に静菌作用を発揮し、当該食品の風味、呈味に影響を与えることなく効果的にその日持ち性を向上させること(高い抗菌効果を発揮させること)ができる。さらに、糖アルコール、タンパク性甘味料、酵母エキスから選ばれる1以上の成分を併用することで、当該食品の風香味への影響はさらに少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】各種日持向上剤を添加した卵焼きの、25℃48時間保管後の細菌数を示すグラフである。なお、C8及びC10はグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸はクエン酸三ナトリウム、プロポリスはプロポリス抽出物を示す。そして、無添加を除く左グラフは単独成分添加区(右側の4試験区は0.75%添加)、右側の4試験区の右グラフはグリシン0.25%と表記成分0.75%との併用区を示す。
【図2】各種日持向上剤(グリシン単独区、成分併用区)を添加した卵焼きの、25℃48時間保管後の細菌数を示すグラフである。成分併用区は右からグリシンとクエン酸三ナトリウム(丸数字の1)、グリシンとクエン酸三ナトリウムとグリセリン脂肪酸エステル(丸数字の2)、グリシンとクエン酸三ナトリウムとグリセリン脂肪酸エステルとプロポリス抽出物(丸数字の3)を示す。
【図3】各種日持向上剤を添加した卵焼きの、25℃24時間、48時間保管後の細菌数を示すグラフである。なお、Glyはグリシン、G.E.はグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸はクエン酸三ナトリウム、プロポリスはプロポリス抽出物を示す。
【図4】各種製剤を添加した卵焼きの、25℃24時間、48時間保管後の細菌数を示すグラフである。なお、Glyはグリシン、G.E.はグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸はクエン酸三ナトリウム、プロポリスはプロポリス抽出物を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においては、グリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、プロポリス抽出物の4成分を併用したものを日持向上剤の有効成分とする。これらはいずれも、従来より日持向上剤の有効成分として用いられていたものであるが、高タンパク質かつ高pHの食品での静菌効果が十分でなかったり、添加食品の風香味への影響が大きいなどの課題があった。本発明では、この4成分併用により、高タンパク質かつ高pHの食品において添加量が少なくても静菌効果を十分に発揮し、且つ、風香味への影響も非常に少ない製剤を提供できるものである。
【0014】
グリシン及びクエン酸三ナトリウムは、一定の精製が行われた精製品や合成品などを使用することができる。また、市販品の使用も可能である。また、グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンに脂肪酸が1又は2個エステル結合したものであればどのようなものでも使用できる。なお、炭素数6〜12程度の中鎖脂肪酸とグリセリンがエステル結合したもの(グリセリン中鎖脂肪酸エステル)がより好ましい。
【0015】
プロポリス抽出物としては、ミツバチの巣から採取した原塊をアルコール等の溶媒で抽出したものなどを使用できる。この抽出物は抽出液のままでも使用できるが、不純物を除去し粉末化したものが好ましい。
【0016】
さらに、本発明においては、上記4成分併用剤の静菌効果を充分に引き出し、かつ、食品の風香味への影響をより効果的に抑制するため、糖アルコール、タンパク性甘味料、酵母エキスから選ばれる1以上の成分をさらに併用してよい。糖アルコールとしては、限定はされないが、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトールなどが例示され、特にエリスリトールが好ましい。タンパク性甘味料も限定はされないが、ソーマチン、アスパルテーム、ネオテームなどが例示され、特にソーマチンが好ましい。酵母エキスは、Saccharomyces cerevisiaeやCandida utilisの培養液由来のもの等が例示されるが、これも限定されない。これらは、添加する食品に対して0.01%(w/w)以上(例えば、0.01〜0.1%(w/w))の添加量で使用するのが好ましい。
【0017】
そして、本発明では、上記4成分(グリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、プロポリス抽出物)を所定の配合比で併用することが、4成分の相乗効果をより効果的に発揮する上で好ましい。具体的には、グリシンを0.2〜1.0%(w/w)(好ましくは0.3〜0.7%(w/w))、クエン酸三ナトリウムを0.4〜1.0%(w/w)(好ましくは0.4〜0.6%(w/w))、グリセリン脂肪酸エステルを0.05〜1.0%(w/w)(好ましくは0.05〜0.25%(w/w))、プロポリス抽出物を0.005〜0.1%(w/w)(好ましくは0.005〜0.01%(w/w))の構成とするのが好適である。
【0018】
本発明では、上記4成分(グリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、プロポリス抽出物)を併用し製剤化するのが好ましいが、製剤化に際しては、これら4成分のみで製剤としても良いし、4成分以外に日持向上の有効成分ではない材料として助剤を使用しても良い。製剤化の助剤としては特に限定はされないが、乳糖やデキストリン等が好ましいものとして例示される。
【0019】
本発明の日持向上剤を添加する食品は、タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品(本発明においては、これを高タンパク質かつ高pHの食品とする)である。具体的には、卵加工食品、乳加工食品、大豆加工食品、肉類加工食品、魚介類加工食品などが例示され、より具体的には、卵焼き、出し巻き卵、炒り卵、チーズ、ホワイトソース、納豆、ハンバーグなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
このように本発明は、従来の日持向上剤では効果が出にくかった(つまり、従来の日持向上剤では多量添加しないと効果が達成できなかった)タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の高タンパク質かつ高pHの食品に対して、添加量が極めて少なくても有効に静菌作用を発揮し、且つ、当該食品の風味、呈味に影響を与えることなく効果的にその日持ち性を向上させることができる。
【0021】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
(グリシンとの併用による相乗効果確認)
グリシン単用と、グリシンとクエン酸三ナトリウム、グリシンとグリセリン脂肪酸エステル、グリシンとプロポリス抽出物の2成分併用による静菌効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0023】
卵焼き(タンパク質含量12%(w/w)、pH7.0)にグリシン単独を添加した場合(卵焼き原料混合液に対して0.25%(w/w)添加と2.5%(w/w)添加)と、クエン酸三ナトリウム又はグリセリン脂肪酸エステル(脂肪酸炭素数C8、C10)又はプロポリス抽出物を単独添加した場合(卵焼き原料混合液に対してそれぞれ0.75%(w/w)添加)、これらの素材とグリシンの2成分併用製剤を添加した場合(卵焼き原料混合液に対してグリシン0.25%(w/w)、他の素材0.75%(w/w)添加)とで、一定時間保管後の細菌数の比較を行った。なお、日持向上剤無添加品をコントロールとした。
【0024】
卵焼きの製造は以下の通り行った。
卵液70重量部に対し、砂糖、醤油、食塩、風味調味料を所定量混合した調味液30重量部を添加し、すぐに攪拌した。そこに、Bacillus cereusの胞子を100個/gとなるように植菌した。その後、この卵焼き原料混合液を200g分取して上記の成分構成の日持向上剤を添加した(無添加品を除く)。これを加熱成型して卵焼きを作製し、冷却後深型シャーレに20gを移し25℃で48時間保管した。保管後、定法により微生物検査を行った。
【0025】
結果を図1に示した。各成分とも単独添加と比較してグリシンと併用した場合には抗菌効果が上昇した(細菌数の上昇が抑制された)。特に、C10のグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸三ナトリウム、プロポリス抽出物の3成分は、単独添加と比較してグリシンと併用した場合に抗菌効果が顕著に上昇した。また、各成分を併用することで、10倍量のグリシン単独添加のものに近い抗菌効果を示すことも明らかとなった。つまり、各成分を併用することでグリシン添加量を飛躍的に低減できることが示された。
【実施例2】
【0026】
(他成分併用による相乗効果確認)
実施例1と同様の方法で卵焼きを作製し、添加する日持向上剤の構成及び添加量は以下の表1に示す内容で、実施例1と同様の方法で一定時間保管後の細菌数の比較を行った。なお、表中のC8はグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸はクエン酸三ナトリウム、プロポリスはプロポリス抽出物を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
結果を図2に示した。グリシンと相乗効果を示した各成分を重ねて添加することで、さらなる相乗効果が得られること、特にグリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、プロポリス抽出物の4成分併用においては、添加量がトータルで1.255%(w/w)であるにも関わらず、グリシン2.5%(w/w)単独添加以上の効果を示すことが明らかとなった。なお、データは示していないが、各成分の添加量を更に低減させても高い相乗効果を示すことが示された。
【実施例3】
【0029】
(糖アルコール、タンパク性甘味料、酵母エキスの併用効果確認)
4成分併用日持向上剤について、さらに糖アルコール、タンパク性甘味料、酵母エキスを併用した場合の、卵焼きの風香味への影響について確認するため、実施例1の卵焼き製造工程中の日持向上剤添加工程においてエリスリトール(精製品)、ソーマチン(精製品)、酵母エキス(醇味F−950:オリエンタル酵母工業社製品)をあわせて添加し、作製した卵焼きを訓練された3名のパネラーにより官能評価を実施した。各成分の構成・添加量及び官能評価結果は表2に示した。なお、表中のGlyはグリシン、C8はグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸はクエン酸三ナトリウム、プロポリスはプロポリス抽出物、F950は酵母エキスを示す。また、官能評価結果は、+の数が増えるほど味への影響が大きいことを示す。
【0030】
【表2】

【0031】
この結果、従来の方法であるグリシン単独添加では卵焼きの味に大きく影響を与えたが、本発明品はいずれも味への影響を大きく低減させた。特に、エリスリトールと酵母エキスの併用、ソーマチンの併用がより効果的であった。
【実施例4】
【0032】
(市販製剤との比較確認)
実施例1と同様の方法で卵焼きを作製し、添加する日持向上剤及び添加量は以下の表3に示す内容で、実施例1と同様の方法で24時間保管後、48時間保管後の細菌数の比較を行った。また、作製した卵焼きを訓練された4名のパネラーにより官能評価を実施した(官能評価結果も表3に示した)。なお、表中のGlyはグリシン、G.E.はグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸はクエン酸三ナトリウム、プロポリスはプロポリス抽出物を示す。また、本発明品との対照となる市販製剤は、アミノカン−S(エーザイフード・ケミカル社製品:卵白リゾチーム、グリシン、シスチン混合製剤)、FR−LB(オリエンタル酵母工業社製品:グリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル混合製剤)を使用した。
【0033】
【表3】

【0034】
細菌数の比較結果を図3に、官能評価結果は表3に示した。細菌数の比較結果では、各試験区ともに無添加品よりも高い抗菌効果を示した。また、本発明品は従来品(市販製剤)と比較して有意に細菌の増殖を抑制した。さらに、本発明品において、グリセリン脂肪酸エステル濃度が0.05〜0.1%においても抗菌効果を示すことが示された。
【0035】
官能評価結果は、無添加品と比較して本発明品は後味にわずかにグリシン味を感じるもほぼ無添加品に近い味であった。アミノカン−Sは、先味に強いグリシン味を感じ、味が全体として薄かった。FR−LBは、先味でかなり強いグリシン味を感じ、後味もやや苦味を感じ、また非常に塩味が強く感じられ食べられないと感じるくらいの味であった。よって、本発明品が従来品(市販製剤)と比較して極めて添加食品の風香味への影響が少ないことが示された。
【実施例5】
【0036】
(糖アルコール単独添加との比較確認)
実施例1と同様の方法で卵焼きを作製し、添加する日持向上剤の構成及び添加量は以下の表4に示す内容で、実施例1と同様の方法で24時間保管後、48時間保管後の細菌数の比較を行った。また、作製した卵焼きを訓練された4名のパネラーにより官能評価を実施した(官能評価結果も表4に示した)。なお、表中のGlyはグリシン、G.E.はグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸はクエン酸三ナトリウム、プロポリスはプロポリス抽出物を示す。また、ソーマチンの添加量はいずれも0.01%とした。
【0037】
【表4】

【0038】
細菌数の比較結果を図4に、官能評価結果は表4に示した。細菌数の比較結果では、各試験区ともに無添加品よりも高い抗菌効果を示した。また、本発明品はエリスリトール添加の試験区と比較して有意に細菌の増殖を抑制した。エリスリトール8%単独添加の試験区ではやや抗菌効果を示したが、エリスリトール0.1%、4%単独添加の試験区では25℃、48時間保管後には無添加品とほぼ同等となりほとんど抗菌効果を示さないことがわかった。
【0039】
官能評価結果は、無添加品と比較して本発明品はやや苦味を感じるもほぼ無添加品に近い味であった。エリスリトール0.1%単独添加の試験区は無添加品とほぼ同等の味であったが、エリスリトール4%、8%単独添加の試験区は甘味を感じ味への影響が大きいものであった。特にエリスリトール8%単独添加の試験区は強い甘味を感じ、コントロールとは全く異なる味であった。
【0040】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0041】
本発明は、高タンパク質かつ高pHの食品(タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品)において、その風香味に影響を与えることなく日持ち性(静菌性)を有効かつ効果的に向上させる日持向上剤及び日持ち向上方法を提供することを目的とする。
【0042】
そして、グリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、プロポリス抽出物の4成分を一定の割合で配合して得られる剤を用いることで、高タンパク質かつ高pHの食品の風味、呈味に影響を与えることなく、効果的にその日持ち性を向上させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、プロポリス抽出物の4成分を有効成分として含有してなることを特徴とする、タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品用日持向上剤。
【請求項2】
グリシン、クエン酸三ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、プロポリス抽出物の4成分からなることを特徴とする、タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品用日持向上剤。
【請求項3】
更に、糖アルコール、タンパク性甘味料、酵母エキスから選ばれる1以上の成分を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
糖アルコールがエリスリトールであり、タンパク性甘味料がソーマチンであることを特徴とする、請求項3に記載の剤。
【請求項5】
タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品が、卵加工食品、乳加工食品、大豆加工食品、肉類加工食品、魚介類加工食品のいずれかであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
グリシンを0.2〜1.0%(w/w)、クエン酸三ナトリウムを0.4〜1.0%(w/w)、グリセリン脂肪酸エステルを0.05〜1.0%(w/w)、プロポリス抽出物を0.005〜0.1%(w/w)の割合で食品に含有させるための組成比としてなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤。
【請求項7】
グリシンを0.2〜1.0%(w/w)、クエン酸三ナトリウムを0.4〜1.0%(w/w)、グリセリン脂肪酸エステルを0.05〜1.0%(w/w)、プロポリス抽出物を0.005〜0.1%(w/w)の割合で食品に含有させることを特徴とする、タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品の日持ちを向上させる方法。
【請求項8】
更に、糖アルコール、タンパク性甘味料、酵母エキスから選ばれる1以上の成分を含有させることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
糖アルコールがエリスリトールであり、タンパク性甘味料がソーマチンであることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
タンパク質含量5%(w/w)以上且つpH6.0以上の食品が、卵加工食品、乳加工食品、大豆加工食品、肉類加工食品、魚介類加工食品のいずれかであることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−29652(P2012−29652A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172770(P2010−172770)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】