説明

食品用粉末製剤

【課題】食品の保存効果を有すると共に、酸味が低減された食品用粉末製剤を提供すること。
【解決手段】酢酸ナトリウム、コハク酸、有機酸アルカリ性塩及び有機酸中性塩を含有し、フマル酸換算酸度が4以上7未満である食品用粉末製剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品に添加して用いる食品用粉末製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から加工食品製造の分野では、食品のpHを調整することによって食品の保存性を向上させている。食品のpH調整には、食品添加物である有機酸や有機酸塩が用いられているが、pH調整作用の程度は有機酸や有機酸塩の種類によって異なるため、目的に応じて複数の有機酸や有機酸塩を組み合わせて用いることが一般的となっており、種々の食品用製剤が提案されている。
【0003】
特許文献1には、酢酸ナトリウムとpH調整剤を主剤とし、これに食塩または塩化カリウムを助剤として配合した食品添加剤が提案されている。
【0004】
特許文献2には、酢酸塩とグルコン酸塩を含有する食品用品質改良剤が提案されている。
【0005】
特許文献3には、アジピン酸,クエン酸,酒石酸,フマル酸及びリンゴ酸等の有機酸及び/又はその塩、リゾチーム、エタノール、及び飽和脂肪酸の炭素数が8〜12のグリセリン脂肪酸エステルを有効成分として含有する食品用日持ち向上剤が提案されている。
【0006】
しかしながら、これまで提案されてきた食品用製剤では、保存効果が得られる程度の量を食品に添加すると、pHの低下に伴い、酸味が増強され、食品の味質が変化するという問題があった。
【0007】
一方、有機酸や有機酸塩に加え、グルタミン酸ナトリウム等のうま味成分やアミノ酸を配合することによって、酸味の問題を解消しようとする提案もなされている。
【0008】
特許文献4には、コハク酸またはコハク酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、フマル酸ナトリウム及び酢酸塩を含有する食品用調味料製剤が提案されている。
特許文献5には、L−グルタミン酸ナトリウム、アラニン、フマール酸一ナトリウム、及び酢酸ナトリウムを含有する調味料組成物が提案されている。
【0009】
特許文献6には、グルタミン酸塩、グリシン、アラニン、フマル酸塩、及び酢酸塩を含有する食品用調味料組成物が提案されている。
【0010】
しかしながら、これらの食品用製剤においては、有機酸塩の中でもpH低下作用が強く、酸味を感じやすいフマル酸一ナトリウムを用いているため、酸味の低減においては不十分だった。
【0011】
したがって、食品保存効果と共に、食品に添加した際の味質変化が抑制された食品用製剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−284953号公報
【特許文献2】特開2009−82067号公報
【特許文献3】特開平5−72号公報
【特許文献4】特開2001−178393号公報
【特許文献5】特許第3906099号公報
【特許文献6】特開2007−44039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、食品の保存効果を有すると共に、酸味が低減された食品用粉末製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、食品用粉末製剤について鋭意検討した結果、酢酸ナトリウム及びpH調整剤を主剤とし、これにコハク酸及び有機酸中性塩を組み合わせることにより、食品の保存性を向上させると共に、うま味が付与され、食品の酸味が抑制されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち本発明は、酢酸ナトリウム、コハク酸、有機酸アルカリ性塩及び有機酸中性塩を含有し、フマル酸換算酸度が4以上7未満である食品用粉末製剤を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の食品用粉末製剤において用いる酢酸ナトリウム粉末は、食品に使用可能なものであれば利用できるが、平均粒子径250μm以下のものが好ましく、200μm以下のものがより好ましく、100〜180μmのものがさらに好ましい。平均粒子径が250μmを超える場合、食品用粉末製剤の酸臭が強くなると共に、保管時にケーキングが発生し易くなる傾向がある。
【0017】
酢酸ナトリウム粉末は、圧縮度が15〜30%であるものが好ましく、17〜28%であるものがより好ましく、20〜25%であるものがさらに好ましい。圧縮度が15%未満の場合、粉末の飛散性が高くなり、酸臭が強く感じられる傾向がある。また、圧縮度が30%を超える場合、流動性が悪くなり、食品に添加する際、均一な添加が困難となる傾向がある。
【0018】
なお、本発明において平均粒子径は、ロータップふるい振盪機R−2型(株式会社タナカテック製)を用いて、ふるい分け法により粒度分布を測定し、ロジンラムラー式に基づいて算出された値を意味する。又、圧縮度は、パウダーテスターPT−N(ホソカワミクロン株式会社製)により測定されたゆるみ見掛け比重及び固め見掛け比重の値から、下記計算式により算出された値を意味する。

圧縮度(%)=(固め見掛け比重−ゆるみ見掛け比重)/固め見掛け比重×100
【0019】
本発明の食品用粉末製剤には、上記酢酸ナトリウムに加え、コハク酸、有機酸アルカリ性塩および有機酸中性塩が配合される。
【0020】
本発明の食品用粉末製剤に配合されるコハク酸の割合は、酢酸ナトリウム100重量部に対して、6.5〜16重量部が好ましく、7.5〜14重量部がより好ましく、8〜12重量部がさらに好ましい。コハク酸の割合が6.5重量部未満の場合には、食品の保存効果が十分に得られない傾向があり、16重量部を超える場合には、酸味が強くなる傾向がある。
【0021】
本発明の食品用粉末製剤に配合される有機酸アルカリ性塩の割合は、酢酸ナトリウム100重量部に対して、14〜44重量部が好ましく、16〜40重量部がより好ましく、18〜36重量部がさらに好ましい。有機酸アルカリ性塩の割合が14重量部未満の場合には、pHが低くなり酸味が強くなる傾向があり、44重量部を超える場合には、保存効果が得られにくくなる傾向がある。
【0022】
本発明の食品用粉末製剤において用いる有機酸アルカリ性塩としては、食品に使用可能なものであれば限定されないが、1重量%水溶液のpHが11以下のものが好ましく、pH7.5〜9のものがより好ましく、pH8〜8.5のものがさらに好ましい。このような有機酸アルカリ性塩としては、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム等が例示され、その中でもクエン酸ナトリウムが好ましい。
【0023】
本発明の食品用粉末製剤に配合される有機酸中性塩の割合は、酢酸ナトリウム100重量部に対して、7〜33重量部が好ましく、8〜30重量部がより好ましく、9〜27重量部がさらに好ましい。有機酸中性塩の割合が7重量部未満の場合には、酸味が強くなる傾向があり、33重量部を超える場合には、中性塩由来の塩味や苦味が強くなる傾向がある。
【0024】
本発明の食品用粉末製剤において用いる有機酸中性塩としては、食品に使用可能なものであれば限定されないが、1重量%水溶液のpHが7.5未満のものが好ましく、pH5.5〜7.4のものがより好ましく、pH6〜7.3のものがさらに好ましい。このような有機酸中性塩としては、リンゴ酸ナトリウム、乳酸カルシウム、グルコン酸ナトリウム等が例示され、その中でもリンゴ酸ナトリウム、乳酸カルシウムがより好ましく、両者の併用がさらに好ましい。
【0025】
本発明の食品用粉末製剤の例としては、酢酸ナトリウム100重量部に対してコハク酸を8〜12重量部、クエン酸ナトリウムを18〜36重量部、ならびにリンゴ酸ナトリウムおよび乳酸カルシウムを両者の合計として9〜27重量部含有するものが好ましく、酢酸ナトリウム100重量部に対してコハク酸9〜11重量部、クエン酸ナトリウム22〜33重量部、リンゴ酸ナトリウム5.5〜14.5重量部および乳酸カルシウム3.5〜12.5重量部を含有するものがより好ましい。より具体的には、酢酸ナトリウム100重量部に対してコハク酸9〜11重量部、クエン酸ナトリウム26〜28重量部、リンゴ酸ナトリウム8〜10重量部および乳酸カルシウム8〜10重量部を含有するものが例示される。
【0026】
本発明の食品用粉末製剤は、フマル酸換算酸度が4以上7未満の製剤であり、フマル酸換算酸度4.5〜6.5であるのが好ましく、5〜6であるのがより好ましい。フマル酸換算酸度が4未満の場合は食品の保存効果が十分に得られない傾向があり、7以上の場合には酸味が強くなる傾向がある。
【0027】
本発明におけるフマル酸換算酸度とは、フマル酸の酸度を100とした時の食品用粉末製剤の酸度を相対値として表したものである。酸度の測定方法は下記のとおりである。

[酸度測定方法]
サンプル5mlを正確に量り、100ml共栓フラスコに入れる。水20mlを加え、*1N−NaOH10mlを精密に量り加える。密栓して常温で30分放置後、**1N−HClで滴定する。同様に空試験を行う。空試験および本試験の滴定量から下記計算式により酸度を求める。
指示薬:フェノールフタレイン

酸度=[空試験滴定量(ml)−本試験滴定量(ml)]/5
*、**:酸度により、滴定試薬濃度は適宜変える。
【0028】
また、本発明の食品用粉末製剤は、水に溶解させて得られる1重量%水溶液のpHが4.5〜6.5となるものが好ましく、pH4.8〜6.2となるものがより好ましく、pH5〜6となるものがさらに好ましい。pHが4.5未満となる場合、食品の味質が変化し易い傾向があり、pHが6.5を超える場合、添加する食品の種類によっては保存効果が不十分となる傾向がある。
【0029】
本発明の食品用粉末製剤の調製には、特別な装置は必要なく、各粉末成分を混合すればよい。
【0030】
本発明の食品用粉末製剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記成分以外に食品に使用可能な他の粉末状の成分を含有してもよい。他の粉末状の成分としては、クエン酸、リンゴ酸、デキストリン、乳糖、食塩等が挙げられる。これらの成分は2種以上を使用してもよい。
【0031】
本発明の食品用粉末製剤の食品への添加量は、食品の種類により異なるが、食品全量に対して0.1〜2重量%程度が好ましく、0.3〜1.8重量%程度がより好ましく、0.5〜1.5重量%程度がさらに好ましい。食品中の食品用粉末製剤の割合が0.1重量%未満の場合、食品の種類によっては保存効果が十分に発揮されない傾向にあり、2重量%を超える場合、食品の種類によっては、酸味が強く感じられる傾向にある。
【0032】
本発明の食品用粉末製剤は、以下に限定されるものではないが、例えば食品用粉末製剤を食品中に練り込む、食品用粉末製剤の水溶液を調製して食品を該水溶液に浸漬する、あるいは食品の調味液中に食品用粉末製剤を添加する等の方法で食品に適用することができる。
【0033】
本発明の食品用粉末製剤は、加熱食品および非加熱食品のいずれにも適用することができ、加熱食品の場合には、加熱前および加熱後のいずれの時点において適用しても良い。
【0034】
本発明の食品用粉末製剤が適用可能な食品としては、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、魚肉ソーセージなどの水産練製品、コロッケ、ハンバーグ、肉団子、餃子、シュウマイ、ソーセージなどの食肉惣菜類、卵焼き、オムレツ、卵豆腐などの卵惣菜類、高野豆腐、大根などの煮物、佃煮、漬物類等に幅広く使用可能である。その中でも、かまぼこ、ちくわなどの水産練製品、ハンバーグ、肉団子などの食肉製品、煮物類等の食品に特に適する。
【0035】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0036】
実施例1及び比較例1
(ハンバーグの保存試験)
方法:ハンバーグヘルパー(ハウス食品株式会社製)122gを表1に示す薬剤を水に溶解させた薬剤水溶液(成形時に0.8重量%添加となるように調製したもの)326gに5分間浸漬したものとミンチ肉(豚:鶏:牛=2:1:1)680gを混合し、1個約30gに成形した。これを25℃で保存しながら経時的にサンプリングした。サンプリングした検体は、BHI寒天培地を用いた混釈法により生菌数を測定した。
【0037】
【表1】

【0038】
結果:本発明の食品用粉末製剤を用いたハンバーグは2日間経過後も生菌数が抑制されていた。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
(官能検査)
方法:実施例1及び比較例1で製造したハンバーグを用いてパネラー6名により、下記の評価基準で酸味及びうま味の強弱を評価した。

酸味−○:実施例の酸味<比較例の酸味
×: 〃 > 〃
△:差を感じない

うま味−○:実施例のうま味>比較例のうま味
×: 〃 < 〃
△:差を感じない
【0041】
結果:本発明の食品用粉末製剤を用いて製造したハンバーグは酸味が抑制され、うま味が増していた。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
実施例2及び比較例2
(高野豆腐の保存試験)
方法:調味液200g(水184g、だしの素 0.3g、砂糖11.2g、味醂1.5g、塩1.5g、醤油1.5g)に対して実施例1及び比較例1で用いた製剤と同じ製剤を0.8%添加し溶解させる。調製した調味料と高野豆腐6個を耐熱性のビニール袋に入れ、シールした後、沸騰水中で30分間ボイルする。ボイル後、1時間室温でなじませた後、流水冷却したものを試験検体とした。この検体を25℃で保存しながら経時的にサンプリングした。サンプリングした検体は、標準寒天培地を用いた混釈法により生菌数を測定した。
【0044】
結果:本発明の食品用粉末製剤を用いた高野豆腐は1日経過時の菌の増殖が抑制されていた。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
(官能検査)
方法:実施例2及び比較例2で製造した高野豆腐の煮物を用いてパネラー6名により、実施例1と同じ評価基準で酸味及びうま味の強弱を評価した。
【0047】
結果:本発明の食品用粉末製剤を用いて製造した高野豆腐の煮物は酸味が抑制され、うま味が増していた。結果を表5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
実施例3及び比較例3
(蒲鉾の官能評価)
方法:冷凍すり身100gをフードプロセッサーにて30秒間空擂りした後(以後の擂り工程は全て同じフードプロセッサーを用いた)、食塩2.5gを加え、30秒間塩擂りした。次にグルタミン酸ナトリウム1g、砂糖3g、味醂3g及び表6に示す薬剤1.2g(出来上がり時に0.8重量%添加の条件)を加え、30秒間擂った後、澱粉5gを氷水30gに溶かした澱粉水溶液を加え、さらに1分間擂った。擂りあがった練り肉を20gづつ耐熱性のビニール袋に詰め、90℃で20分間加熱した後、氷水で急冷却して蒲鉾を得た。得られた蒲鉾を用いてパネラー6名により、実施例1と同じ評価基準で酸味及びうま味の強弱を評価した。
【0050】
【表6】

【0051】
結果:本発明の食品用粉末製剤を用いて製造した蒲鉾は酸味が抑制され、うま味が増していた。結果を表7に示す。
【0052】
【表7】

【0053】
実施例4及び比較例4〜5
(味覚センサーによる酸味及びうま味の評価)
方法:表8に示す食品用粉末製剤を各々濃度0.6重量%となるようにイオン交換水に溶解させ、調味液を調製した。また、比較例4及び5の調味液については、実施例4の調味液と同程度のpHとなるように0.1N-NaOHを用いてpH調整した調味液を別途調製した。得られた各調味液を味覚センサー(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー製 味認識装置SA402B)によって、実施例4の調味液を評価基準(基準値=0.00)として酸味及びうま味を測定した。
【0054】
【表8】

【0055】
結果:実施例4の調味液は、比較例4及び5の調味液に比べ、酸味が弱く、うま味が強いことが判明した。測定結果を表9に示す。
【0056】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ナトリウム、コハク酸、有機酸アルカリ性塩及び有機酸中性塩を含有し、フマル酸換算酸度が4以上7未満である食品用粉末製剤。
【請求項2】
酢酸ナトリウム100重量部に対し、コハク酸6.5〜16重量部、有機酸アルカリ性塩14〜44重量部および有機酸中性塩7〜33重量部を含有する請求項1記載の食品用粉末製剤。
【請求項3】
有機酸アルカリ性塩がクエン酸ナトリウムである請求項1記載の食品用粉末製剤。
【請求項4】
有機酸中性塩がリンゴ酸ナトリウム及び/又は乳酸カルシウムである請求項1記載の食品用粉末製剤。
【請求項5】
酢酸ナトリウム100重量部に対し、コハク酸9〜11重量部、クエン酸ナトリウム22〜33重量部、リンゴ酸ナトリウム5.5〜14.5重量部および乳酸カルシウム3.5〜12.5重量部を含有する請求項1記載の食品用粉末製剤。
【請求項6】
1重量%水溶液のpHが4.5〜6.5である請求項1記載の食品用粉末製剤。

【公開番号】特開2011−155858(P2011−155858A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18251(P2010−18251)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】