説明

食品用組成物

【課題】コレステロ−ル濃度を低減する機能が期待される天然成分であるステロールグリコシドを、油性物質との親和性のある食品組成物として提供する。
【解決手段】ステロールグリコシドの糖類部位の4個の水酸基を酢酸エステルとすることにより油性物質への親和性を改善し、油性物質との併用を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
メタボリックシンドロームとして知られている代謝関連国民病は重要な問題であり、血中
コレステロ−ル濃度は健康管理上重要な指標となっている。その低減にはいろいろな手段
がとられてきており、植物性ステロール、特にシトステロ−ル、スタノールやその脂肪酸
エステル等が有効手段として、食品に添加使用されてきている。
【背景技術】
【0002】
植物性ステロール類であるシトステロールやスチグマステロールやその誘導体は、血中コ
レステロールを低下させ、前立腺肥大による排尿障害改善その他の効果があることが知ら
れており、食品や医薬などに使用されている。
【0003】
植物性ステロール類は遊離体以外に、脂肪酸エステル、糖類と結合したステロールグリコ
シドやその脂肪酸エステルとしても、穀類、豆類、野菜、果実などに広く存在し、食品と
して、摂取されている。これらのステロールやその誘導体は粗繊維とともに、植物性食品
の健康効用に役立っている。
【0004】
これらのステロ−ル誘導体の中で、ステロールグリコシドはステロール類と糖類が1分子
づつエーテル結合したものである。
ステロールはシトステロールやスチグマステロール等であり、糖類はグルコースやガラク
トース等の単糖類である。両者の組合せにより多種存在するが、最も代表的なものはシト
ステロールグルコシドである。また、その脂肪酸エステルはオレイン酸等の高級脂肪酸モ
ノエステルである。
【0005】
これらのステロールグリコシドはその構造から、既に使用されている植物ステロールや他
の植物ステロールエステルと類似の生理活性が期待され、研究されてきているが、実用化
には至ってない。油にも水にも溶解し難い高融点(220℃)ため、使用が困難であり、
十分に機能が発揮できる条件がみつからないからである。ステロ−ル部は疎水性であり、
糖部の残余水酸基が疎油性であることに起因していると考えられる。
【0006】
Jantzen らは、未精製大豆油からシトステロール−d−グルコシドを単離し、そ
の含有量は0.03%、未精製大豆油から得られたリン脂質には3.0%含有するが、精
製された大豆油には含まれてなかったと報告している。(非特許文献1)
近藤と森は大豆から同様に、シトステロール−d−グルコシドを得ている。(非特許文献
2)
【0007】
Thorntonらは未精製大豆油4550kgをケイ酸アルミ系吸着剤30kgで処理
し、235gのステロールグルコシドを得ている。このもの2gをアセチル化し、融点1
65−166℃のテトラ酢酸エステル1.8gを得ている。(非特許文献3)
【0008】
Thorntonらは未精製綿実油36Kgから3gの粗製物を得て、酢酸エステルと
して精製後、分解して、245−250℃で分解するステロールグルコシドを得ている。
そのテトラ酢酸エステル0.8gの融点は164−165℃であった。(非特許文献4)
【0009】
井上らによれば、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子の水溶液にステロールグルコシ
ドを加熱溶解または分散させることにより、消化器官で吸収されやすい組成物が得られる
としている。(特許文献6)
上野らは高純度のステロールグリコシドを得る方法として、テトラ酢酸エステルとし、ク
ロマト分離することにより、成分分離することを提案している。(特許文献7)
【0010】
井上らはステロールグリコシドを含有する植物から単離する方法として、炭酸アルカリ金
属塩等の存在下でアルカリ性低級アルカノールと高温で処理することを提案している。
上野らはステロール配糖体の精製法として、粗製物をアセチル化し、液体クロマトグラ
フィー法で分離後、塩基性条件で加水分解することを提案している。(特許文献8)
【0011】
Vera Van Hoedらはパーム油を原料とするバイオ燃料、及び大豆油を原料と
するもの各1Kg中にそれぞれ55−275mgと0−158mgのベータシトステロー
ルグルコシドが存在することを確認している。(非特許文献6)
【0012】
無類井らは各種ステロールグリコシドをリパ−ゼの存在下で、糖分の1級水酸基のみを選
択的に脂肪酸と反応させる方法を提案している。
【0013】
ひまし油は水酸基を有するリシノール酸を主成分とするので、他の油脂よりはステロール
グリコシドとの親和性があり、100℃以上の搾油条件ではある程度のステロールグリコ
シドが圧搾原油中に溶出し、その後の工程のタンクや製品タンクの底部や壁面に析出する
。ひまし油の誘導体、たとえばひまし油脂肪酸メチルエステルについても同様に、そのタ
ンク中でステロールグルコシド析出がおこる。
【0014】
ステロールグリコシドの生理活性も知られている。
Pegelらは各種のステロールグリコシドやその脂肪酸エステルを含有するものが消炎
、痛風、前立腺肥大に効果があるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特公昭53−20986
【特許文献2】特公昭57−58357
【特許文献3】特公昭62−009120
【特許文献4】特開平08−070885
【特許文献5】特開2002−265346
【特許文献6】U.S.P.4,083,969
【特許文献7】U.S.P.4,112,218
【特許文献8】U.S.P.4,188,379
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Jantzenら Biochem.Z.272,166(193 4)
【非特許文献2】近藤、森 J.Chem.S.Japan.57,112 8(1936)
【非特許文献3】Thorntonら J A.Chem.S.,62,2006 (1940)
【非特許文献4】Thorntonら J.A.Chem.S.,63,2079 (1941)
【非特許文献5】Aylwardら Nature、184,1319 (1959)
【非特許文献6】Van HoedらJ.A.O.C.S.2008、85,701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ステルロールグリコシドの有用性が期待されながら、実用に至ってない理由は、水にも油
性物質にも溶解しがたいことにある。このことを解決し、その有用性を発揮できる方法を
提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
ステロールグリコシドは親油性のステロールに親水性の糖がエーテル結合したものである
。代表的なシトステロールグルコシドはシトステロール1分子とグルコ−ス1分子がエー
テル結合したもので、分子量576で水酸基を4個有する。
この構造が融点200℃以上の難溶解性物質としており、そのままでの利用を困難にして
いる。
【0019】
ステロールグクコシドの4個の水酸基を酢酸エステルすることにより、融点は160℃台
になることは知られている。しかし、その技術は主としてステロールグルコシドの精製手
段または構造確認の目的にのみ使用され,食品や医薬への応用は殆どなされてない。一部
の研究はあるものの、実用化には至ってない。
【0020】
ステロ−ルグルコシドの酢酸エステルやアシル化物に止血作用、血管補強作用、消炎作用
があり、医薬原料として有用とする先行技術はあるが、コレステロ−ル低減作用について
の先行技術はない。また、食品への利用に関する先行技術もない。
【0021】
ステロールグルコシドの酢酸エステルやアシル化物に止血作用、血管補強作用、消炎作用があり、医薬原料として有用とする先行技術はあるが、コレステロール低減作用についての先行技術はない。また、食品への利用に関する先行技術もない。
【0022】
本発明は、ステロールグリコシド酢酸エステルを、単独又は油性素材と併せ使用すること
により、血中コレステロ−ル濃度を低減させる効果を食品に付与することを目的とするも
のである。
【発明の効果】
【0023】
ステロールグリコシドをテトラ酢酸エステルとすることにより、食用油その他親油性食品
との親和性が得られ、配合が容易になるので、広範囲に利用することが可能になる。
そのため、食品にコレステロールの吸収低減などのの生理活性機能を付与することが容易
になり、サプリメントとしての活用も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
植物油脂製造時に副生するリン脂質、油かす、ひまし油タンクの析出物、バイオ燃料から
の析出物、その他のステロールグリコシドを含有する物質を原料とする。まずこれらに混
在する不要物を除去し、ステロールグリコシド含有量の高いものを得る。
【0025】
大豆粕、その他の一般植物油粕や副生リン脂質はヘキサン等の一般有機溶剤で油分を除去
後、含水アルコールやアルコール等の極性溶媒を用いて、常温乃至50℃以下で不要物を
除去する。この場合、温度が高すぎると、目的とするグリコシドも部分的に溶出するので
注意する。
【0026】
次いで、高沸点アルコールやケトン類、セロソルブ類等の極性を有する溶剤やそれらの適
当な混合物を使用して、目的物を抽出する。このステロールグリコシドの抽出は60℃以
上の高温が望ましい。この工程はひまし油類やバイオ燃料からの高純度原料では不必要で
ある。
【0027】
ひまし油搾油直後の中間タンクの壁面やひまし油及びそのエステル類の製品タンク底部の
析出物を原料とする場合は、油性混在物を室温またはあまり高くない温度条件でアルコー
ル等の溶剤で洗い去り、その残部をそのまま使用する。
このひまし油類タンクの析出物から油分を除去したものは、ステロールグリコシドの含有
率90%以上で、バイオ燃料からの抽出物とともに、原料として特に有利である。
【0028】
酢酸エステル化は過剰の無水酢酸を用い、無水酢酸溶媒のリフラックス条件で反応させる
。ピリジンを溶媒に用いると反応は促進される。最初は懸濁状態であるが、反応の進行と
ともに溶解性が増して、透明になり、冷却すると、ステロールグルコシド酢酸エステルの
結晶が得られる。得られた粗製結晶を適当な溶媒を用いて再結晶させ、融点160−16
8℃の酢酸エステルを得ることが出来る。
【0029】
ステロールグリコシドは4個の水酸基を有しており、その全ての水酸基がエステル化され
たテトラ酢酸エステルとすることが最も望ましい。しかし、トリ酢酸エステル以下の部分
エステルが混在するものであっても、ある程度の親油性を有し、条件によっては使用可能
である。
【0030】
ひまし油タンクのステロールグリコシドはベータシトステロールグルコシドであり、充分
に過剰の無水酢酸を使用すれば、高収率で融点166〜168℃のテトラ酢酸エステルが
得られる。
【0031】
ステロールグルコシドのテトラ酢酸エステルは親油性に改善されてはいるが、炭素数18
の脂肪酸を主成分とするトリグリセリドである鹸化価200以下の大豆油等とはなお十分
な親和性があるとはいえない。ヤシ油やパ−ムカーネル油等の高鹸化価油脂を配合した混
合油脂で、鹸化価220以上のもの使用がより望ましい。鹸化価の調整にトリアセチンの
使用も可能である。
【0032】
本発明の食品組成物は食用油脂、マヨネーズ、ドレッシング、ショートニング、チーズ、
バターなどに使用出来る。
ステロールグリコシド酢酸エステルはステロールグリコシドに比し、親油性が増し、使用
し易いが、ステロールと比較すると、親油性は小さく、分子は大きいので、消化器官から
の吸収は少ないと予想される。このことからコレステロールの小腸での吸収低減効果が植
物ステロールより顕著になると期待される。
【実施例1】
【0033】
精製ひまし油タンクの底部のスラリー状の部分を採り、数倍量のメタノールを加えてかき
混ぜ、混在するひまし油を溶解させ、ひまし油メタノール液を濾過除去した。メタノール
不溶解分のメタール洗浄をくり返し、淡褐色粉体を得た。この粉体100gに無水酢酸5
00gを加え、かき混ぜながら、無水酢酸の還流条件で反応させた。最初は殆ど溶けず、
懸濁状態であったが、時間の経過とともに、次第に溶解し、30時間後には完全に透明に
なった。透明になってから、更に5時間還流を継続後、過剰の無水酢酸と副生した酢酸を
回収した。得られた結晶はステロ−ルグルコシド酢酸エステルである。この粗製結晶を酢
酸メチルを溶媒として再結晶をくり返し、白色の精製結晶90gを得た。この精製工程で
、モノエステル、ジエステル、トリエステルその他の不純物が除去さる。この結晶の融点
は165〜166℃で、分析により、ベータシトステロールテトラ酢酸エステルであるこ
とを確認した。
【実施例2】
【0034】
粗製ひまし油タンク壁面に析出付着する褐色物を集め、実施例1と同様に実験を行い、同
様に融点165〜166℃のベータシトステロールテトラ酢酸エステルを得た。
【実施例3】
【0035】
大豆油リン脂質粗製物からも同様の実験を行い、融点165〜166℃のベータシトステ
ロールテトラ酢酸エステル結晶を得た。例1の結晶と混合して融点測定し、同じ融点を示
した。
【実施例4】
【0036】
実施例1、実施例2及び実施例3で得た結晶をアルコール性アルカリ液で加水分解処理し
、白色粉体を得た。これら3種の粉体を加熱すると240℃から着色分解し始めた。分析
によりシトステロールグルコシドであることを確認した。
【実施例5】
【0037】
実施例1ー3で得られたステロールグルコシド酢酸エステル5gを大豆油100gととも
に120℃に加熱し、透明溶液を得た。
【実施例6】
【0038】
実施例4で得られたシトステロールグルコシド1gを大豆油100gとともに120℃に
加熱したが、殆ど溶解せず、0.95gが濾過回収された。
【実施例7】
【0039】
雄性Wistarラットを下記飼料で20日飼育し、血中コレステロール濃度を測定した

基本飼料配合:各成分の数字は重量部
カゼイン:20 大豆油:10 ミネラル:4 粗繊維:2 混合ビタミン:1 メチオ
ニン:0.3 塩化コリン:0.15 デンプン:62.55
上記の基本飼料中の大豆油にコレステロール、シトステロール、実施例1で得られた結晶
をそれぞれ、大豆油に対して0.5%添加し、各試験区の飼料とした。試験区の配合とコ
レステロ−ル濃度の結果を表1に示す。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステロールグルコシド酢酸エステルを含有し、血中コレステロ−ル濃度を低
減する作用を有する食品組成物。
【請求項2】
ステロールグルコシド酢酸エステルがステロールグルコシドテトラ酢酸エス
テルである請求項1の食品組成物。
【請求項3】
食品組成物が食用油脂である請求項2の食品組成物。
【請求項4】
食用油脂の鹸化価が220以上である請求項3の食用油脂。