説明

食品用酸化防止剤

本発明は食品、飼料、化粧品及び医薬品のための添加物又は補助物質、特に抗酸化作用を有する添加物及び抗酸化剤の技術分野に関する。本発明は、とりわけ食品、飼料、化粧品及び医薬品のための改善された酸化防止剤、並びにこの酸化防止剤を好ましくは唯一添加される抗酸化作用添加物として含む組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品、飼料、化粧品及び医薬品のための添加物又は補助物質、特に抗酸化作用を有する添加物及び抗酸化剤の技術分野に関する。本発明はとりわけ食品、飼料、化粧品及び医薬品のための改善された酸化防止剤、並びに好ましくは唯一添加される抗酸化作用を有する添加物としてこの酸化防止剤を含む食品、飼料、化粧品及び医薬品を提供する。
【背景技術】
【0002】
食品、薬剤又は化粧品のための抗酸化作用を有する添加物又は補助物質は周知である。これらの物質は、とりわけ食品、飼料、化粧品又は医薬品の製造又は貯蔵時に酸化に敏感な含有物が大気酸素又はその他の酸化作用物質と接触して生じる分解生成物の発生を抑制する。以下では、好ましくは食品や飼料だけでなく、動物及び人間の身体に適用可能なその他のすべての媒質や組成物、例えば化粧品及び医薬品をも意味するものとして、食品を取り上げる。食品添加物として、抗酸化剤は食品の貯蔵安定性又は老化安定性を改善する効果がある。抗酸化剤は場合によってはさらに治療及び/又は予防効果のある作用物質として働き、動物又は人間の身体でその効果を発揮し、そこで有害な酸化過程を抑制する。このような抗酸化剤の一例はアスコルビン酸(ビタミンC)である。アスコルビン酸とその塩は、例えばレモネード、マーマレード、コンデンスミルク又は肉製品に添加される。
【0003】
酸化防止剤は通常、酸化に敏感な物質と比較して低い濃度で存在し、その酸化を著しく遅らせ又は阻止する食品添加物又は補助物質である。酸化防止剤はそれ自体が還元剤であり、従って酸化過程の基質であるという性質のほかに、金属イオン、例えば酸化反応で触媒作用を有する二価鉄とキレートの形で結合する、及び/又は開始ラジカルの捕捉(スカベンジング又はクエンチング)又は中間ラジカルの捕捉(連鎖切断)によりラジカル連鎖反応を阻止するという特徴を有する。
【0004】
アスコルビン酸も含む多くの抗酸化剤は、食品に対して時として顕著に味を変えてしまう効果を有する。これは意図的に利用することができる。例えばアスコルビン酸はクエン酸を想起させる酸味を有する。通常、酸化防止剤の抗酸化作用はpH値に依存する。即ち、アスコルビン酸は酸の形態でのみ高い抗酸化作用を有する。ところが多くの食品で酸味は望ましくなく、又は例えば生乳製品で酸性環境を保つことは不可能である。また、幾つかの周知の酸化防止剤について動物又は人間の身体に対して健康上不利な影響が発見された。アスコルビン酸及び二酸化硫黄及びその塩(亜硫酸塩、重亜硫酸塩、二亜硫酸塩、亜硫酸水素塩)がこれに属する。
【0005】
さらに周知の酸化防止剤の多くは、還元作用が強すぎるため条件によっては食品の成分と望ましくない反応を生じる。
【0006】
多くの周知の酸化防止剤、例えばアスコルビン酸はそれ自体が酸化及び/又は光に対して非常に敏感であり、このことが技術的加工性を阻害する。
【0007】
そこで抗酸化作用があり、周知の酸化防止剤が有する欠点がないその他の物質を酸化防止剤として利用できるようにすることが必要である。
【0008】
本発明の別の観点は、醸造技術、とりわけ高い貯蔵性を有するビールの製造及びそのための手段に関する。ビールは自然の老化過程にさらされる、香味の不安定な食品として有名である。香味安定性は貯蔵が予定されるビールの重要な品質特性である。一般に、充填から消費に至るまでビールの当初の特徴を保持するという目標が追求される。老化過程は、とりわけビール含有物質の酸化分解及びその際発生するいわゆる「老化成分」によって特徴づけられる。これはビールの味を不都合に変化させる。酸化分解にとって重要なのは、発酵後及び充填時の酸素取込み量である。大気中の分子酸素は反応性の酸素形態、とりわけヒドロキシラジカルを生じる。ヒドロキシラジカルは、とりわけビール中に存在する成分、エタノール、遊離脂肪酸及びイソフムロンを酸化してアルデヒド及びケトンを生じる。またヒドロキシラジカルは他のラジカル形態への反応の開始ラジカルの役割をし、これからもアルデヒドが生じる。
【0009】
ビールは元来一連の還元作用を有する含有物を含み、これがこのような不利な酸化生成物の形成をある期間阻止する。ビールが有するこのいわゆる内因的抗酸化活性又は内因的抗酸化能力(EAP)は、ビールに若干の貯蔵安定性を付与する。ビールに含まれる抗酸化作用を有する含有物は、とりわけ二酸化硫黄、遊離フェノール、ポリフェノール又はキサントフモールである。これらの含有物の抗酸化能が尽きると、ビールの貯蔵期限の終了となる。従ってビールはそれ自体では限られた貯蔵性しか有しない。
【0010】
二酸化硫黄の一部は主発酵時に使用される発酵酵母によって生成される。ところが二酸化硫黄の生成は、発酵の推移及び使用される酵母株に依存する。二酸化硫黄によるビールの内因的抗酸化能を高めようとすれば、特定の発酵手順と特定の酵母を選択しなければならない。その場合、醸造技能を発揮する際の柔軟性が限られてしまう。
【0011】
ビール中のこのようなフェノール系物質の割合を高めるために、ビール製造で様々な技術的手段が用いられる。このような方法の一部は複雑であり、醸造成績を変えてしまう。また、醸造技能を発揮する際の柔軟性が限られてしまう。
【0012】
ビールに補足的に添加される周知の酸化防止剤の一つは二酸化硫黄である。これは、一般に長期貯蔵のため、例えば海外への輸出のために用意されたビールに添加される。二酸化硫黄はビールの香味を元来不都合に変化させるものである。その他の周知の酸化防止剤、例えばアスコルビン酸もまたビールの香味を不都合に変化させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明の課題は、味覚上の欠点及び周知の酸化防止剤に伴うその他の欠点を伴わずに、ビール、ビール混合飲料及び同様の醸造製品の内因的抗酸化能(EAP)を高めるための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の根底にある技術問題は、抗酸化作用成分としてイソマルツロース(パラチノース)を含む、とりわけ食品、飼料、化粧品及び医薬品で使用するための酸化防止剤又は酸化防止剤組成物を提供することによって解決される。本発明に基づく酸化防止剤は、唯一の抗酸化作用成分としてイソマルツロースを含むか、又はイソマルツロースを含むことが好ましい。本発明の一態様で、イソマルツロースは、イソマルツロースの他にイソマルツロースの抗酸化作用を相乗的に促進する少なくとも1つの他の成分を有する酸化防止剤組成物の一成分である。このような相乗効果はとりわけ酸化・触媒作用を有する金属イオンの錯体化又はキレート化に関連している。
【0015】
意外なことに、発明者は食品へのイソマルツロースの添加がその酸化安定性を著しく改善することを発見した。イソマルツロースは貯蔵安定性、老化安定性又は酸化安定性の改善のための効果的な食品補助物質として働く。イソマルツロースは、例えばビール又はビール様飲料のような食品で、その味覚劣化及び/又は健康阻害作用により貯蔵性を制限する酸化分解生成物、いわゆる老化成分の発生を効果的に阻止又は減少させる。イソマルツロースは酸化に敏感な食品成分、例えば着色料、調味料及び薬理作用物質、不飽和脂肪酸、とりわけω3及び/又はω6脂肪酸及びそれと同程度の脂肪酸について防御効果がある。定説にかかわりなく、イソマルツロースは意外なことに他の周知の還元糖、例えばグルコースと比較して著しく強く、従って効果的に活用できる抗酸化作用を示す。
【0016】
このようにして本発明は食品分野で既知の物質、イソマルツロースをとりわけ食品、化粧品及び薬剤のための酸化防止剤として使用するものである。イソマルツロースは製品に添加される唯一の酸化防止剤として使用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】インスタント飲料「チョコレートドリンク」のESR分光分析の測定曲線である。
【図2】イソマルツロースを含まないダイエットビール(バッチ2;比較バッチ)のBAX測定の曲線の経過である。
【図3】イソマルツロースを含むダイエットビール(バッチ1;本発明による)のBAX測定の曲線の経過である。
【図4】イソマルツロースを含む、及び含まないビールのシグナル強度の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
イソマルツロースは周知のようにスクロースのように使用することができる二糖である。イソマルツロースは、現在主として周知のスクロースを含む食品調製物でスクロースの代替品として使用される。その場合イソマルツロースは主要部を構成する(koerpergebendes)甘味料(「バルク物質」)として使用される。これに対して、本発明はイソマルツロースを抗酸化作用を有する食品補助物質又は添加物として使用するという別の教示を提示する。本発明はこのように別の技術的応用分野にあり、本発明によればイソマルツロースは、イソマルツロースの甘味作用及び/又は主要部を構成する成分としてのその機能が必要でない及び/又は用いられない組成物や食品でも使用することができる。また、本発明に基づくイソマルツロースの使用は、このように甘味品の分野及び/又は炭水化物含有食品の範囲外にある。例えば酪農品(チーズ、ヨーグルト等)あるいは油脂含有調理品(マーガリン、食用油等)のようなタンパク質及び/又は脂肪に富む食品がこれに属する。
【0019】
また本発明は、本発明に基づく酸化防止剤を含む食品、化粧品及び医薬品並びにこのような製品におけるイソマルツロースの酸化防止剤としての使用に関する。製品は、製品に添加される唯一の酸化防止剤としてイソマルツロースのみを含むことが好ましい。その場合、とりわけ相乗的にイソマルツロースの抗酸化効果を促進又は増進する少なくとも1つの別の成分をイソマルツロースに加えることが可能である。
【0020】
酸化防止剤としてイソマルツロースを含む本発明に基づく食品は、好ましくは下記から選ばれる:
i 乳加工品及び乳製品、例えばチーズ、バター、ヨーグルト、ケフィア、カッテージチーズ(Quark)、サワークリーム、バターミルク、クリーム、コンデンスミルク、粉ミルク、ホエー、乳糖、乳タンパク質、乳混合物、低脂肪乳、ホエーミックス又は乳脂肪の製品又は調理品;
ii プディング、クリーム、ムース及びその他のデザート;
iii 乳脂肪製品、混合脂肪製品、食用脂肪、食用油;
iv ベーカリー製品、例えばクッキー(Kleingebaeck)及びケーキ類(feinen Backwaren)を含むパン、保存ベーカリー製品、ビスケット製品(Keksprodukt)及びワッフル;
v スプレッド、特に脂肪含有スプレッド、マーガリン製品及びショートニング;
vi インスタント製品及びブイヨン製品(Brueherzeugnissen);
vii 果物製品又は調理品、例えばジャム、マーマレード、ゼリー、果物缶詰、果肉、果実ピューレ、果汁、濃縮果汁、フルーツネクター、フルーツパウダー;
viii シリアル、ミューズリー及びシリアル混合物、調理済みシリアル含有製品、例えばミューズリーバー及び朝食用製品
ix 元来無アルコールの飲料、飲料素材及び飲料粉末用ベース、ココア飲料、ココア飲料粉末;
x 元来アルコール性の飲料及び発酵製品、ワイン、ワイン混合飲料、ビール、ビール混合飲料、無アルコールビール又はビール混合飲料、低アルコールビール又はビール混合飲料;
xi 肉製品及びソーセージ製品;
xii 甘味品、例えばチョコレート、ハードキャラメル、ソフトキャラメル、チューインガム、ドラジェ、フォンダン製品、ゼリー製品、甘草、砂糖発泡製品、フレーク、ボンボン、打ち物菓子、砂糖漬け果実、クロカント、ヌガー製品、アイスキャンデー、マルチパン、アイスクリーム。
【0021】
もちろん、本発明は上記の食品から派生した食品、特にダイエット特別食にも関する。さらに本発明は、全く又は必ずしも人間の飲食を意図していないか、又は適さない食品にも関する。飼料、動物用食餌、ペットフード、ペットフード用予混合物、デンプン強化飼料、タンパク質強化飼料、脂肪強化飼料、強力飼料及び濃厚強力飼料がこれに属する。
【0022】
本発明に基づく酸化防止剤としてのイソマルツロースの応用の対象は、酸化に敏感で老化過程を生じる少なくとも1つの成分を含み、このため食品の貯蔵性が低下する食品である。本発明の物質または物質混合物は、それらの中でも特に食品の製造及び/又は貯蔵時に酸化分解を生じるものを意味する。この酸化分解は、好ましくは酸素含有成分との接触により、特に大気酸素との接触によって引き起こされる。また酸化分解は、食品又は食品組成物に含まれ、それ自体に酸化作用がある、その他の物質によって引き起こされることもある。例えば酸化性の酸、高い酸化状態の金属及びその化合物、酸化作用を有する保存剤及びその他の酸化作用を有する酸素、硫黄又はハロゲン化合物がこれに属する。酸化防止剤としてのイソマルツロースは、このような食品においてフリーラジカルに対する安定性も高め、フリーラジカルの生成を抑制する。
【0023】
本発明の好ましい対象は、好ましくはイソマルツロースを唯一の酸化防止剤として含む食品、及び乳製品又は乳混合製品、とりわけヨーグルトであり、酸化に敏感な成分として不飽和脂肪酸、とりわけω3脂肪酸、ω6脂肪酸及び/又は同様の脂肪酸を含む。意外なことに、酸化防止剤としてのイソマルツロースはω3脂肪酸及びω6脂肪酸の酸化分解を効果的に抑制することが示された。イソマルツロースを含む乳製品、特にヨーグルトでは、添加されたω3脂肪酸、ω6脂肪酸又はその他の酸化に敏感な成分(上記を参照)が長期間貯蔵しても僅かしか分解されない。
【0024】
本発明の別の好ましい対象は、好ましくはイソマルツロースを唯一の抗酸化剤として含む、特に好ましくは唯一添加された酸化防止剤として含む食品、ビール又はそれから改変された形態、例えばビール混合飲料、又は無アルコールもしくは低アルコールのビールもしくはビール混合飲料である。意外なことに、イソマルツロース含有ビールは特に高い貯蔵安定性を有することが示された。長期間貯蔵しても、老化に原因する不利な香味変化は許容範囲内に保たれる。イソマルツロースはビールの酸化に敏感な成分を安定化し、EAP値を高める。イソマルツロースは、貯蔵したビールのいわゆる「老化臭(Alterungeschmack)」の原因となる老化成分の早期の濃厚化を阻止する。イソマルツロースの存在によって効果的に抑制することができるビールの老化成分として、2-メチルブタナール、2-フルフラール、E-2-ノネナール、ニコチン酸エチルエステル及びγ-ノナラクトンが挙げられる。中でもしばしばビール老化の「マーカー」として知られている物質、トランス-2-ノネナール(E-2-ノネナール)が挙げられる。14日間の貯蔵後におけるイソマルツロース含有ビール中のその割合は、対照ビールに比して最大で20%に及ぶ減少を示した。
【0025】
一般に試料、例えば食品の酸化安定性はESR分光法(電子スピン共鳴分光法)により測定することができる。元来ビールの老化安定性の測定のために確立されたこの方法は、他の酸化に敏感な試料にも応用される。ESR分光法は試料の内因的抗酸化能力(EAP値)の測定のために利用される。これは、例えばビールの予想される貯蔵安定性を求めるために利用される。この方法は高い温度(通常60℃〜63℃)での試料の促進老化(強制試験)に基づく。ラジカル捕獲付加物の分光検出によって、試料のいわゆる「ラグタイム(遅れ時間)」が決定される。ESR分光法は試料の促進老化の過程における、試料中のラジカル生成の間接的検出である。試料に発生するラジカルは反応性が高く、水溶液中でたいていごく短い寿命しかない。拡散性のラジカルを吸着させることができるラジカル捕獲剤、いわゆる「スピントラップ」が使用される。そこから生じる安定なラジカル付加物は、そのスペクトル特性に基づきESR分光法により検出することができる。ある期間、いわゆる「ラグフェース(lag phase)」のあいだ、試料はその内因的抗酸化能力(EAP)に基づきラジカルの生成を阻止し又は遅らせることができる。試料の抗酸化能力が尽きると、ラジカル生成は妨げられることなく進行する。この時点をEAP値として補外する。次にESRスペクトルのシグナル強度の急速な上昇が続く。これは、大量に生成される「スピントラップ」付加物によるものである。
【0026】
食品、とりわけ飲料の老化安定性の決定における重要な基準はいわゆるBAX値である。BAX値は高ければ高いほどよい。飲料、特にビールへのイソマルツロースの添加は飲料のBAX値を著しく高める。
【0027】
食品、特にビールの老化安定性の決定のために、飲料、特にビールの還元能力がMEBAK(中欧ビール分析法委員会)によって決定される。ビールへのイソマルツロースの添加はビールの還元能力を高める。
【0028】
そこで、食品、飼料、化粧品及び医薬品、特に酸化に敏感な食品、飼料、化粧品及び医薬品、とりわけビール、ビール混合飲料、インスタント飲料及びインスタントココア飲料の老化安定性、酸化安定性及び/又は貯蔵安定性の改善のためのイソマルツロースの使用、特にビール又はビール混合飲料の香味を劣化させる老化成分の発生を減少させるためのイソマルツロースの使用も本発明の目的である。最後に、食品、特にヨーグルト等における酸化に敏感な着色料、調味料、薬理作用物質及び/又は不飽和脂肪酸、とりわけω3脂肪酸等の酸化を減少させるためのイソマルツロースの使用も本発明の目的である。
【実施例】
【0029】
以下の実施例と図に基づいて本発明を詳しく説明する。但しこれは限定的に解すべきでない。
【0030】
実施例1:乳製品中のω3脂肪酸の安定化
ヨーグルト基質に組み込まれたω3脂肪酸の酸化分解を抑制又は減少させるイソマルツロースの能力を調べた。
そのためにω3脂肪酸としてDHA CL(Lonza)を混入した全脂肪ヨーグルト(ヨーグルト、マイルド、脂肪3.5%、Milram)を使用した。下記のヨーグルト調製物を製造した。
バッチ1(本発明による):100gにつきイソマルツロース5g
バッチ2(本発明による):100gにつきイソマルツロース10g
バッチ3:100gにつきフルクトース5g
バッチ4:100gにつきフルクトース10g
バッチ5:100gにつきスクロース5g
バッチ6:100gにつきスクロース10g
【0031】
内部標準として、これらのバッチのそれぞれ240gにDHA-CL(Lonza)150mg及び飽和脂肪酸(C22:0)約40mgをUltraturraxを用いてそれぞれに混入した。すべての処置は保護的窒素雰囲気下で行った。
ヨーグルト調製物の製造直後にそれぞれブランク試料(Nullproben)を採取し、製造直後の調製物中のω3脂肪酸の回収率を測定した。
【0032】
ω3脂肪酸の測定のために、それぞれ0.85mlのヨーグルト調製物を試験管(Eppendorf)にピペットで入れ、秤量し、それぞれ1mlのtert-ブチルメチルエーテルを加え、激しく振とうした。約3分間の振とうの後に、試験管を13,000rpmで3分間遠心した。続いてそれぞれから200μlの透明な上清を取り出し、それぞれ100μlのTHMSを加えた。使用した脂肪酸の検出のために、周知のように最適化したガスクロマトグラフ(Aglient、6890型)に、それぞれ1μlのこの溶液を注入した。
すべてのブランク試料バッチで例外なく、当初使用したω3脂肪酸の97〜99%の回収率が認められた。
【0033】
製造したヨーグルト調製物を次に5℃で11日間貯蔵した。その際、若干の分離傾向が示された。そのため分析の前に調製物を再度激しく振とうし、これにより分離を肉眼的に原状に戻すことができた。ブランク試料について前述したように、試料をそれぞれガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0034】
表1は11日間の貯蔵期間の後の各ヨーグルト調製物のω3脂肪酸の回収率を示す。意外なことに、イソマルツロースを含む調製物(バッチ1及び2)はきわめて高い回収率を示し、当初使用したω3脂肪酸の95ないし97%の回収率が認められた。フルクトース又はスクロースを混合した対照試料は著しく低い回収率を示した。
【表1】

【0035】
ヨーグルト調製物のその後数週間の貯蔵は、初めの11日間の貯蔵で認められたω3脂肪酸の酸化分解を抑制するというイソマルツロースの効果を確証する。
【0036】
意外なことに、ケト−エノール(エンジオール)互変異性を介して還元糖として働くフルクトースは、高いモル濃度であってもイソマルツロースより著しく小さな防御効果しか有しないことが示される。イソマルツロースの驚くほど高い抗酸化作用は反応性アルデヒド基の存在だけに帰せられるものではない。発見された高い抗酸化作用に対して、一般にアルデヒド−糖類の還元活性(酸化還元電位)は非常に低いとみなされている。
【0037】
実施例2:インスタント飲料の安定化
酸化に敏感な成分を含むインスタント飲料の内因的抗酸化能力(EAP)、それとともに貯蔵安定性を調べた。そのために、ベースとしてそれぞれイソマルツロース又はスクロースを含む下記のインスタント飲料粉末配合表に従ってインスタント飲料を新たに調製した。
【0038】
次のインスタント飲料粉末バッチを調製した(データはそれぞれ重量%)。
バッチ1:「ドリンク・オレンジ」(本発明による)

バッチ2:「ドリンク・オレンジ」(比較例)

バッチ3:「チョコレートドリンク」(本発明による)

バッチ4:「チョコレートドリンク」(比較例)

これらのバッチはそれぞれ飲料粉末のように使用し、水に溶解した。その際完成インスタント飲料200mlにつき約7〜20gの飲料粉末を使用した。
【0039】
続いて各バッチに63℃で促進老化(強制試験)を行った。促進老化の間に、特別なスピントラップ試薬を使用して、従来周知のようにESR分光法により抗酸化能力(EAP値)を決定した。
【0040】
図1にインスタント飲料「チョコレートドリンク」のESR分光法の測定曲線を例示した。
【0041】
表2は種々の試験バッチ及び測定操作の中から飲料「チョコレート・ドリンク」の測定系列を列挙している。
【表2】

【0042】
イソマルツロースは、製造したインスタント飲料の酸化安定性を非常に改善した。
【0043】
バッチ1及び2のインスタント飲料「ドリンク・オレンジ」では一般に高いEAP値が認められた(約800min以上)。イソマルツロースを含む本発明のバッチ1は比較バッチ2に対してさらに高いEAP値を示す。
【0044】
実施例3:改善された香味安定性を有するビール
ビールの香味安定性への影響を試験するために、市販のダイエットビール(炭水化物をほとんど含まない)にイソマルツロースを混合し、比較試料とともに所定のビール老化を生じさせた。次の分析を行った。比較試飲、ビールの還元能の測定、ESRによる酸化安定性の測定及び老化成分のガスクロマトグラフィー測定。
【0045】
最初の試験バッチ(バッチ1)では本発明に基づき市販のダイエットビールに約2g/100mlのイソマルツロースを混合した。比較バッチとしてイソマルツロースを添加しない市販のダイエットビール(バッチ2)を使用した。
【0046】
バッチ1:イソマルツロースを添加した市販のダイエットビール(本発明による)

バッチ2:イソマルツロースを添加しない市販のダイエットビール(比較例)

すべてのバッチを28℃で2週間貯蔵した。
【0047】
試飲結果
28℃で2週間貯蔵した後の試飲の結果を表3に示す(n=10試飲者、理想値:評点5)
【表3】

【0048】
イソマルツロースを混合して貯蔵したビールは試飲において良好と判定された。匂いにはほとんど相違が感じられず、これに対して香味品質、豊潤味及び苦味品質には明瞭な相違がある。
【0049】
還元能力の測定
MEBAKの方法により、ビールの還元能力の測定を、タンノメーターによる分光測光法で周知のように行った。2,6-ジクロロインドフェノールの還元を1分間にわたって追跡する。
【表4】

【0050】
表4に結果を示す(二回測定の平均値)。イソマルツロースの添加は還元能を6ポイント上昇させる。MEBAKによれば、淡色ビール(helle Bier)で60(無次元数)以上の値は優良、45未満の値は不良とみなされる。イソマルツロースは使用した市販のダイエットビールの還元能力を高めるため、このビールを不良の分類から著しく引き上げることができる。従って、イソマルツロースの添加はビールの測定可能な品質を直接改善するのである。
【0051】
老化成分の測定
ある種の化学物質は、貯蔵したビールの老化臭の発生に関連がある。老化臭の原因物質(「老化成分」)を見出す必要がある。
2つのバッチを26℃で14日間貯蔵した。続いて老化成分を、クロマトグラフィーを用いて周知の方法で検出し、数量化した。
表5は26℃で14日間貯蔵した後にクロマトグラフィーにより測定した老化成分を示す。
【表5】

【0052】
3-メチルブタナールは変化がなく、ヘプタナールとメチオナールはいずれの試料でも検出可能な量で見出されず、従って変化もなかった。イソマルツロースの存在下では、多くの研究論文で決定的な老化パラメーターとみなされているトランス-2-ノネナール(E-2-ノネナール)を含む分析物質の多くは、生成量が著しく少なかった。老化成分の還元は9〜17%の範囲である。
【0053】
酸化安定性の測定
ビールの香味安定性の決定のための、一般に有意義であると認められているもう一つの分析法は、ESR(電子スピン共鳴分光分析)による試料の酸化安定性の測定である。Methner及びKunzの方法によりBAX値が決定される。ESRによるビールの酸化安定性の測定の際には、Methner及びKunzの方法(Methner及びKunz、2006年「ESR分光分析によるビールの酸化安定性の精密な予測(Genauere Prognosen zur oxidativen Bierstabilitaet mittels ESR-Spektroskopie)」、Brauerei Forum 2006: 7-9)によりBAX値が測定される。BAX(Beverage Antioxidant Index[飲料抗酸化指数])は次のように計算される:
BAX = ΔEAP値/ΔSO2含量[min l/mg]
【0054】
この場合、S02含量とESR測定のシグナル強度(ESR値)の間の線形関係は、ビールに特異的な内因性因子に依存する。この因子はビールごとに相違し、従って異なる曲線勾配を生じる。測定の間、試料に種々異なるSO2含量を配量し、生じる曲線からBAX値を計算する。BAX値は高いほどよい。最高絶対シグナル強度値が判定のために利用される。それは測定の間に酸化過程によって生成されるラジカル物質の尺度をなすからである。
【0055】
図2及び3はEAP分光測定で記録された曲線の経過を示す。曲線から表6に示すBAX値が計算された。
図2はイソマルツロースを含まないダイエットビール(バッチ2;比較バッチ)のBAX測定の曲線の経過を示す。
図3はイソマルツロースを含むダイエットビール(バッチ1;本発明による)のBAX測定の曲線の経過を示す。
【表6】

【0056】
本発明に基づき得られるBAX値は、イソマルツロースなしの比較試料の場合より良好である。測定されたシグナル強度の絶対最高値は、すべての試験系列でイソマルツロースなしのバッチに対して高い最終値を示した。このことは、イソマルツロースの存在下でビールに生じるラジカル酸化生成物が比較試料より全体として少ないことを意味する。図3は結果を示す。
図4はイソマルツロースを含む、及び含まないビールのシグナル強度の比較を示す。
【0057】
結果の要約
イソマルツロースの添加はビールの貯蔵安定性及び香味安定性に対して好ましい影響を及ぼす。2g/lの添加は比較的少ないと見られ、割合をより多くすると、その効果を強める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗酸化作用成分としてイソマルツロースを含む、食品、飼料、化粧品及び医薬品のための酸化防止剤。
【請求項2】
請求項1で特徴づけられた酸化防止剤を含む、食品、飼料、化粧品又は医薬品。
【請求項3】
食品に添加された唯一の抗酸化作用を有する補助物質としてイソマルツロースを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
不飽和脂肪酸から選択される少なくとも1つの酸化に敏感な成分を含む、請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
不飽和脂肪酸がω3脂肪酸及びω6脂肪酸から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
食品が
i 乳加工品及び乳製品、例えばチーズ、バター、ヨーグルト、ケフィア、カッテージチーズ、サワークリーム、バターミルク、クリーム、コンデンスミルク、粉ミルク、ホエー、乳糖、乳タンパク質、乳混合物、低脂肪乳、ホエーミックス又は乳脂肪の製品又は調理品;
ii プディング、クリーム、ムース及びその他のデザート;
iii 乳脂肪製品、混合脂肪製品、食用脂肪、食用油;
iv ベーカリー製品、例えばクッキー及びケーキ類を含むパン、保存ベーカリー製品、ビスケット製品及びワッフル;
v スプレッド、特に脂肪含有スプレッド、マーガリン製品及びショートニング;
vi インスタント製品及びブイヨン製品;
vii 果物製品又は調理品、例えばジャム、マーマレード、ゼリー、果物缶詰、果肉、果実ピューレ、果汁、濃縮果汁、フルーツネクター及びフルーツパウダー;
viii シリアル、ミューズリー及びシリアル混合物、調理済みシリアル含有製品、例えばミューズリーバー及び朝食用製品;
ix 元来無アルコールの飲料、飲料素材及び飲料粉末用ベース、ココア飲料、ココア飲料粉末;
x 元来アルコール性の飲料及び発酵製品、ワイン、ワイン混合飲料、ビール、ビール混合飲料、無アルコールビール又はビール混合飲料、低アルコールビール又はビール混合飲料;
xi 肉製品及びソーセージ製品;
xii 甘味品、例えばチョコレート、ハードキャラメル、ソフトキャラメル、チューインガム、ドラジェ、フォンダン製品、ゼリー製品、甘草、砂糖発泡製品、フレーク、ボンボン、打ち物菓子、砂糖漬け果実、クロカント、ヌガー製品、アイスキャンデー、マルチパン、アイスクリーム;
及びこれらから派生するダイエット特別食から選択される、請求項2〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
飼料が動物食餌、ペットフード、ペットフード用予混合物、デンプン強化、タンパク質強化又は脂肪強化飼料、濃厚飼料又は強力飼料である、請求項2〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ω3又はω6脂肪酸を含む乳製品、ヨーグルト又は乳混合製品である、請求項2〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
ビール、ビール混合飲料又は無アルコールもしくは低アルコールのビールもしくはビール混合飲料である、請求項2〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
食品、飼料、化粧品及び医薬品の老化安定性及び/又は貯蔵安定性の改善のためのイソマルツロースの使用。
【請求項11】
食品、飼料、化粧品及び医薬品の酸化安定性の改善のためのイソマルツロースの使用。
【請求項12】
食品、飼料、化粧品及び医薬品において味覚を劣化させる老化成分の発生を減少させるためのイソマルツロースの使用。
【請求項13】
食品、飼料、化粧品及び医薬品において不飽和脂肪酸の酸化を減少させるためのイソマルツロースの使用。
【請求項14】
食品が請求項2〜9で特徴づけられた組成物から選択される、請求項10〜13のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−528595(P2010−528595A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509704(P2010−509704)
【出願日】平成20年5月6日(2008.5.6)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003612
【国際公開番号】WO2008/145247
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(500175772)ズートツッカー アクチェンゲゼルシャフト マンハイム/オクセンフルト (47)
【Fターム(参考)】