説明

食品用防カビ剤

【課題】食品の製造時に添加することにより、パンやケーキのような粉体材料からの加工食品において優れた防カビ効果を有し、かつ、食品の風味や外観を損なわずに食品を製造することが可能な食品用防カビ剤を提供すること。
【解決手段】本発明の食品用防カビ剤は、食用油脂、エタノールおよび乳化剤を含有するW/O型乳化物からなる。好適には、乳化物が、エタノールを1〜50質量%の割合で含有する。例えば、パン類を製造する場合には、食品用防カビ剤を、小麦粉100質量部に対し、エタノールが0.5〜5.0質量部となる割合で添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用防カビ剤に関する。より詳細には、パン、ケーキなどの、粉体材料から生地を経て加工される食品用の防カビ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の防カビを目的として、食品に合成酢、醸造酢、有機酸または有機酸塩類、グリシン、プロピレングリコール、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウムなどを単独で、あるいは複数添加する方法は、従来からよく知られた方法である。しかし、これらの方法では、食品において味覚、風味、食感および防カビ性について十分な効果が得られない場合がある。
【0003】
また、アルコール(すなわち、エタノール)に微生物の増殖抑制や殺菌作用があることも知られている。例えば、食品をアルコール溶液に浸漬したり、食品表面にスプレーしたり、食品の包装時にアルコールと一緒に封入することによる食品の保存方法が知られている(例えば、特許文献1)。さらに、食品製造時にアルコールを添加・湿潤することによって防カビ効果が得られることも知られている。
【0004】
しかし、パンやケーキなどの小麦粉加工食品では、加工時に加熱(ベーキング)を要するため、防カビ効果を得るために多量のアルコールを添加する必要がある。そのため、食品の風味を著しく損なうことや、製造された食品のボリュームが低下し、外観が悪くなることなどが問題であった。さらに、製造時に多量のアルコールを添加すると生地ダレが起き、作業性が悪くなるという問題がある。例えば、従来、小麦粉加工食品(例えば、パン類)の製造においてエタノールを添加する場合には、小麦粉と水を混ぜる際にエタノールを添加し、その後ショートニングを添加していたため、防カビ効果を得るために多量のエタノールを添加すると生地ダレを生じ、作業性に問題がある。
【0005】
小麦粉加工食品の形状や風味を悪化させることなく、カビの発生を防止し得る方法としては、例えば、パンの製造時にユッカ抽出物とエタノールとを保存料として原料に添加する方法がある(特許文献2)。しかし、この方法では、着色や不快臭を減らすために活性炭処理などを行ったユッカ抽出物を用いることから、製造コストがかかるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭55−2273号公報
【特許文献2】特許第3948854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、食品の製造時に添加することにより、パンやケーキのような粉体材料からの加工食品において優れた防カビ効果を有し、かつ、食品の風味や外観を損なわずに食品を製造することが可能な食品用防カビ剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、食用油脂、エタノールおよび乳化剤を含有するW/O型乳化物からなる食品用防カビ剤を提供する。
【0009】
好ましい実施態様では、上記食品用防カビ剤は、上記乳化物中に上記エタノールを1〜50質量%の割合で含有する。
【0010】
好ましい実施態様では、上記食品はパン類または菓子類である。
【0011】
また、本発明は、食品素材に、上記食品用防カビ剤を添加する工程を含む、食品の製造方法を提供する。
【0012】
好ましい実施態様では、上記食品素材が小麦粉であり、上記食品用防カビ剤を、該小麦粉100質量部に対し、上記エタノールが0.5〜5.0質量部となる割合で添加する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の食品用防カビ剤は、食品素材に添加することにより、長期間にわたってカビの発育を抑制することができる。特に、パンやケーキなどの小麦粉加工食品において、非常に高い防カビ効果を奏する。また、アルコール臭による食品の風味低下、およびボリューム低下による外観損傷の少ない食品を製造することが可能である。さらに、本発明の食品用防カビ剤は、食用油脂、エタノールおよび乳化剤のみからなるため安全性が高く、低コストかつ簡易な方法で製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の食品用防カビ剤(製剤1)を種々のエタノール濃度になるように添加して製造した食パンに、カビ胞子としてAspergillus nigerを塗布し30℃で保存した場合の、3〜5日目のカビの発育の状態を示す写真である。
【図2】種々の配合の食品用防カビ剤(製剤1、3および5)をそれぞれエタノールが同濃度になるように添加して製造した食パンに、カビ胞子としてAspergillus nigerを塗布し30℃で保存した場合の、3〜5日目のカビの発育の状態を示す写真である。
【図3】種々の配合の食品用防カビ剤(製剤1、3および5)をそれぞれエタノールが同濃度になるように添加して製造した食パンに、カビ胞子としてPenicillium sp.を塗布し30℃で保存した場合の、3〜5日目のカビの発育の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の食品用防カビ剤は、食用油脂、エタノールおよび乳化剤を含有するW/O型乳化物からなる。
【0016】
本明細書において、食品用防カビ剤に含まれる各成分の量は、食品用防カビ剤中の質量の割合で示す。例えば、エタノール25質量%とは、食品用防カビ剤100g中に、エタノール25gを含有することをいう。また、食品への配合割合については、小麦粉100質量部に対する質量の割合で示す。例えば、食品用防カビ剤10質量部とは、食品中の小麦粉100gに対して、食品用防カビ剤10gを含有することをいう。したがって、食品中に、エタノール25質量%を含有する食品用防カビ剤を10質量部含有する場合、食品中のエタノール含有量は2.5質量部であり、これは、食品中の小麦粉100gに対し、エタノールを2.5g含むことをいう。
【0017】
本発明に用いる食用油脂は、特に限定されず、例えば、パーム油、菜種油、大豆油、綿実油、米ヌカ油、コーン油、ラード、ヘット、バターなどを適宜用いることができる。食用油脂は、1種類のみを用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。液状であっても固形であっても良いが、その扱いやすさから、固形の食用油脂(硬化油)を用いることが好ましい。また、これらの食用油脂を含有するショートニングを用いてもよい。本発明の食品用防カビ剤に含有される食用油脂の量は、乳化物中にエタノールを安定に乳化させ、乳化物にハンドリングに優れた硬さを付与する量であればよい。用いるエタノール量に依存するが、好ましくは、乳化物中に食用油脂を30〜70質量%の範囲で含有し、より好ましくは40〜60質量%の範囲で含有する。
【0018】
本発明に用いる乳化剤は、食用の乳化剤であれば特に限定されない。例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよびプロピレングリコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。乳化剤は1種類のみを用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。本発明の食品用防カビ剤に含有される乳化剤の量は、乳化物中にエタノールを安定に乳化させ得る量であればよい。用いるエタノール量に依存するが、好ましくは、乳化物中に乳化剤を0.1〜6.0質量%の範囲で含有し、より好ましくは1.0〜3.0質量%の範囲で含有する。
【0019】
本発明の食品用防カビ剤中に、エタノールは、乳化物中に安定に乳化され得る割合で含まれる。好ましくは、乳化物はエタノールを1〜50質量%の範囲で含有し、より好ましくは10〜40質量%、さらに好ましくは20〜30質量%の範囲で含有する。本発明の食品用防カビ剤は、乳化物中にエタノールを上記範囲で含有する場合に安定であり、ショートニングに近いハンドリング性を有する。本発明の食品用防カビ剤は、多量のエタノールを含有しているにもかかわらず安定であり、食品の製造時にショートニングと同様に扱うことができる。そのため、本発明の食品用防カビ剤を添加する場合には、小麦粉と水とを混ぜた後、ショートニングと同時に添加することが可能であり、生地ダレを生じることなく作業を行うことが可能となる。
【0020】
本発明の食品用防カビ剤は、食用油脂とエタノールとを乳化剤存在下で混和することにより製造される。食用油脂が液状の場合、例えば、食用油脂および乳化剤を混合し、必要に応じて加熱し、完全に溶解させた後、水およびエタノールを少しずつ添加し、攪拌して乳化させる。食用油脂が固形の場合、例えば、まず、食用油脂および乳化剤を混合して加熱し、完全に溶解させる。混合物を、50〜60℃を保ちながら、水およびエタノールを少しずつ添加し攪拌して乳化させ、5℃まで冷却して固化することにより、安定なW/O型乳化物となる。
【0021】
本発明の食品用防カビ剤は、種々の加工食品に適用可能であるが、特に、粉体材料から生地を経て加工される食品に好ましく用いられる。例えば、食パン・ロールパンなどのパン類、スポンジケーキ・マドレーヌ・蒸しパン・どら焼き・柏餅などの和洋菓子類、中華饅頭などの饅頭類、麺類、ワンタンや餃子の皮など、小麦粉を主原料とする各種加工食品の製造に用いることができる。これらの食品は、その水分量が比較的多いため、カビが発育しやすい。
【0022】
本発明の食品用防カビ剤を含有する食品において、防カビ効果を得るために必要なエタノールの量は、食品の種類や水分量などによって異なるが、食品中の小麦粉100質量部に対し、0.5〜5.0質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.5〜3.0質量部である。本発明の食品用乳化剤による防カビ効果は、食品中のエタノール含有量にのみ依存し、食品用乳化剤の種類や含有量は問わない。すなわち、最終的に食品中に含まれるエタノールの含有量が同一であれば、食品中に含まれる食品用乳化剤の含有量や、食品用乳化剤に配合される材料の種類や量が異なっていても、同様の防カビ効果を奏する。したがって、製造する食品の種類によって食品用防カビ剤の種類や含有量を適宜変更し、各食品に適した食品用防カビ剤とすることが可能である。
【0023】
本発明の食品用防カビ剤を用いて製造した食品のカビの発育は、従来法で製造した食品のカビと比較して有意に遅い。なお、本明細書において、防カビ性とは、食品におけるカビの発育のしにくさ、すなわち、カビの発生を遅延ないし阻止することをいう。
【実施例】
【0024】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例に使用した材料は、以下の通りである。強力粉はクイン(日本製粉株式会社製)、イーストは生イースト(株式会社カネカ社製)、イーストフードはカネプラスC(株式会社カネカ社製)、ショートニングはパールショートGZJ(株式会社カネカ社製)、乳化剤はSYグリスターCRS75(阪本薬品工業株式会社製)、エタノールは特定アルコール95度1級発酵(日本アルコール販売株式会社製)、硬化油はメルバ45(不二製油株式会社製)を使用した。その他の材料は、一般小売店から入手可能なものを使用した。
【0025】
(実施例1:防カビ用製剤の調製1)
ショートニング、硬化油および乳化剤を混合して60℃に加熱し、完全に溶解させた。混合物をホモミキサー(T.K.ホモミキサー、特殊機化工業株式会社製)にかけ、50〜60℃に保ちながら、水およびエタノールを少しずつ添加し各成分が所定の割合となった後、回転数7000rpmで3分間攪拌し、乳化させた。次いで、5℃まで冷却して固化し、製剤1〜9を調製した。各成分の割合は、表1に示す通りである。
【0026】
【表1】

【0027】
製剤1〜9は、いずれも均一に乳化していた。エタノールを高濃度(25質量%以上)に含有する製剤1〜4、7〜9においても分離や沈殿はなく、非常に安定であった。また、適度な硬さを有し、ハンドリング性に優れていた。なお、エタノールを60質量%含む製剤の調製を試みたが、均一に乳化されず、製剤化できなかった。このように、乳化製剤中にエタノールを1〜50質量%の範囲で含有させ得ることがわかった。
【0028】
(実施例2:食パンの製造)
食パンの製造は、中種法により行った。中種法とは、使用する小麦粉総量の2分の1以上、標準的には約70%と、イーストと、水とを一緒にミキシングして中種を作り、この中種を数時間発酵させたのち、これを残りの全原料に加えミキシングしパン生地を作る方法である。本実施例における中種の成分および含量を以下の表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
次いで、上記実施例1で調製した製剤1を用いて、表3に記載の割合で各成分を配合して本捏を行って食パン1〜7を製造した。食パン中のショートニングの全量が6.0質量部になるように調整した。各食パンの配合は、表2および表3に示す通りである。表中、( )内の数値は、製剤1に由来するショートニング、水およびエタノールの量を示す。食パンの製造工程を、以下の表4に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
(比較例1:食パンの製造)
比較として、製剤1を含まず、ショートニングを6.0質量部および12.5質量部含む食パン(食パンaおよびb)を製造した。各食パンの配合は、表5に示す通りである。
【0034】
【表5】

【0035】
(実施例3:防カビ試験1)
食パンについての防カビ試験を行った。防カビ効果を次の通りに評価した。
【0036】
食パンに塗布するためのカビ胞子として、2種類のカビ(Aspergillus nigerおよびPenicillium sp.)の胞子を用いた。まず、Tween80(0.05%(w/w))を含む生理食塩水にカビ胞子を懸濁し、血球計算盤を用いてカビ胞子が1×10個/gになるように調製した後、5℃で保管した。これを、カビ胞子がそれぞれ1×10個/gおよび1×10個/gになるように調製し、カビ胞子液とした。
【0037】
上記実施例2で製造した食パン1〜7および比較例1で製造した食パンaをスライスし、スライスした食パン表面を2区画に分け、左半分に1×10個/gに調製したカビ胞子液を、右半分に1×10個/gに調製したカビ胞子液を、それぞれ0.01mlずつ3点塗布した。これらを透明なビニール袋に入れて密封保存し、25℃または30℃の恒温器に入れて、経時観察を行った。結果を表6および7に示す。また、食パン4〜7について、カビ胞子としてAspergillus nigerを塗布し30℃で保存した場合の、3〜5日目のカビの発育の状態を示す写真を図1に示す。なお、表中の評価基準は、以下の通りである。
【0038】
(カビの発育状態の評価基準)
− :発育なし
± :菌糸が発育
+ :胞子形成
++:胞子を多量に形成
【0039】
【表6】

【0040】
【表7】

【0041】
エタノール0.25質量部を含む食パン1では食パンaとほぼ同じようにカビの発育が認められたのに対し、エタノール0.5質量部を含む食パン2および0.75質量部を含む食パン3では、食パンaよりも明らかにカビの発育が少なかった。これは、小麦粉100質量部に対し、0.5質量部以上のエタノールを含有することにより防カビ効果が得られることを示す。
【0042】
食パンaならびに食パン4および5は3日目でカビの発育が認められたのに対し、食パン6および7では、5日目になってもカビの発育が見られなかった。この結果から、食パン中に、小麦粉100質量部に対し2.5質量部以上のエタノールを含有することにより、常温にて5日間以上の防カビ効果が持続することがわかった。したがって、エタノールを、小麦粉(強力粉)100質量部に対し、0.5〜3.0質量部含むことにより、優れた防カビ効果を奏することがわかった。
【0043】
(実施例4:防カビ試験2)
食品用防カビ剤の成分の配合比の違いによる防カビ効果を検討した。防カビ効果の評価は、上記実施例3と同様にして行った。
【0044】
上記実施例1で調製した製剤1、3および5を、表8に記載の割合で添加し、ショートニングを追加して、食パン中のショートニングの全量が6.0質量部または12.5質量部になるように調整した。比較として、乳化製剤を含まず、ショートニングを6.0質量部または12.5質量部含む、上記比較例1で製造した食パンaおよびbを用いた。各食パンの配合は、中種は上記表2に、本捏は表8に示す通りである。結果を表9に示す。また、食パン8〜10について、カビ胞子としてAspergillus nigerおよびPenicillium sp.を塗布し30℃で保存した場合の、3〜5日目のカビの発育の状態を示す写真をそれぞれ図2および3に示す。
【0045】
【表8】

【0046】
【表9】

【0047】
表9に示すように、食パン8〜10はすべて、5日目になってもカビの発育が見られなかった。この結果から、防カビ用製剤の配合および含有量にかかわらず、食パン中に、小麦粉100質量部に対し、2.5質量部以上のエタノールを含有することにより、5日間以上の防カビ効果が得られることがわかる。
【0048】
(実施例5:製パン性評価)
食品用防カビ剤の製パン性への影響を検討した。食パンの製造は、上記実施例2と同様に表4に示す製造工程で行い、作業中の生地の扱いやすさおよび焼成後のボリュームを、5点満点で評価した。食パンの配合は、中種工程は上記表2に、本捏工程は表10に示す通りである。なお、食パンeは、エタノールに代えて、エタノール1.0質量部相当量と同等の防カビ効果を有する酢酸ナトリウム0.5質量部を含有させたものである。評価結果を、15名のパネラーによる評価の平均値として表11に示す。なお、評価基準は、以下の通りである。
【0049】
(作業性の評価基準)
5:生地ダレがなく扱いやすい(エタノールを含まない食パンと同程度)
4:生地ダレが少なく扱いやすい
3:生地ダレがあるが作業可能
2:生地ダレがあり扱い難い
1:生地ダレが多く扱い難い
【0050】
(焼成後のボリュームの評価基準)
5:ボリュームが大きい(エタノールを含まない食パンと同程度)
4:ボリュームがやや大きい
3:ボリュームがやや小さい
2:ボリュームが小さい
1:ボリュームが非常に小さい
【0051】
【表10】

【0052】
【表11】

【0053】
表11に示すように、エタノールを直接添加したものよりも、製剤として含有させたものの方が作業性が良く、焼成後のボリュームも良好であった。また、酢酸ナトリウムを添加したものは、作業性、ボリュームのいずれにおいても、エタノールを添加したものよりも劣っていた。この結果から、本発明の乳化製剤としてエタノールを含有させることにより、作業性の悪化や焼成後のボリューム低下を抑制できることがわかる。
【0054】
(実施例6:官能試験)
食品用防カビ剤の味および香りへの影響を検討した。上記製パン性評価において製造した食パンを、そのまま、およびトーストして試食し、味および香りを5点満点で評価した。評価結果を、15名のパネラーによる評価の平均値として表12に示す。なお、評価基準は、以下の通りである。
【0055】
(味および香りの評価基準)
5:非常に良好(エタノールを含まない食パンと同程度)
4:良好
3:普通
2:やや不良
1:不良
【0056】
【表12】

【0057】
表12に示すように、エタノールを直接添加したものよりも、製剤として含有させたものの方が味、香りともに良好であった。特に、製剤をエタノール1.0質量部相当の割合で含有させた食パンは、エタノールを含まない食パンと比較しても、味、香りともに全く劣ることがなかった。また、酢酸ナトリウムを添加したものは、味、香りのいずれにおいても、エタノールを添加したものよりも劣っていた。この結果から、食パンに、本発明の乳化製剤としてエタノールを含有させることにより、食パンの味や香りの低下を抑制できることがわかる。なお、本発明の乳化製剤をエタノール2.5質量部相当の割合で含有させた食パン12は、エタノールを含まない食パンaよりも味および香りがわずかに低下しているが、エタノール臭はパン本来の発酵臭に類似しているため、食した場合に不快な臭いおよび味は感じられなかった。
【0058】
(実施例7:防カビ用製剤の調製2)
表13に示す割合で、種々の製剤を製造した。いずれも均一に乳化しており、分離や沈殿はなく、非常に安定であった。
【0059】
【表13】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の食品用防カビ剤は、食品素材に添加することにより、長期間にわたってカビの発育を抑制することができる。特に、パンやケーキなどの小麦粉加工食品において、非常に高い防カビ効果を奏する。また、アルコール臭による食品の風味低下、およびボリューム低下による外観損傷の少ない食品を製造することが可能である。さらに、本発明の食品用防カビ剤は、食用油脂、エタノールおよび乳化剤のみからなるため安全性が高く、低コストかつ簡易な方法で製造が可能である。また、生地ダレもなく、生地と均一に混合しやすいなど、作業性も良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂、エタノールおよび乳化剤を含有するW/O型乳化物からなる、食品用防カビ剤。
【請求項2】
前記乳化物が、前記エタノールを1〜50質量%の割合で含有する、請求項1に記載の食品用防カビ剤。
【請求項3】
前記食品がパン類または菓子類である、請求項1または2に記載の食品用防カビ剤。
【請求項4】
食品素材に、請求項1〜3のいずれかの項に記載の食品用防カビ剤を添加する工程を含む、食品の製造方法。
【請求項5】
前記食品素材が小麦粉であり、前記食品用防カビ剤が、該小麦粉100質量部に対し、前記エタノールが0.5〜5.0質量部となる割合で添加される、請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−41490(P2011−41490A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190521(P2009−190521)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】