説明

食品用静菌剤

【課題】食品の風味を損なわず酸味が抑制された食品用静菌剤を提供すること。
【解決手段】酵母エキスを乳酸菌で発酵させて得られる、酵母エキス固形分あたり7.5(w/w)%以上の乳酸を含む乳酸発酵酵母エキスと、酸類を含有することを特徴とする食品用静菌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸味が抑制された食品用静菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加工食品を製造する際、食品の保存性を向上させるために様々な静菌剤が用いられている。中でも有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩などの酸類を配合した食品用静菌剤が一般的に用いられている。しかし、これらの酸類を配合した食品用静菌剤は、食品用静菌剤の添加量および食品用静菌剤を添加する食品の種類によっては酸味を感じ、食品の風味が損なわれることがあった。そこで、酸味を抑制した食品用静菌剤が求められていた。
【0003】
食品用静菌剤の酸味を抑制する従来技術としては、有機酸を主剤とする食品保存料及びクルクリンからなることを特徴とする調理加工食品用日持ち向上剤(先行文献1参照)、乳酸、クエン酸およびリンゴ酸ならびにこれらの塩から選ばれる一種以上の有機酸類と糖アルコール類とを有効成分として含有することを特徴とする日持向上剤(先行文献2参照)などが開示されている。しかし、上記従来技術では一長一短があり、さらに良い方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−250659号公報
【特許文献2】特開2006−121994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、食品の風味を損なわず酸味が抑制された食品用静菌剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、食品用静菌剤に乳酸発酵酵母エキスを添加することにより上記課題を解決すること見出した。本発明者らは、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)酵母エキスを乳酸菌で発酵させて得られる、酵母エキス固形分あたり7.5(w/w)%以上の乳酸を含む乳酸発酵酵母エキスと、酸類を含有することを特徴とする食品用静菌剤、
(2)上記(1)の食品用静菌剤を含有することを特徴とする食品、
からなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の食品用静菌剤は、菌増殖抑制効果を維持し、食品の風味を損なわず酸味を抑制し、まとまりのある味にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられる乳酸発酵酵母エキスに使用される酵母エキスとしては、ビール酵母、パン酵母またはトルラ酵母などの公知の酵母を原料として、公知の方法によりエキスを抽出して製造されたものが用いられ、食用、薬用または培地などに用いられるものであっても良い。本発明では、市販品の酵母エキスを用いてもよいし、上記の酵母を原料として公知の方法で製造した酵母エキスを用いてもよい。市販品の酵母エキスとしては、バーテックス(富士食品工業社製)、アロマイルド(興人社製)、ミーストS(アサヒフードアンドヘルスケア社製)、コクベース(大日本明治製糖社製)、SK酵母エキス(日本製紙ケミカル社製)、ギステックス(DSM社製)、KAV(Ohly社製)などを使用することができる。とりわけパン酵母を原料とする酵母エキスは、安価かつ安定的に入手できるので好ましい。酵母エキスの形状は特に限定されず、液状、ペースト状、粉体など、いずれも使用することができる。
【0009】
酵母エキスの製造方法としては、一般に、自己消化法(酵母菌体内に本来あるタンパク質分解酵素などを利用して菌体を可溶化する方法)、酵素分解法(微生物や植物由来の酵素を添加して可溶化する方法)、熱水抽出法(熱水中に一定時間浸漬して可溶化する方法)、酸またはアルカリ分解法(種々の酸またはアルカリを添加して可溶化する方法)、物理的破砕法(超音波処理や、高圧ホモジェナイズ法、グラスビーズなどの固形物と混合して混合・磨砕することにより破砕する方法)、凍結融解法(凍結・融解を1回以上行うことにより破砕する方法)などが知られているが、これらに限定されず、いずれの方法を用いて製造された酵母エキスも用いることができる。
【0010】
上記乳酸菌としては、酵母エキスを発酵して乳酸を生産する能力を有する限り特に限定されないが、例えばLactobacillus属またはLeuconostoc属に属する微生物であり、飲食品の添加に適した風味を有するという観点から、具体的にはLactobacillus plantarum、Lactobacillus pentosus、Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus delbrueckii subsp. lactisなどが好ましく、Lactobacillus plantarumが特に好ましい。これらの乳酸菌は単独または任意の組み合わせで用いることができる。
【0011】
乳酸発酵酵母エキスは、酵母エキスを乳酸菌で発酵して乳酸が生産され、酵母エキス固形分あたりの乳酸含有量が7.5(w/w)%以上となるまで十分に発酵することにより得られる。得られた乳酸発酵酵母エキスの乳酸含有量は、酵母エキス固形分あたり7.5(w/w)%以上、好ましくは約15(w/w)%以上、例えば約20(w/w)%程度である。なお、酵母エキスの濃縮度にもよるが、通常酵母エキス固形分あたりの乳酸含有量が約40(w/w)%を超えると、乳酸由来の酸味によって味のバランスが悪い乳酸発酵酵母エキスとなるため、乳酸含有量は酵母エキス固形分あたり約40(w/w)%以下であることが好ましい。例えば、乳酸発酵酵母エキスは、酵母エキス固形分あたり、約7.5〜40(w/w)%、好ましくは約15〜30(w/w)%の乳酸を含有する。
【0012】
ここで酵母エキス固形分とは、酵母エキスを乳酸菌で乳酸発酵した後の乳酸発酵酵母エキスの固形分を意味する。そして酵母エキス固形分あたりの乳酸含有量とは、乳酸発酵によって生産された乳酸と、酵母エキス中にもともと含まれる乳酸をも含めた量をいう。また、例えば粉末状の乳酸発酵酵母エキスにおいては、粉化助剤としてデキストリンや乳糖などを配合することがあるが、この場合、本発明における酵母エキス固形分とは、粉化助剤など乳酸発酵酵母エキス以外の成分に由来する固形分を含まない酵母エキス固形分のことを指す。例えば、粉化助剤が全体の20(w/w)%配合された粉末乳酸発酵酵母エキスの乳酸含量が粉末乳酸発酵酵母エキス全量に対し10(w/w)%、水分含量が0(w/w)%の場合、酵母エキス固形分あたりの乳酸含量は12.5(w/w)%である。
【0013】
酵母エキス固形分量は、蒸発乾固法により求めることができる。具体的には、乳酸発酵酵母エキスに海砂を適量混合し、110℃程度で水分が蒸発するまで加熱し、残った固形物の質量%を測定する。より簡便には、示差屈折計を用いたBrix値で代用することが可能である。一般的には、液状の乳酸発酵酵母エキスの酵母エキス固形分は約45〜65(w/w)%、ペースト状の乳酸発酵酵母エキスの酵母エキス固形分は約70〜95(w/w)%、粉末状の乳酸発酵酵母エキスの酵母エキス固形分は約50〜99(w/w)%である。
【0014】
酵母エキスを乳酸菌で発酵させる際、酵母エキスを含有する培養液(発酵前液ともいう)に乳酸菌を接種して乳酸発酵を行うことが好ましい。酵母エキスを含有する培養液としては、酵母エキスと水を主成分として含有する発酵前液、または酵母エキス、糖源および水を主成分として含有する発酵前液を使用することが好ましい。上記のような簡易な構成からなる発酵前液を使用すればよいので、安価かつ簡便に乳酸含有酵母エキスを得ることができる。また、上記の培養液には、窒素源、糖以外の炭素源、各種無機イオン、ビタミン類、抗生物質など、通常乳酸菌の発酵の際に培養液に添加され得る各種成分を添加してもよい。なお、乳酸菌の種類などにもよるが、生育を良好に行わせるために、塩の含量が少ない培養液を使用してもよい。
【0015】
具体的には、原料となる酵母エキスを固形分として5〜40質量%程度、好ましくは約20〜30質量%含むよう、酵母エキスを水などで希釈して発酵前液を調製する。発酵前液に糖源を添加する場合、乳酸菌が資化可能な糖源を、培養開始時の濃度が約2〜6質量%程度、好ましくは約3〜4質量%程度となるように添加する。
【0016】
なお、前記発酵前液に添加される糖源は、乳酸菌が資化できるものであれば特に限定されず、例えば、グルコース、スクロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、マルトースなどが挙げられ、これらを含有する液糖類、果汁類、野菜類、蜂蜜などであってもよい。これらの中でも、乳酸菌の発酵性からみて、グルコースまたはグルコースを含む液糖類が好ましい。これら糖源は、単独または組み合わせて添加することができる。
【0017】
前記発酵前液の各成分を均一に溶解した後、該発酵前液を加熱殺菌し、次いで冷却後、乳酸菌を接種する。加熱殺菌は通常約70〜130℃で行われ、冷却は通常約25〜35℃になるまで行われる。殺菌前にpH調整剤を用いて、発酵に適したpH、好ましくはpH5.0〜7.0に調整することもできる。pH調整剤としては水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。
【0018】
発酵は、例えば、スターターを発酵前液に対し0.0001〜1質量%程度接種し、定法に従って行う。スターターは、発酵に用いる乳酸菌を、公知の培地を用いて定法に従って培養して調製することができる。発酵温度は、菌種によっても多少異なるが、20〜40℃程度であり、乳酸を効率よく生産させるという観点から好ましくは25〜35℃程度であり、特に好ましくは30℃付近で培養する。通常、静置発酵で行われるが、発酵液の温度分布を均一化する目的や菌体の沈殿を制御する目的で緩慢な攪拌を行ってもよい。発酵中、乳酸生産に伴ってpHが低下するため、上記のpH調整剤を用いてpHを5.0〜7.0程度に維持しながら培養してもよい。培養は好気培養、嫌気培養のいずれでもよい。
【0019】
発酵時間は酵母エキスの濃度やその他配合成分に応じて適宜設定することができ、所望の量の乳酸が生産される限り特に限定されないが、通常約18〜150時間、好ましくは約96〜144時間、さらに好ましくは約120〜144時間である。生成する乳酸量を目安に、最終的に得ようとする乳酸含有酵母エキスとして適した発酵液となるように、発酵の終点を適宜定めることができる。乳酸量は、定法に従って、例えば、乳酸オキシダーゼまたは乳酸デヒドロゲナーゼを用いた酵素電極法や、液体クロマトグラフ法により定量することができる。一例において、培養液中の酵母エキス固形分量が25(w/w)%程度の場合、生産される乳酸により、培養液のpHが3.5〜4.5程度となった時点で発酵を終了することができる。発酵の終点の決定に際しては、乳酸菌の発酵によって生成される乳酸以外の成分の量も考慮することができる。
【0020】
上記のように、乳酸菌の発酵によって得られた乳酸発酵酵母エキスを、食品製造に使用可能な任意のpH調整剤でpH調整することができる。調整後のpHは4.5〜7.0が好ましく、pH4.5〜6.0がより好ましい。pHが低すぎると、酸味が強くなり、逆に高すぎると苦味が感じられるようになり、乳酸発酵酵母エキスの品質が低下する。
【0021】
本発明に用いられる乳酸発酵酵母エキスは、所望により、酵母エキス固形分濃度を高めるために濃縮してもよい。濃縮方法は特に限定されるものではなく、例えば、常圧加熱濃縮、減圧加熱濃縮、冷凍濃縮などの公知の濃縮方法が採用できる。さらに、乾燥処理することにより、取り扱いの容易な粉末状の乳酸発酵酵母エキスを得ることもできる。乾燥処理する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、凍結乾燥法、スプレードライ法、ドラムドライ法などの公知の方法が採用できる。
【0022】
上述のように濃縮または粉末化した乳酸発酵酵母エキスのpHは、濃縮または粉末化前の液体の状態で測定したpHで判断することができる。また、濃縮または粉末化した乳酸発酵酵母エキスを、例えば酵母エキス固形分が25(w/w)%程度になるよう蒸留水に溶解して測定したpHで判断することもできる。
【0023】
本発明の食品用静菌剤は、食品に添加した際の静菌効果を得るために酸類を含有する。本発明で用いられる酸類としては、食品に使用可能なものであり菌増殖抑制効果があれば良く、例えば有機酸およびその塩類、無機酸およびその塩類などが挙げられる。
【0024】
上記有機酸としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、酒石酸、乳酸、酢酸、フマル酸、蓚酸、リンゴ酸、コハク酸、ソルビン酸、またはプロピオン酸などが挙げられる。また有機酸の塩類としては、食品添加物として認可されている上記有機酸のナトリウム塩またはカリウム塩などが挙げられる。その中でも酢酸、フマル酸、乳酸、クエン酸、アジピン酸およびその塩類が菌増殖抑制効果の点で好ましい。これら有機酸および/またはその塩類は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記無機酸としては、例えば、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸またはリン酸などが挙げられる。また無機酸の塩類としては、例えば、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウムまたはリン酸二水素ナトリウムなどが挙げられる。その中でもポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウムが菌増殖抑制効果の点で好ましい。これら無機酸およびその塩類は1種または2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明の食品用静菌剤に含まれる乳酸発酵酵母エキスと酸類の比率としては、酸類100質量部に対し乳酸発酵酵母エキス中の酵母エキス固形分が約1〜10質量部が好ましく、約2〜6質量部がさらに好ましい。また、本発明の食品用静菌剤に含まれる酸類の配合量に特に制限はなく、例えば、約15〜95質量部が好ましく、約30〜90質量部がさらに好ましい。
【0027】
本発明の食品用静菌剤の形状に特に制限はなく、固体、液体などいずれの形態でもよいが、ハンドリング性、保存性を考慮すると固体、特に粉末状のものが好ましい。
【0028】
本発明の食品用静菌剤は、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の物質、例えば、賦形剤(ブドウ糖、果糖などの単糖類、ショ糖、乳糖、麦芽糖などのオリゴ糖類、デキストリン、粉末水飴などのでん粉分解物、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースなどのマルトオリゴ糖類、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、粉末還元水飴などの糖アルコール類または乳清蛋白質など)、粉質改良剤(第三リン酸カルシウム、二酸化珪素など)などを配合しても良い。
【0029】
本発明の食品用静菌剤は、保存性向上の対象となる食品に配合して用いられる。食品用静菌剤の食品への添加量としては、食品の種類、食品の初菌数、目的とする保存期間などによっても異なるが、食品100質量部に対して、好ましくは約0.01〜10質量部、より好ましくは約0.1〜5質量部である。
【0030】
本発明の食品用静菌剤の使用方法に特に限定はなく、公知の食品用静菌剤と同様に用いることができる。例えば、食品用静菌剤を食品に均一に混合する方法、食品用静菌剤を水や調味液に溶解し食品を浸漬し所望によりさらにボイルする方法、食品用静菌剤を水に溶解し食品に噴霧する方法などいずれの方法であっても良い。
【0031】
本発明の食品用静菌剤を添加する食品に特に制限はなく、例えば、ハンバーグ、コロッケ、ホワイトソース、ポテトサラダ、煮物など保存性の向上が求められるあらゆる加工食品が挙げられる。
【0032】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するものであって、本発明を限定するものではない
【実施例】
【0033】
<乳酸発酵酵母エキスの作製>
[乳酸発酵酵母エキスA]
蒸留水に、酵母エキス(商品名:ギステックス;DSM社製、固形分:74%)が固形分として25(w/w)%、およびブドウ糖果糖液糖(商品名:NF42 ニューフラクトR−O:昭和産業社製)が4(w/w)%となるように加え、溶解して発酵前液を作製した。その発酵前液にLactobacillus plantarum(FERM P−21349)を発酵初発の菌数が1.0×10cfu/mLとなるように添加し、30℃、144時間発酵して発酵液を得た。次いで、発酵液を水酸化カリウムでpH6.0になるように調整した後、乾燥後の酵母エキス固形分が60(w/w)%になる様に粉末化助剤(商品名:パインデックス#2;松谷化学工業社製、デキストリン)を添加してスプレードライ法で粉末化して乳酸発酵酵母エキスAを得た。
得られた乳酸発酵酵母エキスAに含まれる乳酸は、乳酸発酵酵母エキスA1.25g(酵母エキス固形分:0.75g)を蒸留水に溶解・分散して250mLとした後に遠心分離(3000rpm、15分間)により不溶成分を除き、バイオセンサーBF5(型式;王子計測社製、酵素電極法)を用いて、L乳酸およびD乳酸の量を測定した。L乳酸、D乳酸の合計量を酵母エキス固形分で除して酵母エキス固形分あたりの乳酸の比率を求めたところ、酵母エキス固形分あたりの乳酸含有量は20.9(w/w)%であった。
【0034】
[乳酸発酵酵母エキスB〜D]
乳酸発酵酵母エキスAの作製において、Lactobacillus plantarum(FERM P−21349)をLactobacillus brevis(NRIC1038)、Lactobacillus bulgaricus(NRIC1041)、Lactobacillus casei(NRIC0644)に替えた以外は同様の操作を行い、乳酸発酵酵母エキスB〜Dを得た。乳酸発酵酵母エキスB〜Dの使用乳酸菌、発酵条件、酵母エキス固形分あたりの乳酸含有量をまとめて表1に示す。
【0035】
[乳酸発酵酵母エキスE〜G]
乳酸発酵酵母エキスAの作製において、発酵時間を144時間から48時間、24時間、18時間に替えた以外は同様の操作を行い、乳酸発酵酵母エキスE〜Gを得た。乳酸発酵酵母エキスE〜Gの使用乳酸菌、発酵条件、酵母エキス固形分あたりの乳酸含有量をまとめて表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
<食品用静菌剤の作製>
(1)原材料
酢酸ナトリウム(商品名:酢酸ナトリウム;大東化学社製)
クエン酸(商品名:クエン酸(無水);磐田化学工業社製)
DL−リンゴ酸(商品名:リンゴ酸フソウ;扶桑化学工業社製)
グリシン(商品名:グリシン;有機合成薬品工業社製)
デキストリン(商品名:パインデックス#2;松谷化学工業社製)
乳酸発酵酵母エキスA〜G(試作品)
酵母エキスパウダー(商品名:アロマイルド;興人社製)
粉末乳酸(商品名:粉末乳酸F;武蔵野化学研究所社製、乳酸/乳酸カルシウム/二酸化ケイ素=60%/38%/2%)
【0038】
(2)配合
上記原材料を用いて作製した食品用静菌剤(実施例品1〜10、比較例品1〜9)の配合組成を表1に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
(3)食品用静菌剤の作製
上記表2の1倍量の原材料を用いて下記方法にて作製した。
1Lポリ袋に原材料を加え、袋の口を縛り手で3分間撹拌して均一に混合し、食品用静菌剤(実施例品1〜10、比較例品1〜9)を各約100g得た。
【0041】
<ホワイトソースを用いた食品用静菌剤の評価>
(1)試験区1〜20の作製
粉末ホワイトソース(製品名:ホワイトソース;理研ビタミン社製)30gを牛乳270gに加え、ゴムベラで撹拌しながら加熱し、沸騰後弱火で2分間煮込んでホワイトソースを作製した。得られたホワイトソース100gと各食品用静菌剤(実施例品1〜10、比較例品1〜9)0.6gを200mlビーカーに加え均一になるようにスパチュラで撹拌して試験区品1〜20のホワイトソースを得た。また、食品用静菌剤を加えないものを試験区品20のホワイトソースとした。
【0042】
(2)官能評価方法
得られた試験区品1〜20のホワイトソースについて、酸味の抑制効果を官能にて評価した。官能評価は、下記表3に示す評価基準に従い10名のパネラーでおこなった。結果はそれぞれ10名の評点の平均値として求め、下記基準にて記号化した。結果を表4に示す。

記号化
◎: 3.5以上
○: 2.5以上〜3.5未満
△: 1.5以上〜2.5未満
×: 1.5未満
【0043】
【表3】

【0044】
(3)菌増殖抑制効果確認方法
得られた試験区品1〜20のホワイトソースについて、作製直後の初菌数、15℃で保管した24時間後、48時間後、72時間後の一般生菌数を測定した。一般生菌数の測定方法は、公定法(食品衛生検査指針)に準じて行った。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

結果より、乳酸発酵酵母エキスと酸類を含有する食品用静菌剤である実施例品を添加したホワイトソースは、菌増殖抑制効果を維持し、酸味を抑制することができた。一方、比較例品を添加したホワイトソースは、酸味を抑制することはできなかった。
また、官能評価する際、乳酸発酵酵母エキスと酸類を含有する食品用静菌剤である実施例品を添加したホワイトソースは、静菌剤に由来する味のエグ味が抑制され、なめらかなまとまりのある味となった。一方、比較例品を添加したホワイトソースは、なめらかなまとまりのある味にはならなかった。
【0046】
<ハンバーグを用いた食品用静菌剤の評価>
(1)ハンバーグの作製(試験区21〜26)
0℃冷蔵庫に保存しておいた牛肉(脂肪量30%)、豚ウデ挽肉(脂肪量25%)をそれぞれミートチョッパー(型式:MEAT CHPPER M−22;南常鉄工社製)を使用し、6mm目でチョッピングした。得られた牛チョッピング肉630g、豚チョッピング肉262.5gに対し、食塩7.5g、砂糖4.5g、グルタミン酸ナトリウム1.5g、黒コショウ2.3gを混入しながらミキサー(型式:縦型ミキサーマイティー60;愛工舎製作所社製)で約1分間練り合わせた。さらに、水125gに対し、粒状植物タンパク(商品名:ベジテック310;不二製油社製)37.5g、パン粉60gを混合しておいたもの、全卵10g、でんぷん(商品名:MT−01;日本食品化工社製)30g、脱脂粉乳15gを混入しながらミキサーで約1分間練り合わせた。その際、原材料の品温が10℃以下に保たれるよう注意した。得られたハンバーグ生地200gに各食品用静菌剤(実施例品10、比較例品6〜9)を1.6g加え、さらに均一になるようにミキサーで1分間混練りした後に40gを秤量し、小判型に形を整え、ホットプレート(型式:TIGER CPY−A131;タイガー魔法瓶社製)にて180℃で両面1分焼成した後、ガスレンジオーブン(型式:MARUZEN MGRX−096D;マルゼン社製)にて180℃7分間焼成した後、−35℃設定の冷凍庫内にて30分間冷却し、ハンバーグ(試験区品21〜26)を得た。
【0047】
(2)官能評価方法
得られたハンバーグ(試験区品21〜26)を電子レンジで温めた後に、酸味の抑制効果を官能にて評価した。官能評価は、「ホワイトソースを用いた食品用静菌剤の評価」と同じ方法で評価した。結果を表5に示す。
【0048】
(3)菌増殖抑制効果確認方法
得られた試験区21〜26のハンバーグについて、作製直後の初菌数、30℃で保管した24時間後、48時間後の一般生菌数を測定した。一般生菌数の測定方法は、公定法(食品衛生検査指針)に準じて行った。結果を表5に示す。
【0049】
【表5】

結果より、乳酸発酵酵母エキスと酸類を含有する食品用静菌剤である実施例品を添加したハンバーグは、菌増殖抑制効果を維持し、酸味を抑制することができた。一方、比較例品を添加したハンバーグは、酸味を抑制することはできなかった。
また、官能評価する際、乳酸発酵酵母エキスと酸類を含有する食品用静菌剤である実施例品を添加したハンバーグは、静菌剤に由来する味のエグ味が抑制され、まとまりのある味となった。一方、比較例品を添加したハンバーグは、なめらかなまとまりのある味にはならなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母エキスを乳酸菌で発酵させて得られる、酵母エキス固形分あたり7.5(w/w)%以上の乳酸を含む乳酸発酵酵母エキスと、酸類を含有することを特徴とする食品用静菌剤。
【請求項2】
請求項1の食品用静菌剤を含有することを特徴とする食品。

【公開番号】特開2013−78266(P2013−78266A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218493(P2011−218493)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】