説明

食品等製造装置洗浄後の微量タンパク質検出方法

【課題】 食品製造装置の洗浄に使用した洗浄水や粉体に含まれるタンパク質濃度を感度良く迅速に測定する方法を提供すること。
【解決手段】 食品製造装置で製造する食品の窒素濃度と炭素濃度を測定する工程、該炭素濃度を該窒素濃度で割ったC/N比を導く工程、食品製造装置の洗浄に用いた水や粉体の全炭素濃度を改良デュマ法又は食塩を含まない水や粉体の場合は改良デュマ法かTOC計により測定し、洗浄に用いた水や粉体中の全炭素濃度を前記C/N比で除算し、さらにその食品の窒素−タンパク質換算係数を乗じる工程を含むことで、食品製造装置の洗浄に用いた水や粉体に含まれるタンパク質濃度を導き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等製造装置の洗浄に用いた水や粉体などに含まれうる微量タンパク質を迅速に感度良く検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、加工食品や調味料などの食品の製造において、設備や製造量の関係で同じ製造ラインを用いて複数の食品が製造されている。その際、先に製造した製品の固有の原料が、後の製品に含まれないよう(クロスコンタミネーションしないよう)、製造工程を十分に洗浄する必要がある。特に、アレルギー症状を起こす可能性があるアレルギー表示対象品目(特定原材料7品目、特定原材料に準ずるもの18品目)については特定原材料等のたんぱく質のクロスコンタミネーションを数ppm未満に抑制する必要があることが示されている(アレルギー物質を含む加工食品の表示ハンドブック(消費者庁 平成22年3月改訂版 ))
食品の製造ラインの洗浄には洗浄効果を高めるために複数の洗浄溶液が使用されることが多い。しかしながら、特に粉体食品や油脂分の多い食品を製造する場合は設備の特性や微生物増殖のリスクなどの理由で水洗浄できない場合もある。このような場合、同類の液体や粉体、製品に含まれる非アレルゲン原料を用いた共洗い洗浄が一般的に用いられる。
食品の製造工程においては微生物の増殖、アレルゲン等の食品の危害因子のクロスコンタミ及び製品の官能品質などを制御するために洗浄は重要である。一方、アレルゲン等の食品の危害因子のクロスコンタミ及び製品の官能品質などに必要十分な洗浄方法を定めることで、環境負荷や製品コストの上昇を防ぐことができる。
【0003】
そのため、食品の製造工程の洗浄においては、単に洗浄を行うだけでなく、洗浄に用いた水や粉体中の微量のタンパク質を検出することによって、洗浄後に製造する製品へのアレルゲンのクロスコンタミネーションのリスク評価を正しく行うことが非常に重要である。
連続式の食品製造装置では洗浄に使用した水や粉体の終流に含まれるタンパク質(特定原材料やそれに準ずるもの以外のタンパク質も含む)が数ppm程度であれば、洗浄後に製造する製品の初流を適切な量廃棄することで、前製品に含まれる特定原材料やそれに準ずるもののタンパク質のクロスコンタミネーションを数ppm未満にすることが可能である。なお通常は、洗浄後に製造する製品の初流カット直後の製品を検査し、洗浄で残る可能性のある特定原材料が残っていないかチェックを行っている。
【0004】
微量タンパク質を検出する方法として、Lowry法、BCA法、Bradford法、ELISA法などが知られている。
Lowry法は、試料にアルカリ性条件で硫酸銅、次いでフォリン-チオカルト試薬を加えて反応させ、750nmの吸光度を測定することによりタンパク質濃度を測定する方法である。
BCA法は、試料とビシンコニン酸試薬を混合し、562 nmにおける吸光度を測定することによりタンパク質濃度を測定する方法である。
Bradford法は、試料とクマシーブリリアントブルーを混合し、595nmにおける吸光度を測定することによりタンパク質濃度を測定する方法である。
これら3法は感度が高く、微量のタンパク質を検出可能であるという利点があるが、不溶性物質を測定出来ない、タンパク質の種類によって発色に差がある、食塩による測定妨害を受けやすい、などの欠点があり、食品製造装置の洗浄性の評価には適していない。
ELISA法は、抗原抗体反応を利用して、特定のタンパク質を特異的に蛍光検出する方法である。利点は、特定のタンパク質のみを特異的に検出可能なことであり、特定原材料由来のタンパク質が十分に洗浄されているかチェックできるが、特定原材料に準ずるものについてはELISAキットが販売されていないものもあるため、販売されていないものについては、特定原材料に準ずるもののタンパク質を検出出来ないという課題がある。
【0005】
直接タンパク質を測定する方法以外に、全窒素を測定し、窒素−タンパク質換算係数を乗じることにより、タンパク質を求めることが可能である。
全窒素測定法としては、液体を対象としたものではオートクレーブ法、紫外線酸化方式、ケミルミ法等が知られている。
オートクレーブ法は水酸化ナトリウムとペルオキソ二硫酸カリウムの混液を添加し、高圧容器で120 ℃、30 分間加熱分解し、窒素化合物を硝酸に酸化し、紫外吸光光度法で全窒素を定量する。
紫外線酸化方式は試料にペルオキソ二硫酸カリウム及び水酸化ナトリウムを加え、紫外線照射し、試料中の窒素化合物を硝酸イオンに酸化分解し、硝酸イオンの220nmの紫外吸収を測定して全窒素を定量する。
ケミルミ法は微量試料をキャリヤーガスで触媒を含む燃焼管に導入・分解させ、NOガスとする。NOガスを冷却・除湿後,オゾンと反応させると酸化する際に発光するため、その発光強度から全窒素を測定する。 上記3法では、測定した全窒素に窒素−タンパク質換算係数を乗じて微量タンパク質濃度を求めることが可能であるが、固体、粉体試料や不溶性物質を測定することは出来ないため、食品の製造工程の洗浄のチェックには不適当である。
また、固体と液体、両方に適用可能な全窒素測定法として、ケルダール法、改良デュマ法が知られている。
ケルダール法は試料を硫酸と混ぜて加熱し、含まれる窒素を硫酸アンモニウムに変換し、その後、アルカリ性にして加熱し、発生するアンモニアの量を滴定し全窒素を定量する。
改良デュマ法は試料を99.9%以上の純酸素ガス中で高温燃焼し、遊離する窒素ガスを熱伝導度検出器(TCD)で検出し、全窒素を定量する。同時に全炭素を検出可能な機器が市販されている。改良デュマ法の測定方法についての発明も知られている(特許文献1)。
上記2法については、測定した全窒素に窒素−タンパク質換算係数を乗じてタンパク質濃度を求めることが可能であるが、数ppmのタンパク質を検出する感度を有していないため、食品の製造工程の洗浄のチェックには不適当である。
改良デュマ法に対応した測定機器であるSUMIGRAPH NC-220F(株式会社住化分析センター)における全窒素検出限界を、ブランクを500μlの純水として、「ブランクの標準偏差×3.3÷検量線の傾き」で求めたところ、0.005mgであった。また、全窒素定量限界を「ブランクの標準偏差×10÷検量線の傾き」で求めたところ、0.017mgであった。
【0006】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−107071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、食品製造装置の洗浄に使用した洗浄水や粉体に含まれるタンパク質濃度を感度良く迅速に測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、食品製造装置で製造する食品の全窒素濃度と全炭素濃度を事前に測定しておき、それと食品製造装置を洗浄した際に用いた水や粉体の全炭素濃度の値を組み合わせることで洗浄に用いた水や粉体に含まれる微量タンパク質の濃度を導き出せることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下の各発明を包含する。
(1) 食品製造装置で製造する食品の窒素濃度と炭素濃度を測定する工程、該炭素濃度を該窒素濃度で割ったC/N比を導く工程、食品製造装置の洗浄に用いた水や粉体の全炭素濃度を改良デュマ法又は食塩を含まない水や粉体の場合は改良デュマ法かTOC計により測定し、洗浄に用いた水や粉体中の全炭素濃度を前記C/N比で除算し、さらにその食品の窒素−タンパク質換算係数を乗じる工程を含むことを特徴とする、食品製造装置の洗浄に用いた水や粉体に含まれるタンパク質濃度を導き出す方法。
(2) 食品製造装置の洗浄に用いた粉体が食塩であることを特徴とする発明(1)記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、食品を製造後、製造装置の洗浄に用いられた洗浄水や粉体に残存している微量タンパク質濃度を迅速に導き出すことが可能となる。それにより、製造工程の洗浄が十分に行われたかを確認することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。

本発明でいう食品製造装置とは、洗浄が必要な食品製造装置であれば特に限定はなく、例えば加工食品、調味料、菓子などの製造装置が挙げられる。本発明では、食品、飲料など飲食品を問わず、また液体、固体、ペースト状などの性状に寄らず微量タンパク質を感度良く迅速に測定できる点で優れている。
【0012】
本発明では食品製造装置の洗浄に用いた水や粉体の全炭素濃度を測定するだけでなく、食品製造装置で製造される食品そのものの全窒素濃度と全炭素濃度を測定することが必要である。食品そのものの全窒素濃度と全炭素濃度は公知の測定方法を用いることが出来る。例えば本発明では、食品そのものの全窒素濃度は、ケルダール法、改良デュマ法、ケミルミ法などを用いて求めることができ、これら3法の全窒素濃度の結果は同等と見ることができるが、ケミルミ法は固体を測定することが出来ず、また、測定の迅速性の点からはケルダール法と比べ改良デュマ法が好ましい。
【0013】
本発明では、食品製造装置で製造される食品そのものの全窒素濃度と全炭素濃度を測定した後に、該全炭素濃度を該全窒素濃度で割った全炭素と全窒素の比率を導きだす工程も必要である。これにより、製造する食品の全炭素と全窒素の割合を知る事が出来る。当該明細書では、該全炭素濃度を該全窒素濃度で割った全炭素と全窒素の比率を「C/N比」と呼ぶこともある。
【0014】
本発明では、食品製造装置で製造される食品の窒素−タンパク質換算係数も必要である。本発明でいう窒素−タンパク質換算係数は、日本食品標準成分表(文部科学省)に記載されているものを用いる。
【0015】
本発明では、食品製造装置の洗浄に用いた水や粉体の全炭素濃度から、洗浄に用いた水や粉体の全窒素濃度を推定するため、食品製造装置を洗浄する際に使用する洗浄水や粉体に元々多量の全炭素が含まれていた場合、正確な濃度を推定することが難しい。そのため、使用する洗浄水や粉体に含まれる全炭素は微量であることが重要であり、水や食塩など炭素が含まれていないものがより好ましい。
【0016】
本発明では、食品製造装置の洗浄に用いた水や粉体の全炭素濃度を改良デュマ法等の食品中の全炭素濃度が求められる機器、方法を用いて測定することが重要である。
食品中の全炭素濃度を求められる機器としては、改良デュマ法対応機器と燃焼触媒酸化方式を用いたTOC計が考えられる。燃焼触媒酸化方式とは白金触媒を用い、試料を燃焼させ、酸化により発生した二酸化炭素を赤外線ガス分析計で検出する方法である。
改良デュマ法が好ましい理由としては、1試料の全炭素濃度を10分以内で迅速に測定可能であり、また食塩を多量に含む数百mgの固体試料や液体試料を希釈せずに直接全炭素を測定可能な機器が販売されているためである。一方、燃焼触媒酸化方式を用いたTOC計では塩分を含まない固体試料や液体試料ならば迅速に全炭素を測定可能である。
改良デュマ法に対応した測定機器であるSUMIGRAPH NC-220F(株式会社住化分析センター)における全炭素検出限界を、ブランクを500μlの純水として、「ブランクの標準偏差×3.3÷検量線の傾き」で求めたところ、0.002mgであった。また、全炭素定量限界を「ブランクの標準偏差×10÷検量線の傾き」で求めたところ、0.006mgであった。本発明では、洗浄に用いた粉体が食塩の場合でも希釈操作を行う必要がなく、洗浄に用いた食塩に含まれるタンパク質含量を感度良く導き出せる点で洗浄に食塩を用いたときに特に効果を発揮する点で好ましい。洗浄に用いた粉体が食塩の場合は、水と異なり乾燥工程の省略や微生物汚染を防げる点でより好ましい。
【0017】
本発明では、食品製造装置で製造する食品の全窒素濃度と全炭素濃度を測定する工程、該全炭素濃度を該全窒素濃度で割ったC/N比を導きだす工程、食品製造装置の洗浄に用いた水や粉体の全炭素濃度を改良デュマ法又は塩分を含まない水や粉体の場合は改良デュマ法かTOC計により測定し、洗浄に用いた水や粉体中の全炭素濃度を前記C/N比で除算し、さらに食品の窒素−タンパク質換算係数を乗じる工程を行うことで、食品製造装置の洗浄に用いた水や粉体中に含まれるタンパク質濃度を迅速に導き出すことが出来る。
食品洗浄装置の洗浄に用いた水や粉体は製造した食品の希釈物となるため、製造した食品の洗浄に用いた水や粉体の全炭素量を、製造した製品の全炭素量で除算すると、製造した食品がどの程度製造した食品の洗浄に用いた水や粉体に混入したか判明する。よって、洗浄に用いた水や粉体の全炭素濃度を製造した食品のC/N比で除算すると、洗浄に用いた水や粉体の全窒素を導くことが可能である。
全炭素濃度未満の全窒素濃度を導くためにはC/N比が1より大きい必要がある。食品の主要成分の中でもっとも窒素の割合が高くC/N比が低いのはタンパク質であるが、それを構成するアミノ酸のC/N比はもっとも低いものでもアルギニンの1.29と1より大きいためタンパク質のC/N比は1より大きく、よって一般的な食品のC/N比は1より大きい。そのため、食品洗浄装置の洗浄に用いた水や粉体においては測定した全炭素濃度未満の全窒素濃度を導くことが可能である。
【0018】
以下に実施例を挙げ、本発明について更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例によって何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0019】
(実施例1 食品製造装置を水で洗浄した場合の洗浄水に含有されているタンパク質濃度の算出) 市販の液体調味料(「「Cook Do」回鍋肉用」、味の素(株)社製)と同じ配合の液体状の調味料Aの全窒素濃度と全炭素濃度を、改良デュマ法(SUMIGRAPH NC-220F、株式会社住化分析センター社製)を用いて求め、C/N比を算出した。結果を表1に示す。
なお、当該液体状の調味料Aの測定における改良デュマ法の測定条件は、検出器温度100℃、カラム温度70℃、酸素パージ時間50秒、燃焼時間250秒、測定時間270秒、ヘリウム流量80ml/min、検出器電流160mA、反応炉温度870℃、還元炉温度600℃とした(以下、通常条件とよぶ)。
【0020】
【表1】

【0021】
次に当該調味料Aを製造した食品製造装置を熱水で洗浄し、食品製造装置の末端から排水される洗浄水をガラス容器にサンプリングした。洗浄に用いた水500μlを改良デュマ法(SUMIGRAPH NC-220F、株式会社住化分析センター社製)で分析し、全炭素濃度を得た。全炭素濃度を前述の当該商品のC/N比で除算し、更に窒素−タンパク質換算係数6.25を乗じることで、洗浄に用いた水のタンパク質濃度を得た。結果を表2に示す。
なお、洗浄に用いた水の測定における改良デュマ法の測定の条件は検出器温度100℃、カラム温度85℃、酸素パージ時間65℃、燃焼時間200秒、測定時間180秒、ヘリウム流量75ml/min、検出器電流160mA、反応炉温度870℃、還元炉温度600℃とした(以下、微量条件とよぶ)。
【0022】
【表2】

【0023】
(実施例2 食品製造装置を食塩で洗浄した場合の洗浄に使用した食塩に含有されているタンパク質濃度の算出)
市販の粉体風味調味料の原料Bの全窒素濃度と全炭素濃度を、改良デュマ法(SUMIGRAPH NC-220F、株式会社住化分析センター社製)を用いて求め、C/N比を算出した。結果を表3に示す。
なお、当該製品の測定における改良デュマ法の測定は前記の通常条件で行った。
【0024】
【表3】

【0025】
次に当該製品を製造した食品製造装置を食塩で洗浄し、洗浄に用いた食塩を食品製造装置の末端でパウチ袋にサンプリングした。サンプリングした食塩500mgを改良デュマ法(SUMIGRAPH NC-220F、株式会社住化分析センター社製)で分析し、全炭素濃度を得た。全炭素濃度を前述の当該商品のC/N比で除算し、更に窒素−タンパク質換算係数6.25を乗じることで、洗浄に用いた食塩のタンパク質濃度を得た。結果を表4に示す。
なお、洗浄に用いた食塩の測定における改良デュマ法の測定は前記の微量条件で行った。
【0026】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、食品の製造機器の洗浄に使用した水や粉体などに含まれる微量のタンパク質濃度を感度良く迅速に測定するのに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品製造装置で製造する食品の窒素濃度と炭素濃度を測定する工程、該炭素濃度を該窒素濃度で割ったC/N比を導く工程、食品製造装置の洗浄に用いた水や粉体の全炭素濃度を改良デュマ法又は食塩を含まない水や粉体の場合は改良デュマ法かTOC計により測定し、洗浄に用いた水や粉体中の全炭素濃度を前記C/N比で除算し、さらにその食品の窒素−タンパク質換算係数を乗じる工程を含むことを特徴とする、食品製造装置の洗浄に用いた水や粉体に含まれるタンパク質濃度を導き出す方法。
【請求項2】
食品製造装置の洗浄に用いた粉体が食塩であることを特徴とする請求項1記載の方法。